大木昌の雑記帳

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伊勢志摩サミット(3)―宴の後:オバマ大統領の広島訪問―

2016-06-27 03:49:49 | 国際問題
伊勢志摩サミット(3)―宴の後:オバマ大統領の広島訪問―

2016年5月27日、オバマ米大統領は現役の大統領としては初めて、広島を訪問しました。

この訪問に関して『日本経済新聞』のデジタル版は、次のように書いています。
    広島を訪れたオバマ米大統領が被爆者の肩を抱いた時、「核なき世界」を夢見る多くの
    日本人のユーフォリア(熱狂的陶酔感)はピークに達したように映った(注1)。

確かに、あのオバマ氏の抱擁によって、多くの日本人は「熱狂的陶酔感」の絶頂に達した感があります。マスメディアも、
ほとんど「舞い上がっている」としか言いようのないはしゃぎぶりです。

しかし私たちは、この訪問に至る経緯と、オバマ氏が実際に広島に行ったこと、日本政府や日本人が示した反応を含めて、
オバマ氏の広島訪問の意義をもう一度冷静に振り返り評価し直す必要があります。

今回の広島訪問の経緯から見てみましょう。

2009年11月、オバマ氏は初来日しました。これに先立って、日本の外務省(担当は当時の藪中三十二外務次官)とルース
駐日米大使との間で、訪日中のオバマ氏の行動について折衝がありました。

その過程で、ルース大使が本国に送った電報メッセージが「ウィキリークス」で暴露されています。(注2)

それによると、ルース氏は、オバマ氏が来日したときの行動としては、東京で大学での講演などに限定すべきで、広島を訪れ
「謝罪」をすることを、ルース氏は、藪中氏から「時期尚早」であるという理由で強く反対された、と書いています。

この文面からみると、ひょっとすると、オバマ氏は広島訪問だけでなく、原爆投下への謝罪をも考えていたかも知れません。

それにしても、日本の外務省はなぜ、オバマ氏の謝罪に反対したのでしょうか?

薮中氏は、もし広島を訪問すると、反核運動団体の「期待」が高まるから、と述べていたのです。

この「期待」の中には、オバマ氏による「謝罪」が含まれている可能性がある、というのが薮中氏の懸念でした。

以上の経緯もあって、今回のオバマ氏の訪日にさいして、日本政府は最初から、謝罪を求めないことを、何度も表明してきました。

それでは、日本政府(特に外務省)は、なぜ今回もオバマ氏の「謝罪」を断り続けているのでしょうか?

これに対して、平和運動に長く携わってきた広島私立大学広島平和研究所(元教授)の田中利幸氏は、オバマ氏の訪日に先立っ
て、オバマ氏の「謝罪なき広島訪問」が、無邪気な歓迎ムードで進められることに危機感を募らせていました。

来年1月で退任するオバマ氏にとっては、原爆投下を正当化するアメリカの世論の反発を避けつつ、「核兵器なき世界」という理念
に基づく実績作りのパフォーマンスの場にこの訪問を利用しようとする意図が感がられます。

他方、安倍首相にとっては、オバマ氏の広島訪問を、一つの外交的成果としてアピールし支持率を高めて参院選に弾みをつける狙
いがありました。

ところが、被爆者たちは、これまで「二度と同じ被害を出さないために」、とアメリカに謝罪を求めてきました。

たとえば、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)は1984年に発表した「基本要求」で、広島・長崎の犠牲がやむを得ないとされる
なら、核戦争を許すことになる」、と原爆投下が人道に反する国際方違反である」と断定し、アメリカに被害者への謝罪を求めること
を訴えています。

また、2006年と2007年には、市民団体が原爆投下の責任を問う「国際民衆法廷」を広島で開催し、原爆投下を決定したトルーマン
大統領ら15人を「有罪」としました。

さらに一昨年の2014には、広島の八つの市民団体がオバマ氏に「謝罪は核廃絶に必要」とする書簡を出しています。

こうした被爆者と広島住民の強い、謝罪への要求を無視して、日本政府はオバマ氏に謝罪を求めない、と公式に表明してきました。

その理由の一つは、被爆国でありながら、アメリカの核抑止力に依存するという矛盾を抱える日本にとっても謝罪はない方が都合が
よい、というものです。

もう一つは、第二次世界大戦で日本は、原爆に関しては被害者ですが、アジア諸国に対しては加害者の立場にある、という事情です。

田中氏は、「米国の加害責任を追及しなければ、アジアの人びとに対する戦争犯罪とも向き合わずに済むとの論理が潜んでいるので
はないか」と鋭い指摘をしています。

つまり、日本が、もしオバマ氏に謝罪を要求すれば当然、南北朝鮮、中国を始めかつて侵略した国々に対ても謝罪して回る必要がある
し、アメリカ側も日本の首相に真珠湾に来て謝罪をすべきだ、と要求するかもしれません。

そして田中氏は、もしオバマ氏に謝罪を求めないと、今回の訪問が日本の過去の侵略を否定する歴史修正主義を助長しかねないし、
さらに、原爆投下は正統であったという、誤ったメッセージを世界に送ることになると、懸念しています(『東京新聞』2016年5月18日)。

以上のような、日本政府にとって最も、「やっかいな問題」を避けるために、政府はオバマ氏に謝罪を求めないことにしたものと考えら
れます。

以上の問題の他に、今回の日米両政府の姿勢に、私がどうしても納得できない本質的な問題があります。

アメリカの政府も多くの国民は、原爆投下によって戦争が早く終わり、結果として日本人(そしてアメリカ人)の死者を少なくすることがで
きた、と主張してきました。

この議論は全く根拠を持ちませんが、それと同時に、あるいはそれ以上に問題なのは「もし、理由があれば核兵器を使用しても許される、
正当性をもつことができる」、という、核兵器の使用を事実上認めてしまうことです。

この「理由」は、使用した側が、どうにでも付けることができるのです。

しかし、オバマ氏も理想としている「核廃絶」とは、このような非人道的な兵器は、理由の如何を問わず、廃絶しなければならない、という
考え方なのです。

ここに、アメリカの欺瞞性があり、日本のご都合主義があります。

今回のオバマ訪日の意義を、外務省OBで政治学者、元広島平和研究所長、の浅井基文氏は、「変質強化された同盟関係を盤石なもの
に仕上げる最後のステップと位置づけられている」、と分析し、核兵器廃絶の第一歩となるとの期待は幻想で、「核兵器の堅持を前提とし
たセレモニーに過ぎないと」と鋭く批判しています。

次いで、日本は戦争加害国としての責任を正面から受け止めると同時に、無差別大量殺害兵器である原爆を投下した米国の責任を問い
ただす立場を放棄してはならない、そうすることによってのみ、核兵器廃絶に向けた人類の歩みの先頭に立ち続けることができるだろう、
と述べています。(『毎日新聞』2016年5月25日)全く同感です。

今回の訪問時に、オバマ氏の数メートル離れたところにはSPが、世界のどこからでも核弾頭を搭載したミサイルの発射を指令できる通信
機器が入ったカバンを持って片時も離れずに待機していました。

また、オバマ政権下で削減された核弾頭は約五百発(削減率10%)で、これは冷戦後の歴代政権の中で最も低い数と率です(『東京新聞』
2016年5月28日)。

米国科学者連盟によると、アメリカは使用可能な核弾頭は4700発も保有しています。

それにも関わらず、オバマ政権は「臨界前核実験」を続行しており、今年度に入って、新型長距離巡航ミサイル「LRSO」の開発といった「核
戦力の更新」に対し、今後30年間で1兆ドル(110兆円)を投じる予算を承認しています(『東京新聞』(2016年5月18日)。 

核軍縮に関して実効性のある進展を示すことなく任期も約八か月を残すだけとなったオバマ氏が、核廃絶を願って広島を訪問し、核廃絶の
誓いをする、ということは、虚しいパフォーマンスであり、ある意味ブラック・ユーモアですらあります。

そして、オバマ氏の広島訪問を大絶賛する日本のメディアは、もう少し冷静さを取り戻すべきでしょう。





(注1)『日経デジタル』(2016年6月2日)http://www.nikkei.com/article/DGXMZO02956030Q6A530C1000000/

(注2)Wikileaks: https://wikileaks.org/plusd/cables/09TOKYO2033_a.html
『産経ニュース NSN』2011年9月26日
    http://sankei.jp.msn.com/world/news/110926/amr11092618090007-n1.htm
https://wikileaks.org/plusd/cables/09TOKYO2033_a.html

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伊勢志摩サミット(2)―安倍首相の目論見と誤算―

2016-06-23 06:09:22 | 国際問題
伊勢志摩サミット(2)―安倍首相の目論見と誤算―

安倍首相は、議長国の特権を利用して、二つの提案にサミット参加国の合意を得ようとしていました。

一つは、現在の世界経済は、「リーマン・ショック前夜」の危機にあることを共通認識をとして認め、二つは、世界不況を乗り切るために
G7が一致して積極的な財政出動をする必要合意事項とすることでした。

「リーマン前夜」を強調するために、安倍首相が配った資料(4ページ)では、全て「リーマン・ショック」という言葉が使われています。

この意図は明らかで、G7の場で、「リーマン前夜」という言葉を共通認識として紛れ込ませれば、「リーマン級」の経済危機を理由として、
国民に不人気で、選挙にも不利に作用しかねない消費税の値上げを再延期する口実になる、との目論見です。

しかし案の定、参加国首脳、IMF専務理事、EUの代表の誰からも、賛同を得られませんでした。

例えば、ドイツのメルケル首相は、「新興国などでいくつかのリスクがある」が、「経済は一定の堅実な成長をしている」、「成長の加速に
は構造改革を」と安倍首相に異議を唱えました。(『東京新聞』2016年5月28日)

また、第一生命経済研究所の西浜徹氏は「新興国の減速リスクはゼロではないが、欧米経済は堅調なので、世界経済の危機を招くとは
思えない。中国では昨年、株バブルがはじけたが、世界で金融不安は起きていない」と語っています。

また、同研究所の熊野英生氏は、「当時は米国のバブル崩壊で一気に世界が不況に陥ったが、今は中国などの新興国が穏やかに減速
し、先進国も穏やかに減速する構造的な経済停滞。状況は全く異なる」と述べています。(『東京新聞』2016年5月27日)

安倍首相がサミットに提出した資料で、2014年6月から1年半で原油や食料など商品価格が55%下落し、リーマン・ショック時と同じにな
ったことを示そうとしました。

しかし、これについても、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の嶋中雄二氏は「2008年に商品価格が大きく下落したのはリーマン・ショックが
起きてからだ(つまり「後から」だ。必筆者註)。最近の下落幅が同じと言っても(産油国の綱引きなど)原因は当時と違っており、これから危
機が起きるという理由にはならない。原油価格は1バーレル50ドルに戻るなど、商品価格はむしろ底入れしている」、とデータの根拠と妥当
性を否定しています。

IMF(国際通貨基金)の専務理事はサミット閉幕後の記者団に「(リーマン・ショック」が起きた)2008年のような時期ではない。危機からは抜け
出した」と、やはり安倍首相の認識を否定しました。

5月23日に政府が公表した月例経済報告も同様のデータから景気判断を示していますが、海外経済について「世界の景気は弱さが見られ
るものの、全体としては緩やかに回復している」とし、「リーマン・ショック級」という認識を否定しています。

経済政策を担当する石原伸晃経済再生相も、4月の国会審議で「リーマン・ショック級の危機が訪れようとしていると思うか」と問われ、「その
当時と今が同じような状況だという認識はない」と答弁しています。

『朝日新聞』はこうした事情を考慮して、サミットで示された安倍首相の「危機感」は唐突にも見える、と結論しています。(注1)

二つ目の目論見である、各国の「財政出動」を訴えましたが、これも全く賛同を得られませんでした。

安倍氏が唱える「財政出動」とは、言い換えると、日本国内の景気浮揚のために、消費税の値上げを延期して、公共事業などを大胆に行う
必要がある、ということです。

ここで、消費税の値上げを延期するわけですから、その予算の手当は赤字国債ということになります。

そもそも、一千兆円超という世界一の財政赤字を抱える国(日本)が、各国に財政出動を呼び掛ける構図がおかしいのです。事前の訪問時
にドイツからは、「財政による景気浮揚は一時的で、かえって将来の負担になる」と言われてしまいました。金融政策に過度に依存してきた
が、それが行き詰ったことも見透かされていました。(『東京新聞』2016年5月27日)

安倍首相が事前に欧米各国を回って財政出動に必要性を訴えてきましたが、ドイツは最初から反対で、全体の賛同を得られないどころか、
言及さえせずに無視した国もあるほどです。

アメリカのオバマ大統領は、財政出動を無視した上、26日夜の記者会見では、「通貨切り下げ競争に反対する」と、日本の円安介入を批判
しています(『東京新聞』2016年5月28日)。

一応、議長国の日本に妥協して、具体的な景気刺激策は各国の判断に委ねる、という議論に落ち着き、「サミット首脳宣言」では、
    各国の状況に配慮しつつ、強固で持続可能、かつ均衡ある成長経路を迅速に達成するため、経済政策による
    対応を協力して強化し、より強力で均衡ある政策の組み合わせを用いる

つまり財政出動は全体の合意事項ではなく、各国の事情に委ねなれることになっています。

「宣言」では、財政出動という言葉はなく、代わって「経済政策」むしろ「均衡ある成長経路」とされているように、赤字国債に依存することなく
財政的な「均衡」を求めています。

日本の一人負け
IMFの経済見通しによれば、2017年のG7国のGDP成長率は日本が唯一マイナスで-0.1%、アメリカ(+2.5%)、ドイツ(+1.6%)、フランス(+1.3%)、
イタリア(+1.2%)、イギリス(2.2%)、カナダ(+1.9%)、全体で+3.5%となっており、日本の一人負けが明らかです(『東京新聞』2016年5月27日)。

こうした見通しをみれば、安倍首相の目論見は、「リーマン級不況」も「財政出動」もサミットの場で否定されたのは、当然です。

今回のサミットで、上記二つの主張を各国に訴えるために、だいぶ前から官邸の指示で、そのためのデータ集めを官僚や御用エコノミストたち
が集めていたようです。資料そのものもお粗末ですが、彼らの能力もお粗末と言わざるを得ません。

いずれにしても安倍首相の提案も、各国代表者からは賛同を得られませんでした。というのも、これはあくまでも日本の国内問題であり、世界
の政治経済を討議する場に、無理矢理日本の経済事情を前面に出した安倍首相にたいしての批判も含まれています。

G7の場では、議長国の首相ということで、安倍首相の発言に対する批判は、控え目でしたが、海外メディアはもっとストレートでした。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は「世界経済が着実に成長する中、安倍氏が説得力のない(リーマン・ショックが起きた)2008年との比較
を持ち出したのは、安倍氏の増税延期の口実づくり、指摘しました。

首相はサミット初日の26日、商品価格の下落や新興国経済の低調ぶりを示す統計などを示し、自らの景気認識に根拠を持たせようとしました
が、年明けに急落した原油価格がやや持ち直すなど、金融市場の動揺は一服しています。

米国は経済の順調な回復を反映して追加利上げを探る段階だ。英国のキャメロン首相は26日の討議で「危機とは言えない」と反論。FTは、
英政府幹部の話として「キャメロン氏は安倍氏と同じ意見ではない」と指摘しました。

英BBCは27日付のコラムで「G7での安倍氏の使命は、一段の財政出動に賛成するよう各国首脳を説得することだったが、失敗した」と断じ、
そのうえで「安倍氏はG7首脳を納得させられなかった。今度は(日本の)有権者が安倍氏に賛同するか見守ろう」と結びました。

つまり、日本人がどれほどの判断力を持っているかを見させてもらおう、というイギリス人独特の日本人の知性にたいする皮肉です。

仏ルモンド紙は「安倍氏は『深刻なリスク』の存在を訴え、悲観主義で驚かせた」と報じた。首相が、リーマン・ショックのような事態が起こらない
限り消費税増税に踏み切ると繰り返し述べてきたことを説明し、「自国経済への不安を国民に訴える手段にG7を利用した」との専門家の分析
を紹介しました。首相が提唱した財政出動での協調については、「メンバー国全ての同意は得られなかった」と総括しています。

米経済メディアCNBCは「増税延期計画の一環」「あまりに芝居がかっている」などとする市場関係者らのコメントを伝えました。

また、配られた4枚の資料について、「それで危機というのは詭弁にちかい」と手厳しく批判しています。

一方、中国国営新華社通信は「巨額の財政赤字を抱える日本が、他国に財政出動を求める資格があるのか?」と皮肉りました。首相が新興
国経済の減速を世界経済のリスクに挙げたことへの反発とみられ、「日本の巨額債務は巨大なリスクで、世界経済をかく乱しかねない」とも指
摘しています。

こうした、内外の批判を受けて、さすがに安倍首相は後に、「私はリーマンショックとは言っていない」と弁解しています。あれだけ文書で強調し
ておきながらです。

もし、言っていないとすると、これだけ「リーマン級不況」発言に海外からの批判が来ることはあり得ません。

以上、海外メディアの反応を見るか限り、安倍首相の目論見ははずれただけでなく、信用を失い、恥をかいた結果となってしまいました。

海外の取材経験が豊富なジャーナリスト河内孝氏は、「オバマ大統領の広島訪問でごまかせると思ったのだろうが、あまりに国民を愚ろうして
いる」と批判しています。

政治評論家の森田実氏は、「『世界の問題を主要国で話し合おう』サミットなのに、安倍首相は短期的な国内戦略で使おうとした。しかしそれは
世界に見透かされていました。オバマ大統領医助けられていたが、それも対米従属を強めるだけだ」と、サミットを総括しています(『毎日新聞』
2016年5月29日 朝刊;東京)(注2)。

(注1)『朝日新聞』デジタル版(2016年5月28日)
     http://digital.asahi.com/articles/DA3S12380556.html?rm=150
(注2)『東京新聞』2016年5月31日「海外メディアはサミットどうみた」;
    『毎日新聞の記事のデジタル版(2016年5月29日)
     http://mainichi.jp/articles/20160529/ddm/002/010/118000c

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伊勢志摩サミット(1)―「主要国」支配の落日―

2016-06-18 04:02:27 | 国際問題
伊勢志摩サミット(1)―「主要国」支配の落日―

2016年の主要国首脳会議(通称「サミット」)は5月26,27日の二日間にわたって、日本の三重県伊勢・志摩で開催されました。

サミットは毎年、議長国を巡回して行われますが、今年は日本が議長国となりました。

このサミットについて『東京新聞』(2016年5月30日)の「社説」は、「たそれがれても輝く国に」というタイトルを掲げ、その冒頭で
次のように書いています。
    伊勢志摩の“祭りの後”には一層、先進国の「たそがれ」が際立ちます。
    日本を先頭に進む高齢化、人口減・・・。衰えゆく先の大きな時代の変
    わり目です。 

「社説」の筆者は、先進国にみられる高齢化、少子化(人口減)、それにともなう経済的停滞は、まちがいなく「たそがれ」の兆候で
あり、中でも日本はその先頭を走っていると書いています。

いずれにしても、現在の「先進国」の社会経済状況は、全体として「老化」が進み、人間で言えば、歳を取って、体のあちこちに不具
合いが出てくるように、それぞれ国内に問題を抱えています。

そのようなG7は、すでに歴史的な役割を終え、「たそがれ」を迎えています。

G7が発足した当初には、まだ、世界をリードするだけの力も豊かさもありましたが、今や、そのような能力は衰えてしまっています。

一言でいえば、G7は既に歴史的な役割を終えているのです。

ここで、そもそもサミットとはどんな背景で、何を目的として発足したのかを見ておきましょう。

サミットは、1970年代の石油危機やニクソンショック(ドルの切り下げ)など世界経済の深刻な問題に直面し、それを克服するために
政策協調するために、先進国の首脳が自由に話し合う必要が認識されたことがきっかけとなりました。

そして、1975年、フランスのジスカール・デスタン大統領の呼びかけで、第一回サミットがフランスのランブイエで開催されました。

ここで注目すべき事実は1970年代前半に起こったいくつかの出来事が、世界経済、そしてさらに大きな意味では、世界の政治経済
体制が大きく変化していることを象徴していることです。

まず、1971年アメリカは金とドルとの交換を停止し、ドルの切り下げが起こりました(通称「ドルショック」)。これはアメリカ経済の衰退
を反映しています。

続いて1973年には、それまで欧米の石油メジャーに支配され、搾取されていた産油国のうちアラブの石油輸出国機構(OAPEC)が、
1バーレル3ドルから5ドルへ70%も石油価格を値上げし、さらには石油の禁輸を強行した、「第一次石油危機」(オイルショック)が
勃発しました。

「セブンシスターズ」と呼ばれる、欧米の7大石油メジャーのうち5つがアメリカの企業であったことからもわかるように、世界の石油は
事実上、アメリカ企業によって、そのだ部分が支配されていたのです。

欧米だけでなく、日本も、いわゆる先進国と称される国々は、それまで極端に安い石油エネルギーを思う存分使うことができたからこ
そ経済的繁栄を謳歌できたのです。

こうした支配体制に、産油国の中でも、特にアメリカの強い支配下に置かれたアラブ産油国が、石油メジャーに反旗を翻したことは、
もはやアメリカの石油支配の終わり、そして、そこから得ていた巨額の利益を以前のようには独占することはできなくなったことを意
味します。

これは同時に、先進国がもはや安い石油資源を使うことができず、経済に大きな制約がかけられたことを意味します。

第一次石油危機の際、日本でトイレットペーパーがなくなるのでは、という、デマに踊らされた多くの日本人がスーパーに押し寄せ、
死者まで出したことは、記憶に新しいことです。

そして、いよいよ1975年というもう一つの大きな歴史的な転換点に至ります。

1975年とは、20年以上にわたって戦い続けたベトナム戦争で、アメリカがみじめな敗退を喫し、逃げ帰るように撤退した年です。

アメリカは、膨大な戦費をベトナムやその他のインドシナ諸国での戦争に費やしたために、それまで世界の富を独占していたかの
ごとく繁栄を誇っていましたが、その繁栄は見かけ上のもので、中身はすっかりやせ細り、財政の危機に直面していたのです。

60年代なら、世界経済の協調体制を組むためのリーダーシップは、アメリカが取るとろですが、第一回目のサミットは、フランスの
大統領の呼びかけで、フランスで開催されたことが象徴しているように、アメリカの地位の低下、アメリカ経済の凋落がはっきりと現
れています。

当初のサミット参加国は、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、日本の6か国でしたが、以後、カナダとロシアが加わり、
「G8」と呼ばれました(ロシアはウクライナ問題に関する制裁のため、2014年からサミットへの出席を拒否されている)。

もっとも、当時も今日でも、アメリカは軍事的にはスーパー・パワーであることには変わりありません。

それでもアメリカは、たとえば「イスラム国」にたいして、もはやロシアの協力を得なければ軍事的な対応策をたてられない所までその
軍事的な力は落ちています。

アメリカの一極支配構造は70年代を通じて崩れ続け、世界秩序は多極化の道を歩み始めました。

しかし、世界経済への圧倒的な影響力の低下は、アメリカだけではありません。

今や、先進国全体が、かつてのような経済的力を失っています。

たとえば、GDPだけをみると一位はアメリカですが、二位は、日本を抜いて中国となっており、先進国は中国という巨大市場に大きく
依存しています。

サミットは、新たな政治・軍事・経済でのスーパー・パワーである中国が入っておらず、今回のサミットには、もう一つのスーパー・パワ
ーであるロシアも入っていません。

G7の世界GDPに占める割合は、1994年には67.1%あったのに、2014年には45.9%へ大幅に減少しています。

代わって台頭してきたのはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)で、上記年度には7.3%から21%へ3倍近くに増加し
ました。 中でも、中国だけでもすでに13%を占めるようになっています。(注1)

この経済指標から、G7の経済力の相対的低下をはっきりと見て取ることができます。

これを反映するかのように、今回の「伊勢志摩サミット」では、それぞれの参加国が個々バラバラな問題を抱えていて、共通の認識のも
とに世界経済と世界秩序の立て直しに結束する機運は全く見られませんでした。

フランスのオランド大統領はテロ対策のための協調を主張し、アメリカのオバマ大統領は北朝鮮の核開発への懸念を強調し、ドイツの
メルケル首相は難民をなくすためにG7は手を尽くすべきだ、と説き、イギリスのキャメロン首相は、EUからの離脱問題が大きな関心事
であり、イタリアのレンツィ首相は、フランスと同様、難民問題に関連してアフリカ地域への支援を呼びかけ、そしてカナダのトルドー首相
は、中国の南シナ海進出への懸念を表明しました。

さて、日本の安倍首相は何を訴えたのでしょうか?

安倍首相は今回のG7を自らの政治戦略に利用するため、世界的な「リーマンショック級」の危機が起こるリスクを一貫して強調しました。

この主張は、他の出席者からはほとんど無視されてしまいましたが、これについては次回、もっと詳しく検証してみたいと思います。

いずれにしても、今回の伊勢志摩サミットで、かつてのような経済成長の時代は終わり、「主要国」の力は衰えてしまったこと、そして、来る
べき国家と世界の新たな構造と形を模索する段階に入ったことだけは明らかになりました。

(注1)NIKKEI・FT共同特集「きしむ世界 試練のG7」
     https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/g7transition/ (2016年5月30日参照)


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舛添都知事の本質(3)―「実績なし」「計算づくの保身と蓄財」―

2016-06-04 05:04:11 | 社会
舛添都知事の本質(3)―「実績なし」「計算づくの保身と蓄財」―


舛添都知事は、全てが計算づくで行動しています。それも、ほとんどが蓄財に向けられているところが、哀れであり、都民としてはやりき
れないでしょう。

その「計算づく」とは、政治資金規正法が収入に関しては厳しい規定があるのに対して、支出に対しては、特に定めがない法律上の不備
をどこまでも悪用することです。

例えば、現在、政治資金規正法の虚偽記載としてもっとも違法性が高いとされる、千葉県のホテルでの宿泊の問題を考えてみましょう。

舛添氏の政治資金管理団体「グローバルネットワーク研究会」(「グ研」既に解散)の収支報告書によると、「研究会」は千葉県木更津市の
「龍宮城スパホテル三日月」に2013年1月3日に約23万8千円、14年1月2日に約13万3千円を支払い、支出目的はともに「会議費用」
となっています。

『週刊文春』(2016年5月19日号)は会議ではなく家族旅行だったとする関係者の証言を紹介し、政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑い
があると指摘しました。

舛添氏はテレビのインタビューに、2013年1月の場合は、衆議院選挙の反省・総括の話し合い、2014年1月の場合は、都知事選を直前に
控えての対策会議であった、つまり両方とも「会議」だった、と答えています。

ただし、この発言も次第に変わってきます。5月12日、BSフジの「プライムニュース」に出演し、「グ研究」が「会議費」の名目で千葉県内の
ホテルに支出した約37万円が家族旅行に充てられたと『週刊文春』が報じた問題について、「(まだ精査中だが)もしこれがミスだと分かれ
ば、返金しないといけない」と述べました。

「ミス」というのは、既に退職した会計責任者が「勘違い」でしてしまった可能性がある、とのことで、自分の責任ではない、と主張しています。
(注1)

しかし、誰と何人で話し合ったのかは、政治の機微に触れる微妙な問題があるので答えるのは差し控えたい、の一点張りです。

また、5月13日の定例記者会見で、「旅行先ホテルで事務所関係者らと会議をした。家族で宿泊する部屋を利用し誤解を招いたので(支出
分を)返金する」と述べ、謝罪しましたが、辞職の意思がないことを強調しました。(注2)

舛添氏は、国民・都民が「誤解」しているのであって、私は間違っていない、といっているのですが、国民・都民は決して「誤解」していません。

もし、正真正銘、会議をしたのなら、そもそも返金などする必要はないでしょう。

12年12月の衆院選当時、「新党改革」の幹事長だった荒井広幸氏(現・代表)は取材に、「(13年の正月に)ホテルに行った記憶はない。年
末年始に選挙の反省会をしたことはあったが、三が日はない」。14年2月の都知事選で選挙対策の担当幹部だった自民党関係者も「家族と
一緒にいる千葉のホテルまで党の関係者が出向くとは考えにくい」と話しています。(注3)

正月の三が日にわざわざ「会議」を開いたのは不自然では、という疑問にたいして舛添氏は、両方とも、前から家族旅行が決まっていて、話
し合う日にちがこの時以外、とれなかったからだ、と説明していますが、既に「家族旅行」が決まっていた、と自ら言っているので説得力をもち
ません。(注4)

宿泊に関して疑惑をもたれるのは、それが正月やお盆休みと重なることが多いことが一因です。

正月やお盆の時期の宿泊費は、舛添氏が代表の新党改革支部など四つの政治団体の政治資金収支報告書に記載されていました。宿泊前
後の舛添氏のツイッターやブログには、「家族サービス」などの記載もあります。

例えば11年1月3日、横浜市のホテルに宿泊費約19万5千円を支払った。舛添氏は同日のツイートで「2日は家族サービスで水族館で終日
過ごしました。魚やいるかなど海の生き物を見ていると、心が和みます。何のために政治家をやっているのか分からない愚劣な連中と好対照
です」とつぶやいていました。

10年8月20日には、山口県下関市の温泉観光ホテルに約7万6千円を支出。同日のブログには同市に滞在していたと投稿。初代首相・伊藤
博文が愛したとされる同市のふぐ料理店に触れ、「フグを食べることができるのも伊藤のおかげです」。同じ投稿で、翌日に約130キロ離れた
福岡市に本社がある民放の番組に生出演するとも書いています。
 
12年8月13日には栃木県日光市の温泉旅館(約8万4千円)、知事就任後の14年8月18日にも東京都港区のホテル(約9万3千円)に宿泊
費の支払いがありました。

収支報告書には、宿泊のほかに、東京・渋谷にある有名シェフのフランス料理店(約11万7千円)や銀座のフランス料理店(約17万6千円)など
での飲食代も計上されている。これらの支出の名目は、「意見交換の経費」でした。(注5)


このほか、常軌を逸した高額のホテル代や食事の事例、絵画、骨董品などの美術品、などなど、きりがないほど数多くありますが、それらをいち
いち書くことがバカバカしくなるので、ここでやめます。(注6)

5月20日の記者会見で舛添氏は、「第三者の厳しい目で」「第三者の厳正な目で」を二時間繰り返すばかりで、疑惑には一切答えませんでした。

そして、25日には、この問題に精通した検事を辞めた、通称「ヤメ検」弁護士2人に調査を依頼した、と発表しました。

わざわざ「検事」を強調したのは、取り調べが専門の彼らだから「厳正」に調査するからだ、と説明しています。まさに彼の浅知恵、面目躍如です。

舛添氏個人のポケットマネーで弁護士費用を払うことになりますが、弁護士からすれば依頼主の舛添氏は「お客様」なわけですから、どの程度
「厳正」「公正」な調査ができるかは疑問です。

「ヤメ検」と言えば、前経済再生担当相兼TPP担当相の甘利明議員の疑惑の時も「ヤメ検」に調査を依頼したとされていますが、元検事だから舛
添氏に不利なことも厳正に調査・報告するとは限りません。(ちなみに甘利氏の場合、まだ結果は公表されていません)

恐らく、そうして時間稼ぎをして、世間のほとぼりが冷めるのを待つのが本音でしょう。また、都議会で多数派を占める自民・公明は知事選で自分
を推薦したのだから、そう簡単に自分を引きずり下ろすことはないだろう、との思惑も感じられます。

舛添氏は、自著『舛添要一 39の苦言』(2010)の中で歴代の首相を、こき下ろしています。

小泉首相は「劇場型政治をつくった立役者というか戦犯」、福田首相は「場の空気を暗くする 地味すぎる投げ出し屋」、麻生首相は「漢字が読め
ない」安倍首相は「腹痛で早退した覚悟も未成熟」と切り捨てています。(25日テレビ朝日 「グッドモーニング」)

そして彼は、「総理に必要な要素を全て備えているのは自分。自分が総理にならなければ何も変わらない」と自分の能力を過信し自画自賛してい
ます。

それでは、都知事になって舛添氏は何を実績として成し遂げたのでしょうか。

口を開けば「24時間365日、都民のために働いている」「(海外出張先きで1日にふたつくらい英語、フランス語で話す。そういうことを1回くらいし
かやらない人と10倍差がつく)と暗に石原氏を批判しています。ここでは自分の語学力を吹聴し、いかに熱心に働いているかを誇示しています。

舛添氏は、母の介護を「自らの政治の原点」といい、福祉人材の確保や待機児童ゼロを掲げて知事に当選しました。

しかし、2年経った現在まで、福祉人材の確保も待機児童ゼロも、何の成果もあげていません。美術館は30数回「視察」していますが、保育園や
福祉施設には1度も行っていません。

彼が、福岡に住む母の介護をしていた、と言ってきましたが、議員をしながら、どの程度の頻度で行っていたか、問題です。実態は福岡に住む姉
が日常的に介護していたようです。

メディアを呼んで、ゴミ出しの様子をテレビカメラに撮らせたり、とにかく彼はパフォ-マンスを多用します。それにコロッと都民はだまされてしまった
というわけです。どこか安倍首相と似ている気がします。

舛添氏は当初、保育サービスの利用児童数を毎年1万2千人ずつ増やし、2017年度末に4万人の受け皿を作って待機児童を解消する、公言して
いましたが、認証保育所を導入した石原都政時代と状況は変わっていません。

反面、国際金融センターとか水素社会構想とか、自治体レベルでは対処できない政策ばかりを打ち出しています(『日刊ゲンダイ』2016年5月18日)。


ハッタリとパフォーマンスでここまでのし上がってきた舛添氏は、どうやら、「策士 策に溺れる」の観があります。

6月1日の都議会における所信表明においても、25分のうち、疑惑に対する言及は、わずか2分45秒ほどで、それもこれからはスイートルームやファ
ーストクラスを使わない、など、当たり前のことを言っただけで、後は、疑惑に関する説明責任は全くしませんでした。

舛添都知事を支えている自民・公明会派は、所信表明を聞いてから、知事への対応を決める、と言ってきましたが、今回の所信表明を聞いて、どの
ように対応するのでしょうか?

所信表明の後の舛添氏は、「第三者」の厳正な調査の結果、「違法性」は見つからなかった、との結果がでることに自信をもっているかのようです。

さらに、選挙のタイミングを考え、自分ほど知名度のある候補はいないので、自公は恐らく自分を切るようなことをしないだろう、との読みから、事態
の推移に高をくくっている様子です。

今やボールは自民・公明に投げられました。果たして、厳しい調査権限をもつ「百条委員会」を設置するのかどうか、両党の良識が問われています。

(注1)『朝日新聞』(デジタル版)、2016年5月12日)
    http://digital.asahi.com/articles/ASJ5D7D2XJ5DUTIL04H.html?rm=279
(注2)『毎日新聞』デジタル版 2016年5月14日。http://mainichi.jp/articles/20160514/k00/00m/040/079000c
(注3)『朝日新聞』(デジタル版)、2016年5月24日。http://digital.asahi.com/articles/ASJ5R5G6LJ5RUTIL05R.html?r m=634
(注4)『毎日新聞』(デジタル版)2016年5月13日。 http://mainichi.jp/articles/20160514/k00/00m/040/079000c
(注5)『デジタル朝日』2016年5月24日。http://digital.asahi.com/articles/ASJ5R5G6LJ5RUTIL05R.html?rm=634
(注6)関心のある方は、『毎日新聞』(デジタル版)5月17日を参照されたい。
    http://mainichi.jp/articles/20160514/k00/00m/040/102000c?fm=mnm



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