ウクライナ戦争の行方(1)>―表のトランプと陰プーチン―
つい2ヶ月ほど前まで、多くの人は、ウクライナ戦争は今後どんな方向に向かってゆく
のか、また、いつ頃に終結に向かい、それはどんな形になるのか、などについて具体的
なイメージを描くことはできませんでした。
なによりも現在戦争は続いており、その帰趨がどうなるかを誰も予測できないからです。
というのも、この問題の背景にはあまりにも多くの不確定要因が関連しているからです。
たとえば、ロシアは経済基盤、兵員、兵器の面でどれほど継戦能力があるのか、また、
ウクライナは今後どれほど経済的・軍事的支援を受けられるのか、兵員は確保できるの
か、といった問題があります。
とりわけ、これまでのウクライナの戦闘能力を支えてきた大きな柱の一つ、アメリカの
支援が、ウクライナ寄りのバイデン政権からトランプ政権に代わってどうなるのかが大
きな課題でした。
そんな中でトランプ政権が発足して約1か月しか経っていないのに、事態は急速に動き
始めました。
もっとも、トランプ大統領(以下、「トランプ」と略す)が次々と繰り出すさまざまなメ
ッセージや外交があまりにも展開が早すぎて、今、何が起こっているのかを追いかけるだ
けで精一杯という状況です。
そこで、今回は、最近起こっている事態を、まず時系列で整理し、これからのウクライナ
戦争の行方、とりわけ停戦への動きを見定める手掛かりにしたいと思います。
まず、トランプのウクライナに関する具体的な言及は、思いもかけない問題から始まりま
した。
トランプは2月10日のインタビューで、ウクライナに対する支援の見返りに5,000億ドル分
(75兆円相当)のレアアース(希土類)その他の鉱物資源を要求すると語りました。
そして12日には協定草案が米側から示されましたが、その時、ゼレンスキー大統領(以下
「ゼレンスキー」と略す)は、ロシアとの約3年間に及ぶ戦争を通じ、米国から670億
ドルの武器と315億ドルの直接的な財政支援を受けた。「これを5000億ドルと呼ん
で、鉱物などで返還するよう求めることはできない。これは真剣な話し合いではない」と
批判しました。
しかもこの協定草案には、ウクライナが最も強く望んだ、具体的な安全保障条項も含まれ
ていませんでした。
関係筋によると、ゼレンスキーは米国が12日に協定案を提示した際に署名をしませんで
した。ゼレンスキーは、「私はウクライナを守る。国を売ることはできない。私は米国に
対し、何らかの前向きな条件や保証を要請した」と語っています。
ゼレンスキーが言う「保障」とは、ロシアの侵攻に対してアメリカがウクライナを守ると
いう安全保証を指します。
なお、レアアースをはじめとする鉱物資源に関してベセント米財務長官が12日にキーウ
(キエフ)でゼレンスキーと会談し示した際に希少資源に関する合意文書の草案を示し
ました。
NBCによると、草案には米国に50%の所有権を認めることが盛り込まれていた。ゼレン
スキーはこの協定はウクライナの防衛に貢献しない、との理由で文書へ署名しませんでし
た。
そして、最終的に2月19日に日、ゼレンスキーは要請を断りました(注1)
以上は、ウクライナとアメリカとの折衝でしたが、その中身を見ると、戦争で疲弊しき
っているウクライナに、まるで「火事場泥棒」のように鉱物資源を奪い取ろうとするト
ランプの強欲さに驚かされます。
なお、レアアースや鉱物資源に関する米ロの協定は、ウクライナが協定案をもって、2月
28日にワシントンに出向いて、ゼレンスキーとトランプと直接会談し、協定に調印する
ことになっています。
その詳しい内容は現時点では分かりませんが、安全保障についての約束は無いようですが、
何らかの形でアメリカに譲歩するようです。
ウクライナとしてはどれほどの犠牲を払っても、何とかアメリカをつなぎ止め支援を継続
してほしい、という悲壮な賭けです。
ところで、ここまでは鉱物資源をめぐるウクライナとアメリカの問題で、ウクライナ戦争
の停戦や終結は全く別の問題です。以下に、この点ついてみてみましょう。
ウクライナ戦争の問題が動き始めてきっかけは、2月12日に行われたトランプとプーチン
大統領(以下「プーチン」と略す)との電話会談でした。電話会談の詳しい内容は発表さ
れていませんが、アメリカとロシアはウクライナの戦闘の終結に向けて、交渉を始めるこ
とで合意したことを明らかにしました。
この電話会談は1時間半に及び、今後の停戦に向けてかなり重要な事柄が話し合われたよ
うです。
会談のあとトランプ氏はホワイトハウスで記者団の取材に応じ「プーチン大統領は戦闘の
終結を望んでいると言っていた。われわれは停戦の可能性について話し合った。おそらく、
そう遠くない将来、停戦が実現すると思う」と述べて早期の停戦の実現に意欲を示しました。
そしてロシア側との今後の交渉について、「プーチン大統領とはおもに電話でやりとりし、
最終的には会うことになるだろう。おそらく最初の会談は、サウジアラビアで行うことに
なるだろう。まだ決まっていないが、そう遠くない将来だ」と述べ、2期目で初めてとな
るプーチンとの対面での会談は、サウジアラビアで行われる可能性に言及しました。
またトランプはウクライナが求めているNATO=北大西洋条約機構への加盟について「現
実的ではないと思う。ロシアはそんなことは許さないと言っていて、これは何年も続いて
いる」と否定的な考えを示しました。
さらにウクライナがロシアによる一方的なクリミア併合などが行われた2014年よりも前の
状態に領土を回復できるかどうかについて「可能性は低いように思われる」とも述べたと
いう。
このアメリカ側の発表に対応する形で、ロシア大統領府のペスコフ報道官は13日、「非常に
重要な会談だった。この数年間、モスクワとワシントンの間ではハイレベルでの接触がな
かった」と述べ、電話会談が行われたことの意義を強調しました。
その上で、「アメリカの前の政権は、戦争を継続させるためには何でもしなければならない
という考えだったが、現在の政権は、戦争を終わらせ、平和を勝ち取るためにあらゆるこ
とをしなければならないという考えだ。われわれは現在の政権の立場に共感している」と
述べ、トランプ政権との交渉に期待を示しました(注2)。
ロシア侵攻下のウクライナの停戦と米ロ関係の再構築を巡る米ロ高官協議が18日、サウ
ジアラビアの首都リヤドで行われました。
米国務省の発表によると、米ロ双方は高官級で構成する代表団をそれぞれ立ち上げ、ウク
ライナでの紛争終結に向けて協議することで合意。経済・投資分野などで、紛争後の協力
の基盤を構築することも確認した。
また、双方の在外公館の業務正常化に向けて、懸案に対処する協議メカニズムを設置する
ことで一致。国務省のブルース報道官は「重要な一歩を踏み出した」と高官協議の意義を
強調した。
今月24日で侵攻開始から丸3年。最大の対ウクライナ支援国である米国がついにロシア
と直接交渉に乗り出しました。
ルビオ国務長官は「公正で永続的、持続的で全ての当事者が受け入れることのできる形」
でウクライナ紛争を終わらせることが目標だと語った。
米側からルビオ国務長官、ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、ウィトコフ中東
担当特使が出席。ロシア側はラブロフ外相、ウシャコフ氏が代表で、対米交渉のキーマン
とされるロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁も同行しました。
しかし、当事国であるウクライナは今回の協議に招待されず、ゼレンスキーは「ウクライ
ナ抜きでのいかなる合意も認めない」と猛反発しました。
他のヨーロッパ諸国も頭越しの交渉を懸念しており、17日に公開されたドイツ公共放送
のインタビューでゼレンスキーは「米国はプーチン氏に気に入られようとしている」と異
例の批判を展開しました(注3)。
こうした反応にトランプはゼレンスキーを激しく口撃しました。すなわち、トランプは2月
19日、ゼレンスキーについて「選挙の実施を拒否し、ウクライナの世論調査では支持率は
とても低い」と決めつけたうえで「選挙のない独裁者」と強く批判しました。
また、ゼレンスキーを「そこそこ成功したコメディアン」と呼び、「アメリカに3500億
ドルを費やすよう説得し、勝てない戦争、始める必要のなかった戦争に突入させた」などと
主張しています(注4)。
さらにトランプは21日、ゼレンスキーを「交渉カード」がなく、「会議に出席する価値」
がないとの認識を示しました。
しかしプーチンについてトランプは、「もし彼が望めば」ウクライナ全土を奪取できると
警鐘を鳴らしました。
トランプはFOXニュースラジオのインタビューで、司会者から戦争の責任はロシアにあ
るのではないかと追及され、「私は何年も見てきた。彼(ゼレンスキー)がカードなしで交
渉する様子を。とにかくうんざりする。もう十分だ」と述べた
そのうえでゼレンスキー氏についてトランプは、「彼は3年間会議に出ているが、何一つ実
現されていない。正直なところ、彼が会議に出る価値がそれほどあるとは思えない」と言及。
「彼のせいで取引が非常に難しくなる。だが彼の国を見てほしい。壊滅状態だ」と指摘しま
した。
トランプはまた、プーチン氏が「もし望めば」ウクライナ全土を奪取可能だとも述べ、ゼレ
ンスキー氏は3年前に侵攻したロシアとの取引に向けて動くべきだと付け加えました。
トランプはバイデン前米大統領とゼレンスキーの両氏に矛先を向け、両氏が妥協に向けて十
分な取り組みをしていれば、ロシアによる2022年のウクライナ侵攻は回避できた可能性
があると批判しました。
「プーチン氏を簡単に説得できた可能性もあるが、彼らは話し方というものが分かっていな
かった」とトランプ氏は指摘し、自分は「プーチン氏を実態より良い人、優れた人に仕立て
上げようとしているわけではない」としつつ、戦争は決して起こるべきではなかったと言い
添えました(注5)。
トランプ氏が、なぜ、“そこまで言うか”と言いたくなるほどゼレンスキーを徹底的に見下し、
ある意味でバカにするのか理解に苦しみます。
考えられる理由の一つは、トランプ氏が政的とみなすバイデン前大統領が終始ウクライナ支
援に力を入れていたので、それを全否定しようとしているのかも知れません。
一方、これほどまでにトランプ氏に貶められながらもはっきりと反論もできず、トランプに
必死で取りすがらざるを得ないゼレンスキー氏の苦悩は想像を絶するものがあります。
ここまでのわずか2週間ほどの間にも、上に述べたように、主としてトランプ側からのメッ
セージや、米ロの動きがありました。
ただし私たちが目にするニュースは、アメリカやヨーロッパの西側諸国の側から発せられた
もので、トランプ及びトランプ側の意向についてはある程度分かりますが、大国のもう一つ
の相手国ロシアのプーチン氏の本音や戦略についてあまり分かっていません。
このため、ウクライナ戦争の行く末について、現段階では全体的な見通しが描きにくい状況
にあります。
いずれにしても、現在は大国が動き始めて1か月足らずしか経っていない第一幕が始まった
ばかりです。第一幕ではトランプの言動と野望が前面に出ていますが、その陰でプーチン
はじっと自らの野望を着々と進めているような気がします。
トランプ氏は4月中には何とか、自分が仲介者となって、自分の力でウクライナとロシア
との停戦合意に持ち込むことを考えているようです。
これから第二幕が開き、1か月半ほどの間に何かが起こることは確実ですが、それは果たし
て停戦に結びつくのかどうなのか、今では想像できません。
次回は、トランプ氏だけでなくプーチン氏にも注目し、これまでウクライナを支援してきた
ヨーロッパ諸国(特にNATO加盟国)、そして中国の動きや、厳しい状況の中で、ゼレンス
キーとウクライナはどのように生き残りを模索してゆくのかを検証します。
注
(注1)『産経新聞』(電子版)(2025/2/15 16:51 https://www.sankei.com/article/20250215- L4FKO3EEYNJIHKNQ4WHQ54SQKU/
『Reuter』(2025年2月16日午後 3:18 GMT+9 https://jp.reuters.com/world/ukraine/JCERV6PVX5INFHIDGUFAKU77ZQ-2025-02-16/
『Reuter』(2025年2月19日 2025年2月20日1:58 GMT+9) https://jp.reuters.com/world/ukraine/M6QAYVSNSVPWFMNKNEW7RMLP6I-2025-02-19/
(注2)NHK NEWSWEB 2025年2月14日 4時53分 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250213/k10014720721000.html
(注3)『JIJI.COM』 2025年02月19日09時48分https://www.jiji.com/jc/article?k=2025021801053&g=int#goog_rewarded
(注4)『YAHOO NEWS』 2/20(木) 17:55 https://news.yahoo.co.jp/articles/5995e34786ad4889ea4cbf346eb550da8ca2d3cb
(注5)CNN 2025.02.22 Sat posted at 09:22 JST https://www.cnn.co.jp/usa/35229710.html
つい2ヶ月ほど前まで、多くの人は、ウクライナ戦争は今後どんな方向に向かってゆく
のか、また、いつ頃に終結に向かい、それはどんな形になるのか、などについて具体的
なイメージを描くことはできませんでした。
なによりも現在戦争は続いており、その帰趨がどうなるかを誰も予測できないからです。
というのも、この問題の背景にはあまりにも多くの不確定要因が関連しているからです。
たとえば、ロシアは経済基盤、兵員、兵器の面でどれほど継戦能力があるのか、また、
ウクライナは今後どれほど経済的・軍事的支援を受けられるのか、兵員は確保できるの
か、といった問題があります。
とりわけ、これまでのウクライナの戦闘能力を支えてきた大きな柱の一つ、アメリカの
支援が、ウクライナ寄りのバイデン政権からトランプ政権に代わってどうなるのかが大
きな課題でした。
そんな中でトランプ政権が発足して約1か月しか経っていないのに、事態は急速に動き
始めました。
もっとも、トランプ大統領(以下、「トランプ」と略す)が次々と繰り出すさまざまなメ
ッセージや外交があまりにも展開が早すぎて、今、何が起こっているのかを追いかけるだ
けで精一杯という状況です。
そこで、今回は、最近起こっている事態を、まず時系列で整理し、これからのウクライナ
戦争の行方、とりわけ停戦への動きを見定める手掛かりにしたいと思います。
まず、トランプのウクライナに関する具体的な言及は、思いもかけない問題から始まりま
した。
トランプは2月10日のインタビューで、ウクライナに対する支援の見返りに5,000億ドル分
(75兆円相当)のレアアース(希土類)その他の鉱物資源を要求すると語りました。
そして12日には協定草案が米側から示されましたが、その時、ゼレンスキー大統領(以下
「ゼレンスキー」と略す)は、ロシアとの約3年間に及ぶ戦争を通じ、米国から670億
ドルの武器と315億ドルの直接的な財政支援を受けた。「これを5000億ドルと呼ん
で、鉱物などで返還するよう求めることはできない。これは真剣な話し合いではない」と
批判しました。
しかもこの協定草案には、ウクライナが最も強く望んだ、具体的な安全保障条項も含まれ
ていませんでした。
関係筋によると、ゼレンスキーは米国が12日に協定案を提示した際に署名をしませんで
した。ゼレンスキーは、「私はウクライナを守る。国を売ることはできない。私は米国に
対し、何らかの前向きな条件や保証を要請した」と語っています。
ゼレンスキーが言う「保障」とは、ロシアの侵攻に対してアメリカがウクライナを守ると
いう安全保証を指します。
なお、レアアースをはじめとする鉱物資源に関してベセント米財務長官が12日にキーウ
(キエフ)でゼレンスキーと会談し示した際に希少資源に関する合意文書の草案を示し
ました。
NBCによると、草案には米国に50%の所有権を認めることが盛り込まれていた。ゼレン
スキーはこの協定はウクライナの防衛に貢献しない、との理由で文書へ署名しませんでし
た。
そして、最終的に2月19日に日、ゼレンスキーは要請を断りました(注1)
以上は、ウクライナとアメリカとの折衝でしたが、その中身を見ると、戦争で疲弊しき
っているウクライナに、まるで「火事場泥棒」のように鉱物資源を奪い取ろうとするト
ランプの強欲さに驚かされます。
なお、レアアースや鉱物資源に関する米ロの協定は、ウクライナが協定案をもって、2月
28日にワシントンに出向いて、ゼレンスキーとトランプと直接会談し、協定に調印する
ことになっています。
その詳しい内容は現時点では分かりませんが、安全保障についての約束は無いようですが、
何らかの形でアメリカに譲歩するようです。
ウクライナとしてはどれほどの犠牲を払っても、何とかアメリカをつなぎ止め支援を継続
してほしい、という悲壮な賭けです。
ところで、ここまでは鉱物資源をめぐるウクライナとアメリカの問題で、ウクライナ戦争
の停戦や終結は全く別の問題です。以下に、この点ついてみてみましょう。
ウクライナ戦争の問題が動き始めてきっかけは、2月12日に行われたトランプとプーチン
大統領(以下「プーチン」と略す)との電話会談でした。電話会談の詳しい内容は発表さ
れていませんが、アメリカとロシアはウクライナの戦闘の終結に向けて、交渉を始めるこ
とで合意したことを明らかにしました。
この電話会談は1時間半に及び、今後の停戦に向けてかなり重要な事柄が話し合われたよ
うです。
会談のあとトランプ氏はホワイトハウスで記者団の取材に応じ「プーチン大統領は戦闘の
終結を望んでいると言っていた。われわれは停戦の可能性について話し合った。おそらく、
そう遠くない将来、停戦が実現すると思う」と述べて早期の停戦の実現に意欲を示しました。
そしてロシア側との今後の交渉について、「プーチン大統領とはおもに電話でやりとりし、
最終的には会うことになるだろう。おそらく最初の会談は、サウジアラビアで行うことに
なるだろう。まだ決まっていないが、そう遠くない将来だ」と述べ、2期目で初めてとな
るプーチンとの対面での会談は、サウジアラビアで行われる可能性に言及しました。
またトランプはウクライナが求めているNATO=北大西洋条約機構への加盟について「現
実的ではないと思う。ロシアはそんなことは許さないと言っていて、これは何年も続いて
いる」と否定的な考えを示しました。
さらにウクライナがロシアによる一方的なクリミア併合などが行われた2014年よりも前の
状態に領土を回復できるかどうかについて「可能性は低いように思われる」とも述べたと
いう。
このアメリカ側の発表に対応する形で、ロシア大統領府のペスコフ報道官は13日、「非常に
重要な会談だった。この数年間、モスクワとワシントンの間ではハイレベルでの接触がな
かった」と述べ、電話会談が行われたことの意義を強調しました。
その上で、「アメリカの前の政権は、戦争を継続させるためには何でもしなければならない
という考えだったが、現在の政権は、戦争を終わらせ、平和を勝ち取るためにあらゆるこ
とをしなければならないという考えだ。われわれは現在の政権の立場に共感している」と
述べ、トランプ政権との交渉に期待を示しました(注2)。
ロシア侵攻下のウクライナの停戦と米ロ関係の再構築を巡る米ロ高官協議が18日、サウ
ジアラビアの首都リヤドで行われました。
米国務省の発表によると、米ロ双方は高官級で構成する代表団をそれぞれ立ち上げ、ウク
ライナでの紛争終結に向けて協議することで合意。経済・投資分野などで、紛争後の協力
の基盤を構築することも確認した。
また、双方の在外公館の業務正常化に向けて、懸案に対処する協議メカニズムを設置する
ことで一致。国務省のブルース報道官は「重要な一歩を踏み出した」と高官協議の意義を
強調した。
今月24日で侵攻開始から丸3年。最大の対ウクライナ支援国である米国がついにロシア
と直接交渉に乗り出しました。
ルビオ国務長官は「公正で永続的、持続的で全ての当事者が受け入れることのできる形」
でウクライナ紛争を終わらせることが目標だと語った。
米側からルビオ国務長官、ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、ウィトコフ中東
担当特使が出席。ロシア側はラブロフ外相、ウシャコフ氏が代表で、対米交渉のキーマン
とされるロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁も同行しました。
しかし、当事国であるウクライナは今回の協議に招待されず、ゼレンスキーは「ウクライ
ナ抜きでのいかなる合意も認めない」と猛反発しました。
他のヨーロッパ諸国も頭越しの交渉を懸念しており、17日に公開されたドイツ公共放送
のインタビューでゼレンスキーは「米国はプーチン氏に気に入られようとしている」と異
例の批判を展開しました(注3)。
こうした反応にトランプはゼレンスキーを激しく口撃しました。すなわち、トランプは2月
19日、ゼレンスキーについて「選挙の実施を拒否し、ウクライナの世論調査では支持率は
とても低い」と決めつけたうえで「選挙のない独裁者」と強く批判しました。
また、ゼレンスキーを「そこそこ成功したコメディアン」と呼び、「アメリカに3500億
ドルを費やすよう説得し、勝てない戦争、始める必要のなかった戦争に突入させた」などと
主張しています(注4)。
さらにトランプは21日、ゼレンスキーを「交渉カード」がなく、「会議に出席する価値」
がないとの認識を示しました。
しかしプーチンについてトランプは、「もし彼が望めば」ウクライナ全土を奪取できると
警鐘を鳴らしました。
トランプはFOXニュースラジオのインタビューで、司会者から戦争の責任はロシアにあ
るのではないかと追及され、「私は何年も見てきた。彼(ゼレンスキー)がカードなしで交
渉する様子を。とにかくうんざりする。もう十分だ」と述べた
そのうえでゼレンスキー氏についてトランプは、「彼は3年間会議に出ているが、何一つ実
現されていない。正直なところ、彼が会議に出る価値がそれほどあるとは思えない」と言及。
「彼のせいで取引が非常に難しくなる。だが彼の国を見てほしい。壊滅状態だ」と指摘しま
した。
トランプはまた、プーチン氏が「もし望めば」ウクライナ全土を奪取可能だとも述べ、ゼレ
ンスキー氏は3年前に侵攻したロシアとの取引に向けて動くべきだと付け加えました。
トランプはバイデン前米大統領とゼレンスキーの両氏に矛先を向け、両氏が妥協に向けて十
分な取り組みをしていれば、ロシアによる2022年のウクライナ侵攻は回避できた可能性
があると批判しました。
「プーチン氏を簡単に説得できた可能性もあるが、彼らは話し方というものが分かっていな
かった」とトランプ氏は指摘し、自分は「プーチン氏を実態より良い人、優れた人に仕立て
上げようとしているわけではない」としつつ、戦争は決して起こるべきではなかったと言い
添えました(注5)。
トランプ氏が、なぜ、“そこまで言うか”と言いたくなるほどゼレンスキーを徹底的に見下し、
ある意味でバカにするのか理解に苦しみます。
考えられる理由の一つは、トランプ氏が政的とみなすバイデン前大統領が終始ウクライナ支
援に力を入れていたので、それを全否定しようとしているのかも知れません。
一方、これほどまでにトランプ氏に貶められながらもはっきりと反論もできず、トランプに
必死で取りすがらざるを得ないゼレンスキー氏の苦悩は想像を絶するものがあります。
ここまでのわずか2週間ほどの間にも、上に述べたように、主としてトランプ側からのメッ
セージや、米ロの動きがありました。
ただし私たちが目にするニュースは、アメリカやヨーロッパの西側諸国の側から発せられた
もので、トランプ及びトランプ側の意向についてはある程度分かりますが、大国のもう一つ
の相手国ロシアのプーチン氏の本音や戦略についてあまり分かっていません。
このため、ウクライナ戦争の行く末について、現段階では全体的な見通しが描きにくい状況
にあります。
いずれにしても、現在は大国が動き始めて1か月足らずしか経っていない第一幕が始まった
ばかりです。第一幕ではトランプの言動と野望が前面に出ていますが、その陰でプーチン
はじっと自らの野望を着々と進めているような気がします。
トランプ氏は4月中には何とか、自分が仲介者となって、自分の力でウクライナとロシア
との停戦合意に持ち込むことを考えているようです。
これから第二幕が開き、1か月半ほどの間に何かが起こることは確実ですが、それは果たし
て停戦に結びつくのかどうなのか、今では想像できません。
次回は、トランプ氏だけでなくプーチン氏にも注目し、これまでウクライナを支援してきた
ヨーロッパ諸国(特にNATO加盟国)、そして中国の動きや、厳しい状況の中で、ゼレンス
キーとウクライナはどのように生き残りを模索してゆくのかを検証します。
注
(注1)『産経新聞』(電子版)(2025/2/15 16:51 https://www.sankei.com/article/20250215- L4FKO3EEYNJIHKNQ4WHQ54SQKU/
『Reuter』(2025年2月16日午後 3:18 GMT+9 https://jp.reuters.com/world/ukraine/JCERV6PVX5INFHIDGUFAKU77ZQ-2025-02-16/
『Reuter』(2025年2月19日 2025年2月20日1:58 GMT+9) https://jp.reuters.com/world/ukraine/M6QAYVSNSVPWFMNKNEW7RMLP6I-2025-02-19/
(注2)NHK NEWSWEB 2025年2月14日 4時53分 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250213/k10014720721000.html
(注3)『JIJI.COM』 2025年02月19日09時48分https://www.jiji.com/jc/article?k=2025021801053&g=int#goog_rewarded
(注4)『YAHOO NEWS』 2/20(木) 17:55 https://news.yahoo.co.jp/articles/5995e34786ad4889ea4cbf346eb550da8ca2d3cb
(注5)CNN 2025.02.22 Sat posted at 09:22 JST https://www.cnn.co.jp/usa/35229710.html