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日本経済の本当の実力(3)―日本はもはや先進国ではない?―

2019-11-27 10:32:26 | 経済
日本経済の本当の実力(3)―日本はもはや先進国ではない?―

日本経済の本当の実力に関して、前回と前々回の記事で、世界で挑戦を続けているソフトバンク社長
の孫正義氏とユニクロ社長の柳井正氏の見解を紹介し、検証しました。

孫氏も柳井氏も共に、日本はもはや「先進国ではない」「中進国」から、本当の先端技術(特に人工
知能や通信)においては途上国に落ちてしまっている、と語っています。

孫氏の発言も柳井氏の発言も、経営者としての「実感」ですが、それでは、一般の日本人はどのよう
に感じているのでしょうか?

もし、日本人100人に、「日本は先進国だと思いますか?」と聞けば、おそらく100人、あるい
はそれに近い人は、「先進国だと思う」、と答えるでしょう。

それでは、「日本はこれからも先進国であり続けると思いますか?」と聞くと、かなりの人は、一瞬、
答えに詰まってしまうのではないでしょうか。

ここで、一般的な意味での「先進国」とは、経済的に発展した国で、高度の工業化を達成し、高い技
術力と生活水準を維持している国、を指します。

さらに、その中でも経済が突出して発展している国としては、いるいわゆる「先進七ヵ国=G7」を
指し、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、イタリア、ドイツ(2000年の東西ドイツの統一後)、
そして日本が含まれます。

注意しなければならないのは、G7と称されるようになったのは1976年のことで、当時日本は経
済成長の真っただ中にあった、ということです。

もっとも、「先進国」であるかどうかは、何をもって判断するかによって異なるでしょう。

国の人口規模などがそれほど大きくなく、経済の規模ではあまり大きくはないが、高度な技術をもち、
豊かな生活水準を維持している、たとえば、オランダ、ベルギーのような国はたくさんあります。

これまで日本が間違いなく「先進国」であることに、多くの日本人は何の疑問を感じませんでしたが、
私の印象では、ここ10年くらいの間に、少しずつ認識が変わってきたように思います。

私は、1991年のバブル崩壊、2008年のリーマンショックという段階を経て、2010年に、
日本がGDP(国民粗総生産)で、世界第二位から、中国に抜かれて第三位に転落したころには、日
本経済の凋落がはっきりしました。いわゆる「失われた20年」です。

ますます勢いに乗る中国に対する脅威と、電気・通信の分野で日本と対抗する実力をつけてきた韓国
への警戒心が、「嫌中・嫌韓」という感情となって密かにまん延し、実際、出版物でもそのような本
がたくさん世の中に登場しました、

その一方、その不安や挫折感や敗北感を振り払おうとするかのように、テレビなどではさかんに「ニ
ッポン すごい!」的な番組が増えています。これら二つの現象は、コインの裏表です。

それでは、実際のところどうなのでしょうか?もう少し客観的な数字や分析から見てみましょう。

経済評論家の加谷珪一氏は「テレビ朝日」の「「羽鳥慎一のモーニングショー」(2019年10月31
日)の中で次のように述べています。
    確かに日本は戦後、非常に頑張って豊かになりかかったんですけれども、すでに他国との比
    較という観点からすると、かなり貧しい国になりつつあるという状況でして、今現在日本が
    世界に冠たる先進国かと言ってしまうと無理があるんじゃないかというのが私の考えです。

その根拠は、いろんな面での数字が先進国ではないという数字に落ち込んでいるからだという。

たとえば、豊かさを表わす重要な指標である労働生産性(労働者一人が生み出す労働の成果)はG7
で最下位。日本は昔から最下位のままで、一度もトップに立ったことはありません。

しかも、G7の中で最下位であるだけでなく、1970年ころからずっとOECD36カ国中20位
くらいだったのです。

ただ、私たちの頭の中には、日本はGDP世界第三位、という考えが定着していますが、これにはち
ょっと注意が必要です。

GDPとは、1年間に生産された財とサービスの付加価値の合計で、国全体の経済規模を表わします
が、これと国民一人当たりが豊かさとは分けて考える必要があります。

国民の豊かさは、一人当たりGDPで、これはOECD加盟国の中で、2000年には2位に上りま
した。しかしこれは為替レートの計算方法によるもので、プラザ合意(1985年)で人為的に3倍
くらいの円高にさせられたため、ドル換算で一気に2位に上がっただけです。

本当の実力は購買力平価という、実質的に所得でどれほどの物やサービスが買えるか、と言う面から
見ると、OECD中18位にとどまっています。

日本は戦後ゼロから始まり、頑張って成長を遂げましたが80年代のバブル期がピークで、それ以後
はずっと落ち込んできているのが実態です。

日本は物作り立国で、製品を輸出して豊かになってきた、という認識がありますが、加谷氏は、これ
もやはり過大評価だという。

現時点で世界全部の輸出に対する日本のシェアは3.8パーセントしかないのです。これにたいして
1位の中国は10%以上、2位アメリカも10%を超え、3位のドイツで8%です。ドイツは日本よ
り人口は少ないのに輸出は2倍以上あります。

また、雇用や貿易などの主要経済指標を基に計算した世界競争力ランキングでみると、「先進国」と
いうからには、一ケタ内に入っていなければならなりません。

日本は1989~92年までは世界第一でしたが、その後下落を続け、今年は調査対象63の国と地
域の中で、昨年の25位から30位と下落してしまっています。

加谷氏は、日本は1980年代に先進国になりかかったのに、成熟した経済に成長できず、現在は昔
(1950~60年ころ)の貧しい国に逆戻りしているというのが正しい認識だ、と言います。

最近の賃金水準をみると、上位35カ国中19位、教育に対す公的支出のGDP比率、これは43カ
国中40位という悲惨な状況にあり、年金の所得代替率(現役時の所得のどれほどが支払われるか)
は50カ国中41です。

加谷氏は、資源のない日本が先進国になるためには、長期的視野に立って、教育に力を入れるしかな
いんじゃないか、と提言しています。

しかし、教育の重要性にもかかわらず、日本は教育への投資があまりにも貧弱な状況にあります。

加谷氏は、人口1人当たりの論文数は、世界で38位(2016年)です。これは、国全体が貧しく
なってきているので、教育投資をケチっているからだ、と言ったうえで、しかし、教育の部分は削っ
てはいけない、最優先課題として教育にお金を投資すべきだと強調します。
います。

日本における教育政策の問題については、同じく「テレビ朝日」の「羽鳥慎一のモーニングショー」
(2019年11月14日)に、ダボス会議、世界経済フォーラム元メンバーでかつて内閣官房参与を務
めた田坂応志氏(現・多摩大学大学院名誉教授)は、教育行政の問題点を3つ挙げています。

第一点は、教育の負担は国家か家庭か、という問題です。

田坂氏は、国は教育にもっと大きな投資をすべき、だと主張します。OECD各国の授業料負担の比
較(2016年)でみると、ノルウェー、スエーデン、フィンランドなど北欧諸国は100%が公費
負担。アイスランド95%、以下順次下がって、日本は31%に留まっています。

すでに引用したように、日本の教育の対する投資(GDP比)は43カ国中40位という、まさに中
進国から途上国並みの低さとなっています。圧倒的に公費負担が少ないのです。

第二点は、競争か自己目標の達成かという問題です。日本は、競争させれば学力は上がる、と考えて
きたが、OECDの長期の調査では、生徒・学生全体の学力は競争によっては上がらない、というこ
とが実証されています。

競争は一部のエリートはいいが、他の人は負け組として意欲をなくす。むしろ、その人の能力や適性
に合わせた自己目標を達成することが、社会全体の水準をあげることになる。

第三点は、若年学習は生涯学習か、という問題。最初のキャリアー(就職)から5年後には陳腐化す
るので、新しい知識と技能が必要。そのためには、適切な時期に、公費で最教育を受ける必要がある。
それが生涯学習で、それを本気でやらないと日本の経済・産業は危ない。

2012年度の、大学入学者の内25才以上の割合(つまり生涯学習者の割合)をみると、アイスラ
ンドが1位で32.4%、ニュージーランド・オーストラリアが25%、アメリカ・オーストリアが
25.4%、OECD加盟国全体は18.1%なのに、日本は何と、1.9%にすぎません。ちなみ
に韓国は18%、日本の約10倍です。

もう、結論ははっきりしています。日本が豊かになり(必ずしも物質的だけではない)、一人ひとり
の国民が充実した生活を営むためには、とりあえず、最低限かつ最優先で以下の2点を改善する必要
があります。

1 資源の乏しい日本が豊かになるには、時間はかかるけれど、国家の教育投資を、せめて中進国並
に増やすこと。一方で、1兆円以上もの戦闘爆撃機と8000億円以上もかかる言われるイージスア
ショアを、アメリカのご機嫌をとるために爆買いすることを止め、教育に振り向けること。文科大臣
が、教育を受ける機会は「身の丈に合った」などと言っているのは論外で、このレベルの人物が文科
大臣を務めることは国民として非常に不幸です。

2 企業の内部留保金は、日本の国家予算(一般会計)の5年分に相当する500兆円を超えていま
す。これは逆に労働者の賃金が低く抑えられていることを意味します。加えて消費税ははじめ国民の
負担は上昇しています。こうして、個人はますますじり貧になり、国内消費は伸びてゆきません。つ
まり企業は自分で自分の首をしめているのです。政府はこのような内部留保を優遇する施策を変え、
労働者への分配率を高めるよう法改正すべきです。国と企業は太り、個人はやせ細っています。

菅原文太さんは「政治の役割は2つ。国民を飢えさせないこと、絶対に戦争をしないこと」という素
晴らしメッセージを残してくれました。政治を預かる人たちの心に深く刻んでほしいと思います。

私はこれに、「政治の役割は国民の生命・財産をまもること」を付け加えたいと思います。

最近の台風や大雨で深刻な被害を受けた地域、たとえば台風19号による堤防の決壊のうち、少なく
とも5県の九河川10カ所は、水害のリスクが高いとして強化対策工事の対象になっていたが、予算
不足で実行されてこなかった事例です。政府は地方への投資を怠ってきたのです。

このため多くの人命、家屋・田畑などが失われています。本当に「国を守る」とは、戦闘機を増やす
ことではなく、何を置いても国民の生命と財産を守ることではないでしょうか。

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日本経済の本当の実力(2)―柳井正氏(ユニクロ)の怒り―

2019-11-17 17:25:05 | 経済
日本経済の本当の実力(2)―柳井正氏(ユニクロ)の怒り―

前回の孫正義氏とのインタビューに続き、今回は柳井正ファーストリテイリング会長兼社長との
インタビューを手掛かりに、孫氏と同様、世界で勝負している柳井氏が、現在と将来の日本につ
いてどのように考えているかをみてみましょう(注1)。

柳井氏は、政治的な発言を控える経営者が増える中で、敢えて直言をやめません。それどころか、
怒りともいえる危機感を示し、企業経営から政治まで大改革の必要性を説きます。

開口一番、「最悪ですから、日本は」。

柳井氏によれば、この30年間、世界は急速に成長しているのに、日本は世界の最先端の国から、
もう中位の国に、ひょっとしたら、発展途上国になるんじゃないか、さえ思われるほどだという。
その根拠を、以下の言葉で表現しています。

国民の所得は伸びず、企業もまだ製造業が優先でしょう。IoTとかAI(人工知能)、ロボティクス
が重要だと言っていても、本格的に取り組む企業はほとんどありません。あるとしても、僕らみ
たいな老人が引っ張るような会社ばかりでしょう。僕らはまだ創業者ですけど、サラリーマンが
たらい回しで経営者を務める会社が多い。こんな状況で成長するわけがない
 
柳井氏の目には、この30年間に1つも成長せずに、30年間、負け続けているのに日本の企業はその
ことに気付いていない。

柳井氏はインタビューの冒頭から、怒りをみなぎらせた表情で日本の現状を語ったようです。

怒りの矛先は、日本社会一般にも向けられます。

    民度がすごく劣化した。それにもかかわらず、本屋では「日本が最高だ」という本ばか
    りで、僕はいつも気分が悪くなる。「日本は最高だった」なら分かるけど、どこが今、
    最高なのでしょうか。

ここで「民度」とは国民の知的・文化的レベル、さらには物事を正しく認識する能力というほど
の意味でしょう。そのレベルが「すごく劣化している」という。

柳井氏は、そんな「ゆでガエル」になってしまった日本に「あきれ果てているけれど、絶望はで
きない。この国がつぶれたら、企業も個人も将来はないのですから。だからこそ大改革する以外
に道はない」、と主張します。

その大改革の第一歩は、「まずは国の歳出を半分にして、公務員などの人員数も半分にする。そ
れを2年間で実行するぐらいの荒療治をする」ことです。

そうしないと今の延長線上では、「日本は政治家と生活保護の人だけ」になってしまう。しかし、
滅びると思っている人が、政治家にも国民にもほとんどいないことに柳井氏はこの点に強い危機
感を抱いています。

次に、柳井氏の改革は政治・行政システムに向かいます。たとえば参議院も衆議院も機能してい
ないので、一院制にした方がいい。国会議員もあんなに必要ない。町会議員とか村会議員も同様。
これら全部改革しないと、「とんでもない国」になってしまう、と言う。

その「とんでもない国」になってしまっている一つの要因として柳井氏は、経営者が政治や政権
に厳しい意見を言わなくなっていることを挙げます。

柳井氏は自民党のファンを自称していますが、「今の自民党議員は本当に情けない。誰も安倍晋
三首相に文句を言う人がいませんよね。安倍さんを本当に大総裁にしようと思ったら、文句を言
う人がいないとだめでしょう。みんなが賛成というのはだめな現象ですよ」、と現在の自民党の
体質をも批判します。

柳井氏は安倍政権にも厳しい批判を向けます。

    みんなが安倍政権の経済政策「アベノミクス」は成功したと思っていますが、成功した
    というのは株価だけでしょう。株価というのは、国の金を費やせばどうにでもなるんで
    すよ。それ以外に成功したものがどこにあるんでしょうか。数字が示しているでしょう。
    成長していない。GDP(国内総生産)は増えてないんです。

実際、現在の株価は、政府・日銀による株の購入によって釣り上げられており、必ずしも実態経
済を反映したものではありません。

柳井氏のインタビュー発言で私が驚いたのは、安倍政権の、ある意味でもっとも深刻な問題、日
米地位協定にたいする弱腰の姿勢です。

安倍政権は、憲法改正を政権の重要課題と位置づけ、何としても国会の発議を国民投票に持ち込
もうとしています。これに対して柳井氏は怒っています。

    憲法改正よりも米国の属国にならないことの方が重要ではないかと思います。日米地位
    協定(注2)の改正の方が、将来よほど必要ではないでしょうか。完全に米軍の指揮下
    になっています。
    自立的に考えず、米国の陰で生きているのに、みんな自立的だと思っている。日米は対
    等の同盟国と言いますが対等ではありません。トランプ米大統領が勝手なことを言い、
    それに追従している。こんなのはあり得ません。

つまり、憲法改正よりも、日米地位協定を改正し、アメリカの属国状態から脱して自立(独立)
を達成することの方が先だ、ということです。

現行の日米地位協定では、たとえば、米国軍人がなんらかの犯罪を犯しても、第一の裁判権はア
メリカにあることで、当人が基地から飛行機で飛び立ってしまえば事実上、日本の裁判権が及ば
なくなります。

あるいは、首都圏を含む1都8県の空域が「横田空域」として設定され、その管制権は米軍に与
えられています。そのため、米軍以外の飛行機は羽田や成田の飛行場での発着に非常に不自由な
状態を強いられています。

アメリカに対しては従属的なのに韓国に対しては、「日本人は本来、冷静だったのが全部ヒステ
リー現象に変わっている。これではやっぱり日本人も劣化したと思います」、と最近の風潮を鋭
く批判しています。

ここで「劣化した」とは、先ほど引用した「民度が劣化した」とは少しニュアンスが違って、余
裕を失い、そのため冷静さを失ってヒステリックになっていることを指していると思われます。

柳井会長は日本経済の現状に強い不満をもっています。

柳井氏によれば、日本企業の真のグローバル化には世界の優秀な人材獲得が不可欠なのに、日本
企業には旧態依然とした慣習が残っていることに警鐘を鳴らしています。

柳井氏が例として挙げたのは、人材確保に関連して社員の一斉採用人材獲得です。

    あんなことやっているのは日本だけですよ。やはり世界中から人材を採っていかなけれ
    ばなりません。今は企業が世界中で人材獲得の競争をしている中で、日本だけ遅れてい
    いのでしょうか。もう日本人だけではどうしようもない。
    今の政策では、単純労働の人ばかり採用しようとしていますが、もっと先端技術を持つ
    頭脳労働の人を採らないといけません。
    技術についてはもう完璧に2周遅れ。でも自分たちは先行争いをしていると思っている
    でしょう。世界の現実を知りません。経営者自身が勉強してないことと、海外に行って
    ないからです。

優秀な人材を確保するためには、「人事や報酬の制度を抜本的に変えないといけない。日本企業
の報酬に比べると、中国や欧州の企業はだいたい2~3倍、米国企業だと10倍くらい高い水準です」。

つまり、今の日本企業の報酬レベルでは世界から人材を集めることはできない、少なくて中国や
欧州と同じ、2~3倍に上げる必要がある、ということです。

柳井氏の怒りは、日本政府の対米従属的姿勢、国会の非効率、企業の経営者が年功序列の人事や
報酬体系を維持するなどの旧態依然の体質、冷静さを失った国民に向けられています。

柳井氏は最後に、

    あと世界の人材と一緒に仕事をしようと思ったら、僕は「真善美」と言っていますが、
    人間の基本的価値観みたいなものを持つことです。いい人間のところにはいい人が来る。
    いい会社にはいい人が来るので、その中にやっぱり入っていかないといけないんじゃな
    いかなと思います。今はまだ鎖国みたいな感じなのに、また鎖国だとも思っていません。
と提言しています。

最後の部分はちょっと分かりにくいのですが、柳井氏の言いたいことは、日本は実際には鎖国状
態なのに、今はまで、多くの人が鎖国状態にあることに気が付いていない、というほどの意味だ
と思われます。

政府も企業も口癖のように「国際化」と言いますが、実態としては、日本は鎖国状態にあること
に、柳井氏は危機感を持っているようです。

次回は、日本は、孫氏や柳井氏がいうように、本当に先進国から脱落した、中位国から途上国に
なってしまったのか、という問題を考えてみたいと思います。


(注1)「このままでは日本は滅びる」柳井正
    『日経ビジネス』日経ビジネス (2019年10月9日)
    https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00357/?P=1

(注2)外務省のホームペ―ジによれば「日米地位協定(日本国とアメリカ合衆国との間の相互
協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関す
る協定)は,在日米軍による施設・区域の使用を認めた日米安全保障条約第6条を受けて,施設・
区域の使用の在り方や我が国における米軍の地位について定めた国会承認条約」となっています。


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日本経済の本当の実力(1)―孫 昌義氏(ソフトバンク)の憂い―

2019-11-10 07:10:00 | 経済
日本経済の本当の実力(1)―孫昌義氏(ソフトバンク)の憂い―

現在の日本経済は、本当に盤石なのか、まだまだ上昇期に乗っているのか、それとも、もはやピーク
を過ぎて下降期に入っているのか、私たちには簡単には判断できません。

日本経済は、かつて優位に立っていた産業分野、特に家電や電子機器の製造に代表される「物つくり」
は中国、韓国、東南アジアなどの新興工業国の追い上げを受けて、厳しい競争にさらされているよう
にも見えます。

さらに、少子化や高齢化により労働力不足が深刻化し、国家の財政赤字も1000兆円をはるかに超
えています。個人のレベルでは、実質賃金はここ20年ほど、下がり続けています。

本当のところ、日本経済は現在どのような状況にあり、将来どうなるのか、私には分かりません。

このような状況を、財界はどのように受け止めているのでしょうか?

日本の財界を代表する一人、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫 昌義氏(62)は、本年の7月
18~19日に行われた、このグループ最大規模の顧客向けイベント『SoftBank World 2019』での
基調講演で、衝撃的な現状認識を語っています(注1)。
    
    日本はいつの間にかAI後進国になってしまった。ほんのこの何年間かの間で、特に一番大
    切な、今、技術革命が起きているAIの分野で、完璧に後進国になってしまった。 

AIの分野だけとは言え、「後進国」という言葉は衝撃的です。

この孫氏の発言を受けてかどうかは分かりませんが、『日経ビジネス』が、日本再成長のための提言
を50人の著名人にインタビューし、それが同誌の特集「目覚めるニッポン」と題して、2019年10
月7日号に掲載されました。

今回のブログでは、まず孫氏のインタビュー記事を取り上げ、次回はファーストリテイリング(ユニ
クロ)会長兼社長の柳井正氏のインタビュー記事を取り上げます。

この二人は共に、名実ともに世界で戦っている代表的な経済人ですから、彼らの発言は生々しい現実
を反映していると思われます。

孫氏は、日本は「このままでは忘れられた国に」「先進国から中位国・途上国へ」転落してしまう、
との強い危機感をもっています(注2)。

雑誌のインタビュアーから、「孫さんはたくさんの海外の会社を見ています。日本の現状をどう見て
いますか」、と聞かれて、

    非常にまずい。一番の問題は、戦前戦後や幕末に比べて起業家精神が非常に薄れてしまって
    います。「小さくても美しい国であればいい」と言いだしたら、もう事業は終わり。縮小均
    衡というのは、縮小しかありません。日本の中だけで、鎖国された江戸時代のような状況で
    完結できるならまだいいんですけど。

孫氏によれば、世界は急激に動いており、米国は依然として技術革新は進んでおり、中国は巨大化し、
東南アジアも今急拡大してきているのに、日本の若いビジネスマンは国外に打って出るんだという意
識が非常に薄れてしまっています。

日本の若いビジネスマンが世界に打ってでるという意識が減退していることは、「留学生もひところ
に比べて急激に減っていますよね。日本のビジネスマンがもう草食系になってしまった」、という点
にも現れているという。

1980年代、90年代ぐらいまでは、日本は電子立国と言われ技術で世界を引っ張る力があったが、その
勢いは全くなくなってしまった。たとえば、半導体も日本は一時トップでしたが、もう今や完全にそ
のポジションを失ってしまった。

技術的な面で日本が世界のトップを取っている分野は今や、部品や自動車が一部残っているくらいだ
けで、今や、「技術の日本」「物つくり日本」という実態は国際社会では消えてなくなってしまった
と感じています。

このため日本は競争力を失い、特にこの30年間ほぼ成長ゼロで、非常にまずい状況だということにな
ります。

そして、「それでは世界から置いてけぼりになってしまう。いつの間にかもう完全に忘れ去られてし
まう島国になってしまうような気がします」と日本の将来を憂いています。

孫氏は、日本人企業にハングリー精神が失われてしまったことを憂いているのですが、れでは、その
理由を問われて次のように答えています。

    一時日本のビジネスマンは「働き過ぎ」と世界から非難されるくらい頑張っていたが、今は
    働かないことが美徳のような雰囲気になっている。株式市場もバブル崩壊で「借金=悪」、
    「投資=悪」のようなイメージが広がってしまった。半導体は設備投資産業なのに、それが
    ぱたっと止まってしまいまった。つまり競争意欲を持つということ自体に疲れてしまい、こ
    うした精神構造が社会全体を覆っている。

「今は働かないことが美徳なっている」という点について、私は少し意見が違いますが、日本人が働
くことの意味を問い直し始めたことは事実でしょう。

孫氏は、2000年前後のネットバブルでは大儲けした若い経営者の「お金があれば何でも買える」とい
う発言が世間の総バッシングを浴びたため、そのまま進めば成長産業に若者が入りそうだったのに、
みんなが萎縮してしまったことが、成長を止めてしまった要因だという。

つまり、「成長産業に若者がゆかなくなったら、産業構造事態が成長に向かわなくなってしまう」と
いうことです。

これには日本という村社会のやっかみみたいなものが長く続いているという。米国では若い人たちが
成功すると、「アメリカンドリーム」とたたえられますが、日本だと「成り金」と言われ、何かいか
がわしいものを見るような目で見ます。「若くして成功してけしからん」という風潮がある。

孫氏の言葉の中で私が注目したのは、米国や中国の企業の成長は市場規模の大きさを考えれば羨まし
いとは思っても、ある程度納得はできるが、そうではない東南アジアのように自国市場が小さい国か
らも熱く燃えて急成長している会社がたくさん出てきている、という指摘です。

孫氏は、日本は市場規模が小さいから、米国や中国のように世界で通用する企業が成長できない、な
どと言い訳をしている時ではない、と言っているのです。

では、孫氏は最終的にはどこを目指しているのでしょうか。

孫氏は今、自分の事業というより、ビジョン・ファンドを通じて志を共有する起業家たちを集め、
「群戦略」で大きく勢力を伸ばすための、「人工知能(AI)が成長の源泉」とビジョンを絞ってグ
ループを構築しつつあるそうです。

孫氏は、小売とメディアの世界ではインターネットによって産業が置き換わりつつあり、それが、
もっと大きな流れとしてAI(人口知能)が残りの産業全部をひっくり返してゆくという時代がは
じまる、という将来展望をもっています。

情報に関しては紙媒体からインターネットのグーグルやフェイスブックが既存の情報産業を淘汰し
ているし、小売でもアマゾン・ドット・コムが米ウォルマート(世界最大のスーパーマケット・チ
ェーン)の時価総額を抜いていることから、急激な産業構造の変化が生じていることは確かです。

孫氏は、パソコンの時代にトップ走っていた企業が、ネット時代にトップであり続けたわけではな
いし、同様に、ネットで活躍した会社(グーグルやアマゾン)が、AI時代に成功できるとは限ら
ない、と言っていますが、これはとても大切な指摘です。

ただし、孫氏が言う、AIを中心とした情報革命が、他の産業も含めて全部ひっくり返す、という
ことの意味が、実の所、私にはまだしっくりとは理解できません。

孫氏は、肉体労働より頭脳労働、頭脳労働でも単に物知りの人の賃金対価より、知恵を働かせ、人
よりも考えて深く洞察し、新しいものを作り出していく人の方が、単に物知りの人より、はるかに
大きな対価を得ることを語っています。

しかも、人間が普通に知恵をはたらかせるよりも、AIを使って洞察、予測した成果物はより大き
く力を発揮する時代がくる、と考えています。

「そういう時代に日本は、ラストチャンスとして打って出るべきです。これは日本に最後に残され
た一発逆転のチャンスでしょう。問題は、政府や教育者などのリーダーたちが、そのことを十分に
認識していないこと」、を憂いています。

孫氏は、これからの産業の中心は、肉体労働から、人間の知恵ではなくAIの知恵によって新しい
産業が成長する、と考えているようです。

そのためにも孫氏は、「新しい時代には新しい若いヒーローが続々と生まれる。私はそこに賭けた
い、と期待しています」と語っています。

確かに人工知能は、与えられた条件の下で最も合理的な道を見つけるだけでなく、人間が想像しな
かった、全く新しいアイディアを提示してくれるかもしれません。

しかし、AIは導き出した新しいアイディアがその社会にとって望ましいことなのかどうかの価値
判断をするわけでありません。私は、AIに過大な期待をし、依存しすぎることに、一抹の不安を
覚えます。

さらに、AIには、隠れた問題もあります。たとえば、AIを使って集めた膨大なデータを、企業
が収集し、それらを整理集計して個人の趣味、行動パターンや政治心情などのプライバシーを侵害
する危険性があります(注3)。

最近の事例では、就職希望者が内定を断る確率をネット上のアクセス事項などから割り出した情報
を企業が販売する出来事が問題となっています。

最後に、孫氏がなぜ、自らの考えを政府に提言しないのか、という質問に、

    かつて政府の諮問委員などに名を連ねたことがありますが、最終決定する政治家に強い意
    識がないと難しいと思いますね。・・・・・・。
    そうすると僕らは海外の方に出稼ぎに行ってしまう。米国や中国、東南アジア、インドの
    起業家たちと建設的な話をしている方が早く成果が出ます。

この発言は、恐らく現実なのでしょう。しかし、そうであれば、日本経済の空洞化はますます進ん
でしまうのではないか、という不安が私の心をよぎります。



(注1)この時の映像は、9月末まではインターネットで見ることができましたが、現在は見るこ
    とはできません。私は、『テレビ朝日』「羽鳥慎一モーニングショー」(2019年10月31日)
    の番組内で見ました。
(注2)『日経ビジネス』(2019年10月8日 2:00)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50592160U9A001C1000000/?n_cid=NMAIL007
(注3)『朝日新聞』(デジタル版 2019年11月7日 18:00)
 https://www.asahi.com/articles/ASMB035WVMB0UPQJ006.html?ref=weekly_mail&spMailingID=2879615&spUserID=MTAxNDQ2NjE2NTc4S0&spJobID=1120065758&spReportId=MTEyMDA2NTc1OAS2


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混乱の東京五輪―全ては出発点のウソと無理にあった―

2019-11-01 20:53:11 | 思想・文化
混乱の東京オリンピック―全ては出発点のウソと無理にあった―

東京オリンピック・パラリンピック(以下「オリ・パラ」と略す)が2010年7月24日(開会式)
から8月9日(閉会式)までの17日間にわたって行われます。

この時期に関連して、大会の花形で最終日のメインイベントの男子マラソンと競歩の開催場所を巡
って、東京か札幌かで、IOC(国際オリンピック委員会)と東京都が激しく対立してきましたが、
11月1日、東京都とIOC、東京オリ・パラ大会組織委員会、政府によるトップ級協議が行われ、
小池東京都知事は、札幌への変更に伴う追加的費用を東京都は一切出さないことを条件に、この変
更を受け入れました。

最初に私の個人的な見解を示しておくと、東京での夏季オリンピックへの立候補の段階から、どち
らかといえば反対でした。

思えば1964年の東京オリンピックは10月10~24日に開催されましたが、当初は夏季の開催も
検討されたようです。しかし、酷暑の夏に行うことは不可能であるとの結論に達したため、涼しい
秋に行われた、という経緯があります。

以上の全般的な問題以外にも、今回の開催に関しては立候補の段階から問題と、うさんくささだら
けだったのです。

まず第一は、2020の東京開催に際して、東京都も招致委員会も、都民に対して東京開催を支持する
か否かのアンケートをしていなかったことです。

東京都は2005年に2016年の夏季オリ・パラの開催地として立候補しましたが、結果はリオ・デジャ
ネイロに敗れました。

その理由の一つは、当時のアンケートの結果、都民の支持率が低かったことでした。つまり、多く
の都民は、お金のかかるオリンピックに賛成しなかったのです(注1)。

これに懲りたのか、2020年のオリ・パラ招致に関して、招致委員会は、事前のアンケート調査を行
わなかったのです。経済的負担への拒否反応だけでなく、酷暑の時期に開催することを都民が知っ
たら、反対の方が多くなってしまうことを恐れたからでしょう。

第二は、福島の原発事故に関連して放射能の安全性に関する、安倍首相の明らかなウソです。2013
年のIOC総会での立候補のプレゼンテーション(9月7日)の際、安倍首相は、放射能に対する
懸念を想定して次のようなスピーチを行いました(注2)

   私が安全を保証します。状況はコントロールされています(The situation is under
control
   汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている。

このスピーチにたいして早くも翌日には、上智大学教授の水島宏明教授は、「安倍首相が五輪招致
でついた「ウソ」 “汚染水は港湾内で完全にブロック” なんてありえない」と題して、次のよ
うに書いています。

    英語では「アンダーコントロール」と言った。え? 立ち並ぶタンクのあちこちから汚染
    水が漏れてくる。地下水は山側から容赦なく流れ込み、それが汚染されて港湾に流れ出る
    事態も続く。汚染水はいま、「アウト・オブ・コントロール(制御不能)」じゃないです
    か。(注3)

実は、私自身も本ブログ(2013年9月13日)で、安倍首相のウソを指摘しています。

2013年9月13日に福島県郡山市で開かれた民主党の福島第一原子力発電所対策本部の会合に出席
した、東京電力の山下和彦フェローは、安倍氏の発言を真っ向から否定する発言をしました。その
時の主なやりとりを以下に再掲します。

増子輝彦副代表
    安倍晋三首相が「ちゃんとコントロールされていて全く問題ない」と説明したその通りな
    のか。東京電力、経済産業省、原子力規制庁は答えて欲しい。
山下和彦東電フェロー
    コントロールする手当てはしている。ただ、想定を上回ることが起きていることは事実で
    あり申し訳ない。
増子氏
    だから今の状態でコントロールされていないとはっきり言ってちょうだい。
山下氏 
    申し訳ありません。今の状態はコントロールできていないとわれわれは考えます(『毎日
    新聞』2013年9月9日)。

第三の問題は、もう一つの「ウソ」が、今日大問題となった、マラソンと競歩の開催場所に関係し
ています。

すなわち、特定非営利活動法人東京2020オリ・パラ招致委員会及び東京都が提出した東京五輪立候
補ファイルの13ページにはこう書いてあります。

    この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリート が最高の状態でパ
    フォーマンスを発揮できる理想的な気候である(注3)。

これを信じる日本人はどれほどいるでしょうか? マラソンが行われれる予定の8月2日と9日と
いえば、日本では酷暑の時期です。

今年は、外に出ると危険だからなるべく外に出ないように、という警告が出ていたほどでした。実
際、今年の7月29日から8月4日までの1週間に熱中症で救急搬送された人は1万8347人に
も達し、57人が死亡しています。

どうして、「温暖」で「理想的な気候」などというウソが、公式の立候補ファイルで罪悪感もなく
書きこまれたのでしょうか?

当時招致に関わった人、小池東京都知事も含めて今も推進している人にこの点についてしっかりと
説明して欲しいと思いますが、みんなこの点については口をつぐんでいます。

もし、東京での開催を強行して、誰か一人でも倒れたり、死亡したりしたらIOC、JOC(日本
オリンピック委員会)、東京都は責任をとれるでしょうか?

IOCは、9月28日、ドーハで行われた陸上の世界選手権の女子マラソンで、深夜の出発だった
にもかかわらず、途中棄権した選手が4割超にも達したことに衝撃を受けたようです。

IOCは直ちに委員会を開きマラソンは東京ではなく札幌に移すことを決定し、10月16日にな
って、東京都に通告してきました。

IOCは、すでにこれは決定事項である、と妥協の余地がない通告でした。小池都知事は、何の事
前の相談もなく、しかも準備が進んでいる今になって一方的に場所の変更を通告してきたことに反
発していますが、それには一理あります。

ただ、それを差し引いても、もし、選手の健康と命を考えるなら、それでも東京にこだわる合理的
な理由は何でしょうか?

東京都は暑さ対策として、蓄熱を防ぐために赤外線を反射する遮熱剤を道路に塗布する「遮熱性舗
装」を進めていることを挙げています。これによって温度上昇を10度ほど防ぐことができると喧伝
されています。

しかし、東京農業大学の樫村修生教授によれば、遮熱性舗装によって路面の温度は確かに
下がるが、反射した熱の影響により、人が立つ高さでは逆に1.5度から3度以上高くなる調査結果
が出たといいます(注4)。

つまり、東京は何が何でも東京都でマラソンを行うために、都合の良い数字だけを示した、と言わ
れても仕方ありません。

IOCが札幌への変更を決めた根拠は、2010までの過去30年における8月初めの平均気温が、
札幌の方が東京より5~6度低いというデータです。温暖化が進んでいる2020年にはさらに温
度差は拡大していると考えられます。

小池都知事がIOCの決定に強行に反対しているのは、一方的な通告に対する反発と、来年の都知
事選を念頭に、ここは都民に、「理不尽なIOCに敢然と立ち向かった」という印象を与えるため
のパフォーマンスという側面もあったのではないでしょうか。というのも、競技の場所を決める権
限はIOCにあることを小池知事は知っているからです。

会場に関しては、水泳にも問題があります。8月11日にお台場海浜公園で水泳(オープン・ウォー
ター・スイミング)のテスト大会が行われましたが、そこで複数の選手から「トイレのような臭い
がする」との指摘が出たという。また、大腸菌は基準値の2倍もありました。コース周辺の水域を
水中スクリーンで囲っていたが、汚れた水の問題は解決できていませんでした。トライアスロンも
同じ海のエリアを使うので同じ問題があります。

この問題は、汚水が入らないようにフェンスを設ける、ということで一応収まったかに見えますが、
依然として汚染水の流入が完全に防ぐことができる保証はありません。

マラソンと競歩が札幌に移ったとはいえ、暑さに弱い馬を使う馬術や、埼玉県の川越の霞が関カン
ツリークラブで行われるゴルフも、猛暑に見舞われる可能性があります。このクラブのメンバーに
よれば「7月後半から8月中旬の暑さは地獄です」とのことです。

今回の東京オリンピックに関しては以上の他にも、幾つもの不祥事や問題がありました。

たとえば、IOC前会長の竹田恒和氏が開催地の決定に投票権をもつ国に対して2億円の裏金(賄
賂)を使ったという疑惑で、今年初め、フランス検察当局が正式に捜査を始めることを発表しまし
た(『東京新聞』2016年5月17日)(注5)。

これにより、IOCからの突き上げもあって、竹田氏は辞任に追い込まれました。

また、東京オリ・パラのエンブレムに関しても、盗作疑惑でやり直しをしたり、新国立競技場の公
募で一度は採用された「ザハ案」が白紙撤回されるという問題もありました。

こうして見てくると、今回の東京オリ・パラは、出発の時点からウソや、都合の悪いことの隠蔽、
さまざまな不祥事や疑惑に満ちていました。暑さの問題は、今になって重大な結果を招いてしま
いました。

最後で、もっとも重要な問題は、そもそもこの東京オリンピックの大義は何でしょうか?

日本が立候補した時の大義は震災からの「復興五輪」と「コンパクト五輪」でした。

しかし、「復興」はほとんど実現していません。また、「コンパクト」(平たく言えば開催場所
が近接していて安上がり)についても、東京なら都内で競技場が確保できるから総経費7000
億円で実施可能と主張していましたが、実際には表に出ている金額だけで1兆3500億円プラ
ス予備費の1000億円に膨らんでいます。実際には3兆円かかるともいわれています。

競技場所も東京、北海道のほか6県(神奈川、埼玉、千葉、茨城、福島、宮城)、計8都道府県
に散らばっており、この点でもとうていコンパクトではありません。

競技場の建設工事を受注した建設会社や予想される海外からの観光客相手のビジネスには経済効
果があるでしょうが、総じて、今回の東京オリ・パラは、無理に無理を重ねて大義なき大会とな
ってしまったようです。


(注1)『日経新聞』2013/9/8付
    https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG07047_Y3A900C1000000/ 

(注2)Yahoo ニュース (2913年9月18日)
    https://news.yahoo.co.jp/byline/mizushimahiroaki/20130908-00027937/
    (2019年10月30日アクセス) また、同様の意見は、Web Ronza
    (『論座』)2013年9月18日
    https://webronza.asahi.com/science/themes/2913091700003.html
(注3)LITERA(2019.08.14 12:44)
    https://lite-ra.com/2019/08/post-4900_4.html
(注4)日刊ゲンダイ(DIJITAL、2019年8月11日)同10月30日アクセス。
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/260149
(注5)BBC NEWS JAPAN (2019年01月11日)
https://www.bbc.com/japanese/46840041

追伸 招致委員会の会長で当時の東京都知事だった猪瀬直樹氏の弁明
8月のマラソン開催地が東京から札幌に変更されたことに関して、そもそも8月2日と9日に
マラソンを東京で行うことに問題があったのでは、という声に対して猪瀬は朝日新聞のインタ
ビューで次のように弁明しています(注)。

まず、東京五輪は、7月24日~8月9日に開催される。この日程を招致委は「理想的な気候」
としていたこと、そしてマラソンの開催場所に関して。

    7月中旬までは雨期、9月からは台風シーズン。夏が最適というのは間違いない。高校
    野球の甲子園もこの時期にやっている。学校の夏休み期間でもあり、会社勤めの人も順
    番に休暇を取る季節で、交通機関のことも考えると最も適している。

    マラソンは皇居周辺を走る。中心に緑の余白がある東洋的な世界を世界に印象づけられ
    るチャンスだった。札幌はきれいな街だけど、大通り公園は意外に短くて1・5キロし
    かない。

時期に関して7月は雨期、9月からは台風シーズン、だから夏が最適としている。しかし実情は、
IOC収入の最大のスポンサーであるアメリカのテレビ三大ネットワークが国内スポーツの放映
という事情を忖度して、日本にとっては「理想的ではない」この時期に押し込められたというも
のです。しかし、1964年の東京オリンピックは10月10~24日で実施されたし、2012年
のシドニー大回は9月4日から10月1日でした。

高校野球が時期に行われる、というのは、たまたま高校生が夏休みに当っているからで、気候的
に理想的だからではありません。したがって、猪瀬氏の弁明は説得力がありません。

マラソンコースとして札幌の大通公園は短いから不適だという弁明も説得力をもちません。なぜ
なら、マラソンは大通り公園だけを走るわけでなないからです。

いずれにしても、猪瀬氏の弁明には、走る選手の健康、沿道で応援・見学する人の健康について
の配慮が見えません。

(注)『朝日新聞』デジタル (2019年11月4日)
   https://www.asahi.com/articles/ASMC34Q3DMC3UTIL002.html?ref=mor_mail_topix1

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