検証「コロナの時代を生きる」(2)
―船長不在で漂流する日本丸―
7月始めに東京都の感染者数が100を超えて、多くの人がショックを受けましたが、
あっと言う間に200人台が続き、23日にはついに366人、と300人台に上がっ
てしまいました。
恐らく、これとても控えめな数字で、検査を拡大すればすでに500人台、あるいはそ
れをはるかに超える感染陽性者がいることは間違いありません。
皮肉にも、7月23日は4連休の初日で、「Go To トラベル」キャンペーンを前倒して
設定した初日でもありました。
ところで、現在のコロナまん延状況をどのようにみるべきでしょうか。医療者も市民も
「(第二波は)とっくに来ている」とみなしているのに、政府は頑なに、第二波である
ことを認めようとしません(『東京新聞』2020年7月22日)。
5月に一旦、感染者が減った時、安倍首相は、欧米諸国のように強制的なロックダウン
(都市封鎖)などせずにコロナを抑え込んだのは、これぞ「日本モデル」と内外に向か
って豪語しました。
実際にはロックダウンをしたくても、現行の「新型コロナウイルス対策特別措置法」
(「特措法」と略す)では、強制力をもった都市封鎖ができないから、やらなかっただ
けなのです。
それでも、欧米に比べて感染者数も死者も圧倒的に少ないことは確かで、安倍首相が豪
語したくなるのも分からないではありません。
ただし、このブログ(6月22日の記事)でも指摘しておいたように、人口10万人当
たりの死者数をみると、東アジア諸国の中では、日本は劣等生であることを安倍首相は
決して口にしませんでした。
「日本モデル」を豪語して1か月ほど経った6月末から、コロナ感染者の数は徐々に増
え始め、7月から今日まで激増しています。しかし、安倍首相は「日本モデル」につい
てはおろか、新型コロナウイルスに関してはほとんど積極的な発言をしていません。
現状をみれば、恥ずかしくて言えないのかもしれません。
最近の日本政府の方策はあまりにも一貫性も有効性も欠いており、日本は本当に一人前の
国家なのか、果たして今の内閣でこのコロナ禍を克服できるのか、との危機感をいだかざ
るを得ません。
まず、第一に指摘しなければならないのは、現在の日本には、コロナ問題に関して全体を
把握し、国家としての基本方針を示すべきリーダーが不在だという致命的な問題です。
いうまでもなく、国家のリーダーは、日本の場合、安倍首相です。そして、国民を代表し
て議論し、必要なら立法化をする機能は国会にあります。
しかし、まだ日本の新型コロナの感染がどうなるか全くわからなかった6月17日、政府
は国会を閉じてしまいました。
この背景には、今年2月に定年に達し定年退職となるはずだった黒川弘務元検事総長を、
1月31日の閣議決定で半年延長としたこと、警察庁法の改訂問題、「桜を見る会」の名
簿の一部削除などなどに対する安倍政権への批判が噴出することが想定されること、など
の要因があったと思われます。
こうした問題を批判されることを恐れて(あるいは避けるために)国会を閉じて逃げ回っ
ているのは、首相としての責務を放棄したことになります。
これだけ新型コロナウイルスが蔓延した現状では、ある程度強制力をもった方法が必要で、
そのためには特措法の一部改正をしなければなりません。
しかし法律の改正には国家に審議と決議が必要ですが、国会を閉じてしまっている現在、
立法機能や停止されられてしまっています。
第二は、コロナ問題に関して安倍首相あるいは安倍政権は当初、あまり深刻にとらえてい
なかったことです。
本来、コロナ禍への対応は厚生労働省の管轄のはずですが、加藤厚労相はカヤの外で、経
済産業省出身の西村康稔氏が閣府特命担当大臣(経済財政政策)、経済再生担当大臣が、
安倍首相に意向を受けて前面にでています。
これは、日本のコロナ対策にとって大きな問題を持ち込むことになっています。
政府は“with corona”(コロナと共に)という表現を良く使います。これは元来、感染症対
策をやりながら「経済も回す」という意味ですが、コロ西村大臣の口から出てくるのは、
感染症対策にはほとんど熱意が見られず、もっぱら「経済を回す」方に力点が置かれてい
ます。
東京だけでなく全国的に感染者が激増している最中の7月22日からGo To キャンペーン
を強行したことにも現れています。
しかも、このキャンペーンの実施に関しても一貫していません。当初は日本全国に適用す
るはずでしたが、途中で東京都を除外し、さらに、赤羽国交相は、それによるキャンセル
料を国は払わない、と明確に否定したのに、世間の批判を浴びると、舌の根も乾かないう
ちに、やはり払う、と方針の転換をします。
もちろん、こうした発言は赤羽国交相が独自に発言しているわけでなく、安倍首相からの
指示です。
その安倍首相が、感染の抑え込みにはあまり熱心ではないのです。以前、PCRの検査能力
を1日2万件まで増やす、と言ったことがありましたが、その後、一向にこの方針を先頭
に立って推進することがありませんでした。
昨日(24日)に、記者からコロナ禍にたいする方針を記者から聞かれて、コロナ陽性者
の激増を「高い緊張感をもって注視する」、「緊急事態宣言を出す考えはない」と答えて
います。
つまり、緊急事態宣言を出さないで経済を回すことに力を入れる一方、コロナ感染者の増
加にたいしては、「緊張感をもって注視する」だけなのです。
もっとはっきり言ってしまうと、コロナに関しては、「我関せず」で傍観しているだけな
のです。
安倍首相が経済にこだわるのは、彼が支持されるのは、「アベノミクス」(実態は実にあ
やふやなものですが)という経済政策の成功であると、思っているらしいことです。
さらに、安倍首相は、自民党のスポンサーである経済界に意向を十分、忖度しているから
でもあります。そうでなければ、この状況でGo To キャンペーンを強行することはないで
しょう。
しかし、「経済をまわしつつ感染症を抑える」、という表現には根本的な誤りがあります。
この表現には、あたかも経済の活性化と感染症の制圧とを同時進行的に追及してゆけば両
者を両立が可能であるかのような印象を与えるからです。
Go To キャンペーンを管轄する国交省の幹部は、実施すれば「多少の感染者がでることは
想定内」と言い放っています。(注1)おそらく安倍政権の本音でもあるのでしょう。
安倍首相は、一日当たりで過去最多の720人を上回ったことに関連して、「医療提供体
制は逼迫した状況ではないと承知しております」と発言しました。
これに対して東京都のモニタリング会議で杏林大学医学部の山口芳裕主任教授は「逼迫し
ていないのは誤りだ」と、安倍首相の発言を真正面から否定し、実情を説明しました。つ
まり、安倍首相は現状認識がまったく欠如しているのです。
また、日本医師会の中川俊男会長は22日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染が再燃
している状況から、23日からの連休について「我慢の4連休としてほしい。国民のみなさま
まには初心に帰って不要不急の外出を避けてほしい」と呼びかけました。これが正常な感
覚でしょう。
実際、現在の全国的な感染者の増加が続けば、回り回って、経済活動どころではなくなって
ゆくことは十分考えられます。そのことに想像力が及ばない人たちが政権や政策を担当して
いることは、実に不安です。まずは、感染の克服です。
今回は国の問題を取り上げましたが、実は感染の震源地になっている東京都の小池知事に関
しても問題があいます。
小池氏は、ロックダウン、東京アラートなどの言葉を連発し、最近では、「感染拡大警報」
を出すべき段階にある、など、次々と言葉を発して、警戒を訴えていますが、それでは具体
的に何をするのか、というとほとんど傍観状態であることは、安倍首相と同じです。
政府も小池氏も、感染の予防は皆さん一人一人でやってくださいね、と自己責任を押し付け
る一方、それでは政府や行政は感染を食い止めるために何をするのか、の具体策を提示して
いません。
船長なき日本丸の漂流がいよいよ始まった、という印象です。
このまま徹底的な対策が採られないと、8月末には1日3300人ほどの
感染者がでるだろう、との試算もありあります。
また、東大児玉教授も、早く抜本的な策を示して、それを実施しないと来月には「目を覆う」
ほど悲惨な状態になるだろうと、警告ししています。しかし、政府からも都知事からも何の
飯能もありません。
いよいよ船長不在の日本丸の漂流が始まったようです。
(注1)Livedoor ニュース 2020年7月15日 13時16分
https://news.livedoor.com/article/detail/18574145/
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
一緒に「行く」のはだれか。 結局、ステイ・ホームが一番だ
『東京新聞』2020年7月18日 『東京新聞』(2020年7月25日)
自分は気を付けるから大丈夫、と言って、多数の感染者を出している大都市圏から地方に出かける人は、 Go To 4兄弟(トラベル、 イート、 イベント 商店街)兄弟に踊らされてへとへと
行った先にコロナウイルスを持ち込む危険性には無自覚であることを皮肉っている。
―船長不在で漂流する日本丸―
7月始めに東京都の感染者数が100を超えて、多くの人がショックを受けましたが、
あっと言う間に200人台が続き、23日にはついに366人、と300人台に上がっ
てしまいました。
恐らく、これとても控えめな数字で、検査を拡大すればすでに500人台、あるいはそ
れをはるかに超える感染陽性者がいることは間違いありません。
皮肉にも、7月23日は4連休の初日で、「Go To トラベル」キャンペーンを前倒して
設定した初日でもありました。
ところで、現在のコロナまん延状況をどのようにみるべきでしょうか。医療者も市民も
「(第二波は)とっくに来ている」とみなしているのに、政府は頑なに、第二波である
ことを認めようとしません(『東京新聞』2020年7月22日)。
5月に一旦、感染者が減った時、安倍首相は、欧米諸国のように強制的なロックダウン
(都市封鎖)などせずにコロナを抑え込んだのは、これぞ「日本モデル」と内外に向か
って豪語しました。
実際にはロックダウンをしたくても、現行の「新型コロナウイルス対策特別措置法」
(「特措法」と略す)では、強制力をもった都市封鎖ができないから、やらなかっただ
けなのです。
それでも、欧米に比べて感染者数も死者も圧倒的に少ないことは確かで、安倍首相が豪
語したくなるのも分からないではありません。
ただし、このブログ(6月22日の記事)でも指摘しておいたように、人口10万人当
たりの死者数をみると、東アジア諸国の中では、日本は劣等生であることを安倍首相は
決して口にしませんでした。
「日本モデル」を豪語して1か月ほど経った6月末から、コロナ感染者の数は徐々に増
え始め、7月から今日まで激増しています。しかし、安倍首相は「日本モデル」につい
てはおろか、新型コロナウイルスに関してはほとんど積極的な発言をしていません。
現状をみれば、恥ずかしくて言えないのかもしれません。
最近の日本政府の方策はあまりにも一貫性も有効性も欠いており、日本は本当に一人前の
国家なのか、果たして今の内閣でこのコロナ禍を克服できるのか、との危機感をいだかざ
るを得ません。
まず、第一に指摘しなければならないのは、現在の日本には、コロナ問題に関して全体を
把握し、国家としての基本方針を示すべきリーダーが不在だという致命的な問題です。
いうまでもなく、国家のリーダーは、日本の場合、安倍首相です。そして、国民を代表し
て議論し、必要なら立法化をする機能は国会にあります。
しかし、まだ日本の新型コロナの感染がどうなるか全くわからなかった6月17日、政府
は国会を閉じてしまいました。
この背景には、今年2月に定年に達し定年退職となるはずだった黒川弘務元検事総長を、
1月31日の閣議決定で半年延長としたこと、警察庁法の改訂問題、「桜を見る会」の名
簿の一部削除などなどに対する安倍政権への批判が噴出することが想定されること、など
の要因があったと思われます。
こうした問題を批判されることを恐れて(あるいは避けるために)国会を閉じて逃げ回っ
ているのは、首相としての責務を放棄したことになります。
これだけ新型コロナウイルスが蔓延した現状では、ある程度強制力をもった方法が必要で、
そのためには特措法の一部改正をしなければなりません。
しかし法律の改正には国家に審議と決議が必要ですが、国会を閉じてしまっている現在、
立法機能や停止されられてしまっています。
第二は、コロナ問題に関して安倍首相あるいは安倍政権は当初、あまり深刻にとらえてい
なかったことです。
本来、コロナ禍への対応は厚生労働省の管轄のはずですが、加藤厚労相はカヤの外で、経
済産業省出身の西村康稔氏が閣府特命担当大臣(経済財政政策)、経済再生担当大臣が、
安倍首相に意向を受けて前面にでています。
これは、日本のコロナ対策にとって大きな問題を持ち込むことになっています。
政府は“with corona”(コロナと共に)という表現を良く使います。これは元来、感染症対
策をやりながら「経済も回す」という意味ですが、コロ西村大臣の口から出てくるのは、
感染症対策にはほとんど熱意が見られず、もっぱら「経済を回す」方に力点が置かれてい
ます。
東京だけでなく全国的に感染者が激増している最中の7月22日からGo To キャンペーン
を強行したことにも現れています。
しかも、このキャンペーンの実施に関しても一貫していません。当初は日本全国に適用す
るはずでしたが、途中で東京都を除外し、さらに、赤羽国交相は、それによるキャンセル
料を国は払わない、と明確に否定したのに、世間の批判を浴びると、舌の根も乾かないう
ちに、やはり払う、と方針の転換をします。
もちろん、こうした発言は赤羽国交相が独自に発言しているわけでなく、安倍首相からの
指示です。
その安倍首相が、感染の抑え込みにはあまり熱心ではないのです。以前、PCRの検査能力
を1日2万件まで増やす、と言ったことがありましたが、その後、一向にこの方針を先頭
に立って推進することがありませんでした。
昨日(24日)に、記者からコロナ禍にたいする方針を記者から聞かれて、コロナ陽性者
の激増を「高い緊張感をもって注視する」、「緊急事態宣言を出す考えはない」と答えて
います。
つまり、緊急事態宣言を出さないで経済を回すことに力を入れる一方、コロナ感染者の増
加にたいしては、「緊張感をもって注視する」だけなのです。
もっとはっきり言ってしまうと、コロナに関しては、「我関せず」で傍観しているだけな
のです。
安倍首相が経済にこだわるのは、彼が支持されるのは、「アベノミクス」(実態は実にあ
やふやなものですが)という経済政策の成功であると、思っているらしいことです。
さらに、安倍首相は、自民党のスポンサーである経済界に意向を十分、忖度しているから
でもあります。そうでなければ、この状況でGo To キャンペーンを強行することはないで
しょう。
しかし、「経済をまわしつつ感染症を抑える」、という表現には根本的な誤りがあります。
この表現には、あたかも経済の活性化と感染症の制圧とを同時進行的に追及してゆけば両
者を両立が可能であるかのような印象を与えるからです。
Go To キャンペーンを管轄する国交省の幹部は、実施すれば「多少の感染者がでることは
想定内」と言い放っています。(注1)おそらく安倍政権の本音でもあるのでしょう。
安倍首相は、一日当たりで過去最多の720人を上回ったことに関連して、「医療提供体
制は逼迫した状況ではないと承知しております」と発言しました。
これに対して東京都のモニタリング会議で杏林大学医学部の山口芳裕主任教授は「逼迫し
ていないのは誤りだ」と、安倍首相の発言を真正面から否定し、実情を説明しました。つ
まり、安倍首相は現状認識がまったく欠如しているのです。
また、日本医師会の中川俊男会長は22日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染が再燃
している状況から、23日からの連休について「我慢の4連休としてほしい。国民のみなさま
まには初心に帰って不要不急の外出を避けてほしい」と呼びかけました。これが正常な感
覚でしょう。
実際、現在の全国的な感染者の増加が続けば、回り回って、経済活動どころではなくなって
ゆくことは十分考えられます。そのことに想像力が及ばない人たちが政権や政策を担当して
いることは、実に不安です。まずは、感染の克服です。
今回は国の問題を取り上げましたが、実は感染の震源地になっている東京都の小池知事に関
しても問題があいます。
小池氏は、ロックダウン、東京アラートなどの言葉を連発し、最近では、「感染拡大警報」
を出すべき段階にある、など、次々と言葉を発して、警戒を訴えていますが、それでは具体
的に何をするのか、というとほとんど傍観状態であることは、安倍首相と同じです。
政府も小池氏も、感染の予防は皆さん一人一人でやってくださいね、と自己責任を押し付け
る一方、それでは政府や行政は感染を食い止めるために何をするのか、の具体策を提示して
いません。
船長なき日本丸の漂流がいよいよ始まった、という印象です。
このまま徹底的な対策が採られないと、8月末には1日3300人ほどの
感染者がでるだろう、との試算もありあります。
また、東大児玉教授も、早く抜本的な策を示して、それを実施しないと来月には「目を覆う」
ほど悲惨な状態になるだろうと、警告ししています。しかし、政府からも都知事からも何の
飯能もありません。
いよいよ船長不在の日本丸の漂流が始まったようです。
(注1)Livedoor ニュース 2020年7月15日 13時16分
https://news.livedoor.com/article/detail/18574145/
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
一緒に「行く」のはだれか。 結局、ステイ・ホームが一番だ
『東京新聞』2020年7月18日 『東京新聞』(2020年7月25日)
自分は気を付けるから大丈夫、と言って、多数の感染者を出している大都市圏から地方に出かける人は、 Go To 4兄弟(トラベル、 イート、 イベント 商店街)兄弟に踊らされてへとへと
行った先にコロナウイルスを持ち込む危険性には無自覚であることを皮肉っている。