大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

地球温暖化(2)―COP26に見るか国の壁と溝―

2021-11-16 08:23:54 | 自然・環境
地球温暖化(2)―COP26に見る各国の溝と壁―

地球温暖化を防止するため、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が、2021年
10月31日にイギリスのグラスゴーで開幕し、11月13日に閉幕しました。

当初は12日に閉幕の予定でしたが、最終的合意文書の策定で、中国やインドからの反対で修正
を迫られ、1日伸ばして13日にようやく妥協点を見出し、何とか会議の成果らしきものを得る
こと出来ました。

COP21で採択されたパリ協定で「平均気温上昇を2度より十分低く保ち、1.5度に抑える
努力を追求する」(第2条)と定めており、1.5度は努力目標とされていました。
 
しかし、その後の科学的知見の積み重ねにより、気候危機の被害を最小限に抑えるには「1.5度」
は必須であるという認識が定着しつつあります。

今回のCOP26で、国際社会が「1.5度目標」を共有し、明確に掲げたことは成果として評価す
べきです。
 
「1.5度目標」の達成には、2030年までに温室効果ガスの排出を10年比で45%削減し、50年
には実質ゼロにする必要があるというのも科学の要請です。ところが、各国が国連に登録してい
る削減目標がすべて達成されたとしても、今世紀末までに平均気温は2.7度上昇(現状は1.1度
上昇)してしまう見通しです。

これは明らかに地球規模の問題であり、世界が共通して直面している深刻な事態であるにも関わら
ず、米中対立、先進国主導のカーボンゼロの議論は限界が近い。どうすれば各国は利害を超えて立
ち向かえるか。グリーンポリティクス(緑の政治)の知恵が問われています(注1)。

図1に見られるように、インド、

図1国別温室効果ガス排出量と世界の中のGDP          図2主要な合意点と有志連合による合意点
                   
(注1)と同じ                           (注2)                                                

図1は、世界でどの国がどれほどの温室効果ガス(Co2)を排出しており、それらの国が世界全体
のGDPのうちどれほどを占めているかを、表しています。

排出量が多い中国、インド、ロシアの3カ国は国内総生産(GDP)では世界の約2割ですが(内側の
円)、排出量は同4割(外側の円)も占めています。

図2は、国家として合意した主要項目(上の枠内)で、この中にとして、有志国が合意した項目を
示しています。

最も大きな壁と溝は、温室効果ガスの排出の大きな比重を占める石炭火力発電に関する記述です。

これは、国家間合意点の上から二番目の「二酸化炭素(CO2)排出削減策が講じられていない石炭
火力発電の段階的削減に向けた努力を要請」という表現になりました。

開催国イギリスが出した当初の文言では、排出「廃止」で、かつ、何も条件をつけない石炭火力発
電であったものが、最終的には、「排出削減策が講じられていない」という条件が付けられ、二重
に緩和されました。

イギリスは、国家間での合意事項とは別に、脱石炭や脱エンジン車など、分かりやすいテーマでの
仲間作り仕掛けました。この仲間が有志連合で、そこには企業も参加できます。

このような状況の中で新たな潮流として目立ったのが、テーマごとに有志連合を結成する動きでし
た。これらの有志連合によって合意された項目がふくまれた図2の下の枠の項目です。

日本は、メタン排出と森林に関する項目には有志連合に参加しましたが、石炭火力発電に関しては、
「主要国は30年代に、その他の国は40年代までに全廃する」という項目には不参加(反対)で
した。

これに対してイギリス、ドイツやポーランド、韓国、インドネシアなど46カ国が賛同しました。

これに対して、日本、中国やインド、米国、オーストラリアなどがこの宣言に賛同しませんでした。
いずれも電源に占める石炭火力の比率が高く、代替手段が簡単に用意できそうもない、という理由
のためです。

日本を含めたこうした動きの背景には、石炭を含めた多様なエネルギー源が不可欠という認識が強
まっていることも背景にあります。

また、日本の基幹産業である自動車に関しては「40年代までに新車販売を全てゼロエミッション
(CO2排出ゼロ)」とする項目にも「不参加」でした。 
 
英国は自動車でも野心的な動きを仕掛けた。主要市場で35年まで、世界で40年までにエンジン車の
販売を終えるという宣言を発表しました。

宣言には英国のほか、スウェーデンやオランダなど電気自動車(EV)の販売が伸びる欧州諸国など
23カ国の有志連合が賛同しました。

今日に深いのは、国の方針と企業とは別の行動をとったという点です。たとえば自動車の販売台数
が多く、自動車産業が強い日本や米国、中国、ドイツは国としては賛同しませんでしたが、独メル
セデス・ベンツ、米ゼネラル・モーターズ(GM)、米フォード・モーター、スウェーデンのボル
ボ・カー、中国の比亜迪(BYD)などメーカーが独自の判断で賛同しました。
 
ボルボのホーカン・サミュエルソン社長は、COP26の会議に参加し、「EV化は素晴らしいチャン
スだ」と話し、存在感を見せつけた。メルセデスのオラ・ケレニウス社長は、ビデオの中で「EV
ファーストからEVオンリー」という得意のセリフを使って、意気込みを語りました。

ただ、同じドイツのメーカーでもフォルクスワーゲンは賛成しませんでした。日本のメーカーでは
トヨタ自動車と日産自動車は賛成せず、また韓国の現代自動車も賛同しませんでした。

こうした有志連合は、一部の極端な国やメーカーの集まりだと侮ることはできません。どんな国際
ルールも一部の国が主導し、流れが決まっていく場合があるからです。

COPの正式会議ではなく、舞台を変えて国際ルールが作られるケースもあります。COP26での脱
石炭の要請は、17年に英国とカナダが中心となり、「脱石炭連盟(PPCA)」というグループを作
ったことが1つの発端となっているのです。

PPCAに参加する国や地域が増え、主要7カ国首脳会議(G7サミット)や20カ国・地域首脳会議
(G20サミット)でも議論され、その流れでCOP26の合意文書に「石炭の段階的な削減」が掲載さ
れるようになったことを考えれば、日本の自動車メーカーも将来を見据えて戦略を練る必要があり
ます(注3)。

日本は、既存の火力発電所の全廃時期を明示しないだけでなく、アンモニアと混ぜ合わせて温室効
果ガスをほとんど排出しない(ゼロエミッション)で使い続けることを主張しました。

日本は年間12億トンもの大量の温室効果ガスを排出しています。日本が示した技術は、理論や実
験としては理解できますが、これらの技術はある程度実現するとしても、大規模なCO2の除去にど
れほど役立つのかは明らかではありません。

しかし国際金融情報センター理事長の玉木林太郎氏によれば、「石炭火力が必要なのが『現実だ』
と語る人ほど、非現実的な夢を語っていること」になる。

きちんと説明できないと、「いつまでも火力に頼ります」と捉えられ、国内外に宣言するには説得
力に欠けます。

このため、環境NGOから、今回も、「化石賞」を受賞するなど、気候変動対策に後ろ向きだとい
う不名誉なレッテルを貼られています。

日本が本気で温室効果ガスの削減の展望と具体的な予定を示した上で具体的に行動を起こさないと、
他の国の信用を得られない可能性があります。

例えば、再エネ活用を重視するアップル社などの多国籍企業を筆頭に、再エネによる製造を実践し
ない企業は、大企業のサプライチェーン(材料調達から製造、配達や販売などの一連の流れ)から
外されてしまいます(注4)。

日本には日本の事情があることは確かですが、問題は、それでも、世界の潮流である、脱炭素、温
暖化防止に真剣に取り組まなければ、経済的にも取り残されてしまいます。

それだけでなく、環境の専門家によれば、2030年が大きな転機で、その時までに、気温の上昇を止
めなければ、もう後戻りできない実態に進んでしまいます。残された時間はあまりないのです。


                注
(注1)日経新聞 デジタル
2021年11月16日 2:00 (2021年11月16日5:27更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM152RM0V11C21A1000000/?n_cid=NMAIL007_20211116_A&unlock=1
(注2)『毎日新聞』(2021/11/15 21:11最終更新 11/15 21:36)
https://mainichi.jp/articles/20211115/k00/00m/030/235000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20211116 (合意点)
(注3)日経ビジネス オンライン 2021.11.16
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00122/111500102/?n_cid=nbpnb_mled_mpu
(注4)『毎日新聞』デジタル版(2021/11/14 14:01 最終更新 11/14 23:07)
https://mainichi.jp/articles/20211113/k00/00m/020/099000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20211115



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地球温暖化(1)―危機感と本気度が感じられない日本―

2021-11-09 11:09:04 | 自然・環境
地球温暖化(1)―危機感と本気度が感じられない日本―

現在、イギリスのグラスゴーでCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)が
10月31日~11月12日に期間で開催されています。

言うまでもなく、この会議は、温室効果をもつ炭酸ガスが排出されることによって地球の気温
が上昇する、温暖化をいかに防ぐか、を議論する場です。

この条約は1994年に結成された締約国会議(COP)で決定され、以来、今年は26回目
となります。1997年の第3回は、京都で開催され、日本がリーダーシップをとって、いわ
ゆる「京都議定書」が締結されたことは良く知られています。

今回、国の内外で注目されていたのは、新たに誕生した岸田首相が、温暖化にたいする日本の
対応をどのように世界に向かってどのような発信するのか、という点です。

というのも、日本を含む、温室効果ガス(Co2)を他の火力と比べても多く排出する石炭など
を燃料とする火力発電の廃止をグテーレス国連事務総長は求めていたからです。

さらに、Cop26の会議に出席する前に、主催国イギリスのジョンソン首相との電話会談で、岸
田首相は、日本が火力発電を止める方針を、ぜひ会議で打ち出して欲しい、と強く求められて
いたからです。

これに対して、岸田首相は、あれこれ口実をもうけて結局、ジョンソン首相の要請に応じなか
った経緯があります。

私は、今回のCop26で岸田首相が、世界の潮流である脱炭素への積極的な動きを打ち出すとは
思いませんでした。

これは岸田首相個人というより、自民党という政党がもっている根本的なエネルギー政策に関
わっています。

菅首相は2020年10月26日の所信表明時に、2050までに「カーボンニュートラル」
(炭素ゼロ)を達成する、と公言しました。

しかし、この時にはどんなプロセスでどのように達成してゆくのか、についての具体的なプラ
ンは示しませんでした。

それどころか、「安全最優先で原子力政策を進めることで安定的なエネルギー供給を確立する」
と述べ、28日の衆議院代表質問では「原子力を含むあらゆる選択肢を追求する」と述べてい
ます(『東京新聞』2020年10月30日)。

自民党は、あくまでも原子力発電を維持し、さらに増やしてゆこうとする方針をもっています。

それと同時に、石炭火力発電へのこだわりも強く、国際環境団体「グリーンピース・ジャパン」
エネルギー担当のハンナ・ハッコ氏は、温暖化対策の国際的な枠組みを定めた2015年の「パリ
協定」採択後も、日本では15基の石炭火力発電所が新たに稼働した、と指摘しています(『東
京新聞』2019年12月5日)

それどころか日本は現在、バングラデッシュのマトバリとインドネシアのインドラマユに、日本
では許可されないような巨大石炭発電所の輸出を推進し、建設中です。

このような自民党の姿勢は岸田首相も引き継いでいますから、岸田首相が脱炭素への積極的なメ
ッセージを発表するとは期待していませんでした。

しかも、若い世代の人たちも私と同じような不信感をもっていたようです。

10月24日の総裁選討論会で、オンラインから高校生の質問に対する岸田氏の回答が、彼の温暖化
にたいする認識不足、無関心さを物語っています。

この高校生は「このままでは、(総裁選)候補者の皆さんの子孫も気候変動によって殺されるか
もしれない」と将来へ強い危機感を抱いていることを訴え、「皆さんの気候変動についての対策
をお聞かせ下さい」と問いかけました。

これに対し、岸田氏は「国もエネルギーに関する政策をいろいろ考えていく」としたものの、具
体策は何も触れず、「国民の皆さん一人ひとりの行動によって、この問題ずいぶん変化がありま
す」と述べた。その行動として、岸田氏があげたのが、「電球であってもLED電球なら電力使用
量は4分の1」「シャワーとお風呂、比べてみると格段、お風呂の方がお湯の使用量は少ない」
というものでした。

この回答にツイッター上では、「唖然としてしまった」「気候変動対策を聞かれて、LEDの話を
する首相候補は割とヤバイと思うの」「岸田さんマジで無いわ。気候変動に対する危機感とか全
く分かってない」との声も聞かれました(注1)

この高校生が聞きたかったのは、LED電球やシャワーのお湯の使用量などのことではなく、将来、
自分たちが成長した時、果たして日本や世界は温暖化の影響で住みにくくなってしまう可能性が
あるので、それにどう対処してゆきますか、という全体の状況に対する回答だったのです。

岸田という人は、問題の本質にたいする認識も危機感もないようです。そして質問にたいする答
えのピントがずれています。

思った通り、Cop26での演説では、欧米各国が温暖化の危機と脱炭素を訴えていたのに、岸田首
相は、前もって要請された、石炭火力発電の削減どころか、石炭火力発電そのものへ言及さえ一
切、ありませんでした。

これは首相に就任したはじめでの実質的な外交デビューでしたが、参加国は大きな失望を感じた
に違いありません。

石炭火力発電と並んで、岸田首相が日本の電機エネルギーに関して頼ろうとしているのは原子力
発電です。

建前としては、資源が乏しい日本で、電力需要を満たすには、原子力は必要、という理屈と、原
発はCo2を出さない、クリーンなエネルギーであるという理屈です。

9月18日、記者クラブで行われた自民党の総裁選の討論会で、かねてより原発反対の立場を表明し
ていた河野太郎氏が核燃料サイクルについて、「再処理してもプルとニウムの使い道がなかなか
ない」から中止すべきだ、と訴えました。

これには。ちょっと補足説明が必要です。原発を稼働して生成される使用済核燃料からプルトニ
ウムやウランを取り出し、混合酸化物(MOX)燃料に加工して原発や高速増殖炉で再利用する仕
組みを、核燃料サイクルと言います。

河野氏が指摘したのは、こうして取り出したプルとニウムは使い道がないから、核燃料サイクル
を注視すべきだ、ということでした。

実際、こうしてできた混合酸化物燃料を使って再利用する高速増殖炉は、いずれも失敗し、破綻
しています。それでも、自民党政権が、これにこだわってきたのは、もし、このサイクルを中止
すると原発を稼働させる根拠がなくなってしまうからです。

というのも、プルトニウムは核兵器(原爆など)に使用される非常に危険な物質であるため、あ
る国がプルトニウムを一定以上溜め込むことには国際的に厳しい監視が行われています。

日本はすでに数千発の原爆を製造することができるプルトニウムを保有していますが、これまで
は、それを再処理してプルトニウムを燃料として利用するから、という口実で原発を動かし続け
てきました。

したがって、核燃料サイクルを中止するとさらにプルトニウムが増え、原発を動かす根拠を失っ
てしまうのです。

ところが、驚いたことに岸田首相は、「核燃料サイクルを止めるとプルトニウムがどんどん積み
あがってしまう」と発言し、これは「外交問題にも発展する」と中止に対する懸念を示しました。

これは、話が逆立ちしており、何も敢えてプルトニウムを取り出さなければ、プルトニウムが積
みあがることはないのです。まさに『東京新聞』(2021年11月7日)が指摘するように、はから
ずも「認識不足を露呈」してしまいました。

自民党が、もはや破綻している核燃料サイクルにまだこだわっている背景には、以上の他に、日
本もプルトニウムを持っていることで、潜在的な核兵器の保有国としての立場を保持していたい、
という意図も隠されている考えられます。

岸田首相だけでなく、麻生前財務相・現自民党副総裁も温暖化に対する根本的な認識が欠けてい
ます。今年の10月25日北海度小樽での街頭演説で

    北海道はあたたかくなった。平均気温が2度上がったおかげで、北海道のお米は美味し
    くなった。昔は北海道のお米は厄介道米(やっかいどうまい)という程、売れない米
    だった。今はその北海道がやたら美味い米をつくるようになった。
    農家のおかげですか?農協の力ですか?違います。温度が上がったからです。
    温暖化が悪い話じゃなくて、ここはいい方に向くものも、農産物に限らず、いろんな
    ものが良くなりつつあるんじゃないの。

この発言に対し、北海道農民連盟は、今月26日付で声明を発表。「自民党の重要ポストにある
副総裁の発言としては有るまじき由々しき事態」「地球温暖化防止対策に取組んでいる企業や
国民にとっても耳を疑うような発言」と批判。

さらに「全国でも北海道米が高い評価を得ているのは、全道挙げて米の品種改良を重ね、官・
民・農が一体となって協力し、“北海道ブランド米”としての地位を確立した結果であり、今ま
での北海道米を作る生産者の努力と技術を蔑ろにするような発言は断じて許されない、強く抗
議する」と憤りをあらわにしました(注2)。

こういう人たちに、温暖化対策を委ねなければならない、というところに日本の悲劇がありま
す。リーダーがそうであっても国民はしっかり監視してゆく必要があります。

次回は、では日本と世界の温暖化対策はどうなっているのかをもう少し具体的に検討します。

(注1)Yahoo ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20211005-00261640 『東京新聞』
(2021.9.29 21:02)https://www.tokyo-np.co.jp/article/133858
(注2)(Yahoo ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20211027-00265132
10/27(水) 11:50; BuzzFeed.News (2021.10.27) https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/yume-pirika


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新規感染者激減のナゾ―ウイルスの自壊か周期なのか―

2021-11-02 21:54:59 | 健康・医療
新規感染者激減のナゾ―ウイルスの自壊か周期なのか―

日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延は、第五波で2021年8月20日
の新規感染者は全国で2万5851人をピークに達しました。この背景には、感染力が極めて
強いウイルスの変異株、アルファ株やデルタ株の流行がありました。

しかし、このピークを境に新規感染者は急減しました。緊急事態宣言とまん延防止等重点措置
が廃止された9月30日には、1574人と、ピーク時の6%、15分の1以下に激減し、も
はや収束したかのような数字になっています。

このころ、この急激な減少にたいして、専門家の間でも、なぜ、急減したのかについてさまざ
まな議論や仮説が発表されてきましたが、未だに決定的な説明は現れていません。

専門家を代表して、感染症対策分科会会長の尾身氏が9月28日に、5つの仮説を発表しまし
た。これにつては本ブログの2021年10月5日の「コロナ新規感染者急減の謎」というタイト
ルで紹介しましてあります。

だれもが、収束の要因として挙げるのはワクチン接種率の増加です。菅元首相は、5月くらい
から、とにかくワクチンさえ広まればコロナ問題は解決すると、1日100万人の接種を各自
治体に圧力をかけていました。私もこれを否定するわけではありません。

しかし、ワクチンの効果を過大評価することもできません。というのも、欧米各国は日本より
早くから、ワクチンを接種してきており、イスラエルにいたっては80%の人が二回目のワク
チンを接種しているのに、現在まで増減を繰り返しているからです。

イギリスにおいても、早くからワクチン接種をはじめ10月末には二回接種者の割合が70%
に達しているのに、1日の感染者が5万人に達しています。日本の人口はイギリスの2倍ですか
ら、この数字を日本に当てはめると、1日10万人ということになります。

いずれにしても、日本における新規感染者の減り方、そのスピードは世界に例がありません。
たとえば、東京と大阪をみると、ピークの8月13日には、5773人もの新規感染者が出た
のに、11月1には何と、わずか9人でした!

こうした減少をみて、最近、二つの興味深い説が登場しました。

一つはウイルスの自滅説(自壊説)です。児玉龍彦(東大名誉教授)によれば、これはノーベル
賞受賞者でもあるエイゲン(Manfred Eigen)が1971年に予言した『エラー・カタストロフの限
界(ミスによる破局)』という概念です。

この内容は私のような素人には分かりにくい内容ですが、簡単にいうと次のようなことらしい。

つまり、ウイルスは増殖の過程でミス・コピーが生じて、色んなタイプの変異種ができる。新型
コロナウイルスは、ウイルスの生存に有利な「正の選択」を行うミスコピーの修復システム(一
群の酵素)を持っている。しかし、この修復酵素が何らかの理由で変質させられて変異種を作り
出してしまい、しかもそれが一定の限界を超えて増えてしまうと「エラー・カタストロフ」(大
量のミス・コピーによって修復が不能になって、突如として自壊します、というほどの意味か)
が起きる可能性がある。

ただし児玉氏は、「デルタ株が支配的な日本で急速に感染者数が減っているのは妙だが、エラー・
カタストロフの限界によって自壊しているのだとしても感染防御の手を緩めてはいけない、と警告
しています(注1)。

二つ目の説は、いわばコロナ流行の4か月周期説です。



まず、上のグラフを見ていただけると分かりますが、コロナの流行は、ワクチンの接種や人の流れ
とは関係なく、第一波から第五波まで、ほぼ規則的に始まりから収束まで4か月周期で増減を繰り
返してきました(注2)。

特に注意すべき事実は、第一波から第四波までは、ワクチン接種がほとんど進んでいなかった時期
です。それでも、時間が経つと自然に収束していったのです。

この法則を見つけ出した京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授は、
    第5波が収束したのは、感染症の波とは上がっては下がるものだから。感染者数が天井知ら
    ずに増加するというのは間違いで、人流は主要因ではありません。
    昨年の第1波も、緊急事態宣言が出された4月7日にはすでにピークアウトしていましたが、
    宣言を出してからも、感染者数の減少スピードは一定でした。緊急事態宣言による人流抑
    制が、感染者数に影響するなら、減少スピードは加速するはずです。第3波も同様で、12月
    末にはピークアウトしましたが、今年1月8日に緊急事態宣言が出され、以後、減少スピード
    はむしろ遅くなりました
と、言い切ります。

また、東京大学名誉教授で、食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏も、「現象論として、第1波か
ら今回の第5波まで、4カ月周期で非常に規則正しく波がやってきています」とのべています。

唐木氏はさらに、「なにかが原因で流行し、対策をしたから下がった、というものではなく、かなり
自然要因で増減しています」とのことです。 その「自然要因」とは、 「ウイルスの性質によるもの
なのか、季節が関係しているのかわかりません。いずれにせよ、人為的にコントロールできるもので
はなく、可能なのは波の高さを変えることくらいです。実は、WHOによる世界の感染者数と死亡者数
のデータを見ても、4カ月周期の同じ傾向がわかります」とも指摘しています(注3)。

科学的根拠はありませんが、私はウイルスの自壊説も、周期説も非常に説得力があり、納得します。

今回の衆院選で菅元首相は、現在陽性者が減っているのは、私が努力したワクチン接種の成果だと強
調していましたが、ワクチンが陽性者の現象にどれほど効果があったのかは、今の段階では不明です。
主としてワクチン側の事情で、減少の周期に入っただけなのかもしれません。

宮沢氏によれば、次の感染者増加の周期は1か月後の12月に始まると、予測しています。
 

                      注

(注1)Yahoo News (2021年10月5日) https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20211005-00261667
  なお、2002年から翌年にかけて一部地域で流行したサーズ(SARS)も、2002年から翌年に
  かけて一部地域で流行したが、ある時、忽然と消滅してしまったことを考えると、ありえない事
  ではない。
(注2)NHKデジタル ニュース https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/
(注3)Yahoo News (2021年9月29(水) 5:57配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/a6c6b7e6bb21431b5ba32a4e19608f8874b7e65f?page=2
 


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