大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

原発はなくても大丈夫―それでも原発推進に驀進する安倍首相―

2014-03-25 05:11:50 | 原発・エネルギー問題
原発はなくても大丈夫―それでも原発推進に驀進する安倍首相―

安倍信三首相は、今月24,25日に、オランダのハーグで開催される第三回核安全保障サミットで、原発の再稼働を前提に、
使用済み核燃料から取り出した核物質プルトニウムを再利用する「核燃料サイクル」の推進を表明することが明らかになり
ました。

いうまでもなく、原発を稼働させると、その副産物としてプルトニウムが生成されます。このプルトニウムは核兵器の原料
となるので、使用目的がはっきりしないまま大量に保有していると、テロや核拡散を招くとして国際社会から疑念を持たれ
ます。

日本はすでに、長崎に投下された原爆の5000発以上に相当する44トンものプルトニウムを保有しているのです。

原発の再稼働どころか、可能ならば新設さえもくろむ安倍首相としては、核サミットで「利用目的のないプルトニウムはつ
くらず保有しない」との方針を表明せざるを得ないのです。

このような重大な問題を、国会の場で議論することもなく、与党内の同意もなく、さらに閣議決定さえされていないまま、
首相の独断で国際社会に向かって表明してしまうことになるのです。(『東京新聞』2014年3月20日朝刊)

こうなると、立法の最高機関である国会の意義は無視され、議会制民主主義も有名無実化してしまいます。

こうした手続き的な問題とは別に、「核燃料サイクル」の推進には大きな問題があります。

第一に、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムとウランを取り出すことです。日本の9電力会社が中心となって設立した
「日本原燃株式会社」は1993年、青森県の六ヶ所村に再処理工場の建設を始め、20回もの延期を繰り返しつつ、2014年12
月の完成を目指しています。

これも可能かどうかは分かりません。

しかも、これまで完成した部分の試験でもトラブル続きで、果たして最終的に完成するかどうかさえ不明です。

六ヶ所村の再処理工場の建設が始まった1993年、建設費用は7600億円と見込まれていましたが、3年後 1996年には1兆8800
億円、99年には2兆1400億円、2003年、なんと11兆円にまで跳ね上がりました。

工場の稼働には、当然のことですが、運転するためにさまざまな費用が掛かりますが、電気事業連合(9電力会社が運営主体)
の試算によれば、総費用は19兆円という天文学的額に達すると見積もられています。(注1)

第二に、現在、フランスンやイギリスなど海外に再処理を委託し、返還された核燃料と、再処理の過程で発生した低濃度および
高濃度放射性廃棄物を、六ヶ所村の再処理工場内に保管していますが、これも、中間保存であり、最終的に、どこにどのように
処理するのかは、まったく見込みさえたっていません。

第三に、取り出したプルトニウムを再利用するはずだった高速増殖原型炉「もんじゅ」は、トラブル続きで、ほとんど稼働して
いません。

世界的にも、高速増殖炉は実現が無理であるとの結論に達しており、日本を除いて稼働しようとしている国はありません。

それでも2014年度の国家予算では、「もんじゅ」関連予算は199億円が計上されています。

第四に、再処理工場は、その過程で膨大な放射性廃棄物を生み出してしまいます。(試算によってさまざまですが、数十倍から
二百数十倍まであります)。

この意味では、原発自体が「トイレのないマンション」といわれるように、その放射性廃棄物の最終処理方法は決まっていません。

第五に、再処理工場を操業すると、大気中にも海洋にも放射能が放出されます。

再処理といっても、多くの問題を抱え、さらに膨大な費用がかかります。その経済的負担は、すべて電気料金として私たち消費者
に押し付けられるのです。

以上のような問題を抱えながらも、政府と電力会社は、原発を稼働させるために、いかに非現実的であろうとも、国際社会に向か
っては、あたかも「核燃料サイクル」が可能であるかのごとく表明し、かつ莫大なお金を投じざるを得ないのです。それが形式的
には不可欠だからです。

政府は、原発の使用期限を40年と一旦は定めましたが、その後、運転延長の申請がされ、安全基準を満たせば、さらに20年、
計60年間も運転を可能にする方針に変えてしまいました。

現在、日本にある原子炉は54基ですが、うち15基はすでに30年の運転期間を超えています。もし、延長の申請が出されなけ
れば、これらは10年以内に廃炉となります。(注2)

原発の建設費は、従来は1基あたり約1000億円ほどでしたが、最近は急速に上昇し、新潟県の柏崎刈羽原発6号機などは,
4000億円を超えています。

これだけの投資をした原発であるから、既に元はとっているのに電力会社は1日でも長く稼働させようとし、政府がそれをサポート
しているのが現状です。

ところで、政府は2014年2月に策定した「エネルギー基本計画」では、原発を「ベースロード電源」(安定供給できる電源)と位置
付け、何が何でも原発を推進しようとしています。これには、「安くて」「安定供給」ができる原発の稼働を望む財界の要請を反映
しています。

ここで、原発の電力が安いかどうかを議論するつもりはありませんが、結論からいえば決して安くはありません。

現在、政府や電力会社が提示している電力単価は、直接の費用だけを算定しており、放射性廃棄物処理費用、廃炉費用、原発立地の
住民への種々の配布金
などを加えると、少なくとも公表されている単価より、ずっと高くつくはずです。

ところで、政府が電源として無視しようとしていることがあります。一つは、風力、太陽熱、地熱など、再生可能な自然エネルギー
の開発です。
もう一つは、最新の火力発電システムと節電効果の過小評価です。

考えてみると、東日本大震災以後、日本の原発は定期検査にはいり、順次停止し、2013年9月以降、原発ゼロの状態が続いています。

それでも、電力供給不足により大規模な停電や電力使用制限などは起きていません。これは、火力発電の増加、企業や家庭の節電によ
って埋め合わせてきたのです。

たとえば東京電力管内の電力消費をみると、震災前の2010年の2934億kw時から、2012年には2690億kwへ、8.3%も減少しま
した。これは、節電効果です。

他方、全国の火力発電による発電量は、2010年の5532kwから2012年には7359kwへ、1827kwへ、33%も急増したのです。

この増加の一因は、震災後の増設や老朽火力発電のコンバインド化です。原発1基が、平均で約100万kwですから、原発18基分に
相当します。

最新火力発電の能力の大きさと効率の高さが分かります。

最新の火力発電は、コンバインドサイクル方式と呼ばれるもので、これはガスタービンと蒸気タービンとを組み合わせた高効率の発電
システムです。

上記の増加分のうち震災後だけでも470万kw、つまり原発3基分新設されています。将来、既存の火力発電所を順次コンバインド
方式に置き換えてゆくと、現実には原発は要らなくなります。

コンバインド方式では液化天然ガス(LPG)のほか、石炭も使用されます。これまでは石炭をそのまま燃して発生させた蒸気でター
ビンを回して発電していましたが、新方式では石炭を一旦ガス化した後、タービンを回して発電したあと、さらに排熱で蒸気を発生さ
せて発電します。

こうすることで、従来のガスを電力に変える効率を40%から60%へ、つまり1・5倍に高めたのです。しかも、CO2も従来より
30%削減できます。

もちろん、LPGも石炭も化石燃料であり、有限であり、少なくなったとはいえCO2を排出します。したがって、コンバインド方式
の火力発電は、風力、太陽光、バイオマスなど再生可能エネルギーが普及するまでの、つなぎであり、場合によっては補助的な発電
システムと考えられます。(『東京新聞』2014年2月13日朝刊)。

ところで、2010年から2013年までの真夏の電力需要のピークをみると、供給力に対する需要の割合は、瞬間的な最大値でも92~94
%で、危険とされる97%を下回っていました。火力発電の効率化、太陽光はネルの普及などを考えると、実際には原発は必要なくな
ります。(『東京新聞』2014年3月15日朝刊)

世界の趨勢として、原発は廃止の方向に向かっているのに、それではなぜ、安倍首相は、しゃにむに原発を推進しようとしているので
しょうか?

そこには、原発に絡む大きな利権が関係しているのです。

第一に、安倍政権は、原発輸出を成長戦略の重要な分野と位置づけています。現在、ベトナム、トルコ、ヨルダン、リトアニア、インド、
インドネシアと交渉中です。

このためにも、日本での原発の稼働は必要です。とりわけ日立と東芝は原発ビジネスに深く関わっています(注3)。

福島原発事故の原因さえ解明されていない、危険な原発を輸出すること自体、利益のためならなんでもする、という倫理観の破綻です。


第二に、もし、原発が不要となると、既存の原発そのもの、核燃料、使用済み核燃料も含めてすべて電力会社の財産価値をもっていま
すが、廃炉となると、その資産価値がゼロとなってしまいます。

1基1000億円も投資した原発と核燃料がゼロになるという事態は、電力会社にとっては、大損失で、なんとしても避けたいところ
でしょう。

それは株価や、廃炉が始まると直ちに発生する廃炉費用がのしかかります。銀行にとっては貸したお金の担保が瞬間に消失してしまいます。

しかし、実際には、現存する原発はすでに十分に投資分を回収しているので、これからは1日でも稼働させれば、それだけ利潤を生む
状態にはなっています。

第三に、もし効率的な火力発電に移行すると、原発を廃炉にするだけでなく、新たに火力発電所を建設しなければなりません。

以上のような、さまざまな利権や利害得失が背景となって、安倍首相は、しゃにむに原発推進に驀進しているのです。


(注1)原子力資料情報室 http://www.cnic.jp/knowledgeidx/rokkasho (2014年3月2 0日閲覧)
(注2)http://japanese.ruvr.ru/2012/01/18/64061497/
(注3)これついては、このブログ、2012年11月6日の「原発輸出の危険な罠」で詳しく書いています。

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
【いぬゐ郷だより4】

3月23日、ジャガイモの植え付けと、ネギとニンニクの移植をしました。


ジャガイモは、メイクインと男爵の2種類です。


 ネギとニンニクの移植。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

STAP細胞騒動の背景―小保方氏は成果競争の犠牲者?―

2014-03-20 09:01:46 | 健康・医療
STAP細胞騒動の背景―小保方氏は成果競争の犠牲者?―

2014年1月28日,理化学研究所が記者会見で,同研究所発生・再生科学総合研究センターの,小保方春子氏をユニットリーダーとする
研究チームが,マウスの体細胞を使って,さまざまな細胞に分化することができる,通称,万能細胞(STAP細胞)の作製に成功した,
と発表しました。

この作製に関しては,世界的に権威のある科学雑誌『Nature』の2014年1月30号で掲載されました。

ノーベル賞を受賞した山中教授も,体細胞から,万能細胞=幹細胞(iPS細胞)を作製することに成功していますが,この場合,体細胞の
初期化を誘導する4つの遺伝子を組み込む必要があります。

理研の発表によれば,これに対して小保方氏らは,遺伝子操作をすることなく体細胞を弱酸性溶液の中に浸して培養するという,物理的
な刺激によって体細胞を万脳細胞に変えるという画期的な方法を見つけた,というものでした。

もし,これが本当なら,名実とともに画期的な「世紀の大発見」です。あまりに画期的なので,ある生物学者が「今までの生物学の蓄積
を愚弄するのか」という趣旨の発言をしたほどです。

植物の場合,組織の一部から,元の生体を再現することは,ごく普通に行われています。たとえば種(動物の受精卵に相当する)ではな
くても,植物の一部から挿し木で元の植物を再生させたり,雑草などでは茎の一部,根の一部からの復元は日常的に起こっています。

しかし,植物よりはるかに複雑な構造をもつ動物の場合,体細胞(たとえば皮膚)を増殖させて人間を作ることはできません。

イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのクリス・メイソン教授は「また日本人が万能細胞の作製法を書き換えた。

山中伸弥氏は4つの遺伝子で人工多能性幹細胞(iPS)を作ったが、STAP細胞は一時的に酸性溶液に浸して培養するだけ。

どれだけ簡単になるんだ」と驚きのコメントをネイチャーに寄せました。

米ピッツバーグ大の研究者は米NBCテレビの取材に「成果は衝撃的で、強力な可能性を秘めている」と評価し、今後の応用に期待を寄
せました。

また ロンドン大キングズ・カレッジの研究者はBBC放送などの英メディアに「本当に革命的。幹細胞生物学の新時代の幕開けだ。
理研チームが年内に人のSTAP細胞を作っても驚かない」と称えました。

一方、米カリフォルニア大ロサンゼルス校の研究者はAP通信に「人間でも同じことが起こると示されないうちは、どう応用できるか
分からない。

医学的に役立つかはまだ何とも言えない」とコメントし、慎重な見方を示していました。(注1)

理研は3月5日、小保方氏が1月末の論文発表後、初めてマウスの体細胞をつかってSTAP細胞の再現実験に成功した,と発表しました。
実験の客観的な証明には第三者による再現が必要ですが,世間では、小保方氏の成果の正しさを一定程度裏付けることになった,と報道され
ました。(注2)

ただし,これは後に論文の一部しか再現されていなかったことも明らかとなりました。

いずれにしても,『Nature』誌の論文の内容は,あまりに画期的だったので,世界中の専門家は論文を詳細に検討し始め,幾つかの疑問点を
指摘し始めました。

たとえば,共同剣研究者で論文の共著者の1人でもある山梨大学教授の若山照彦氏は,「STAP細胞が体のいろんなものに分化することを示す
決定的な写真。博士論文は(STAPとは)違うテーマの研究だったと思う。」とした上で、「STAP細胞の根幹にかかわる大事な所」「論文を信
られなくなった。」と発言し(注3),論文の撤回を提案しました

国内外からの批判と疑念が高まるにつれて,理研としては何らかの対応をせざるを得なくなり,3月14日に「中間報告」という形で記者会
見を開きました。

4時間におよぶこの時の会見で行われた一問一答の主要な部分は新聞各社が報じているが,今回の主要な問題は,次の3点にあります。
① 小方氏博士論文で使用した画像が『Nature』誌の論文にも流用されたが,前者はSTAP細胞とは別の実験画像であった。
② DNAを分離する「電気遊動」の画像に別の画像を合成した。
③ 実験方法に関する記述が他の論文からの盗用(コピー&ペーストで貼り付けた)だった。

以上の3点は,学術論文であるなら,絶対にやってはいけない初歩的な誤りです。小保方氏は他人の論文の盗用を認めながらも,それがどこから
引用したのか覚えていない,と述べていますが,これはちょっと理解に苦しみます。この背後に何か別の理由があるかも知れません。

論文に関する限り,相当問題があり,小保方氏が所属するセンター長の竹市雅俊氏が「論文の体をなしていない」と言ったのも無理のないことです。

しかし,これはあくまでも論文に関することで,STAP細胞の作製を全面的に否定することを意味しません。
第三者が小保方氏が示す方法で再現実験で成功すれば,やはり「世紀の大発見」であることは間違いありません。

これについて私は,現段階では判断できないので「保留」としておきます。論文の是非,STAP細胞は本当に存在するのか否か,
という問題とは別に,今回の一連の動きをみていて,かなりの違和感や,チェック体制の構造的問題,現在の成果主義の弊害を感じます。

まず違和感ですが,記者会見では,野依良治理事長は「未熟な研究者が膨大なデータをずさんに扱っていた」と,冷たく突き放した批判をしてい
ました。

他の幹部も同様の批判をしています。それでは,そのような「未熟な研究者」を雇った理研の理事長の責任はどうなるのだかろうか?

さらに野依氏は,今回のような研究者の無責任さは「氷山の一角かもしれない」とまで踏み込んだ発言をしています。

会見に出席した他の幹部も,「第三者による再現実験の結果を待つしかない」,とこれまた他人事のように言い放っていました。

次に,「論文の体をなさない」という批判がセンター内からも出ていますが,なぜ理研内部で論文のチェックができなかったのだろうか?

また,同様に,総勢28人もいた研究室のリーダーも,なぜ「世紀の大発見」を世に示す論文のチェックができなかったのか?これは,内部の
チェック体制の甘さとしか言いようがありません。

どう言い訳しようと,今回の件は,理研の国際的評価を低下させることはまちがいありません。

今回の問題を直接の関係はないように見えますが,重要な問題があります。それは,小保方氏が,早稲田大学に提出した博士論文を撤回すること
を明らかにしたことです。(『東京新聞』2014年3月15日)

小保方氏は早稲田大学大学院理工学研究科に博士論文を提出し,博士号(工学博士)を取得しています。その,博士論文を本人が撤回するという
ことは,博士論文そのものに重大な欠陥があったことを認めているからでしょう。

博士論文の審査には,小保方氏の主査であり指導教官である常田聡教授,武岡真司早稲田大学教授,武岡真司早稲田大学教授ほか,研究上の指導者
でもあった大和雅之東京女子医大教授,チャールズ・バカンティ・ハーバード大学教授がかかわっています。

博士論文という重要な論文の審査にこれだけの研究者がかかわっていながら,本人が撤回するような博士論文を合格させ,博士号を与えた早稲田
大学の審査・チェック体制にも問題がありそうです。これも,日本の大学(少なくとも早稲田大学)の博士号本当に信頼できるのか,という疑念
を国内外に抱かせます。

最後に,今回の全体の構造を見渡してみると,私には理研の成果主義に根本的な問題があり,小保方氏はむしろその犠牲者だったのではないか,
とさえ思えます。

私が腑に落ちないのは,「未熟である」と言われた小保方氏を,なぜ理研は過去の業績を精査することなく採用し,それだけでなくかつユニット・
リーダーに就任させたのか,という点です。

この点を問われて竹市センター長は,「STAP細胞の研究にインパクトを感じて採用に至ったが,過去の調査が不十分だったことを深く反省し
ている」と答えています。

採用にいたる正確な事情は分かりませんが,バカンティ氏は物理的刺激によるSTAP細胞作製のアイディアをもっており,その指導を留学中に
仰いだ久保方氏に理研が注目していたのかもしれません。

もうひとつ,野依理事長の「(共著者の笹井芳樹福センター長の)責任は大きいと思う。反省してもらわなければならない。これから研究者として
どう活動するか,表明してもらわないといけない」と,研究者としての笹井氏の身の振り方を左右しかねない発言もしています。

笹井氏はこの分野では世界的に知られた研究者で,現在は小保方氏の上司でもあります。その笹井氏を名指しで批判していることが部外者には
唐突に聞こえます。

『東京新聞』(2014年3月15日朝刊)によれば,小保方氏は笹井氏や丹羽仁史プロジェクトリーダーの知遇を得てユニットリーダーに就きました。
とりわけ笹井氏の小保方氏への肩入れは非常に強かったようです。そして同紙は,次のような驚くべき事情を書いています。

「笹井氏は小保方氏を大舞台に押し上げようと奮闘。会見に備え,理研広報チームと笹井氏,小保方氏が一ヶ月前からピンクや黄色の実験室を準備し,
かっぽう着のアイデディアも思いついた」のだそうです。

この記事の部分を読んで,“あの「かっぽう着」もピンクや黄色の実験室も演出だったのか!”,と思わずのけぞる思いでした。

さらにこの背景について,ある文部科学省幹部は「笹井先生はうれしかったんだと思う。IPSが見つかるまでは,笹井先生が(山中伸弥京大教授より)
上にいた」とコメントしています。

つまり,この幹部は,山中氏に抜かれてしまった理研(とりわけ笹井氏)は,何とか世間をあっと言わせるわせる成果を上げて,抜き返したかったの
ではないか,と言いたかったのでしょう。

もし,会見に備えておこなった数々の演出が,理研広報チームも含めて行われたことが本当だとしたら,今回の問題は,理研という組織を挙げての
活動や行動だったと言えます。

小保方氏は3月5日以来,精神的にそうとうまいっているようで,公に姿を見せていませんが,周囲の人には「未熟だった」と語っているそうです。

また書面で,今回の論文の不備を認め,混乱をもたらしたことを謝罪し,論文の取り下げ,適切な時期に説明することを述べています。

他方,研究指導者であった大和教授は2月5日にツイッター上で「博多行きの電車に乗った」との言葉を残したまま。

そして笹井氏は沈黙を続けています。この二人の説明も是非必要です。

理研は3390人の事務・研究スタッフ,3000人を超す国内の招聘研究者,600人を超す海外研究者を抱えています。

理研は,平成25年度は840億円の年間予算をもつ巨大研究機関であり,世界トップの成果を生み出すための新法人「特定国立研究開発法人」
の指定候補になっていました。このためには,政府や世間を納得させるだけの成果を上げておく必要があったのです。(注4)

小保方氏は,こうした理研の組織的,個人的要請の力でスターに押し上げられてしまった犠牲者なのかも知れない,とさえ私は思います。

もちろん,そうした事情を知った上で,理研でのユニットリーダーを引き受けた小保方氏にも全く問題がないわけではありません。

私個人は,STAP細胞の存在を信じたいのですが,これについては事態の進展を見守るしかありません。


(注1) 『日本経済新聞』電子版(2014年1月30日)2014年3月15日閲覧)
  http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG3000P_Q4A130C1CR0000/
(注2)MSN産経ニュース(2014年3月6日)2014年3月15日閲覧)
   http://sankei.jp.msn.com/science/news/140306/scn14030609000001-n1.htm
(注3)Yomiuri Online 2014.3.11
  http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20140310-OYT1T01144.htm
  (2014年3月15日閲覧)
(注4)今回の一連の動きをみていた政府は,会見に先立つ2日前の3月12日,理研にたいする開発法人の指定を先送りする決定をしました。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

再び”「絆」あるいは「祈ること」-復興は遅いが風化は速い」

2014-03-14 05:16:54 | 東日本大震災
再び“「絆」あるいは「祈ること」”-「復興は遅いが風化は速い」-

今年も3年目の東日本大震災,「3・11」がやってきました。想い起すと,このブログを立ち上げた最初の記事は,2年
前の3月23日のもので,その時のタイトルは,“東日本大震災 「絆」あるいは「祈ること」”というものでした。

少し長くなりますが,その時の記事の一部を,引用しておきます。

     原子力発電所の近くに住んでいて,津波と原発事故による放射能汚染のため,故郷に帰ることができなくな
     ったある住民はテレビのインタビューで,次のように訴えていました。原発は本当に憎いが,この3月11
     日だけは,静かな鎮魂と祈りの日にして欲しい,と。これも少数意見かもしれませんが,やはり尊重すべき
     心情です。
     もしかすると,「3・11」を静かな「鎮魂と祈りの日」にしたいという気持こそが被災した人たちの本当
     の願いなのかもしれない,と私は思いました。
     もしそうだとしたら,やはりここにも「外部者」の思いと当事者のそれとの感情の行き違いがあるようです。
     これは,自分自身,自戒の念を込めて心に留めておきたいと思います。

「絆」あるいは「祈ること」という言葉には,大地震と原発事故,そしてそれらにのことをと「忘れない」という意味合いを含んで
いました。

現時点で,死者1万5884人,行方不明2633人,震災関連死2993人,避難者26万7419人です。


震災の日の前後には,東京や東北でさまざまな追悼イベントが行われました。3月11日には何人かのミュージシャンや芸能人が被災地
を訪れ,復興コンサートなどのイベントを行いました。

彼らは一様に,「笑顔と元気を届ける」「この時だけでも元気になってくれれば」と語っていました。

また,東京では3月9日には東京日比谷の野外音楽堂で「反原発」を掲げる団体が主催する集会が開かれ,3万人を超す人々が国会周辺
でデモを行いました。

このデモの中心となったのは,毎週金曜日に首相官邸前で脱原発・反原発を訴えるデモを呼びかけてきた首都圏反原発連合など3団体で
した。

この国会周辺のデモを呼びかけた人も,参加してきた人も,やはり震災の被災者たちのことを「忘れない」という思いを抱き続けてきた
人たちです。

テレビやマスメディアで見るかぎり,外部の人の追悼イベントに比べて被災地の人たちが行った震災3年目の追悼行事は概して静かで,
むしろ「祈り」と「癒し」の空気が伝わってきます。

被災者の一人はテレビ局のインタビューに答えて,現状を,「復興は遅いけれど,風化は速い」と,ぽつりと言いました。

復興が遅いことに声を荒立てて怒りをあらわにするわけでもなく,世間から忘れ去られ震災の記憶が風化してゆくことを恨むわけでも
なく,淡々と心の内を語る彼の物静かな口調が一層,胸を打ちます。

震災の被災者の中でも,津波で身内を失い,友人・知人を失い,家も町も失い,そして故郷を失った人たちにとって,一生,震災の記憶
が風化することはないでしょう。

また,身近な人とを失った被災者にとって,亡くなった人たちと「つながる」唯一の方法は「祈る」ことです。祈ることでつながってい
る限り,震災は過去のことではなく,現在もそして将来もずっと風化することなく続きます。

ある地域では,地元の人たちが手をつないで,じっと死者への祈りを捧げていました。また,別の場所では,多くの人の命が失われた
海岸で,人々が静かに,思い思いの感情をこめて,静かに,ある人は泣きながら「ふるさと」を合唱していました。


仙台に拠点を置く『河北新報』2014年3月12日は,「東日本大震災3年 祈る東北、遠い平穏」というタイトルで「3・11」追悼の様子
を次のように伝えています。
  
   悲しみはまだ癒えない。でも、前を向かないと生きていけない。東日本大震災から3年の11日、東北の被災地は犠牲
   者の鎮魂と、復興への祈りに包まれた。
   大津波の爪痕が残る沿岸の浜で、仮設住宅で、雑踏の中で。人々は手を合わせ、あの日無念のうちに命を落とした家族
   や親戚、友人、知人のことを思った。
   全国の死者は1万5884人、行方不明者は2633人(警察庁調べ)。
   震災後に亡くなった関連死を含めると犠牲者は約2万1500人に上る。全国で26万7419人、東北6県では21万
   8258人がいまも仮設住宅などで避難生活を送る。
   福島第1原発事故の放射能汚染などで、福島からは4万7995人が県外へ避難したままだ。
   心の平穏、暮らしの平穏を、取り戻せない人がまだたくさんいる。生きていく力を得ようと、人々はいとしい人の在りし
   日に思いをはせ、祈りをささげた。
   自らの再建と復興を願って。

津波は多くの人の「命」が失われたため,遠く離れた地域に住む人々も,祈りを通して被災地の人たちと「つながる」ことができます。

たとえば3月11日午後2時46分には,原爆で多くの犠牲者を出した広島と長崎,そして震災で多数の死者を出した神戸でも黙祷と
祈りを捧げる静かな行事が行われました。

外見的にも,家が流され,がれきの山と原野のような荒涼とした風景は私たち外部の人間にとっても,震災の痛ましさが直接伝わって
きます。

しかし,同じ,東日本大震災の被災者といっても,福島第一原発近くに住んでいた人々に関してはまったく事情が異なります。

放射能に被爆していても,津波による直接的な死とは異なり,目に見えあるわけではなく,直ちに亡くなるわけではありません。

また,津波で破壊された町と異なり,外見上は町や家はそのまま残っているので,一見,何の被害も受けなかったような印象を与え
ます。

現実には,「帰還困難区域」の住民は自分の家に帰ることができず,故郷を離れて仮設住宅や県内外へ新たな生活の場を求めて移住
しています。

津波によって住む家を失った人たちも,原発事故で避難せざるを得なかった人たちも,避難生活が長期化するにつれて,移住先
で新たな環境になじめなかったり,ストレスで体調を悪化させ,中には亡くなる人も出てきました。

このような死を,震災による直接的な死と区別して「震災関連死」と呼んでいます。

政府によって認定された「震災関連死」の数は,震災後3年たった今でも増え続けています。たとえば昨年4月1日から今年1月末
までに,岩手県45人,宮城県17人に対して福島県は277人と群を抜いて高い数字になっています。

『東京新聞』は「震災関連死」の中で,特に原発事故に伴う避難で体調を崩して亡くなった事例などを「原発関連死」と定義し,
該当者数を取材したところ,福島県内の「震災関連死」1671人(3月7日現在)のうち,少なくとも6割1048人)は「原発関連死」
だったことが分かりました。

「原発関連死」は昨年と比べて259人も増えています(『東京新聞』2014年3月10日朝刊)

現在のところ,放射能による直接的な死亡は確認されていませんが,今後,幼児の甲状腺癌をはじめ,大人も含めてさまざまな癌
の発生が予想されます。

原発に関しては,これまでもデモやマスメディアを通じて政府や東電の原発政策を批判することはありましたが,個々の「原発関
連死」に対しては,私たちはなかなか「絆」も結びにくいのが実態です。

「原発関連死」について,犠牲者の方,そのご遺族の方と「つながる」ことができるとすれば,私自身には,ただひたすら彼らを
想い,祈ることしか
できないかも知れません。

「原発関連死」ではありませんが,放射能の汚染のため故郷を離れざるを得なかった人たちもたくさんいます。

こうした人たちの中では,もう一度故郷に戻って生活を再建することをあきらめた人が増えています。彼らは被爆の影響に怯えながら,
全国各地に生活の場を移しています。この人たちと「つながる」ことも現実にはかなり難しいことです。

放射能の汚染は受けたけれど,なんとか生活が可能な地域もあります。このような地域の人たちに対して何かできることがあるとしたら,
小さいことですが,放射能検査で安全が確認されていれば,「風評被害」に惑わされることなく,それら地域の農産物や海産物をできる
かぎり買うことです。

そして,できる限り節電に努め,原発は必要,という議論を「原発は必要ない」という現実に変えてゆく努力は是非,必要です。

コンサートなどで「元気を与える」ことも有意義だとは思いますが,被災地が元気になるためには,それぞれの地域の産業の復活も大
事です。

それにより,地元の人たちは経済的にも助かるし,仕事を通じて他の地域の人たちと「つながっている」といいう実感をもつことがで
きます。

それにしても,オリンピック招致のプレゼンテーションで,「東京は福島から250キロ離れているから安全です」と語った人がいま
した。

また,安倍首相は,フクシマの放射能は3.3平方キロメートの湾内に閉じこめられ「コントロールされている」(under control)と述べ
ました。

安倍首相のこの言葉が事実でないことは,すでにブログの2013年9月16日の記事「汚染水問題(続)」でくわしく書きました。

このプレゼンテーションで語った政治家もオリンピック関係者も原発事故はもう決着済みでオリンピックには何の影響もないことを強調
していました。

こうした発言が,今でも放射能の影響に怯えている人たち,そのために避難している人たちをどれほど傷つけているでしょうか。

それどころか,政府は被災者の気持を無視するかのように,福島の事故の原因究明を放棄したまま原発再稼働に動いています。

先に,「復興は遅いけれど,風化は速い」という被災者の言葉を引用しました。防潮堤や道路などの工事は結構進んでいるのに,
生活の場である「復興公営住宅」の建設はまだ3%くらいしか進んでいないのです。どうも優先順位がちがうような気がします。

日本は「人間」ことよりも経済が優先する社会になりつつあるのでしょうか?少なくとも政府の姿勢をみているとそんな気がします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【「いぬゐ郷だより」3】
3月8日,佐倉の耕作放棄されていた田んぼで,今年の稲作のために,[苗代」作りをしました。


長い間放置され葦と雑草だらけの田んぼの土を15センチほど堀り,「苗代」作りを開始します。(写真をクリックすると,大きな画面になります)



土の乾燥を防ぐために出来上がった「苗代」を,そこに生えていた葦で被います。あとは種蒔きを待つばかりです。(写真をクリックすると,大きな画面になります)

いぬゐ郷HP http://www.inoui-go.com/index.html
いぬゐ郷Facebook https://www.facebook.com/Inoui.go

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京都知事選-もう一つの闘い-

2014-03-08 09:35:28 | 政治
東京都知事選-もう一つの闘い-

東京都選挙管理委員会は2014年2月9日に投開票した東京都知事選の最終結果を10日に発表しました。投票率でみると,今回は46.14%で,
前回2012年12月の都知事選62.6%を大幅に下まわり,過去3番目の低さでした。(注1)

今回は16人が立候補しましたが(注2),事実上,立候補届出順で,宇都宮健児,田母神俊雄,舛添要一,細川護熙の4人の闘いとなりました。

結果はすでに知られているように,当選は,元厚生労働相の舛添要一氏(65)=自民・公明(都議連)支援=で211万2979票を獲得し、
有効投票者数の43・4%(小数点2位を四捨五入)を占めました。それでも,全有権者の20%に過ぎないのです。

2位は,前日弁連会長の宇都宮健児氏(67)=共産、社民推薦=が98万2595票で,得票率は20・2%,3位は元首相の細川護煕氏(76)は
95万6063票で、得票率19・6%でした。そして4位は元航空幕僚長の田母神俊雄氏(65)は61万865票で、得票率12・5%でした。

都知事選の結果については,ほぼ意見や感想は出尽くした感があります。とりわけ,舛添氏に関しては,自・勢力の基礎票が230万票ある,
と言われこれはほぼ安定的な組織票とも考えられます。

したがって,脱原発(反原発を含む)を掲げる有力候補者が細川氏と宇都宮氏の二人になったとき,票が割れることがほぼ確実となり,一部週刊誌では,
告示と同時に当選者は(舛添氏に)決まる,と断定していました。

自民党が政権党から陥落して一番苦しいときに“自民党に将来はない”,と言って自民党を飛び出した舛添氏が自公両方に選挙協力をお願いして回ると
いうのも不思議な光景ですが,逆に,その舛添氏を全面的に支援するというのも,さらに理解できない対応です。両者に共通しているのは「節操のなさ」
で,実に有権者を馬鹿にした話です。

それでは,舛添氏が勝った要因は何だったかといえば,自公の組織票と,元厚生労働大臣を経験している(従って福祉に明るいというニュアンス)
という点を協調したこと,そして東京オリンピックを成功させるという主張でしょう。

今回は,候補者の間に,特に際だった選挙公約や主張に違いが見えにくかったので,将来の年金・医療など福祉に不安を抱く中高年層には重要な判断基準
になったと思われます。

しかし,考えてみれば,舛添氏の厚生労働大臣の時,何か特別なことをやったかと言えば,通常業務をこなしてきたという以外,取り立てて注目すべきこと
はありませんでした。

原発に関しては,将来は脱原発にむかうことになるでしょうといいつつも,いつ頃までにという期限を定めない曖昧な言葉で濁してしまいました。

こうして舛添氏は,実質的に原発再稼働容認のメッセージを,支援者の自民党に送っていたのです。

ところで,脱原発を訴えた細川氏は,2位の宇都宮氏よりも得票数が少なく,3位でした。この二人の違いはなんだったのでしょうか?

まず,同じく脱原発を掲げる宇都宮氏は,もっとも早く立候補の意志を発表し,選挙運動を開始しました。次に,宇都宮氏は共産党,社民党の組織票を得る
ことができましたが,

次に,自民党も公明党も共産党・社民党は選挙期間には政治家が全面に出て応援演説をしましたが,細川氏には表だった政党からの応援はありませんでした。
しかも,宇都宮氏は脱原発以外にも,保育,雇用問題,労働者の待遇と労働環境の改善など,幅広いテーマを扱っています。

このため,宇都宮氏は各世代からまんべんなく票を得ているのに対して細川氏は60代以上の人からの投票が過半数を占めています。

細川氏については,幾つかの問題点があったと思います。まず,年齢ですが,細川氏は現在76才で,有権者にとってみれば,都知事という激職を本当に果た
せるのか,という疑問を抱いても不思議ではありません。

さらに細川氏が連立政権の首相になって世間の注目浴びたのは1993年,今から20年以上も前です。当時,政治に関心があったと思われる20代後半以上の人は,
現在50代より上の世代です。実際,細川氏に投票した人の過半数は60代と70代でした。

次に,細川氏は,立候補の届けを告示ギリギリに行いましたので,選挙運動期間が,事実上告示から投票日までの2週間しかなかったことです。

なお,細川氏には強力な応援者として小泉純一郎氏がつきました。

小泉氏は,かつての2005年の衆議院議員選挙では「郵政民営化」一本のワン・イシューで選挙戦を闘い圧勝しました。

今回の都知事選でも,「脱原発」一本で闘う戦術を採りましたが,やはり有利な風は吹きませんでした。小泉氏も現在は72才,多くの有権者にとって,
政治家としては「過去の人」という印象を与えたことは疑い得ません。

今回の都知事選でも,「脱原発」一本で闘う戦術を採りましたが,やはり有利な風は吹きませんでした。小泉氏も現在は72才,多くの有権者にとって,
政治家としては「過去の人」という印象を与えたことは疑い得ません。

細川氏は,民主党その他の政党の間接的な支援を得てはいましたが,実際には選挙演説などの応援はしませんでした。これも細川氏に不利だった要因の
一つです。

今回の選挙で元航空幕僚長,つまり軍人の田母神氏が61万票もの票を得たことはとても注目すべき事実ですが,これについては,別の機会に譲りたい
と思います。

ここでは,細川・小泉氏の脱原発,反原発の訴えはなぜ,多くの支持を得られなかったのを考えてみたいと思います。ここで,「反原発」の問題を重視
するのは
次のような理由によります。

今回の選挙は東京都知事選ではありましたが,実はその背後でもう一つの闘いがありました。東京都知事は,日本の首都の首長であり,それだけでも
巨大な権力と重要性をもっていますが,今回の選挙で争ったのは,その地位をめぐる闘いだけではありませんでした。

細川氏が選挙で訴えたのは,直接的には「脱原発」を全面に出していますが,これはあくまでも象徴であり,直接の争点にはしませんでしたが,
「憲法9条改訂」「集団的自衛権の発動」などを目論む安倍政権に対する賛否を問う闘いでもあったのです。

だからこそ,自民党も公明党も,これまでのいきさつを一切無視して,勝てそうな舛添氏を必死で応援したのです。

象徴とはいえ,原発問題は細川氏の最大の争点ですから,ここでは「脱原発」の訴えがどの程度説得力をもったのか,あるいはもたなかったのかについて
考えてみる必要はあります。

わずか2週間の選挙運動で,しかも組織票もなく「脱原発」という1点だけを訴えて95万票強の票を取ったことは,それなりに一般の有権者の支持を
得たということも言えます。

しかし,それでも細川氏の得票は,同じく脱原発を訴えた宇都宮氏よりも少なかったのは,何かが欠けていたからだろうと思います。

細川氏が主張する,原発が危険性をはらんでいること,放射性廃棄物の処分は現在,どの国も未解決であることは全く正しいと思います。

現在,原発が可動していないのに経済も社会もちゃんと回っているのだから,原発は要らない,という論理も筋が通っています。

そして,脱原発は,たんにエネルギーの問題であるだけでなく,生活のあり方,社会のシステム全体にかかわる問題だ,とも言っています。
これも全く正しいし,私も大賛成です。

しかし私には,細川氏も小泉氏も,正しいことを訴えれば,かならず人々は納得してくれるはずだ,そして投票してくれるはずだ,
という前提があったように思えます。しかし人は,正しいことを言えば納得し,投票してくれるとは限りません。

なぜなら,個々人は,それぞれ価値判断をもっているからです。また,“原発の問題がどれほど有権者にとって切実な問題であるか”,が問題です。
少なくとも,今回の都知事選という選挙で,細川氏も小泉氏も,有権者の心に届く言葉で語りかけることができなかったと言えます。

私は,「脱原発」の1点に争点を絞ったというその理由だけで3位に甘んじたとは思いません。問題は,原発がなければ経済成長も豊かな生活も
不可能である,という「原発推進の物語」を突き崩すだけの,説得力のある「脱原発の物語」を提示できなかったからだと思います。

この際,地震帯の上に乗っているような日本列島で原発を稼働することが極めて危険で不合理であること,使用済み核燃料や放射性廃棄物の処理を考
えれば,原発は決して安い電力ではないこと,一旦事故が起これば人・物・環境へ収拾のつかない被害を及ぼすことなど,原発のマイナス面を強調す
するだけでは有権者の心は動かないのです。

そうではなくて,原発は安い,日本の経済を社会を維持するには原発が必要不可欠であるという「原発推進の物語」を超える,説得力があり共感を呼
ぶ「脱原発物語」を提示する必要があったのに,できなかったといえます。

たとえば,脱原発によって,どのように素晴らしい生活のあり方や社会のシステムが得られるのか,どんなプラス面,利点があるかという,
いわば「脱原発の物語」を分かり易く語りかける必要があったのです。

この点に関して細川氏も,応援団長の小泉氏も準備不足であったことは否定できません。

今回の都知事選挙の結果をみて自公連立政権は,脱反原発,反原発は押さえ込めるとの自信を深めました。最近の自民党内の雰囲気は,原発再稼働は
当然のことで,原発の新設さえも可能だ,という風に,一気に原発推進に向かっています。

それだけでなく,自民党は安倍内閣が信任されたとの自信も深めたようです。憲法解釈の変更による集団的自衛権の合法化へと,これも一気に突き進
んでいます。

都知事選で舛添氏に投票した人たちは,自分がこのような選択をしたとは思っていないと思いますが,結果的には自民党のもっとも理想的な筋書き通
りになったのです。
これこそが,今回の都知事選のもう一つの,非常に重要で深刻な闘いだったのです。



(注1)最も低かったのは1987年(鈴木俊一氏が当選)で43.1%, 次が2003年(石原慎太郎氏当選)の44.9%でした。
(注2)参考のために,全立候補者を以下に示しておきます。
 
       年齢  所属  職業・経歴・その他
○ひめじけんじ (61) 無所属 自営業
○宇都宮健児  (67) 無所属 前日弁連会長/共産党と社民党が推薦
○ドクター・中松(85) 無所属 発明家
○田母神俊雄  (65) 無所属 航空自衛隊の元航空幕僚長
○鈴木達夫   (73) 無所属 弁護士
○中川智晴   (55) 無所属 一級建築士
○舛添要一   (65) 無所属 元厚生労働相/自民党東京都連と公明党東京都本部が
  推薦
○細川護熙   (76) 無所属 元首相/民主党、結いの党、生活の党が自主的に支援
○マック赤坂  (65) スマイル党 政治団体代表
○家入一真   (35) 無所属 IT会社役員
○内藤久遠   (57) 無所属 元自衛官
○金子 博   (84) 無所属 元会社社長
○五十嵐政一  (82) 無所属 一般社団法人理事長
○酒向英一   (64) 無所属 元市役所職員
○松山親憲   (72) 無所属 元高校教諭
○根上 隆   (64) 無所属 政治団体代表
(届け出順)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【「いぬゐ郷だより」2】
3月6日は,2月の大雪で農道脇の竹が倒れ,農道を塞いでしまったので,竹切りををしました。(写真)



3月8日は,佐倉に借りた放置たんぼの手入れと,稲作の準備を始めました。
3月9日は,幕張にあるコミュニティーファームでの畑作の畝立てと植え付けをします。
これからとても忙しくなりますので,お手伝い下さる方は是非参加して一緒に自然農を体験してください。

いぬゐ郷HP http://www.inoui-go.com/index.html
いぬゐ郷Facebook https://www.facebook.com/Inoui.go






  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自然農と健康野菜-野菜の栄養価が下がっている?-

2014-03-02 07:16:45 | 食と農
自然農と健康野菜-野菜の栄養価が下がっている?-

私たちが毎日のように食べている野菜は,命を維持するのに欠かせない食品です。食品の中でも,タンパク質や脂
肪は肉からも摂れますが,たとえばビタミンCやB群などは,植物性食品から摂取します。

しかし,この栄養価は以前と比べて下がっているということも指摘されてきました。

日本では戦後間もなく食品の栄養評価が,当初は占領軍の指示で行われ1950年(昭和25年)にまとめられました。

この最終報告は『日本食品標準成分表』として1951年に出版されました。

その後,1982年には同名タイトルで第四訂が,そして2000年には第五訂が出版されました。

こうして,私たちは食品ごとに1950年から2000年までの栄養価の変化をたどることができます。

ただし,1950年の調査対象となった食品の数も,また栄養素の検査項目も少ないので私たちの関心のある野菜や栄養
素を全て知るこ
とはできません。

とりわけ,私が特に重要視している微量要素のうち,鉄を除けばマグネシウム,銅,マンガン,セレンモリブデン,
クロム,亜鉛などの金属類が第五訂までは計測されていません。

これらの微量要素(金属類)は,身体の維持にとって重要な役割を果たしていると思われますが,その全容はまだ明
かではありません。

以上のような限界をもってはいますが,それでもこの50年間に生じた変化の一部をかいま見ることができます。

たとえば「ほうれん草」を見てみましょう。100グラム当りのビタミンCは1950年の150mgから1982年の65mg,2000年の
35mgへと,この50年間に5分の1へ激減しています。

また,ほうれん草は鉄分を含む野菜として知られていますが,鉄も同様に13mg→3.7mg→2.7mgと,これも4分の1から
5分の1へ激減しています。

緑黄色野菜の代表で,ビタミンAを多く含むニンジンにしても,1950年から2000年までに約5分の1に減少しています。

参考までに1982年から2000年までの,その他の野菜のビタミンC量を見てみると,
トマト……20mgから15mg
ニンジン……7mgから4mg
ブロッコリー……160mgから120mg
チンゲンサイ……29mgから24mg
大根……15mgから12mg
モヤシ……16mgから8mg
パセリ……200mgから120mg
ニガウリ……120mgから76mg
ニラ……25mgから19mg
小松菜……75mgから39mg
シシトウガラシ……90mgから57mg
シソ……55mgから26mg

といった数値に低下しています。 ビタミンC以外でも、ビタミンA、鉄分、カルシウムなどの栄養素が低下しています。

栄養価が下がった原因については、さまざまな要因が挙げられています。まずは土地がやせてしまっていること。化学
肥料などの使用により,土に含まれているはずの栄養素が減り、野菜に十分な栄養が吸収されなくなったと言われてい
ます。

また、人工栽培が増えたこと、流通過程の問題で早く収穫することなども要因に挙げられています。(注1)

こうした意見に対して,実際には栄養価は減っていないとする見解もあります。それは,以前は旬の野菜を食べ,その
時の栄養価を測定したのに,現在では通年の平均値で測定している。

もし,旬の野菜を測定すれば栄養価は同じはずだ,従って,測定年度の違う栄養価を同列に評価するのは間違いだとい
う見解です。(注2)

もう一つ補足しておくと,野菜の栄養価はそれが獲れた場所によっても時期によっても,同じ野菜でも品種が微妙に異
なることもあり,そもそも平均値で判断することには無理があるとも言えます。

それを考慮したとしても,やはり私たちが日常食べている野菜の栄養価は下がっていると考えざるを得ません。

まず,1950年との比較は難しいとしても,1982年と2000年とは同一基準で測定しているはずで,それでも,上に示した
ビタミンCの量の減少に見られるように確実に減っています。

さらに,私たちは必ずしも「旬の野菜」を食べているわけではありません。トマトにしても1年中食べることができま
すが,これはほとんどが太陽を十分に浴び,自然の温度で育ったものではなくハウス栽培だからです。

したがって,旬の野菜だけを取り上げて栄養評価をすることも,現実的には無理があります。

野菜を栽培する土壌の化学分析が行われていない現状では,一般論としては言えませんが,化学肥料を与えて土を休ま
せることなく酷使していること,とりわけ作物の産地化(特定地域での特定作物の集中的栽培)が進む最近の趨勢から,
土がもつ特定の栄養素が欠落してゆく可能性もあります。

特に,光合成によって補うことができない微量要素(金属類)などは,土を酷使することにより年々の収穫ごとに確実
に減少してゆきます。

これからは,これらの要素にも注意を払う必要があるでしょう。

本来は,日々の食物から必要な栄養素を摂取するべきですが,欧米,特にアメリカではサプリメントがごく日常的に
利用されています。

その背景には野菜の栄養素が欠落していることを人々が知っているからでしょう。日本でも,遠からずそのような時代
が来るかも知れません。

ところで,こうした栄養素の化学成分とは別に,私たちはその野菜が本当に健康的かどうか,そして何よりも美味しい
かどうかも大切な問題です。

そして,健康野菜かどうかに関しては,栄養価とは別に,農薬や肥料に化学物質が入っているかどうか(栽培過程で投
入したかどうか)が問題です。

とりわけ,いわゆる「有機野菜」の問題については,このブログでもかつて書いたように(注3),現在,野菜栽培に
一般に使われている有機肥料は家畜(牛,豚,鶏など)の糞尿を発行させたものですが,その家畜が食べている飼料に
は薬がたっぷりと入っています。

無肥料栽培の野菜と食べ比べてみればはっきり分かりますが,牛糞堆肥を使った野菜は,一種独特の甘味があります。

それでは,健康な野菜とはどんな野菜なのでしょうか?化学物質(とりわけ有害な農薬成分)が無く,栄養価が高いこ
とが理想です。

個々の農家はいちいち栄養価を計っているわけではありませんが,自分が農薬や化学肥料を使っているかどうかは分か
っています。

そして,その野菜が元気かどうか,美味しいかどうかははっきりと分かっています。これらの点を石井吉彦氏は,無
肥料,無農薬で自分の栽培した野菜を継続的に食べ多人たちの健康を追跡調査して,アトピーなどの疾患が確実に減
少したことを実証しています。(注4)

また,河名秀郎氏は,興味深い実験をして野菜の「健康度」を調べています。

彼は,①農薬や化学肥料を使った一般栽培の,②は有機肥料を使った,③農薬も肥料も使わず育てた自然栽培の,キュ
ウリやニンジンを煮沸したビンに入れて,どうなるか経過をみます。

彼は当初,②の一般栽培のものが最初に腐ると思っていたそうですが,最初に形が崩れ腐ったのは有機栽培の野菜だっ
たのです。

化学肥料のものは形を残しましたが,有機肥料のものは形すらほとんど留めなかったのです。オーガニック認証をとっ
たにも関わらず,です。

匂いについてみると,一般栽培のものは鼻をつくようなケミカル臭,有機栽培の方は何とも表現しがたい,糞尿のよう
な匂い,とてもとても嗅いでいられるものではなかったそうです。

ちなみに,自然栽培のものは,どこかほんのり甘く,決して不快な匂いではなく,腐敗ではなく発酵して漬物になって
いたそうです。

石井氏はよく,有機(オーガニック)認証をとった野菜は一番気を付けなければ,言いますが,それはこの実験を見て
も分かります。

河名氏の表現を借りると,よく庭先で見かける柿の木は,なんの手入れもせず肥料も与えていないのに毎年実をならし
ます。

これを可能にしているのは,栄養も含めた自然のバランスが保たれているからです。

しかも,腐敗実験をすると,庭先の柿の実は,発酵して柿酢になるが,買った柿は腐敗したのです。

もう一つ,彼がよく引用する言葉あります。野山の植物は「枯れる」のが普通なのに,スーパーなどで売っている野菜
は「腐り」ます。

自然の植物も自然栽培の農産物も,そこに集まる菌も自然のバランスをたもっているからです。

自然栽培とは結局,その土がもっている元々の栄養を自分の力で吸い上げてきた野菜のことです。

これにたいして,有機栽培や一般栽培(慣行農法ともいう)では,人工的に栄養を与えるので,自然のバランスを壊して
しまいます。

虫がつくのは,その余分な部分を食べにくるからだ,ということになります。

したがって,その虫を退治するために殺虫剤が必要となる,という悪循環を繰り返すことになります。

ただ,ここで困難な問題は,私たちが手に入れることができる種や苗のほとんどは,すでに薬品で処理されているため,
土壌消毒や殺虫剤をつかわなければ,十分な収穫を得られないようになってしまっていることです。

これからは,自分の力で地中から栄養分を吸収した,元気のよい,栄養価の高い,そして有害物質の入っていない,
健康野菜が,本当に価値ある食品として登場することと思います。



(注1)http://news.mynavi.jp/c_career/level1/yoko/2013/01/post_2874.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802.htm
(注2)http://m3q.jp/t/1255 
  http://ameblo.jp/nougyoukonnsaru/entry-11467033888.html
(注3)この点に関しては,本ブログの2012年4月9日「有機野菜は健康野菜か?-「有機」栽培の真相-」で書いています。
(注4)石井吉彦『元気な種で育てる究極野菜の誕生』(ナチュラルシードネットワーク,2010年)。
(注5)河名秀郎『ほんとの野菜は緑が薄い』(日経プレミアシリーズ,2010年)

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

【いぬゐ郷だより1】
私も含めて8人ほどの仲間と「いぬゐ郷」というグループをつくり,自然農を行っています。「いぬゐ郷」の詳細については以下のHome Page とFacebookを御覧下さい。
今年は,畑に加えて水田稲作も行います。誰でも参加できるオープンシステムです。今後,活動内容を【いぬゐ郷だより】として随時紹介してゆきます。

いぬゐ郷HP http://www.inoui-go.com/index.html
いぬゐ郷Facebook https://www.facebook.com/Inoui.go



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする