大木昌の雑記帳

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検証「新型コロナウイルス肺炎」(8)―コロナは社会的弱者に過酷を強いる―

2020-05-31 09:28:08 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(8)
―コロナは社会的弱者に過酷を強いる―

ある社会がどれほど成熟しているかは、その社会が危機や厳しい状況に直面した時、どれほど
弱者を守ることができるかをみると良く分かります。

成熟社会は平時から、いざという時に備えて、制度として社会的弱者を救済する仕組をもって
います。

さて、今回のコロナ禍は、はたして社会的弱者を守っているのでしょうか、あるいはどの程度
守っているのでしょうか? 今回はこの点を検証してみたいと思います。

ここで取りあげる「社会的弱者」とは、従来から生活上の困難を抱えている人で、とりわけ経
済的に不安定で低所得の状態にある人、具体的には契約社員、パート労働などの非正規で働い
ている人たちです。

中でも、このコロナ禍でもっとも深刻な困難に直面しているのは、子どものいる一人親家庭
(その大部分は子どものいるシングルマザー家庭)です。

NPO法人「しんぐるまざあーず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長は、新型コロナウイルスの
影響で困窮するシングルマザーについてコメントしています。その内容はあまりに衝撃的です。

もちろん、シングルマザー家庭だけが困窮しているわけではありませんが、これらの家庭が特
別に深刻な状況に追い込まれている、という意味で象徴的です。

赤石氏によると、4月以降、シングルマザーからの相談が急増し、「子供がおなかをすかせてい
ても、食べさせるものがない」「公園の水や野草で空腹を満たしている」など、驚くべき内容
もあったそうです。

また、彼女たちの多くがパートなどの非正規で雇用されているため、自粛と企業の休業などで
自宅待機で収入が減るという人が半数以上。中には、子供の保育園が休みになったと相談した
ら、「だったら来なくていい」と言われたケースもあったという(注1)

あるいは、離婚した夫から養育費はもらっておらず、借金もある。フードバンクからの食材を
少しでも長持ちさせるため、自身は1日1食で済ませているという(注2)。

もっと、厳しい事例では、子どものため2日に1度しか食事をしない母親の例も報告されてい
ます(注3)

休校で給食がないため、食費が多くなってしまい、「お米のヘリが早すぎる。助けて!」とか、
保育園の都合で休むと収入は保障されない、など切実な問題もごく一般的な状況です(注4)。

また、シングルマザーの家庭の子どもにとって、もっとも重要な栄養源は給食だったのに、休
校のためそれが無くなってしまったことが大きな痛手だという声は多い。

多くのシングルマザーは、コロナ感染の危険と経済苦との二重の苦悩を抱えています。
    現金給付が10万円で決定されたのはありがたいが、4月上旬から外出自粛が始まり、支
    給が5月では4月の支払いはできません。親がコロナになった時に、子供を見てくれる人
    がいない。子供を一人残すわけにはいかない」、「休校にしたりする前にしっかりした保
    証を先に考えてほしかったです。家ですごそうといいますが、本当に困っている家庭は
    一日分の給料さえ大事なので休む事もで゙きません」。

「ひとりじゃないよプロジェクト」のウエッブ・アンケートによれば、シングルマザーの9割は
コロナの影響をうけ、8割は経済的に苦しいと答えています。苦境への対応は、74%が食費を
切り詰めている、そして貯金を切り崩することです(注5)。

同様の悲壮な声は他にも幾つもあります。たとえば、
    仕事ができなく収入が減って、食べるばかりの子達なのでお金がない。電気代水道ガス
    代がかかるからもう家族全員で路上生活するしかありません。わたしは血圧が高く救急
    車のお世話になり、 何回も病院に行った糖尿病もあります。どうすればいいのかわから
    ないので神さま子達を守ってくださいと祈ってます。
とった切羽詰まった声もあります(注6)。

シングルマザーに対して企業は、一方的に退職を突きつける場合が多い。しかし、こうした措置
にたいして個々のシングルマザーは裁判などで争う資金も手段もなく、泣き寝入りしているのが
実態です。

上記の「ふぉーらむ」が4月上旬、同法人会員を対象に調査を実施し、子どもがいるシングルマ
ザー約200人から回答を得ました。

それによると、一斉休校により仕事を休んだ母親は16%、うち休業補償の対象となる小学生な
どのいる親に聞いたところ、休業補償を受けられるか「分からない」と答えた人は56%に上り
ました。

政府は小学校や幼稚園などに通う子どもの世話をする必要がある保護者に特別な有給休暇を取得
させた企業に対して日額8330円を上限に助成金を支給することにしましたが、企業が申請し
なければ補償を受け取ることはできません。

シングルマザーのうち26%が「(保障を)受けられないと答え、望むこととして78%は「す
ぐに現金支給が欲しい」が78%と最多で、経済的な困窮ぶりが浮き彫りになりました。

4月の前半までに、実際に受け取ることができたのは、4月19%にとどまっていました(『東
京新聞』2020年4月14日)。

もちろん、苦境にたたされているのはシングルマザーだけではありません。たとえば、派遣社員
の場合をみてみよう。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業の一部で在宅勤務(テレワーク)が定着する中、
非正規社員には在宅勤務は認められていないのが実態です。

今年の4月から施行された、非正規社員への差別的扱いを禁じる「同一労働同一賃金関連法」は
賃金だけでなく待遇差別も禁じています。

しかし、実際には派遣社員は賃金格差どころか、正社員より高い感染リスクという「命の格差」
に直面する場合さえあります。

東京都内の大手企業で働く派遣社員の30代女性Aさんに、人事部は「派遣は出勤か、自己都合
で休むかの二択です」と言い放ったという。

Aさんは妊娠中で、妊婦が肺炎になると重症化しやすいため、感染のリスクがある満員電車での
通勤が不安でした。Aさんの仕事はパソコンの入力です。

正社員の場合、3月から在宅勤務が認められており、Aさんは「自分も」と相談したが、「派遣
の場合は不可」の一点張り。やむなく休業を選びましたが、休業手当も派遣会社に拒否され収入
がゼロになってしまいました。

Aさんの夫は労働局に救済を求めましたが、「在宅勤務の扱いは法律の条文になく、問題はない」
と門前払いされてしまいました(『東京新聞』2020年5月29日)。

5月から、妊婦にかんしては医師診断を受け在宅勤務などを希望した時には企業に応じるよう義
務付けました。しかし、妊婦が雇い止めを気にして申告できるかどうか疑問です。

これは、派遣会社が得意先の企業に遠慮して、派遣社員の処遇をなおざりにしているからです。

企業が休業させる社員にひとまず休業手当を支給し、その財源としてハローワークや労働局に申
請すると助成金が出ます。これを「雇用調整助成金」といいます。

しかし、これまで会社が休業手当を非正規社員に手当を支給しない例が相次ぎました。というの
も、法律上は、政府や知事の要請での休業は企業都合でないため、休業手当の支給を免除する場
合があり、企業が支給の「義務がない」と主張してきたからです(『東京新聞』2020年5月28
日)。

安倍首相は、助成金のメニューだけは、あれこれ揃えて、これほど手厚い助成は世界でも類がな
い「空前絶後」の手厚さである、と胸を張りますが実際はどうでしょうか。雇用調整助成金を例
に、その実数を見てみましょう。

2020年5月26日現在、雇用調整助成金の受理された申請は計5万954件、うち2万6507
件の支給が決まりまっています(まだ振り込まれているわけではありません)。

この数字だけ見ると、約半分(それでやっと半分)近くは決定しているので、まあなんとか機能
しているように見えますが、それは全体の一端を示すにすぎません。

というのも、そもそもこの助成金を申請するために相談した件数は、37万6400件あり、そ
れが実際に受理されて、決定に至ったのが、わずか2万6500件、つまり7パーセントにすぎ
ません。残りの93%はおそらく受理さえされなかったのでしょう。

金額ベースでみると、5月22日時点では、1次、2次補正予算で計1兆6000億円計上され
ましたが、実際に決定したのはわずか90億円だけです(注8)。

しかも、この申請のために立ち上げたオンライン申請は、受付開始から一時間でシステムトラブ
ルが発生して停止してし、再開のめどが立っていなません。

コロナ禍の影響が大きい観光、飲食、小売などの中小事業者を中心に、助成金の申請をあきらめ
る事業者もでています。

申請手続きは煩雑で、経理担当の社員でも記入は大変で時間がかかります。余裕がない会社はで
きるだけ早く資金を確保しなくてはならず、支給まで待てません。申請を社会保険労務士などの
専門家に依頼することもできますが、中小の事業者にはこうした専門家に依頼する資金的余裕も
なく、あきらめて廃業や倒産に追い込まれてしまう可能性をかえています(『東京新聞』2020年
5月28日)。

最後に、日本全体の状況を見ておきましょう。今や、非正規だけでなく正社員さえもいつ解雇さ
れるか分からないのが現実です。

新型コロナウイルスが、子育て中や非正規など立場の弱い労働者の雇用を直撃しています。解雇
や雇い止めだけでなく、働いていた店舗が休業となって、実質的に仕事を失った人も多い。5月
29日発表の完全失業率は前月比0・1ポイント悪化の2・6%で、休業者は前年同月から420万人増
えて(!)597万人になったのです。失業者からは「コロナ不況」が本格化することへの懸念の
声が漏れてきます。

正社員の解雇の実例をひとつだけ挙げておきます。首都圏の旅行会社に正社員として勤めていた
40代女性は3月上旬、社長に呼び出され突然解雇を告げられました。会社から詳しい説明はなか
ったが、退職日に渡された解雇証明書には「新型コロナウイルスのまん延による極端な業績低下
(予約のキャンセル等)」の一文が記されていまし。Aさんの先輩の男性社員も同時に解雇され
ました(注7)。

こうして解雇された人や失業した人には家族が、子どもがいることを考えると、政府は本当に弱
い立場の人たちにこそ、第一に手を差し伸べるべきだと思います。

これまでの政府の施策をみていると、優先順位が違うのではないか、と思われる事業が多くあり
ます。人口減少に歯止めがかからない日本の現状を考えるなら、将来を担う子どもと、こどもを
抱えて苦闘しているシングルマザーへの援助は最優先課題の一つだと思います。

(注1)『朝日新聞』(デジタル版) 2020年5月13日 18時30分
https://digital.asahi.com/articles/ASN5F5FPHN5FULFA003.html?pn=2
(注1)日経ビジネス 2020年5月26日
    https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00075/

(注2)西日本新聞 2020年5月29日
    https://www.nishinippon.co.jp/item/n/601757/
(注3) 『朝日新聞』(デジタル版)2020年5月20日
   https://digital.asahi.com/articles/ASN5M6Q7DN5MUTFL00F.html?pn=4 
『朝日新聞』(デジタル版)2020年5月20日 
https://www.asahi.com/articles/ASN5M6Q7DN5MUTFL00F.html?ref=mor_mai     l_topix3_6 
(注4)『認定NPO法人フローレンス「一斉休校に関する緊急全国アンケート」』
『HUFFPOST』(2020年03月12日11時30分)    https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e697c03c5b6bd8156f11a33
(注5)『Business Insider』(May 8,2020:12:00 pm)
https://www.businessinsider.jp/post-212523
(注6)FRaU (2020年4月8日)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71964
(注7)『毎日新聞』(電子版2020年5月29日19時29分(最終更新5月29日19時30分)
https://mainichi.jp/articles/20200529/k00/00m/040/189000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20200530
(8)日経新聞 デジタル(2020/5/31 2:00)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59799750Q0A530C2EA3000/?n_cid=NMAIL007_20200531_A
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梅雨を前に咲き誇るアジサイの近映                                         アジサイの群落
  



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検証「新型コロナウイルス肺炎」(7)―文化・芸術は「不要不急」か?―

2020-05-24 17:07:32 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(7)
 ―文化・芸術は「不要不急」か?―

新型コロナウイルスの脅威にさらされて緊急事態宣言下にある日本で、意外と注目されて
いませんが、深刻な問題があります。

それは、音楽、演劇、映画、スポーツ、さまざまな分野のエンターテイメントなどを含む
広い意味での文化がほとんど窒息状態にあることです。

というのも、これらの発表や公演は「不要不急」だと見なされているからです。

私は、ある有名なオーケストラ楽団に所属するトロンボーン演奏が、「私たちがやってい
る音楽は不要不急なのか」と寂しそうにつぶやいていたことに、とてもショックをうけ胸
が痛みました。

確かに、音楽がなくても私たちは生きてゆけます。しかも、コロナウイルスがまん延しつ
つある現状では、音楽会で多くの人が密集するのは危険が多すぎます。

しかし、もしそうなら、そうした音楽家の生活を保護するための経済援助を大幅にすべき
です。

同じことはスポーツでも演劇でも、美術展、落語、いわゆるエンタメと言われる「お笑い」
でも、人が集まる状況を生み出すことは全て、「不要不急」の一言で、活動の場を奪われ
ています。

政府も、カメラマン、デザイナー、プログラマーなど特定の会社や組織に所属せず、仕事
に応じてその都度契約する、いわゆるフリーランスへの給付を一部認めていますが、実態
は、これらの人たちの生活を保障するには、とうてい少なすぎます。

俳優2600人を背負う、「日本俳優連合」理事長の肩書をもつ、西田敏行氏(72)は、
改めて「アベNO」の声を上げました。

今年3月、理事長として、「私たちにとっては仕事と収入の双方が失われ、生きる危機に瀕
する事態。どうか雇用・非雇用のないご対応で、文化と芸術を支える俳優へご配慮下さいま
すよう」などと書いた要望書を内閣府と労働省に出しました。

それから2か月後お5月後半に、取材すると、「政府に要求したけど、歯牙にもかけない感じ。
残念ながら、われわれ表現者はあまり優遇されていない」とのコメントし、苦渋と怒りをに
じませたという。

コロナ禍で苦しんでいるのは俳優だけではありませんが、エンタメ業界は数千億円規模の損
害が生じています。しかし、政府からは抜本的な補償の話は今になってもないままです。

西田しが、「われわれ表現者」という言葉を使ったことには意味があります。もちろん、そ
れは「演劇」あるいは他の媒体での演技でもありますが、人間としての意見や考えを表現す
る、と言う意味での「表現者」という意味も含まれています。

検察庁法改正を強行しようとし、多くの芸能人が反対を表明したことについて水を向けると、
声を荒げて「改正案はおかしい!私もそう思います。果たしてそれをコロナが蔓延している
この時期に、政府が率先してやるべきですか。腹立ちますね、本当に!」と答えたといいま
す(『日刊ゲンダイ』2020年5月22日)。

同志社女子大学教授(メディア論)の影山貴彦氏は、「エンタメは不要不急だけど不可欠な
もの」との見解を示しています(『日刊ゲンダイ』同上)。

坂本龍一氏も、「『芸術なんて役に立たない』 そうですけど、それが何か?」と問いかけ、
    積載量過剰のまま猛スピードで突き進む資本主義文明がわずかなりともバッファを
    取り戻せるのかどうかは不明だが、そうしたゆとりや遊びという「無駄」をどれだ
    け抱えているかは、少なくとも社会の成熟度の指標となる
とコメントしています(注1)。

たしかに、社会の成熟度というのは、いかに「無駄」―もちろん、本当は無駄ではないのです
が―をどれだけ抱えているかが指標となります。

なお、坂本氏も言及していますが、ドイツの文化大臣モニカ・グリュッタース氏は今年3月11
日に、「フリーランスの芸術家、文化産業従事者にも無制限の援助を行う」と発表したことは、
日本を含む世界各国で報道され、「文化大国」の矜持と姿勢を示すものとして賞賛と羨望を集
めました。

彼女は、また、「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命の維持に必要」とも言っ
ています。実に至言です。

私は、「生命の維持に必要」というところまで踏み込んでいる点が、意表を突く素晴らしい。
ここには、確かな哲学があります。日本の政治家にも是非、このような哲学をもって欲しい
と願わずにはいられません。

食べ物があれば生命は維持できますが、それと同じくらい芸術家(これは西田氏がいう「表現
者」でもいいし、エンタメの芸能人でもいいのですが)は、人として生きてゆくうえで必要で
あると。彼女は言っているのです。

実際に、3月、個人のアーティストなどを対象に、3か月最大9000ユーロ(約100万円)
を受け取れる制度を創設しました(『東京新聞』2020年5月20日)(注2)。

テレビでコメントを求められた、ドイツ在住の日本人の音楽家は、実際にすぐに振り込まれた、
と証言していましたから、大臣の施策は実施されたことは間違いありません。

日本の文化庁長官の宮田亮平氏は、自身が金属工芸のアーティストでありながら、コロナ禍下
にあって窒息しそうなアーティストや広く文化芸術・芸能を守るための情報を発信していない
し、まして、政府や財務省、経産省などと交渉することもありません。

残念ながら、文化庁長官という役職は、たんなる飾り物としか思えません。

考えてみると、現在の政権与党の中で、文化や芸術の重要性を哲学として認識している人は見
当りいません。

ドイツの文化大臣の
最後に、今回の新型コロナ禍で、エンタメ界の主たる担い手となったテレビのあり方について
考えてみます。

テレビ業界で起こったことの一つは、ドラマ撮影などができなくなったため、以前の番組の総
集編や名場面集のような再放送で時間を埋めていることです。

また、以前、見損なった番組や、改めて見たい番組を見ることができることは、決して悪いこ
とばかりではありません。

もう一つテレビのエンタメ界に起こったことは、リモート出演番組です。前出の影山教授は、
これによりニセモノと本物がはっきりした、といい、つぎのようにコメントしています。
    まず、出演者が多すぎた。バラエティ番組のひな壇芸人のことです。大物芸人に必死
    でゴマをする中堅芸人が並ぶ状態がもう何年も続いていましたが、ソーシャルディス
    タンシングで出演者が大幅に削られ、いなくても問題なかった。情報ワイド番組では
    何の専門知識もなりタレントや芸人が画面を埋めていたけれど、結局、専門家がいな
    ければ井戸端会議にすぎない。・・・キャスターとアンカーと専門家がいればいいこ
    とが明確になりました(『日刊ゲンダイ』2020年5月22日)。

私も、全く同感です。つまり、今まで、多くのバラエティ番組では、いなくても何の問題もな
いタレントが多すぎることがはっきりしたということです。

その反面、たとえ素人でも、その芸人がいるから番組が面白くなったり、あるいは専門家から
興味深い解説やコメントを引き出せる芸人は、生き残れるでしょう。

いずれにしても、これからは、実力がないニセモノ芸人はテレビのエンタメ界では不要となっ
たことは確かです。

今回の新型コロナ禍は、いわゆるタレントや芸人の中で本物とニセモノが峻別され、これから
はニセモノは生き残れない厳しい時代がやってくると思われます。

                                         

(注1)『朝日新聞』(デジタル 2020.05.22) https://www.asahi.com/and_M/20200522/12369021/?ref=and_mail_M&spMailingID=3451409&spUserID=MTAxNDQ2NjE2NTc4S0&spJobID=1240368046&spReportId=MTI0MDM2ODA0NgS2.
(注2)さらにくわしいグリュッター氏の政策については、Jazz Tokyo (2020年4月3日)を参照。https://jazztokyo.org/news/post-51270/
    を参照。
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今年はコロナ関連で新たな言葉が出回りました。ここに佐藤氏の秀逸な風刺漫画を転載させていただきます。
                    


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検証「新型コロナウイルス肺炎」(6)―全国一律休校は本当に合理的・科学的根拠があるのか―

2020-05-14 12:22:50 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(6)
 ―全国一律休校は本当に合理的・科学的根拠があるのか―

安倍首相は本年2月27日、新型コロナウイルス感染症対策本部で、3月2日から春休みが始まる
20日まで、全国一斉の小中高校と特別支援学校への休校要請することを突然発表しました。

休校措置は、実質的に5月の連休後まで続き、都道府県によりばらつきがありますが、概ね五月末
まで続く状況にあります。今でも、あたかも当然のように思われる休校、特に全国一斉の休校要請
の有効性を検証してみたいと思います。

まず、休校要請が出された経緯をたどってみましょう。

要請が発せられた5時間ほど前の27日の午前、文科省事務次官は安倍首相から休校要請について
知らされ、直ちに萩生田文科相に報告しました。

この報告を聞いた萩生田氏は直ちに官邸にかけつけ、首相に真意をただしました。というのも、そ
れまでは臨時休校要請には政府内に慎重論があり、それを振り切っての決断だったからです。

「休業補償はどうするんですか」。萩生田氏は、休校に伴い保護者が仕事を休まなければならない
世帯への補償が課題だと訴えました。

「大丈夫」と今井尚哉首相補佐官らは応じたが、多くの国民の日常生活に影響するだけに、萩生田
氏は「補償の問題をクリア出来ないと春休みの前倒しは出来ない」と食い下がった。しかし首相は
最終的に「こちらが責任を持つ」と言いその場を引き取りました。

以上の経緯を見ても分かるように、学校を管轄する文科相にさえ、当日の5時間前にようやく会っ
て伝えるというドタバタぶりです(注1)。

では、どうしてこのような慌てふためいた決断をしたのでしょうか。実は、安倍首相は2月16日、
首相官邸で開かれた新型コロナウイルス感染症対策本部で「国民の命と健康を守るため、打つべき
手を先手先手で打ってもらいたい」と指示していたのです。

そして、続いて開かれた専門家会議で「政府としましてこの専門家会議で出された医学的、科学的
な見地からのご助言を踏まえ、先手先手でさらなる対策を前例にとらわれることなく進める」と述
べました(注2)。

ところが、その後は、具体的には何らの策を打ち出すことがなく時間が過ぎてゆきました。そうこ
うしているうちに、26日までに北海道、大阪市、千葉県市川市が独自の判断で小中高の一斉休校
を実施していたのです。つまり、先手先手といいながら、実はもうこの時は「後手後手に回って」
いたのです。

そこで急遽、全国一斉に、というある意味、博打を打ったわけですが、これは、例のアベノマスク
の件で、国民に2枚ずつマスクを配れば、不満はぱっとなくなりますよ、と首相に進言した今井首
相補佐官の進言だったと言われています。

この突然かつ長期の休校要請にたいしては、当然のことながら当事者である児童・生徒、保護者、
学校関係者の間には戸惑いが広がり、対応に追われました。

28日の衆議院予算委員会の審議の中でも、安倍首相が突然、休校を要請した根拠について問う動き
がありました。

宮本徹議員(日本共産党)は、政府が休校の効果や影響について専門家会議に諮問していないと追
及しました。宮本氏によれば、専門家から一斉休校は「あまり意味がない」「国民に負担を強いる」な
ど苦言が相次いでいることを紹介し、休校要請の「エビデンス(根拠)はなにか」と首相に質問しま
した。

これに対し安倍首相は、専門家会議が24日に出し、25日発表の政府の基本方針の土台となった「こ
れから1~2週間が急速な拡大に進むか収束できるかの瀬戸際となる」という見解が根拠だと繰り返し
主張しました。

その上で「科学的、学術的な観点からは、詳細なエビデンスの蓄積が重要であることは言うまでもあ
りませんが、1〜2週間という極めて切迫した時間的制約の中で、最後は政治が全責任を持って判断
すべきものと考え、今回の決断を行った」と答弁しました。

つまり、安倍首相は、この要請には科学的な根拠がないまま、また専門家委員会に相談することなく
政治決断で発表したことを認めているのです(注3)。

専門家会議は、地域によるばらつきを考慮して、「患者が出ていない地域まで休校にする必要はな
かった。効果より、家族の負担がが大きかったまたのではないか、とも言っています(『東京新聞』
2020年3月20日)。

これを裏付けるように、政府専門家会議のメンバーで、川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長が28
日、神奈川新聞社の取材に応じ、全国の学校に一律の休校を要請した政府の対応について「国民への
負担が大きく、現時点では取るべきではないと思う」と話しました。現時点では地域によって感染状
況に差があることから、「地域ごとの対策が有効」との見解を示しました。

さらに岡部氏は、今回の休校措置について、「専門家会議は提言しておらず、諮問もされていない。
政治判断だ」と明らかにしました。(注4)。

休校措置の有効性に関して、もうもう少し根本的な問題を考えてみましょう。

4月1日の専門家会議の見解は「子どもたちは地域の中で(新型コロナウイルスの)感染を拡大させる
役割にほとんどなっていない。そういう情報を得ている」(尾身副座長)。

また、西浦博北海道大学教授(感染症疫学。厚労省クラスター班)は「千人以上の感染者のうち、学校
の中で(新型コロナウイルスの)伝播が起きて流行を拡大させているというエビデンスはない。多くは
家庭内で起きている伝播だ」として「学級や友だち同士で感染が広がっているインフルエンザと相当違
う」との見方を示しています。この点、多くの日本人は誤解しているかも知れません。

また感染症対策理事会理事を務める小児科医の藤岡雅司氏は「つまり、こどもが感染するのは、家庭で
親にたち大人から感染するケースが大半で、子どもから子どもへの感染ではない、とみています。

極論をいえば、「むしろ学校の方が安全?」なのかもしれません。

藤岡氏は中国のデータから、学校での感染事例が報告されていないうちから早々に一斉休校が実施され
たのは「子どもにとってむしろ健康や教育面のデメリットの方が大きい」と一斉休校を批判しています。

実際、休業対象外の保育所や密集が問題となった学童保育では集団感染が起きていないことからも、子
どもから子どもへの感染のリスクは極めて少ないと言えます(『東京新聞2020年4月4日』。

こうした専門家の見解を分かっていたからだと思われますが、専門家会議には相談せず、かといって独
自の科学的根拠をもたないまま、全国一律の一斉休校を要請したのです。

この場合の「要請」とは事実上、地方自治体への指示・命令に近く受け取られたことは良く知られてい
ます。

ここで重要なことは、日本人のほとんどは根拠もなく漠然と、感染を防ぐために学校を休校にすること
は有効で、仕方がない、と思っていることです。

安倍首相は、このような国民感情を計算した上で、全国一斉休校を要請したのでしょう。

そこには、北海道、大阪市、市川市に先を越され、後手後手に回ってしまったことにたいする批判をか
わすため、一気に全国一斉の休校で一気に挽回しようとしたものと思われます。

考えてみればわかることですが、もし、本気で感染症のまん延を防ごうとするなら、家庭にウイルスを
持ち込む危険性のある大人の通勤をストップする方がはるかに効果的です。

しかし、仕事をストップすると、当然のことながら補償の問題が発生します。これにたいして全国一斉
休校は、口先だけでお金は一切かからず、何かを”やってる感”を演出し国民に印象付けることができる、
という安倍首相にとっては、理想的な施策なのです。

しかし、安倍首相の思わくと計算のために実施された全国一律の一斉休校は、当の児童・生徒、彼らの
保護者、教育関係者と社会に多大な混乱と苦しさと与えました。

『東京新聞』(2020年4月30日)の特別報道部編集局は、野外でマスクをして遊んでいる子どもたち
に「三蜜」の問題もないのに、「外出自粛のはずだろう」と声を荒げる事例が各地で起きているに対し
て次のように指摘しています。

「子どもたちに一律に自粛や休校を強いるのは、およそ合理的ではない、それでもまだ強いるとすれば、
「大人も自粛だから子どもも自粛」といった理不尽な自粛ファッショ、あるいは「自粛と言っておけば、
自粛をしなかった者が悪いと責任転嫁できる」という打算ではないか、と。

続いて、編集局は、一か月前の会議で、専門家会議は「三月の休校に感染防止の効果はなかった」とは
っきり言うべきだったにもかかわらず、座長の脇田隆字氏は、「国民にコロナにたいする対策を呼び掛
けると言う意味ではかなりのインパクトがあった」と、独断で一斉休校を決めた安倍政権への忖度とも
とれる、ズレた発言をしている、と手厳しい。

この一斉休校の代々の被害者は児童・生徒で、大人の自粛とは異なり、金銭的補償の問題はありません。
しかし、前文部次官の前川喜平氏は、教育の機会を奪ったと言う意味で、「教育の補償」という大きな
問題が残る、また「子どもの一日は大人の一か月にも匹敵する。一日一日が大切な遊びと育ちの時間な
のだということを忘れてはならない」と本質を突いた問題を提起しています(『東京新聞』2020年4月
12日)。

このほか、子どもが家にいることで出勤できず収入が減少して経済苦に追い込まれた家庭(とりわけシ
ングルマザーの家庭)、特に深刻なのは生活困窮者の子で、給食が重要な栄養源になっている子が多い
のに、その給食が学校とともに止まってしまっています。

当の児童・生徒にとっても親にとっても、学年最後と最初の学習の機会を奪われ、卒業式や入学式は一
生の思い出に残る大切な機会を奪ってしまった休校。

一斉休校は果たして、あまりにも大きすぎる犠牲を強いることを正当化するに値する必然性と合理的根
拠があっただろうか?

もう一つ、国会での議論も内閣内での検討もなく、あたふたと出した休校要請を出した時、安倍首相の
頭の中に、それによってどれほどの犠牲が発生するのかを描く想像力が働いたのだろうか?

私には、どうひいきめに見ても、安倍首相にそのような想像力が働いたとは思えないし、確固たる哲学
に基づき熟慮の末に要請を出したとも思えません。

私は、休校そのものを前面的に否定するものではありません。それは既に紹介した岡部医師が主張する
ように、「地域ごとの対策」を考えるべきだと思う。

(注1)『朝日新聞』(2020年2月28日 22時28分)
https://www.asahi.com/articles/ASN2X74BSN2XUTFK03F.html?ref=mor_mail_topix1
(注2)『毎日新聞』デジタル(2020. 2/16)
https://mainichi.jp/articles/20200216/k00/00m/040/095000c
(注3)BusinessInsider (Feb. 28, 2020, 07:15 PM)
https://www.businessinsider.jp/post-208585
(注4)『神奈川新聞』(2020年02月28日 21:31)
    https://www.kanaloco.jp/article/entry-284598.html





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検証「新型コロナウイルス肺炎」(5)―PCR検査に関する専門家会議への疑問―

2020-05-03 09:42:14 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(5)
―PCR検査に関する専門家会議への疑問―

今回のコロナ問題が始まった、かなり早い段階から、私自身も感じていたし、テレビでもずっと
疑問を投げかけてきました。

私の疑問は、なぜ、PCR検査(遺伝子解析による検査)の数が増えないのか、という問題です。

2020年4月28日現在、1000人当たりPCR検査の割合を見ると、トップのアイスランドは別
格の135人ですがが、日本は1.8人でOECD36カ国中下から2番目の35位です。欧米諸国は20
人代から少なくても10人前後です(注1)。

最近は大学や医療機関が独自におこなうばあいもありますが、通常はPCR検査を希望する人は、
まず保健所に相談して、検査機関につないでもらう、という手順をふむことになっています。

しかし、保健所への電話がとても繋がりにくい上に、つながっても、よほどの重症と見なされない
かぎり、検査にまではゆきません。

こうした実態に対して、メデイアなどではこれまで、希望者全員が検査を求めて押し寄せたら医療
崩壊が起こるから、というもっともらしい説明がしばしば行われてきました。

しかし、こうした説明は当然のように見えて、実は実態をみていない的外れです。なぜなら、誰も、
希望者全員に、といっているのではありません。かかりつけの医師か、町のクリニックの医師が必
要と認めた場合は、という条件の下で、という意味広く検査すべきなのです。

しかし実際には、かかりつけ医が必要を認めて直に連絡しても、受付窓口である保健所ができる限
り検査人数を絞っているのが実態です。

ある医師はテレビで、自分が患者を診察して、明らかに検査が必要だと認めて、保健所に連絡して
も、保健所の職員は患者を診てもいないのに、検査を拒否している、と怒っていました。

そもそも保健所は、患者の治療に関与する臨床の場ではありません。その保健所で検査が必要かど
うかを判定していること自体おかしなことです。

それでは、保健所はどんな根拠で、検査の必要性と受信を判定しているのでしょうか?保健所、国
民向けホームページで、保健所などへの相談の目安として「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日
間以上(高齢者や基礎疾患がある人は二日程度)続く」か「強いだるさや息苦しさがある」と示し
ています。ただ、これに当てはまらなくても「医師が必要と判断したもの検査も受けられる」と示
しているが、同じ場所に記載がありません。

この「目安」(事実上基準)は、政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(以下「専
門家会議」と略す)が2月17日に示したものです。

しかし、専門家会議の副座長の尾身茂氏は国会に参考人として呼ばれ、その「4日」の根拠を聞か
れて、特に根拠があるわけではなく、ただ実施機関のキャパシティーを考慮して、4日とした、と
答えています。

専門家会議というのは、あくまでも「科学」の目で分析し、そこから得られた知見を正確に世の中
に伝えるべきで、現場の事情に忖度して物事を決めるべきではありません。 

この「発熱4日以上」の縛りで、どれほどの人が不安を抱え、ある人はそのために重症化したり亡
くなったかも知れないのに、誤りを認めることもなく、さらっと、言ってのけたことに私は、この
専門家委員会とは一体、誰のために、どんな倫理感を持っているのか疑問に思いました。

専門家会議はPCR検査について、2月24日の「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に
向けた見解」の中で、「急激な感染拡大に備え、限られたPCR検査の資源を、重症化のおそれがある
方の検査のために集中させる必要がある」と表明しているのです。

医療は、早期発見、早期治療が大原則ですが、専門家会議の方針は全く原則に反しています。

検査を絞った背景には、専門家委員会が、検査を重症者と「クラスター(感染集団)」を見つけるこ
とを戦略としていたことも大きく影響しています。

当初の屋形船での集団感染のような感染パターン、あるいはライブハウスが発生源となった大阪のク
ラスターなどの事例から、クラスターを見つけて潰してゆけばこの新型コロナ肺炎は撲滅できる、と
の印象をもったのかもしれません。

しかし、クラスターに照準を定めて検査を絞ってゆく戦略は、とりわけ今年の4月以降には経路の分
からない(つまりクラスター感染ではない)感染が半分から3分の2を占める状況では、もはや破綻
していると言わざるを得ません。

言い換えると、重症者に検査を集中している間に、検査をしてもらえなかった比較的症状が軽い人た
ちが周囲に感染を広め、いわゆる市中感染が広がっているのです。

東京および首都圏や大阪などの大都市では、市中感染が浸透してしまっているので、いくら「三蜜」
(密閉、密集・密着)を避ける行動変容を、と呼びかけても、コロナウイルスはすでの広く浸透して
しまっているので、陽性者はなかなか減りません。

私は、こうしてPCRを絞りに絞ってきた厚労省と、厚労省に医学的なアドバイスを与えてきた専門
家委員会の責任は重大だと思います。

徹底的に検査の範囲を広げ、感染がどこまで広がっているのかを確認しないかぎり、これからコロナ
ウイルスとどのように戦っていくかの戦略は立てられないのです。

しかし、実態は、悲惨な状態です。たとえば、自らの体験談を話した女性は、せきが一か月以上続き、
微熱や倦怠感、味覚・嗅覚の異常もあったが、検査はすぐには受けられなかった、という。しかし、
このような話は、テレビで何回も紹介されています。

日本医師会の横倉義武会長は4月28日の記者会見で、PCR検査につて「医師が診察し、検査をす
べきだと判断した人にはしていくべきだ」と述べ、検査の必要性は保健所ではなく医師の判断で行う
べきである、と、まっとうな発言をしています(『東京新聞』2020年4月29日)。

では、実際に、どれほどの相談があって、実際にどれほどがPCR検査に至ったのかを、東京都を事
例としてみてみよう。

厚労省のホーム・ぺ―ジから「帰国者・接触者相談センターの相談件数等(都道府県別)(2020年4月
4日掲載分)にゆくと「2月1日~3月31日」の間の「相談件数」と「外来受診患者数」およびその内の
「PCR検査実施件数」の県別統計を見ることができる。

東京都の場合、「相談件数」は41,105件であるのに対して「受診者数」は1,727人で、その内のPCR検
査実施件数は964件でした。

「相談」の内容はくわしくは分かりませんが、「相談」から「受診」まで漕ぎつけるのは4.2%で、さ
らに「検査」に漕ぎ着けられるのは2.3%、残り97.7%は検査にまで至っていないのです(注2)。

5月1日に行われた専門家会議の議論の結果は公表されています。その中で、
    日本では、保健所による積極的疫学調査により、地域に感染者が複数出た場合に共通の感染
    集団(クラスター)を特定し、次のクラスターを潰してゆくことに取り組んできた。しかし、
    感染者数の急増とともに、クラスター対策が困難になりつつあり、したがって検査に関して、
    政府は、感染者の迅速診断キットの開発等による早期診断、早期把握に向けて、PCR等検査
    体制の拡充に努めていかなければならない。・・・この感染者の早期把握の能力をあげてい
    くことが重要である。 ・ また、今後、中長期の対応を見据える中で、より簡便な検査手法の
    開発と診療現場での使用に向けて全力で取り組むべきである。・・・・ PCR等検査について
は、次の専門家会議で再度議論を行う(注3)。

この段階になってようやく、クラスター中心の対策が困難になったこと、したがって今後、検査を拡
充する(つまり広く網をかける)必要があることを認めています。

しかし、この「提言」には、これまでのクラスターを追いかけることに集中し、検査を絞ってきたこ
とが間違っていたことを認める文言はありません。

ここでも、いつの間にか、検査抑制論から拡充論へ、するりと方針転換しています。この間、国民は
実に三か月を空費したのです。このような転換に際していは、まず、謙虚にこれまでの政策の是非を
検証する必要があります。

検査の拡大に関して韓国は、ドライブスルーやウォークスルーなどの方法で徹底的に検査を行い、陽
性者をさまざまな施設に隔離し、治療することで、コロナウイルスの制圧にほぼ成功しました。この
方法は今や、世界標準になりつつあります。

PCR検査に関して、最近、アメリカ、香港、イタリアなどで治験が進められており、その有効性が
実証されつつあります。日本では北海道大学血液内科の豊嶋崇徳教授も唾液によるPCRの臨床をお
こなってきて、次のように語っています。すこし長くなりますが、重要なことなので、引用します。
    新型コロナウイルスというのは、ある特定の受容体にくっつき、その発現が口の中で多いこ
    とが分かってきました。おそらく症状の出ない人の味覚に異常が出るのも、このためだと思
    われます。つまり、口の中でウイルスが増えてうつす、こういう流れです。そのため、すで
    に米国ニュージャージー州ではドライブスルー方式で唾液を採取するPCR検査法が始まっ
    ています。
    今のPCR検査のやり方(綿棒方式)の問題点は、熟練した採取者の確保が困難なことや、
    採取者や周囲の感染リスクがあること、隔離された採取場所が必要なこと――が挙げられま
    す、しかし、この唾液を使ったPCR検査だと、容器に唾を吐いてもらうなどして検体を採
    取して調べることができます。これだと感染のリスクも抑えられるし、隔離された場所も必
    要ありません。ただでさえ、ひっ迫する防御具を浪費する心配もないのです。今のところ臨
    床段階ですが、綿棒採取と唾液採取の結果は変わりません」
    米ラトガース大の試験によると、60人に対する綿棒方式と唾液採取によるPCR検査の結果
    は同じ。イェール大の試験では、新型コロナウイルスのPCR検査の検体として、咽頭ぬぐ
    い液よりも唾液の方が、ウイルス量が約5倍多かったという。海外のデータを取り入れなが
    ら症例を重ね、いずれは(唾液採取に)切り替えた方がいいのではないか(注4)。

唾液検査なら、自分でも、町のクリニックでも可能で、しかも採取者が飛沫を浴びる危険もありませ
ん。いまのところ感度が低い、という意見もありますが、試薬の改善によって、さらに精度は上がる
と思います。

唾液検査にたいして、現態勢に既得権益をもつ人々から反対されるかもしれませんが、何よりも、で
きる限り広く検査をし、陽性の人を隔離し、陰性の人は経済活動や社会活動に復帰すべきです。

自らも医師でダイアモンド・プリンセス号の患者を受け入れた山梨大学の島田学長は、PCR検査を
もっと広げるべきなのに、日本におけるPCR検査の状況は、日本の恥、途上国並、と現状を痛烈に
批判しています(注5)。

最後に、今、国のコロナ対策を事実上統括している、専門家会議についてある危惧を抱いていますの
で、それを補足しておきます。

医療ガバナンス研究所理事長の上昌弘氏によれば、この専門家会議は国立感染症研究所(感染研)の
意向が通よく働いているという。委員は全部で12名。座長は国立感染症研究所の所長です。

3月からPCR検査は保険適用になったが、対象は限定されていて、検査は広がっていません。上氏
は、
    一番の問題は、感染研にあると思います。当初から、感染研が検査を全部引き受けることに
    なっていました。感染研はあくまでも研究所であり、日本中の検査を引き受けたら、どう考
    えてもキャパ(受け入れ能力)を超えます。その結果、目の前で「検査が必要」というのに、
    受話器の奥にいる保健所が「必要ない」と医師を説得に回る“異常事態”が広がった
と述べた後、「私は感染研がお金とデータを握りたいことが関係していると思う。保険適用が広がれ
ばお金もデータも外に出ていきますから」と分析しています(『毎日新聞』2020年3月18日 夕刊)。

本年2月13日、第8回の新型コロナウイルス感染症対策本部会議に提出された「新型コロラウイルス
(COVID-19)の研究開発について」という資料3によると、緊急対策として総額19.8億円が措置され
ている。内訳は、感染研に9.8億円、日本医療研究開発機構(AMED)に4.6億円、厚労科研に5.4億円。

この資料は「資料3 健康・医療戦略室提出資料」と書かれている。その「健康・医療戦略室」を仕切
るのは、国土交通省OBの和泉洋人室長(首相補佐官)と、医系技官の大坪寛子次長だ。最近、週刊誌
を騒がせているコンビが、この予算を主導したことになる。大坪氏の経歴も興味深い。慈恵医大を卒
業し、感染研を経て、厚労省に就職している。専門家会議のメンバーと背景が被る(注6)。

この予算配分をみると、感染研向けの予算配分が突出していることは明かです。

私は、専門家会議が、「原子力村」と揶揄された、原発推進グループのような、「感染研村」のような
組織にならないことを祈っています。

(注1)『Yahoo ニュース Japan』4/30(木) 21:51
    https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashikosuke/20200430-00176176/
(注2)厚労省 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000619807.pdf
Yahoo NEWS Japan 4/9(木) 14:00
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20200409-00172312/
(注3)(注2)この会議の「提言」は本文14ぺ―ジと参考資料からなる。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000627254.pdf 引用は12ページ。
(注4)『日刊ゲンダイ』デジタル 4/28(火) 16:10配信 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200428-00000028-nkgendai-hlth
(注5)「医療維新」山梨大学 (オピニオン 2020年4月22日)
    https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2020/03/6bf1e59badd192ea0597a659e94a9d59.pdf
(注6)上昌広 「帝国陸海軍の「亡霊」が支配する新型コロナ「専門家会議」に物申す(上)Foresight (2020年3月5日) https://www.fsight.jp/articles/-/46603  
 


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