大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

平昌オリンピックと文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の苦悩―米・北朝鮮の挟間で―

2018-01-28 14:53:28 | 国際問題
平昌オリンピックと文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の苦悩―米・北朝鮮の挟間で―

平昌オリンピックを間近に控えた、今年の1月1日の演説で、キム・ジョンウン(金正恩)・北朝鮮労働党委員長は突然、
2月に韓国の平昌で開催される冬季オリンピックに参加する用意がある、と述べました。

北朝鮮の参加は、もともとムン・ジェイン(文在寅)韓国大統領が呼び掛けていたことですが、それまでは北朝鮮側から何
の返事もありませんでした。

ところが、このキム・ジョンウン委員長のメッセージ以来、急速に話が進んでゆきます。

ます、それまで2年以上も遮断されていた、板門店の直通電話(ホットライン)が3日に再開されました。

北朝鮮側は、参加種目として、スキー、スケート、アイスホッケーを希望し、また韓国側もそれには異存はありませんでした。

もう一つ、ムン・ジェイン大統領は、アイスホッケーについて、南北合同チームを編成したらどうか、と提案し、北朝鮮側も
これに同意しました。

このような事態の進展を見て、国際オリンピック委員会(IOC)は20日、スイス・ローザンヌで韓国、北朝鮮、大会組織
委員会代表を含めた4者会談を開き、参加の登録申請期限を過ぎてはいるが、上記三種目の選手22名、コーチ・役員24名
の出場と参加を認めることを決定しました。

ムン・ジェイン氏の言動については後に触れるとして、その前に、登録申請の期限が過ぎていたにもかかわらず、IOCはな
ぜ北朝鮮の参加を認めたのか、を考えてみましょう。

古代ギリシアで始まったオリンピックはそもそも平和の祭典で、開催中は戦争も中断した、という平和主義がその根底にあり
ます。

近代オリンピックもその精神は受け継いでおり、オリンピック憲章にも「人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確
立を奨励すること」とあり、「平和」が基調となっています。

また、オリンピックのシンボル・マークである「5つの輪」(五輪)は五大陸の団結・融和を表わしています。

以上の経緯と精神を考えるなら、オリンピックの最高決議機関であるIOCが、北朝鮮の参加を支持することは、ごく当然の
姿勢であり、もし、これを手続き的な期限切れを理由に拒否するなら、世界からの非難を浴びるでしょう。

ところで、南北朝鮮の交渉の過程で、両国の国民の間で懸案事項となったのは、入場式に韓国国旗ではなく統一旗を掲げる、
という北朝鮮の提案です。

これにたいして韓国国民の間には、今回は韓国の開催なのだから韓国国旗を掲げるべきだ、という意見が多数を占めており、
激しい反対のデモも起こっています。

しかし、ムン大統領は統一旗を受け入れることを決めます。

次が、アイスホッケーの合同チームの問題です。

これも、韓国選手だけでなく、韓国国民の多くから強い批判が起こっています。

ムン大統領は、対北朝鮮との融和路線を掲げて大統領に当選した、という経緯があります。

当初の支持率は82%もありましたが、北朝鮮への妥協や融和が行き過ぎている、との反発から、現在は初めて60%を割
り込み、59.8%へ落ちました。

それでも60%近くの支持率は、現在の世界標準から見て、かなり高率ではあります。

ムン・ジェイン大統領の北朝鮮への譲歩、あるいは宥和政策は、アメリカや日本にも警戒感を呼んでいます。

つまり、南北対話は融和は良いことだけれど、それが、米韓にくさびを打ち込む北朝鮮の策略に乗ってしまうのではないか、
という警戒感です。

さらにムン大統領は日米から、北朝鮮はオリンピックを好機ととらえて南北友好ムードを演出して、アメリカの軍事的圧力
をそらし、北朝鮮の核開発の時間稼ぎに荷担していることになるのではないか、との警戒の目を向けられています。

こうした、内外の批判や警戒についてムン大統領は十分すぎるほど承知しているはずで、それにも関わらず、融和政策を続
けているのはなぜでしょうか?

ここで、一旦、自分が韓国の大統領になったつもりで、現状を冷静に分析してみることは無駄ではありません。きっと、当
事者の目線でみると、世界が違った風景として目に映るでしょう。

まず、一国の大統領の最大の義務は、国民の生命と財産を守ることです。これが全ての出発点です。

現在の韓国にとって、その生命と財産を危機にさらしている脅威は大きく二つあります。

一つは、北朝鮮の攻撃です。

二つは、アメリカが北朝鮮に軍事的な先制攻撃をした場合、北朝鮮が行うであろう韓国への攻撃です。

まず、一つ目の北朝鮮の攻撃から考えてみましょう。もし北朝鮮が韓国に一定の規模以上の先制攻撃を仕掛けたら、韓国軍の
反撃だけでなく、それはアメリカの軍事介入に格好の口実を与えてしまいます。これは、あまりにもリスクが大きすぎるので、
よほどのことがない限り可能性は小さいと考えられるでしょう。

なお、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)は、韓国の脅威にはならないでしょう。

というのも、北朝鮮と韓国とは国境(休戦ライン)を接しており、わざわざ貴重な長距離ミサイルを使わなくても、休戦ライ
ン近くからの攻撃であれば、長距離砲や通常兵器でも十分に大きな打撃を与えることが可能です。

北朝鮮による核兵器の使用についても可能性は小さいと思われます。というのも、北朝鮮の核兵器は、ICBMとセットで、
アメリカとの直接交渉に導くための手段だからです。

しかも、北朝鮮が国境を接している韓国に核兵器を使ったら、その放射能の影響は自国にも及ぶ危険性があるし、何よりも、
自分たちもそれを口実としてアメリカの核攻撃を受けることは確実だからです。

二つ目の脅威ですが、アメリカが北朝鮮へ軍事攻撃した場合、北朝鮮は当然、反撃して韓国の主要都市(とりわけソウル)に
対して集中的な攻撃をするでしょう。

アメリカの軍当局はこれまで何度も、この際の被害のシュミレーションをしてきました。それによれば、北朝鮮の全ての兵器
を瞬時に破壊できないかぎり、北朝鮮による韓国の主要都市、死者は数十万人という途方もない数に達することが予想されま
す。

しかも、韓国民だけでなく在韓米軍とその家族、およびアメリカ人の一般国民、在日米軍、日本の一部地域への攻撃も考えら
れます。

このため、アメリカの軍当局は、脅しに先制攻撃を口にすることはあっても、実際の軍事行動はできない、との立場をとって
きました。

しかし、トランプ政権は何をするかわからない、という不安感は残ります。というのも、トランプ大統領は、戦争になれば、
「死ぬのは向こうだ」と公然と語っているからです。

つまり、トランプ大統領は、アメリカ人にとっては何の損害もなく、他の国の国民が死ぬだけだ、と、とんでもないことを口
にしているのです。

こうなると、韓国にとって、目下の現実的な脅威は二つになります。

一つは、北朝鮮による休戦ラインを越えて陸上部隊が韓国に侵入するか、短距離ミサイル・長距離飽で韓国を攻撃する脅威。

二つは、トランプという予測不可能な大統領が、国内の支持の低下を挽回するために、北朝鮮への先制攻撃の実行です。

以上をすべて考慮して、もし自分が韓国大統領であったら、どのような対応がベストなのか考えてみましょう。

まず、北朝鮮からの脅威にかんしては、できる限り緊張を和らげる努力をすることが最重要と考えます。日米による「最大限
の圧力」キャンペーンにうっかり乗ってしまい、北朝鮮への圧力を強めて緊張を高めることは、韓国にとって何の利益もあり
ません。

次に、トランプ大統領に、軍事行動を思い止まらせる何らかの方策を講じることです。

たとえば、たとえオリンピックの政治利用(これはほとんどの国が国威発揚のため政治利用してきています)と言われようと、
北朝鮮との対話を続け、まずはオリンピックの期間だけでも米韓合同軍事演習を中止し、できるだけ中止期間を長引かせるよ
う努力するでしょう。

北朝鮮との緊張関係を悪化させず、最低でも現状維持、できれば友好関係を全身させつつ、アメリカに軍事行動を思い止まら
せる、という、二つの難問を解決するギリギリの選択が、今回、オリンピックで北朝鮮のいうことをできるだけ受け入れる、
という行動となったのではないでしょうか?

こうして考えると、ムン大統領は、北朝鮮に一方的に譲歩を強いられているようにみえて、厳しい条件のなかで、考えれ得る
最善の努力をしている、と言えるかもしれません。

もう一つ、私たちが見落としがちなのは、南北に分断されているとはいえ、もともとは一つの民族なのです。そうである以上、
どちらも同朋を傷つけることはできることならしたくないでしょう。


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脱原発に吹く風(2)―原発と再生エネの本当の実力―

2018-01-21 12:28:09 | 原発・エネルギー問題
脱原発に吹く風(2)―原発と再生エネの本当の実力―

2012年5月5日は、それまで日本で唯一稼動していた北海道電力泊原発三号機が定期点検のため運転
を停止しました。これで、日本は再び原発電源ゼロとなったのです。

この時からそこから部分的な再稼動を伴いつつ、現在では、原発の電気は、総電力供給の1~2%で、
再生可能エネルギー(風力、太陽光、バイオマスなど、「再エネ」と略す)は4.7%より低くなって
います。

つまり、過去7年、日本は事実上、原発なしで過ごしているのです。

原発を擁護する人たちは、この点に目をつぶって、日本の経済を維持するためには原発は必要だと主張
しますが、7年間も原発なしでも経済が行き詰まったとか、破綻したという事実はありません。

これこそ、原発擁護者の主張の最も弱いところで、理論的にも実態的にも破綻しています。

しかも、政府は、再生エネルギーへの開発に抑制的です。政府の送配電業務指針によれば、電力供給が
過剰になった場合の抑制順序は、①火力および揚水、②バイオマス、③自然変動電源(太陽光・風力)、
④長期固定電源(原子力・水力・地熱)となっていて、あくまでも原発を守り、原発エネルギーは抑制
しない仕組になっています。

たとえば、2014年9月、九州電力は再生エネルギーの受け入れを停止しました。しかも、この停止
は川内原発の再稼動の目途がたった直後のことで、何とも露骨な、原発優先措置でした。

これに続いて、北海道、東北、四国、沖縄の各電力会社も同様の措置をとりました。

受け入れ拒否の表向きの理由は、送電能力が一杯だから、というものですが、実態は、電力会社の送電
能力には十分すぎるほどの余裕があることも明らかになっています。

一方、再エネの発電能力(容量)は、2016年10月末時点で、4148万キロワットに上り、原発の容
量約4200万キロワットに匹敵するところまできているのです。これは何と原発の40基分に相当す
るのです。(注1)(熊本 2017:134)

つまり、もう原発はなくても能力的にには全く問題ないのです。

政府・経産省は、あくまでも原発を維持しようとする理屈として、「原発の電気は安い」と主張します。

2015年に経産省は発電単価を試算していますが、それによると、原子力10.1円/キロワット時、石炭・
火力12.3円/同、LNG(液化天然ガス)13.7円/同、となっています。

しかし、この試算結果は、条件を意図的に操作した、一種のフィクションであることは、これまで多く
の専門家によって証明されています。

たとえば、この問題を一貫して研究してきた熊本氏が、厳密に条件(稼働率、設備利用率、燃料費、リ
スク管理費など)を実情に合わせて計算すると、原子力は10.94円、石炭9.36円、LNG7.
04円だとの結果でした(熊本 2017: 126-131)。

原発の電気は石炭(および石油)やLNGのそれに比べて決して安くはないのです。むしろ「原発の電
気は高い」は日本だけでなく、世界の趨勢なのです。

現在のところ、再生エネの単価は、20円~28円と割高ですが、これも技術革新によって原発、石炭
・石油、LNGとならぶかそれよりも安くなる可能性があります。

もし、官民一体となって再生エネの技術開発に乗り出せば、間違いなく、以下にEUの例にみらるよう
に、再エネの価格は今の半分以下にはなると思います。

再エネに否定的な人は、太陽光や風力は、気象状況によって発電能力が変化するので、安定的なエネル
ギー供給源になり得ない、と主張します。

確かに、その面はありますが、現在、蓄電池の技術開発は急速に発展しており、さらに、調整電源とし
て、コジェネレーション(火力と電力にも熱としても利用する)やガスコンバインド(ガスタービンと
蒸気タービンを組み合わせ、効率化した火力発電)、バイオマス、地熱などとを組み合わせることで、
解決が可能です(熊本 2017:116-17)

ここで、ヨーロッパにおける脱原発事情を見てみましょう。

ヨーロッパにおいては、原発は再生エネの増加に対抗できず苦境に立たされています。

ヨーロッパの再生エネは風力発電が中心ですが、その平均価格は8.8円で、取引価格が6円という低
価格も現れています。

欧州の業界団体ソーラーパワー・ヨーロッパによると、2016年の世界の太陽光発電設備の新規導入量は
7660万キロワットで、前年比で5割増となり過去最高を更新しました。

これは、1年前の16年予測(中間シナリオ)の6200万キロワットを大きく上回っています。

その牽引となっているのは、新規の6割強を占めた中国と米国での太陽光発電です。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、太陽光の運転終了までトータルでみた発電コス
トは、16年の平均で1キロワット時あたり10セント(約11.1円)を割り込んでおり、17年には再生エネ
の中で最も安い陸上風力並みにまで下がるという(注2)。

イギリスでは、政府が原発の電気に対して補助金を出すに至っていますが、裏を返せば、補助金なしに
は原発は再生エネルギーとの競争では勝てないことを物語っています。

世界でみると、脱原発の事情は確実に進行しています。ドイツ(22年までに停止)、スイス(国民投
票で脱原発)、台湾(25年までに)、ベトナム(白紙)。韓国(建設計画白紙)、ベルギー(2025年
までに)、といったところです。

安倍政権は、あくまでも総供給量の24%ほどをベースロード電源として原発を維持する方針を変えて
いません。これには、たんにエネルギー源としてだけでなく核兵器保有の潜在能力を保持したいという、
隠れた思惑があることは、前回、書いた通りです。

ところで、政府や原発擁護者の中には、原発は火力発電とは異なり、温暖化の原因、炭酸ガスを出さな
いクリー・エネルギーである、というまことしやかな主張があります。

しかし、現在の火力発電は炭酸ガスの回収能力は非常に高くなっており、これからもさらに技術開発は
進んで行くと思います。

それより、原発には環境問題として重大な問題があります。

原発で発生したエネルギーのうち電気に代わるのは30%強ですから、7割弱は、冷却のために使われ
た温水が海に放出されます。

冷却水とはいえ、海水温との差は7度くらい高いので、原発を稼働している間は周辺の海水温度を上げ
てしまい、海の環境を変えてしまいます。

以前、原発銀座と言われる敦賀近辺の海中の様子を写したドキュメンタリー番組に見たことがあります
が、そこでは、以前にはいなかった暖水海域に住む魚が泳いでいました。

原発は必ず、冷却のために温水を排出しますので、これが続けば長期的には海水の温度を確実に上昇さ
せ、そして地球の温暖化をもたらします。

最後に、日本の原発に関して三つ指摘しておきます。

一つは、脱原発と経済の問題です。今、世界は脱原発、再生エネの技術開発に国の命運をかけて努力し
ています。

原発を維持しようとしている安倍政権は、これに消極的ですが、これは世界の再エネ・ビジネスから遅
れ、再エネ後進国として大きな経済的機会を失うことになります。もう、

次に、東京電力は福島の原発事故にかかわる損害賠償を自らの資金で行うことができず、事実上、破綻
しています。そこで、実態としては税金と銀行からの借り入れで、なんとか事業を続けています。

事故が起こった2011年の3月末には、三井住友、みずほ、三菱東京UFJなどおメガバンクを含む
八銀行が、経産省の要請を受けて、総額2兆円もの巨額融資を東電に無担保で行っています。

もし、東電が破綻すれば、これまでも融資してきたメガバンクは大損害を被るし、87万人ともいわれ
る個人株主や3600社の法人株主も大混乱に陥ります(吉原 毅『原発ゼロで日本経済は再生する』
(角川ONEテーマ21、2014:29)。

金融界はこの事態を恐れて、東電を破綻させない手を打ったということですが、本来なら、一旦会社を
整理して、原因の究明、責任の所在、財務内容などを明らかにして再出発すべきなのです。

最後に、福島事故あとの瓦礫のもたらす健康被害について、指摘しておきます。

政府は2012年に震災がれきの広域処理の方針を打ち出しました。原発からでる放射性廃棄物は100
ベクレ/Kg を基準に分類されますが、震災がれきを「放射性廃棄物」ではなく「放射性物質に汚染され
たおそれのある廃棄物」とし、8000ベクレル/Kg以下のもの、区分基準の80倍もの高い線量をもつも
のを一般の廃棄物として処理できることとしました。

しかし、8000ベクレルとは決して低い線量ではありません。これを、「広域処理」という名で全国に拡
散することは、長期的に健康被害をも拡散させることにもなります。大きな問題です。



(注1)熊本一規『電力改革の争点』緑風出版、2017:134-35
(注2)日本経済新聞 電子版 2017/5/31 16:36  http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ31HDK_R30C17A5000000/?n_cid=NMAIL002
    https://sustainablejapan.jp/2017/03/10/world-electricity-production/14138

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脱原発に吹く風(1)―原発の何が問題なのか―

2018-01-14 15:08:09 | 原発・エネルギー問題
脱原発に吹く風(1)―原発の何が問題なのか―


世界の先進国は、おおむね脱原発に舵を切っていますが、日本だけは逆に原発依存を深めようとしています。

そんな中、立憲民主党(立民党)は今年、2018年1月下旬に召集予定の通常国会に提出する方針で、「原発
ゼロ基本法案」を作成し、その骨子が1月2日に明らかになりました。

また、脱原発や自然エネルギーを推進する民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が1月10日、
国内原発の即時廃止を目指す「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」の骨子を発表しました。

「原自連」顧問の連小泉純一郎氏は、国会内で記者会見を開き、「安倍政権で原発ゼロを進めるのは難しい」、
と語り他の勢力を結集して脱原発を進める意欲を強調しました。

脱原発は、間違いなく、これからの日本の政治の中心課題の一つとなってゆくでしょう。

これらの法案の内容については、次回以降に紹介・検討しますが、その前に、脱原発の主張はどのような理
由によるのでしょうか? 原発の何が問題なのでしょうか?

これまでも脱原発の理由はいくつか挙げられてきましたが、代表的なものを以下に挙げておきます。なお、
これらの脱原発の主張を私も共有しています。

① 地震による原発の破壊事故の危険性
原発の危険性は3・11の福島第一原発事故で明らかになったにもかかわらず、その原因は未だに解明され
ることなく放置されています。政府と東電は、全ては津波によって非常電源が破損し、原発全体が破壊され
た、としています。

しかし、津波による破損や破壊が起こる以前に、地震そのものの振動で配管や機械的な破壊が起こったので
はないか、という点に関しては、東電は検証も議論も拒否してきています。

というのも、もし、地震で原発が破壊されたということになると、地震国・日本の原発は全て危険な状態に
あることになってしまうからです。こうした疑念を国民が抱くことだけは何としても避けたい、というのが
東電と現政権の姿勢です。

② 放射性廃棄物の処理の目途が立っていない。
放射性廃棄物、特に、高レベルの放射性廃棄物の最終処理については全く手つかずのまま、一時保貯蔵場所、
中間貯蔵場所などに置かれています。しかし、その量は増えることはあっても減ることはありませんし、貯蔵
場所のスペースも満杯に近づいています。

原発は「トイレのないマンション」になぞらえられますが、現状はまったくその通りです。ということは、行
き場のない危険な放射性物質(核のゴミ)が私たちの周囲に日々積み上げられてゆくことを意味します。

放射性物質の最終処理が行き詰まることを十分承知しておきながら、電力会社も政府も、根本的な解決をせず、
その場しのぎで先送りをしています。これは、あまりにも無責任です。

もっとも、何万年単位で放射能を出し続ける放射性物質を何万年も安全に貯蔵することなど、この狭く、地盤
が不安定な日本で可能かそうかさえ疑われます。

③ 事故が起こった場合の被害 
福島の事故で分かったように、一旦事故が起こると、途方もない被害を人や環境にもたらします。

現在、5万3000人以上の人たちが、故郷を離れて避難生活を送っています。これらの人たちに対する補償
も次第に先細りになったり打ち切られています。

これまでの経過で分かったことは、これほど悲惨な事故が起こっても、電力会社も政府も、最後まで責任を取
ろうとしない、という点です。

④ プルトニウムの蓄積と核兵器保有の誘惑
原発を稼働すれば、結果としてプルトニウムやウランが溜ってゆきますが、問題はプルニウムで、これは核兵
器の材料となる危険な物質です。

現在、日本は国内と海外にプルトニウムを47トン保有していますが、これは核兵器5800発以上を作るこ
とができる量です。

日本の政府や一部の核兵器推進派中には、日本は核兵器の潜在能力を保持すべきだ、あるいはさらに過激に、
潜在能力だけでなく実際に持つべきだ、という人もいます。

いずれにしても、プルトニウムの蓄積は、それだけで核兵器保有の誘惑を引き起こします。世界からは日本の
プルトニウムの保有量が異常に多いことに疑念が生じています。

私は、唯一の被爆国である日本が核兵器を保有することは、自己否定に等しく、世界から信用や尊敬を得るこ
とはできないでしょう。

それどころか、昨年の核兵器禁止条約の議論のさい、日本は会議に出席さえしませんでした。

核の脅威に対抗するために核兵器を保有することが有効だ、という発想そのものが現実的には根拠のない虚構
なのです。

核兵器は、たとえ圧倒的に強い国は弱小国に対してさえ、決して使うことができない兵器なのです。一旦、そ
れを使ったら、使われた側だけでなく使った側にも大変な恐怖を与えるからです。

なぜなら、自分が使った以上、他の国が自分たちに核兵器を使うことを想定しなければならないからです。

⑤ 原発の発電コストは他より(たとえば火力より)安いという虚構
原発の発電コストは、火力よりも1キロワット/時当たり1~2円ほど安い、という経産省の主張は、意図的に
作られた数字で、実態を隠していることは、すでに多くの専門家が指摘しています(注1)。

発電コストの詳細な計算をここで示すことはできないが、大雑把に言えば、経産省が根拠とした数字にはごま
かしがあったということです。

その代表的な例が、原発の稼働率で、経産省は原発のそれを少なくとも5%以上高い数字を、そして火力発電
の稼働率を5%以上低く見積もっています。

また、安全対策、廃炉費用、現地の住民対策に使われる「懐柔」のための費用などなど、直接の運転費用や、
廃炉費用などを考えると、トータルにみて原発の発電コストなど、到底いえません。

⑥ テロによる原発への攻撃の危険性
安倍政権は北朝鮮による核ミサイル攻撃の脅威を強調しますが、考えてみれば、もし、他国が日本を攻撃しよ
うとしたら、何も核搭載のミサイル攻撃などしなくても、テロによって原発を破壊すれば、そこには核物質が
多量にあるわけですから核爆弾など必要ありません。

原発が事故を起こしたときに拡散する核物質の人体や自然界への被害については、福島の事故で日本は経験済
みです。そんなに危険な原発を敢えて維持し、稼働させることにはどうみても合理性はありません。

以上は、原発がもつ一般的な問題ですが、福島の事故との関連でいえば、かなり深刻な健康被害の問題があり
ます。

第一、放射能で汚染された土地で、再び農業を行うことは非常に難しいし、どれほどの年月がかかるのか分か
りません。

たとえば震災がれきや汚染度土を広く日本各地に拡散しようとしていますが、これは放射性物質を拡散し、放
射能による健康被害の危険性を広めることになります。

次回は、原発のもつ危険性や経済的な非合理性にたいして、立民党や小泉氏らはどのような提案をしているの
かを検討します。


(注1)たとえば、熊本一規『脱原発の経済学』(緑風出版、2011)、同『電力改革と脱原発』(緑風出版、
2014)、同『電力改革の争点―原発保護か脱原発か』(緑風出版、2017)は、原発の問題を多角的に検討し、
脱原発の必要性とその可能性を現実的に論じています。


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冬は花の少ない季節ですが、花ではない 葉ぼたんが頑張って彩をそえています。                   気の早いチューリップが、寒空の中、春の到来を告げています

   



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貴乃花親方の理事解任―相撲協会・評議会の不公正な判断―

2018-01-07 08:47:00 | スポーツ
貴乃花親方の理事解任―相撲協会・評議会の不公正な判断―

2018年1月4日に開かれた、日本相撲協会の臨時評議員会で、貴乃花親方の理事解任が全会一致で決まりました。

この決定の問題については後に述べますが、一応、評議員会とはどんな組織なのかを確認しておきます。

委員会の構成は、全部で7人、うち外部委員が4名で内部(親方)委員が3名です。現在、議長は池坊保子(元文部
科学副大臣、引退前は公明党所属)、千家尊祐(出雲大社宮司)、小西彦衛(日本公認会計士協会監事)、海老沢勝
二(元日本放送協会会長)です。

そして、内部委員は、南忠晃(湊川親方 元小結 大徹)、佐藤忠博(大嶽親方 元十両 大竜)、竹内雅人(二子
山親方 元大関 雅山)の3名のです。

ただし、この委員会の議長や委員は、誰がどこで、どのような手続きで、どんな基準で選ばれたのかは、必ずしも明
らかでありません。

評議員会は、役員(理事 監事)の選任、解任の権限をもっている、公益財団法人日本相撲協会の最高決定機関とな
っています。今回の、貴乃花理事解任も、この権限を発動したことになります。

1月4日の臨時評議会では、委員7人のうち、海老沢氏と千家氏が欠席しており、評決は議長を除き4人で行われた
ことです(議長は、議決権は評決が半々の場合以外、ありません)。

海老沢氏の欠席理由は明らかではありませんが、12月の理事会の決定と、事前の報道などで、貴乃花理事の解任が
ほぼ既定路線となっていることが分かっていたので、海老沢氏は、出席をためらったのかもしれません。

また千家氏ですが、出雲大社の宮司という立場を考えれば、正月4日は現場を離れられないことは池坊議長も当然、
事前に分かっていたはずです。

史上、初めての理事解任という重要な問題を審議・決定するのですから、全員が出席できる日にちを設定すべきだっ
たと思います。池坊議長の日にち設定に疑問が残ります。

もし、二人が出席していて、それぞれの意見を言う機会があったら、評議会の雰囲気も審議も決定内容も変わってい
た可能性は十分にあります。

評議員会を急いだもう一つの理由は、1月14日の初場所までに、なんとか決着をつけてしまおう、という八角理事
長の意図があったのではないか、と推測されます。

私が納得できないのは、評議員でもない八角理事長と、協会ナンバー2の尾車親方(巡業部長)と高野危機管理委員
会委員長が同席していたことです。高野氏は、中間報告を書いた責任者ですから、評議会から質問を受ける可能性が
あるので、分かるとしても、八角理事長と尾車親方の同席は問題です。

内部委員の3人の親方は評議員としての経験も浅く、この二人の幹部の前ではとうてい自由に物が言える状況ではあ
りません。

実際、1月5日の上記テレビ番組で紹介された取材によれば、つまり、3人の内部委員のうち1人(テレビでは実名
は伏せてある)が、貴の花親方が提出した報告書にある、「12月巡業での診断書に関する部分は事実ですか」との
質問をしたそうです。

これは、貴の花親方が提出した報告書には、(貴の花または貴の岩)が一歩外に出れば報道陣に囲まれ病院にも行け
ず診断書が出せない、と理事会に説明したところ、八角理事長は「うなずき」、尾車親方は「わかった」、と言った
くだりを指しています。

この質問に激怒した八角理事長は声を荒げて「そんなこと言うわけないだろ。それだったら救急車を呼べばいいじゃ
ないか」と怒鳴ったということです。

その後、この委員は、シュンとなって何も言わなくなったようです。

以上はあくまでもテレビ局側の取材に基づくもので、事の真偽は分かりません。しかし、評議委員会の委員でもない
八角理事長とナンバー2が評議員会に同席すること自体(違法とはいわないまでも)やはり、異例のことで、もし、
そこで恫喝的な発言したとしたら、評議員会そのものの正当性にかかわる重大な問題です。

池坊議長は、貴の花理事会見の理由として、「巡業部長としての報告義務を怠ったこと」「その後協会の危機管理委
員会による事情聴取への協力要請を断り続け、理事として協会への忠実義務違反」を指摘しています。

また、会議後の記者会見で、八角理事長からの数回におよぶ電話にもかかわらず、まったく返信しなかったが、これ
は理事長という上司であり先輩に対して礼を欠いた行為である、と厳しく批判しました。

さらに池坊氏は、相撲道は『礼』に始まり『礼』も終わるのに、貴の花親方はこれを全く無視していた、という趣旨
の批判をし、そのうえで、「決議を厳粛に受け止め、真摯に反省し、今後は礼をもって行動してほしい、と厳しい批
判もしました。

池坊氏は、テレビの会見で「本当は日馬富士には引退してほしくなかった」と発言しています。下の者に暴行を加え
た調本人は礼を欠いていないとでもいうのでしょうか?

被害を受けた側を非難し、礼を欠いた加害者を露骨に擁護する、というのはたんに不公正であるだけでなく、池坊氏
個人の中で矛盾を感じないのでしょうか?

日馬富士は自ら引退したから、彼の罪はそれで帳消しになった、というのです。これほど、貴の岩や貴の花親方にた
いして礼を欠いた発言はありません。

日馬富士の引退は個人の判断ですが、理事会と評議員会は、刑事事件として有罪となった日馬富士の行為に対して、
当然、懲戒解雇を含む処罰の対象として審議すべきなのに、それをしていません。もはや、理事会も評議委員会もそ
の機能と責任を果たしていません。

実際、12月20に開かれた横綱審議委員会の臨時会合で、北村正任委員長(毎日新聞社名誉顧問)は会見で、日馬
富士の暴行について「引退を勧告するに相当する事案だ」と述べています。これが普通の感覚でしょう。

会議の中で、池坊氏は、貴乃花親方から提出された報告書を全員で読んだ、言っていましたが、全体で59分しかな
かった審議時間のなかで、15ページもある貴乃花親方の報告書を、本当に全部読んだのだろうか? 私は信じられ
ません。

昨年の理事会の際には、理事の一人から八角理事長に、この報告書についてどう扱うかについて問われて初めて触れ
ましたが、貴の花親方に「何かありますか」と聞いただけで、まともに審議の対象にはしませんでした。

おそらく、評議委員会でも同様に、事実上この報告書を無視したのではないかと思われます。

審議会後の記者会見で池坊氏は、記者に、質問などはでなかったのかという質問に、正面から答えず、高野危機管理
委員長の最終報告もよく読んだうえで総合的に判断したと言っていました。

しかし、出席者の一人は、この報告の中の3か所だけに付箋が付けられており、全部読まれたわけではない、と言っ
ています(テレビ朝日 上記の番組)。

恐らく、貴の花親方に不利な部分だけを読んだのでしょう。

しかも、貴の危機管理委員長は、12月の中間報告で「すぐ貴の岩が『すみません』と謝ればその先に行かなかった」
と、被害者を悪者するという、とんでもない報告を書いた人物です。

私が相撲協会に不信感をいだくのは、例えば、八角理事長が事件後に関係者を集めて訓話を行ったさい、日馬富士の
暴力事件を念頭に、「何気ないちょっとした気持ちでやった暴力」と発言していますが、これも日馬富士の露骨な擁
護の姿勢がありありで、大いに問題です。

つまり、八角理事長は、こんなことは深刻に考える暴力ではなく、「ちょっとした気持ちでやった暴力」で、ことさ
ら大げさに取り上げるべき問題ではない、と言っているのです。

池坊氏がもし、「礼」の重要性を強調するなら、審判の判定に不満を示したり、優勝後に観客に万歳三唱を求めたり、
貴の花親方が巡業部長なら巡業に参加しない、日馬富士も貴の岩も二人とも土俵に上げたい、などという越権行為的
発言が行われた時、直ちに問題にすべきだったのです。

事件の5日後にはこの件について知っていた八角理事長が、直ちに問題の解決に乗り出さず放置しておいたことが大
きな問題です。つまり、現執行部は暴力体質を根本的に改める気はほとんどないようです。

もし、スポーツ紙にすっぱ抜なれなければ、内々に、うやむやにしてしまおうとしたのではないか、と疑われてもし
かたありません。

ところで、貴の花理事解任に関して、『朝日新聞』は5日の「社説」で、協会側の不手際を指摘しながらも、全体と
しては、貴の花親方に対しては、池坊氏の論調と同じ批判に重点をおいています。

また、5日の『毎日新聞』も、報告義務違反と、聴取に応じなかったという理事としての忠実義務違反を前面に出し
ています。やはり、記者クラブメディアの限界でしょう。

多くの力士も親方も、今、体制側につこうか中立を通すか、あるいは貴の花親方につこうか、じっと事態の推移を見
ている、といったところです。どちらにしても、相撲という伝統に自己保身や自己利益などをめぐる政治的な要素が
持ち込まれ、一相撲ファンの私としては不愉快です。

ところで、メディアは「貴の花親方は、少しでもみんなの前で言いたいことを言うべきである」と言っています。

これは一見、しごく当然のように聞こえますが、私は必ずしもそうだとは思いません。

協会幹部、危機管理委員会、評議員会や、テレビや新聞などのメジャーなメディアはこぞって、貴の花親方に批判的
であり、話しベタな貴の花親方が話しても、良い結果は生まれない、と貴の親方は考えているのでしょう。

貴の花親方にとって、もっとも賢いのは、批判も処分もしたいだけさせておいて、いつかの時点で、弁護士を通して
法廷で一挙に反撃にでることを考えているのかも知れません。


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