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大木昌の雑記帳

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「絶望死」(1)―アメリカの暗い闇―

2017-11-26 17:40:55 | 社会
「絶望死」(1)―アメリカの暗い闇―

アメリカにおける、「絶望死」に関して、二つの衝撃的な記事が公表されました。一つは、今回、紹介する、国際的な通信社
「ロイター」の記事で、もう一つは次回に紹介する「Newsweekapan」『ニューズウィーク・ジャパン』の記事です。

両者は同じ研究者による研究報告に基づいて、ややちがった観点から「絶望死」の問題を論じています。

今回は「ロイター」の記事「コラム:『絶望死』が増加する米国社会の暗い闇」の紹介から始めましょう。まずは、事実関係。

米国の国民、特に白人で低学歴層の平均寿命が以前よりも短くなっているというものです。そして、その主な原因はドラッグ、
アルコール、そして自殺であるという。

事の発端は、プリンストン大学のアン・ケース教授とアンガス・ディートン教授は、これらを「絶望による死」と呼び、その
背景にある統計を紹介したことです。

「絶望による死」とは、通常の自殺のほかに、現在の苦悩と将来への希望のなさから酒やドラッグに溺れた結果、さまざまな
病気(たとえば肝臓病)で死ぬことです。

通常、自殺以外のこのような死は「病死」とされますが、ケース教授とディートン教授は、その底にある要因の本質は「絶望」
であると指摘したことが、衝撃的でした。

両教授によれば、25─29歳の白人米国民の死亡率は、2000年以降、年間約2%のペースで上昇していることが分かっ
ています。

この数字が異常であるのは、他の先進国では、この年代の死亡率は、ほぼ同じペースで、逆に低下しているからです。

50─54歳のグループではこの傾向がさらに顕著で、米国における「絶望による死」が年間5%という驚異的なペースで増加
しています。この数値は、ドイツとフランスではいずれも減少しています。

「絶望死」の中身をもう少し詳しくみると、学歴が高卒以下の人々の死亡率は、あらゆる年代で、全国平均の少なくとも2倍以
上のペースで上昇しています。

また、低学歴の米国民の中で「健康状態が良くない」と回答する人が、以前に比べて、また大成功を収めた米国民に比べて、は
るかに多くなっています。

問題は、米国経済は成長しているし、失業や脱工業化は他の先進国にも共通する問題を抱えているのに、他の先進国では「絶望
による死」は増加していないという事実です。

これには、何かアメリカ固有の理由があるにちがいありません。

ケース、ディートン両教授は、低学歴層には「累積的な不利」を襲う「3つの弱点」があると分析します。

第1に、米国の福祉制度が不十分。とりわけオピオイド系鎮痛剤中毒の拡大にたいして、資金不足もあって、ほとんど有効な公
的対処方策をとっていないことです。

第2に、医療制度も混乱している。中毒を引き起こす鎮痛剤や精神安定剤の処方の監視を行政は怠ってきたし、これら企業のロ
ビー活動にたいして行政当局が抵抗できないという事情がある。しかも、こうした薬剤の使用にたいして米国民は「異常なほど」
無頓着だという。

この点に関して、2017年11月6日に放送された、NHKテレビ「クローズアップ現代+」で、紹介されたアメリカ人労働に関する驚く
べき報告があります。

トランプ大統領は、海外から輸入していた工業製品を米国内で生産し、海外に展開していた米企業の工場を国内に移すよう呼び
かけてきました。

しかし、実態はむしろアメリカ社会の闇を浮き上がらせてしまいました。すなわち、新しい工場労働者を公募したところ、応募
者の約50%の人の尿から薬物反応が出た、と言う事実です。

この事実は、アメリカ社会において、とりわけ工場労働者など、主として低学歴層に薬物がいかに個人レベルで浸透しまん延し
てしまっているかをはっきり示しています。

第3に、米国民は異常なほど自己破壊欲が強い。これは一種の国民性である。

この点につて両教授は、エミール・デュルケムの1897年の著作「自殺論」を参考にしています。

デュルケムは、自殺の原因として家庭や共同体、既成宗教により提供されてきた伝統的な指針が排除されたことに基づく、きわ
めて現代的な孤独を仮定しました。

彼はこれを「アノミー(無規範状態)」と呼びましたが、政治分野では「疎外」、文化分野の批評家は「幻滅」という言葉を使
うところです。

また、心理学者は孤立した個人の抑うつを臨床的に研究し、社会学者はいかに経済的な変化によって社会的な立場や自尊心が広
範に失われたかに注目します。

アメリカでは共同体が失われ、個人が孤立した状態で疎外感を抱き、生きることの「意味」を喪失した人々が多数いる。

意味が失われれば、人生はすぐに絶望的な快楽の探求へと堕落してしまい、あるいは生きることそのものが拒否されてしまう。

両教授によれば、米国民のなかでも、非熟練労働は社会的に低く評価されており、共同体の分断と信仰の衰退に加えて強い疎外
感(自分だけが無視され孤立しているという感情)を抱いていた。このため、この層は最も大きな経済的苦痛に直面している。

以上がケース、ディートン教授の分析です。両教授は、共同体や信仰・意味を衰弱させる現代的要因はたくさんある、と書いて
いますが、その具体的な要因については詳しく説明していません。

ただ、家族共同体と信仰の衰退がアメリカ全体に進行している、という状況が底流としてあり、そこで生きていることの意味が
失われている、という点だけは確認できます。

こうした中で、普段から疎外されている低学歴層が、経済苦によって最も大きなダメージを受けており、彼らが、絶望のあまり
薬やアルコーに手を出したり、自殺する状況を作っている、というのが両教授の結論です。

最後にもう一つ、アメリカ人の国民性として、米国民は異常なほど自己破壊欲が強いと指摘していますが、これは本当に国民性
なのか、自己破壊(つまり、ヤケになって無茶な飲酒や薬依存になったり自殺すること)をさせるような社会的な環境のせいな
のかは簡単には言えません。

この点の検証も必要です。

次回は、もう少し別の観点から同じ問題を考えます。

(注1)Edward Hadas  Reuter ( 2017年4月2日 / 09:23 /) https://jp.reuters.com/article/usa-death-failure-column-idJPKBN17218X

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アンデルセン公園(船橋)の谷津(谷戸)。落ち葉の中を絞り水の細流が流れ        晩秋の鬼怒川。背後の山の紅葉はすでに枯れて茶色に。しかし川沿いの紅葉は何とか深紅を保っています。
その縁にはナナカマドがたくさんの真っ赤な実をつけています
 


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トランプ大統領の訪日(2)―ジャイアンとスネオ?-

2017-11-19 06:46:41 | 政治
トランプ大統領の訪日(2)―ジャイアンとスネオ?―


前回に引き続いて、まず、コラムニスト小田嶋隆氏の批評を参考に、トランプ大統領の訪日の意味について考えてみます。

それは一言でいうと、日米関係における、露骨な主従関係が明らかになた、ということです(注1)。

日本での公式日程を終えたトランプ大統領は、帰り際に、
    私の訪日がもたらした安倍総理との親密な関係は、わたしたちの偉大な国に多大な利益をもたらすだろう。軍事、
    エネルギー関連について、巨大な受注が発生している」
というツイートを発信しています(注2)。

もしこれが、アメリカに帰国した後の発信であったとしたら、訪日の成果としてのアピールとみれば、分からないわけで
はありません。

しかし、このツイートは、日本滞在中に発信されたもので、安倍首相から、アメリカという偉大な国に、大きな利益を引
き出した、と吹聴しています。

これでは、いかにも安倍首相はカネをむしり取られただけ、と言っているに等しいし、馬鹿にした印象を与えます。

コラムニストの小田嶋隆氏は、「どうしてこの人は、あえて他人の神経にさわるようなものの言い方をするのだろうか?」
と問いかけ、 その回答に近い記事を発見した、と書いています。

「日本のリーダー、安倍晋三氏は、トランプの忠実な相方の役割を演じている」(Japanese leader Shinzo Abe plays the
role of Trump’s loyal sidekick) と題された『ワシントン・ポスト』紙の記事を引用しています。

ここで小田嶋氏が問題にしているのは、トランプ氏からみて安倍首相は「sidekick」という露骨に軽蔑的な言葉です。

”sidekick” には 《口語》として、通常、仲間 (companion); 親友 (close friend); 相棒, 同類 (partner, confe-
derate)という訳語が当てらており、必ずしも「下僕」(servant)、あるいは「下っ端」(follower)という意味ではあり
ません。

しかし、”role of royal sidekick”という言い方からして、「忠実な仲間」「忠良な相棒」ぐらいのことにはなるわけで、
ニュアンスとしては、やはり「子分」に近くなります。

いずれにしても、小田嶋氏が言うように、新聞が一国の首相を評するにあたってヘッドラインに持ってくる言葉としては、
十分に軽んじた言い方だと思う。

この『ワシントン・ポスト』の記事の中で、トランプ氏の言葉としてこんなエピソードが紹介されています。
    「日本は発展し、日本の都市は活力に満ち、世界でも有数のパワフルな経済をつくりあげている」と言った。ここ
    でトランプは、読み上げていた原稿から目を離して、アベの方を見ると、
    「でも、我々ほどうまくいっているだろうか。私はそうは思わない。“そうだろう 分かってるね”(“okay”)?」
    と、強権を持つ親が子共に言い含めるかのように ”そうだろ 分かってるね“ を強調して言った。
    「われわれはそれを維持して続けていく」、ついでにいえば「君たちは二番手だ」と付け加えた。
    翻訳者に内容を伝えられたアベは、黙って微笑んでいた(注3)。

安倍首相は、内心、苦々しくみじめな言葉として受け取ったか(私としては、せめて、それくらいの自負心をもっていて欲
しいのですが)、あるいは、何も感じなかったのか、そこは分かりません。

このやり取りを、小田嶋氏はアメリカのテレビドラマに出てくるクラスのいじめっ子そのものの態度に見える」と表現して
いますが、私の目には、「どらえもん」に登場するガキ大将のジャイアンと、馬鹿にされ、いじめられながらも、強いジャ
イアンに着き従わざるを得ないスネオとの主従関係のように映ります。

そして、安倍首相は、ジャイアンの威光を借りて、周囲に威張って見せるスネオの姿もほうふつとさせます。

さらに小田嶋氏が危惧しているのは、「深刻なのは、トランプ大統領がこのように振る舞い、安倍首相がそれをこんなふう
に受けとめていることが、世界中に伝えられていることだ」という点です。

今回のトランプ訪日について、『東京新聞』(11月16日)の「こちら報道部」は、「欧米は冷ややか」「『大成功』のシン
ゾー・ドランルド外交」、「日本のメディアはヨイショばかり」と、否定的な評価をしています。

具体的には、欧米メディアは、共通の趣味のゴルフ場でのハプニングだけに着目していたことしてきしています。

アメリカNBCテレビは、安倍首相がバンカーで転倒した時の動画を公開し、またイギリスBBC放送も「安倍首相がバン
カーに落ちている時、トランプ氏はゴルフを続けた」と題して同様の動画を流しました。

『ワシントン・ポスト』は「ゴルフコースで安倍首相は転んだ。そしてトランプ氏は気づいてさえいなかった」とやゆして
います。

この映像は、安倍首相が一回転して背中からバンカーに転げ落ちたところをテレビ東京が上空から撮影したもので、同放送
局はニュースで扱いましたが、日本の他のテレビ局では取り上げていません。やはり、このみじめな光景を忖度して扱わな
かったのでしょうか。

この光景は、偶然とはいえ、はからずも安倍首相とトランプ氏の本当の関係を伝えているようです(『日刊ゲンダイ 2017
年11月18日』)。

また、『ニューズウィーク日本語版』は、アメリカでトランプ氏の訪日に関して取りあげられたのは、トランプ氏の鯉の餌
やりだけだったが、それだけ、他に伝えるべき内容がなかった、ということだ、と論評しています(注3)。

元レバノン大使で外交評論家の天木直人氏は、首脳会談の成果について、「結局、武器を買わされたといことだけでしょう。
個人的関係を重視するあまり、国としての外交をしなかった。その大きな外交的失策を日本のメディアは分析していない」
と日本のメディアを批判しています。(『東京新聞』11月6日 同上)

トランプ大統領は、日本が北朝鮮のミサイルを上空で迎撃できるようになるとして、米国製の武器調達を増やすことも要請
しました。

安倍首相は、「日本は防衛力を質的に、量的に拡充しなければなららない」と発言。F35Aや新型迎撃ミサイルのSM3
ブロック2Aなどを米国から導入することを指摘した上で、「イージス艦の量、質を拡充していくうえで、米国からさらに
購入していくことになるのだろう」とも述べました。

また、日本が北朝鮮の弾道ミサイルを打ち落とすことについては、「必要あるものについては迎撃をしていく」と説明した。
日本は自国の領域に落下してくる恐れのある弾道ミサイルや、同盟国の米国など親密な他国に向かって飛ぶミサイルに限っ
て迎撃することができる、とも述べています(注5)。

しかし、米国と日本の連絡担当を務めた軍事専門家のランス・ガトリング氏は9日の講演で、トランプ氏は「(米国からの)
軍事兵器購入が完了すれば、安倍首相は北朝鮮のミサイルを撃ち落とせる」と胸を張っていましたが、北朝鮮の大陸弾道弾
ミサイルを日本は迎撃できるのかと問われたら、答えは“ノー”です、と発言しています。

    (迎撃するには)どこからどこへ発射されるか「正確」に捕捉しなければならない。しかも、北朝鮮が日本の上空
    に向けてミサイルを飛ばすときは、ほぼ真上に発射するロフテッド軌道になる。
    この場合、高高度を飛翔して落下スピードが速いため、通常軌道よりも迎撃が難しい。迎撃にセカンドチャンスは
    ありません。当然ながら、推測ではのうにもできないのです(『日刊ゲンダイ』2017年11月11日)。

どうやら、トランプ氏の訪日で日本は、北朝鮮危機をネタに高い買い物をさせられただけの結果に終わったようです。これ
が、国際社会の一般的な評価でしょう。

(注1)『日経ビジネス ONLINE』2017年11月10日(金)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/110900118/?n_cid=nbpnbo_mlpum
(注2)https://twitter.com/realDonaldTrump/status/927645648685551616
    原文は My visit to Japan and friendship with PM Abe will yield many benefits, for our great Country. Massive military & energy orders happening.
(注3)『ニューズウィーク 日本語版』(2017年11月8日)
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2017/11/post-953.php
(注4)Washingtong Post (2017/11/6)
https://www.washingtonpost.com/politics/japanese-leader-shinzo-abe-plays-the-role-of-trumps-loyal-sidekick/2017/11/06/cc23dcae-c2f1-11e7-afe9-4f60b5a6c4a0_story.html?utm_term=.8b6e2035b2a7
(注5)Reuters(ロイター) (2017年11月6日 / 15:46)
 https://jp.reuters.com/article/abe-trump-presser-idJPKBN1D60IW




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トランプ大統領の訪日―無神経と傲慢の不快―

2017-11-12 20:05:28 | 政治
トランプ大統領の訪日(1)―無神経と傲慢の不快―

2017年11月5~7日、アメリカ大統領トランプが訪日しましたが、私は個人的には非常に不快な思いを抱いていました。
これに関して、コラムニストの小田嶋隆氏は誠に的を射た批評をしています。彼の議論に沿って、トランプ訪日の意味を
考えてみます。

まず、最初の不快は、トランプが横田基地に舞い降りたことです。ここは入国手続きなしに自由に出入りできる、実態と
しては“アメリカの領地”と同等の場所です。しかも、トランプを乗せた飛行機は、ゴルフ場への移動も含めて、米軍が
管制権をもつ「横田エリア」だけを飛行したのです。

元外務省官吏だった孫崎享氏は、米国民の多くはこの光景を見て「ああ、日本はいまだに米国の占領下が継続しているの
だ」と思っただろう、とコメントしていますが(『日刊ゲンダイ』(2017年11月11日)同感です。

従来の大統領の訪日には通常の国際空港経由で入国しているので、トランプの横田入りはやはり異例であり非礼です。
外交の基本は、相手の国民感情を察してうまく付き合うことですが、トランプは、自分が横田基地に直接降りることが、
日本国民にどのような感情をもたらすかを分かった上て、敢て横田に降りたのです。

トランプには、これ見よがしに日米の主従関係を見せつける意図があったものと思われてもしかたありません。

次の不快感は、トランプ訪日に関して、日本のテレビ局はトランプの動きを、ゴルフ場での行動や食べた料理のことな
ども含めて、どうでもよいことを逐一映像を流し続けたことです。とりわけ、NHKは極端で、ほとんど垂れ流し的に映
像を流していました。

ところが、北朝鮮問題に関して日米でどこまで話しが進んだのか、という最も肝心な点に関しては、ほとんど取り上げ
てきませんでした。

NHKには、このようなトランプとの話し合いの中身ではなく「行動」だけを垂れ流す、忖度が働いたのか、何らかの圧
力があったのか、と勘ぐりたくなります。いずれにしても、このNHKの姿勢は、とても無神経に思いました。

トランプ大統領は、来日に先立ってハワイに立ち寄り、真珠湾を訪れています。その夜、以下のようなツイートを書い
ています(注2)。
    リメンバー・パールハーバー、リメンバー・戦艦アリゾナ
    今日は私にとって忘れられない一日になるだろう!(小田嶋氏の訳)

言うまでもなく「リメンバー・パールハーバー」「真珠湾(での日本の卑怯な奇襲攻撃)を忘れるな」は、アメリカと
日本が敵国であった時代の言葉で、もっぱら対日戦への戦意高揚のために使われていたスローガンです。

何かの間違いでないとすると、日本を訪問する前日に、あえて、この挑発的なフレーズをぶつけてきたことになります。

この言葉は、パールハーバーで戦った勇気あるアメリカ兵士の貢献を忘れずにいたい、といったぐらいの意味をこめた
軽口に過ぎないのかも知れませんが、敢て訪日に先立って発したのはやはり無神経で非礼です。

トランプも、パールハーバーのことを持ち出すことが、日本人の感情を逆なですることぐらいは分かっているはずです
が、安倍首相や政府から抗議がくることはあり得ない(実際、安倍首相も外務省も何の抗議もできませんでした)と確
信していたのでしょう。

さて、いよいよ横田基地への到着ですが、大統領が来日して最初に顔を合わせたのは、日本の外交官でもなければ政治
家でもなく、自国の軍人で、第一声もその米軍兵士たちに向けたスピーチでした。

少なくとも、トランプは大統領として日本との外交に来たにもかかわらず第一声がこのようなスピーチであった。これ
も異例で非礼だと思います。

その演説の中でトランプ大統領は、自分がアジア歴訪に際して最初に降り立つ場所として、この基地よりふさわしい場
所はほかに無いという意味のことを言っています(注3)。
 
そして、この時の演説でトランプは、
    われわれは空を、海を、そして陸地と宇宙空間を支配している。誰も――どんな独裁者も、どのような統治体
    制も国家も――アメリカの決意を見くびることはできない。かつて、われわれを軽く見た者たちは、不愉快な
    目に遭っている。そうじゃないか?(注4)

小田嶋氏も言うように、この言葉は、自国の基地の中で、自軍の兵士たちを前に(聴衆には自衛官も含まれていたが)
話したわけで、その限りにおいては、兵士に対するエール以上の言葉ではないかもしれません。

しかし、これが日本という独立国の国土の上で発せられた言葉として聞くと、かなり神経をさかなでする内容を含んで
でいます。

トランプが、「われわれは、空を、海を、陸を、宇宙を支配(dominateという単語を使っている)している」というこ
の言葉を、米軍の兵士に向けて呼びかけることは、「米軍が日本を支配している」というニュアンスを生じさせかねま
せん。

彼は、陸地を「the land」と言っており「日本」とは言っていませんが、陸は定冠詞の着いた「土地」ですから。その
意味では、日本を名指ししたと言い切ることはできませんが、それにしても無神経な表現ではあります。

しかも、続いて、「かつてわれわれを軽く見た(underestimated)者たちは、不愉快な目に遭っている。そうじゃない
か?」とも言っています。

この言葉を、先の「the land」と考え合わせて考えると、文脈によっては、「日本」そのものを指しているように聞こ
えます。

つまり、かつてアメリカを軽く見て、太平洋戦争を仕掛けた日本は、敗戦し、みじめな境遇に遭っているではないか、
という風に。

小田嶋氏は、トランプのツイッターのつぶやきは、「単なる無知や無神経の発露ではなく、もう少し深刻な「意地悪」
に近い何かである可能性」があると書いています。とても適切な比喩をしているので、紹介しておきます。

    パワハラ上司によくある振る舞い方として、人のいやがる言葉や仕草をあえて小出しにして相手の顔色を観察
    するパターンがある。
    「イノウエ君はアレだろ、ほら、アタマの地肌が露出してるから、直射日光は苦手だよな?」。
    「……あ、いや、なんと言いますか……部長もお人がお悪い」
    「はははははは。気にしてるのかやっぱり。あ?」

などと言いつつ、部長は、イノウエがどこまでナブれば怒り出すのかの限界を観察しているのです。

つまり、この種の人間は、無邪気なふうを裝いつつ神経にさわる言動を繰り返すことで、人々の反応を見ている、とい
うのだ。

とりわけ、何でも言うことを聞く安倍首相に対する態度をみていると、今回の訪日では、トランプ大統領の言動の端々
に、その意識的な尊大さがあらわれていたように思います。

これが、単なる考えすぎであれば幸いですが、どうやらそうばかりではなく、つい、心の奥底にある、安倍首相と日本
をかなり見下した言動が見られます。

そもそもトランプ大統領が、「トランプタワーではじめて安倍晋三総理と握手をした時の、握手の仕方(相手の手を思
い切り強く握りつつ自分の側に引き寄せる「トランプ式握手」と呼ばれる独特の進退運用)に、すでにすっかり現れて
いたところのもので、要するに彼は、他人の忠誠度を常に観察せずにはおれないタイプのリーダーだ」、ということで
す。

この態度は他にも露骨に表れますが、それは次回に書くことにします。



(注1)『日経ビジネス ONLINE』2017年11月10日(金)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/110900118/?n_cid=nbpnbo_mlpum
(注2)https://twitter.com/realDonaldTrump/status/926707692395102219
(注3)『朝日新聞 デジタル版』(2017年11月5日14時05分)
http://www.asahi.com/articles/ASKC54GDBKC5UHBI00V.html
(注4)この部分の原文は、
    “We dominate the sky, we dominate the sea, we dominate the land and space,” Trump said. “No one
      -- no dictator, no regime and no nation -- should underestimate ever American resolve. Every once
      in a while in the past they underestimated us. It was not pleasant for them, was it.”(注1)の資
      料より。小田嶋氏はどこかの誰かの発言を引用したと思われますが、その引用先が示されていないので、私は
直接は見ていません。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
熟した柿の実が木いっぱいについていて、秋の深まりを感じさせます。                すぐ近くにはサザンカの花が満開です。昔なら”たき火”のころに咲く花です。

  



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2017年総選挙―「保守」対「リベラル」の闘いの本質は?―

2017-11-05 08:09:39 | 政治
2017年衆院選(3)―「保守」対「リベラル」の闘いの本質は?―

今回の衆院選を通じてしばしば「保守」と「リベラル」という二つの政治的立場が対抗軸として取りざたされました。

小池氏は希望の党の性格を、「改革保守」あるいは「寛容な保守」と規定しているように、「保守」であることを明確にしています。

これに対して、枝野氏は立憲民主党を「リベラル」と位置付けています。

「リベラル」という言葉は、ヨーロッパで生まれ、当初は資本主義経済における「自由放任主義」など、国家の干渉をできるだけ排し
て自由な経済活動を重視する考え方でした。

しかし、一橋大学の中北浩爾教授(政治学)によると、日本における「リベラル」とは現行憲法の価値と精神を肯定的にとらえる考え
方であると言います。つまり、まずは国家ではなく平和主義、基本的人権の尊重、国民主権ということになります。

一方、「保守(主義)」の辞書的な意味は、「現状維持を目的として伝統、歴史、慣習、社会組織を固守する考え方」となっています。

自民党は保守政党を名乗っていますが、安倍首相は「現状維持」よりもむしろ、「戦後レジーム」を変えて、戦前の日本に戻そうとし
ています。

自民党の「保守」は、社会主義・共産主義など左翼的な思想に対抗するイデオロギーとしての意味合いが強いようです。

また、民族的優越主義(その裏返しとして民族的・人種的排外主義)や戦前への回帰など復古主義というイデオロギーも含んでいます。

ただし、今回の選挙で争われた「保守対リベラル」という文脈では、「保守」には、敗戦後の日本が背負ってきた、アメリカとの関係
をどのように考えるか、という本質的な問題として横たわっています。

『永続敗戦論―戦後日本の核心―』(太田出版)を著わした京都精華大学講師(政治学)の白井聡氏は、今回の選挙との関連で、日本
における「保守」とは、日米従属関係を積極的に進める考え方であると規定しています(注1)。

白井氏によれば、「希望の党」をつくったのは、「民進党の主流派、対米従属派を全部吸収してリベラルの左派を切ることによって、
民進党を対米従属の党として純化すること、言ってみれば第二自民党として民進党を純化することの主眼だったのではないか」
、と
も指摘しています。(赤字部分は筆者)

したがって、もしこれがうまくいっていたら、ふたつの自民党のどちらがよりよくアメリカのご機嫌をとるかを競い合う、そういう
すさまじい状況になったかもしれない
(赤字部分は筆者)、とも言っています。

選挙の際に、立憲民主党の応援演説にもかけつけた漫画家の小林よしのり氏も、ほぼ白井氏と同じ見解を述べています。

小林氏によれば、安倍首相は主権を守り漸進的な改革を望むと言う意味の「保守」ではなく、単なる対米従属主義だ、と断じています。

さらに小林氏は、これに対して枝野氏に代表される立憲民主党の方向は、“自国の主権を守りながら、アメリカと、その範囲の中でちゃ
んと付き合おう、NOはNOと言おう、と言う意味の保守である”、と述べています。

この観点からみると、小池氏が率いる希望の党と、その前に立ちはだかった枝野氏との闘いは、日本の内政・外交の基軸を日米従属に置
く小池氏と、自国の主権を守ろうとする立憲民主党との、非常に重大な闘いであったと言えます。

『東京新聞』(2017年10月29日)のコラム(「週刊誌を読む」)は、“安倍政権の対抗勢力として登場した希望の党は、結局安倍政権と同
じ全体主義勢力で、「一時は選挙そのものが『全体主義VS全体主義』という地獄絵図に陥りかけた」という映画作家の相田和弘の文章を
引用し、”立憲民主党の躍進は、それにたいする反発の表れだったというわけだ“と結んでいます。

上に引用した白井氏の、アメリカのご機嫌取りを競い合う“すさまじい状況”といい、相田氏の「全体主義VS全体主義」という地獄絵図
といい、今回の希望の党の立ち上げは、日本にとって非常に重大な問題をはらんでいたと言えます。


安倍首相は、一方で徹底的な対米従属を貫きながら、「日本会議」の理念に象徴される強烈な国粋主義をも併せ持っています。

もし、枝野氏が立憲民主党を立ち上げなかったとしたら、希望の党に合流しなかった元民進党の議員や民進党系の新人は、選挙には不利
な無所属で立候補せざるを得なかったでしょう。

さらに、比例の投票先をどこにしたらよいか迷っていた有権者が相当数いたので、立憲民主党が立ち上がって、そのような人たちの投票
先ができた、という意味でも、立憲民主党の立ち上げは、今回の選挙において非常に大きな意味をもっていたわけです。

小池氏は、旧民進党の有力議員が希望の党から立候補してくれれば、彼らの比例票で、多くの議員が当選できることを、期待していまし
たが、彼らがそろって無所属で立候補してしまったので、そのことで非常に失望したようです。

この意味で、民進党の大部分を取り込んで、安保法(集団的自衛権)と改憲の容認・推進勢力の拡大を図った小池氏の狙いは頓挫したと
いえます。

希望の党の当選者の内訳をみると、結党メンバーが5人(11人中)、小池氏の友人などが3人(9人中)、元々希望の党から立候補した新
人が1人(政治塾出身者など98人中です!)、解散時に民進党現職が25人、民進党などの候補だった元職・新人は16人、計41人(117人
中)でした。

つまり、全体の8割が民進党系の議員なのです。本当の意味で、希望の党が新たに獲得したのは、小池氏の友人3人と、新人1人、計4
人だけです。

10月25日に開かれた希望の党の両院議員懇談会では、複数の民進系議員からは、「安保法は容認しない」「首相の九条改憲はだめだ」
と指摘し、党の立場の確認を求めました。

希望の党からお立候補に先だって、安保法を違憲としてきた民進党系議員に容認を迫る「政策協定書」を受け入れることを要請しました。
いわゆる「踏み絵」を踏ませました。

当初の協定書では、安保法と改憲を容認することがはっきり書かれていたようですが、民進党系の立候補者の立場を考慮して、「憲法に則
り」安保法を容認する、と表現をぼかした形になりました。

しかし、当選した議員からは、「憲法に則り」とあることから「集団的自衛権の行使を容認した違憲部分は認められない」と主張しました
(『東京新聞』2017年10月27日)。

いずれ、そう遠くない将来、安保法制と改憲について、希望の党は党としての立場を、そして構成メンバーの議員は一人一人の立場をはっ
きりさせなければならない時がきます。

TBSテレビ26日の午後の情報番組(「ひるおび」)に出演した、希望の党から比例で復活当選した柚木道義氏は、民進党時代には、先頭切っ
て安保法案に反対していましたが、必死で自分はいかに一貫しているかを熱弁していました。

彼は他の番組のインタビューでも、「政策協定書」では「憲法に則り」という条件が入ったので私は、同意して署名した、だから変節では
ないと述べていますが、これは苦しい言い訳です。

というのも、かつては、集団的自衛権は憲法違反であるから認められない、とこれに反対していたからです。自己弁護をすればするほど、
柚木氏に痛々しさを感じました。

ここで柚木氏を個人的に批判しているのではなく、彼の言葉がテレビなどで多く見られたからで、実際には、同じような苦しい弁明を心の
中で行っている、希望の党に合流した民進党系の議員は少なからずいると思われます。

ところで、メディアではあまり取り上げられませんが、今回の選挙で注目すべき変化がありました。一つは、自民党と連立を組み強固な組
織的選挙戦を闘う公明党が35議席から29議席へ、6議席減らしたことです。

山口代表は、今回は厳しい選挙戦だったが検討した、とコメントしています。もちろん本心ではないでしょう。

本来、平和と福祉を党是とする公明党が、与党に留まるためだけに自民党と組んで安保法や、特定秘密保護法、共謀罪などに賛成してきた
ことで、これまで支持してきた人たちを離れさせた、という事情も一部にはあったものと思われます。

二つは、維新の会が14議席から11議席に減らしたことです。結党時には50議席(奇しくも希望の党の当選者と同数)あったものが、
今回の選挙では11議席まで減ってしまったのです。

これらの政党の敗因が実際に、何であったかは、それぞれの党で分析するでしょうが、公明党も維新の会も、現状では改憲勢力です。

この減少は偶然ではなく、その背景には改憲と安保法に対する危機意識があったのではないでしょうか。

安倍首相は、一方で徹底的な対米従属を貫きながら、「日本会議」に象徴される強烈な国粋主義をも併せ持っています。「対米従属主的国
粋主義」という、根本的な矛盾をかかえつつ、現在は対米従属が全面にでているようです。


(注1)以下、中北、白井、小林氏のコメントは、『テレビ朝日』「鳥羽慎一モーニングショー」(2017年10月26日)の中で紹介されたも
のからの抜粋・引用です。

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11月3日 国会前で行われた「9条守れ」の集会 主催者発表で4万人が参加                   同じ11月3日 銀座の歩行者天国(4丁目交差点から新橋方面を臨む)
   






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