大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

原子炉“処理水”の海洋放出(3)ー「海は国、東電のものじゃない。国民や世界の人々のものなんだ」―

2023-09-07 08:45:05 | 原発・エネルギー問題
            原子炉“処理水”の海洋放出(3)
―「海は国、東電のものじゃない。国民や世界の人々のものなんだ」―


“処理水”の海洋放出に対する地元の漁業者や関係者の不満、もっとはっきり言えば
怒りは、ある漁業者が語った以下の言葉に尽きます。
    海は国、東電のものじゃない。国民や世界の人々のものなんだ
つまり、東電や政府はあたかも自分たちが海の利用や使用にかんして決定権をもっているようにふるまっている
が、海はすべての国民、さらに世界の全て人のものなんだ、だからこれらの人びとの理解をえないまま勝手に決
めないでくれ、といっているのです(注1)。

また別の漁業者は、海洋放出に反対しているのは、より多くの賠償をもらおうとしているからなんじゃないかと
いう一部の邪推にたいして、
    俺たちは賠償が欲しいんじゃない。福島で漁業をしたいだけなんだ
と明快に否定しています(『東京新聞』2023年8月22日)

上記二人の漁業者の言葉が、今回の海洋放出にかんする漁業者の気持ちを端的に表しています。政府が“処理水”が
安全であるということは「“科学的に”証明されている」といっても、それだけでは現地の漁業関係者を説得するこ
とは不可能です。

そこには、漁業関係者の政府・東電に対する根深い不信があるからです。

すなわち、2015年に福島県漁業協同組合連合は政府と東電に、汚染水を浄化した処理水は、漁業者や国民の理解が
ないまま放出はしないよう要求しました。

両者の間で協議した結果、政府と東電は「関係者の理解なしにいかなる(“処理水”の―筆者注)処分も行わない」
ことを「約束」し、文書を取り交わしました。

ところが政府は2021年4月、漁連側の反対にもかかわらず処理水を海洋放出する方針を一方的に決定してしまい
ました。

その後、西村康稔経済産業相は「約束を順守する」との発言を繰り返しましたが、同時に「理解の度合いを特定
の指標で判断するのは難しい」と述べ、「理解」という言葉の内容を曖昧にしてしまいました。

漁連側は海洋放出に一貫して反対の姿勢を鮮明にしていました。つまり、海洋放出に「理解」を示していないの
です。

政府の関係資料には「理解醸成」という言葉が増え、政府は「丁寧に説明する」という行為自体を重視し、今年
2023年1月に「今年春から夏ごろ」と一方的に決め、もう住民側の「理解」の有無にかかわらず、スケジュール
ありきで海洋放出に向かって進めてきました。

岸田首相は8月21日、「たとえ数十年にわたろうとも、全責任を持って対応するので、ぜひ理解を」と全国漁
業協同組合連合会坂本雅信会長との会談で求めました。

全漁連は、海洋放出には「反対であることはいささかも変わらない」と、きっぱりと反対の立場を表明しました。

そして全漁連会長は、「処理水の安全性の理解についてはすすんだが、安心はできない。約束は果たされていな
い」と、約束が反故にされていることも述べています(『東京新聞』2023年8月22日)

漁業関係者からみれば、政府と東電は自ら約束したことを公然と反故にしたことになります。これは優しく言っ
ても“約束違反”、もっときつい表現を用いれば“裏切り”あるいは“だまし討ち”と映ったことでしょう。

しかも、岸田首相の言葉には、なんら現実性をもたない無責任な「口約束」にすぎません。

岸田首相は、「たとえ数十年にわたろうとも、全責任を持って対応する」と言っていますが、岸田首相が、今後
何十年も首相の座に留まっていることは、考えられません。

それがわかっていて、どうして「全責任をもって対応する」といえるのでしょうか。

さらに言えば、文書で取り交わした約束でさえ一方的に反故にする政府の「口約束」を漁業はどうして信用でき
るでしょうか

また、政府と東電は30年後には、あるいは2051年には処理水を空にできると言っていますが、これが不可能な
ことはすでに前回書いた通りです。

ここでもう一つ重要なことは、全漁連の坂本会長が「科学的な安全と社会的な安心は異なるもので、科学的に安
全だからと言って風評被害がなくなるものでもない」と、風評被害への強い懸念を示してことです。

岸田首相としては、海洋放出の問題をなんとかしてIAEAからお墨付きをもらった「科学的な安全性」の問題
に限定していようとしたのですが、全漁連会長は、漁業関係者の生活の問題として反論しているのです。

言い換えると、岸田首相は地元の漁業者と関係者の生活は重要な関心事ではないのです(『東京新聞』(「社説」
8月23日)。

しかも、前回の記事でも述べたように、「科学的な安全性」とい言っても、それは処理水にはトリチウム以外の
放射性物質がゼロということではありません。

その「科学的根拠に基づく安全性」にしても、ALPSでは、トリチウムは取り除けませんが、62もの放射性核種
を基準値以下にすることになっていました。しかし、2018年9月、東電は、ALPSで処理した水のうち、84%が基
準を満たしていなことを明らかにしています(注2)。

薄めて健康に害があるレベルまで放射性物質を薄めたとしても、今後、何年続くかわからない長期の海洋放出は
長期的には、勝者性物質は海洋に蓄積され自然環境や、食物連鎖を通して人体に害を及ぼす可能はあるのです。

ところで、海洋放出の「理解」に関して、実に奇妙な論理のすり替え、ごまかしが行われています。

政府と西村経産相は、海洋放水に関して「一定の理解が得られた」と述べ、東電の小早川社長はその言葉を盾に
「岸田首相や西村経産相が全面に立ち、一定の理解をいただいたということで放水に至った」と語っています。

もし、上に引用した全漁連会長の「処理水の安全性の理解についてはすすんだ」という言葉をもって政府側が
「一定の理解」が得られたと主張するなら、都合の良い部分だけを切り取って、強引に放出を正当化している
事にほかなりません。漁業者はあくまでも、海洋放出に反対で、この点は少しも「理解」していません。

政府と東電には漁業関係者に対する誠実さが欠如しています。岸田首相は、海洋放出を最終的に閣僚会議で決
定する直前の8月20日になって、初めて福島を訪れて漁業関係者と会っています。

ジャーナリストの鈴木哲夫さんは「今ごろ現地に行く首相が、原発に対して思いを持っているとは思えない。
やっている感を演出しているだけだ」と指摘しています。

鈴木氏はまた、
    既成事実をつくり、地元を追い込んでいく手法だ。最後に形だけ当事者に 話を聞く姿勢は、首相に
    原発に対する確固たる政策理念がない表れで、経済産業産省が描くシナリオに乗っかっているだけ、
とも批判しています。

「丁寧な説明をする」と、そこだけは丁寧に繰り返すが、実際には丁寧な説明を尽くすことはせず、結論あり
きで強行する岸田首相の手法は一連のマイナンバー・カードの問題にも言えます。

政治ジャーナリストの泉宏さんは、『「聞く力」と言って聞いているフリをして聞き流し、勝手に物事を決め
る。今年になってますますその傾向は顕著になっている』と、手厳しい(『東京新聞』2023年8月22日)。

岸田首相が現地に赴いて、漁業者との真剣な話し合いをずっと避けてきたように、本来の当事者である東電は、
さらに姑息な動きをしています。

先に引用したように、東電は何か問題があれば、政府と経産省の陰に隠れて、「東電と政府とは一体だ」と言
い続けています。

そこには当事者としての責任感も誠実さも感じられません。東電社長の小早川氏は、2021年4月に政府が海洋
放出の方針を決定後でさえ、反対する漁業関係者に直接会って説明をしてきませんでした。

ようやく、海洋放出当日(8月24日)に始めて県漁連を訪れ「当社の決意と覚悟を伝えた」という。

放出作業を説明する午前中に記者会見では、処理水対策の責任者である東電福島第一原発廃炉推進カンパニー
の松本純一氏が登壇し、漁業者の理解を問われると、「大きな問題だから、政府が前面に立ってくださって対
応していると考える」と、東電の責任には触れず、全て政府の陰に隠れて丸投げなのです。
    
社長といい松本氏といい、東電のこの姿勢には、自分たちこそが当事者であり、責任があるという意識が完全
に欠落しています。

政府も東電も、漁業関係者の反発は無視し、政府の力で抑えて付けてもらおうという無責任な姿勢のままです。


(注1)AERA dot.(電子版) 2023/08/25/ 19:30 https://dot.asahi.com/articles/-/199667?page=1
(注2)Greenpeace (電子版 2019-07-23)
    https://www.greenpeace.org/japan/campaigns/story/2019/07/23/9618/


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

原子炉“処理水”の海洋放出(2)―“処理水”は本当に安全か?―

2023-09-03 09:07:09 | 原発・エネルギー問題
原子炉“処理水”の海洋放出(2)―“処理水”は本当に安全か?―


日本政府は2021年4月13日、福島第一発電所構内のタンクに貯蔵されている”処理水”
を海洋放出する方針を決めると、IAEA事務局長がALPS処理水のレビューを実施してゆく
ことを発表しました。

ただし、実際の分析や細かな検証は、11カ国11人からか成るタスクフォースが行うこ
ととなりました。同年9月28~30日にタスクフォース第1回 が開かれ、2023年5月ま
でに12回会合が開催されました(注1)

2023年7月4日、IAEAは「包括的レビュー」(総合評価-筆者注)を公開しました。

「包括的レビュー」は、福島第一原発構内のタンクに貯蔵されている“ALPS処理水”の海
洋放出に関して、次のように総括しています(注2)。

1.IAEA包括報告書の要旨(Executive Summary)においては、以下の結論が述べられてる
(経産省の和訳による)。

 1)包括的な評価に基づき、IAEAは、ALPS処理水の海洋放出へのアプローチ、並びに東
   電、原子力規制委員会及び日本政府による関係する活動は関連する国際的な安全基準
   に整合的であると結論付けた。

 2)包括的な評価に基づき、IAEAは、東電が現在計画しているALPS処理水の海洋放出が
   人及び環境に与える放射線の影響は無視できるものと結論付けた。

2.また、IAEAは、同要旨の中で、放出前、放出中及び放出後もALPS処理水の放出に関し日
 本に関与することにコミットし、追加的レビュー及びモニタリングが継続予定であること
 は、国際社会に追加的な透明性及び安心を提供するものであると述べています。

3.日本政府は、同報告書の内容を詳細に確認した上で、透明性をもって国内外に情報発信し
 てまいります。また、今後とも、IAEAに対する必要な情報共有を継続するとともに、AL
 PS処理水の海洋放出について、国際社会の一層の理解を醸成していくことに努めます。

実際にレビューにはさらに細かな説明があるが、ここでは「要旨」の、しかも重要ポイント
だけが記載されています。

上記IAEAの「包括的レビューの2では、処理水の海洋放出は、「人及び環境委に与える
影響は無視できるもの」としている。

しかし、IAEAのレビューには、海洋放出される処理水が「安全である」とはどこにも書
いてありません。

ところが、経産省のホームページでは、IAEAA「包括的レビュー」は以下のような内容
となる、としています(注3)。

○IAEAは原子力分野について専門的な知識を持った権威ある国連の関連機関(安全基準を策定
・適用する権限を保有)であり、専門的な立場から第三者としてレビュー(検証)を実施
レビューの結果として、ALPS処理水の海洋放出は、「国際安全基準に合致」し、「人及び環
 境に対する放射線影響は無視できるほどである」といった結論が盛り込まれた包括報告書を
 本年7月4日に公表する
○IAEAは、放出前のレビューだけではなく、放出中・放出後についても長年にわたってALPS処
 理水の海洋放出の安全性確保にコミット
○グロッシーIAEA事務局長は「この包括報告書は、国際社会に対し、処理水放出についての科学
的知識を明確にした」「処理水の最後の1滴が安全に放出し終わるまでIAEAは福島にとどまる」。

上記包括的レビューに関するIAEAと日本の経産省の文言は、ほとんど同じことを言っているよう
ですが、微妙な、しかし重要な違いがあります。

経産省版の総括だけを読むと、あたかも、現状での「海洋放出は国際安全基準に合致」している
かのような印象を与えます。

しかし、上記のIAEAの「包括的レビュー」の1の1)では、国際的基準に合致していのは海洋放
出される“処理水”を始めとする放射性物質の濃度ではなく、「ALPS処理水の海洋放出へのアプロー
チ、並びに東電、原子力規制委員会及び日本政府による関係する活動は関連する国際的な安全基準
に整合的であると結論付けた」となっています。

経産相の西村氏は、処理水放出が〈国際的な安全基準に合致する〉と結論付けたIAEA報告書を「錦
の御旗」にしていますが、報告書は放出に“お墨付き”を与えたわけではありません。

実際、報告書には〈処理水の放出は日本政府による決定であり、本報告書はその勧告でも支持でも
ないことは強調しておきたい〉と、わざわざ明記されているのです(注4)。

さらに、2023年8月26日のTBS『報道特集』でのインタビューに答えて、ラファエル・マリアー
ノ・グロッシーIAEA事務局長は、IAEAとしては、海洋放出を支持も推奨もしない、とはっきり語
っています。


さらに、アメリカのスリーマイルアイランドで起こった原発の事故に関して、住民を主体として関係
者が13年間に75回も対策を議論した例を挙げ、日本でも住民を徹底的な議論を行うべきだと語っ
ています。

おそらく、日本においては住民をも含めた議論なく、政府と東電は漁業者は住民の声を無視して海洋
放出に突き進むことを危惧していたからでしょう。

なお、もう一つ、“処理水”に関しては重要な問題が隠されています。

経済省の定義によれば“処理水”とは、
ALPS(多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System))等により、トリチウム以外の放射性
物質について安全に関する規制基準値を確実に下回るまで浄化した水。さらにALPS処理水は、その後
十分に希釈され、トリチウムを含む全ての放射性物質について安全に関する規制基準値を大幅に下回る
レベルにした上で、海洋放出されることが想定されている(注5)。

また、環境省は「「ALPS処理水」とは、東京電力福島第一原子力発電所で発生した汚染水を多核種除
去設備(ALPS)等によりトリチウム以外の放射性物質を環境放出の際の規制基準を満たすまで繰り
返し浄化処理した水のことです」と定義しています。

少し補足すると、現在、環境省は“汚染水”に含まれる放射性物質としてトリチウム(注1)のほか通常
の原子力発電からの排水ではほとんど検出されないセシウム137やストロンチウム90などの放射性物
質が含まれます。これらのうち、それぞれの核種ごとに定められた規制基準に比べて一定以上含まれる
可能性があると考えられる62核種(主要7核種とその他の核種55種類)についてはALPSにより
基準値以下になるまで海水で薄めて浄化されます。これが、一般に言う“処理水”です(注6)。

いずれにしても、APLSで処理した汚染水とは、“処理水”ではありますが、核種を全て処理した水で
はなく、トリチウムだけでなく他の核種がふくまれていても、それら一定以下の濃度に薄められている
水、という意味です。したがって正確には、”処理水”とは”処理中の水”というべきです。

なお、政府は身体への影響が比較的少ないと言われているトリチウムの数値につてだけ公表しているが、
これについて、原子力委員会で委員長代理を努めた長崎大学鈴木達治郎教授は、2023年8月26日のT
BS『報道特集』で次のように警告しています。

すなわち、ALPSは完全に放射性物質を除去できないから、“処理水”は、比較的人体への影響が小さい
トリチウム以外の放射性物質を一切含まない、純粋な“トリチウム水”とはいえない、と警告しています。
したがって、第三者(政府・東電以外)によるチェックが必要だと言います

以上を総合して考えると、東電が海洋放出する“処理水”とは、比較的人体への影響が少ないトリチウムと、
それ以外の放射性物質が、人体への影響がないところまで取り除かれ、薄められた水、という意味です。

しかも、これからは鈴木教授が言うように、第三者(つまり東電や政府以外)のチェックが必要だ、とい
う言葉には重要な意味が含まれています。

というのも、2018年8月30日から31日にかけて、東京電力福島第一原子力発電所福島第一)で溜まり
続ける「トリチウム水」の海洋放出について社会的同意を求めるための公聴会が福島県と東京都の三会場
で経済産業省(経産省)により開催されました。

その7日前に当たる8月23日に『河北新報』は、フリーランスライターの木野龍逸氏により「トリチウ
ム水」には、基準を超えるヨウ素129などの放射性核種1年に60回も含まれていたとの指摘を報じました。

また、8月27日には、木野氏により「トリチウム水と政府は呼ぶけれど実際には他の放射性物質が1年
で65回も基準超過していた」ことも報じられました。

これらの報道の影響はたいへんに大きく、30日からの公聴会は全会場、全日程で大荒れとなり、市民から
は反対の声が多勢を占める結果となりました(注7)

いずれにしても、漁業関係者には、東電と政府に対する抜きがたい不信が根付いていしまっています。

政府と東電は、今後30年で“処理水”を溜めたタンクを海洋放出によって空にする、と述べていますが、こ
れを信じる人はどれほどいるでしょうか?

なぜなら、デブリに触れた汚染水が毎日90トン発生するのです。根本的な解決はデブリの取り出しが必要
で、23年度後半に試験的な取り出し計画されましたが、ロボットを使って取り出せるのはわずか数グラム・
デブリの総量は880トンと見積もられています。しかも今のところ全量に取り出しできる工法はありませ
ん。たとえ取り出せても、そのデブリをどこに保管するかも未定です(『東京新聞』2023年8月23日)

これと同様の問題で、ALPSがトリチウム以外の放射性物資を取り除くことになっていますが、取り除い
た放射施物質をどのように保管しているのか、どこを調べてもわかりません。

以上みたように、“処理水”の海洋放出には、まだまだ多くの問題が残されています。


(注1)IAEA https://www.iaea.org/interactive/timeline/105298I
(注2)経済産業省 HP
    https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230704005/20230704005.html
    全文の和訳は
    https://www.iaea.org/sites/default/files/23/07/final_alps_es_japanese_for_iaea_website.pdfで見ることができます。
(注3)(経済産業省 HP 
    https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alp s/reports/02/
(注4)この問題に関しては、『日刊ゲンダイ』電子版(2023/08/29 13:30 更新日:2023/08/29 13:30
  https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/328256)を参照。
(注5)経済産業省 HP(2023年7月4日)https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230704005/20230704005.html
(注6)環境省 HP(2022年3月31日)
    https://www.env.go.jp/chemi/rhm/r3kisoshiryo/r3kiso-06-03-5.html#:~:text
(注7)Hobor Business Online(2018.09.04) https://hbol.jp/174094/



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

原子炉“処理水”の海洋放出(1)―平然と約束を破る政府と東電を信用できる?―

2023-08-27 08:31:59 | 原発・エネルギー問題
原子炉“処理水”の海洋放出(1)
―平然と約束を破る政府と東電を信用できる?―

政府は8月22日の関係閣僚会議で、福島第一発電所の敷地内に貯蔵されている
“処理水”を、24日から海洋放出することを決定しました。

福島第一発電所の1~3号機内には溶け落ちた核燃料(デブリ)があります。こ
れを常時水で冷却する必要がありまる。その時デブリに触れた水は多種・多量の
放射性物質含む“汚染水”となります。

この“汚染水”をALPS(多核種除去設備)で大半の放射性物質を取り除いた後
の水が“処理水”としてタンクに貯蔵されています。

ALPSで放射施物質を除去してもトリチウムは除去できずに残ってしまうので、
海洋放出計画では、大量の海水で薄めて国の基準の40分の1(1リットルあたり
1500ベクレル)未満にしたうえで、タンクから地下トンネルを通じて沖合1キロ
の海底に放出することになっています。

福島第一発電所構内には1,046基の“処理水”の貯蔵タンクがあり、現在すでに
98%のタンクが埋まっていますので、早晩タンクは満杯になります。

こうした背景のもと、今回は8月に政府と東電が“処理水”を海洋放出することにし
た根拠は、IAEA(国際原子力機関)が現地での調査も行ったうえで7月4日に
公表された「包括報告書」で、そこには上記の計画で実行しても安全性に問題はな
いと書かれていました。

しかし、今回調査したラファエル・ロッシ氏は、多くの注文をつけています。それ
については次回以降で書きます。

政府の決定とIAEAの調査報告に基づき、東京電力(以下「東電」)は月24日
に、福島の原子力発電所構内のタンクに貯めてあった“処理水”の海洋放出を強行しま
した。

さて、これまでの経緯から今回の“処理水”海洋放出の問題点を検討してみましょう。
問題点の第一は、今回の放出は、政府と東電が自ら約束したことを、公然と破った
ことです。

すなわち、政府と東電は2015年に、福島県漁業協同組合連合と、「汚染水を浄化し
た処理水は、漁業者や国民の理解がないまま放出はしないよう要求しました。

両者の間で協議した結果、政府と東電は「関係者の理解なしにいかなる(“処理水”の
―筆者注)処分も行わない」ことを「約束」し、それは文書に記載されてとしてを交
わしました。

ところが政府は2021年4月、漁連側が反対する中で処理水を海洋抄出する方針を一方
的に決定してしまいました。

その後、西村康稔経済産業相を閣僚らは「約束を順守する」との発言を繰り返しまし
たが、同時に「理解の度合いを特定の指標で判断するのは難しい」と述べ、理解とい
う言葉の内容を曖昧にしてしまいました。

この時漁連側は海洋放出に反対との姿勢を鮮明にしていました。つまり、海洋放出に
「理解」を示していないのです。

政府の関係資料には「理解醸成」という言葉が増え、「丁寧に説明する」という行為
自体を重視し、政府は、今年1月に「今年春から夏ごろ」と示し、もう住民側の「理
解」の有無にかかわらず、スケジュールありきで進めてきました。

8月21日、岸田首相は「たとえ数十年にわたろうとも、全責任を持って対応するの
で、ぜひ理解を」と全国漁業協同組合連合会坂本雅信会長との会談で求めました。全
漁連は、海洋放出には「反対であることはいささかも変わらない」と、きっぱりと反
対の立場を表明しました。

さらに全漁連会長は、「処理水の安全性の理解についてはすすんだが、安心はできな
い。約束は果たされていない」と、約束は守られていないとも述べています(『東京
新聞』2023年8月22日)

ここでもう一つ重要なことは、坂本会長が「科学的な安全と社会的な安心は異なるもの
で、科学的に安全だからと言って風評被害がなくなるものでもない」と、風評被害への
強い懸念を示してことです。

岸田首相としては、海洋放出の問題を、IAEAからお墨付きをもらった「科学的な安
全性」の問題に限定していようとしたのですが、全漁連会長は、生活の問題として反論
しているのです。

言い換えると、岸田首相は地元の漁業者と彼らと密接に結びついている関係者の生活は
直接の関心事ではないことがはっきりしています(『東京新聞』「社説」(8月23日)。

岸田首相は関係閣僚会議でも「処理水の処分が完了するまで政府として責任をもって取り
組む」とも述べていますが、後に述べるように、現状では処理水の処分が完了する時期も
方法もまったく見通しがないのです。

ところで、海洋放出の「理解」に関して、実に奇妙な論理のすり替え、というかごまかし
が行われています。

政府と西村経産相は、海洋放水に関して「一定の理解が得られた」と述べ、東電の小早川
社長はその言葉を盾に「岸田首相や西村経産相が全面に立ち、一定の理解をいただいたと
いうことで放水に至った」と語っています。

もし、上に引用した全漁連会長の「処理水の安全性の理解についてはすすんだ」という言
葉をもって政府側がが「一定の理解」が得られたと主張するなら、都合の良い部分だけを
切り取って、強引に放出を正当化しようとする姿勢にほかなりません。

事実、全漁連会長は「安心はできない。約束は果たされていない」と述べており、この場
合の約束とは、「漁業者の理解なしには処理水を海洋放出しない」という約束で、漁業者
が反対しているのに、有無を言わせず海洋放出するのは「約束が果たされていない」こと
なのです。

問題の第二は、政府と東電の、海洋放出に対する責任感と誠実さの欠如です。首相岸田首
相は、海洋放出を最終的に閣僚会議で決定する直前の8月20日、初めて福島を訪れて漁
業関係者と会っています。

ジャーナリストの鈴木哲夫さんは「今ごろ現地に行く首相が、原発に対して思いを持って
いるとは思えない。やっている感を演出しているだけだ」と指摘しています。

鈴木氏はまた、
    既成事実をつくり、地元を追い込んでいく手法だ。最後に形だけ当事者に 話を聞
    く姿勢は、首相に原発に対する確固たる政策理念がない表れで、経済産業産省が描
    くシナリオに乗っかっているだけ
とも批判しています。

丁寧な説明をする、とそこだけは丁寧に繰り返すが、実際には丁寧な説明を尽くすことはせず、
結論ありきで強行する岸田首相の手法は一連のマイナンバー問題にも言えます。

政治ジャーナリストの泉宏さんは、『「聞く力」と言って聞いているフリをして聞き流し、勝
手に物事を決める。今年になってますますその傾向は顕著になっている』と、岸田首相の「聞く
ふり」的姿勢に手厳しい(『東京新聞』2023年8月22日)。

岸田首相が現地に赴いて、漁業者との真剣な話し合いをずっと避けてきたように、本来の当事
者である東電は、さらに姑息な動きをしています。

先に引用したように、東電は何か問題があれば、政府と経産省の陰に隠れて、「東電と政府とは
一体だ」と言い続けています。

そこには当事者としての責任感も誠実さも感じられません。東電社長の小早川氏は、2021年4月
に政府が海洋放出の方針を決定後、反対する漁業関係者に直接会って説明をしてきませんでした。

ようやく、海洋放出当日(8月24日)に始めて県漁連を訪れ「当社の決意と覚悟を伝えた」と
いう。

放出作業を説明する午前中に記者会見では、処理水対策の責任者である東電福島第一原発廃炉推進
カンパニーの松本純一氏が登壇し、漁業者の理解を問われると、「大きな問題だから、政府が前面
に立ってくださって対応していると考える」と、全て政府に丸投げなのです。
    
社長といい松本氏といい、東電のこの姿勢には、自分たちこそが当事者であり、責任があるという
意識が完全に欠落しています。

原発処理水の海洋放出にかんしては、今回扱わなかった問題が山積みですが、それらについては次
回以降、順次検討してゆきます。

今回は、政府と東電が約束を破ったことだけを確認しておきましょう。現地の漁業関係者は当然の
ことながら、筆者も含めて多くの国民は政府は公然と約束を破る、政府は信用できない、との印象
をもったのではないでしょうか。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

放射線被ばくの疫学的調査不要?―明らかになる政府・専門家の不可解な言動―

2019-02-24 10:29:15 | 原発・エネルギー問題
放射線被ばくの疫学的調査不要?―明らかになる政府・専門家の不可解な言動―

最近問題となっている、厚労省の統計偽装疑惑は、官僚が政府の意向を忖度して、あるいは政府関係者の誰か
から指示されて、統計数字の偽造や改ざんが行われた可能性が濃厚となってきました。

官僚による文書の改ざんは、森友問題でも明らかになったように、官僚が自分の出世や保身のために自ら進ん
で、あるいは“上”の方からの指示により行われました。

官僚による文書や統計の改ざんではありませんが、「専門家」と称する人たちが政府の命を受けて問題を検討
し、政府に進言する「~委員会」、最近流行りの「第三者委員会」、さらに特定の研究機関が幾つもあります。

政府は、こうした専門家の報告や進言を根拠として政策の正当化をします。しかし、「専門家」や「第三者」
から成る委員会や政府から調査を委託されている研究機関の報告や進言には、予め政府寄りの結論が決まって
いる場合がしばしばあります。

今回、『東京新聞』(2019年2月18日)は、国の研究機関・放射線医学研究所(放医研)の明石真言理事の
政府への進言に不可解な点があったことを明らかにした。

2011年3月11日、東日本大震災により発生した東京電力福島第一原発事故の1か月後の4月11日に、放医
研理事の明石氏が福山哲郎官房副長官(当時)に、「住民の疫学調査は不要」と進言していました。

疫学的調査とは、ある健康被害の程度や原因を知るために地域や集団を対象として行う統計的な調査のことで
す。原発事故の疫学的調査では一般的に、多発が心配される甲状腺がんの患者数や分布を調べ、放射線被爆の
影響を分析します。

原発事故による放射線被ばくの健康調査は人の命かかわる深刻な問題であるのに、十分な調査をしないで、い
きなり「調査は不要」と進言したことは重大です。

今回、問題が発覚したのは、『東京新聞』が2011年4月26日に明石氏ほかの関係者が福山氏と首相官邸で
面会し、住民の被ばく調査について説明した会合の議事概要を情報開示請求で得たからでした。

それによると、この会合には明石氏の他に、西本淳哉・経済産業省技術総括審議官、伊藤宗太郎・文科省災
害対策センター医療班長、塚原太郎・厚労省厚生科学課長(いずれも当時)も同席していた。つまり、関係
三省の代表が会合に参加していたのです。

経済産業省の幹部(西本氏?)が、「論点として疫学調査の必要性の有無があろうが・・・」と切り出すと、
明石氏が「住民の被爆線量は高くても100ミリシ-ベルトに至らず」したがって「(疫学調査は)科学的
に必要性が薄い」と述べていました。

ところが福山氏は、「(疫学調査は)大切なことなので進めて欲しい」と返したことが記録されています。

しかし内部文書には、国の他の主要機関が早々と「放射線被害は出ない」との判断が記されています。

国の公表資料や明石氏らの説明によれば、甲状腺の内部被ばくで100ミリシーベルトを、がんが増える
目安にしていた。国が11年3月下旬に行った測定では、そこに達する子どもがいなかったため、「被爆線
量は小さい」「健康調査を行うまでもない」と判断されてきたようだ。

しかし、ここで「国」(実施主体は放医研?)の測定は、対象地域が原発から遠い30キロ圏外で、しか
も、本来広範囲の住民を対象にすべき疫学調査であるにもかかわらず、実際に調査委したのは1800人
にすぎなかったことも明らかになりました。

こうなると、明石氏の「必要性が薄い」という根拠はほとんど正当性を失います。

明石氏は、「必要性が薄い」ということを政権の中枢の官房副長官に進言したことについて「私の意思で
伝えに行ったのではない」と言っています。では、いったい誰が官房副長官に伝えに行けと言ったのか、
との(『東京新聞』の)質問にたいして明石氏は名前を挙げませんでした。

このことが、明石氏の行動と発言の背景をはからずも語っています。容易に想像できるのは、それが原発
を維持・推進しようとしてきた経産省なのか官邸なのか、東京電力なのか、そして具体的な個人名までは
分かりませんが、そこには原発事故の影響をできるだけ小さく見せようとする何らかの「力」が働いてい
た、ということです。

さらに驚くことがあります。明石氏の進言に先立つ2011年4月上旬には、経産省が国会答弁用の資料
で「放射線量が増加し始めた頃には避難完了」と記しているのです。

また、経済産業省中心の「匿名班・原子力被災者生活支援チーム」は、「今般の原子力災害における避
難住民の線量評価について」というタイトルの文書で、避難者の甲状腺内部被ばくを調査せずに、原発
正門近く近くに居続けても「線量は1・1ミリシーベルト程度」と説明し、この間に避難すれば「線量
は相当程度小さい」「健康上問題無いとの評価を提供可能ではないか」とまとめています(『東京新聞』
2019年。2月11日)。

放医研は同年5月上旬には「住民は障害の発生する線量を受けていないと推定される」と記した文書を
作成していました。

同じころ、放医研(明石氏?)は文科省の副大臣だった鈴木寛氏への説明で、「住民への放射線影響は
科学的には問題とならない程度」と説明していました。

つまり、明石氏の進言の前後、事故対応の中心だった経産省、医療対策を担う文科省、厚労省の間で、
放射線被害について「結論ありき」が蔓延していたようだ(『東京新聞』2019年2月18日)。

ところで、明石氏が100ミリシーベルト以下だから疫学調査は必要ない、としていますが、これも大
いに問題です。

日本政府は2001年に発生した茨城県東海村の原子力発電の臨界事故の翌々年、原子力安全委員会で
は防災体制の見直しを進めていました。

当時、アメリカ、ドイツ、ロシアでは、かんが増える被ばく量を50ミリシーベルトとしていました。
このころ委員会のメンバーだった鈴木元氏は「がんは50ミリシ-ベルトでも増える」と考え、この
値になりそうな場合は甲状腺がんを防ぐために安定ヨウ素剤を服用するという手順を提案しようとし
ていました。

鈴木氏の提言は、年末に事務局が示した提言書に「50ミリシ-ベルト」が盛り込まれました。

ところが二週間後の上部会合の被ばく医療分科会で突然、服用基準から50ミリシーベルトが削除さ
れ、100ミリシーベルトにかさ上げされていたのです。

鈴木氏はこれに反発しましたが、そのまま2002年4月にまとめられた提言では100シーベルト
とされてしまいました。

ちなみに、国際放射線防護委員会(ICRP)の平常時の限度は「年間1ミリシーベルト」となって
います。日本の法律では、職業的に放射線を扱う人の年間被ばく量の限度を50ミリシーベルト、5
年間で100ミリシーベルト、一般人は年間1シーベルトと上限が定められています。

これらの数値を考えると、放射線被ばくが健康被害(とくに甲状腺がん)を防ぐためにヨウソ剤の服
用を含む何らかの防護措置をとる100ミリシーベルトに引き上げたということが、いかに住民の健
康を無視した措置であるかがわかります。

原安委の別の会合の議事録を見ると、ヨウ素剤検討会に名を連ねた前川和彦東大名誉教授が一連の経
過に触れ、「行政的な圧力に寄り倒された」と述べたことが記されています。
これが、実態なのです。

しかし、放射線被ばくの危険性を小さく見せようとした組織や人物は、さらに広範囲におよんでいた
ことが、今年2月24日の『東京新聞』で明らかになりました。

事故直後の2011年3月28日当初、福島県立医科大学理事長(菊池臣一)は「健康調査は県医大
の歴史的使命。狙いは小児甲状腺がんの追跡調査なお。県民からの怒りの前に体制を整える」と、被
災者本位の発言をしていました。

ところが副学長の安倍正文氏は4月19日に「広範かつ長期被ばくの影響に関する調査や研究を行い、
診療や治療に結びつける。理事長の言葉を借りれば、これは本学の歴史的使命」と発言しました。

一見、両者の見解は同じようですが、「甲状腺がん」と「長期被ばく」とは決定的に異なります。

甲状腺がんを引き起こす放射性ヨウ素は内部被ばくをもたらすが、その半減期は8日と短いため、
事故直後の迅速な調査が必要です。これに対して長期被ばくは、半減期が長い放射性セシウムが土
壌や森林などに残ってもたらす外部被ばくを指します。つまり、県医大は、住民がもっとも恐れて
いた小児甲状腺がんの調査は行わない方方針にスタンスを変えたのです。

すでに述べたように、経済産業省中心の「匿名班・原子力被災者生活支援チーム」が「線量は相当
低い」、また、放医研の明石氏が「住民への放射線影響は科学的には問題とならない程度」「科学
的に必要性は薄い」と説明していました。

このような状況の下で、公益財団法人「放射線影響研究所(放影研)」の大久保利晃理事長は、大
学、研究機関から成る「放射線影響研究機関協議会」の会合(4月27日)の席上、「現在のレベ
ルで健康影響がないことはその通りだが、影響がないからこそしっかりとした研究すべきだ」と述
べています。

この言葉は、住民の立場に立った発言に聞こえますが、そうではありません。放影研の主席研究員
の児玉和紀氏は、健康調査を行うことで、「この程度の被ばく線量では甲状腺がんが増えない結論
が導かれる可能性がある」「調査の目的は他にもあり、(補償などの)訴訟で必要となる『健康影
響について科学的根拠』を得ることも含む」と発言しています。

つまり、住民の健康被害の実態調査というより、調査が裁判対策としても位置付けられています。

2016年末に「ふくしま国際医療科学センター」が発足し、現在でも調査・分析を続けています。
現在すでに発症している小児の甲状腺がんが発症にたいして外部の専門家が、被ばくによる甲状腺
がんの多発を疑うべきだと指摘していますが、同センターの会合では被ばくと発症の因果関係を認
めていません。

以上、福島の原発事故への対応から、原発事故の危険性をできるだけ小さく見せ、原発を維持・推
進しようとしている大きな「力」が働いていたことがはっきり分かります。

私たちの命にかかわる問題については、官僚や専門家は、あくまでも住民の立場から真摯に対応し
て欲しいと思います。

---------------------------------------------------------------------------------------
2週間ほど前には関東地方では木にうっすらと雪が着きました。            しかし、その2週間後には、春の野草野蒜(のびる)が成長し
                                         春の味覚を味わうことができました
 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

送電線「空き容量ゼロ」は本当か?―再エネ開発へブレーキ―

2018-02-18 06:21:45 | 原発・エネルギー問題
送電線「空き容量ゼロ」は本当か?―再エネ開発へブレーキ―


世界のエネルギー事情は、ここ10数ほど、大きく転換しつつあります。

それを一言で言えば、原子力、化石燃料(石油、石炭、天然ガス、バイオマスなど)から、風力、太陽光、地熱などの、
再生可能エネルギー(略して「再エネ」)への転換です。

原子力発電の問題については、このブログでも最近、2回にわたって検討しました。

そこでは、原発の電力は「安くない」、福島の原発事故にみられるように日本という地震国で原発は危険すぎる、原発
の過程で生み出されるプルトニウムは核兵器の材料となる、また、日本でも再生エネの発電能力は、原発に匹敵するま
でに発展していること、などが検討されました。

これにたいして現在の政府(経済産業省)と電力会社の方針は、まず原発の電気を最優先することで、再生エネはでき
る限り抑制しようというものです。

現在、多くの新電力と呼ばれる、再生エネを発電し販売している会社がありますが、これらの会社は作った電力を、送
電線をもっている既存の大手電力会社(東京電力や九州でんりょくなど)の送電線に接続料(託送料)を契約者に送り、
その分の売り上げ金を大手電力会社から受け取システムになっています。

大手電力会社は、自分たちの電力を優先するために、再生エネの送電線への接続を、できる限り抑制、できたら拒否し
ようとしてきました。

その理由は、送電線はすでに満杯で、他の電気を送電する「空き」がない「満杯」だ、というものです。

さらに、これを理由に送電線の高額な増強費用を求められる事例が全国で発生しています。

この増強費用は、新興の再生可能エネ事業者には負担が重く、事業を断念する例もでています。

ところが、京都大学の安田陽特任教授(電力工学)が、大手電力各社の基幹送電線(送電線の中でも特に太く、高圧で
大量の電力を送れる電線)、計399路線について、1年間に送電線に流せる電気の最大量にたいして、実際に流れた
量を「利用率」として分析しました。

今回は、『東京新聞』(2018年1月31日 朝刊)一面の「送電網 空きあり」という記事を紹介しつつ、日本のエネ
ルギー問題を考えてみたいと思います。

まず驚くのは、安田氏が分析した結果(2016年9月~17年8月)です。下に示したグラフから明らかなように、実際
には「満杯」どころか、全国の平均で利用率は、たったの2割弱の19・4%にすぎなかた、というのです。

電力会社の中で最も利用率が高かったのは、東京電力で、27%、もっとも低かったのは東北電力で12%でした。

                
              
              『東京新聞』2018年1月31日 より転載

グラフの見方を説明すると、左側の赤い棒線は、その会社の基幹送電線のうち、何パーセントについて「空きない」と
公表してきたのか、と言う割合を示し、右の青い棒線は、実際の「使用率」です。

東北電力でみると、全体の34路線のうち約68%は「満杯で空きがありません」としてきたのに、実際は12%しか
利用していなかったことが分ります。

電力会社の言い分は、「契約している発電設備の分は稼動していなくても空けておく必要がある」というものです。

さらに、上記の新聞記事は、「空きゼロ」が多い背景には「運転停止中の原発向けまで、送電線を空けている事情も大
きいとみられる。また、各社は全ての発電設備が最大出力した場合、という極めてまれなケースを想定している」とコ
メントしています。

さらに安田氏は、「送電線の利用実態に合わせるとともに、欧米で一般化している天候などの応じ送電線を柔軟に運用
する手法を使えばもっと再生エネを受け入れられるはず」、と指摘しています。

上記の同日の新聞の別の記事で、再エネを手掛ける洸陽電気(本社・神戸市)の社長は、「五六〇億円の負担を求めら
れた」と打ち明けています。

別のバイオマス発電を計画していた東日本のある会社が、大手電力会社に相談したところ、送電線の増強費用額を提示
されたうえ、増強工事には20年かかる、と説明され、このビジネスは不可能だ、と感じたという。

こうして、大手電力会社は、あの手この手で、再エネの参入を拒もうとしているのです。

しかし、世の中の趨勢は、着実に再エネの方向に向かっています。

日本の年間の発電量に占める再生エネ(水力を除く)の割合は7・8%(2016年)にとどまり、ドイツの25%(15年)
や英国の24%などを大きく下回る。

欧州の業界団体ソーラーパワー・ヨーロッパによると、16年の世界の太陽光発電設備の新規導入量は7660万キロワット。
前年比で5割増となり過去最高を更新しました。

これは、1年前の16年予測(中間シナリオ)の6200万キロワットを大きく上回っています。

業界の想定以上にパネルや建設価格が低下し、再び拡大期に入ってきています。

このけん引役は16年の新規の6割強を占めた中国と米国です。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、太陽光の運転終了までトータルでみた発電コストは、16年の平均
で1キロワット時あたり10セント(約11.1円)を割り込んでいます。17年には再生エネの中で最も安い陸上風力並みにま
で下がるという。

コストの面で言えば、たとえば太陽光発電のコスト、世界平均で2010年から7年間に73%も低下し、風力発電のコスト
も23%下がっています。

このため、最新の2017年には太陽光発電は10セント(10円)、陸上風力発電に至っては8セントから6セント(6円)
にまで下がっています(『東京新聞』2018年2月13日)

再生エネに批判的な見解として、太陽光や風力発電は、発電時間や天候により発電が不安定だ、という指摘があります。

また、実際に余剰電力の扱いや新たな送電網に設置という問題もあります。

しかし、蓄電池の性能向上やIT(情報技術)を活用した需給予測で再生エネの使い勝手も向上しています。

欧米の電力大手は人工知能(AI)などの研究にも予算を投じ、かつて遠い夢と思われたスマートグリッド(次世代送電
網、最適電力配分を制御する)も実現に近づいてきています。

実は、これからの課題は、いかにして、変動の大きな再生エネをAIをつかって調整し、スマートグリッドを可能にするか、
にかかっています(注1)。

この点で、いまだに原発にこだわって、再生エネの発展を拒んでいる日本の大手電力会社や政府の実情は、日本のエネル
ギー問題で、世界から取り残されかねません。

(注1)『日本経済新聞 電子版』(2017/5/31 16:36)
 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ31HDK_R30C17A5000000/?n_cid=NMAIL002


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脱原発に吹く風(2)―原発と再生エネの本当の実力―

2018-01-21 12:28:09 | 原発・エネルギー問題
脱原発に吹く風(2)―原発と再生エネの本当の実力―

2012年5月5日は、それまで日本で唯一稼動していた北海道電力泊原発三号機が定期点検のため運転
を停止しました。これで、日本は再び原発電源ゼロとなったのです。

この時からそこから部分的な再稼動を伴いつつ、現在では、原発の電気は、総電力供給の1~2%で、
再生可能エネルギー(風力、太陽光、バイオマスなど、「再エネ」と略す)は4.7%より低くなって
います。

つまり、過去7年、日本は事実上、原発なしで過ごしているのです。

原発を擁護する人たちは、この点に目をつぶって、日本の経済を維持するためには原発は必要だと主張
しますが、7年間も原発なしでも経済が行き詰まったとか、破綻したという事実はありません。

これこそ、原発擁護者の主張の最も弱いところで、理論的にも実態的にも破綻しています。

しかも、政府は、再生エネルギーへの開発に抑制的です。政府の送配電業務指針によれば、電力供給が
過剰になった場合の抑制順序は、①火力および揚水、②バイオマス、③自然変動電源(太陽光・風力)、
④長期固定電源(原子力・水力・地熱)となっていて、あくまでも原発を守り、原発エネルギーは抑制
しない仕組になっています。

たとえば、2014年9月、九州電力は再生エネルギーの受け入れを停止しました。しかも、この停止
は川内原発の再稼動の目途がたった直後のことで、何とも露骨な、原発優先措置でした。

これに続いて、北海道、東北、四国、沖縄の各電力会社も同様の措置をとりました。

受け入れ拒否の表向きの理由は、送電能力が一杯だから、というものですが、実態は、電力会社の送電
能力には十分すぎるほどの余裕があることも明らかになっています。

一方、再エネの発電能力(容量)は、2016年10月末時点で、4148万キロワットに上り、原発の容
量約4200万キロワットに匹敵するところまできているのです。これは何と原発の40基分に相当す
るのです。(注1)(熊本 2017:134)

つまり、もう原発はなくても能力的にには全く問題ないのです。

政府・経産省は、あくまでも原発を維持しようとする理屈として、「原発の電気は安い」と主張します。

2015年に経産省は発電単価を試算していますが、それによると、原子力10.1円/キロワット時、石炭・
火力12.3円/同、LNG(液化天然ガス)13.7円/同、となっています。

しかし、この試算結果は、条件を意図的に操作した、一種のフィクションであることは、これまで多く
の専門家によって証明されています。

たとえば、この問題を一貫して研究してきた熊本氏が、厳密に条件(稼働率、設備利用率、燃料費、リ
スク管理費など)を実情に合わせて計算すると、原子力は10.94円、石炭9.36円、LNG7.
04円だとの結果でした(熊本 2017: 126-131)。

原発の電気は石炭(および石油)やLNGのそれに比べて決して安くはないのです。むしろ「原発の電
気は高い」は日本だけでなく、世界の趨勢なのです。

現在のところ、再生エネの単価は、20円~28円と割高ですが、これも技術革新によって原発、石炭
・石油、LNGとならぶかそれよりも安くなる可能性があります。

もし、官民一体となって再生エネの技術開発に乗り出せば、間違いなく、以下にEUの例にみらるよう
に、再エネの価格は今の半分以下にはなると思います。

再エネに否定的な人は、太陽光や風力は、気象状況によって発電能力が変化するので、安定的なエネル
ギー供給源になり得ない、と主張します。

確かに、その面はありますが、現在、蓄電池の技術開発は急速に発展しており、さらに、調整電源とし
て、コジェネレーション(火力と電力にも熱としても利用する)やガスコンバインド(ガスタービンと
蒸気タービンを組み合わせ、効率化した火力発電)、バイオマス、地熱などとを組み合わせることで、
解決が可能です(熊本 2017:116-17)

ここで、ヨーロッパにおける脱原発事情を見てみましょう。

ヨーロッパにおいては、原発は再生エネの増加に対抗できず苦境に立たされています。

ヨーロッパの再生エネは風力発電が中心ですが、その平均価格は8.8円で、取引価格が6円という低
価格も現れています。

欧州の業界団体ソーラーパワー・ヨーロッパによると、2016年の世界の太陽光発電設備の新規導入量は
7660万キロワットで、前年比で5割増となり過去最高を更新しました。

これは、1年前の16年予測(中間シナリオ)の6200万キロワットを大きく上回っています。

その牽引となっているのは、新規の6割強を占めた中国と米国での太陽光発電です。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、太陽光の運転終了までトータルでみた発電コス
トは、16年の平均で1キロワット時あたり10セント(約11.1円)を割り込んでおり、17年には再生エネ
の中で最も安い陸上風力並みにまで下がるという(注2)。

イギリスでは、政府が原発の電気に対して補助金を出すに至っていますが、裏を返せば、補助金なしに
は原発は再生エネルギーとの競争では勝てないことを物語っています。

世界でみると、脱原発の事情は確実に進行しています。ドイツ(22年までに停止)、スイス(国民投
票で脱原発)、台湾(25年までに)、ベトナム(白紙)。韓国(建設計画白紙)、ベルギー(2025年
までに)、といったところです。

安倍政権は、あくまでも総供給量の24%ほどをベースロード電源として原発を維持する方針を変えて
いません。これには、たんにエネルギー源としてだけでなく核兵器保有の潜在能力を保持したいという、
隠れた思惑があることは、前回、書いた通りです。

ところで、政府や原発擁護者の中には、原発は火力発電とは異なり、温暖化の原因、炭酸ガスを出さな
いクリー・エネルギーである、というまことしやかな主張があります。

しかし、現在の火力発電は炭酸ガスの回収能力は非常に高くなっており、これからもさらに技術開発は
進んで行くと思います。

それより、原発には環境問題として重大な問題があります。

原発で発生したエネルギーのうち電気に代わるのは30%強ですから、7割弱は、冷却のために使われ
た温水が海に放出されます。

冷却水とはいえ、海水温との差は7度くらい高いので、原発を稼働している間は周辺の海水温度を上げ
てしまい、海の環境を変えてしまいます。

以前、原発銀座と言われる敦賀近辺の海中の様子を写したドキュメンタリー番組に見たことがあります
が、そこでは、以前にはいなかった暖水海域に住む魚が泳いでいました。

原発は必ず、冷却のために温水を排出しますので、これが続けば長期的には海水の温度を確実に上昇さ
せ、そして地球の温暖化をもたらします。

最後に、日本の原発に関して三つ指摘しておきます。

一つは、脱原発と経済の問題です。今、世界は脱原発、再生エネの技術開発に国の命運をかけて努力し
ています。

原発を維持しようとしている安倍政権は、これに消極的ですが、これは世界の再エネ・ビジネスから遅
れ、再エネ後進国として大きな経済的機会を失うことになります。もう、

次に、東京電力は福島の原発事故にかかわる損害賠償を自らの資金で行うことができず、事実上、破綻
しています。そこで、実態としては税金と銀行からの借り入れで、なんとか事業を続けています。

事故が起こった2011年の3月末には、三井住友、みずほ、三菱東京UFJなどおメガバンクを含む
八銀行が、経産省の要請を受けて、総額2兆円もの巨額融資を東電に無担保で行っています。

もし、東電が破綻すれば、これまでも融資してきたメガバンクは大損害を被るし、87万人ともいわれ
る個人株主や3600社の法人株主も大混乱に陥ります(吉原 毅『原発ゼロで日本経済は再生する』
(角川ONEテーマ21、2014:29)。

金融界はこの事態を恐れて、東電を破綻させない手を打ったということですが、本来なら、一旦会社を
整理して、原因の究明、責任の所在、財務内容などを明らかにして再出発すべきなのです。

最後に、福島事故あとの瓦礫のもたらす健康被害について、指摘しておきます。

政府は2012年に震災がれきの広域処理の方針を打ち出しました。原発からでる放射性廃棄物は100
ベクレ/Kg を基準に分類されますが、震災がれきを「放射性廃棄物」ではなく「放射性物質に汚染され
たおそれのある廃棄物」とし、8000ベクレル/Kg以下のもの、区分基準の80倍もの高い線量をもつも
のを一般の廃棄物として処理できることとしました。

しかし、8000ベクレルとは決して低い線量ではありません。これを、「広域処理」という名で全国に拡
散することは、長期的に健康被害をも拡散させることにもなります。大きな問題です。



(注1)熊本一規『電力改革の争点』緑風出版、2017:134-35
(注2)日本経済新聞 電子版 2017/5/31 16:36  http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ31HDK_R30C17A5000000/?n_cid=NMAIL002
    https://sustainablejapan.jp/2017/03/10/world-electricity-production/14138

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脱原発に吹く風(1)―原発の何が問題なのか―

2018-01-14 15:08:09 | 原発・エネルギー問題
脱原発に吹く風(1)―原発の何が問題なのか―


世界の先進国は、おおむね脱原発に舵を切っていますが、日本だけは逆に原発依存を深めようとしています。

そんな中、立憲民主党(立民党)は今年、2018年1月下旬に召集予定の通常国会に提出する方針で、「原発
ゼロ基本法案」を作成し、その骨子が1月2日に明らかになりました。

また、脱原発や自然エネルギーを推進する民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が1月10日、
国内原発の即時廃止を目指す「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」の骨子を発表しました。

「原自連」顧問の連小泉純一郎氏は、国会内で記者会見を開き、「安倍政権で原発ゼロを進めるのは難しい」、
と語り他の勢力を結集して脱原発を進める意欲を強調しました。

脱原発は、間違いなく、これからの日本の政治の中心課題の一つとなってゆくでしょう。

これらの法案の内容については、次回以降に紹介・検討しますが、その前に、脱原発の主張はどのような理
由によるのでしょうか? 原発の何が問題なのでしょうか?

これまでも脱原発の理由はいくつか挙げられてきましたが、代表的なものを以下に挙げておきます。なお、
これらの脱原発の主張を私も共有しています。

① 地震による原発の破壊事故の危険性
原発の危険性は3・11の福島第一原発事故で明らかになったにもかかわらず、その原因は未だに解明され
ることなく放置されています。政府と東電は、全ては津波によって非常電源が破損し、原発全体が破壊され
た、としています。

しかし、津波による破損や破壊が起こる以前に、地震そのものの振動で配管や機械的な破壊が起こったので
はないか、という点に関しては、東電は検証も議論も拒否してきています。

というのも、もし、地震で原発が破壊されたということになると、地震国・日本の原発は全て危険な状態に
あることになってしまうからです。こうした疑念を国民が抱くことだけは何としても避けたい、というのが
東電と現政権の姿勢です。

② 放射性廃棄物の処理の目途が立っていない。
放射性廃棄物、特に、高レベルの放射性廃棄物の最終処理については全く手つかずのまま、一時保貯蔵場所、
中間貯蔵場所などに置かれています。しかし、その量は増えることはあっても減ることはありませんし、貯蔵
場所のスペースも満杯に近づいています。

原発は「トイレのないマンション」になぞらえられますが、現状はまったくその通りです。ということは、行
き場のない危険な放射性物質(核のゴミ)が私たちの周囲に日々積み上げられてゆくことを意味します。

放射性物質の最終処理が行き詰まることを十分承知しておきながら、電力会社も政府も、根本的な解決をせず、
その場しのぎで先送りをしています。これは、あまりにも無責任です。

もっとも、何万年単位で放射能を出し続ける放射性物質を何万年も安全に貯蔵することなど、この狭く、地盤
が不安定な日本で可能かそうかさえ疑われます。

③ 事故が起こった場合の被害 
福島の事故で分かったように、一旦事故が起こると、途方もない被害を人や環境にもたらします。

現在、5万3000人以上の人たちが、故郷を離れて避難生活を送っています。これらの人たちに対する補償
も次第に先細りになったり打ち切られています。

これまでの経過で分かったことは、これほど悲惨な事故が起こっても、電力会社も政府も、最後まで責任を取
ろうとしない、という点です。

④ プルトニウムの蓄積と核兵器保有の誘惑
原発を稼働すれば、結果としてプルトニウムやウランが溜ってゆきますが、問題はプルニウムで、これは核兵
器の材料となる危険な物質です。

現在、日本は国内と海外にプルトニウムを47トン保有していますが、これは核兵器5800発以上を作るこ
とができる量です。

日本の政府や一部の核兵器推進派中には、日本は核兵器の潜在能力を保持すべきだ、あるいはさらに過激に、
潜在能力だけでなく実際に持つべきだ、という人もいます。

いずれにしても、プルトニウムの蓄積は、それだけで核兵器保有の誘惑を引き起こします。世界からは日本の
プルトニウムの保有量が異常に多いことに疑念が生じています。

私は、唯一の被爆国である日本が核兵器を保有することは、自己否定に等しく、世界から信用や尊敬を得るこ
とはできないでしょう。

それどころか、昨年の核兵器禁止条約の議論のさい、日本は会議に出席さえしませんでした。

核の脅威に対抗するために核兵器を保有することが有効だ、という発想そのものが現実的には根拠のない虚構
なのです。

核兵器は、たとえ圧倒的に強い国は弱小国に対してさえ、決して使うことができない兵器なのです。一旦、そ
れを使ったら、使われた側だけでなく使った側にも大変な恐怖を与えるからです。

なぜなら、自分が使った以上、他の国が自分たちに核兵器を使うことを想定しなければならないからです。

⑤ 原発の発電コストは他より(たとえば火力より)安いという虚構
原発の発電コストは、火力よりも1キロワット/時当たり1~2円ほど安い、という経産省の主張は、意図的に
作られた数字で、実態を隠していることは、すでに多くの専門家が指摘しています(注1)。

発電コストの詳細な計算をここで示すことはできないが、大雑把に言えば、経産省が根拠とした数字にはごま
かしがあったということです。

その代表的な例が、原発の稼働率で、経産省は原発のそれを少なくとも5%以上高い数字を、そして火力発電
の稼働率を5%以上低く見積もっています。

また、安全対策、廃炉費用、現地の住民対策に使われる「懐柔」のための費用などなど、直接の運転費用や、
廃炉費用などを考えると、トータルにみて原発の発電コストなど、到底いえません。

⑥ テロによる原発への攻撃の危険性
安倍政権は北朝鮮による核ミサイル攻撃の脅威を強調しますが、考えてみれば、もし、他国が日本を攻撃しよ
うとしたら、何も核搭載のミサイル攻撃などしなくても、テロによって原発を破壊すれば、そこには核物質が
多量にあるわけですから核爆弾など必要ありません。

原発が事故を起こしたときに拡散する核物質の人体や自然界への被害については、福島の事故で日本は経験済
みです。そんなに危険な原発を敢えて維持し、稼働させることにはどうみても合理性はありません。

以上は、原発がもつ一般的な問題ですが、福島の事故との関連でいえば、かなり深刻な健康被害の問題があり
ます。

第一、放射能で汚染された土地で、再び農業を行うことは非常に難しいし、どれほどの年月がかかるのか分か
りません。

たとえば震災がれきや汚染度土を広く日本各地に拡散しようとしていますが、これは放射性物質を拡散し、放
射能による健康被害の危険性を広めることになります。

次回は、原発のもつ危険性や経済的な非合理性にたいして、立民党や小泉氏らはどのような提案をしているの
かを検討します。


(注1)たとえば、熊本一規『脱原発の経済学』(緑風出版、2011)、同『電力改革と脱原発』(緑風出版、
2014)、同『電力改革の争点―原発保護か脱原発か』(緑風出版、2017)は、原発の問題を多角的に検討し、
脱原発の必要性とその可能性を現実的に論じています。


--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

冬は花の少ない季節ですが、花ではない 葉ぼたんが頑張って彩をそえています。                   気の早いチューリップが、寒空の中、春の到来を告げています

   



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

川内原発再稼働の問題点―大飯原発差し止め判決の理念から遠く離れて―

2014-08-06 04:30:04 | 原発・エネルギー問題
川内原発再稼働の問題点―大飯原発差し止め判決の理念から遠く離れて―

原子力規制委員会の田中俊一委員長は7月16日,九州電力川内原発(鹿児島県)がかねて申請していた再稼働について,
昨年7月に改定された原発の新規制基準を満たす,として申請を了承しました。

この結果を受けて安倍首相は「一歩前進ということだろう。科学的,技術的にしっかり審査し,安全だという結論が出れば再稼働を
進めたい」とコメントしました。

また,菅官房長官も記者会見で,規制委の基準を満たした原発は再稼働する考えを示しました。

しかし,今回の一連の動きを見ると,政府のなりふり構わぬ,もっと言えば姑息な政治手法を駆使した原発再稼働への強引な姿が
浮かび上がってきます。

私が,失望を感じたのは政府と原子力規制委員会(以下,規制委と略す),そしその背後には再稼働を望む九州電力の,
理性とか誠実さのかけらさえ見られない,経済利益優先の姿勢です。

川内原発の適合審査の問題に入る前に,福井地方裁判所が2014年5月21日に下した,「大飯原発3、4号機運転差止請求事件判決」の
「はじめに」の部分だけを引用しておきたいと思います。

福井地裁の判決は法廷という場での原発再稼働にたいする法律的な結論であり,規制委の審査は一応,”科学的” 根拠に基づく,
原発再稼働の適否を問題にしている,という違いはあります。

その点を考慮委したうえで私は,この判決に見られる,人権にたいする深い尊敬,誠実といった,最近の日本ではほとんどお目に
かかれない精神の高貴さを感じました。

少し引用が長くなりますが,非常に重要な部分なので,「はじめに」の一部を下に示しておきます。

はじめに
   ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、
   その被害の大きさ、程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。
   このことは、当然の社会的要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において、
   最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。
   個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権である
   ということができる。
   人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、
   また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことは
   できない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害の
   おそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。
   人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、
   その差止めの要請が強く働く
   のは理の当然である。

この判決文に示されているのは,原発がもたらす「人格権」の侵害のおそれがある時には,「人格権そのもの」に基づいて
侵害行為(ここでは原発再稼働)の差し止めを請求できる,という,まっとうな考えです。

ここで「人格権」とは具体的には「生命,身体,精神及び生活に関する利益」から成っています。

私はこの判決文を読みながら,崇高な理想を謳った,格調高い日本国憲法の「前文」を思い出しました。

さてひるがえって,今回の川内原発の再稼働の審査について考えてみると,そこには「人格権」に対する尊厳は完全に欠落し,
経済権益をいかに確保するかという配慮だけが目立ちます。

今回の川内原発の審査に関しては,最初から再稼働に向けての手が打たれていて,規制委の審査はいわば形式的な手続きで
あった,といえます。

まず,原子力規制委員会が川内原発の審査中に,今年初めから原発推進派の自民党議員から審査を早く終わらせるよう
求める発言が相次いでいました。

今年の2月には茂木敏充経済産業省が,「規制委会が審査の見通しを示すことは事業者に有益だ」と述べ間接的に早期の
審査を促しました。

というのも,昨年7月の新基準の導入以来,原発の再稼働は1件も認められていないからです。

産業界からの再稼働への要請はかなり強くなっていました。

規制委は「時間軸ありきで述べることは難しい」と,一旦は拒否しましたが,翌日の規制委では優先的に審査する原発を選び,
モデルケースを示すことで審査を加速する方針を決めました。

この際,モデルケースとして選ばれたのが川内原発でした。川内原発は他の原発に比べて敷地の標高が高く,活断層も確認
されていません。

このため,小規模な工事で対応できる,とお見込みから先行することになったのです。(『東京新聞』2014年7月17日)

自民党政権は,民主党政権の時代に「2030年代原発ゼロ」方針を「根拠がない」と,根拠を示すことなく切り捨て,
2014年4月に閣議決定したエネルギー基本計画では,原発は将来的にも「重要なベースロード電源」(簡単に言えば基本的
な電源)と位置付けました。

政府の再稼働の推進方針にとって,一つ厄介だったのは,規制委の委員長代理だった島崎邦彦東大名誉教授が,再稼働に
慎重だったことです。

島崎氏は日本地震学会の会長,元日本地震予知連絡会議の会長を務めた経歴をもつ,地震に関する専門家です。

この立場から,大飯原発に関して活断層の存在の可能性を指摘し,再稼働の審査合格を出しませんでした。

自民党内には,島崎氏の解任を求める声が強まっていました。島崎氏の任期は今年の5月で切れることになっており,
そのまま留任も十分あり得たのですが,政府は島崎氏の再任を認めず,野党の反対を押し切って4月には強引に再稼働
容認派の田中俊一氏を委員長に任命しました。

田中氏は原子力工学の専門家で,「原子力ムラ」の関係者と目され,規制委の委員の要件として禁じられている,
原発関連企業から寄付や報酬を得ていた人物です。これでは規制委の信頼性が保てません。

こうした人事面での原発再稼働の推進体制を準備すると同時に,本来は原発企業との癒着を防ぐために設けられた
規制委の独立性を逆手にとって安倍首相は,「規制委の審査に通ったものは安全」という詭弁で原発再稼働を正当化
するようになります。

そして,民主党政権時代に,原発をゼロにするために設けられた規制基準が,原発を動かすための基準にすり替えられて
しまったのです。

安倍首相は,新基準は「世界で最も厳しい」と繰り返してきましたが,その根拠は何もありません。田中委員長も,
審査終了後の16日の定例記者会で,川内原発の安全性は,「ほぼ最高レベルに近いと思っています」と述べています。

しかし,新基準も「世界でもっとも厳しい」とは程遠く,今回の審査結果は穴だらけで「適合」どころか問題山積みなのです。

まず,原発に関する基準に関していえば,日本のように,国全体が地震の巣のよう地理的条件にあり,どこで大地震や
津波が来ても不思議ではない国と,地震がないか,あるいは国内に地震が発生する場所があっても国土が広く地震の無い
場所が得られる国とは当然,審査基準は異なるべきです。

他方,国際的には「深層防護」が常識になっています。これは,地震・津波対策や非常用電源を充実させて事故の
確率を下げる,事故が起きたら作業員の被ばくを抑えながら事故の拡大を防ぎ,それでも大量の放射能の放出が避け
られない場合には,周辺住民を安全に避難させる,というものです。

つまり,「住民の避難」までが審査対象なのです。

今回,田中委員長は,住民の避難の問題は規制委の審査対象外であり,それは電力会社,それぞれの地域社会や施設
の病院や福祉施設などの施設が決めることである,と責任を丸投げしています。

しかし,たとえばアメリカでは避難計画がしっかりしていなかったために,新設の原発が稼働しないまま廃炉になった
例さえあります。

次に,川内原発は周囲を火山で囲まれていますが,火山爆発に関しては,「爆発の予知」で対応できるとしています。

しかし,火山学者は,現在の予知技術は火山の爆発を予知できる段階ではない,としています。

特に問題なのは,審査報告書(案)では「噴火の可能性がある場合は原子炉停止や核燃料搬出を実施する方針を
示した」と書かれています
(東京新聞』2014年7月17日)。

しかし,実際には原子炉を止めて運び出すまでに2年以上かかる上,搬出方法や受け入れ先の確保も具体的に検討され
ていません(『東京新聞』2014年7月25日)

もう一つ,今回の審査には非常に重要な点が抜け落ちています。それは,新基準には,現在世界標準になりつつある,
メルトダウン(炉心溶融)に対する,より根本的な改善がまったく問題にされていないことです
(『東京新聞』2014年7月14日)。

福島の第一原発では溶けた核燃料が圧力容器,格納容器を突き破り,どこまで潜っているのか分かりません。
しかも,放射線量が多すぎて近づけず,調査することさえできません。

メルトダウンは原発事故が起こす最も深刻な状態で,現在のヨーロッパでは,格納容器を二重にし,万が一溶け
出しても,それを冷却装置に導く樋のような溝(コア・キャッチャー)を備えていることが標準です(注1)。

すでにメルトダウンを経験している日本で,これにたいする対策が審査対象になっていないのは,審査がいかに
不完全であるかを示しています。

おそらく,もしメルトダウン対策を審査対象に含めると,日本の原発は全て不意合格になってしまうこと恐れて,
意図的にはずしたとも考えられます(注2)。

結論的に田中委員長は,「基準への適合は審査したが,安全だと私は言わない」と発言しています。

つまり,規制委は新基準に照らして審査しただけだとして,再稼働にゴーサインを出したわけではない,と再稼働
への責任問題から逃げています。

最後に,誰が原発再稼働の決断をするのか,という問いに対して田中氏は「事業者(九州州電力)と地域住民,
政府という関係者が決めるもの。私たちは関与していない」と答えています。

他方,政府は,規制委が適合の判断を下したのだから,再稼働させる,とここでも再稼働の根拠と責任を規制委に
丸投げしています。

こうした無責任な丸投げ体制によって,今回の原発再稼働が事実上既成事実化しようとそているのです。

これは安倍政権の常套手段ですが,とても危険でずるいやり方です。

もっとも,今回の審査は全体像をしめした,「原子炉設置変更許可」だけで,これを基に「工事計画」と運転・
事故時の人員態勢をまとめた「保安規定」の修正はこれからです。

それでも政府は,川内原発の再稼働をモデルとして,他の原発も次々と再稼働させてゆく一方,原発の輸出も
並行して推し進めようとしています。

原発輸出のためにも,国内の原発は稼働させなければならないのです。これは危険をさらに世界に広める危険な行為です。

ただし,

(注1)http://ameblo.jp/boumu/entry-11678204006.html
    ブログのこのページには構造が図解されています。
(注2)審査書案はこの部分関して「格納容器の破損を防ぐために,複数の冷却系統を設けるほか,消防車配備などの自主的な対策が実施されることを確認した」
    と書いていますが,それは破損した後の対策で,破損しないための対策が重要なのですが,この点は逃げています。








  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脱原発の可能性―熊本一規『脱原発の経済学』(緑風出版 2011年11月)を手掛かりとして―

2014-05-10 23:20:01 | 原発・エネルギー問題
脱原発の可能性―熊本一規『脱原発の経済学』(緑風出版 2011年11月)を手掛かりとして―

2011年3月11日の福島第一原子力発電所の爆発事故以来、脱原発に関する著作はこれまでも多数出版されてきたし、
シンポジウム、講演、マスメディアなどで議論されてきました。

原発は,一旦事故が発生してしまうと、途方もない人的、物的被害を社会に与えることが明らかとなり、多くの人の関心
を呼んだものも当然です。

具体的には,原発という発電システムがもつ技術的な問題とその危険性、地震国日本において原発はあまりに危険が大き
すぎること、使用済み核燃料の処理方法も施設もないまま、原発を稼働させるのは危険を将来の世代に押し付けてしまう
ことの不当性、海洋への汚染水の放出による環境破壊、電気料金の設定方法の問題、などなど、さまざまな問題が取り上
げられ議論されてきました。

最近では、原子炉を冷やすために海水を取水する際にさまざまなプランクトンや魚介類の稚魚などをも同時に取り込んで
しまい、死滅させてしまう問題(これは漁業資源の枯渇にもつながる)、さらには冷却水として使われたて海に放出され
た温水が近辺の海水温を上昇させ、海の生態系の変化させてしまうことも注目され始めています。

これらの問題にたいして専門家だけでなく、評論家も含めて幅広い人たちがそれぞれの立場から脱原発、反原発を訴えて
きました。

これら一つ一つは大切な問題であることは間違いありません。他方,原発による発電は経済行為でもあるわけですから、
それが本当に他の発電方法より安いのか(効率的)どうかを、厳密に経済学的な観点から検討することも必要です。とこ
ろが,私が知る限りそのような研究はあまりありません。

著者の議論はあくまでも客観的な数字と根拠に基づいており、情緒的な反原発、脱原発論とは一線を画しています。

本書には取り上げたいトピックはたくさんありますが、ここでは幾つかの重要な問題に絞って考えてみたいと思います。

まず、原発そのものの問題に入る前に、現在の日本における電気事情について基本的な点を確認しておきます。というの
も、電気事業に関しては少なからず誤解もあるからです。

もっとも広く流布している誤解が、総括原価主義(方式)に関するものです。総括原価主義とは、電気を供給するのに必
要な発電から販売に至るすべての費用に事業報酬(現在3~3.2%を掛けた金額)を加えた総括原価と電気料金収入が見合う
必要があるというものです。

それは、「電気の使用の利益の保護」と「電気事業の健全な発展」を目指したものです。

これはそれなりの歴史と合理性をもっていて,外国でも採用されています。日本では現在、ガス料金、水道料金、鉄道料
金、バス運賃などの、公共料金と呼ばれる料金が総括方式で算定されています。

しかし総括原価主義は、反原発側から「原発をつくればつくるほど事業報酬が大きくなって電力会社が儲かるしくみがつ
くられている」と30年にもわたる批判の対象となっています。

著者によれば、もし、巨額の建設費用を必要とする原発を、すべて内部留保で賄えば問題ないが、借入や社債で賄うと、
電力料金収入が入るように
なるまで金利や配当を長期間支払うので、反原発側の批判は必ずしも正しいとは言えないということになります。

そでれも問題はあります。地域独占であり本来広告は必要ないにもかかわらず、電力会社業界は広告費に毎年総計2000億
円ほど使っており、これは企業別の総計でトヨタ自動車を超えて一位になっています。広告費は発電費用として電気料金
に上乗せされますが、著者はこれに疑問を呈しています。

また、電力会社は多額の研究費を学者に渡してきた結果、多くの学者が御用学者となるばかりか、原子力学会全体が御用
学会化し、原子力関連業界、政界・官界を含めて,いわゆる「原子力村」と呼ばれる利益共同体を作り上げてきました。
こうした研究費も発電費用として計上され、電気料金に上乗せされます。これも、大いに問題です。

以上を念頭において、本書を手掛かりに以下の2点だけ検討しようと思います。一つは、「原発の電気が一番安い」とする
経産省や電力会社の主張は正しいか、という問題二つは、再生可能エネルギーの可能性と限界という問題です。

まず、「原発の電気が一番安い」という根拠は、1980年頃から資源エネルギー庁により発表されてきている電源別発電原
価のモデル試算です。

1984年に発表された資産モデでは、1kwh当たり発電原価は、一般水力(20.65円)、石油火力(17.26円)、石炭火力(13.90円)、
LNG火力(17.08円)、原子力(13.32円)でした。

ところが、著者は、これらの数字には原発の電気が最も安くなるように意図的に操作されたカラクリがあるといいます。

そのカラクリとは、「同一の設備利用率(63%)」であるなら、という現実とはかけ離れた前提です。しかし実際には、火力
は既に技術的に完成されており、定期点検(12か月中2か月)の減少だけで、稼働率は83%、これに対して原発は直近5か年
平均で63%にすぎません。

石炭火力の発電原価に対抗するには、原子力は最低でも設備利用率74%を確保しなければなりません。したがって、現状では
「原理力の電気が一番安い」とは言えないのです。

さらに1985年には、経産省も電力会社も,今度は算定方式を変更してまでも「原発の電気が一番安い」という主張を維持し
ます(注1)

しかし、放射性廃棄物の最終処分の方法も場所もまだ決まっていないのです。これについは、今後どれほどの金額がかかる
のか、まったく計算に入っていません。

まして、事故が起こった場合の人命、健康被害、環境汚染に対する補償や復旧に関しては未知数です。

いずれにせよ、世界の動きは、確実に脱原発に向かっているのに、日本はますます原発の推進に走っている姿は異様で,時代
遅れです。

原発を火力で置き換えることは可能であるし、コストの面でもむしろ有利です。実際、3・11以降今日まで、原発はほぼ止
まっているのに、火力発電が稼働しているため電力不足は発生していません。

火力発電のネックは唯一、二酸化炭素の排出に伴う温暖化の問題です。しかし著者は、二酸化炭素原因説にも疑問を呈してい
ます。

1940年代後半から1970年までの戦後の復興期には、間違いなく二酸化炭素排出量が次第に増大していたにも関わらず、気温は
下がっていたのです。

実は、2009年に米国の著名な気候学者のメールがハッキングされ、他の気象学者に贈られた「世界の平均気温のデータにトリ
ックを施し、気温の下降傾向を隠すことに成功した」というメールの文章がネット上で暴露されてしまいました。

これは当時,世界的なスキャンダルになったのですが,彼らは,データを改ざんしてまで,温暖化に関して二酸化炭素原因説
を根拠づけようとしたのでした。

最近注目を集めている発電の一つは、コジェネレーション(熱電併給)です。従来、発電は規模が大きくなればなるほど効率
が高まるという「規模の利益」が働く経済であるとの前提で、大規模発電が重視されてきました。

しかし、大規模発電の場合、発電効率(投入されたエネルギーにたいする発生した電力量のエネルギーの割合)は、火力で40%、
原子力で33%程度です。

残り60%や67%のエネルギーは、冷却水によって、温排水として海に捨てられています。

これにたいしてコジェネレーションの場合、発電効率は大規模発電と同じ40%程度ですが、大規模発電が捨てている熱のうち三分
の二、燃料エネルギーの40%を熱利用でいます。

したがって、合計80%という高い発電効率で発電でき、従ってコストも安くなります。

このほか、「ガスコンバインドサイクル」を使った大規模発電で、これはガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた、効率的
な発電が可能となっています。

これらはLPGを使った発電ですが、石炭も同様に使えます。(注2)

それでは、再生可能エネルギーの可能性について著者の熊本氏はどのようにかんがえているでしょうか。

著者は、「脱原発を再生可能エネルギーで実現する」という見解がありますが、原発推進派から「再生可能エネルギーはコスト
高で実用化にはまだ時間がかかる」との反論にあって行き詰まってしまう、と指摘しています。

著者の結論は、脱原発と再生可能エネルギーの普及とは全く別物で、脱原発を主張するのに再生可能エネルギーを持ち出す必要
は全くないという。

なぜなら、上に述べた新しい火力発電の方法で十分だからです。

しかし著者は、化石燃料や天然ガスも有限の資源なので、再生可能エネルギーの開発・普及は必要であると考えています。

ただ、日本の場合、太陽光と風力は出力が天気任せであてにできないうえ不安定である、周波数や電圧が乱れる、という短所があ
るという。

発電コストをみると、太陽光は1kwh当たり49円、風力は10~14円ですが低周波音問題があり、全国的に建設反対運動が起
きています。

ただし、これから技術革新により設備の低価格化が進めばこれら自然エネルギーも採算ベースに乗る可能性がないわけではないが、
著者は近い将来の可能性に関しては悲観的です。

日本の風土を考えると、さまざまなバイオエネルギー(注3),地熱発電,小水力発電(水車発電)には可能性がある、と指摘し
ています。特に小水力発電に関しては、小規模ながら実現しており、山がちで雨が多く渓流や小河川が多い日本の風土には適して
います。

著者は、従来のように大規模な発電だけではなく、小規模で地産地消を目指したエネルギーも含めた多様な電力エネルギーの利用
を推進すべきである、と指摘しています。

最後に、発電だけでなく、省エネルギーの努力も大切ですが、ここにも問題があるといいます。たとえば車の代わりに自転車利用
を推進することも重要ですが、ヨーロッパで見られるような自転車専用レーンの設定などの方策を全くとっていません。

これは自動車産業の衰退をもたらすことを恐れているからだという。

一方、太陽光発電による電気の固定価格買い取り制度は、日本には太陽光パネルのメーカーが多いので、「産業振興」のために他
の再生可能エネルギーの開発推進より優先されているのです。

結論として,それぞれの地域で利用できる電気とエネルギー資源の利用を地域住民が主体となって,自らの手で行うことだ、とい
う著者の主張に私も大賛成です。


(注1)これについての詳細は著書のp.89-90を参照されたい。
(注2)これいついては、本ブログ、2014年4月25日 「原発はなくても大丈夫」で詳しく説明しています。
(注3)たとえば、木質チップを使った火力発電で、すでに岡山県真庭市で実現しているし、
外国では家畜の屎尿からもエネルギーを得ています。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

原発はなくても大丈夫―それでも原発推進に驀進する安倍首相―

2014-03-25 05:11:50 | 原発・エネルギー問題
原発はなくても大丈夫―それでも原発推進に驀進する安倍首相―

安倍信三首相は、今月24,25日に、オランダのハーグで開催される第三回核安全保障サミットで、原発の再稼働を前提に、
使用済み核燃料から取り出した核物質プルトニウムを再利用する「核燃料サイクル」の推進を表明することが明らかになり
ました。

いうまでもなく、原発を稼働させると、その副産物としてプルトニウムが生成されます。このプルトニウムは核兵器の原料
となるので、使用目的がはっきりしないまま大量に保有していると、テロや核拡散を招くとして国際社会から疑念を持たれ
ます。

日本はすでに、長崎に投下された原爆の5000発以上に相当する44トンものプルトニウムを保有しているのです。

原発の再稼働どころか、可能ならば新設さえもくろむ安倍首相としては、核サミットで「利用目的のないプルトニウムはつ
くらず保有しない」との方針を表明せざるを得ないのです。

このような重大な問題を、国会の場で議論することもなく、与党内の同意もなく、さらに閣議決定さえされていないまま、
首相の独断で国際社会に向かって表明してしまうことになるのです。(『東京新聞』2014年3月20日朝刊)

こうなると、立法の最高機関である国会の意義は無視され、議会制民主主義も有名無実化してしまいます。

こうした手続き的な問題とは別に、「核燃料サイクル」の推進には大きな問題があります。

第一に、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムとウランを取り出すことです。日本の9電力会社が中心となって設立した
「日本原燃株式会社」は1993年、青森県の六ヶ所村に再処理工場の建設を始め、20回もの延期を繰り返しつつ、2014年12
月の完成を目指しています。

これも可能かどうかは分かりません。

しかも、これまで完成した部分の試験でもトラブル続きで、果たして最終的に完成するかどうかさえ不明です。

六ヶ所村の再処理工場の建設が始まった1993年、建設費用は7600億円と見込まれていましたが、3年後 1996年には1兆8800
億円、99年には2兆1400億円、2003年、なんと11兆円にまで跳ね上がりました。

工場の稼働には、当然のことですが、運転するためにさまざまな費用が掛かりますが、電気事業連合(9電力会社が運営主体)
の試算によれば、総費用は19兆円という天文学的額に達すると見積もられています。(注1)

第二に、現在、フランスンやイギリスなど海外に再処理を委託し、返還された核燃料と、再処理の過程で発生した低濃度および
高濃度放射性廃棄物を、六ヶ所村の再処理工場内に保管していますが、これも、中間保存であり、最終的に、どこにどのように
処理するのかは、まったく見込みさえたっていません。

第三に、取り出したプルトニウムを再利用するはずだった高速増殖原型炉「もんじゅ」は、トラブル続きで、ほとんど稼働して
いません。

世界的にも、高速増殖炉は実現が無理であるとの結論に達しており、日本を除いて稼働しようとしている国はありません。

それでも2014年度の国家予算では、「もんじゅ」関連予算は199億円が計上されています。

第四に、再処理工場は、その過程で膨大な放射性廃棄物を生み出してしまいます。(試算によってさまざまですが、数十倍から
二百数十倍まであります)。

この意味では、原発自体が「トイレのないマンション」といわれるように、その放射性廃棄物の最終処理方法は決まっていません。

第五に、再処理工場を操業すると、大気中にも海洋にも放射能が放出されます。

再処理といっても、多くの問題を抱え、さらに膨大な費用がかかります。その経済的負担は、すべて電気料金として私たち消費者
に押し付けられるのです。

以上のような問題を抱えながらも、政府と電力会社は、原発を稼働させるために、いかに非現実的であろうとも、国際社会に向か
っては、あたかも「核燃料サイクル」が可能であるかのごとく表明し、かつ莫大なお金を投じざるを得ないのです。それが形式的
には不可欠だからです。

政府は、原発の使用期限を40年と一旦は定めましたが、その後、運転延長の申請がされ、安全基準を満たせば、さらに20年、
計60年間も運転を可能にする方針に変えてしまいました。

現在、日本にある原子炉は54基ですが、うち15基はすでに30年の運転期間を超えています。もし、延長の申請が出されなけ
れば、これらは10年以内に廃炉となります。(注2)

原発の建設費は、従来は1基あたり約1000億円ほどでしたが、最近は急速に上昇し、新潟県の柏崎刈羽原発6号機などは,
4000億円を超えています。

これだけの投資をした原発であるから、既に元はとっているのに電力会社は1日でも長く稼働させようとし、政府がそれをサポート
しているのが現状です。

ところで、政府は2014年2月に策定した「エネルギー基本計画」では、原発を「ベースロード電源」(安定供給できる電源)と位置
付け、何が何でも原発を推進しようとしています。これには、「安くて」「安定供給」ができる原発の稼働を望む財界の要請を反映
しています。

ここで、原発の電力が安いかどうかを議論するつもりはありませんが、結論からいえば決して安くはありません。

現在、政府や電力会社が提示している電力単価は、直接の費用だけを算定しており、放射性廃棄物処理費用、廃炉費用、原発立地の
住民への種々の配布金
などを加えると、少なくとも公表されている単価より、ずっと高くつくはずです。

ところで、政府が電源として無視しようとしていることがあります。一つは、風力、太陽熱、地熱など、再生可能な自然エネルギー
の開発です。
もう一つは、最新の火力発電システムと節電効果の過小評価です。

考えてみると、東日本大震災以後、日本の原発は定期検査にはいり、順次停止し、2013年9月以降、原発ゼロの状態が続いています。

それでも、電力供給不足により大規模な停電や電力使用制限などは起きていません。これは、火力発電の増加、企業や家庭の節電によ
って埋め合わせてきたのです。

たとえば東京電力管内の電力消費をみると、震災前の2010年の2934億kw時から、2012年には2690億kwへ、8.3%も減少しま
した。これは、節電効果です。

他方、全国の火力発電による発電量は、2010年の5532kwから2012年には7359kwへ、1827kwへ、33%も急増したのです。

この増加の一因は、震災後の増設や老朽火力発電のコンバインド化です。原発1基が、平均で約100万kwですから、原発18基分に
相当します。

最新火力発電の能力の大きさと効率の高さが分かります。

最新の火力発電は、コンバインドサイクル方式と呼ばれるもので、これはガスタービンと蒸気タービンとを組み合わせた高効率の発電
システムです。

上記の増加分のうち震災後だけでも470万kw、つまり原発3基分新設されています。将来、既存の火力発電所を順次コンバインド
方式に置き換えてゆくと、現実には原発は要らなくなります。

コンバインド方式では液化天然ガス(LPG)のほか、石炭も使用されます。これまでは石炭をそのまま燃して発生させた蒸気でター
ビンを回して発電していましたが、新方式では石炭を一旦ガス化した後、タービンを回して発電したあと、さらに排熱で蒸気を発生さ
せて発電します。

こうすることで、従来のガスを電力に変える効率を40%から60%へ、つまり1・5倍に高めたのです。しかも、CO2も従来より
30%削減できます。

もちろん、LPGも石炭も化石燃料であり、有限であり、少なくなったとはいえCO2を排出します。したがって、コンバインド方式
の火力発電は、風力、太陽光、バイオマスなど再生可能エネルギーが普及するまでの、つなぎであり、場合によっては補助的な発電
システムと考えられます。(『東京新聞』2014年2月13日朝刊)。

ところで、2010年から2013年までの真夏の電力需要のピークをみると、供給力に対する需要の割合は、瞬間的な最大値でも92~94
%で、危険とされる97%を下回っていました。火力発電の効率化、太陽光はネルの普及などを考えると、実際には原発は必要なくな
ります。(『東京新聞』2014年3月15日朝刊)

世界の趨勢として、原発は廃止の方向に向かっているのに、それではなぜ、安倍首相は、しゃにむに原発を推進しようとしているので
しょうか?

そこには、原発に絡む大きな利権が関係しているのです。

第一に、安倍政権は、原発輸出を成長戦略の重要な分野と位置づけています。現在、ベトナム、トルコ、ヨルダン、リトアニア、インド、
インドネシアと交渉中です。

このためにも、日本での原発の稼働は必要です。とりわけ日立と東芝は原発ビジネスに深く関わっています(注3)。

福島原発事故の原因さえ解明されていない、危険な原発を輸出すること自体、利益のためならなんでもする、という倫理観の破綻です。


第二に、もし、原発が不要となると、既存の原発そのもの、核燃料、使用済み核燃料も含めてすべて電力会社の財産価値をもっていま
すが、廃炉となると、その資産価値がゼロとなってしまいます。

1基1000億円も投資した原発と核燃料がゼロになるという事態は、電力会社にとっては、大損失で、なんとしても避けたいところ
でしょう。

それは株価や、廃炉が始まると直ちに発生する廃炉費用がのしかかります。銀行にとっては貸したお金の担保が瞬間に消失してしまいます。

しかし、実際には、現存する原発はすでに十分に投資分を回収しているので、これからは1日でも稼働させれば、それだけ利潤を生む
状態にはなっています。

第三に、もし効率的な火力発電に移行すると、原発を廃炉にするだけでなく、新たに火力発電所を建設しなければなりません。

以上のような、さまざまな利権や利害得失が背景となって、安倍首相は、しゃにむに原発推進に驀進しているのです。


(注1)原子力資料情報室 http://www.cnic.jp/knowledgeidx/rokkasho (2014年3月2 0日閲覧)
(注2)http://japanese.ruvr.ru/2012/01/18/64061497/
(注3)これついては、このブログ、2012年11月6日の「原発輸出の危険な罠」で詳しく書いています。

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
【いぬゐ郷だより4】

3月23日、ジャガイモの植え付けと、ネギとニンニクの移植をしました。


ジャガイモは、メイクインと男爵の2種類です。


 ネギとニンニクの移植。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

太陽光発電と売電ビジネスへの疑問-エコとエコノミー?-

2013-09-27 06:42:20 | 原発・エネルギー問題
太陽光発電と売電ビジネスへの疑問-エコとエコノミー?-


1997年12月に締結された「京都議定書」(正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組み条約」)において,地球温暖化を防止するために,
その大きな要因となっている二酸化炭素排出量を各国それぞれの目標値まで減らすことを義務づけられました。

日本を例にみると,主な第一次エネルギー源として水力,原子力,石油・石炭な,天然ガスなどの化石燃料が電気を作るために利用されます。
これらのうち石油と(液化)天然ガスは車などの燃料としても利用されます。問題は,石油,石炭,天然ガスは燃料として利用される限り,
燃焼によって二酸化炭素と環境を汚染する窒素酸化物や硫黄酸化物を排出します。

以上の事情から,「京都議定書」のころには,二酸化炭素も汚染物質も排出しない原子力エネルギーは,温暖化防止の鍵になるクリーン・エネ
ルギーとして期待されていたのです。同時に,世界的な潮流として,太陽光や風力などの再生可能エネルギーも,本当の意味でクリーン・エネ
ルギーとして,その開発が期待されていました。

しかし,日本におけるエネルギーをめぐる社会的環境は「京都議定書」の時と現在では大きく事情が変わりました。2011年3月11日の震災に
続く福島第一原子力発電所の事故以来,原子力発電に対する社会の目は厳しくなる一方,再生可能エネルギーに対する世間の関心がにわかに高
まりました。

これは日本ばかりでなく,世界的な潮流でもあります。

ところが,安倍首相は現在でも「安定した電力供給は成長戦略にとって原子力発電は必要」という姿勢をはっきりと打ち出しています。

さらに安倍首相は,原発を輸出しようと自らセールスに回っており,また国内の原発も何とか再稼働させようとしています。これは主に,産業
界からの強い要請があるためだと思われます。

また,一部には原発を稼働することによって精製されるプルトニウムを保有し,核兵器製造の潜在力を保持しようとする政治家もいます。

さらに,アメリカの原発メーカーも日本企業と組んで原発輸出を望んでいるので,アメリカからの圧力もあります。(これについては既にこの
ブログの2012年11月6日の「原発輸出の危険な罠」で詳しく書いています。)

政府は原発利用を推進する一方,個人や法人が再生エネルルギーの活用を検討した結果,2012年7月から「再生可能エネルギー特別措置法」が
法制化され,電力会社が民間で作られた電力(取りあえずは太陽光発電電力)を固定価格で買取ることが可能となりました。

この制度の施行は,民間の個人や法人の間で,電力事業への参入(具体的には売電)にたいする大きな関心を呼びました。

その背景には,たとえば東京電力管内についていえば,3・11の東日本大震災の際に停電が起こり多くの人が不自由さを味わったという経験が
あります。

いざと言う時に,せめて家の明かりくらいは確保したい,という思いが広く行きわたったことも,太陽光発電と売電への動きを刺激した一つの要因
でしょう。

さらに,個人でも電気を作り売ることができるという,エコ(環境に優しい)とエコノミー(利益を得ることができる)の一石二鳥が広い関心を
呼んでいます。

この買取制度の手続きとしては,まず売電しようとする個人または人が電力会社に申請し許可を受け,同時に経済産業省に設備設置の許可をとる
必要があります。現在は,太陽光発電の設備設置にたいして,都道府県はそれぞれの補助制度をもっています。

この際,二通りの契約があります。一つ目は,できた電力をまず自分で使って,余った電力を売る「余剰電力買取制度」で,これは個人が自宅の
屋根などに太陽光圧電パネルを設置して発電する場合が大部分です。

この背契約では10年間は申請許可を受けた時の固定価格で買い取ってもらえます。

二つ目は,発電した個人ないしは法人は,自分たちでは発電した電力を使わず,全て電力会社に売る「全量電力買取制度」で,実際にはほとんどが
法人です。

この契約でも,発電を開始した時点ではなく,申請が許可された時の固定買取価格で20年間買い取ってもらえます。たとえば,1kWh当たりの買取
価格が42円の時に許可を得た企業は,発電の開始時期と関係なく莫大な潜在的利益が20年間保証されているのです。

それでは,幾らくらいで買い取ってもらえるのでしょうか。2012年には,1kWhあたり42円と非常に高かったのですが,その後2013年7月には
37.88円に引き下げられています。

これらの買取価格と,私たちが電力会社から買う電気料金と比較してみましょう。電気料金は契約のタイプ(総アンペア,夜間電力使用かどうか,
個人か法人か)によって異なりますが,たとえば東京電力から標準的な家庭で電気を使うときの電気料は1kWh当たり25円前後です。

両者を比較すれば分かるように,日本の買取価格は世界的にみても非常に高い買取価格です。では,誰が一体,こんな高い買取価格を設定したので
しょうか?

もちろん,形式的には経済産業省・政府ということになるのですが,その根拠は分かりません。(注1)

固定価格買取制度の大義名分は,クリンーンで再生可能なエネルギー利用の推進です。まず,太陽光発電は二酸化炭素を出さないクリーンエネルギー
で環境に悪影響を与えません。さらにそれは,太陽エネルギーですから化石燃料のように使用すればそれだけ資源が減少することもない,再生可能
エネルギーです。

これらの点では良いことづくめでケチの付けようがないように見えますが,固定価格買取制度には問題もあります。

単純に考えてみましょう。

電力会社は,現在でも37.8円で買って各家庭には25円前後で売ります。すると1kWh当たり13円弱のマイナスになります。

42円の時にきょうかを得た個人や法人が打った場合,その差額は17円にもなります。それでは電力会社が負担しているのでしょうか?

実は,電力会社は1円も負担していないのです。この差額は電気を使っている全ての消費者の電気料金に上乗せされているのです。

現在の電気料金の算定は「総括原価方式」を採用していますので,すべてのコストは合算され,それが電気料金に加算されます。電力会社が太陽光発電
の電気を購入した時には,当然,その購入代金もコストに加算されます。

家庭に送付される電気料金の請求書を見ると「再生エネ課賦金等」という欄がありますが,この名目で私たちはしっかりと,買取に支払われた金額を徴収
されています。

つまり,個人や法人が太陽光発電の売電によって得られる収入は全て,一般消費者の負担によって賄われているのです。

ここに目を付けたのが,いわゆる「売電ビジネス」です。現在では,太陽光発電の設備(主に発電パネル)に対する初期投資を売電によって償却し,メイン
テナンス・コストが計算出来れば,それ以後は,固定価格で長期間買い取ってもらえます。

したがって売電ビジネスは,電気を売れば売るほど確実に利益を得ることできる,とても有利なビジネスといえます。

問題は,何年くらいで初期投資を回収できるのか,です。現在,多くの売電を目的とする企業の試算では13年くらいを一応の目安としています。

しかも,この13年間も高い買取価格で電気を買い取ってもらえます。すると,法人の「全量買取契約」の場合,残りの7年は,メインテナンス費用を除
けば,ほぼまるまる儲けになる,というわけです。

20年という契約期間が切れても,すでに設備投資の償却は済んでいますから,多少,買取価格が下がっても,ずっと利益を生み続けることになります。

そこで,目先の利く企業家はいち早く,大容量の発電・売電の許可を取っておいて(つまり高い買取価格の権利を確保しておいて),太陽光パネルの価格
が下がるのを待っています。もちろん,資本力のある企業は,直ちに発電と売電を始めています。

現在では,すでに許可をとってある太陽光発電の売電企業が一般の人から投資資金を募集する動きがにわかに活況を呈してきました。インターネットで
「太陽発電 売電」という項目で検索すれば,このような投資企業がたくさん出てきます。

具体的な例を二つだけ紹介しておきましょう。一つ目は,このビジネスを行っている人から直性聞いた方式です。

れは,農地を利用した新たな発電ビジネスで,畑の上に面積の60%くらいを占める太陽光パネルで覆い,発電をするという方法です。

作物は,自然の太陽光の40%を取り込むことができれば作物の収量には影響ない,とのことです。

彼によれば,初期投資は12~13年くらいでは回収できるので,後の7~8年は確実に利益が得られるとのことです。ただ,この時に説明では,トータル
でどれくらいの利回りになるのかは聞けませんでした。

二つ目は,書類一式を私の自宅に送ってきたNという社会投資会社の場合です。この会社は既に北海道に広大な土地を取得し,そこにソーラー発電所を建設し,
2013年7月から発電を開始しています。

パンフレットの説明によれば,1kWh当たり42円で売っていると書かれていますから,この企業は買取制度が始まった2012年,直ちに許可を得ていたこと
がわかります。

出資は1口1万円で100口以上(つまり100万円以上)で10口単位となっています。現在,投資に対する利回りは,年率8.23%となっています。

ただし,利益目標として年8~15%と書かれています。

この会社の場合,発電事業の拡大だけでなく,地域の活性化のため次世代農業,観光事業,地域通貨などの事業をセットにした総合的な計画を持っているようです。

そこで,さらなる事業の拡大のために個人や企業へ投資を勧めています。

インターネットで投資を勧誘しているある企業の場合,投資額(発電量で表示してある)に応じて,初期投資とメインテナンス,保険を含めても年間7~9%,
8~10%,12~15%と非常に高い利回りを謳っています。

さて,太陽光発電を推進すること自体は何ら問題は無いどころか,当然進むべき方向だと思います。そのために,奨励策,刺激策として高い買取価格を設定する
ことも社会的なコストとしては,ある程度許されると思います。

それにしても,銀行や郵貯の金利が0.03%とか0.035%といった,超低金利の今日,8%以上の利回りがあるということは驚きです。もちろん,貯金と
投資とは全く性格が違います。それでも,上記のような利回りを確実に保証できるのは,この売電ビジネスがいかに儲かるということを意味しています。

そして,その利益というのは,まったく関係ない私たち一般の電力消費者の犠牲によって賄われているという点が,今ひとつ納得出来ません。現状では,大きな
資本を持っている企業や,他人や銀行から資金を集めることができる事業体だけが,この制度を利用して利益を得ることができるのが実態です。

個人の場合でも,ある程度まとまったお金があれば,売電企業への投資は有利かも知れません。しかし,たとえば台風や突風などでパネルが壊れてしまうリスク
も当然負うことになります。

それでは,再生可能なエネルギーはどのように推進してゆくのがよいでしょうか? 私は,電力に関しても地産地消を原則とすべきだと思います。個人の家庭で
作った電気をその家で使うのは,もっとも直接的な地産地消です。

また,個人で設備を設置するのが負担も大きく効率も悪ければ,市町村単位で発電設備を設け,コストもそこの住民が負担し,発電した電気も電力会社に買い取
ってもらうのではなく,コミュニティ内部で消費するというタイプの地産地消が理想だと思います。

現在は,再生可能なエネルギーといっても,太陽光だけでなく風力も地熱発電もありますが,私は小水力発電が多くの点で優れていると思います。これは,小さな
流れでも水車を回し,それで電気を起こす方法です。すでに,長野県の松川町のように小水力発電を稼働している町もあり,山梨県の都留市や奈良県の吉野町の
ように小水力発電による電力の地産地消に取り組んでいるでいる地方自治体もあります。

もちろん小水力発電は,まったくの平地ではできないので,現在は山地地域に限られています。しかし,山地でなくても,ちょっとして高低差がある場所で,ある
一定以上の水量があり,水車を回すだけの水勢をもった流れがあれば,この発電は可能です。

消費地と遙かに離れた場所で集中的に発電し,それを長い送電線で消費者に送るというのは,非常に不経済です。というのも,電線を使って送電すると,超高圧
送電でも10%くらいは送電ロスがあるからです。また,長い送電線のメインテナンスにも膨大な費用がかかります。

消費地から遠く離れた場所で集中的に発電し遠くまで送電するもっとも典型的な例は原発です。これは一見,経済的に見えますが,送電のコストとメインテナンス
を割り引いて考える必要があります。さらに,3・11の福島第一原子力発電所のように,一旦,事故が起これば取り返しのできない危険をもたらします。

命を支える食物と,生活を支えるエネルギーはできるだけ地産地消を目指すべきだと思います。

最後になりますが,もう一度,現在の固定価格買取制度はこれでいいのかな,という疑問はぬぐえません。


(注1)太陽光発電機器に関わる企業と,太陽光発電のビジネスを考えていたソフトバンクの孫社長の提言を政府がそのまま受け容れたという説もありますが,私は確認していません。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

汚染水問題(続)-日本が払わされる「倍返し」-

2013-09-16 09:38:36 | 原発・エネルギー問題
汚染水問題(続)-日本が払わされる「倍返し」-

安倍首相はオリンピック開催地のためのプレゼンテーションで,「汚染水問題はコントロールされている」「放射線物質の影響を
港湾内に留まっている」と断定的に述べました。

しかし,9月13日に福島県郡山市で開かれた民主党の福島第一原子力発電所対策本部の会合に出席した,東京電力の山下和彦
フェローは,安倍氏の発言を真っ向から否定する発言をしました。その時の主なやりとりは次のようなものでした。
(『毎日新聞』2013年9月9日)

増子輝彦副代表
  安倍晋三首相が「ちゃんとコントロールされていて全く問題ない」と説明したその通りなのか。東京電力,経済産業省,
原子力規制庁は答えて欲しい。
山下和彦東電フェロー
  コントロールする手当てはしている。ただ,想定を上回ることが起きていることは事実であり申し訳ない。
増子氏
  だから今の状態でコントロールされていないとはっきり言ってちょうだい。
山下氏
  申し訳ありません。今の状態はコントロールできていないとわれわれは考えます。
中西宏典資源エネルギー庁審議官
  まず事実に基づいて・・・・
増子氏
  いいから明快に答えなさい。
中西氏
  最大限の対策をやります。その意味でコントロールする意志をしっかりと・・・
増子氏
  コントロールされていないから今後コントローするってことでしょう。
中西氏
  その意味では,今後しっかりとしてコントロールができるようにやります。
小坂淳彦原子規制庁地域統括管理官
  コントロールは科学的合理的な判断とは別の次元であり,はっきり言えないが,タンクについて管理できるところが管理
  できていなかったということは言えます。

以上のやりとりを,改めて文字で読んで,どんな感想をおもちでしょうか? 東電の山下氏は「想定を上回ることが起きていて」
「コントロールできていない」と明快に述べています。

面白いのは,行政側の資源エネルギー庁審議官の中西氏の発言で,コントロールできていない,という実態を何とかして他の言葉
で逃げようとします。

いかにも役人らしい言葉で「最大限の対策をやります」と苦しい返答をします。

もちろん,コントロールできていれば「最大限の努力」は必要ないのですから,これは事実上,コントロールされていない,
と白状しているのです。

これが同じ役人でも,小坂氏になるとさらに必死で別の表現で逃げようとします。実際,小坂氏の発言を素直に読み返してみて,
何を言いたいのかよく分かりません。

ただはっきりしているのは,汚染水タンクから高濃度の放射能を含む汚染水が漏れていることは公表されているので,その点だけに
発言をもってゆこうとする意図がありありとうかがえます。

安倍首相の,オリンピック招致を勝ちとりたいために,実態もよく分からないまま「安全宣言」を国際舞台で出してしまったので,
上に書いた会合での発言は大きな波紋を投げかけました。

菅官房長官はその後の記者会見で「放射能物質の影響は発電所の港湾内にとどまっている」と述べ,さっそく事態の沈静化を
はかりました。

これは事実に反しますが,それについては後ほど述べるとして,興味深いのは東電側の山下氏の発言に対する弁解的な反応です。

東京電力は13日、山下和彦フェローの発言の真意について、「汚染水の影響は港湾内にとどまっており、外洋は検出限界値以下で
継続的な上昇も認められない」,というこれまでの主張を繰り返したうえで、「発言はそうした状況をふまえ、汚染水の港湾内への
流出や貯水タンクからの漏洩(ろうえい)などのトラブルが発生しているという認識について言及したもの」との見解を示しました。
(「産経ニュース」電子版,2013年9月13日23時45分)(注1)さらに別のところで,この点では安倍首相と同じ見解だ,
とも述べています。

ここには何とか安倍首相の言葉と矛盾しないように東電があわてて弁解している様子が手に取るように分かります。

菅官房長官の発言にせよ,後で弁解した東電の発言にせよ,問題は幾つもあります。まず,放射能の影響は港湾内に留まっている,
という発言です。

前回も書きましたが,港湾内の海水は毎日半分は外洋の海水と入れ替わっているのです。従って,港湾内にブロックされているわけ
ではありません。

現在は原子炉建屋とタービン建屋の地下を通過する地下水は高濃度の放射能に触れて汚染水となり,湾内に流れ込んでいます。

この際湾内に入る前に放射性物質がそのまま湾内に流出しないようにシールドで濾過はしています。

しかし,このシールドは完全に放射性物質を湾内に出ないようにブロックすることはできません。

こうして,発電所の湾内には放射性物質がどうしても流れ出るのですが,政府と東電の立場は,それが湾の外に出ていない,といものです。

安倍首相の発言も,東電の弁明も,港湾の外の海水からは放射能の値は基準値以下である,だから影響はない,と弁解しています。

しかしこれはとんでもない事実の隠蔽です。まず,湾の外の放射能の値が低いのは,汚染水が外洋の海水で薄められているからで,当然です。

東電の弁解には,もうひとつ見過ごすことのできない意図的なごまかしがあります。それは,山下フェローが「コントロールできていない
という認識」

といったのは,貯水タンクからの漏洩などのトラブルが発生しているという認識について言及したもの」というくだりです。

つまり,汚染水問題の本質は,海に放出される放射能物質の問題であり,現在は湾内に閉じ込められているからコントロールされているといえる。

そして貯水タンクからの汚染水の漏洩は,部分的な問題で,たいした問題ではないと言っているのです。

これも汚染水問題の深刻な側面を隠蔽した発言です。私はむしろ,この貯水タンクの漏洩こそが,これから深刻な問題を引き起こす元凶になる
と考えています。

現在,貯水タンクには,事故当初の極めて放射能濃度の高い物汚染水が入っているタンクがたくさんあります。そこから漏れている汚染水の
一部は地下水となって原子炉建屋とタービン建屋の地下を通り,その際,放射背物質に触れて汚染水となります。

他の一部は,最初に貯水タンクから漏洩が発覚した時に明らかになったように,汚染水は排水溝を通って建屋を迂回するルートで直接に海に
流れ込んでしまいます。この漏洩が海水を汚染していることについて,東電も政府も触れていません。

東電がタンクからの漏洩による地下水への影響を調べるために4号機の北側に新たに掘った2本目の井戸から8日に採取した水からは,

ストロンチウムなどのベータ線を出す放射性物質が1リットル当たり3200ベクレルという高い値が検出されたのです。

さて,以上に書いた,それぞれの立場からの発言を時間を追って要約すると,①安倍首相の「状況はコントロールされている」
「汚染水は湾内にブロックされている」と言う発言,②東電の山下フェローの「コントロールはされていない」という発言,③菅官房長官の
「放射線物質の影響は発電所の港湾内にとどまっている」という発言,④そして,東電の,山下フェローは貯水タンクからの汚染水漏洩のこと
をもってコントロールされていない,東電は政府の見解と同じ,とい経過をたどりました。

この一連の経過を見ると,政府は一貫して,汚染水問題はコントロールされているから問題ない,との立場をとっています。

おそらく,7年後のオリンピックまでには何とかなるだろう,という根拠のない発言です。

現実に汚染水と格闘している東電の立場はまさに,現実と政府とのはざまであたふたとしていています。

東電は,この汚染水の問題は簡単には解決出来ない,むしろ不可能に近いことを知っているのだろうと思います。

加えて,汚染水問題に関しては貯水タンクからの漏洩が実際に起こっているので,現段階で「コントロール」されていると言い切ってしまうと,
後で非難を浴びることは確実です。

この点は認めた上で,東電は,政府見解とも口裏を合わせなければならないので,汚染水は発電所湾内にブロックされているという点では,
政府と同じ見解であるという声明を出したのです。

東電としては,汚染水対策だけでなく,放射能汚染地域から避難した人たちにたいする補償,農漁村の被害に対する補償,除染費用(既に1兆円も
使われている)など,いつまで続き,どれほどの費用がかかるか分からない費用を国,つまり税金で負担して貰うためには,政府に逆らうことは
できません。

こうした配慮から,一方で汚染の事実は認めながらも,政府見解とも対立しないように発言者を分けて,発表しているのです。当事者は必死ですが,
外から見ていると,この東電の言動は,漫画的でさえあります。

政府は,オリンピック招致のプレゼンテーションの際に安倍首相が国際公約してしまった「コントロールされている」という発言内容を,
どんなに現実と矛盾していようと,これからもなんとか言い逃れる発言を繰り返すことでしょう。

政府は,国が前面に出て汚染水問題を解決する,と大見得を切ったのですが,それが470億円の対策費なのです。もちろんこれは国民の税金です。
しかし,この金額で解決できるとはとうてい思えません。

政府は,東電は私企業だからという建前を楯にして,事故対策費用は東電が払うべきであるとの立場をとり続けています。
しかし,今回の事故処理には数十兆円あるいはそれ以上の天文学的な金額が必要になるでしょう。それでも,お金をかければ解決する
という保証はありません。

もし汚染水問題が解決できなければ,安倍首相に対する信用は失墜し批判は強まるでしょう。まさに,半澤直樹の決め台詞,「倍返し」
を国民から受けることになります。

もう一つ,現在はあまり表面化していませんが,世界は日本の汚染水問題の危険性にかなり強い懸念をもっています。
海はつながっているので,将来,日本に対する賠償請求がこないとも限りません。その時は「倍返し」どころか「十倍返し」を受けることになります。

放射能レベルが検査値が基準値以下であっても,放射能物質は確実に公の海に流れ出て蓄積してゆくわけですから,海は確実に汚染を強めてゆきます。

震災後のストレスや体調悪化で亡くなる震災関連死と認定されたのは,福島県が突出して多く1497人,宮城県が872人,岩手県が413人です。

『東京新聞』(2013年9月11日)の集計によると,そのうち910人は「原発関連死」だった。この認定は非常に厳しいので,実際の「原発関連死」
の数はもっとずっと多いでしょう。20万人以上の人々が今も故郷を離れ厳しい避難生活をしています。

日本のマスメディアは,オリンピック招致の成功に浮かれて連日このニュースを垂れ流し,オリンピックの経済効果が150兆円に上る,とソロバンを
はじいている経済学者や評論家さえいます。そして,電力会社も政府も企業も原発の再稼働に向けて動き,さらに,原発の輸出で儲けようとさえしています。

自分に直接被害が及ばない限り関係ない,という姿勢です。こんな日本とは一体,どんな国なのかと首をかしげてしまいます。

「つながろう日本」も「きずな」も「お・も・て・な・し」も虚しく響きます。


(注1)http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130913/dst13091321480010-n1.htm

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

汚染水問題の真実-隠蔽と虚偽がもたらす危険性-

2013-09-11 05:58:59 | 原発・エネルギー問題
汚染水問題の真実-隠蔽と虚偽がもたらす危険性-

安倍政権はその成立当初から,震災復興が最優先課題の一つとして挙げていました。その中には当然,福島の原発事故にかかわる
放射性物質対策も含まれているはずです。

ところが,最近になってようやく政府はあわてて放射能汚染水問題を緊急の課題として取り上げるようになりました。このこと自体,
汚染水問題の危険性と安倍政権の無関心ぶりがはからずも暴露しています。

汚染水問題を考える場葵,二つの問題を分けて考える必要があります。

一つは,山側から絶えず原子炉建屋の地下に流れ込んでいる地下水の問題です。この地下水は放射性物質と触れて水放射能汚染水と
なりますが,それが海に流れ込むのをどう防ぐかという問題です。在,汚染水は一旦,地下水槽に貯めてポンプで汲み上げ,
地上のタンクに移されます。

もう一つは,汚染水を収容しているタンクの問題です。後に説明するように,このタンクから汚染水が漏れだし,それが海に流れ込んで
いることが発覚したのです。しかも,このタンクでさえ数が足りなくなり,新たなタンクを設置する場所そのものがなくなっています。

今年の9月3日,政府の原子力災害対策本部(本部長・安倍首相)は,これら二つの問題を,東電に任せるのではなく,国が前面に出て
解決に乗り出すことを宣言しました。

そのために,合計470億円を税金から支出することを決めました。

先日のテレビ番組のインタビューに,管義衛官房長官は,とにかく緊急課題であるから,今は責任の所在だとか,税金を支出することの
是非を論じている場合ではない,ただちに政府が行動しなければならない,と言っていました。これを聞いて驚き,非常に憤りを感じました。

よーく思い出してほしい。福島第一原子力発電所の地下貯水槽から汚染水が漏れていることが発覚したのは今年の4月のことで,この問題の
深刻さが顕在化しました。

そして経産省は4月下旬に対策委員会を設置したのです。したがって,汚染水問題の実態とその深刻さについての認識は4月にはあったのです。

問題が発覚して,これは大変なことになったと認識してから,すでに半年経っているのです。

それでは,問題の深刻さがわかっていながら,なぜ最初から国が前面に出ないで,最近になってあたふたと乗り出そうとしたのでしょうか? 

この一つの原因が,オリンピック開催地の決定が真近に迫っていたことです。政府内にも「五輪招致もある。いつまでも放置できない」
という危機感が高まっていたのです。

事実,9月4日にブエノスアイレス入りした日本オリンピック委員会委員長の武田氏の記者会見で6つ質問が出ましたが,うち4つは福島の
汚染水問題だったのです。

彼は,これまで放射能の影響は1人も出ていないし,絶対安全だと言っていましたが,何を根拠にこんなことが言えるのでしょうか?

しかも,東京は福島の原子力発電所から250キロも離れており,放射線量も低いから安全だ,とも言っています。

東京が安全ならそれで問題はない,という本音も漏らしてしまいました。言い換えると,福島の人たちは中央(東京)から見捨てられた「棄民」
となってしまったのです。

このような政府の姿勢にたいして福島の漁民と仮設住宅に住む住民は,「東京はオリンピックのお祭り騒ぎに沸いているが,汚染水で世界的に
注目される前に,国は威信をかけて早期に把握して手を打つべきだ」,また「当初から(国が)対応していれば,海外から心配されることも
なかったはず。口先だけにならないよう,すぐ実行してほしい」と怒っていましが,この怒りは当然です。

それでは,なぜ,政府はこの半年も前面にでなかったのでしょうか?はっきり言ってしまえば,安倍政権はこの問題にかかわりたくない関わり
たくなかったのだと思います。

安倍政権は発足当初から,「アベノミクス」を売り物にして今日まで,「異次元の金融緩和」を核とするデフレ脱出の経済政策を最優先に考えて
きました。

これに対して汚染水処理の問題はどう考えても暗い,ネガティブな問題で,抜本的な解決差が見つかっていません。つまり,国民に明るい希望
を与える性質の問題ではないのです。

そこで政府はこれまで,汚染水処理の問題は東電の責任とし,政府としてはできるだけかかわらない姿勢を取り続けてきたのです。

しかし,そのような責任回避を続けていることができない事情が幾つか出現したのです。

ひとつは,上に述べたオリンピック招致の問題です。次に,東電は8月19日には地上の貯水タンクから120リットルの汚染水が漏れだしている
ことを東電が認めましたが,21日になって,実はその2500倍の300トンの汚染水が漏れ出ていた,と修正したのです。

最初の発表は,東電による作為的なウソとしか言いようがありません。しかも,修正した数値を出したのは,国会が閉会となった翌日で,
この問題を国会で取り上げられないように発表の日時を選んだと思われます。

東電,経産省,政府が一体となって,深刻な漏えい発覚の発表を国会の閉会に合わせて非難を避けようとした構図が見えてきます。

地上の貯水タンクの問題については後にもう少し詳しく見るとして,現在,政府が税金を使って「根本的に解決する」方法として考えているのは二つです。

一つは,地下水が原子炉建屋の地下に流れ込むのを防ぐために,原子炉建屋の周りの土を冷却して凍土遮蔽壁を作り,地下水が建屋周辺に流れ込まない
ようにすることで,これに300億円の経費を見込んでいます。

しかし政府の計画でも,この凍土障壁の効果が出るまで1年から1年半はかかります。その間の汚染水はどうするのでしょうか?

 また,土の壁を凍土にするといっても,これは電気で凍らせるのでしょうが,24時間365日,一時も休まず,今後,半永久的に膨大な量の土を電気
で凍らせたままにしておくのでしょうか?

何しろ,地下水は永久に流れ込むのですから。この維持費は誰が負担するのでしょうか?この費用についても全く当てがないのです。
とても,現実的だとは思えません。

実は,地下水対策として凍土遮蔽壁を構築する案は,東電が早くも震災の年2011年の10月に検討した結果,「効果が見込みづらい」として設置を
見送った案です。

これは前例のない大工事であるばかりでなく,耐用年数も不明です。(『毎日新聞』2013年9月4日)すでに東電で検討済みで放棄した案を今頃,

政府が取り上げるというのは,他に有効な案がないからです。

もう一つの目玉は,汚染水から放射性物質を取り除く浄化装置(ALPS)の増設と改良で,現在170億円を予定しています。

現在,この装置は腐食のため停止しています。さらに,これを改良したとしてもトリチウムは除去できないことが分かっています。

以上みたように,政府が打ち出した「解決策」は,すでに2年前に放棄された凍土障壁と,除去能力に問題がある装置の増設と改良なのです。

現実問題として,汚染水の問題は,解決策がないのです。

現在は除去装置が稼働していないため,汚染水はただひたすらタンクに移して貯めておくしか方法がありません。しかし,このタンクが問題なのです。

上に書いたように,8月にはボルト締め式のタンクから,たった1基だけで300トンもの汚染水がもれていたことが分かったのです。

これ以後,別のタンクからも汚染水漏れが見つかっています。

このタイプは円筒形のタンクで,鉄鋼板でできたパーツとパーツをパッキンを挟んでボルトで締める方式です。

前回の汚染水漏れの原因が,ボルトが緩んでいたという初歩的な問題でした。現在,ボルト式のタンクは350基もあります。

現在,東電のタンク貯蓄量は合計で39万トンで,2016年までに80万トンまで増やす計画です。つまり,現在の倍のタンクを倍にすることです。

現在でもすでに敷地内の森を半分潰してタンク置き場にしていますが,これから先,どこに置くのでしょうか。

しかも,汚染水は原子炉建て屋周辺だけでも毎日400トンずつ増えてゆきます。タンクには1基1000トン入りますから,2日半で1基が
満杯になります。ということは,たとえ,あと41基新設しても,17日ほどで一杯になってしまうのです。これでは「いたちごっこ」です。

この新設のタンクの費用は政府の予算に計上されていませんので,東電が負担することになるのですが,現在の経営状態ではとうてい負担しきれません。

貯水タンクにはまだまだ問題があります。現在使用しているパッキンの耐用年数は5年だそうですから,350基のタンクはもうじき交換しなければ

なりません。

しかし,交換するにはタンクを解体しなければなりません。その場合,中の汚染水を海に捨てるわけにはゆきませんから,他のタンクに移す必要があります。
しかし,そんなタンクの余裕はありません。

タンク内の汚染水だけでなく,解体したタンクそのものも高濃度の放射能汚染物質ですから,これをどこに持ってゆくかの方針もありません。

タンクにかんしてもう一つの問題は,現在のボルト式のタンクは錆びやすい鋼鉄製で工期が短く安上がりなので,東電はこのタイプを採用したのです。

しかし,今回のタンクの汚染水漏れは,事故当初の海水冷却水が入っており,腐食が進んでいたために穴が開いてしまった可能性があります。

最近,他のタンクからも汚染水漏れが見つかっているので,350基のタンク全てで汚染水漏れが起こる可能性があります。

これからはボルト式ではなく,水漏れが起きにくい溶接式のタンクにし,材質も腐食がおこりにくいステンレス製にすべきなのですが,これには膨大な
費用がかかります。

しかも,上に書いたように,その場合でも,既存のタンクに貯められている汚染水と,解体されたタンクそのものの処置はまったく未定なのです。

政府と東電は,タンクがたちならぶ場所と原子炉建屋との間に井戸を掘り,地下水が原子炉建屋の下に届く前にくみあげてALPSで放射物質を除去して
海に捨てることを考えていました。

しかし,地元の漁民は,風評被害を恐れてこの計画には大反対で,実現はかなり厳しい状況にあります。

加えて,9月5日の調査で,井戸から汲み上げた地下水には,政府が海洋投棄を認めている放射線量の基準である,1リットル当たり30ベクレル,
の20倍に相当る650ベクレルにも達していたことが判明しました。

さらに深刻な事態として9月8日に,別のタンクの周辺の地下水からは何とストロンチウムの値が3200ベクレルというとんでもない放射能が検出されました。
(「朝日新聞デジタル版」,2013年9月9日」)。

これは,地下水の汚染が広範囲にひろがっていること,他のタンクからも実は高濃度の汚染水が漏れていることを示しています。これで,海洋への放出計画は
完全に破綻しました。

以上,具体的にみてきたように,国が前面に出るといっても,政府が考えている汚染水処理の計画はことごとく実現性がない,「絵に描いた餅」に過ぎないのです。

もし,政府が税金を使ってこの問題に取り組むなら,まず最初に東電を法的な破綻処理をした(倒産させ)上で,国が直接にこの問題の解決に当たる必要があります。

その時には,東電に4兆円を貸している銀行,社債を持っている会社や個人はほとんど戻ってきませんが,それをしないで,東電を存続させたままで,
必要な経費を電気料金の値上げと税金の投入で賄おうとするのは,決して国民の理解が得られません。

日本航空の場合には,実際,このような破綻処理をしたのです。しかし,東電の場合,もし倒産となれば銀行が受けるダメージは相当深刻です。
(「半澤直樹」のドラマに出てくるように,貸した相手が破綻すると,貸した金が戻ってこないだけでなく,銀行は巨額の倒産引当金を積みたてなければならない
のです)

おそらく政府は,銀行の救済も兼ねて破綻させないのでしょう。皮肉なことに,東電は借金があまりに巨額なので,かえって倒産を免れるという事態になっています。
 
安倍首相は7日夜(日本時間8日午前),ブエノスアイレスでTBS番組に出演し,国際オリンピック委員会総会で,汚染水漏れを解決できると説明したことについて,

「自身があるからそう言った」「あとはしっかりと(汚染水対策を)実行していきたい。今の段階でも,原発の港湾の0.3平方キロメートルの中に完全に汚染水は
ブロックしている」と強調しました。(注1)

安倍首相の発言にたいして東電側はとまどいを隠せません。9日の会見で東電の今泉典之原子力・立地本部長代理は,首相の発言主旨を経済産業庁に確認したことを
明らかにした。

また,1号機から4号機の取水口にはシルトフェンスという膜が張られているものの,港湾内の海水は毎日半分は入れ替わっているので,放射性物質の流出は完全には
止めれ等れないとも語った。

肝心の,「汚染水問題の状況はコントロールされている」という首相の発言に対する考えを聞かれて今泉氏は「一日も早く安定した状態にしたい」との言葉を繰り返す
だけでした。

つまり,まだとてもコントロールされた状態ではないので,一日も早く安定した状態にしたい」と言っているのであって,安倍首相の発言は,東電から見ても肯定出
来ないことがよく分かります。


しかし,実際には,汚染水は決して港湾の0.3平方キロメートルの中にブロックされてはいないのです。港湾内とはいえ,海水は1日に半分は入れ替わるので,
確実に外に漏れだしているのです。

しかも,タンクに貯められた汚染水の処理に関して上に書いたような解決が極めて困難な問題があり,さらに今後も絶え間なく流入する地下水の処理をどうするのかも,
まだ決定的な方針さえ出されていません。オリンピック招致には成功しましたが,福島第一原発の汚染水問題で成功する保障は今のところ何もありません。

汚染水問題は実際には八方塞がりで,解決の方法が見つかっていません。現在考えられている方法は,あたかも坂道で後ろに下がってくる車を人が必死で押し戻そうと
している不毛な行動に例えられます。

今,政府ができること,やるべきことは,事実を全て明らかにし,世界中から叡智を集めることです。

何よりも,現在では炉心に近づけないので,炉心で何が起こっていて,どうなっているかが全く分からないのです。現実は,それを見るためのロボットをこれから開発
しようとしている段階なのです。

安部首相は公の場で,汚染水は完全にブロックされていて,コントロールされている,と見栄を切ってしまいましたから,いまさら公表はできないでしょう。

しかし,海は世界に繋がっており汚染水は世界の海を汚染します。この深刻な事態を直視するのを避け,オリンピックとアベノミクスで,目くらましをしているのが
安部政権の実態です。これは日本にとっても,世界にとっても悲劇です。


(注1)http://www.asahi.com/politics/update/0908/TKY201309080074.html

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

原発輸出の危険な罠-アメリカによる「外圧」口止めの圧力-

2012-11-06 06:26:01 | 原発・エネルギー問題
原発輸出の危険な罠-アメリカによる「外圧」口止めの圧力-

今年の7月から毎週金曜日の夕方に,霞ヶ関や国会周辺で行われていた反原発デモが行われています。

こうした,国民的な反原発のうねりを前にして,政府は各地で意見聴取会を開き,意見公募をました。

政府は今年の夏ころまで,原発依存率15%を落としどころと想定していました。

ところが,国民の圧倒的多数は原発ゼロを希望することが判明しました。

これをうけて野田首相は,おそらく「近いうちに」行われる衆議院総選挙を意識して,
9月には「原発ゼロ」方針を閣議決定する方向を考えていました。

こうして,9月14日に策定した(19日に発表)革新的エネルギー・環境戦略は,

    「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指す過程で安全性が確認された原発を「重要電源として活用する」と同時に、
    「諸外国が希望する場合には、世界最高水準の安全性を有する技術を提供していく」

との結論に達しました。

この結論には二つの問題があります。

一つは,何とか「原発ゼロ」と言う言葉は入りましたが,それは「目指す」となっていて,「原発ゼロ」を達成する事を明言はしていない点です。

二つは,「原発ゼロ」を目指すと言いながら,原発の輸出を継続することを確認していることです。

いずれにしても,この戦略が実施されるためには閣議決定しなければ法律的な効力をもちませんが,政府は閣議決定を見送りました。

つまり,実際には,全ては振り出しに戻ったまま今日に至っています。

それでは,9月初旬から14日の結論に至までの間に何があったのでしょうか。

この間の事情を『東京新聞』(2012年10月20日)が詳しく伝えています。

この新聞記事のタイトルは “脱原発で米国離れ危惧-「外圧」口止め-”です。

実に明快に,事の本質を突いたタイトルです。

日本政府が「原発ゼロ」を閣議決定しそうであることを知ったアメリカは,「寝耳に水」で大あわてします。

何としても「原発ゼロ」の閣議決定をつぶそうと猛烈な圧力をかけ始めました。

すなわち,9月5日から日本の「原発ゼロ」戦略を骨抜きにする日米協議会がワシントンで極秘裏にスタートしました。

この交渉の経緯は,外交の舞台裏,日米関係の実態をまざまざと見せてくれます。

まず,9月5~6日の協議会で藤崎駐米大使は,日本は2030年代に原発ゼロを目指すこと,
核燃料サイクルは中期的に維持することをアメリカ側に伝えました。

これに対して・エネルギー省副長官のポネマン氏は,「重大な問題。大統領や国務省と協議したうえでコメントする。」
「外圧と取られないように」と釘を刺します。

その理由として,国家安全保障会議のフロマン補佐官は,核不拡散,国際的な安全保障の観点から重大な懸念を呼ぶ,と指摘します。

これには少し説明が必要です。原発を稼働してウランを核分裂させると,使用済み燃料に副産物としてプルトニウムが生成されます。

日本は過去の原発稼働で多量のプルトニウムを蓄積している上,膨大な量の使用済み核燃料が存在します。

日本は使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出しウランと混ぜて新たな核燃料(MOX燃料)を作り,
それを再度原発の燃料として使用する(つまりプルトニウムを蓄積しない)建前をとっています。

もし,使用済みの核燃料を再処理はするが(プルトニウムは作るが),原発を稼働しないとなると,
使うあてのない核兵器の原料を蓄積することになります。

アメリカ側の,核不拡散の原則に反し,国際社会は日本に疑念をもつという理屈はこのような事情を指します。

しかし,これはあくまでも建前の理屈で,本音は最後に出てきます。

9月10日,アメリカは,もし日本が原発を止めて他の燃料(石油,天然ガスなど)を買いあされば,エネルギー価格に重大な影響を与える,
と追求します。

前原政調会長(当時)は,日本としては原発だけでなくシェールガスを含むエネルギー全体について米国をよく対話したい,と述べます。

さらに12日に日本側は,

1)核不拡散への日本の関わりは変わらないし,国際社会とよく論議すること,

2)プルトニウムを軽水炉原発で燃す研究は今後も続けること,

3)廃炉や再処理,除染の人材や技術の強化策を年末までに作ることを説明します(大串博志内閣府政務官)。

しかし,カントリーマン・国務次官補はさらに,原発ゼロを目指せば良い人材は育たないし,
第一,プルトニウムを大量に保有して,核不拡散のリーダーとしての立場を維持することはできない,と反論します。

9月13日,大串政務官,長島昭久首相補佐官は再度,核不拡散については責任を果たすこと,
原子力の安全管理における人材と技術の向上を目指すことも確認します。

ここまでの折衝をみていると,アメリカは日本の核武装を心配して,原発ゼロに異議を唱えているように聞こえますが,実は,本当の狙いは
他にあります。

ここで,アメリカの脅しと本音が前面に出てきます。

まず,原子力の輸出市場から日本が撤退することは,アメリカの原子力産業に悪影響を及ぼし,世界の原子力の安全水準を低下させると主張
します。

そして,これを日本に飲ませるために,脅しにでてきます。

「尖閣諸島,竹島をめぐる中国,韓国の動きが活発な時に,なぜ日本は自らの手足を縛ろうとするのか理解できない。」(アーミテージ元国務副長官)

つまり,このような紛争を抱えている日本は,アメリカの意向に反すると,いざというときには助けてあげませんよ,それでもいいのか,
と脅しているのです。

長島補佐官は「助言に感謝する。野田首相に伝える」と脅しに屈してしいます。

さらに大串政務官は,クリーンエンルギーを推し進めるため,再生エネルギーを拡大し,安全確認ができた原発は再稼働させ,
化石燃料の消費を減らすと,約束してしまいます。

クローニン・新米国安全保障センター上級顧問は,原発ゼロを実施した場合,省エネと温暖化対策に取り組んできた日本は責任を果たせるのか,
と追い打ちをかけます。

同様にアーミテージ氏は,代替エネルギー源として何が原子力を代替できるのか,答えがない,と日本側を強く批判します。

そして,最後にフロマン補朝官から決定的な言葉がでます。

「アメリカの疑問に答える協議を行うまで,閣議決定を控えて欲しい。」現在の日米関係では,これは事実上の命令です。

こうして,原発ゼロの閣議決定は見送られてしまったのです。

以上の経過からも分かるように,協議とは名ばかりで,実態は豪腕な大人(米国)が幼児(日本)を脅して思うように手なずけているという
構図です。

おまけに,「外圧」(実際はアメリカ)が圧力をかけていることを日本国民に知られないよう注意しなさい,とまで言われたのです。


ところで,日本国内にも原発ゼロに反対の声は強くあります。

安くて安定した電力供給を望む産業界は全般に原発ゼロには大反対です。

とりわけ,日本の原発メーカーはアメリカのメーカーと提携しています。

現在,東芝はアメリカの原発メーカーのウェスティングハウス社と提携し,
日立はゼネラルエレクトリック社と日立GEニュークリア・エナジー社という合弁会社を設立しています。

これらに加えて,三菱重工も原発の建設に参加しています。

原発1基を受注すれば,原子炉だけで数千億円,関連の送電設備や道路工事その他を含めると,数兆円にもなると試算されています。

これが,原発輸出はビックビジネスだと言われるゆえんです。

たとえば自動車産業のように,鉄鋼石などの輸入からはじまり,さまざまな原料を輸入・加工して数兆円分の車を輸出は相当大変です。

アメリカは,もっとも言うことを聞く日本と組んで原発ビジネスを拡大してゆきたいのです。

アメリカは,日本が米国離れをして独自路線を歩むと「アメリカの原子力産業に悪影響を及ぼす」ことを恐れているのです。

そのためには日本の「原発ゼロ」を何が何でも阻止しなければならないのです。

他方,日本政府は原発産業と原発の輸出を新成長戦略の要,不況とデフレ脱却の起爆剤と位置づけています。

そこで政府主導で,昨年の10月,9電力会社と日本の原発メーカーとが共同出資して,海外の原発受庁のための株式会社「国際原子力
開発」が設立されました。

そして今年9月22日の国連総会の場で野田首相は所信表明の中で,日本は原発の輸出を推進することを宣言します。

この場でわざわざこれを述べたのはおそらく,,アメリカに,日本は確かにアメリカと協力して原発ビジネスを行いますよ,という気配り
なのでしょう。

現在,日本はベトナムへの輸出契約が成立し,ほかに,トルコ,ヨルダン,リトアニアとの交渉が進行中です。

しかし,万が一原発事故が起こったら,その保障はとてつもなく巨額となり,おそらく政府が(つまり国民の税金から)相当部分を払う
ことになるでしょう。

さらに,ベトナムとの契約にみられるように,使用済み核燃料をどうするのかは未定です。(注)

ちなみに,ベトナムと原発輸出の契約をしたロシアの場合,使用済み核燃料はロシアが引き取ることを約束しています。

日本国内でさえ未解決の使用済み核燃料の問題を,どのように処理するのでしょうか。

原発輸出は確かにビックビジネスです。しかし,危険がいっぱいです。

いかにアメリカの圧力が強くても,原発ゼロを目標としつつ原発を輸出することはどう考えても理屈に合いません。


(注)ベトナムとの契約については,「メコンウォッチ」のホームページ http://www.mekongwatch.org/report/vietnam/npp.html を参照されたい。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

原発はなぜ再稼働させてはいけないのか-原発は未完成技術-

2012-07-28 09:20:29 | 原発・エネルギー問題
原発はなぜ再稼働させてはいけないのか-原発は未完成技術-


 福井県の大飯原発の3・4号機が7月初めには再稼働しました。これに先だって,地震や地層の専門家が加わった会議では,
大飯原発の地下には活断層が走っている可能性があること,大至急調査する必要があることが指摘されていました。

 しかし関電は,大飯原発の地下に存在する地層のずれが活断層によるものであることを認めていません。

 政府は,安全に全力を挙げることと,活断層の調査の必要は認めたものの,再稼働そのものは予定通り進めるとの方針は変
えませんでした。つまり,安全確認をする前に,すでに再稼働を認めてしまったのです。

 恐らく政府は関電から,再稼働しないとこの夏の電力需要をまかなうだけの安定した電力を供給できない,原発の代わりに
火力発電で補うと電気代がかなり高騰する,などの強い“脅し”をかけられていたのでしょう。

 そして,京阪地区の企業からは,原発の再稼働と同時に,計画停電が行われるようなら海外に生産拠点を移すという圧力も
受けていたようです。
 
 このような圧力があったにしても,やはり現段階では原発は再稼働すべきではないと思います。それは,原発がまだ,
未完成の技術であるということとが一つの理由です。

 原発は「トイレのないマンション」と表現されるように,稼働したあとに出る使用済み燃料棒や放射性物質が付着した衣服や
用品などさまざまな「放射性廃棄物」を最終的にどのように処分するのかという問題が,今でも解決していないのです。

 なにしろ,放射性物質の中でもプルトニウムやストロンチウムは,半減期が何万年にも及び,しかもそれらが放つ放射線は
生物界に深刻な害を及ぼします。

 完成した技術というのは,その技術を使用したことから発生する最終的な諸問題を解決できることが大前提です。

 その技術がもたらす便益は大きいが,それによる解決不可能な問題を発生させるというのは,まだ技術として未完成であると
いうことです。

 原発はあたかも,効きも大きいが,患者が死ぬこともあるほどその副作用が大きい薬のようなものです。

 これらの全般的な問題に加えて,日本の場合,原発を稼働させてはいけない特別な理由があります。

 まず一つは,日本の国土はその地理的な条件から地震多発帯にあり,地震による原発事故の可能性が常にあることです。

 東電は,2011年3月の福島第一原発の発事故はもっぱら津波によって引き起こされたとしていますが,最新の政府事故調査
委員会の報告では,地震そのものによって随所に破断が生じ,それによって爆発事故が発生した可能性を指摘しています。

 次に,あまり大きく取り上げられることはありませんが,私は非常に深刻な問題だと考えている問題がります。

 地震直後の東電と政府の対応をもう一度思い出してみましょう。地震が発生したの3月11日津波で非常用電源が流失し,
原子炉を冷やすことができなくなったことが分かった3月12日午前1時:30分,官邸は海江田万里経産相名で東電にベントを指示しました。

 ベントとは,炉内の圧力を下げるための弁を開けることです。ところが,何回指示を出してもベントが実行されませんでした。
首相は「東電はなぜ指示を聞かないのか」,と焦り「東電の現地と直接話しをさせろ」といらだちました。

 そこで,菅首相は午前2時,ヘリコプターで自ら現場に乗り込む決断をすることになったのです。この時同行した,原子力委員会
委員長の斑目氏が首相に,「大丈夫です。原発は爆発しないんです」と言ったことは既に書いたとおりです(『毎日新聞』2011年4月4日,
「検証 大震災」)。

 では,現場ではなぜ,直ちにベントができなかったのでしょうか? 現場の吉田所長は12日1時20分1号機のベントの準備に入り
ましたが,10時になってもうまくゆきませんでした。

 ようやく,午後2時過ぎにベントは成功したとの報告が現場から入りましたが,実際には不十分で,成功ではなかったことが後から分かります。
そして,午後3時36分,1号機はついに爆発してしまいました。

 もし,ベントが12日の深夜にでも成功していたとしても,爆発を防ぐことができたかどうかはわかりません。しかし,問題はなぜ,うまく
ゆかなかったのかという点です。

 本来なら,ベントをしなければならないのは,爆発の可能性が迫っている状況なので,これほどの時間がかかること自体,原発の構造に
根本的な問題があります。

 これには,ベントは電動でおこなうことが前提とされており,全交流電源喪失という事態のもとで,これができなかったという事情がありました。

 非常用電源装置が設置されていることからも分かるように,電源喪失の事態は想定されているわけです。

 そうであれば,この電源装置が働かない場合も想定すべきです。それは手動で行うことです。

 実際,福島の原発の場合,最後には手動でベントを実施せざるを得なかったようです。

 手動であれ,緊急事態に対応するためのシステムとしてベントがある以上,8時間以上もかかる,それも不完全にしかできなかったというのは,
やはり何か別の重大な問題があるとしか考えられません。

 ここで問題となるのは,東電は,原子炉のメカニズムの全てを知っていたわけではない,という事実です。

 東電は,1号機のメーカーであるアメリカのゼネラル・エレクトリック社と「ターン・キー契約」を結んでいます。
 
 これは,文字通り,カギを回せば他の操作をしなくても全てのメカニズムが正常に働くように設定された状態で日本側に引き渡される契約です。

 この「ターン・キー」契約は日本にとって,まことに手のかからない,とても親切な契約のようにみえます。

 しかし,ここでの問題は,原発の最も重要な部分,いわば「ブラック・ボックス」はゼネラル・エレクトリック社から日本側には公開されて
いないことです。

 もちろん,実際に設計図にしたがって原発を組み立てるのは日本の企業ですが,その際,原発の細部の構造までは分かりません。

 さらに,建設にかかわった日本企業は,担当した部分についてはわかりますが,全体として,どのような仕組みになっているかは必ずしも明らか
ではないのです。

 このため,一旦事故が起こると,どのように対処したらよいのか分からない,といいう事態が起こりえるのです。

 この意味で,原発は日本の自前の技術ではなく,あくまでも借り物の技術です。このような,未完成の技術であり,借り物の技術である原発は
やはり稼働させてはいけないのです

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする