大木昌の雑記帳

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衆議院総選挙-自民党“圧勝”の意外なからくり-

2012-12-22 05:11:44 | 政治
衆議院総選挙とナショナリズム-自民党“圧勝”の意外なからくり-



2012年の衆議院総選挙の結果は,予想通りという面と,意外な面との両面をもっています。

予想どおりというのは,自民圧勝,民主惨敗という結果です。

これには,選挙前から各マスコミが,民主党は信頼を失ったと言う報道を,これでもかというほど繰り返し報道していたことも大きく影響
しています。

結果は,自民党が単独で過半数を大きく超える294議席(小選挙区237、比例代表57)を獲得して圧勝しました。

これに対して民主党の獲得議席は57議席(小選挙区27、比例30)でした。

これは、民主党が結成された98年以降最低だった05年の113議席(小選挙区52、比例61)の約半数にすぎません。

以上の結果は,あたかも自民党が圧倒的な国民の信任を得たかのような印象を与えます。

本当にそうでしょうか? 中身をもう少し細かく見る必要があります。

現在の選挙制度は小選挙区(300議席)と比例(180議席)との併用となっています。

小選挙区では,それぞれの選挙区で最高得票を得た候補者だけが当選となり,その他の候補者への票は死に票となってしまいます。

つまり,1票でも多い方が当選,少ない方が落選となるので,結果は少しの差が,極端に大きく反映されます。

今回の小選挙区の結果を見てみましょう。

    獲得議席数  議席数に占める割合 得票率

自民党  237   79%       43%
民主党   27    9%       22.8%

これらの数字から,次の事がわかります。

① 自民党は得票率 43%で,全小選挙区議席数(300)の約80%の議席数を獲得していることになります。

② 民主党は,得票率は22.8%で自民党の半分なのに,獲得議席割合は,わずか9%,
  自民党の9分の1になってしまいました。

 獲得票だけで単純に比較すると,自民圧勝といわれながら,自民対民主は2:1にすぎなかったのです。

③ 今回の投票率が59%(全有権者の6割)でしたから,43%という得票率を国家的規模で見ると,
  全体の25%の支持で8割の議席を獲得したことになります。

次に自民党の小選挙区と比例区の獲得票数を大ざっぱに見ると以下のようになります。

          小選挙区     比例区
 2005年      3200万     2588万 (郵政選挙で自民大勝 296議席)
2009年      2700万     1881万 (自民大敗 政権交代)
 2012年      2564万     1662万 (今回 自民大勝)


この得票数の変化をみると,意外なことがわかります。

今回,自民は大勝したと言われていますが,2005年の小泉郵政選挙の得票数と比べて小選挙区では630万票,比例区では920万票も
少ないのです。

得票率でみると,2005年の郵政選挙では,小選挙区が49.2%,比例区で55.6%,でしたが今回は,小選挙区が43%,
比例区が27.6%でした。

今回の比例区の得票率は,何と,2005年の半分に激減しているのです。

さらに驚くのは,自民党が大敗し政権交代が起こった,2009年の総選挙と比べても,

今回の獲得票数は,小選挙区で140万票,比例で220万票も少ないのです。

これらの数字から,自民党の得票数は,確実に減少しつつあることが分かります。

これは比例での獲得議席数にもはっきりと現れています。

今回の選挙での比例57議席は,2005年の77議席より20議席も少なく、大敗した09年の比例55議席をわずかに2議席上回る
だけでした。

比例の得票数は,死に票がないので,有権者の各政党に対する本当の民意を反映しています。

それでも,自民党が今回の選挙で多くの議席数を確保できた「直接的な」理由は,

① 民主党の一方的な失政
② 小選挙区制
③ 昔からの地方組織や産業界,商業界などの,比較的安定した組織票
④ 「第三極」を目指した政党が,期待ほど伸びなかったこと

などが考えられます。

①は,短距離走で,自民党は今までより多少遅く走ったのに,民主党はスタートと同時に勝手に転んでしまい,そのままよたよたと
ゴールした状態でした。

③は,伝統的とも言える,自民党の堅い地盤で,今回のように,投票率が低いとこのような組織票をもっている政党にとって,非常
に有利です。

④は,「第三極」を目指す政党が乱立し,票が分かれてしまい,これも自民党(と公明党)に有利に作用しました。

以上の直接的な理由の他に,二つの重要な背景がありました。

一つは,長期の不景気と所得の減少にたいして多くの国民は,景気回復には民主党より自民党,という意識が強く働いていたことです。

安部自民党総裁は(来週には首相?)選挙前から金融緩和と大型公共投資を示唆していました。

これらの政策により,景気が回復し国民の個人所得が上昇する保障は何もないのにもかかわらず,有権者は,かすかな期待を抱いたのです。

むしろ,大企業の利益は上がるかも知れませんが,庶民にとっては物価だけが上がって,所得はせいぜい現状のままか,減少する可能性
さえ大きいのです。

経済の面では,新聞の見出しにもあったったように,自民の圧勝は,民主党より「まだまし」の結果であるとも言えます。

もう一つは,尖閣をめぐる中国,竹島をめぐる韓国の挑発的行為です。

中国船が尖閣諸島の領海に頻繁に出入りしたり,最近では航空機が領空を侵犯する映像がたびたびニュースで流されてきました。

その映像をみる日本人の心の中に,「なぜ,もっと強い姿勢で中国に対抗しないのか」というナショナリズム的感情が鬱積している
のだと考えられます。

竹島をめぐる韓国との対立についても同じ事が言えます。

つまり,ここ2年ほどの間に,日本人の心の片隅に,ナショナリズムが深く静かに蓄積されてきたのです。

安部総裁は自衛隊を「国防軍」へ名称変更し,さらに集団的自衛権も行使できるように憲法改定を口しています。

このため国民は,安部総裁なら中国,韓国にもっと強い姿勢で臨んでくれるのではないか,という期待感をもっているのではないで
しょうか。

しかし,不思議なことに,マスコミは自民党圧勝の背景として,中国,韓国との対立から生じたナショナリズムの台頭には触れて
いません。

今回の選挙で自民党は,国防軍,集団的自衛権,憲法改訂,原発などの重要な争点を巧みにぼかし,景気浮揚の問題に集中しました。

マスコミも,意図的にか無意識にか,とにかく重要な争点として大きく取り上げませんでした。

しかし,今回の選挙の結果は,そう遠くない将来,きっと国民の意思とは違った形で現れれるでしょう。

今回自民党に投票した人が,「そんなはずではなかった」と思っても,その時は「もう手遅」という状況になっているのではと深く
憂慮しています。

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