太陽光発電と売電ビジネスへの疑問-エコとエコノミー?-
1997年12月に締結された「京都議定書」(正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組み条約」)において,地球温暖化を防止するために,
その大きな要因となっている二酸化炭素排出量を各国それぞれの目標値まで減らすことを義務づけられました。
日本を例にみると,主な第一次エネルギー源として水力,原子力,石油・石炭な,天然ガスなどの化石燃料が電気を作るために利用されます。
これらのうち石油と(液化)天然ガスは車などの燃料としても利用されます。問題は,石油,石炭,天然ガスは燃料として利用される限り,
燃焼によって二酸化炭素と環境を汚染する窒素酸化物や硫黄酸化物を排出します。
以上の事情から,「京都議定書」のころには,二酸化炭素も汚染物質も排出しない原子力エネルギーは,温暖化防止の鍵になるクリーン・エネ
ルギーとして期待されていたのです。同時に,世界的な潮流として,太陽光や風力などの再生可能エネルギーも,本当の意味でクリーン・エネ
ルギーとして,その開発が期待されていました。
しかし,日本におけるエネルギーをめぐる社会的環境は「京都議定書」の時と現在では大きく事情が変わりました。2011年3月11日の震災に
続く福島第一原子力発電所の事故以来,原子力発電に対する社会の目は厳しくなる一方,再生可能エネルギーに対する世間の関心がにわかに高
まりました。
これは日本ばかりでなく,世界的な潮流でもあります。
ところが,安倍首相は現在でも「安定した電力供給は成長戦略にとって原子力発電は必要」という姿勢をはっきりと打ち出しています。
さらに安倍首相は,原発を輸出しようと自らセールスに回っており,また国内の原発も何とか再稼働させようとしています。これは主に,産業
界からの強い要請があるためだと思われます。
また,一部には原発を稼働することによって精製されるプルトニウムを保有し,核兵器製造の潜在力を保持しようとする政治家もいます。
さらに,アメリカの原発メーカーも日本企業と組んで原発輸出を望んでいるので,アメリカからの圧力もあります。(これについては既にこの
ブログの2012年11月6日の「原発輸出の危険な罠」で詳しく書いています。)
政府は原発利用を推進する一方,個人や法人が再生エネルルギーの活用を検討した結果,2012年7月から「再生可能エネルギー特別措置法」が
法制化され,電力会社が民間で作られた電力(取りあえずは太陽光発電電力)を固定価格で買取ることが可能となりました。
この制度の施行は,民間の個人や法人の間で,電力事業への参入(具体的には売電)にたいする大きな関心を呼びました。
その背景には,たとえば東京電力管内についていえば,3・11の東日本大震災の際に停電が起こり多くの人が不自由さを味わったという経験が
あります。
いざと言う時に,せめて家の明かりくらいは確保したい,という思いが広く行きわたったことも,太陽光発電と売電への動きを刺激した一つの要因
でしょう。
さらに,個人でも電気を作り売ることができるという,エコ(環境に優しい)とエコノミー(利益を得ることができる)の一石二鳥が広い関心を
呼んでいます。
この買取制度の手続きとしては,まず売電しようとする個人または人が電力会社に申請し許可を受け,同時に経済産業省に設備設置の許可をとる
必要があります。現在は,太陽光発電の設備設置にたいして,都道府県はそれぞれの補助制度をもっています。
この際,二通りの契約があります。一つ目は,できた電力をまず自分で使って,余った電力を売る「余剰電力買取制度」で,これは個人が自宅の
屋根などに太陽光圧電パネルを設置して発電する場合が大部分です。
この背契約では10年間は申請許可を受けた時の固定価格で買い取ってもらえます。
二つ目は,発電した個人ないしは法人は,自分たちでは発電した電力を使わず,全て電力会社に売る「全量電力買取制度」で,実際にはほとんどが
法人です。
この契約でも,発電を開始した時点ではなく,申請が許可された時の固定買取価格で20年間買い取ってもらえます。たとえば,1kWh当たりの買取
価格が42円の時に許可を得た企業は,発電の開始時期と関係なく莫大な潜在的利益が20年間保証されているのです。
それでは,幾らくらいで買い取ってもらえるのでしょうか。2012年には,1kWhあたり42円と非常に高かったのですが,その後2013年7月には
37.88円に引き下げられています。
これらの買取価格と,私たちが電力会社から買う電気料金と比較してみましょう。電気料金は契約のタイプ(総アンペア,夜間電力使用かどうか,
個人か法人か)によって異なりますが,たとえば東京電力から標準的な家庭で電気を使うときの電気料は1kWh当たり25円前後です。
両者を比較すれば分かるように,日本の買取価格は世界的にみても非常に高い買取価格です。では,誰が一体,こんな高い買取価格を設定したので
しょうか?
もちろん,形式的には経済産業省・政府ということになるのですが,その根拠は分かりません。(注1)
固定価格買取制度の大義名分は,クリンーンで再生可能なエネルギー利用の推進です。まず,太陽光発電は二酸化炭素を出さないクリーンエネルギー
で環境に悪影響を与えません。さらにそれは,太陽エネルギーですから化石燃料のように使用すればそれだけ資源が減少することもない,再生可能
エネルギーです。
これらの点では良いことづくめでケチの付けようがないように見えますが,固定価格買取制度には問題もあります。
単純に考えてみましょう。
電力会社は,現在でも37.8円で買って各家庭には25円前後で売ります。すると1kWh当たり13円弱のマイナスになります。
42円の時にきょうかを得た個人や法人が打った場合,その差額は17円にもなります。それでは電力会社が負担しているのでしょうか?
実は,電力会社は1円も負担していないのです。この差額は電気を使っている全ての消費者の電気料金に上乗せされているのです。
現在の電気料金の算定は「総括原価方式」を採用していますので,すべてのコストは合算され,それが電気料金に加算されます。電力会社が太陽光発電
の電気を購入した時には,当然,その購入代金もコストに加算されます。
家庭に送付される電気料金の請求書を見ると「再生エネ課賦金等」という欄がありますが,この名目で私たちはしっかりと,買取に支払われた金額を徴収
されています。
つまり,個人や法人が太陽光発電の売電によって得られる収入は全て,一般消費者の負担によって賄われているのです。
ここに目を付けたのが,いわゆる「売電ビジネス」です。現在では,太陽光発電の設備(主に発電パネル)に対する初期投資を売電によって償却し,メイン
テナンス・コストが計算出来れば,それ以後は,固定価格で長期間買い取ってもらえます。
したがって売電ビジネスは,電気を売れば売るほど確実に利益を得ることできる,とても有利なビジネスといえます。
問題は,何年くらいで初期投資を回収できるのか,です。現在,多くの売電を目的とする企業の試算では13年くらいを一応の目安としています。
しかも,この13年間も高い買取価格で電気を買い取ってもらえます。すると,法人の「全量買取契約」の場合,残りの7年は,メインテナンス費用を除
けば,ほぼまるまる儲けになる,というわけです。
20年という契約期間が切れても,すでに設備投資の償却は済んでいますから,多少,買取価格が下がっても,ずっと利益を生み続けることになります。
そこで,目先の利く企業家はいち早く,大容量の発電・売電の許可を取っておいて(つまり高い買取価格の権利を確保しておいて),太陽光パネルの価格
が下がるのを待っています。もちろん,資本力のある企業は,直ちに発電と売電を始めています。
現在では,すでに許可をとってある太陽光発電の売電企業が一般の人から投資資金を募集する動きがにわかに活況を呈してきました。インターネットで
「太陽発電 売電」という項目で検索すれば,このような投資企業がたくさん出てきます。
具体的な例を二つだけ紹介しておきましょう。一つ目は,このビジネスを行っている人から直性聞いた方式です。
れは,農地を利用した新たな発電ビジネスで,畑の上に面積の60%くらいを占める太陽光パネルで覆い,発電をするという方法です。
作物は,自然の太陽光の40%を取り込むことができれば作物の収量には影響ない,とのことです。
彼によれば,初期投資は12~13年くらいでは回収できるので,後の7~8年は確実に利益が得られるとのことです。ただ,この時に説明では,トータル
でどれくらいの利回りになるのかは聞けませんでした。
二つ目は,書類一式を私の自宅に送ってきたNという社会投資会社の場合です。この会社は既に北海道に広大な土地を取得し,そこにソーラー発電所を建設し,
2013年7月から発電を開始しています。
パンフレットの説明によれば,1kWh当たり42円で売っていると書かれていますから,この企業は買取制度が始まった2012年,直ちに許可を得ていたこと
がわかります。
出資は1口1万円で100口以上(つまり100万円以上)で10口単位となっています。現在,投資に対する利回りは,年率8.23%となっています。
ただし,利益目標として年8~15%と書かれています。
この会社の場合,発電事業の拡大だけでなく,地域の活性化のため次世代農業,観光事業,地域通貨などの事業をセットにした総合的な計画を持っているようです。
そこで,さらなる事業の拡大のために個人や企業へ投資を勧めています。
インターネットで投資を勧誘しているある企業の場合,投資額(発電量で表示してある)に応じて,初期投資とメインテナンス,保険を含めても年間7~9%,
8~10%,12~15%と非常に高い利回りを謳っています。
さて,太陽光発電を推進すること自体は何ら問題は無いどころか,当然進むべき方向だと思います。そのために,奨励策,刺激策として高い買取価格を設定する
ことも社会的なコストとしては,ある程度許されると思います。
それにしても,銀行や郵貯の金利が0.03%とか0.035%といった,超低金利の今日,8%以上の利回りがあるということは驚きです。もちろん,貯金と
投資とは全く性格が違います。それでも,上記のような利回りを確実に保証できるのは,この売電ビジネスがいかに儲かるということを意味しています。
そして,その利益というのは,まったく関係ない私たち一般の電力消費者の犠牲によって賄われているという点が,今ひとつ納得出来ません。現状では,大きな
資本を持っている企業や,他人や銀行から資金を集めることができる事業体だけが,この制度を利用して利益を得ることができるのが実態です。
個人の場合でも,ある程度まとまったお金があれば,売電企業への投資は有利かも知れません。しかし,たとえば台風や突風などでパネルが壊れてしまうリスク
も当然負うことになります。
それでは,再生可能なエネルギーはどのように推進してゆくのがよいでしょうか? 私は,電力に関しても地産地消を原則とすべきだと思います。個人の家庭で
作った電気をその家で使うのは,もっとも直接的な地産地消です。
また,個人で設備を設置するのが負担も大きく効率も悪ければ,市町村単位で発電設備を設け,コストもそこの住民が負担し,発電した電気も電力会社に買い取
ってもらうのではなく,コミュニティ内部で消費するというタイプの地産地消が理想だと思います。
現在は,再生可能なエネルギーといっても,太陽光だけでなく風力も地熱発電もありますが,私は小水力発電が多くの点で優れていると思います。これは,小さな
流れでも水車を回し,それで電気を起こす方法です。すでに,長野県の松川町のように小水力発電を稼働している町もあり,山梨県の都留市や奈良県の吉野町の
ように小水力発電による電力の地産地消に取り組んでいるでいる地方自治体もあります。
もちろん小水力発電は,まったくの平地ではできないので,現在は山地地域に限られています。しかし,山地でなくても,ちょっとして高低差がある場所で,ある
一定以上の水量があり,水車を回すだけの水勢をもった流れがあれば,この発電は可能です。
消費地と遙かに離れた場所で集中的に発電し,それを長い送電線で消費者に送るというのは,非常に不経済です。というのも,電線を使って送電すると,超高圧
送電でも10%くらいは送電ロスがあるからです。また,長い送電線のメインテナンスにも膨大な費用がかかります。
消費地から遠く離れた場所で集中的に発電し遠くまで送電するもっとも典型的な例は原発です。これは一見,経済的に見えますが,送電のコストとメインテナンス
を割り引いて考える必要があります。さらに,3・11の福島第一原子力発電所のように,一旦,事故が起これば取り返しのできない危険をもたらします。
命を支える食物と,生活を支えるエネルギーはできるだけ地産地消を目指すべきだと思います。
最後になりますが,もう一度,現在の固定価格買取制度はこれでいいのかな,という疑問はぬぐえません。
(注1)太陽光発電機器に関わる企業と,太陽光発電のビジネスを考えていたソフトバンクの孫社長の提言を政府がそのまま受け容れたという説もありますが,私は確認していません。
1997年12月に締結された「京都議定書」(正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組み条約」)において,地球温暖化を防止するために,
その大きな要因となっている二酸化炭素排出量を各国それぞれの目標値まで減らすことを義務づけられました。
日本を例にみると,主な第一次エネルギー源として水力,原子力,石油・石炭な,天然ガスなどの化石燃料が電気を作るために利用されます。
これらのうち石油と(液化)天然ガスは車などの燃料としても利用されます。問題は,石油,石炭,天然ガスは燃料として利用される限り,
燃焼によって二酸化炭素と環境を汚染する窒素酸化物や硫黄酸化物を排出します。
以上の事情から,「京都議定書」のころには,二酸化炭素も汚染物質も排出しない原子力エネルギーは,温暖化防止の鍵になるクリーン・エネ
ルギーとして期待されていたのです。同時に,世界的な潮流として,太陽光や風力などの再生可能エネルギーも,本当の意味でクリーン・エネ
ルギーとして,その開発が期待されていました。
しかし,日本におけるエネルギーをめぐる社会的環境は「京都議定書」の時と現在では大きく事情が変わりました。2011年3月11日の震災に
続く福島第一原子力発電所の事故以来,原子力発電に対する社会の目は厳しくなる一方,再生可能エネルギーに対する世間の関心がにわかに高
まりました。
これは日本ばかりでなく,世界的な潮流でもあります。
ところが,安倍首相は現在でも「安定した電力供給は成長戦略にとって原子力発電は必要」という姿勢をはっきりと打ち出しています。
さらに安倍首相は,原発を輸出しようと自らセールスに回っており,また国内の原発も何とか再稼働させようとしています。これは主に,産業
界からの強い要請があるためだと思われます。
また,一部には原発を稼働することによって精製されるプルトニウムを保有し,核兵器製造の潜在力を保持しようとする政治家もいます。
さらに,アメリカの原発メーカーも日本企業と組んで原発輸出を望んでいるので,アメリカからの圧力もあります。(これについては既にこの
ブログの2012年11月6日の「原発輸出の危険な罠」で詳しく書いています。)
政府は原発利用を推進する一方,個人や法人が再生エネルルギーの活用を検討した結果,2012年7月から「再生可能エネルギー特別措置法」が
法制化され,電力会社が民間で作られた電力(取りあえずは太陽光発電電力)を固定価格で買取ることが可能となりました。
この制度の施行は,民間の個人や法人の間で,電力事業への参入(具体的には売電)にたいする大きな関心を呼びました。
その背景には,たとえば東京電力管内についていえば,3・11の東日本大震災の際に停電が起こり多くの人が不自由さを味わったという経験が
あります。
いざと言う時に,せめて家の明かりくらいは確保したい,という思いが広く行きわたったことも,太陽光発電と売電への動きを刺激した一つの要因
でしょう。
さらに,個人でも電気を作り売ることができるという,エコ(環境に優しい)とエコノミー(利益を得ることができる)の一石二鳥が広い関心を
呼んでいます。
この買取制度の手続きとしては,まず売電しようとする個人または人が電力会社に申請し許可を受け,同時に経済産業省に設備設置の許可をとる
必要があります。現在は,太陽光発電の設備設置にたいして,都道府県はそれぞれの補助制度をもっています。
この際,二通りの契約があります。一つ目は,できた電力をまず自分で使って,余った電力を売る「余剰電力買取制度」で,これは個人が自宅の
屋根などに太陽光圧電パネルを設置して発電する場合が大部分です。
この背契約では10年間は申請許可を受けた時の固定価格で買い取ってもらえます。
二つ目は,発電した個人ないしは法人は,自分たちでは発電した電力を使わず,全て電力会社に売る「全量電力買取制度」で,実際にはほとんどが
法人です。
この契約でも,発電を開始した時点ではなく,申請が許可された時の固定買取価格で20年間買い取ってもらえます。たとえば,1kWh当たりの買取
価格が42円の時に許可を得た企業は,発電の開始時期と関係なく莫大な潜在的利益が20年間保証されているのです。
それでは,幾らくらいで買い取ってもらえるのでしょうか。2012年には,1kWhあたり42円と非常に高かったのですが,その後2013年7月には
37.88円に引き下げられています。
これらの買取価格と,私たちが電力会社から買う電気料金と比較してみましょう。電気料金は契約のタイプ(総アンペア,夜間電力使用かどうか,
個人か法人か)によって異なりますが,たとえば東京電力から標準的な家庭で電気を使うときの電気料は1kWh当たり25円前後です。
両者を比較すれば分かるように,日本の買取価格は世界的にみても非常に高い買取価格です。では,誰が一体,こんな高い買取価格を設定したので
しょうか?
もちろん,形式的には経済産業省・政府ということになるのですが,その根拠は分かりません。(注1)
固定価格買取制度の大義名分は,クリンーンで再生可能なエネルギー利用の推進です。まず,太陽光発電は二酸化炭素を出さないクリーンエネルギー
で環境に悪影響を与えません。さらにそれは,太陽エネルギーですから化石燃料のように使用すればそれだけ資源が減少することもない,再生可能
エネルギーです。
これらの点では良いことづくめでケチの付けようがないように見えますが,固定価格買取制度には問題もあります。
単純に考えてみましょう。
電力会社は,現在でも37.8円で買って各家庭には25円前後で売ります。すると1kWh当たり13円弱のマイナスになります。
42円の時にきょうかを得た個人や法人が打った場合,その差額は17円にもなります。それでは電力会社が負担しているのでしょうか?
実は,電力会社は1円も負担していないのです。この差額は電気を使っている全ての消費者の電気料金に上乗せされているのです。
現在の電気料金の算定は「総括原価方式」を採用していますので,すべてのコストは合算され,それが電気料金に加算されます。電力会社が太陽光発電
の電気を購入した時には,当然,その購入代金もコストに加算されます。
家庭に送付される電気料金の請求書を見ると「再生エネ課賦金等」という欄がありますが,この名目で私たちはしっかりと,買取に支払われた金額を徴収
されています。
つまり,個人や法人が太陽光発電の売電によって得られる収入は全て,一般消費者の負担によって賄われているのです。
ここに目を付けたのが,いわゆる「売電ビジネス」です。現在では,太陽光発電の設備(主に発電パネル)に対する初期投資を売電によって償却し,メイン
テナンス・コストが計算出来れば,それ以後は,固定価格で長期間買い取ってもらえます。
したがって売電ビジネスは,電気を売れば売るほど確実に利益を得ることできる,とても有利なビジネスといえます。
問題は,何年くらいで初期投資を回収できるのか,です。現在,多くの売電を目的とする企業の試算では13年くらいを一応の目安としています。
しかも,この13年間も高い買取価格で電気を買い取ってもらえます。すると,法人の「全量買取契約」の場合,残りの7年は,メインテナンス費用を除
けば,ほぼまるまる儲けになる,というわけです。
20年という契約期間が切れても,すでに設備投資の償却は済んでいますから,多少,買取価格が下がっても,ずっと利益を生み続けることになります。
そこで,目先の利く企業家はいち早く,大容量の発電・売電の許可を取っておいて(つまり高い買取価格の権利を確保しておいて),太陽光パネルの価格
が下がるのを待っています。もちろん,資本力のある企業は,直ちに発電と売電を始めています。
現在では,すでに許可をとってある太陽光発電の売電企業が一般の人から投資資金を募集する動きがにわかに活況を呈してきました。インターネットで
「太陽発電 売電」という項目で検索すれば,このような投資企業がたくさん出てきます。
具体的な例を二つだけ紹介しておきましょう。一つ目は,このビジネスを行っている人から直性聞いた方式です。
れは,農地を利用した新たな発電ビジネスで,畑の上に面積の60%くらいを占める太陽光パネルで覆い,発電をするという方法です。
作物は,自然の太陽光の40%を取り込むことができれば作物の収量には影響ない,とのことです。
彼によれば,初期投資は12~13年くらいでは回収できるので,後の7~8年は確実に利益が得られるとのことです。ただ,この時に説明では,トータル
でどれくらいの利回りになるのかは聞けませんでした。
二つ目は,書類一式を私の自宅に送ってきたNという社会投資会社の場合です。この会社は既に北海道に広大な土地を取得し,そこにソーラー発電所を建設し,
2013年7月から発電を開始しています。
パンフレットの説明によれば,1kWh当たり42円で売っていると書かれていますから,この企業は買取制度が始まった2012年,直ちに許可を得ていたこと
がわかります。
出資は1口1万円で100口以上(つまり100万円以上)で10口単位となっています。現在,投資に対する利回りは,年率8.23%となっています。
ただし,利益目標として年8~15%と書かれています。
この会社の場合,発電事業の拡大だけでなく,地域の活性化のため次世代農業,観光事業,地域通貨などの事業をセットにした総合的な計画を持っているようです。
そこで,さらなる事業の拡大のために個人や企業へ投資を勧めています。
インターネットで投資を勧誘しているある企業の場合,投資額(発電量で表示してある)に応じて,初期投資とメインテナンス,保険を含めても年間7~9%,
8~10%,12~15%と非常に高い利回りを謳っています。
さて,太陽光発電を推進すること自体は何ら問題は無いどころか,当然進むべき方向だと思います。そのために,奨励策,刺激策として高い買取価格を設定する
ことも社会的なコストとしては,ある程度許されると思います。
それにしても,銀行や郵貯の金利が0.03%とか0.035%といった,超低金利の今日,8%以上の利回りがあるということは驚きです。もちろん,貯金と
投資とは全く性格が違います。それでも,上記のような利回りを確実に保証できるのは,この売電ビジネスがいかに儲かるということを意味しています。
そして,その利益というのは,まったく関係ない私たち一般の電力消費者の犠牲によって賄われているという点が,今ひとつ納得出来ません。現状では,大きな
資本を持っている企業や,他人や銀行から資金を集めることができる事業体だけが,この制度を利用して利益を得ることができるのが実態です。
個人の場合でも,ある程度まとまったお金があれば,売電企業への投資は有利かも知れません。しかし,たとえば台風や突風などでパネルが壊れてしまうリスク
も当然負うことになります。
それでは,再生可能なエネルギーはどのように推進してゆくのがよいでしょうか? 私は,電力に関しても地産地消を原則とすべきだと思います。個人の家庭で
作った電気をその家で使うのは,もっとも直接的な地産地消です。
また,個人で設備を設置するのが負担も大きく効率も悪ければ,市町村単位で発電設備を設け,コストもそこの住民が負担し,発電した電気も電力会社に買い取
ってもらうのではなく,コミュニティ内部で消費するというタイプの地産地消が理想だと思います。
現在は,再生可能なエネルギーといっても,太陽光だけでなく風力も地熱発電もありますが,私は小水力発電が多くの点で優れていると思います。これは,小さな
流れでも水車を回し,それで電気を起こす方法です。すでに,長野県の松川町のように小水力発電を稼働している町もあり,山梨県の都留市や奈良県の吉野町の
ように小水力発電による電力の地産地消に取り組んでいるでいる地方自治体もあります。
もちろん小水力発電は,まったくの平地ではできないので,現在は山地地域に限られています。しかし,山地でなくても,ちょっとして高低差がある場所で,ある
一定以上の水量があり,水車を回すだけの水勢をもった流れがあれば,この発電は可能です。
消費地と遙かに離れた場所で集中的に発電し,それを長い送電線で消費者に送るというのは,非常に不経済です。というのも,電線を使って送電すると,超高圧
送電でも10%くらいは送電ロスがあるからです。また,長い送電線のメインテナンスにも膨大な費用がかかります。
消費地から遠く離れた場所で集中的に発電し遠くまで送電するもっとも典型的な例は原発です。これは一見,経済的に見えますが,送電のコストとメインテナンス
を割り引いて考える必要があります。さらに,3・11の福島第一原子力発電所のように,一旦,事故が起これば取り返しのできない危険をもたらします。
命を支える食物と,生活を支えるエネルギーはできるだけ地産地消を目指すべきだと思います。
最後になりますが,もう一度,現在の固定価格買取制度はこれでいいのかな,という疑問はぬぐえません。
(注1)太陽光発電機器に関わる企業と,太陽光発電のビジネスを考えていたソフトバンクの孫社長の提言を政府がそのまま受け容れたという説もありますが,私は確認していません。