goo blog サービス終了のお知らせ 

大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

トランプ大統領の誕生(2)―評価が分かれる就任演説―

2017-01-29 07:05:10 | 国際問題
トランプ大統領の誕生(2)評価が分かれる就任演説―

トランプ大統領の就任演説に対する評価は、立場によって大きく異なります。
まず、メディアの反応をみると、選挙中、一貫してトランプ氏を支持してきた保守系新聞「ワシントン・エグザミナー」
(電子版)は、トランプ氏の演説を次のように絶賛しています。

    トランプ大統領はワシントン(既得権を持つ支配勢力)よりも平均的米市民の利益を優先して考える
    という公約を就任に際しても堅持した。(海外に流れた)仕事を取り戻し、『米国第一主義』を掲げ、
    『米国を再び偉大にする』という初心を引っ提げてホワイトハウス入りした。

一方、リベラル系メディアの雄、『ニューヨーク・タイムズ』は演説直後、トランプ新大統領に対し、就任演説の以下の
下りを引用しつつ「ご自身の演説の中で何が最も注目に値する箇所か、お教え願いたい」とした質問状を電子版に載せま
した。その引用とは、

    米国のこの修羅場*(carnage)は今ここで終わらせねばならない。今直ぐにだ。我々は一緒に米国を
    再び強くする、再び豊かにする、再び誇りを持てるようにする、再び安全な国家にする。そうだ、我々
    は手を携えて米国を再び偉大にするのだ。

    *引用元の『日経ビジネス ONLINE』は carnage を「修羅場」と訳していますが、本来「虐殺」
    というどぎつい意味で、就任演説のような場では通常使わない言葉です。トランプ氏が言いたかったの
    は、工場の閉鎖、失業、貧困、麻薬などを指すものと思われる。
    
と言う個所です。『ニューヨークタイムズ』は、トランプ氏がこの部分で、何を最も訴えたいのか分からない、と言ってい
るのです。(注1)つまり、あれこれ並べているが、トランプ氏が何を最も言いたいのか分からないと、露骨には書いてい
ませんが、間接的に批判しています。

アメリカの『ABCテレビ』は、トランプ氏の人物像と個性を強調しています。

    トランプ大統領のメッセージはほかのどの国の指導者も伝えないようなものだった。国が衰退している、
    犯罪と薬物によって腐敗している、などと訴えることで、自分自身を国民のために戦う存在に高めよう
    とした。

続いて、トランプ大統領は歴代のアメリカ大統領を非難したうえで、

    「権限を首都ワシントンから国民に返す」というトランプ新大統領の主張は挑発的で、与党・共和党が
    トランプ新大統領に忠誠を示せるか、今後、試されることになる

という見方を示しています。

一方、有力紙の『ワシントン・ポスト』は、
    トランプ大統領は、傷ついた国家が大胆かつ、早急な対処を必要としているという率直で力強い演説で
    職務を始めた。自分の政権が過去の政権とは全く異なるものになることをはっきりとさせた。
    政治経験も、軍での経験もない最初の大統領として、トランプ大統領は「個性の強さと、率直で野蛮な
    言葉によって国を統治することを示した」としたうえで、就任演説で「大殺りく」や「荒廃」といった
    言葉を用いてアメリカが語られた前例はない

と、既存の政治に挑戦する姿勢を主張する演説だったと伝えています。

ここまでは、トランプ氏の演説に、どちらかと言えば、中立ないしは好意的な評価を下してい
ますが、他方で、具体的な方法について語らなかったことに不満をも表明しています。

    トランプ大統領は、共和党にも議会にも言及せず、約束した大改革を成し遂げるため
    の手段にも全く触れなかった。ただ、自分自身の力で、国を回復させると改めて誓っ
    ただけだった。(注2)

それでは、一般のアメリカ市民はどのように反応したでしょうか?

アメリカ現代政治研究所の高濱氏は、演説の直後にトランプ支持派と反トランプ派の市民2人ずつに電話でイン
タビューしています(注3)。

トランプ支持派の一人、テキサス州在住の白人の主婦(53歳)は、

    トランプ大統領は、予備選段階から言ってきたことをそのまま貫き通しました。私た
    ちのように、黒人大統領から8年にわたって忘れ去られていた白人のホンネをはっきり
    と言ってくれました。
    トランプ大統領は、米企業が低賃金を求めて外国に逃げていった結果、職を失った白人
    労働者のことを考えてくれる初めての大統領だと信じています。演説を聞いて確信が持
    てました。
    今、何が私の身の回りに起こっているか、ですって。私の住んでいる田舎町にまで、肌
    の浅黒い見知らぬ外国人がどんどん入ってきて、治安が悪くなっているんですよ。トラ
    ンプさんはこんな状況から私たちをきっと救い出してくれると信じています。

もう一人はテネシー州に住む、白人の零細企業従業員(62)です。

    新大統領は、反エスタブリッシュメント(既得権層・支配勢力)、反エリート(主流メ
    ディアや言論界)、反ワシントン(連邦政府官僚、共和党保守本流や民主党)、外国を
    敵に回して戦うぞ、という意気込みを熱っぽく話してくれた。胸がスーとしたよ。オバ
    マが大統領だった閉塞の8年間からやっと解放されたって感じだね。
    最初は俺たちみたいな、小さくて貧しく、力のない白人たちだけにしか支持されなかっ
    たトランプが、『トランプ主義』の旗を高々と掲げてワシントンに凱旋するなんて、信
    じられないよ。演説はまさに俺の思っていることを100%代弁してくれていた。嬉しいね。

ここに引用した二人は決して、極端なトランプ支持者ではありません。むしろ、ごく平均的なトランプ礼賛の声です。

一方、民主党の大統領候補としてバーニー・サンダース氏を支持した、IT関連企業で働く35歳のエンジニア(国際政
治学修士号も取得している)は、正反対な意見を語ります。

    こんなお粗末な大統領就任演説を聞いたのは初めてだ。内容は中学校の生徒会長に選ばれ
    た生徒の挨拶と同じレベルだ。
    分かりやすいと言えば分かりやすいが、予備選や大統領選の時の自分の支持者だけに話し
    ているわけじゃないはず。演説の中に出てくる表現はどこかで聞いたようなパクリばかり。
    例えば、『Make America Great Again』という表現はロナルド・レーガン(第40代大統
    領)が最初に使ったのをパクっただけだし、『America First』は第二次大戦への参戦に反
    対した若者たちが言い出した言葉。
    一人で鉛筆舐め舐め書いたと側近は言っているが、言っている内容は大統領上級顧問にな
    った右翼反動のスティーブ・バノン(保守系メディア「ブライトバート・ニュース」の元
    会長)がサイトで論じていたことのコピーだ。

彼は、トランプ大統領の演説に、彼自身のオリジナリティはなく、他人の、特に極右のバノン氏の言葉や文章をコピー
しただけだ、というのです。

もう一人、ボストンに住む政治学専門の大学教授(59)のコメントは、さらに手厳しい。

    改めて、われわれ米国民はひどい人間に核のボタンを押す権限を与えてしまったもんだと思う。
    米国がこれまで営々と培ってきた世界のリーダーの地位から降りる兆候をこの演説ははっきり
    と示した。中国とロシアはあざ笑い、世界の同盟国は頭を抱えているはずだ。
    どこの国のリーダーも自国民の利益を最優先に考えている。しかしそれが通らないのが国際政治
    であり、外交
    であり、通商だ。そんなことも分からぬ男が大統領になっちゃうこと自体、米国は今異常だよ」

以上、賛同派と批判派の4人のコメントは、まさに現代アメリカという国家の分裂状態をはっきり示しています。

就任式の前日、権威ある超党派の世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが、米国がいま置かれた状況について米国
民に尋ねました。その結果、回答者のなんと86%が「米国が政治的にこれほど分裂したことはない」と答えています。
バラク・オバマ第44代大統領が08年に就任した時に「分裂状態にある」と答えた人は46%でしたから、アメリカ国民
全体が、国家の分裂を感じていることを示しています。

すでに、部分的には書いておきましたが、最後に、演説に対する私自身のコメントを書いておきます。

率直に言えば、これが超大国の大統領の就任演説なのか、という大きな失望感と危機感を感じました。

失望感とは、トランプ氏が、人権、民主主義、自由、多様性など、歴代の大統領が言及してきたアメリカの建国の理念
や理想に全く触れず、現在の暗い、否定的な面を執拗に語り、人々に恐怖心を植え付けたことです。

理念なき政治は、露骨な権力の行使と経済的な富への執着しかないのです。

次に、危機感ですが、彼は現在、職を失っている白人、失うかも知れない白人、職は得ているけれども収入は十分では
ない、と不満を持っている白人の中・下階層だけに向けた発言をしています。しかも、その矛先を有色人種やマイノリ
ティに向けさせています。

ところが、それでは彼らの満足が行くような具体的な方策があるかと言えば、保護貿易を徹底して、アメリカ人(実態
は白人)の雇用を守る、ことくらいしか言っていません。

しかし、どう考えても、アメリカは保護貿易を排し、自由な国際経済から最も利益を得てきた国であり、それが再び保
護貿易に閉じこもっても、中・下白人階層が豊かになるとは考えられません。

その理由については、別の機会に詳しく書こうと思いますが、いずれにしても、現在のような分裂を抱えたうえで、し
かも、彼を最も評価している中・下白人の生活が向上した買った場合、アメリカ国内だけでなく世界は非常に大きな混
乱の渦に巻き込まれるでしょう。

次回は、就任演説を離れて、トランプ新大統領の問題について考えてみたいと思います。

(注1) 『日経ビジネス ONLINE』 2017年1月23日。http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/012100036/?i_cid=nbpnbo_tp 
(注2)『NHK NEWS WEB』1月21日 12時27分 トランプ新大統領の就任演説 米メディアの反応は
    http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170121/k10010847881000.html
(注3)『日経ビジネス』ONLINE(2017年1月23日)http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/012100036/

大木昌のTwitter https://twitter.com/oki50093319

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トランプ大統領の誕生(1)-就任演説にみる基本姿勢-

2017-01-22 05:56:14 | 国際問題
トランプ大統領の誕生(1)-就任演説にみる基本姿勢-

ドナルド・トランプ氏は2017年1月20日正午(日本時間21日午前2時)、第45代アメリカ大統領就任の宣誓を、続いて就任演説を行いました。

この就任演説で新大統領が何を言うかは、アメリカ国民だけでなく、全世界の人々が注目していました。

この就任演説にかんするコメントや評価は、そのうち各方面からなされるでしょうが、それを含めた私のコメントは別の機会にゆずるとして、今
回は、私自身が演説を聞いた直後に抱いた感想のうち、幾つか印象に残った言葉に絞って書いてみたいと思います。

選挙運動中からトランプ氏が一貫して発してきたフレーズは、「アメリカを再び偉大な国にする」(Make America Great Again)でした。

これはオバマ氏の有名なフレーズ「我々にはできる」(Yes,We Can)と同様、後々までトランプ大統領という存在とともに記憶されるでしょう。

トランプ氏が、このフレーズを商標登録していることからも分かるように(『日刊ゲンダイ』2017年1月21日)、彼はこの言葉にかなり強い思い入
れがあるようです。

さて、演説ですが、アメリカを再び偉大な国にするために、トランプ氏はまず、我々アメリカ国民は国を「立て直す」(rebuild)ために団結しよう、
と訴えました。

言い換えると、現在のアメリカは疲弊し、演説の途中では、「かつての栄光は遠い過去のものとなった」、とも言っています。

続いて、トランプしは大統領としての理想と理念を語ります。

    今日の式典は、しかし、特別な意味を持っています。なぜなら、私たちは今、たんに、一つの政権からもう一つの政権へ、
    あるいは一つの政党から他の政党への権力の移行を取り行っているのではありません。そうではなくて、私たちは権力を
    ワシントンからあなた方、国民(the people)に返そうとしているのです。

経済(金儲け)しか関心がないと言われるトランプ氏ですが、彼の就任演説のなかで、唯一、格調高い部分です。

今回の大統領就任は、民主党政権から共和党政権への、まぎれもない政権から政権、政党から政党への権力の移行です。

しかし、その権力の基礎とは、もともと国民に由来しているはずです。それが、いつしかワシントンの特権階級やエリートによって奪われて
しまっていた、それを、もう一度、国民に返すのだ、この就任式典は、そのためにあるのだと言っているわけです。

この部分は明らかに、これまでの民主党政権に対する痛烈な批判となっています。

「権力をワシントンから国民に返す」という言葉は、1863年にリンカーンの「人民の人民による人民のための政治」という言葉を想い起させ
ますが、果たしてトランプ氏にその意識があったかどうかはわかりません。

今回のスピーチの原稿が、オバマ氏の時のように、スピーチ・ライターによって書かれたものなのか、トランプ氏自身によって書かれたもの
なのかは分かりません。

ただ、この原稿についてはトランプ氏自身が随分前から構想を練り、書き直していたことが報じられていますから、ひょっとしたら彼自身の
政治信条なのかもしれません。

いずれにしても、上の理念が果たして本物なのか、あるいはたんなる、人気取りのリップサービスなのかは、これから現実の政治の中で
試されるでしょう。

また、トランプ大統領を誕生させた、既存の政治に対する強い不満を抱いていた人たちに向けて、既存の政治(実際には民主党政権)に
たいする痛烈な批判を浴びせます。

    ワシントンが栄えている一方、(一般の)国民は その富の分け前にあずかってこなかった。政治家は栄華を享受したが、
    仕事は減り工場は閉鎖された。既得権者(the establishment)は自らを守ったが、我が国の市民は守られなかった。彼ら
    (既得権者や政治家などのエリート)の勝利は、あなた方の勝利ではなかった。彼らの 凱旋はあなた方の凱旋ではなか
    った。彼らが首都で祝杯を挙げている一方で、我が国のいたるところで生活のために格闘している家族にとって祝うこと
    などほとんどない。(注1) (大木による仮訳。カッコ内は大木が付け加えた)

あたかも韻を踏むように、エリートが栄華を誇っている陰で、それから取り残された人々がいることを対比させています。このレトリックは
随所で繰り返されます。

次に、トランプ氏は、仕事を奪われ、見捨てられた人々は、もうこれからは見捨てられることはない、とのメッセージを繰り返し語りました。

これは明らかに、今回の選挙で、トランプ氏を強力に押し勝利に導いた人々へのメッセージです。

彼らが見捨てられたのは、アメリカ企業が外国に工場を移し、海外からの輸入品によって仕事と市場を奪われたからだ、というのがトラ
ンプ氏の一貫した主張です。これに対して「アメリカ製品を買い、アメリカ人を雇え」と訴えました。

就任演説では、「国境を取り戻す」「富を取り戻す」「仕事を取り戻す」ことを強調しました。

こうした姿勢は、予想された通りで、意外性はありませんでした。

演説の後半では、経済だけでなく外交においても「アメリカ・ファースト」(アメリカ第一主義)で進むことを強調します。

安全保障に関しても、それぞれの国はそれぞれの国の利益を優先して考えるべきである、との立場を鮮明にしています。

つまり、アメリカはアメリカの利益に従って軍事も外交も考えてゆくことを宣言しているのです。

これは、従来の、国際協調主義から一歩引いてゆくことを意味しているのですが、ただ、イスラム過激なテロリズム(具体的にはISを想定
している)に対しては、この地上から根絶する、と述べています。

オバマ政権は、この問題にてこずりましたが、トランプ氏は、この問題に対しては強硬路線をとるようですが、そう簡単にゆくでしょうか。

選挙中の言動で彼に向けられた白人中心主義に対する批判を意識してか、演説の最後の方で、

    黒人であろうと、褐色の人種であろうと、白人であろうと、全ての人には愛国という同じ赤い血が流れていることを忘れ
    てはならない。我々全ては同じ栄光を享受し、同じ自由を享受し、そして同じ偉大なアメリカの国旗に敬意を表する。

と、人種の壁を越えて団結することを訴えます。

さて、以上は、トランプ氏の言葉をそのまま引用しつつ、彼の政治姿勢を、就任演説をとおして素描したものです。

しかし、私にはやはりトランプ氏に関して大きな疑問符を付けざるを得ない懸念があります。

彼は、ホワイトハウスのエリート、特権階級を非難する一方で、言葉の上では、忘れ去られた人々に対して、ともに団結して「アメリカを再
び偉大な国にしよう」と呼びかけています。

しかし、トランプ政権の閣僚や主要人事をみると、軍人と大富豪(もちろんトランプ氏自身も含めて)によって占められています。

トランプ政権は「軍人と大富豪による、軍人と大富豪のための政治」だ、との皮肉がアメリカ国内で飛び交っています。

果たして本当に、反特権階級の政策を貫くことができるのか、「忘れられた人々」の生活を向上させることができるのか、そして、白人至上
主義者を要職に就けて、本当に人種の壁を越えた国民的統合をもたらすことができるのだろうか?

私には、アメリカ社会の中に生じてしまった断絶はあまりに大きく深く、その溝を埋めて「一つのアメリカ」を実現するのは、きわめて難しい
ような気がします。

確かに選挙には勝ったが、トランプ政権の支持率は40%。過半数の国民にとって「望まれない大統領」には、難問が山積みです。

最後に、日本にとっての影響について触れておきましょう。

就任式の直後、トランプ氏はいくつかの大統領令を出しました。その中に、以前より公約していたTPPからの離脱が含まれています。

安倍首相は、今年1月のアジア太平洋諸国訪問で、TPP実現を説得して回っていました。そして、トランプ大統領がTPP離脱を発表した
まさにそお同じ日、日本政府はニュージーランに、日本はTPPに関する国内手続きを全て完了したことを伝えました。

いずれにしても、安倍政権のこうした言動は、国際社会からみると、恐ろしいほどの政治音痴というか、この上なく間抜けな言動に移ります。

昨年のトランプとの会談の後、トランプ氏を「信頼できる指導者だと確信した」とはしゃいでいましたが、国民の過半数が支持しない大統領
を、どうして「信頼できる指導者」だと確信したのか、首をかしげてしまいます。

トランプ氏は、選挙運動期間には何を言っても、いざ政治を始めれば、現実的に変わるだろう、という日本政府の希望的観測は、見事に打
ち砕かれてしまったのです。

TPPに続いて、基地の存続問題、基地の費用負担問題についても、「アメリカ第一」の徹底したリアリズムで日本に接すてくることは間違い
ないでしょう。

これを期に日本も、そろそろアメリカからの「乳離れ」する必要があります。

(注1)英語の原文書き起こしは『毎日新聞』(電子版)(2017年1月21日)http://mainichi.jp/english/articles/20170121/p2g/00m/0in/004000c?fm=mnm#csidxbceda62f2543599be6316b2f5ce2fdb による。(Copyright 毎日新聞)

大木昌のTwitter https://twitter.com/oki50093319


--------------
1月中旬の関ヶ原は、雪国のようでした。(新幹線の車窓より)


紺碧の空に映える京都平安神宮


同じ日、静岡は快晴、温暖。ロマネスク風の旧静岡市役所


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

メリル・ストリープさんのトランプ氏批判-映画人の健全な精神-

2017-01-14 08:07:37 | 思想・文化
メリル・ストリープさんのトランプ氏批判-映画人の健全な精神-

「ハリウッド外国人映画記者協会」が米国のテレビと映画の優秀作品を選ぶゴールデングローブ賞の授賞式が2017年1月8日、カリフォルニア州
ビバリーヒルズで開かれ、女優メリル・ストリープさんが長年映画界に貢献した人に送られる「セシル・B・デミル生涯功績賞」を受賞しました。

ストリープさんは、6分間の受賞スピーチで、名前こそ出しませんでしたが、明らかにドナルド・トランプ次期米大統領と分かる表現で、彼をを痛烈
に批判しました(注1)。

このスピーチは原文(英語)でも全訳された日本語でも読むことができます(注2)。少し長くなりますが、歴史に残る感動的な内容なので、その大
部分を引用しておきます。

    「ハリウッド外国人映画記者協会」の皆さん、ありがとう。[中略]、ここにいる皆さん、私たち全員はいま、米国社会のなかで最も中傷
    されている層に属しています。だって、ハリウッド、外国人、記者ですよ(注3)。
    それにしても、私たちは何者なんでしょう。ハリウッドとはそもそも何なんでしょう。いろんなところから来た人たちの集まりでしかありま
    せん。
    私はニュージャージーで生まれ育ち、公立学校で教育を受けました。ヴィオラ・デイヴィスはサウスカロライナの小作人の小屋で生ま
    れ、ロード・アイランドのセントラルフォールズで世に出ました。サラ・ポールソンはフロリダで生まれ、ブルックリンでシングルマザー
    に育てられました。サラ・ジェシカ・パーカーはオハイオで8人兄弟のなかで育ちました。
    エイミー・アダムスはイタリアのヴィチェンツァ生まれです。ナタリー・ポートマンはエルサレム生まれです。
    この人たちの出生証明書はどこにあるんでしょう。
    あの美しいルース・ネッガはエチオピアのアディス・アババで生まれ、ロンドンで育ち──あれ、アイルランドだったかしら──今回、
    ヴァージニアの片田舎の女の子役で受賞候補になっています。
    ライアン・ゴズリングは、いい人たちばかりのカナダ人ですし、デヴ・パテルはケニアで生まれ、ロンドンで育ち、今回はタスマニア育ち
    のインド人を演じています。

    そう、ハリウッドにはよそ者と外国人がうじゃうじゃしているんです。その人たちを追い出したら、あとは、アメフトと総合格闘技(マーシ
    ャルアーツ)くらいしか見るものはないですが、それは芸術(アーツ)ではありません。
    しかし、この1年の間に、仰天させられた一つの演技がありました。私の心にはその「釣り針」が深く刺さったままです。[中略]
    それがいい演技だったからではありません。いいところなど何ひとつありませんでした。なのに、それは効果的で、果たすべき役目を
    果たしました。想定された観衆を笑わせ、歯をむき出しにさせたのです。
    我が国で最も尊敬される座に就こうとするその人物が、障害をもつリポーターの真似をした瞬間のことです(注4)。
    特権、権力、抵抗する能力において彼がはるかに勝っている相手に対してです。心打ち砕かれる思いがしました。
    その光景がまだ頭から離れません。映画ではなくて、現実の話だからです。
    このような他者を侮辱する衝動が、公的な舞台に立つ者、権力者によって演じられるならば、人々の生活に浸透することになり、他の
    人も同じことをしていいということになってしまいます。
    軽蔑は軽蔑を招きます。暴力は暴力を呼びます。力ある者が他の人をいじめるためにその立場を利用するとき、私たちはみな負ける
    のです。

    さて、この話が記者につながります。私たちには信念をもった記者が必要です。ペンの力を保ち、どんな暴虐に対しても叱責を怠らな
    い記者たちが──。建国の父祖たちが報道の自由を憲法に制定したゆえんです。
    そういうわけで、裕福で有名な「ハリウッド外国人映画記者協会」とわが映画界の皆さん、私と一緒に「ジャーナリスト保護委員会」の
    支援をお願いします。ジャーナリストたちが前進することが私たちにとって必要だし、彼らが真実を保護するために私たちが必要だか
    らです。

社会派女優として知られているストリープさんは、授賞式の会場にいる俳優や候補者の多くは、小さな町や貧しい家庭の出身、片親に育てられたり、
あるいは様々な国で生まれ育ったアウトサイダーだと紹介しました。

「特権や権力、抵抗する力のすべてにおいて、自分が勝っている相手」の記者を笑い者にした光景を観たとき、ストリープさんの心は少し砕けてしま
った、と言います。それは映画の場面じゃなく現実だったからです。

人に恥をかかせてやろうという本能を、発言力のある権力者が形にしてしまうと、それは全員の生活に浸透してしまいます。こういうことをしていいん
だと、ある意味でほかの人にも許可を与えてしまうからです。

他人への侮辱は、さらなる侮辱を呼びます。暴力は暴力を扇動します。そして権力者が立場を利用して他人をいたぶると、それは私たち全員の敗北
なのだ、とストリープさんは訴えました。

ストリープさんはさらに、「権力を監視し責任を果たさせるよう」報道機関に求め、会場の映画関係者たちにはハリウッドが報道機関を支えなくてはな
らないと強調しました。

1月20日に就任するトランプ氏は、ニューヨーク・タイムズ紙の電話取材に応えて、ストリープさんを「どうせヒラリー・ファンだ」と一蹴してしまいました。

授賞式やストリープさんのスピーチは見ていないが、「リベラル映画関係者」に攻撃されても「驚かない」と答えたという。

トランプ氏は6日には、俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー前カリフォルニア州知事も批判し、「視聴率王の私と比べると完敗だな」とこきおろし
ました。

同氏はトランプ氏が司会を務めていたテレビ番組「アプレンティス」の後任司会者に今月就任したが、視聴者数が前回より下回っていたことを指摘し
たのです。

シュワルツェネッガー氏は「視聴率のために努力したのと同じくらい、全国民のために働いてほしい」といさめました(注5)。

私がストリープさんのスピーチに感動したのは、これが政治集会ではなく、映画に関する授賞式でありながら、トランプ氏が障がい者を笑いものにし
たことに対する、純粋に人間としての怒りをはっきりと表明したからです。

もし日本で、似たようなことが政治家や権力をもった人の口から出たら、日本の映画人はどんな反応をするでしょうか?

たとえば沖縄に派遣された大阪府警の機動隊員が、基地建設に反対している人に向かって、「このボケ、土人が」あるは「黙れ、コラ、シナ人」と罵声
を浴びせたことに対して、「それはおかしい」「人道に反する」「差別だ」と抗議する日本の映画人がいるでしょうか?

それにしても、アメリカは大変な人を大統領に選んでしまったな、とつくづく思います。

(注1)この授賞式の全体の模様と解説は、BBCニュース Japan 2017年01月9日 
    http://www.bbc.com/japanese/video-38554395 で見ることができます。
(注2)スピーチの原文(英語の)書き起こしは
    http://www.nytimes.com/2017/01/08/arts/television/meryl-streep-golden-globes-speech.html?smid=pl-share&_r=1で見ることができます。
   また、日本語の全訳は、https://courrier.jp/news/archives/72974/ で見ることができます。
(注3)ここは、トランプ氏が大嫌いな民主党寄りのハリウッドの映画界、この賞自体が「外国人映画記者協会によるものであること、さまざまな地方や民族的背景をもち、
    また、彼を批判するメディアの記者のことを言っています。
(注4)トランプ氏は2015年11月の選挙集会で、腕をけいれんさせながら先天性の障害を持つニューヨーク・タイムズ紙のセルジュ・コバレスキ記者の真似をして、嘲笑したとされることを、指しています。
(注5)日経電子版(2017年1月10日 13:03)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM10H3I_Q7A110C1EAF000/?n_cid=NMAIL002
-----------

大木昌  ツイッター https://twitter.com/oki50093319

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アネハズル(姉羽鶴)はヒマラヤを越える―自然界の厳しさとたくましさ―

2017-01-07 06:55:47 | 自然・環境
アネハズル(姉羽鶴)はヒマラヤを越える―自然界の厳しさとたくましさ―



明けましておめでとうございます!!

日本も世界も、不安定で不透明な時代に入っていて、なんとなく暗い気分になりますが、年頭に当たり、少し元気をもらえる、アネハズル
の話を書きたいと思います。

アネハズルは、体長90センチほどで、ツルの中では最も小さいツルです。

アネハズルは、モンゴルやロシアの中央アジアの草原で繁殖し、インド南西部の越冬地を目指して4000キロの旅をする渡り鳥です。

しかし、インドへ行くためには、平原のモンゴルから高度8000メートル級の山々が連なるヒマラヤ山脈を越えなければなりません。

しかも、その年の春に卵からかえったばかりの雛も、半年後の秋口(10月半ば)にはこの過酷な移動をしなければならないのです。

アネハズルの生態とヒマラヤ越えの実写映像がNHKBSで紹介されました(注1)。

アネハヅルのヒマラヤ越えの映像は、上記のテレビ番組以外でも、もっと簡単に、YouTube でも見ることができます(注2)。

アネハヅルのヒマラヤ越えはとても感動的ですが、それに劣らず、このツルの生態を通して私たちは、自然界の厳しさと、生き残りのため
のたくましさいぇ知恵にも感動します。

今回の映像は、まず、繁殖地モンゴルでの調査記録から始まります。

アネハズルは、背の低い草がまばらに生えているだけの土地に卵を産み落とします。映像で見ると、これでも卵を産み雛を育てるための
巣なのか、と驚くほど粗末な作りです。

通常の鳥は、木の上や、タンチョウズルのように水辺の深い草に覆われて、外部からは見えない場所に巣を作ります。

ところが、アネハズルの“巣”は、私たちがイメージする鳥の巣とは程遠く、周囲から守る何一つない地面の一角です。

ほとんど、卵が地面にむき出しのまま転がっている、という感じです。このような環境では、新しい命に危険がいっぱいです。

まず、卵を産む季節になると、それを知ったカラスが卵を狙って集まってきます。

親鳥は、必死でカラスを追い払いますが、相手は数が多いので、いつも守れるとは限りません。

次に、この草原は、遊牧民の牧草地でもあり、羊や馬が通る時、卵を踏みつぶしてしまうこともあります。

映像では、羊が卵の数センチ横を羊が歩き、もう少しで踏みつぶしそうな様子を映し出しています。

また、馬が数頭近づいて生きたときには、親が羽を広げて威嚇し、追い払いました。

モンゴルの遊牧民の間でアネハズルは、春が来たことを告げる、幸運のシンボルとされ、子どもたちには、卵を触ると馬のアブミ
が切れて怪我をする、と教えています。

さて、ようやく無事に卵からかえることができても、安心できません。

タンチョウズルの親は水辺の魚のように比較的大きな餌を子どもに食べさせますが、草原で子育てをする親は、せいぜいバッタ
や小さな昆虫しか餌はありません。

草原では、姿を隠す木や草がないので、よちよち歩きの雛は鷲や鷹などの猛禽類の格好の餌食となってしまいます。

こうした環境の中でも、何とか生存できてきた理由の一つは、遊牧民が温かく見守ってきたからです。

それにしても、アネハズルは、なぜ、このような悪条件の地を繁殖地に選んだのでしょうか?

それは、こんな悪条件の下で、子どもの繁殖と養育をしようとする鳥は他にいないからなのです。

アネハズルは厳しい冬をモンゴルで越すことはできませんので、南のインドまで移動します。

春に卵からかえった雛も、半年後の秋には体も親鳥に近い大きさに成長しますが、まだ、体力は大人のツルほどはありません。

それでも、生き延びるために、4000キロ離れたインドを目指して、ヒマラヤを越えなければならないのです。

モンゴルの草原に冷たい風が吹き始めると、アネハズルはそろそろ移動の時が来たことを知ります。

そして、最低気温が0(零)度を下回った時、アネハズルの群れは一斉に飛び立ちます。

途中で、ヒマラヤを越えるための体力を付けるために、ヒマラヤ山中に点在する集落の周辺で、収穫が終わった麦畑に立ち寄り、
麦の落穂をお腹いっぱい食べます。

そして、準備ができたアネハズルから飛び立ちます。映像で見ると、数十羽のアネハズルがV字型の編隊を組み、その尖った方
を前にしてで飛んでいます。

いくつものV字型の集団が幾重にも、後から後から続いています。

V字型に編隊を組むのは、前方の鳥のおかげで空気抵抗が少なくなって、後続の鳥の体力を温存できるからです。

これは、自転車競技なので、チームの中でも風よけになる選手を前に走らせるのと同じです。

しかし、これでは先頭や前を飛ぶ鳥の負担が大きいので、適当な距離を飛ぶと順次、後ろのツルが先頭部に交代しているのが映像
で確認できます。

本能といえばそれまでですが、自然界の知恵とたくましさに感動します。

こうして先頭集団は、ヒマラヤの高い山脈を乗り越えるための最後の休憩地にたどり着き、体を高く運んでくれる上昇気流を待ちます。

そのうち、途中で餌を補充するために時間がかかった若鳥たちも順次、休憩地に到着します。

体力のある大人のツルたちは、強風と闘いながら、何回か挑戦し、上昇気流をうまくつかまえてたくましくヒマラヤを越えてゆきます。

しかし、若鳥クループは、強風に勝てず、挑戦しては跳ね返され、手前の川原で一旦、休憩をして体力の温存を図ります。

そして、いよいよ、眼前に壁のようにそそり立つヒマラヤの氷壁に突進しては、押し戻されてしまいます。

現地の人たちがアネハズルを「風の鳥」と呼ぶのは、こうした光景を見きたからでしょう。

それを待ち構えるように、ヒマラヤ越えの季節がくると、ワシやタカ、ハヤブサなどの猛禽類が、ヒマラヤ越え目前のアネハズルの集合
地点で待ち構え、体力をなくしたツルを襲います。

捕えたアネハズルの肉をくわえて、ワシが、おそらく子どもたちに与えるため、飛び去ってゆきます。これも、また自然の摂理なのです。

映像では、こうした過酷な自然条件に立ち向かい、ようやく上昇気流をつかまえて、一気に6000メートルまで上昇して、何とか無事に
インドの避寒地へたどり着く姿を映し出しています。

アネハズルは、超高空を飛ぶので、空気は地上の三分の一しかありません。その中で風に立ち向かい突破するために必要な酸素を取
り込むために、肺の他に気嚢と呼ばれる、いわば第二の肺を持っています。

専門家によると、アネハズルが逆風を突破できるのは、その体の大きさが関係している、という。

もし、今のサイズより小さいと力不足となり、タンチョウズル(1.2メートルほど)のように大きいと風の抵抗が大きすぎて、ヒマラヤを越える
ことができません。

この点、アネハズルは、体力と風の抵抗とがヒマラヤ越えを可能にする絶妙なバランスを備えています。

最後に、途中で1,2回休むとはいえ、4000キロという長距離を飛ぶためには、気嚢の存在だけでは不可能です。

アネハズルの飛翔を詳しく見ると、常に羽を動かしているわけではなく、気流を利用して羽を動かさず滑空状態と、羽を動かして飛んでい
る状態とを交互に繰り返していることがわかります。

自然界には温度も、餌も、巣作りにも、安全面でも理想的な場所はそれほど多くありません。条件が良ければ良いほど、そのような場所は、
まず、生存競争に勝てる強い生物によって占拠されてしまいます。

しかし、条件が悪いということは、競争相手が少ないということでもあります。

アネハズルは、恐らく何百万年もかけて、不利な条件に適応してきたのでしょう。いのちの世界の雄大な時の流れを感じます。


(注1)NHKBS2 『ワイルドライフ:アネハズル驚異のヒマラヤ越えを追う』(2016年10月25日)


(注2) youtube https://www.youtube.com/watch?v=7nl-AQm_PN8 でみることができます。

大木昌の Twitter https://twitter.com/oki50093319
--------------------------------------------------------------------------------------

初めて、成田山新勝寺に初もうでに行きました。(平成29年元旦)

成田山新勝寺の初もうで。本殿前の広場。

本殿から階段の人を臨む


いよいよ本殿へ。入場制限が行われて、順次参拝場所まで行きます。





  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする