日本 2014年の選択―アベノミクスの虚像と実像―
2014年も残りあとわずかとなりました。人はこの時期,この1年を振り返り,来年がどんな年になるのか,
またはどんな年にしたいかを考えます。
同じように,国レベルでも,今年度についてどのような選択をし,来年度からどのような方向に進むのかを考える時期です。
とりわけ,今年の12月行われた衆議院総選挙で同24日には第二次安倍内閣が誕生しましたので,この2年間の安倍政権
の政策を総合的に評価する必要があります。
安倍政権がこの2年間で決定した国家的選択のうち,際立つのは,マスメディアに盛んに登場した「アベノミクス」という経済政策です。
衆議院選挙でも,「アベノミクス」という経済政策だけを前面に出して,安倍首相にとって「本丸」である,「戦争の出来る国」
への政策は封印しました。
しかし,この2年で安倍政権が実行した重要な決定を挙げてみると,軍事的分析や戦略の策定を検討する「安全保障会議」
の設立(2013年),武器輸出三原則の見直し,(2014年4月 事実上の武器輸出を可能にしたこと),「集団的自衛権」の行使容認
の閣議決定(2014年7月),「特定秘密保護法」の施行(2014年12月)などの政治・軍事的政策が目につきます。
このほか,法制化というわけではありませんが,原発再稼動の積極的推進,TPPの推進なども今後の日本の政治・経済・社会
に大きな影響を与えます。
これらの問題は既に,このブログでも何回も取り上げましたが,今回は「アベノミクス」について,もう一度整理し,
今まで取り上げなかった問題をみてみようと思います。
「アベノミクス」について経済評論家の内橋克人氏は,アベノミクスとは実体のない「国策フィクション」
であると断定しています(『世界』今月発売の2015年1月号)。
内橋氏によると,第一の矢である黒田日銀総裁による「異次元金融政策」で,お金は市中にあふれ,それによって企業の設備投資
を増やすことが期待されていました。
しかし実際には,投資は増えませんでした。それどころか,実際には市中にも出回らず,あろうことは日銀にそのまま眠って
いるのです。
増えた通貨の行き着いた先は実体経済の水流ではなく,ほかならぬ日銀内部の冷蔵庫の中で,「氷漬け」となっていたのです。
数字を見ると,異次元緩和が始まった2013年3月末から2014年10月末までの1年半の貨幣供給量の増加額約118兆円に
対して,各銀行が日銀に開設している当座預金の額は,それまでの47兆驚くことに,これまでの預金額も加えて
120兆円にも達しているのです。
言い換えると,この間に増加したお金を上回る金額が全く使われないまま日銀の当座預金として眠っているのです。
2014年度の国家予算(一般会計)が約95.5兆であることを考えると,この金額がいかに巨額であるかがわかります。
こうした実態を内橋氏は「影も見えない『マネー』は人びとの頭の上,すなわち政府~日銀~銀行の間に架けられた遥かな
『天空回路』をただぐるぐる回りしているにすぎない」と表現しています。
安倍首相は,金融緩和によって企業の設備投資が増え,企業業績が上がり,動労者の賃金も増える,という
「好循環」が生まれると力説しています。
しかし,このような実態を見ると,金融緩和といっても市中にお金が回ったのではなく,お金は実体経済の中で循環
しなかったのです。
これをはっきりと示すのが,貨幣供給量の増加→設備投資の拡大という図式がまったく起こらなかった実態です。
10月機械受注統計でみると,「船舶・電力を除く民需」が前月比6.4%も減少したのです。(『日刊ゲンダイ』
2014年12月13日)
さらに,今年7~9月期のGDPが,V字回復どころか,マイナス1・9%と二期連続で減少し,物価上昇分を
差し引いた実質賃金も10月まで16か月連続で低下しています。
これらの数字のどこを見ても「好循環」はみられません。ただ,部分的に輸出企業や大企業の利益が円安により
「円換算」で増えただけで,輸出が増えたわけではありません。
また,安倍首相が自慢する賃金の上昇も,それら大企業に勤務している労働者の賃金が少し上がっているだけで,
国全体では賃金上昇はありません。
問題は他にもあります。日本金融財政研究所所長の菊池英博氏の試算によると,昨年4月から現在まで,
約77兆円が日本の金融機関
からどこかに消えました。
その行く先はアメリカのウォール街のヘッジファンドに貸し出されたようです。ヘッジファンドは安い金利で借り
た金で,日本の株と「ドル」を買いに走り,日本の株高と円安というアベノミクス「幻想」を支えているのが実態
だといいます。
こうしたことから菊池氏は「アベノミクスとは,日本を『アメリカの財布』にする政策です。
異次元レベルの金融緩和で,国民の富をひたすら米国に差し出しています」と断定しています。(『日刊ゲンダイ』
2014年12月13日)
異次元緩和により日銀が増加供給したお金の行く先を厳密に調べる必要はありますが,かなりの部分は,金融機関が
日銀にもっている当座預金として「氷漬け」になっているほか,海外のヘッジファンドに流れている可能性は大いに
あります。
というのも,現在,日本の株式取引の60%は外国のヘッジファンドによるもので,最近の株価の上昇で最も利益を得
ているのはこれらファンドであることは明らかだからです。
安倍首相は,日経平均株価(つまり,日本の大企業の平均株価)の上昇をもって自らの経済政策が成功していること
の指標として自慢しています。
しかし,現在のところ,実体経済の成長によって企業収益が増え,労働者の賃金が増え,地方の隅々まで恩恵が行き
渡りつつある,という好循環は全くありません。
むしろ,経済に関するほとんどの指標は,経済の下降,デフレへの進行を示唆しています。
2014年の衆議院選挙で日本が選択したことになった「アベノミクス」は本当に良かったかどうか,おそらく
ここ1年ではっきりするでしょう。
株高という現象も,実体経済とはかけ離れたマネー・ゲーム上での虚像に過ぎないのです。
選挙の投票では自民党に入れた人たちも含め,実はアベノミクスなど,安倍政権の個々の政策には否定的な意見が
多くあります。
共同通信の世論調査によれば,アベノミクスで景気が良くなるとは「思わない」が62.8%,九州電力川内原発に
「反対」が51.7%,
安倍政権の安保政策を「支持しない」が55.1%,と,重要課題に関して,いずれも安倍政権に対して過半数が
否定的なのです。
私たちは来年も,実態と虚像とを厳しい目で見つめてゆく必要があります。
2014年も残りあとわずかとなりました。人はこの時期,この1年を振り返り,来年がどんな年になるのか,
またはどんな年にしたいかを考えます。
同じように,国レベルでも,今年度についてどのような選択をし,来年度からどのような方向に進むのかを考える時期です。
とりわけ,今年の12月行われた衆議院総選挙で同24日には第二次安倍内閣が誕生しましたので,この2年間の安倍政権
の政策を総合的に評価する必要があります。
安倍政権がこの2年間で決定した国家的選択のうち,際立つのは,マスメディアに盛んに登場した「アベノミクス」という経済政策です。
衆議院選挙でも,「アベノミクス」という経済政策だけを前面に出して,安倍首相にとって「本丸」である,「戦争の出来る国」
への政策は封印しました。
しかし,この2年で安倍政権が実行した重要な決定を挙げてみると,軍事的分析や戦略の策定を検討する「安全保障会議」
の設立(2013年),武器輸出三原則の見直し,(2014年4月 事実上の武器輸出を可能にしたこと),「集団的自衛権」の行使容認
の閣議決定(2014年7月),「特定秘密保護法」の施行(2014年12月)などの政治・軍事的政策が目につきます。
このほか,法制化というわけではありませんが,原発再稼動の積極的推進,TPPの推進なども今後の日本の政治・経済・社会
に大きな影響を与えます。
これらの問題は既に,このブログでも何回も取り上げましたが,今回は「アベノミクス」について,もう一度整理し,
今まで取り上げなかった問題をみてみようと思います。
「アベノミクス」について経済評論家の内橋克人氏は,アベノミクスとは実体のない「国策フィクション」
であると断定しています(『世界』今月発売の2015年1月号)。
内橋氏によると,第一の矢である黒田日銀総裁による「異次元金融政策」で,お金は市中にあふれ,それによって企業の設備投資
を増やすことが期待されていました。
しかし実際には,投資は増えませんでした。それどころか,実際には市中にも出回らず,あろうことは日銀にそのまま眠って
いるのです。
増えた通貨の行き着いた先は実体経済の水流ではなく,ほかならぬ日銀内部の冷蔵庫の中で,「氷漬け」となっていたのです。
数字を見ると,異次元緩和が始まった2013年3月末から2014年10月末までの1年半の貨幣供給量の増加額約118兆円に
対して,各銀行が日銀に開設している当座預金の額は,それまでの47兆驚くことに,これまでの預金額も加えて
120兆円にも達しているのです。
言い換えると,この間に増加したお金を上回る金額が全く使われないまま日銀の当座預金として眠っているのです。
2014年度の国家予算(一般会計)が約95.5兆であることを考えると,この金額がいかに巨額であるかがわかります。
こうした実態を内橋氏は「影も見えない『マネー』は人びとの頭の上,すなわち政府~日銀~銀行の間に架けられた遥かな
『天空回路』をただぐるぐる回りしているにすぎない」と表現しています。
安倍首相は,金融緩和によって企業の設備投資が増え,企業業績が上がり,動労者の賃金も増える,という
「好循環」が生まれると力説しています。
しかし,このような実態を見ると,金融緩和といっても市中にお金が回ったのではなく,お金は実体経済の中で循環
しなかったのです。
これをはっきりと示すのが,貨幣供給量の増加→設備投資の拡大という図式がまったく起こらなかった実態です。
10月機械受注統計でみると,「船舶・電力を除く民需」が前月比6.4%も減少したのです。(『日刊ゲンダイ』
2014年12月13日)
さらに,今年7~9月期のGDPが,V字回復どころか,マイナス1・9%と二期連続で減少し,物価上昇分を
差し引いた実質賃金も10月まで16か月連続で低下しています。
これらの数字のどこを見ても「好循環」はみられません。ただ,部分的に輸出企業や大企業の利益が円安により
「円換算」で増えただけで,輸出が増えたわけではありません。
また,安倍首相が自慢する賃金の上昇も,それら大企業に勤務している労働者の賃金が少し上がっているだけで,
国全体では賃金上昇はありません。
問題は他にもあります。日本金融財政研究所所長の菊池英博氏の試算によると,昨年4月から現在まで,
約77兆円が日本の金融機関
からどこかに消えました。
その行く先はアメリカのウォール街のヘッジファンドに貸し出されたようです。ヘッジファンドは安い金利で借り
た金で,日本の株と「ドル」を買いに走り,日本の株高と円安というアベノミクス「幻想」を支えているのが実態
だといいます。
こうしたことから菊池氏は「アベノミクスとは,日本を『アメリカの財布』にする政策です。
異次元レベルの金融緩和で,国民の富をひたすら米国に差し出しています」と断定しています。(『日刊ゲンダイ』
2014年12月13日)
異次元緩和により日銀が増加供給したお金の行く先を厳密に調べる必要はありますが,かなりの部分は,金融機関が
日銀にもっている当座預金として「氷漬け」になっているほか,海外のヘッジファンドに流れている可能性は大いに
あります。
というのも,現在,日本の株式取引の60%は外国のヘッジファンドによるもので,最近の株価の上昇で最も利益を得
ているのはこれらファンドであることは明らかだからです。
安倍首相は,日経平均株価(つまり,日本の大企業の平均株価)の上昇をもって自らの経済政策が成功していること
の指標として自慢しています。
しかし,現在のところ,実体経済の成長によって企業収益が増え,労働者の賃金が増え,地方の隅々まで恩恵が行き
渡りつつある,という好循環は全くありません。
むしろ,経済に関するほとんどの指標は,経済の下降,デフレへの進行を示唆しています。
2014年の衆議院選挙で日本が選択したことになった「アベノミクス」は本当に良かったかどうか,おそらく
ここ1年ではっきりするでしょう。
株高という現象も,実体経済とはかけ離れたマネー・ゲーム上での虚像に過ぎないのです。
選挙の投票では自民党に入れた人たちも含め,実はアベノミクスなど,安倍政権の個々の政策には否定的な意見が
多くあります。
共同通信の世論調査によれば,アベノミクスで景気が良くなるとは「思わない」が62.8%,九州電力川内原発に
「反対」が51.7%,
安倍政権の安保政策を「支持しない」が55.1%,と,重要課題に関して,いずれも安倍政権に対して過半数が
否定的なのです。
私たちは来年も,実態と虚像とを厳しい目で見つめてゆく必要があります。