聖火リレーへの強い違和感―無責任で無神経な人集め―
聖火リレーは3月25日から7月23日に新国立競技場で行われる開会式まで121日間をかけ、
約1万人のランナーが全国の859市区町村を巡りますが、海外メディアも、聖火リレーのス
タートを次々と報じました。
テレビでは毎日のように、聖火ランの映像が放送されています。しかし、私はどうしよも
なく強い違和感、というよりむしろ憤り感じます。
まず、このコロナパンデミックの最中、一方で、多くの医療従事者は自らの命の危険をさ
らしてコロナ患者の治療にあたっているのに、笑顔でトーチをもって走っているというイ
ベントを強行する無神経さです。
昭和大学の二木芳人客員教授(感染症学)は
医療従事者は、命の選別をしなければならないような状況の中で、死に物狂いで
対応している。そんな中で、笑顔で手を振って走る聖火ランナーの姿は申し訳な
いが場違いだ。
聖火リレーにかける時間とお金があるなら、医療現場や貧困の現場に回してほし
い。いったん中止してください。
と、聖火リレーの中止を訴えています。これが良識というものでしょう。
同じく医師でNPO法人医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏も、
なぜ五輪は行われ、一生に一度の就学旅行は中止なのか。なぜ屋外の聖火リレー
はよくて、飲食を伴う花見はだめなのか。全てがダブルスタンダードで、誰も合
理的な説明ができない。
と聖火リレーの矛盾を指摘しています(『東京新聞』2021年4月21日)。
こうした意見は、多くの医療従事者が心に抱いている気持ちでしょう。聖火リレーの映像
を見て、日夜患者の治療に格闘している医療従事者は、気持ちを逆なでされる思いでいる
のではないでしょうか?
同様に、コロナウイルスに感染して苦しんでいる人、またその家族にとっても、そして、
コロナかで仕事を失い経済的に苦境に立たされている人にとっても、この聖火リレーの光
景は、あまりに無神経で無責任に映ると思います。
この聖火リレーが無責任であるというのは、一方で政府も小池都知事も事あるごとに「蜜」
を避けて」と、この1年間、国民に言い続けてきました。というのも、「蜜」になることが
ウイルスの感染を拡散する大きな要因になるからです。
実際、リレーが始まる前には、もし聖火リレーで「蜜」が発生したら、そこは「スキップ」
つまりその区間を飛ばす、と言ってきました。
しかし、実際にリレーが始まってみると、明らかに「蜜」を作り出す聖火リレーに対しては、
菅首相も、丸川オリンピック担当相も、オリンピック組織委員化も、政府のアドバイザリー
委員会も、尾身分科会会長も、中止勧告も、注意勧告さえ発していません。
これは、建前とは別に、政府も組織委員会も、聖火リレーをテコに、一向に燃え上がらない
オリンピック熱を盛り上げるこことに利用しようという意図があるからでしょう。
事実、聖火リレーを囲む沿道宇には人が詰めかけ、異常なくらいの「蜜」となっています。
これは、明らかに無責任です。
この聖火リレーは、東京五輪が「復興五輪」を掲げて始められたことのシンボルとしてフク
シマのJビレッジか出発しました。
しかし、この聖火リレーは、どう考えても「復興五輪」を思わせる影も形もありません。そ
れどころか、現在のコロナ禍の状況を全く無視したお祭り騒ぎの様相を呈しています。
最初に小型車が来て、「もう少しでランナーが来ます。大声は控え、拍手で応援しましょう」
とアナウンスされました。
続いて、有力スポンサー企業(つまり多額の寄付をした企業)の大型トラックを改造した宣
伝カーが大音量で音楽を流しながらの“お祭り騒ぎ“です。
宣伝カーの車列は、聖火リレー最上位スポンサー企業のコカ・コーラを先頭にヨタ自動車、
日本生命、NTTグループなどの有力企業からなるの「コンボイ」(警備車両も含めて30
台ほど)という、まるで車による“大名行列”のような異様な光景です。
マスクを付けたDJが負けじと声を張り上げる。いくつもの音楽と掛け声が重なり、かなり
うるさい。
「これはちょっと違うんでねえか」。隣で地元の一人がしきりに首をひねっていた。「復興
五輪って感じはないですね」、記者がそう聞くと、「全然違う。しらけてしまう」との答え
が返ってきたそうです(注1)。
異様と言えば、4月1日、聖火が長野県善光寺を出発した1分後、沿道から「オリンピック
はいらないぞ」「オリンピックに反対」といった声が聞こえると、放送していたNHKの音声
が突然消え、30秒続いた後、音声が徐々に戻った、という“事件”が発生しました(注2)。
これは、NHK側が“政治的判断”で音声を消した事件でした。
これ以外にも、報道にも大いに問題があります。毎日毎日、聖火リレーの模様を、何の躊躇
もなく、ましてや疑問を呈することなく、むしろオリンピックを盛り上げために、垂れ流し
ています。
この状況は、海外からは異常にみえているようです。東京五輪の気運を高めることへの期待
もあるのだが、巨額な放映料をIOC(国際オリンピック委員会)に支払い、多大な影響力を
持つ米NBCははっきりと、「新型コロナウイルスの恐怖がある中、東京五輪大会の聖火リレ
ーが始まる。これは廃止されるべき」という厳しい意見記事を掲載した。
そして記事は、
(新型コロナウイルスの)パンデミックのまっただ中で始まった東京の聖火リレー
は、ずばりナチスによって始められた五輪の伝統儀式だ。(今回も)公衆衛生を犠
牲にするリスクを冒している。特にナチスの宣伝活動に由来するような伝統のいく
つかは廃止されるべきだ、
と聖火リレーの廃止を主張した(注3)。
ひょっとすると政府やオリンピック委員会は、聖火リレーの最後のランナーとして池江璃花
子氏やゴルフのマスターズで優勝した松山英樹氏を起用し、聖火台への点火をおこなって、
開会式という儀式のクライマックスを演出しようとしているのではないか、と私は邪推して
います。
オリンピック開催そのものの是非については別の機会に考えてみたいと思います。
追記 一方で緊急事態宣言やまん延防止措置を適用しつつ、明らかに「3蜜」が起こる
聖火リレーでオリンピックを盛り上げようする政府やオリンピック組織委員会の
思想性というか無節操ぶりに呆れるばかりです。これでは、「人の流れを止める」
という言葉が空しく響き、誰も従おうとは思わないでしょう。
(注1)『東京新聞』デジタル版 2021年3月26日 https://www.tokyo- np.co.jp/article/94041
(注2)『東京新聞』デジタル版 2021年4月7日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/96386
(注3)Yahoo ニュース 3/26(金) 6:37 https://news.yahoo.co.jp/articles/ab908f3e11c44ad366220f8b3e7162d65df79833
聖火リレーは3月25日から7月23日に新国立競技場で行われる開会式まで121日間をかけ、
約1万人のランナーが全国の859市区町村を巡りますが、海外メディアも、聖火リレーのス
タートを次々と報じました。
テレビでは毎日のように、聖火ランの映像が放送されています。しかし、私はどうしよも
なく強い違和感、というよりむしろ憤り感じます。
まず、このコロナパンデミックの最中、一方で、多くの医療従事者は自らの命の危険をさ
らしてコロナ患者の治療にあたっているのに、笑顔でトーチをもって走っているというイ
ベントを強行する無神経さです。
昭和大学の二木芳人客員教授(感染症学)は
医療従事者は、命の選別をしなければならないような状況の中で、死に物狂いで
対応している。そんな中で、笑顔で手を振って走る聖火ランナーの姿は申し訳な
いが場違いだ。
聖火リレーにかける時間とお金があるなら、医療現場や貧困の現場に回してほし
い。いったん中止してください。
と、聖火リレーの中止を訴えています。これが良識というものでしょう。
同じく医師でNPO法人医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏も、
なぜ五輪は行われ、一生に一度の就学旅行は中止なのか。なぜ屋外の聖火リレー
はよくて、飲食を伴う花見はだめなのか。全てがダブルスタンダードで、誰も合
理的な説明ができない。
と聖火リレーの矛盾を指摘しています(『東京新聞』2021年4月21日)。
こうした意見は、多くの医療従事者が心に抱いている気持ちでしょう。聖火リレーの映像
を見て、日夜患者の治療に格闘している医療従事者は、気持ちを逆なでされる思いでいる
のではないでしょうか?
同様に、コロナウイルスに感染して苦しんでいる人、またその家族にとっても、そして、
コロナかで仕事を失い経済的に苦境に立たされている人にとっても、この聖火リレーの光
景は、あまりに無神経で無責任に映ると思います。
この聖火リレーが無責任であるというのは、一方で政府も小池都知事も事あるごとに「蜜」
を避けて」と、この1年間、国民に言い続けてきました。というのも、「蜜」になることが
ウイルスの感染を拡散する大きな要因になるからです。
実際、リレーが始まる前には、もし聖火リレーで「蜜」が発生したら、そこは「スキップ」
つまりその区間を飛ばす、と言ってきました。
しかし、実際にリレーが始まってみると、明らかに「蜜」を作り出す聖火リレーに対しては、
菅首相も、丸川オリンピック担当相も、オリンピック組織委員化も、政府のアドバイザリー
委員会も、尾身分科会会長も、中止勧告も、注意勧告さえ発していません。
これは、建前とは別に、政府も組織委員会も、聖火リレーをテコに、一向に燃え上がらない
オリンピック熱を盛り上げるこことに利用しようという意図があるからでしょう。
事実、聖火リレーを囲む沿道宇には人が詰めかけ、異常なくらいの「蜜」となっています。
これは、明らかに無責任です。
この聖火リレーは、東京五輪が「復興五輪」を掲げて始められたことのシンボルとしてフク
シマのJビレッジか出発しました。
しかし、この聖火リレーは、どう考えても「復興五輪」を思わせる影も形もありません。そ
れどころか、現在のコロナ禍の状況を全く無視したお祭り騒ぎの様相を呈しています。
最初に小型車が来て、「もう少しでランナーが来ます。大声は控え、拍手で応援しましょう」
とアナウンスされました。
続いて、有力スポンサー企業(つまり多額の寄付をした企業)の大型トラックを改造した宣
伝カーが大音量で音楽を流しながらの“お祭り騒ぎ“です。
宣伝カーの車列は、聖火リレー最上位スポンサー企業のコカ・コーラを先頭にヨタ自動車、
日本生命、NTTグループなどの有力企業からなるの「コンボイ」(警備車両も含めて30
台ほど)という、まるで車による“大名行列”のような異様な光景です。
マスクを付けたDJが負けじと声を張り上げる。いくつもの音楽と掛け声が重なり、かなり
うるさい。
「これはちょっと違うんでねえか」。隣で地元の一人がしきりに首をひねっていた。「復興
五輪って感じはないですね」、記者がそう聞くと、「全然違う。しらけてしまう」との答え
が返ってきたそうです(注1)。
異様と言えば、4月1日、聖火が長野県善光寺を出発した1分後、沿道から「オリンピック
はいらないぞ」「オリンピックに反対」といった声が聞こえると、放送していたNHKの音声
が突然消え、30秒続いた後、音声が徐々に戻った、という“事件”が発生しました(注2)。
これは、NHK側が“政治的判断”で音声を消した事件でした。
これ以外にも、報道にも大いに問題があります。毎日毎日、聖火リレーの模様を、何の躊躇
もなく、ましてや疑問を呈することなく、むしろオリンピックを盛り上げために、垂れ流し
ています。
この状況は、海外からは異常にみえているようです。東京五輪の気運を高めることへの期待
もあるのだが、巨額な放映料をIOC(国際オリンピック委員会)に支払い、多大な影響力を
持つ米NBCははっきりと、「新型コロナウイルスの恐怖がある中、東京五輪大会の聖火リレ
ーが始まる。これは廃止されるべき」という厳しい意見記事を掲載した。
そして記事は、
(新型コロナウイルスの)パンデミックのまっただ中で始まった東京の聖火リレー
は、ずばりナチスによって始められた五輪の伝統儀式だ。(今回も)公衆衛生を犠
牲にするリスクを冒している。特にナチスの宣伝活動に由来するような伝統のいく
つかは廃止されるべきだ、
と聖火リレーの廃止を主張した(注3)。
ひょっとすると政府やオリンピック委員会は、聖火リレーの最後のランナーとして池江璃花
子氏やゴルフのマスターズで優勝した松山英樹氏を起用し、聖火台への点火をおこなって、
開会式という儀式のクライマックスを演出しようとしているのではないか、と私は邪推して
います。
オリンピック開催そのものの是非については別の機会に考えてみたいと思います。
追記 一方で緊急事態宣言やまん延防止措置を適用しつつ、明らかに「3蜜」が起こる
聖火リレーでオリンピックを盛り上げようする政府やオリンピック組織委員会の
思想性というか無節操ぶりに呆れるばかりです。これでは、「人の流れを止める」
という言葉が空しく響き、誰も従おうとは思わないでしょう。
(注1)『東京新聞』デジタル版 2021年3月26日 https://www.tokyo- np.co.jp/article/94041
(注2)『東京新聞』デジタル版 2021年4月7日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/96386
(注3)Yahoo ニュース 3/26(金) 6:37 https://news.yahoo.co.jp/articles/ab908f3e11c44ad366220f8b3e7162d65df79833