大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

社会現象となった“藤井聡太”(1)―若さと成熟が同居する魅力―

2020-08-25 15:29:30 | 思想・文化
社会現象となった“藤井聡太”(1)―若さと成熟が同居する魅力―

若干18歳の棋士、「藤井聡太」はもちろん個人名ですが、今や“藤井聡太”は固有名詞の枠を超えて、AIを超える
頭脳をもち、たんたんと“空前絶後”の成績を収めてしまう若き天才、といったニュアンスを含んだ言葉となった感
があります。

2020年8月19日と20日の二日にわたって行われた将棋のタイトル戦(王位戦)第四局で、藤井聡太棋聖(18
才1か月)がタイトル保持者の木村一基王位(47)に勝利し、棋聖に続いて王位も獲得し、これで史上初の高校
生で二冠となりました。

この両日、私は朝からパソコンの画面にくぎ付けでした。そして勝負が決まる20日の夕方には、興奮は絶頂に達
しました。

藤井二聡太(以下、親しみを込めて呼び捨てで表記します)に関しては、彼がまだ14歳の中学生で四段になった、
つまりプロになったばかりのデビュー戦で、将棋界のレジェンド、加藤一二三九段に勝ったときから私は藤井ファ
ンになりました。

藤井二冠の活躍は将棋界を超えて社会現象になってしまいました。とりわけ今年の6月8日から始まった渡辺明三
冠とのタイトル戦(棋聖戦)のころからは、一般のテレビ放送でも、対局の結果だけでなく、藤井聡太が昼食や夕
食の“勝負メシ”に何を注文したか、までが速報で流されるほど世間の注目を浴びるようになりました。

それが今回は二冠と八段昇段という二つの史上最年少記録を破ったのですから、世間の驚きと称賛は異常なほどで
した。21日にはスポーツ紙のみならず、一般紙でも“藤井二冠”の文字が1面に踊っていました。

それにしても、将棋という地味な世界の藤井聡太はなぜ、これほどまでに注目を集め老若男女を問わず関心を呼び、
感動を与えるのでしょうか?

この背景にはいろいろな要素が関係していると思います。以下、私の個人的な解釈を思いつくままに書いてみます。

まず第一は彼の若さと、成熟がもたらすギャップです。中学生でデビューして以来一気に駆け上り、高校生になっ
た今、将棋界のほぼ頂点に近いところまで上り詰めました。この間に藤井聡太は、少年から青年の入り口にさしか
かりました。

もちろん、かつて神童と呼ばれた加藤一二三や、同じように若くして会談を上り詰めた羽生善治九段の例がないわ
けではありませんが、よほどの将棋通でないかぎり、こうした古い時代のことは知りません。

この若さにもかかわらず、彼の落ち着きと謙虚さに人びとは感心し、尊敬の念までもったのではないでしょうか?
実際、私は藤井聡太の対局はかなり多く観てきましたが、ごく普通の対局でもタイトルがかかる大一番でも、まっ
たく動ずることなく冷静沈着です。

これは、世間の評価や世間体など、将棋以外のさまざまな”雑念“が入ってしまいがちですが、藤井聡太はこうした
こととには無関心で、ひたすら将棋に集中します。

私たち普通の大人は、世間の評価や世間体、さらには勝ったらいくら貰えるのか、などにいつも心を奪われていま
すが、師匠の杉本昌隆八段によれば、聡太は昇段やタイトルそのものにはまったく関心がないそうです。

ここには、私たち大人の多くがすでに失ってしまった「若さ」と「純粋さ」に対する称賛と同時に、ちょっぴり嫉
妬さえ感じます。

若さと成熟とのギャップと言う意味では、何物にも動じないような物腰ですが、それと並んで彼が発する言葉に世
間は驚きました。

2017年4月4日(14才7か月の中学生)に、それまで四段昇段からの連勝記録10を破って11連勝した時の感
想を聞かれて、「自分の実力からすれば望外の結果」と答えています。

「望外の結果」とは「望んだこと以上の好成績」と言うほどの意味になります。同じ言葉は翌18年2月に羽生善
治二冠(当時)に勝利し、15才6か月で、全棋士が参加する朝日杯に優勝し、六段に昇段した時の感想を聞かれ
てやはり、「自分の実力からすれば望外の結果。まだまだ実力をつけ時期だと思っている」と述べました。

藤井聡太の中学生とは思えない言葉は他にもあります。11連勝の2カ月後の18年6月2日、20連勝がかかっ
た大一番で危うく負けそうになった局面を最後に大逆転して勝利しました。

この時には「連勝できたのは僥倖としか言いようがありません」とさらりと答えています。

「僥倖」の辞書的な意味は、「思いがけない幸い。偶然に得る幸運」という意味です。

私自身を振り返ってみても、これまで「僥倖」などという言葉を使ったことはありませんし、この言葉を聞いたこ
とさえない人も多くいると思います。

メディアで、一斉に藤井聡太がこうした難しい言葉を知っていたことに驚いて取り上げていましたが、私は別の意
味でも感心しました。

「望外」にしても「僥倖」にしても、普通の大人なら自分の実力で勝ったことを誇りたいところを、「幸運」も味
方してくれたから勝てたんです、という、一歩下がった謙虚さがにじみ出ています。

しかもこの謙虚さは他の面にも現れており、決してどこかで覚えた言葉を使ってみた、というわけではありません。

例えば、対局の始めと終わりには互いに礼をしますが、その時藤井聡太は、ほとんどの場合、相手より長く深々と
礼をしています。彼の謙虚さは一貫しています。

“藤井聡太”は、若さがもつ純粋さ、将棋にたいする一途さと、とんでもない才能、そしてそれらと不釣り合いな成熟
を一身に体現している存在です。

そこに、多くの日本人はしびれてしまうのではないでしょうか?

王位戦で勝利して二冠を達成した後に、「18才になり、タイトルホルダーにもなった。将棋界をある意味代表する
立場として、自覚は必要になる」とコメントしています。

18才という若さで、すでに自分が将棋界を代表している身であり、将棋だけでなく自分の言動にも、その自覚が必
要だ、と自覚しているのです。

この言葉から、彼が、将棋しか興味関心がない「将棋バカ」ではない、社会人として成熟した一人の人間であること
をこれほど率直に表現したことに、私は感動しました。

王位戦の第四局が行われた福岡市の大濠公園能楽堂の周りには多くの老若男女が対局の行方を見守るために集まって
いました。しかも、その中には普段は将棋にはあまり縁がなさそうな中年の女性もたくさんいました。

藤井聡太勝利が告げられた後で、テレビ局のインタビューにある中年の女性は、「体が震えました」と答えていまし
た。

この女性が感じていた、「体が震える」思いを、私も含めて多くの人が共有したのではないでしょうか。

次に、“藤井聡太”が社会現象になった背景に、今年の春以来の新型コロナウイルスの感染拡大があると思います。

思えば、この春以来、“外出を自粛せよ”、“三密を避けよ”、“マスクを付けよ”と、行動の自由を縛る要請というか命令
の下で、仕方なく巣ごもり生活を続けています。

加えて、“自粛警察”と呼ばれる市民を監視する人たちが現れ、マスクをしない人や自粛をしない人に監視の目を光ら
せ、時には匿名で中傷したりします。

これだけでも、うっとうしいのに。毎日のようにコロナ感染者が何人出て、何人亡くなったか、といった数字が来る
日も来る日も報道されています。

これが、一時的なことなら何とか我慢もできますが、既に半年以上続いており、しかも、これからどれだけの期間、
我慢を続けなければならないのか先が見えません。そして、これからの生活は大丈夫だろうか、と心配の毎日です。

こうした、暗く抑圧された空気が日本中にまん延しており、中には精神のバランスが保てない人も出てきます。ヨ
ーロッパでも日本でも、自粛生活のもとで不満やイライラを家族にぶつける、家庭内暴力が増えているという報道も
あります。

こんな暗い状況の中で、藤井聡太の快挙は、ほとんど唯一、明るいニュースでした。人々は、彼の才能だけでなく、
人柄や、若者がもつさわやかさ、純粋さ、凜とした言動に、一条の光を見たのではないでしょうか。

藤井聡太二冠の誕生は、こうした背景も手伝って、日本社会に元気と希望を与えてくれたように思います。
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脱皮したばかりのセミ。なぜ敢てコンクリートの所まで這ってきたのだろか?                   地下生活者の姿は見えないがモグラの動きの跡は良く見えます。
      


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検証「コロナの時代を生きる」(4)―日本政府に見捨てられる沖縄―

2020-08-13 09:06:06 | 健康・医療
検証「コロナの時代を生きる」(4)
―日本政府に見捨てられる沖縄―

感染症の感染が、東京都を中心とした首都圏に集中的に広がっていると思っていたら、大阪府、
愛知県、福岡県でも集中的な感染拡大の見られるようになりました。

東京都の1日当たりの感染者が100人を超えた時には、人びとは一様に驚きましたが、そのう
ち200人台、300人台が普通になってしまうと、次第にこれらの数字に慣れてきてしまいま
した。

しかし、そして8月1日には472人に達した時、さすがに驚きを通り越して、恐怖を覚えたの
ではないでしょうか?

それは、自分のいつどこで感染するかもしれない、という恐怖感に加えて、このまま増えると、
日本は一体どうなってしまうんだろう、そしてどこまでいったら感染は止まるのだろうか、といっ
た漠然とした不安が私たちの頭から離れないからです。

私たちの目が首都圏その他の大都市における感染者の増加に奪われている間に、沖縄では、ある意
味ではもっと深刻な事態が進行しています。

沖縄に関しては、「GO TOトラベル」キャンペーンの前倒しにより7月23~26日の連休に本土
から多くの観光客が押し寄せました。

沖縄には、これら本土からの観光客に加えて米軍基地の軍人や軍属からの感染もあります。

沖縄は感染症患者を受け入れる医療態勢も不十分な上に、観光客によると思われる感染者が急増し、
事実上、医療崩壊に近い状態にあります。

数字で見え見ると、通常は60人~80人台なのに8月9日に159人という驚異的な新規の陽性
者が発生しました。

沖縄県の人口は東京都の人口の10分の1ですから、この比率を適用すると東京都の1590人と
いう、とんでもない数字に相当します。

これは例外的に多かった日ですが、もう少し別の角度から沖縄の感染実態を見てみましょう。

8月10日の沖縄県の新規感染者は52人でした。これを人口10万人当たりの人数で示すと41.7人
で全国1位、東京の7~8人と比べると、いかに多いかがわかります。

また翌11日12:00までに382人のPCR行政検査が行われ、そのうち64名が要請でした。
したがって、陽性率は17%弱。東京が7%弱でしたから、沖縄県の陽性率はかなり高かったといえ
ます。

また、見逃すことができないのは、感染患者の病状です。8月10時点の入院患者は258名、うち
中等症(酸素の供給を受けなければならない患者)は54名でした。中等症患者は、重症者(集中治
療室での治療が必要)の予備軍と考えるべきです。そして重症者は、12名でした。

東京都は軽症者と中等症者とを一緒にした数字しか発表していないので直接的な比較はできませんが、
重症者は22名でした。

ここでも、東京都の人口比を当てはめると、沖縄県の重症者は東京都の120名に相当し、医療施設
とスタッフが東京と比べてはるかに脆弱な沖縄にとって、極めて厳しい状況に追い込まれていること
が分かります。

沖縄は6月25日まで、57日間も感染者がゼロであったことを考えると、8月の感染者の増加は驚
異的です。

ここまで急速に感染者が増加したのは、いうまでもなく本土からの観光客と米軍からもたらされたと考
えられる、一旦、沖縄に持ち込まれてしまった後の感染拡大はすさまじかったようです。

一人の人が何人に感染させるかという指標(実効再生産数)を見ると、関東圏は1.2、関西圏が1.6で
あるのに対して沖縄は3.2と以上と、格段に高い数値です。

もしこの数字が1なら、増減なしの状態、1より小ならやがて収束、1より大きい場合は当然増えます。

実効再生産数が3.2であれば、倍々以上に増えていってしまいます。

沖縄県が現在直面している深刻な危機は、重傷者用の病床数15しかないのその8割に相当する11床が
埋まっていることです。

しかも、中等症の患者さんが、いつ重症者となるかも知れません。これを考えれば、現在すでに満杯とい
う状況です。

本来なら、沖縄という本土から遠く離れた島で生じている非常事態に、政府は全面的に援助の手を差し伸
べるべきなのに、安倍政権は、沖縄にたいして冷めたく突き放しているように見受けられます。

菅義偉官房長官は3日の記者会見で、沖縄県が新型コロナウイルス感染者用のホテルを十分確保できてい
ないことについて、「政府から沖縄県に何回となく確保すべきであると促している、と報告を受けている」
と、婉曲的に沖縄側の対応を非難しています(注1)。

もちろん、口に葉出しませんが、私には、菅官房長官は政府がアメリカの意を受けて進めている辺野古の基
地建設に沖縄県知事が一貫して反対していることに、ここぞとばかりの「意趣返し」あるいは「いじめ」を
しているとしか思えません。

ちょっと、待って欲しい。沖縄は、このころすでに、まさに菅官房長官が肝いりで推進している「GO TO ト
ラベル・キャンペーン」で、本土からの観光客でホテルは満室だったのです。

さらに言えば、沖縄にある米軍基地の軍人にも多数の新型コロナウイルス感染者がいることは分かっているの
に、政府は、この実態の報告を強く求めてきませんでした。

このままでは県民の不安をぬぐえないと判断した玉城知事は、7月15日、防衛省に河野太郎防衛相を訪ね、
在日米軍基地内で新型コロナウイルスの感染が拡大していることについて「県民は大きな不安に駆られてい
ると伝達、日本政府として改善に取り組むよう求めました。河野氏は「非常に懸念を抱いている。対応をと
っていく」と応じました。

沖縄県は同日、米海兵隊キャンプ・ハンセン(金武町など)で新たに36人の感染が確認され、在沖基地内
の累計が136人、24日には205人となったと発表しました。すでに、沖縄での日本人の感染者に匹敵
する数です。

外務省によると、日米地位協定に基づいて、在日米軍人には出入国管理法が適用されない。家族や軍属も、
強化されている水際対策の例外と位置付けられており、入国時の検疫を受けません。

米国軍人の中には、基地外の住居に住んでいる家族もいます。また、基地内にいる軍人も自由に街に出てレ
ストランで食事することもできます。テレビでは、街で大騒ぎをする米兵たちの映像も流されました。
 
玉城知事は、日本に入国する全ての米軍関係者へのPCR検査実施や、検疫に関する日本の国内法が在日米
軍に適用されるよう地位協定の改定を求める要請書を、河野氏に手渡しました。会談後、玉城氏は「(河野
氏は)基地を受け入れている都道府県の立場を受け止め、米側に言うべきことはしっかり言っていただきた
い」と記者団に語りました(注3)。

しかし、現在のところ、基地に所属する軍人は入国時にPCR検査を義務付けられておらず、しかも外出して
街のレストランなどに行くことには何の制限もありません。(カリフォルニアでは厳しい制限あり)

ここで重要な問題は、米軍人の感染者の検体を分析すれば、彼らのウイルスの遺伝子の構造がわかり、現在沖
縄で広まっているウイルスのうち米軍由来のものがどれほど入っているのかがわかります。

米軍は当然、このような分析はしているはずですが、この重要な情報は日本側にはもたらされていません。

ところで、上に引用した菅官房長官の発言の4日後の8月7日、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会
(尾身茂会長)が東京都で行われ、地域における感染拡大の進行状況を4段階で示す「ステージ」と、その判断
材料となる指標や目安をまとめました。

会合後の会見で尾身会長は、沖縄が複数の項目で「緊急事態宣言など、強制性のある対応を検討せざるを得ない
」、とされる「ステージ4」、またはその1段階下の「ステージ3」の目安を超えているとの見方を示し、国の緊
急事態宣言を発出する対象になり得る可能性を示唆しました。

実際の判断は国や都道府県が行うことだとし、一つの指標で機械的に判断するのではなく「総合的に判断してほ
い」と述べるにとどめました。西村康稔経済再生担当相は、国の緊急事態宣言の発出は専門家の意見を聞いた上
で国が判断すると強調しました。指標の中でも病床の逼迫(ひっぱく)具合を重視する姿勢を示した(注3)し
かし、今のところ何の具体的アクションをとっていません。

思えば、沖縄は第二次世界大戦末期に、米軍の日本への進軍の防波堤として本土の日本人を守るために大きな犠
牲を払わされました。言い換えれば、沖縄は日本政府によって見捨てられたのです。

戦後は、日本の国土の0.6%しかないのに、在日米軍基地の70%を押し付けられ、土地を取り上げられ、航空機
の離発着にさいして危険と騒音という迷惑を押し付けられています。ここでも沖縄は日本本土のために見捨てら
れていると言えます。

もし、このまま政府が全面的に感染防止に動かなければ、これで三回目に見捨てたことになります。

政府にできることはたくさんあります。何よりもまず、国として強制力をもった「緊急事態宣言」を出し、できる
限り多くの島民にPCR検査を政府の負担で実施し、観光客には空港での検疫を義務化する。

他方、飲食街などへの休業要請を、補償金の裏付けをもって行う。島民には8割の外出自粛を強く求める、・・・
などです。

今、沖縄の県知事は、法律に基づく強制的措置を取ることができないし、さらに財政的な裏付けも持たされていま
せん。まさに、徒手空拳で闘わざるを得ない状態です。

玉城知事は、8月1日と5日に、独自の「沖縄県緊急事態宣言」を発出しますが、これはあくまでも「お願い」ベ
ースで、国が発する強制力をもった「宣言」ではありません。

それでも、県民と観光客に注意を喚起するという目的のために、このような措置を取らざるを得ないところに、沖
縄の置かれた状況が現れています。

沖縄県はもう、尾身会長が言っている「緊急事態宣言」を出さざをるを得ない段階に来ていると思われます。政府
は、沖縄に対する否定的な感情を捨てて、一刻も早くこれを実行し、感染の拡大と死者の増加を止めるべきです。

(注1)『沖縄タイムス』(2020年8月3日:12:30)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/610927
(注2)JIJI.COM (2020年7月15日 19:09)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020071500845&g=pol
(注3)『琉球新聞』(2020年8月8日) Yahoo ニュースに引用。https://news.yahoo.co.jp/articles/b10040d401fb96054dacfa5b56344d56fb243056
(注4) 沖縄県のホームページ 2020年8月1日、5日)  https://www.pref.okinawa.jp/documents/kinkyuzitaisengen.pdf https://www.pref.okinawa.jp/20200805.html
https://www.pref.okinawa.jp/20200805.html
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アベノマスクの新用法 2題 (これが本当の用法かも)

  
『東京新聞』2020.8.1 『東京新聞』2020.8.8



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検証「コロナの時代を生きる」(3)―”With Corona”「コロナとの共生」とは「経済を回す」こと?―

2020-08-03 21:53:33 | 健康・医療
検証「コロナの時代を生きる」(3)
―ウイッズ・コロナ(コロナと共に)とは「経済を回す」こと?―

日本の新型コロナウイルスの新規の感染者の数は、東京をもっとも深刻な震源地として、大阪府、
愛知県、福岡県などの大都市圏とその周辺地域に確実に広がりつつあります。

東京都の感染者が8月1に472人に達し、7月29日には、それまでゼロだった岩手県で初めて
2人の感染者がでました。

これで全国、全ての都道府県で陽性患者が出たことになります。日本は名実ともに「コロナ列島」
となってしまったわけです。

このような事態に対して、医師や感染症の研究者は、政府に対する強い警告が発せられました。

たとえば東京大学先端科学研究センター名誉教務の児玉龍彦氏は、7月16日の参院予算員医会
(閉会中審査)で参考人として発言し、新宿区に新型コロナウイルスのエピセンター(感染の震
源地、集積地)が形成されつつある、と指摘しました。

そして、感染拡大防止に「国の総力を挙げないと、ニューヨークの二の舞」になる、「来週になっ
たら大変なことになる。来月になったら目を覆うようなことになる」と警告し、したがって、「大
規模なPCR検査の実施を通じて抑え込むことが急務だ」、と声を震わせて訴えました。

さらに、現在「極めて深刻な事態となっている事」ので、外出自粛を呼びかけるステイホームでな
く「遺伝子工学・計測科学を使った(感染者の)制圧が重要。致死率は時間とともに上昇する」と
提言しました(注1)。

児玉氏のこの発言は、テレビのニュースで何度も放送されたので、見た人も多いと思います。私は
児玉氏の発言を聞いていて、科学者として、また一人の人間としての真剣さ誠実さ、そしてこの危
機をなんとか乗り越えようという熱意と真摯な姿勢に、心が震えました。

また、児玉氏は21日には衆議院第二議員会館で講演し、「感染者が減った段階で検査を徹底して
無症状の感染者をあぶり出し、感染の芽を摘むべきだった。そうならなかった結果、無症状の感染
者が繁華街に集まり次々に感染を広げるエピセンターができてしまった」とも話しています。

つまり、打つべき時に打つべき手を打たなかった失政が今日の感染拡大をもたらしている、と言っ
ているのです。

そして7月28日には、感染の拡大状況について、「今、日本は(検査数が)世界で、人口あたり
158位から159位、バングラデシュとかカメルーンに抜かれて、世界の最貧国のグループに入
ってますからめちゃくちゃ少ない」。

したがって「政府は思い切って方向を変えるときが来ている」として、PCR検査の体制拡充や接
触確認アプリのさらなる普及など、国を挙げての取り組みを促しました(注2)。

この発言は、政府はやるべきことをやってこなかったから現在このような状況が生まれたのだ、と
政府の真剣で迅速な取り組みを要請しました。

児玉氏の発言とならんで、現状の厳しさを訴えたのは東京都医師会の尾崎治夫会長が7月30日に
行った記者会見での発言です(注2)。

尾崎氏は、医師として実際に患者と向き合っており、その治療に責任を負う立場から、「国の無策で
感染が拡大した。もう我慢できない」という国の無策に対する怒りを、ストレートにぶつけました。

尾崎氏は、具体的な方策として、(1)無症状者を含めた感染者の徹底的な隔離、(2)コロナ対策の
特別措置法を改正して法的拘束力を持ち補償を伴った休業要請、(3)エピセンター(震源地)化して
いる地域での一斉PCR検査の実施、の3本柱が必要だと提言しました。

東京だけでなく、愛知や大阪、福岡や沖縄でもエピセンター化が進んでいることを考えるならば、「こ
のまま強制力のない休業要請を続けたら、日本中が感染の火だるまに陥ってしまう。今が第2波だとし
たら、これが感染を抑える最後のチャンスだ。新型インフルエンザ等対策特別措置法改正のために、政
府は今すぐに国会を召集して議論を始めてほしい」と強く訴えました。

つまり、そのためには「国が動く」ことが必要で、「各都道府県にお任せして、『休業お願いします』、
『できれば検査もしてください』ではもう無理だ。 肝はここである「いますぐに国会を召集して、特
措法の法改正の検討していただきたい。私は今が感染拡大の最後のチャンスだと思っている」と語気を
強めて訴えました(注3)。

ここにも私は尾崎氏の「魂の叫び」を感じました。

尾崎氏はまた、政府の Go To キャンペーンに対して公然と「Not Go To キャンペーン」を
訴えてもいました。これが、常識ある日本人の感覚でしょう。

ちなみにこの会見を見た医師の多くは尾崎氏の発言に賛同していたようです。

では、このような「国難」ともいえる状況に対して、政府、とりわけ国家のリーダーである安倍首相は、
どのように対応してきたのか、そして、これからどのように対応しようとしているのでしょうか?

どこの国を見ても、大統領や首相が前面に出て、議会や記者会見の場で政府の基本的な考え方や方策につい
て説明しています。

しかし日本では、6月17日の通常国会閉会後、国会を閉じてしまっているので、尾崎会長が言うように、
法律改正の審議も決議もできません。

さらに安倍首相はこの1か月間、一度も記者会見を開いていません。おそらく、記者会見で厳しい質問を受
けるのを怖がっているのでしょうが、そんなことならリーダーの座を降りていただき、新たな体制の下でこ
の難局に立ち向かう方が国民のためです。

最初の感染の波が起こって以降、政府がやったことと言えば、使い物にならないアベノマスク(ちなみに、
最近はさすがに、正常な大きさのマスクに変えていますが)に500億円以上も使ったこと、全国民に1人
10万円の定額給付金をばらまいたこと、そして、突如の「GoTo キャンにペーン」の前倒しくらいです。

政府を代表して、西村康稔経済再生担当相は、口を開けば「感染症対策を徹底しつつ、経済を回す」ことを
強調します。すなわち、これが “With Corona”というわけです。

しかし、Go To キャンペーンを前倒しして7月22日からの四連休から始めるように急遽変更したこ
とに、さまざまなアンケート調査の結果をみると、6割から7割の人は、感染が急速にまん延しつつある今、
始めることには反対でした。

私も同感です。というのも、キャンペーンを積極的に進め、どんどん旅行に行ってくださいと、政府が人の移
動にアクセルを踏めば必ず感染は拡大し、結局は旅行者が減り、観光業界も干上がってしまうことが十分予想
されるからです。

しかも、旅行に出かける人も、地方に行って、どことなく後ろめたさを感じているようで、多少、国からの補
助がでたとしても、思い切り、楽しむ気分にはならないでしょう。

私が見過ごすことができないのは、この事業に関して国交省のある幹部が、国交省幹部は「正直、多少の感染
者が出ることは想定内」だと語ったことです。

彼の本音がついで出てしまったのでしょう。官僚は国民をこのように見ているのだ、ということが良く分かりま
した。

政府は「経済を回す」ことには熱心ですが、それでは他方の感染症の制圧にたいしては何ら手を打っていません。

今年の春にこのキャンペーンの実施を閣議決定した時には、コロナ感染が収束し、国民が安心して旅行に出かけ
られるようになったら、という条件つきで、しかもその開始は8月1日でした。

しかも今回、7月の4連休に間に合わせてGoToトラベル事業を前倒し(但し東京発着の旅は除外)した結果、
事業開始後の連休中に人の移動と感染者は確実に増えました。しかし菅官房長官は、「重症者は少ない」とした
うえで、事業の除外地域を広げる考えはない、と明言しています。

ここまでみてくると、With Corona という耳障りの良い言葉の本体は「経済を回す」ことだったということが分か
ります。

この事業で、一時旅行者が増えても、もともと設定されていた、8月以降の需要を「先食い」しているだけで、純
粋に旅行者が増えることになるのか大いに疑問です。

西村氏は旅行と「Go To イート」という飲食店支援など、「経済を回す」アクセルを思い切り踏む一方で、感染の
拡大に警戒感をあらわにしながら、企業に、在宅勤務率を7割目いっぱいに増やすこと、時差出勤の維持、大人数
での会食や飲食の自粛など企業に対策の一層の強化を求めます。その一方で、政権幹部の麻生氏は都内のホテルで
16日に、派閥のパーティーを開いています(『東京新聞』2020年7月28日)。

在宅勤務についていえば、現在、いわゆる「テレワーク」(在宅勤務)が認められる人は働く人の何割くらいいる
と考えているのでしょうか。

恐らく大企業の事務部門やIT企業などは、ある程度在宅勤務が可能かもしれません。しかし、中小企業、物品販
売業、飲食・宿泊を中心とするサービス業の大部分、営業関係の仕事、製造業、交通・運輸や清掃に携わる人たち
は、在宅勤務はできません。

いずれにしても、アクセルを吹かすことには積極的ですが、ブレーキとして国はお金を出すことなく、企業と個人へ
の「要請」だけです。これでコロナの感染が抑止できたら奇蹟です。

ところで、国としてどのように感染を抑止するかを検討する機関として、政府の有識者分科会があります。

7月31日に開かれた会合で尾身茂会長は感染状況を四段階に分け、レベルに応じて必要な対策を講じるという大枠
を示すにとどまり、具体的な指標も方策も示しませんでした。

児玉名誉教授や尾崎東京医師会会長のような専門家が現実を直視するように訴えているのに、なぜ政権の面々は危機
的な状況を認めようとしないのでしょうか。

政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は、「頭にあるのは経済対策だけ。第二波の到来を認めてしまうと経済の話をストッ
プさせ、外出自粛や休業補償などを考えなければいけなくなる。それを避けたいから現実を直視しない」とコメントし
ています(『東京新聞』2020年7月22日)。これでは全く本末転倒です。

リーダーが国会を開かず逃げ回っている現在の日本は、国家の体を成していません。

今のところ、感染が収束にむかう要素はなにもない状態ですから、感染は長期にわたって拡大してゆくでしょう。

コロナ対応は私たち国民一人一人に丸投げされ、その結果は自己責任という状況で、感染に脅えつつ、しばらくは現政権
の下で「コロナの時代」を生きてゆかなければならないことを思うと暗澹たる思いです。


(注1)FNNニュース(2020年7月16日午後8:43)。映像はhttps://www.fnn.jp/articles/-/63758
(注2)TBS Nステ (2020年7月28日 15:48)https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4039348.htm 
(注3)尾崎会長の怒りの会見は、ノーカットで見ることができます。https://www.youtube.com/watch?v=uisuAyrY67g&feature=youtu.be
また記事としては『医療維新』(2020年7月30日) https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/804643/?category=report
を参照。」
(注4)https://news.livedoor.com/article/detail/18574145/

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地下生活者たちの痕跡1 セミが這い出た後の穴。どれほどの年月、地下で暮らしていたのか?   地下生活者たちの痕跡2 アリの出入り口。この中でどんな生活をしているのか? 

 



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