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大木昌の雑記帳

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日本 2014年の選択―アベノミクスの虚像と実像―

2014-12-27 09:46:48 | 経済
日本 2014年の選択―アベノミクスの虚像と実像―

2014年も残りあとわずかとなりました。人はこの時期,この1年を振り返り,来年がどんな年になるのか,
またはどんな年にしたいかを考えます。

同じように,国レベルでも,今年度についてどのような選択をし,来年度からどのような方向に進むのかを考える時期です。

とりわけ,今年の12月行われた衆議院総選挙で同24日には第二次安倍内閣が誕生しましたので,この2年間の安倍政権
の政策を総合的に評価する必要があります。

安倍政権がこの2年間で決定した国家的選択のうち,際立つのは,マスメディアに盛んに登場した「アベノミクス」という経済政策です。

衆議院選挙でも,「アベノミクス」という経済政策だけを前面に出して,安倍首相にとって「本丸」である,「戦争の出来る国」
への政策は封印しました。

しかし,この2年で安倍政権が実行した重要な決定を挙げてみると,軍事的分析や戦略の策定を検討する「安全保障会議」
の設立(2013年),武器輸出三原則の見直し,(2014年4月 事実上の武器輸出を可能にしたこと),「集団的自衛権」の行使容認
の閣議決定(2014年7月),「特定秘密保護法」の施行(2014年12月)などの政治・軍事的政策が目につきます。

このほか,法制化というわけではありませんが,原発再稼動の積極的推進,TPPの推進なども今後の日本の政治・経済・社会
に大きな影響を与えます。

これらの問題は既に,このブログでも何回も取り上げましたが,今回は「アベノミクス」について,もう一度整理し,
今まで取り上げなかった問題をみてみようと思います。

「アベノミクス」について経済評論家の内橋克人氏は,アベノミクスとは実体のない「国策フィクション」
であると断定しています(『世界』今月発売の2015年1月号)。

内橋氏によると,第一の矢である黒田日銀総裁による「異次元金融政策」で,お金は市中にあふれ,それによって企業の設備投資
を増やすことが期待されていました。

しかし実際には,投資は増えませんでした。それどころか,実際には市中にも出回らず,あろうことは日銀にそのまま眠って
いるのです。

増えた通貨の行き着いた先は実体経済の水流ではなく,ほかならぬ日銀内部の冷蔵庫の中で,「氷漬け」となっていたのです。

数字を見ると,異次元緩和が始まった2013年3月末から2014年10月末までの1年半の貨幣供給量の増加額約118兆円に
対して,各銀行が日銀に開設している当座預金の額は,それまでの47兆驚くことに,これまでの預金額も加えて
120兆円にも達しているのです。

言い換えると,この間に増加したお金を上回る金額が全く使われないまま日銀の当座預金として眠っているのです。

2014年度の国家予算(一般会計)が約95.5兆であることを考えると,この金額がいかに巨額であるかがわかります。

こうした実態を内橋氏は「影も見えない『マネー』は人びとの頭の上,すなわち政府~日銀~銀行の間に架けられた遥かな
『天空回路』をただぐるぐる回りしているにすぎない」と表現しています。

安倍首相は,金融緩和によって企業の設備投資が増え,企業業績が上がり,動労者の賃金も増える,という
「好循環」が生まれると力説しています。

しかし,このような実態を見ると,金融緩和といっても市中にお金が回ったのではなく,お金は実体経済の中で循環
しなかったのです。

これをはっきりと示すのが,貨幣供給量の増加→設備投資の拡大という図式がまったく起こらなかった実態です。

10月機械受注統計でみると,「船舶・電力を除く民需」が前月比6.4%も減少したのです。(『日刊ゲンダイ』
2014年12月13日)

さらに,今年7~9月期のGDPが,V字回復どころか,マイナス1・9%と二期連続で減少し,物価上昇分を
差し引いた実質賃金も10月まで16か月連続で低下しています。

これらの数字のどこを見ても「好循環」はみられません。ただ,部分的に輸出企業や大企業の利益が円安により
「円換算」で増えただけで,輸出が増えたわけではありません。

また,安倍首相が自慢する賃金の上昇も,それら大企業に勤務している労働者の賃金が少し上がっているだけで,
国全体では賃金上昇はありません。

問題は他にもあります。日本金融財政研究所所長の菊池英博氏の試算によると,昨年4月から現在まで,
約77兆円が日本の金融機関
からどこかに消えました。

その行く先はアメリカのウォール街のヘッジファンドに貸し出されたようです。ヘッジファンドは安い金利で借り
た金で,日本の株と「ドル」を買いに走り,日本の株高と円安というアベノミクス「幻想」を支えているのが実態
だといいます。

こうしたことから菊池氏は「アベノミクスとは,日本を『アメリカの財布』にする政策です。

異次元レベルの金融緩和で,国民の富をひたすら米国に差し出しています」と断定しています。(『日刊ゲンダイ』
2014年12月13日)

異次元緩和により日銀が増加供給したお金の行く先を厳密に調べる必要はありますが,かなりの部分は,金融機関が
日銀にもっている当座預金として「氷漬け」になっているほか,海外のヘッジファンドに流れている可能性は大いに
あります。

というのも,現在,日本の株式取引の60%は外国のヘッジファンドによるもので,最近の株価の上昇で最も利益を得
ているのはこれらファンドであることは明らかだからです。

安倍首相は,日経平均株価(つまり,日本の大企業の平均株価)の上昇をもって自らの経済政策が成功していること
の指標として自慢しています。

しかし,現在のところ,実体経済の成長によって企業収益が増え,労働者の賃金が増え,地方の隅々まで恩恵が行き
渡りつつある,という好循環は全くありません。

むしろ,経済に関するほとんどの指標は,経済の下降,デフレへの進行を示唆しています。

2014年の衆議院選挙で日本が選択したことになった「アベノミクス」は本当に良かったかどうか,おそらく
ここ1年ではっきりするでしょう。

株高という現象も,実体経済とはかけ離れたマネー・ゲーム上での虚像に過ぎないのです。

選挙の投票では自民党に入れた人たちも含め,実はアベノミクスなど,安倍政権の個々の政策には否定的な意見が
多くあります。

共同通信の世論調査によれば,アベノミクスで景気が良くなるとは「思わない」が62.8%,九州電力川内原発に
「反対」が51.7%,
安倍政権の安保政策を「支持しない」が55.1%,と,重要課題に関して,いずれも安倍政権に対して過半数が
否定的なのです。

私たちは来年も,実態と虚像とを厳しい目で見つめてゆく必要があります。




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2014年衆議院総選挙―誰が勝者で誰が敗者か―

2014-12-20 07:09:58 | 政治
2014年衆議院総選挙―誰が勝者で誰が敗者か―

今回の衆議院選挙は,いくつもの異常な側面がありました。

一つは,第二次安倍内閣が発足して2年で,特別な理由(大義)がないのに解散をしたことです。

これについては,このブログでもすでに何回か書いていきました。

二つは,今回のような一種の「奇襲作戦」は,ゲリラのように,勢力の小さい方が大きい方に仕掛ける
のが普通ですが,今回の選挙は逆に,圧倒的に優勢な与党(自民党と公明党)が,少数勢力の野党に仕掛けたことです。

安倍政権は,野党の準備が整う前に選挙を実施し,徹底的に野党を潰してしまおうと,奇襲的な作戦に出たのです。
圧倒的な優位をもつ政党が,なりふり構わない行動をとるのはやはりフェアではないと思います。

「安倍首相の安倍首相による安倍首相のため」の選挙に700億円もの税金を使うことに,何のためらいも感じない
安倍首相の姿勢も問題です。

三つは,今回の選挙でとても異様だったのは,安倍政権の側がメディアに対して行使した露骨な
圧力や高圧的な姿勢です。

11月18日のTBS系「NEWS23」に出演した安倍首相は,街頭インタビューに応じた町の人が,アベノミクスの恩恵は届いて
いないなど,否定的な意見を答えていた映像をみて,「(インタビューの相手を)選んでおられると思いますよ」といい,また,
賃金が上がっていないという街の声に対して,「おかしいんじゃないですか。6割の企業は賃上げをしているんですよ」
と一方的にまくし立てました。(注1)

7-9月のGDPは二期連続マイナスで,賃金も連続15か月減少していることがすでに発表されていたにも関わらず,です。
この「6割の企業」の根拠も不明です。

さらに,メディアに対する報道規制ともいえる文章が,自民党筆頭副幹事長・萩生田光一および報道局長・福井照氏の連盟で,
衆議院解散前日の11月20付で,「要望書」という形でNHKと在京のテレビ局に送られました。

それは「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」という文書で,「出演者の発言回数や時間」
「ゲスト出演者の選定」「テーマ選び」「街頭インタビューや資料映像の使い方」などを含んでいます。

そのような中、当初は各党の議員と政治家以外のパネリスト数人が討論するという構成であった討論番組『朝まで生テレビ!』
(テレビ朝日系/11月29日放送)が、放送日直前に議員のみの出演に変更されました。

出演予定者だった評論家の荻上チキ氏のツイッターによれば、放送日2日前の27日に番組スタッフから電話があり、
「ゲストの質問によっては中立・公平性を担保できなくなるかもしれない」との理由で議員のみの出演に変えると伝えられたという。

荻上氏は「番組スタッフに『誰かが何か言ってきたりしたんですか?』と確認しましたが、あくまで局の方針と番組制作側の方針が
一致しなかったため、とのことでした。

番組スタッフも戸惑っていた模様です」とコメントしています。(注2)

大学の文化祭に,安倍内閣に批判的な孫崎享氏を講演者に予定していた大学が,直前になって断った事例もあります。

大学の中にも,安倍政権批判を自粛するムードがあります。

さらに,12月8日付の文書で自民党滋賀県連の佐野高典幹事長が,「びわこ成蹊スポーツ大学」の学長である嘉田由紀子前滋賀
県知事が民主党の公認候補の街頭演説の参加したことに対し,次のような趣旨の文書を,大阪成蹊学園の石井理事長に送りました。

それは,私学といえども私学振興という税金が交付されていること言及したうえで,一般有権者を前にして,特定の政党,
候補を大々的に応援することは,教育の「政治的中立性」を大きく損なう行為であり,大学の学長のとるべき姿とはとても
考えられない,というものです。”

これに対して嘉田氏は「教育基本法14条では『学校での政治活動』については『中立』と書いてありますが,学外や時間外での
教育関係者の(政治的)行動を禁止していません」と反論しています。(『日刊 ゲンダイ』2014年12月13日)

メディア側の萎縮は,菅原文太さんの死亡に関連した報道にも現れています。

よく知られているように,菅原さんは反戦や脱原発を訴えてきましたが,テレビの追悼番組では晩年の政治的な発言には触れず、
映画スターとしての功績だけを追うものが目立ちました。

無農薬有機農業を広めることと、再び戦争をしないよう声を上げること,の二つの「種」を世にまいた、とつづった妻文子さん
のコメントのうち、肝心の農業や不戦に触れた部分を削除して報じたテレビもあったのです。(注3)

ここには,自民党政権の言論に対する圧力と,自粛というメディア側の萎縮の姿勢がくっきりとみられます。

安倍首相の高圧的な姿勢は,テレビに出演した際の対応にも現れていました。

投票日に日本テレビのニュース番組「ZERO」に出演した際,村尾信尚キャスターがアベノミクスに対する批判的な質問
を始めると,イヤホンをはずし(つまり,相手のいうことを聞かず),自分の主張だけを一方的にまくしたてました。(注4)

安倍首相は自分に対する批判にはムキになって反論し,相手が間違っている,自分は正しいという主張を一方的に繰り返しています。

四つは,投票前に大新聞がこぞって,「自民圧勝」あるいは「自民単独で300議席超え」といった予測を
報じていたことです。

しかし結果をみると,自民党の獲得議席は291議席で安定多数を維持したものの,前回の293議席を下回っています。

また政党支持率を示す比例代表の得票を全国の有権者数を分母してみると,1770万票で,17%にすぎません。

自民党の小選挙区の得票数をみると,2005年の小泉内閣の「郵政選挙」では3200万票,2年前の2012に自民党が政権を奪回
した時には2564万票,そして今回は2530万票弱で,自民党の得票数は一貫して減少し続けています。

こうした事実にも拘わらず,多くのメディアが今回の選挙を自民党「圧勝」とか「大勝」と書き立てるのはおかしいと思います。

五つは,投票率が戦後最低で,52.66%強,つまり有権者の2人に1人ほどしか投票していないことです。

ここまで投票率が低いと,当選した議員で構成される国会の正当性も根底から疑われます。オーストラリアでは投票は義務
でもあり,投票に行かないと罰金を科せられます。

今回の選挙の低投票率については二つの背景があるように思います。

一つは,「主要紙が序盤情勢で有権者の投票意欲を失わせた結果ですよ。自民300議席超の圧勝観測をタレ流し,
『選挙に行っても,この国は変わらない』とあきらめムードを蔓延させた」という見方です(評論家の川崎泰資氏のコメント
『日刊 ゲンダイ』2014年12月16日)。

確かに,現政権が維持されることが確実視されていると,自分の投票が「死に票」になるのを嫌って,自民党に投票したという
場合もかなりあったと推測されます。

この点に関して文芸評論家の齋藤美奈子氏は「圧勝報道の害」というコラム記事で,注目ポイントは,このような低投票率
にもかかわらず,「自民党が議席を減らしたことだろう」と適格なコメントを書いています。(『東京新聞』2014年12月17日)。

つまり,投票率が低いと,組織票をもっている自民党に有利なります。それにもかかわらず,自民党が議席を減らしたこと
こそが,今回の選挙で注目すべき点だと言っているのです。

もう一つは,若者(とりわけ20代の若者)の投票率が低いことです。これは,たんなる「政治への無関心」や「あきらめ」
とはちがう,若者が日本の政治に「見切りをつけてしまった」からではないか,と私は危惧しています。

賃金は減少し続け,老後の年金も当てにできない。加えて,巨額の財政赤字も,使用済み核燃料などの厄介物の処理も自分たち
の世代に付け回されることを若者は知っています。

若者にとって,現状も将来もマイナスばかりを抱える人生になってしまいます。

慶応大学の金子勝氏は「若者が見放した日本の政治」というコラムで,今回の選挙における若者の低投票率に関連して次の
ように書いています。

   ひょっとすると,日本社会が若者を使い捨てにし,未来を奪っていることに対して,若者が政治を見捨て,この国を静かな
   ファッショに向かわせているのかもしれない。
   未来の崩壊を早めることが,20代,30代のひとつの「希望」になっている気がしてならない。(『日刊ゲンダイ』2014年12月17日)

つまり,日本に希望があるとすると,落ちる所まで落ち,崩壊を早める以外にはない,という若者の絶望的な心情が彼らの低投票率
をもたらしているという見方です。

少し極端に聞こえるかもしれませんが,私も共感するとことがあります。しかも,この心情は若者だけでなく,多くの日本人の
心の底に流れているのではないか,と私は恐れています。

この意味で,今回の選挙の「勝者」は誰もいないが,「敗者」は日本の政治構造そのもの,実質的に政治を支配している
「大人世代」なのではないか,と感じています。

(注1)https://www.youtube.com/watch?v=1N773Bii9vg でこの時の会話を映像を見ることができます。是非,実際に聞くことをお勧めします。
(注2)http://biz-journal.jp/2014/11/post_7521.html
(注3)『毎日新聞』(2014年12月17日)
     http://mainichi.jp/shimen/news/20141217dde012200002000c.html
(注4)https://www.youtube.com/watch?v=870gENf36U4 このサイトでも実際のやり取りを聞
 くことができます。


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「第二の敗戦」?―戦後日本が直面する最大の危機―

2014-12-15 07:18:15 | 政治
「第二の敗戦」?―戦後日本が直面する最大の危機―

最近の2~3年,「敗戦」という言葉が私の頭をめぐっています。

もちろん,日本がどこかと戦争をして負けたという意味ではありません。そうではなくて,日本という国と社会が,
大きく崩壊しているという,漠然とした感じです。

そんな折り,たまたま,上田紀行氏の「第三の敗戦」と題する記事(上,下二回)という記事を読みました。
(『東京新聞』2014年11月8日,15日)。

第一回目の記事(上)のサブタイトルは「『支え』なくした社会 使い捨てと保身」で,第二回目のそれは
「『大人も正義感持て』心の廃墟からの復興」となっています。

上田氏は,日本が第二次世界大戦で軍事的に敗北したことを「第一の敗戦」としています。

「第一の敗戦」の後,日本は見事に復興を成し遂げ,1980年代後半には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」
と経済的勝利に酔いしれた。

ところが90年代初頭のバブル崩壊は一転して経済的敗戦という「第二の敗戦」をもたらしたという。

確かに,これは日本社会と経済に大打撃を与え,その後20年ほどは,この「敗戦」から立ち直れませんでした。

この意味で,バブルの崩壊を「第二の敗戦」と位置付けることも不可能ではありません。

上田氏が「第三の敗戦」と呼ぶのは,2006年ころの小泉政権時に,人が「使い捨て」にされる社会に日本が
行きついたことです。

上田氏は,この状況の中で,若者たち,とりわけ非正規雇用の若者,ワーキングプアと言われる若者たちは,
自分たちが「使い捨て」状態に置かれていることを痛切に感じているだけでなく,それを追認していることに怒りを
感じたと述べています。

もう一つの側面として,社会的な正義といったものに若者が無関心になり,ひたすら自分の保身を優先するように
なったことです。

上記の問題について私なりに少し補足しておきます。小泉政権時代には,新自由主義(徹底した市場原理主義)
が政策に取り込まれ,国際的にはグローバリズムの名の下で日本の企業は激しい国際競争と,国内企業間,さらに
企業内で社員間の競争が激しい競争にさらされました。

この状況は,強いものが勝つ「弱肉強食」の風潮が蔓延し,自己責任が強調されるようになりました。

強いもの,勝者はまずます強く豊かになるが,弱者や敗者はさらに不利な立場に追い込まれてゆきます。

これは格差の拡大をもたらしますが,小泉元首相はかつて国会でも,格差が拡大することは悪いことではない,
とはっきり言っていました。

この小泉路線を,現安倍政権はさらに露骨な形で引き継がれています。すなわち,残業代ゼロ政策,正規雇用を
減らし,非正規雇用をもっと増やそうとする政策は,人件費というコストをできる限り抑えたい企業の要請に
応えたものです。

第二次~三次小泉内閣に当たる2003~2006年が日本社会のあり方として大きな転換期であったことは確かです。

以上の諸点を総合的に勘案して,上記の小泉政権時代に「弱肉強食」「弱者切り捨て」という非情な世界に突入した,
という意味でなら上田氏がこの時期の変化「第三の敗戦」と命名したことは必ずしも的外れではありません。

ただし,上田氏が指摘した,バブルの崩壊による「第二の敗戦」も,小泉元首相の新自由主義がもたらした
「第三の敗戦」も,経済的な破たんと市場原理主義がもたらした,人々の「心の廃墟」をもたらし,自分の保身に
走り社会正義に対する関心が薄くなることも深刻な「敗戦」であることは確かです。

上田氏が指摘する第二,第三の敗戦という区分は,日本にとって大きな挫折・打撃であったことを十分に認めた上で私は,
これら二つの「敗戦」とは比較にならないほど深刻な「敗戦」がここ数年の日本に起きつつあると感じています。

それを,第二次世界大戦の軍事的敗戦(「第一次敗戦」)に次ぐ大きな敗戦という意味で敢て,「第二の敗戦」と
名付けたいと思います。

「第二の敗戦」

私が考える「第二の敗戦」とは,2011年「3・11」の東日本大震災・福島第一原発爆発事故と,それに続
く第二次安倍政権が発足(2012年)して以来強行している,一連の政策と法制化です。

原発事故と安倍政権の政治とは,これまで日本人が,深く疑うことなく依拠してきた「国の土台」が根底から
崩壊してしまった,あるいは崩壊しつつあるという意味で共通しています。

まず,原発事故ですが,日本は40年以上にわたって,あまり意識することなく,むしろ当たり前のこととして
原発によって作られた電力を使ってきました。

その際政府も電力会社も,原発が立地している地域の住民と,日本国民に,原発は絶対に安全で,他の発電
より安いという「安全神話」が繰り返し宣伝してきました。

国民の間には以前から,原発にたいする不信と危険性にたいする批判はありましたが,今回の事故が起こるまで,
日常生活のなかでそれらが表面化することはありませんでした。

しかし,「3・11」原発事故は「安全神話」を一挙に吹き飛ばしてしまいました。

また,原発ビジネスは「原子力村」と称される,政・官・財・学(大学・研究者)の利権集団によって推進して
いることが明らかになりました。

もう一つ大事なことは,原発事故により,近代科学にたいする信頼が揺らいだことです。つまり,一見合理的で
効率的にみえる近代技術は,必ずしも安全ではなく,むしろ大きな危険を抱えることに,国民の多くが気づいたのです。

現在でも,かつての故郷に帰ることができない避難民が23万人以上もおり,さらに使用済み核燃料や高濃度
放射性廃棄部物の最終処分場も決まらないまま,出口のない袋小路に追い込まれています。

今回の原発事故は,いわば,アメリカではなく,日本人が日本人にたいして投下した「原爆」
による敗戦
です。

以上,福島原発事故が引き起こした深刻な事態が「第二の敗戦」の第一幕です。

「第二の敗戦」の第二幕は,第一幕のすぐ後にやってきました。

それは,安倍政権は,憲法九条に象徴される平和主義,国民主権による民主主義,個人の自由と人権の尊重など,
戦後日本の根幹をなしてきた「国の形」「国の基礎」を根底から変えつつあります。

つまり,ナショナリズムの復活,戦争ができる国への転換,平和主義の放棄,国民主権による民主国家から国家主義へ,
という日本という国の形を変えようとしました。

簡単に言えば,戦前のような日本への復帰,憲法九条に縛られた平和主義から戦争のできる国へ転換することです。

もっとも,この第二幕には,途中で挫折はしましたが,それに先立つ備工作がありました。

2006年の第一次安倍内閣は自らの内閣の性格を「美しい国づくり内閣」とし,目標に「戦後レジームからの脱却」
を掲げました。

この時の安倍政権は,閣僚の不祥事や不適切な発言により辞任し,自らの病気もあって,わずか1年で首相を辞職に
追い込まれました。

それでも,防衛庁を防衛省に昇格させ,憲法改正手続きに関する法律(国民投票法)を可決させ,憲法改正への一歩を記しました。

2012年,当時自民党総裁だった安倍氏は「日本を取り戻す」というスローガンを掲げて圧勝し,民主党から政権を奪還しました。

第二次安倍政権が発足すると,まずは,国民の関心事である経済の立て直しを目指すとして,いわゆる「アベノミクス」
政策を打ち上げました。

安倍氏の「本丸」(本当の目的)が憲法九条の改定にあることは周知の事実です。第二次安倍内閣発足後の2年間は,ひたすら,
その準備を進めました。

まず,2013年11月には防衛・外交など安全保障政策の立案や提言を行う,日本版NSC「国家安全保障会議」を設置しました。

次に,同年12月には,特定秘密保護法案が強行採決され2014年12月10日に施行されました。これにより秘密を洩らした
公務員や民間人は厳罰に処せられることになりました。

しかし,政府は自分たちだけの判断で情報を「秘密」指定ができることになり,秘密の範囲があいまいで,指定の妥当性を
チェックする仕組みが十分ではありません。

しかも,最終的には政治・行政文書は廃棄まで可能ですから,後に事実を検証することさえできないのです。こうして国民の
「知る権利」が大きく奪われてしまうのです。

2014年4月には,それまでの武器輸出三原則を廃止し,新たに「防衛装備移転三原則」を決定し,それまで禁止されていた
武器の輸出と国際共同開発を可能にしました。

そして,2014年7月には,集団的自衛権の行使容認を,国会での審議をすることなく,いわば裏口から侵入するような手法で
閣議決定してしまいました。

これにより,日本の自衛隊は他国(実態はアメリカ)のために戦争を行うことができるようになるのです。

もちろん,この閣議決定を実効的にするためには関連法案を整備する必要がありますが,それも国会での圧倒的な多数をもって
すれば全てクリアできると考えているようです。

安倍首相は,武器輸出三原則の「武器輸出」の部分を「防衛装備移転」と言い換えたり,実態は戦争行為を認める集団的
自衛権の行使容認を「積極的平和主義」と表現し,「戦争」を「平和」という言葉に言い換えています。

イデオロギーの面では,2006年の教育基本法を改正し道徳教育,愛国心などが公教育で強調され,これと連動して,
教科書検定もこの考えにそって厳しく行われるようになりました。

こうした,一連の政治決定を並べてみれば分かるように,安倍政権がこの2年間で行ってきたことは,まずは集団的自衛権
によって,実質的に日本を「戦争ができる国」に変え,次に,憲法改正により名実ともに「戦争ができる国」に作り変えること
を可能にするための準備工作であったことが分かります。

第二次世界大戦で国民も周辺諸国にも多大な人的・物的は犠牲をもたらしましたが,唯一,得たものは憲法第九条だった,
という見方があります。

日本国憲法は交戦権を認めず,国際紛争を解決する手段としての戦争の放棄を謳っています。

日本が戦後,国際社会で尊敬されてきた面があるとすれば,それは技術でも驚異の戦後復興でもなく,戦争の放棄を謳った
憲法第九条をもっているという,この事実こそが根拠になっていると思いまます。

安倍首相は,この点を過小評価していますが,もし日本が憲法第九条を放棄したら,国際社会がこれまで日本に抱いていた
尊敬は失われるでしょう。

2014年12月14日の衆議院選挙で,自公合わせて326議席という圧倒的多数を獲得した現在,「第二の敗戦」はもはや
「危惧」ではなく現実のものとなりつつあります。

以上の観点から,現代の日本は戦後初めて,極めて危険で深刻な「第二の敗戦」を迎えていると感じています。

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大義なき衆議院解散(3)―幻想のアベノミクスと危険な「第四の矢」―

2014-12-08 08:53:54 | 政治
大義なき衆議院解散(3)―幻想のアベノミクスと危険な「第四の矢」―

このシリーズの(1)で,安倍政権の本当の狙いは集団的自衛権行使を容易にし,憲法改正までをも視野に入れた,
政治軍事的野心であることを書きました。

今回は,第二次安倍政権の2年間に行われた経済政策を,「アベノミクス」に焦点を当てて,それがどのような結果をもたらしたのかを
検証します。

ところで,アベノミクスという言葉は,もともとは第二次安倍政権が発足した際に,大胆な金融緩和によってデフレからの脱却を目指す
政策に対してマスコミが命名した言葉でした。

それ以後いつしか安倍首相自身も,自らの経済政策を「アベノミクス」と呼ぶようになっています。

安倍政権は今回の衆議院解散を「アベノミクス解散」であると位置づけ,あたかもこの2年間の経済政策の是非を問うかのようなポーズ
をとっています。

しかし,アベノミクスという言葉頻繁に発せられてきたにもかかわらず,実際には,この2年間は,国家安全保障会議,特定秘密保護法案,
集団的自衛権の行使容認など,戦争に直接間接にかかわる案件ばかりに時間とエネルギーが注がれてきました。

目立った経済政策としては「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指し,法人税の軽減を行うなど企業の優遇政策に力をいれてきました。

これにたいして働く者に対しては,残業代ゼロ,派遣などの非正規労働の増大と固定化につながる法改正に力を入れ,経済的弱者を救済
する発想はほとんどありません。

安倍首相は,現在のアベノミクスはうまくいっているから,今後もこれを続けてゆくと述べていますが,もし,うまくいっているなら,
何も消費税を延期する必要はありません。

しかし,安倍首相も認めているように,現在の景気は良くありません。これは今年の4月に消費税を5%から8%に上げたことで,
一挙に景気が後退期に入ってしまったからです。

それでも現在の自民党は,すでに好循環がはじまっているとの主張を繰り返しています。11月27日朝の情報番組で,ある都内の自民党
候補の言葉に私は耳を疑いました。

彼は,「アベノミクス」により「デフレから脱却し」「賃金が上がり」「消費が増える」という好循環が始まっている,と述べた後,
今回の選挙は「これでいいんですね」ということを問う選挙だと言いました。

この候補のレベルがこの程度なのか,とびっくりしましたが,考えてみれば,これが自民党の公式見解なのです。

安倍首相が誇らしげに語る雇用の改善にしても,この2年間に非正規雇用は123万人増えましたが,正規雇用数は22万人減ったのです。

つまり,非正規雇用という不安定で低賃金労働者を増やし,正規雇用を減らしてきたのです。これと連動して,年収200万円以下の人は
30万人増えています。

こうした現状を反映して,実質平均賃金は今年9月には2.9%マイナスで,連続15か月下落し続けています。

一般の国民の家計は,賃金の減少に加えて円安による輸入品物価の高騰,それに消費増税よって大きく傷んでいます。(注1)

これでは消費が増えるはずはありません。

これに対して,大企業から成る一部上場企業1380社の本年度上半期(4-9月)の最終利益14兆3070憶円になり,過去最高を記録しました。

しかしその約半分は,上場企業全体の2%程度にすぎない上位30社で占めています。

安倍政権は,優良企業が利益を上げれば,やがて労働者や地方にも利益が「滴り落ちる」(トリクルダウン)という好循環が始まると主張
してきましたが,そのようなことは全く起こっていません。

それどころか,現代の日本では,格差がいままでになく拡大しつつあります。

そもそも,「トリクルダウン」は,実体経済が目覚ましく拡大している開発途上国では起こり得ますが,先進資本主義国ではほとんど
起きていません。

アメリカのレーガン政権時代もイギリスのサッチャー政権時代も,トリクルダウンが生ずるから,といいつつ自由競争と大企業優先の
政策を行いましたが,結局,トリクルダウンは起きませんでした。

日本でも実体経済が拡大していた高度経済成長期にはトリクルダウンが起きましたが,バブル崩壊以後,それは起こっていませんし,
全般的な景気後退状況にある現在の日本では起こりえません。

安倍首相自身が経済についてよく理解していないだけでなく,首相のブレーンの経済学者が時代遅れの理論を信じているのか,
あるいは事実を見誤っているとしか言えません。

安倍政権の目論見は,日銀による大規模な金融緩和で円安を引き起こし,輸出を増やして景気を回復させることにありました。

しかし,輸出企業の多くは生産拠点を海外に移しているので円安でも輸出は伸びませんでした。かつてアメリカへの自動車輸出は日本経済
をけん引してきましたが,

2014年上半期をみると,この分野も8.9%減少しています。

ただ,トヨタなどが空前の利益を得ているのは,輸出台数は減っても円安による為替差益のおかげで受取額が増えているからです。

こうしたマイナス要因が相互に影響して,経済状態全般を示すGDP(国内総生産)の値が,2期連続マイナスになっているのです。

つまり,好循環ではなく悪循環が始まっているのです。

消費増税が実施された今年の4月-6月の四半期が7.3%(年率換算)と大きく落ち込んだ時,政府は,これは想定の範囲内であり,
7月-9月四半期はV回復して少なくともプラス2%にはなる,と予測してきました。

民間の調査機関は,プラス4%くらいの上昇が見込めるという推定値さえ出されました。

しかし,実際にはプラスところか,速報値でマイナス1.6%でした。つまり政府見通しより,3.6%も悪化したのです。

さらに12月8日に発表された改定値では,7-9月期のGDPは年率でマイナス1.9%に減少し,政府見通しより3.9%も低下して
しまったのです。

ここで深刻なのは,消費増税の反動で大きく落ち込んだ4-6月四半期のGDPよりも,7-9月期の方がさらに低かったことです。

二期連続,これけGDPが減少したのは,日本経済がまぎれもなくデフレのサイクルに入っていることを示しているのです。
そして,これらの事実が示しているように,アベノミクス失敗したのです。

それでは,政府見通しのどこに読み間違いの原因があったのでしょうか。経済学者の伊東光晴氏は「本格的な経済学をやっていない
グループが首相のブレーンだから,理論上あり得ない」ことを実行しているからだ,と切り捨てています。(注2)

彼は,「第一の矢」は飛んでない;「第二の矢」は折れている;「第三の矢」は音だけの鏑矢,と表現しています。
もう少し具体的にみてみましょう。

「第一の矢」は「大胆な金融緩和政策」により消費者物価2%上昇を目標に,市中への貸出金利を下げるよう誘導しました。
そうすれば,企業の設備投資も個人の消費も増えるという目論見です。

しかし,安倍政権(およびそのブレーン)が見誤ったのは,利子率が低下すれば投資が増えるだろうという古典的な理論です。

伊東氏は,企業投資の決定要因は利子率なんかではなく利潤が期待できるかどうかである,という事実を指摘しています。

また,金融緩和で市中にお金が大量に出回って物価が上昇すれば,老後に備えて貯えた預貯金は相対的に価値がさがり,
目減りしてゆきます。したがって,人々はますますお金を使わなくなり,個人消費は増えません。

こうした,「理論上あり得ない幻想」に基づいているため,伊東氏は「第一の矢」は「飛んでいない」と結論します。

ただし,安倍首相は,日経平均株価が第二次安倍政権発足時の1万円台から6000円以上上がったことを「アベノミクス
」の効果と宣伝しています。

しかし伊東氏によれば,株価の上昇は外国のファンド資金が日本に流れ込んだためで,決してアベノミクス効果ではありません。

実際,日本の実体経済が向上しているから株価が上昇しているわけではありません。現在,日本の株式の40%は外国の
ファンドが保有しており,取引の60~65%は外国のファンドです。

これらのファンドは,リーマンショックで落ち込んでいた欧米の株価が回復し投資枠を超えたために,2012年ころから日本株
を買うようになったのです。

しかも,無制限の金融緩和(お金を無制限に刷って市場に流すこと)は,貨幣価値をさげることですから,いつかは増税か
手持ち財産の減少という形で,そのつけは,いずれを国民が払わされることになるのです。

アベノミクスの「第二の矢」は国土強靭化政策を中心とした,財政出動で,公共事業によって需要創出を図ろうとする政策です。

これは巨大地震に備えて建物や堤防などの耐震化,避難路の整備などに10年間で200兆円を投入するとされています。

しかし,2014年度の公共事業関係予算は6兆円です。

現在の国債残高を見ても,すでに1000兆円を超えており,到底,公共事業を増やす余裕はありません。

さらに悪いことに,土木事業は人手不足で予定された工事が満足に進行していません。

こうした現実から伊東市は,「第二の矢」は「折れている」と結論したのです。

最後に「第三の矢」ですが,これは規制緩和によって「民間投資を喚起する成長戦略」です。じつは,ここが最も深刻な問題で,

結局,めぼしい成長戦略はこの2年間出てきませんでした。

無理に挙げるとすると,今年の6月に一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売を正式に解禁したことくらいです。

このように考えると,伊東氏が「第三の矢」を「音だけの鏑矢」と命名したのもうなずけます。伊東氏は,掛け声だけで実質的な
効力のない,「第三の矢」を,的を射るための矢ではなく,放つと音が鳴るだけの鏑矢にたとえているのです。

以上みたように,結局「三本の矢」はいずれも有効に放たれることなく現在に至っています。

伊東氏は結論として,この二年間,安倍政権は経済政策をはじめとして効果のあることは何もやってこなかったに等しい。
今解散したのは,それがばれる前に選挙をやってしまえば引き続き政権を担えるから,と,安倍政権の経済政策を厳しく
批判しています。

さらに伊東氏は,「三本の矢」は全て失敗に終わりましたが,「第四の矢」こそが危険性をはらんでいると警告しています。

伊東氏が言う「第四の矢」とは安倍首相が掲げる「戦後レジームからの脱却」を指しています。これは,日本を戦争が
できる国に戻し,国際紛争を武力で解決しようとすることです。

今回の選挙後には,背広脱ぎ捨て,その下に隠されていた鎧が全面的に表に出てくる可能性があります。私たちは,
この点を注視する必要があります。



(注1)http://www.nikkei.com/article/DGXZZO80100870V21C14A1000000/
(注2)以下の伊東氏の見解は,『東京新聞』2014年11月19日を参照。

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大義なき衆議院解散(2)―検証:公約無視の第二次安倍内閣―

2014-12-04 05:23:44 | 政治
大義なき衆議院解散(2)―検証:公約無視の第二次安倍内閣―

“安倍首相の 安倍首相による 安倍首相のための”衆議院選挙が,財政難の日本で700億円以上もかけて行われます。

この解散・総選挙に大義がないことは前回書きましたが,今回は2年間の第二次安倍内閣が何をしてきたかを検証してみたいと思います。

まず,下に示した表は自民党が2年前の衆議院選に際して掲げた公約と,現状を対比したものです。(『東京新聞』2014年11月19日)

     

上記の問題のほとんどはこのブログでも何回か取り上げてきました。そして,経済に関しては,いわゆる「アベノミクス」の成否を中心
として次回のブログ記事で独立して扱うので,今回は,それ以外の問題について検証してみたいと思います。

まず,「特定秘密保護法」は,前回の衆議院選では公約にはまったく示されていませんでした。民主主義の大前提である
「知る権利」を根底から揺るがすこの法律を,昨年(平成25年)の秋に強行採決してしまいました。

国会で多数をもっていれば何でもできる,という安倍内閣の傲慢さがもっとも露骨に出ている案件です。

集団的自衛権の行使容認に関して,前回の選挙の公約として書かれていますが,それは「国家安全保障基本法」を
制定するという条件付きでした。

しかし,この法律を通すためには国会での審議が必要となるため,安倍首相は基本法を制定することなく,憲法解釈変更という,
いわば「裏口」からこっそり入る姑息な手法で閣議決定してしまいました。

上記の2件から見られるように,安倍首相は民主主義のルールを無視した,危険な手法を多用します。

次に,原発・エネルギー問題です。2年前の衆議院選挙の公約では,「原子力に依存しなくてもよい経済,
社会構造の確立を目指す」と同時に,
「最優先課題として再生可能エネルギーの最大限の導入を図る」としていました。

しかし,今年2月25日に発表された「エネルギー基本計画」では,原発は「ベースロード電源」(常にほぼ一定の出力で発電を行う電源,
で安定的電力供給の基盤となる)と位置付けられました。

つまり,これからも原発は最重要電源として維持してゆくことを明確に示したのです。この背景には,原発稼働を望む電力会社,
それらから多額の献金を受ける国会議員,産業界の圧力などがあります。

福島第一原発の爆発事故の本当の原因もまだ明らかにされておらず,復興庁の調べでは,今年の10月末現在でも23万9000人もの
避難民がおり(注1),さらに使用済み核燃料や放射性廃棄物の最終処理場さえ決まっていません。

それでも,まだ原発を再稼働させ,必要なら新設さえ可能な含みを持たせようとしているのです。

また,「再生可能エネルギー」の最大限の導入を図るという公約も,選挙向けの人気取り政策としか思いません。

政府は,すでに再生可能エネルギーの固定価格での買取り(FIT)を電力会社に義務図ける制度を導入しています。

これは一見,再生エネ推進の起爆剤になるように見えたのですが,現実にはそうはなっていません。この制度を活用して,
太陽光発電に投資した企業は個人も多数います。

しかし,川内原発の再稼働を申請した九州電力は,再稼働の目途がたった直後に,太陽光発電の電力買取りを中断してしまいました。

この再稼働は,基準を満たしているという原子力規制委員会の判断(当委員会は,決して安全であることを認めたわけではないと
明言しています)を受けて政府が容認したものです。

この例に見られるように,電力会社は,原発を優先する姿勢をなりふり構わず露骨にだしており,九電に続いて,他の電力会社も
次々と買取りを中断してしまいました。

東電は明確な中断こそしていませんが,送電能力の限界を理由に,実質的に大きく制限しています。

一方政府は,電力会社の買取り義務を法制化しながら,こうした電力会社の対応を黙認しており,再生エネの普及を本気で推進しようと
する姿勢がまったく見られません。

それどころか安倍首相は今年の7月,九電会長ら九州の財界人約20名が出席する会合で,「川内(原発)はなんとかしますよ」と,
政府が再稼働を後押しすることを公然と語っています。(『東京新聞』2014年11月25日)

このような一方的な措置に対して,すでに多額の投資をしている個人や団体から強い批判が寄せられたため,電力会社と経産省はようやく,
11月20頃,年内にも買取り再開の方針を固めました。

ただし,買取りは無条件ではありません。「太陽光発電設備からの送電を中断する制度の拡大など供給制限の仕組みを入れることを条件
とする」,という条件付きです。

つまり,太陽光発電の供給が増えすぎた場合,電力会社は一定期間(30日ほど),買取りを拒否できることになっているのです。

もうひとつ,従来は発電の買い取り契約だけしておいて,実際には発電をしない事業者が多数いましたが,これからはそのような業者
に対して買取り拒否できるという条件が付けられました。

これは,本来なら当初から講じておくべき措置で,むしろ遅すぎたくらいです。

次にTPPに関してですが,安倍首相は当初,「聖域なき関税撤廃」を前提とする限り,交渉参加に反対である,
と見栄を切っていました。

しかし私は,この強気の発言は,ポーズにすぎず,やがてアメリカの圧力に抵抗できず,TPPを受け入れることになると思っていました。

実際,このポーズは時間を経るに従ってトーンダウンし,今では「聖域なき関税撤廃」は前提ではない,と譲歩しています。

このブログでもすでに詳しく書いたように(注2),オバマ大統領が来日した時,日本側は,「尖閣諸島は安保の対象」という言葉を
引き出したことで満足し,アメリカへの譲歩を決定的にしてしまいました。

国民にとって非常に重大な問題は,交渉の過程が全て秘密とされていることです。条約が締結されフタを開けてみたら,とんでもない
ことになっていた可能性は十分あります。

政治改革では,2年前,当時の安倍自民党総裁の,議員定数削減を実行するという国会で確約しましたが,いざ政権を取ると,
この「身を切る改革」は完全に無視されました。

社会保障については,財政難を理由に,「弱い立場の人をしっかり援助の手を差しのべると言いながら,
実際には生活保護の日常生活費を2015年度までに670億円も削減してしまいました。

地方分権が何もすすまないまま,基地負担は,相変わらず沖縄に押し付けたままで,まったく軽減されていません。

こうしてみてくると,安倍政権の2年間は,公約違反,公約の変質,公約にないことの抜き打ち的実施など,強引だけが印象付けられます。

最後に,21日衆議院が解散したこともあり,安倍政権の目玉の一つであった「女性活躍推進法案」が廃案後なったことを
付け加えておきます。

(注1)
HTTP://WWW.RECONSTRUCTION.GO.JP/TOPICS/MAIN-CAT2/SUB-CAT2-1/20141031_HINANSHA.PDF
(注2)2014年5月4日投稿記事「オバマ大統領訪日―オバマ氏の誤算と手玉に取られた安倍首相-」。

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