検証「新型コロナウイルス肺炎」(8)
―コロナは社会的弱者に過酷を強いる―
ある社会がどれほど成熟しているかは、その社会が危機や厳しい状況に直面した時、どれほど
弱者を守ることができるかをみると良く分かります。
成熟社会は平時から、いざという時に備えて、制度として社会的弱者を救済する仕組をもって
います。
さて、今回のコロナ禍は、はたして社会的弱者を守っているのでしょうか、あるいはどの程度
守っているのでしょうか? 今回はこの点を検証してみたいと思います。
ここで取りあげる「社会的弱者」とは、従来から生活上の困難を抱えている人で、とりわけ経
済的に不安定で低所得の状態にある人、具体的には契約社員、パート労働などの非正規で働い
ている人たちです。
中でも、このコロナ禍でもっとも深刻な困難に直面しているのは、子どものいる一人親家庭
(その大部分は子どものいるシングルマザー家庭)です。
NPO法人「しんぐるまざあーず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長は、新型コロナウイルスの
影響で困窮するシングルマザーについてコメントしています。その内容はあまりに衝撃的です。
もちろん、シングルマザー家庭だけが困窮しているわけではありませんが、これらの家庭が特
別に深刻な状況に追い込まれている、という意味で象徴的です。
赤石氏によると、4月以降、シングルマザーからの相談が急増し、「子供がおなかをすかせてい
ても、食べさせるものがない」「公園の水や野草で空腹を満たしている」など、驚くべき内容
もあったそうです。
また、彼女たちの多くがパートなどの非正規で雇用されているため、自粛と企業の休業などで
自宅待機で収入が減るという人が半数以上。中には、子供の保育園が休みになったと相談した
ら、「だったら来なくていい」と言われたケースもあったという(注1)
あるいは、離婚した夫から養育費はもらっておらず、借金もある。フードバンクからの食材を
少しでも長持ちさせるため、自身は1日1食で済ませているという(注2)。
もっと、厳しい事例では、子どものため2日に1度しか食事をしない母親の例も報告されてい
ます(注3)
休校で給食がないため、食費が多くなってしまい、「お米のヘリが早すぎる。助けて!」とか、
保育園の都合で休むと収入は保障されない、など切実な問題もごく一般的な状況です(注4)。
また、シングルマザーの家庭の子どもにとって、もっとも重要な栄養源は給食だったのに、休
校のためそれが無くなってしまったことが大きな痛手だという声は多い。
多くのシングルマザーは、コロナ感染の危険と経済苦との二重の苦悩を抱えています。
現金給付が10万円で決定されたのはありがたいが、4月上旬から外出自粛が始まり、支
給が5月では4月の支払いはできません。親がコロナになった時に、子供を見てくれる人
がいない。子供を一人残すわけにはいかない」、「休校にしたりする前にしっかりした保
証を先に考えてほしかったです。家ですごそうといいますが、本当に困っている家庭は
一日分の給料さえ大事なので休む事もで゙きません」。
「ひとりじゃないよプロジェクト」のウエッブ・アンケートによれば、シングルマザーの9割は
コロナの影響をうけ、8割は経済的に苦しいと答えています。苦境への対応は、74%が食費を
切り詰めている、そして貯金を切り崩することです(注5)。
同様の悲壮な声は他にも幾つもあります。たとえば、
仕事ができなく収入が減って、食べるばかりの子達なのでお金がない。電気代水道ガス
代がかかるからもう家族全員で路上生活するしかありません。わたしは血圧が高く救急
車のお世話になり、 何回も病院に行った糖尿病もあります。どうすればいいのかわから
ないので神さま子達を守ってくださいと祈ってます。
とった切羽詰まった声もあります(注6)。
シングルマザーに対して企業は、一方的に退職を突きつける場合が多い。しかし、こうした措置
にたいして個々のシングルマザーは裁判などで争う資金も手段もなく、泣き寝入りしているのが
実態です。
上記の「ふぉーらむ」が4月上旬、同法人会員を対象に調査を実施し、子どもがいるシングルマ
ザー約200人から回答を得ました。
それによると、一斉休校により仕事を休んだ母親は16%、うち休業補償の対象となる小学生な
どのいる親に聞いたところ、休業補償を受けられるか「分からない」と答えた人は56%に上り
ました。
政府は小学校や幼稚園などに通う子どもの世話をする必要がある保護者に特別な有給休暇を取得
させた企業に対して日額8330円を上限に助成金を支給することにしましたが、企業が申請し
なければ補償を受け取ることはできません。
シングルマザーのうち26%が「(保障を)受けられないと答え、望むこととして78%は「す
ぐに現金支給が欲しい」が78%と最多で、経済的な困窮ぶりが浮き彫りになりました。
4月の前半までに、実際に受け取ることができたのは、4月19%にとどまっていました(『東
京新聞』2020年4月14日)。
もちろん、苦境にたたされているのはシングルマザーだけではありません。たとえば、派遣社員
の場合をみてみよう。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業の一部で在宅勤務(テレワーク)が定着する中、
非正規社員には在宅勤務は認められていないのが実態です。
今年の4月から施行された、非正規社員への差別的扱いを禁じる「同一労働同一賃金関連法」は
賃金だけでなく待遇差別も禁じています。
しかし、実際には派遣社員は賃金格差どころか、正社員より高い感染リスクという「命の格差」
に直面する場合さえあります。
東京都内の大手企業で働く派遣社員の30代女性Aさんに、人事部は「派遣は出勤か、自己都合
で休むかの二択です」と言い放ったという。
Aさんは妊娠中で、妊婦が肺炎になると重症化しやすいため、感染のリスクがある満員電車での
通勤が不安でした。Aさんの仕事はパソコンの入力です。
正社員の場合、3月から在宅勤務が認められており、Aさんは「自分も」と相談したが、「派遣
の場合は不可」の一点張り。やむなく休業を選びましたが、休業手当も派遣会社に拒否され収入
がゼロになってしまいました。
Aさんの夫は労働局に救済を求めましたが、「在宅勤務の扱いは法律の条文になく、問題はない」
と門前払いされてしまいました(『東京新聞』2020年5月29日)。
5月から、妊婦にかんしては医師診断を受け在宅勤務などを希望した時には企業に応じるよう義
務付けました。しかし、妊婦が雇い止めを気にして申告できるかどうか疑問です。
これは、派遣会社が得意先の企業に遠慮して、派遣社員の処遇をなおざりにしているからです。
企業が休業させる社員にひとまず休業手当を支給し、その財源としてハローワークや労働局に申
請すると助成金が出ます。これを「雇用調整助成金」といいます。
しかし、これまで会社が休業手当を非正規社員に手当を支給しない例が相次ぎました。というの
も、法律上は、政府や知事の要請での休業は企業都合でないため、休業手当の支給を免除する場
合があり、企業が支給の「義務がない」と主張してきたからです(『東京新聞』2020年5月28
日)。
安倍首相は、助成金のメニューだけは、あれこれ揃えて、これほど手厚い助成は世界でも類がな
い「空前絶後」の手厚さである、と胸を張りますが実際はどうでしょうか。雇用調整助成金を例
に、その実数を見てみましょう。
2020年5月26日現在、雇用調整助成金の受理された申請は計5万954件、うち2万6507
件の支給が決まりまっています(まだ振り込まれているわけではありません)。
この数字だけ見ると、約半分(それでやっと半分)近くは決定しているので、まあなんとか機能
しているように見えますが、それは全体の一端を示すにすぎません。
というのも、そもそもこの助成金を申請するために相談した件数は、37万6400件あり、そ
れが実際に受理されて、決定に至ったのが、わずか2万6500件、つまり7パーセントにすぎ
ません。残りの93%はおそらく受理さえされなかったのでしょう。
金額ベースでみると、5月22日時点では、1次、2次補正予算で計1兆6000億円計上され
ましたが、実際に決定したのはわずか90億円だけです(注8)。
しかも、この申請のために立ち上げたオンライン申請は、受付開始から一時間でシステムトラブ
ルが発生して停止してし、再開のめどが立っていなません。
コロナ禍の影響が大きい観光、飲食、小売などの中小事業者を中心に、助成金の申請をあきらめ
る事業者もでています。
申請手続きは煩雑で、経理担当の社員でも記入は大変で時間がかかります。余裕がない会社はで
きるだけ早く資金を確保しなくてはならず、支給まで待てません。申請を社会保険労務士などの
専門家に依頼することもできますが、中小の事業者にはこうした専門家に依頼する資金的余裕も
なく、あきらめて廃業や倒産に追い込まれてしまう可能性をかえています(『東京新聞』2020年
5月28日)。
最後に、日本全体の状況を見ておきましょう。今や、非正規だけでなく正社員さえもいつ解雇さ
れるか分からないのが現実です。
新型コロナウイルスが、子育て中や非正規など立場の弱い労働者の雇用を直撃しています。解雇
や雇い止めだけでなく、働いていた店舗が休業となって、実質的に仕事を失った人も多い。5月
29日発表の完全失業率は前月比0・1ポイント悪化の2・6%で、休業者は前年同月から420万人増
えて(!)597万人になったのです。失業者からは「コロナ不況」が本格化することへの懸念の
声が漏れてきます。
正社員の解雇の実例をひとつだけ挙げておきます。首都圏の旅行会社に正社員として勤めていた
40代女性は3月上旬、社長に呼び出され突然解雇を告げられました。会社から詳しい説明はなか
ったが、退職日に渡された解雇証明書には「新型コロナウイルスのまん延による極端な業績低下
(予約のキャンセル等)」の一文が記されていまし。Aさんの先輩の男性社員も同時に解雇され
ました(注7)。
こうして解雇された人や失業した人には家族が、子どもがいることを考えると、政府は本当に弱
い立場の人たちにこそ、第一に手を差し伸べるべきだと思います。
これまでの政府の施策をみていると、優先順位が違うのではないか、と思われる事業が多くあり
ます。人口減少に歯止めがかからない日本の現状を考えるなら、将来を担う子どもと、こどもを
抱えて苦闘しているシングルマザーへの援助は最優先課題の一つだと思います。
(注1)『朝日新聞』(デジタル版) 2020年5月13日 18時30分
https://digital.asahi.com/articles/ASN5F5FPHN5FULFA003.html?pn=2
(注1)日経ビジネス 2020年5月26日
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00075/
(注2)西日本新聞 2020年5月29日
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/601757/
(注3) 『朝日新聞』(デジタル版)2020年5月20日
https://digital.asahi.com/articles/ASN5M6Q7DN5MUTFL00F.html?pn=4
『朝日新聞』(デジタル版)2020年5月20日
https://www.asahi.com/articles/ASN5M6Q7DN5MUTFL00F.html?ref=mor_mai l_topix3_6
(注4)『認定NPO法人フローレンス「一斉休校に関する緊急全国アンケート」』
『HUFFPOST』(2020年03月12日11時30分) https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e697c03c5b6bd8156f11a33
(注5)『Business Insider』(May 8,2020:12:00 pm)
https://www.businessinsider.jp/post-212523
(注6)FRaU (2020年4月8日)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71964
(注7)『毎日新聞』(電子版2020年5月29日19時29分(最終更新5月29日19時30分)
https://mainichi.jp/articles/20200529/k00/00m/040/189000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20200530
(8)日経新聞 デジタル(2020/5/31 2:00)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59799750Q0A530C2EA3000/?n_cid=NMAIL007_20200531_A
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梅雨を前に咲き誇るアジサイの近映 アジサイの群落
―コロナは社会的弱者に過酷を強いる―
ある社会がどれほど成熟しているかは、その社会が危機や厳しい状況に直面した時、どれほど
弱者を守ることができるかをみると良く分かります。
成熟社会は平時から、いざという時に備えて、制度として社会的弱者を救済する仕組をもって
います。
さて、今回のコロナ禍は、はたして社会的弱者を守っているのでしょうか、あるいはどの程度
守っているのでしょうか? 今回はこの点を検証してみたいと思います。
ここで取りあげる「社会的弱者」とは、従来から生活上の困難を抱えている人で、とりわけ経
済的に不安定で低所得の状態にある人、具体的には契約社員、パート労働などの非正規で働い
ている人たちです。
中でも、このコロナ禍でもっとも深刻な困難に直面しているのは、子どものいる一人親家庭
(その大部分は子どものいるシングルマザー家庭)です。
NPO法人「しんぐるまざあーず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長は、新型コロナウイルスの
影響で困窮するシングルマザーについてコメントしています。その内容はあまりに衝撃的です。
もちろん、シングルマザー家庭だけが困窮しているわけではありませんが、これらの家庭が特
別に深刻な状況に追い込まれている、という意味で象徴的です。
赤石氏によると、4月以降、シングルマザーからの相談が急増し、「子供がおなかをすかせてい
ても、食べさせるものがない」「公園の水や野草で空腹を満たしている」など、驚くべき内容
もあったそうです。
また、彼女たちの多くがパートなどの非正規で雇用されているため、自粛と企業の休業などで
自宅待機で収入が減るという人が半数以上。中には、子供の保育園が休みになったと相談した
ら、「だったら来なくていい」と言われたケースもあったという(注1)
あるいは、離婚した夫から養育費はもらっておらず、借金もある。フードバンクからの食材を
少しでも長持ちさせるため、自身は1日1食で済ませているという(注2)。
もっと、厳しい事例では、子どものため2日に1度しか食事をしない母親の例も報告されてい
ます(注3)
休校で給食がないため、食費が多くなってしまい、「お米のヘリが早すぎる。助けて!」とか、
保育園の都合で休むと収入は保障されない、など切実な問題もごく一般的な状況です(注4)。
また、シングルマザーの家庭の子どもにとって、もっとも重要な栄養源は給食だったのに、休
校のためそれが無くなってしまったことが大きな痛手だという声は多い。
多くのシングルマザーは、コロナ感染の危険と経済苦との二重の苦悩を抱えています。
現金給付が10万円で決定されたのはありがたいが、4月上旬から外出自粛が始まり、支
給が5月では4月の支払いはできません。親がコロナになった時に、子供を見てくれる人
がいない。子供を一人残すわけにはいかない」、「休校にしたりする前にしっかりした保
証を先に考えてほしかったです。家ですごそうといいますが、本当に困っている家庭は
一日分の給料さえ大事なので休む事もで゙きません」。
「ひとりじゃないよプロジェクト」のウエッブ・アンケートによれば、シングルマザーの9割は
コロナの影響をうけ、8割は経済的に苦しいと答えています。苦境への対応は、74%が食費を
切り詰めている、そして貯金を切り崩することです(注5)。
同様の悲壮な声は他にも幾つもあります。たとえば、
仕事ができなく収入が減って、食べるばかりの子達なのでお金がない。電気代水道ガス
代がかかるからもう家族全員で路上生活するしかありません。わたしは血圧が高く救急
車のお世話になり、 何回も病院に行った糖尿病もあります。どうすればいいのかわから
ないので神さま子達を守ってくださいと祈ってます。
とった切羽詰まった声もあります(注6)。
シングルマザーに対して企業は、一方的に退職を突きつける場合が多い。しかし、こうした措置
にたいして個々のシングルマザーは裁判などで争う資金も手段もなく、泣き寝入りしているのが
実態です。
上記の「ふぉーらむ」が4月上旬、同法人会員を対象に調査を実施し、子どもがいるシングルマ
ザー約200人から回答を得ました。
それによると、一斉休校により仕事を休んだ母親は16%、うち休業補償の対象となる小学生な
どのいる親に聞いたところ、休業補償を受けられるか「分からない」と答えた人は56%に上り
ました。
政府は小学校や幼稚園などに通う子どもの世話をする必要がある保護者に特別な有給休暇を取得
させた企業に対して日額8330円を上限に助成金を支給することにしましたが、企業が申請し
なければ補償を受け取ることはできません。
シングルマザーのうち26%が「(保障を)受けられないと答え、望むこととして78%は「す
ぐに現金支給が欲しい」が78%と最多で、経済的な困窮ぶりが浮き彫りになりました。
4月の前半までに、実際に受け取ることができたのは、4月19%にとどまっていました(『東
京新聞』2020年4月14日)。
もちろん、苦境にたたされているのはシングルマザーだけではありません。たとえば、派遣社員
の場合をみてみよう。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業の一部で在宅勤務(テレワーク)が定着する中、
非正規社員には在宅勤務は認められていないのが実態です。
今年の4月から施行された、非正規社員への差別的扱いを禁じる「同一労働同一賃金関連法」は
賃金だけでなく待遇差別も禁じています。
しかし、実際には派遣社員は賃金格差どころか、正社員より高い感染リスクという「命の格差」
に直面する場合さえあります。
東京都内の大手企業で働く派遣社員の30代女性Aさんに、人事部は「派遣は出勤か、自己都合
で休むかの二択です」と言い放ったという。
Aさんは妊娠中で、妊婦が肺炎になると重症化しやすいため、感染のリスクがある満員電車での
通勤が不安でした。Aさんの仕事はパソコンの入力です。
正社員の場合、3月から在宅勤務が認められており、Aさんは「自分も」と相談したが、「派遣
の場合は不可」の一点張り。やむなく休業を選びましたが、休業手当も派遣会社に拒否され収入
がゼロになってしまいました。
Aさんの夫は労働局に救済を求めましたが、「在宅勤務の扱いは法律の条文になく、問題はない」
と門前払いされてしまいました(『東京新聞』2020年5月29日)。
5月から、妊婦にかんしては医師診断を受け在宅勤務などを希望した時には企業に応じるよう義
務付けました。しかし、妊婦が雇い止めを気にして申告できるかどうか疑問です。
これは、派遣会社が得意先の企業に遠慮して、派遣社員の処遇をなおざりにしているからです。
企業が休業させる社員にひとまず休業手当を支給し、その財源としてハローワークや労働局に申
請すると助成金が出ます。これを「雇用調整助成金」といいます。
しかし、これまで会社が休業手当を非正規社員に手当を支給しない例が相次ぎました。というの
も、法律上は、政府や知事の要請での休業は企業都合でないため、休業手当の支給を免除する場
合があり、企業が支給の「義務がない」と主張してきたからです(『東京新聞』2020年5月28
日)。
安倍首相は、助成金のメニューだけは、あれこれ揃えて、これほど手厚い助成は世界でも類がな
い「空前絶後」の手厚さである、と胸を張りますが実際はどうでしょうか。雇用調整助成金を例
に、その実数を見てみましょう。
2020年5月26日現在、雇用調整助成金の受理された申請は計5万954件、うち2万6507
件の支給が決まりまっています(まだ振り込まれているわけではありません)。
この数字だけ見ると、約半分(それでやっと半分)近くは決定しているので、まあなんとか機能
しているように見えますが、それは全体の一端を示すにすぎません。
というのも、そもそもこの助成金を申請するために相談した件数は、37万6400件あり、そ
れが実際に受理されて、決定に至ったのが、わずか2万6500件、つまり7パーセントにすぎ
ません。残りの93%はおそらく受理さえされなかったのでしょう。
金額ベースでみると、5月22日時点では、1次、2次補正予算で計1兆6000億円計上され
ましたが、実際に決定したのはわずか90億円だけです(注8)。
しかも、この申請のために立ち上げたオンライン申請は、受付開始から一時間でシステムトラブ
ルが発生して停止してし、再開のめどが立っていなません。
コロナ禍の影響が大きい観光、飲食、小売などの中小事業者を中心に、助成金の申請をあきらめ
る事業者もでています。
申請手続きは煩雑で、経理担当の社員でも記入は大変で時間がかかります。余裕がない会社はで
きるだけ早く資金を確保しなくてはならず、支給まで待てません。申請を社会保険労務士などの
専門家に依頼することもできますが、中小の事業者にはこうした専門家に依頼する資金的余裕も
なく、あきらめて廃業や倒産に追い込まれてしまう可能性をかえています(『東京新聞』2020年
5月28日)。
最後に、日本全体の状況を見ておきましょう。今や、非正規だけでなく正社員さえもいつ解雇さ
れるか分からないのが現実です。
新型コロナウイルスが、子育て中や非正規など立場の弱い労働者の雇用を直撃しています。解雇
や雇い止めだけでなく、働いていた店舗が休業となって、実質的に仕事を失った人も多い。5月
29日発表の完全失業率は前月比0・1ポイント悪化の2・6%で、休業者は前年同月から420万人増
えて(!)597万人になったのです。失業者からは「コロナ不況」が本格化することへの懸念の
声が漏れてきます。
正社員の解雇の実例をひとつだけ挙げておきます。首都圏の旅行会社に正社員として勤めていた
40代女性は3月上旬、社長に呼び出され突然解雇を告げられました。会社から詳しい説明はなか
ったが、退職日に渡された解雇証明書には「新型コロナウイルスのまん延による極端な業績低下
(予約のキャンセル等)」の一文が記されていまし。Aさんの先輩の男性社員も同時に解雇され
ました(注7)。
こうして解雇された人や失業した人には家族が、子どもがいることを考えると、政府は本当に弱
い立場の人たちにこそ、第一に手を差し伸べるべきだと思います。
これまでの政府の施策をみていると、優先順位が違うのではないか、と思われる事業が多くあり
ます。人口減少に歯止めがかからない日本の現状を考えるなら、将来を担う子どもと、こどもを
抱えて苦闘しているシングルマザーへの援助は最優先課題の一つだと思います。
(注1)『朝日新聞』(デジタル版) 2020年5月13日 18時30分
https://digital.asahi.com/articles/ASN5F5FPHN5FULFA003.html?pn=2
(注1)日経ビジネス 2020年5月26日
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00075/
(注2)西日本新聞 2020年5月29日
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/601757/
(注3) 『朝日新聞』(デジタル版)2020年5月20日
https://digital.asahi.com/articles/ASN5M6Q7DN5MUTFL00F.html?pn=4
『朝日新聞』(デジタル版)2020年5月20日
https://www.asahi.com/articles/ASN5M6Q7DN5MUTFL00F.html?ref=mor_mai l_topix3_6
(注4)『認定NPO法人フローレンス「一斉休校に関する緊急全国アンケート」』
『HUFFPOST』(2020年03月12日11時30分) https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e697c03c5b6bd8156f11a33
(注5)『Business Insider』(May 8,2020:12:00 pm)
https://www.businessinsider.jp/post-212523
(注6)FRaU (2020年4月8日)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71964
(注7)『毎日新聞』(電子版2020年5月29日19時29分(最終更新5月29日19時30分)
https://mainichi.jp/articles/20200529/k00/00m/040/189000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20200530
(8)日経新聞 デジタル(2020/5/31 2:00)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59799750Q0A530C2EA3000/?n_cid=NMAIL007_20200531_A
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梅雨を前に咲き誇るアジサイの近映 アジサイの群落