税と社会保障の一体改革(1)-法案衆院通過の背後に-
2012年6月26日,衆議院において,税と社会保障の一体改革法案のうち,目玉となる消費税増税法案が賛成363,反対96で可決し,
社会保障制度改革推進方案は賛成378,反対84で可決しました。
これらの法案は間もなく参議院に送られ,同様に可決することは間違いありません。
2012年6月26日という日は,将来,近代日本の政治と経済を振り返ったとき,大きな転換点として記憶される特別な日になるでしょう。
今回の法案通過については,政治的,経済的背景と,今後の日本の社会に与える影響との両方の側面から考えなければなりません。これらの
問題は非常に大きな,そして多くの要素を含んでいるので,これから何回かに分けて考えてゆきたいと思います。
まず今回は,法案が衆院を通過することは,民主・自民・公明の三党合意が成立した時点で既定の事実となり,事前に分かっていたことでした。
しかし,採決にいたるまでの最近の動きにたいして私は,強い違和感というか異様さを感じていました。一つは,野田政権の政治手法の問題
であり,他の一つは,この問題をめぐるマスメディアの報道姿勢です。
まず,野田政権の政治手法の問題について考えてみましょう。これらの法案が具体的な政治日程にのぼると,政権執行部は党内の説得に乗り
出しました。
しかし執行部は,消費税増税法案にたいして反対の意向を表明していた小沢一郎グループや鳩山グループの賛同を得ることは不可能であると
見込んでいました。
そこで,党内の意見集約をあきらめた執行部は,こともあろうに,それまで対立していた自民党と公明党と三党合意に踏み切ったのです。
最近の報道によれば,去年の8月には,小沢派を切る,という方向が野田首相と谷垣自民党総裁との間で確認されていたようです。
三党合意とはいえ,実質的には自民党の言い分をほぼ丸飲みした形でした。政権権執行部としては,これまで反対派の説得に努力してきた,
動かない政治を動かし,「決められる政治」を実践するには,やむを得ない方法だったと弁明するに違いありません。
しかし,政党政治において,党内の意見集約ができないからといって,敵対する野党と,国民の見えない所で秘密の談合取引を行うというのは,
国会を無視する行為であり,政党政治の死を意味します。
民主党が何とか党内の分裂を避けようと試みたが,結果的に今回の衆院の投票では,消費税増税法案にたいして57人もの反対者を出すという
醜態をさらすことになってしまいました。
もともと消費税の10%増税を望んでいた自民党(プラス公明党)は,不人気な消費税の増税を民主党の時代に実現させ,さらに民主党を割る
(実質的には小沢一郎グループの排除)という目論見を達したことになります。
民主党は「名を捨てて身を取る」どころか,「名」も「身」も捨てたことになり,自民党は「名」も「身」も取ったというのが私の感想です。
次に,マスメディアの報道姿勢について考えてみましょう。6月15日に民主,自民,公明の3党合意が成立した段階で,法案の可決は決定的
になりました。
その時から,マスメディアは,採決に対して反対票が何票になるか,とりわけ小沢派の「造反」が何人になるか,民主分裂か,離党を覚悟して
いる議員は何人でるか,小沢派による新党立ち上げはあるのか,といった,事の本質そっちのけで,まるで予想屋のように小沢派の動向と政局に
ついて,うんざりするほど報道してきました。
言葉尻をとらえるわけではありませんが,マスメディアが好んで使ってきた「造反」という言葉は今回の状況を考えると,筋が違うような気がします。
原点にかえってみれば,税と社会保障の一体改革が必要となったのは,現状では増大する社会保障(年金,医療など社会福祉費)の財源を確保できない
という問題を解決するためでした。
この問題に対して,2009年の衆議院選挙で自民党は消費税を10%に上げることで解決することをマニフェストに掲げ,民主党は,少なくとも
4年間は増税を行わず,可能な限り支出の削減,予算の組み替えによって財源を確保する,というマニフェストを掲げました。
この結果,60年以上にわたる自民党政治に終止符が打たれ,政権交代が実現したわけです。
民主党が,自らの政権の存在理由を捨て,自民党と同じ消費税増税という方向に基本政策を転換するというなら,それこそが党の基本理念,基本政策
にたいする「造反」というべきでしょう。
この意味では,筋から言えば,小沢氏に「理」があります。もし,消費増税反対を「造反」というなら,「造反有理」,造反には「理」すなわち
正統性があります。
もし,実際に政権を運営してみたら,経費の削減によっても予算の組み替えによっても,財政赤字の解消と社会保障費の捻出という問題を解決できない,
したがって増税しなければならないと判断したら,政権がとる方法は二つしかありません。
一つは,党の基本戦略を変更するのだから,選挙で民意を問うことです。しかし,せっかく国民の期待に後押しされて政権交代が実現したことを考えれば,
選挙はできなかったという事情も理解できます。
二つは,それならば国民に向かって事情を理解してもらうまで徹底的に説明し,党内的にも増税反対者たちを説得する努力を全力を挙げて行うことです。
しかし,国民にむかっても党内においても,このような努力はまったく不十分でした。
野田首相は,今まで誰もやりたがらなかった消費増税を実現したことで,歴史的な使命を果たしたかのような,ある種の高揚感をもっているかもしれません。
しかし,今回の政治決着が今後の日本にとってどのような影響を与えるのかは,今の段階では分かりません。
今回の税と社会保障の一体改革法案が通過したことの意味,それが将来の日本に与える影響については,これからも注視し,このブログで何回かにわけて
検討してみたいと思います。
2012年6月26日,衆議院において,税と社会保障の一体改革法案のうち,目玉となる消費税増税法案が賛成363,反対96で可決し,
社会保障制度改革推進方案は賛成378,反対84で可決しました。
これらの法案は間もなく参議院に送られ,同様に可決することは間違いありません。
2012年6月26日という日は,将来,近代日本の政治と経済を振り返ったとき,大きな転換点として記憶される特別な日になるでしょう。
今回の法案通過については,政治的,経済的背景と,今後の日本の社会に与える影響との両方の側面から考えなければなりません。これらの
問題は非常に大きな,そして多くの要素を含んでいるので,これから何回かに分けて考えてゆきたいと思います。
まず今回は,法案が衆院を通過することは,民主・自民・公明の三党合意が成立した時点で既定の事実となり,事前に分かっていたことでした。
しかし,採決にいたるまでの最近の動きにたいして私は,強い違和感というか異様さを感じていました。一つは,野田政権の政治手法の問題
であり,他の一つは,この問題をめぐるマスメディアの報道姿勢です。
まず,野田政権の政治手法の問題について考えてみましょう。これらの法案が具体的な政治日程にのぼると,政権執行部は党内の説得に乗り
出しました。
しかし執行部は,消費税増税法案にたいして反対の意向を表明していた小沢一郎グループや鳩山グループの賛同を得ることは不可能であると
見込んでいました。
そこで,党内の意見集約をあきらめた執行部は,こともあろうに,それまで対立していた自民党と公明党と三党合意に踏み切ったのです。
最近の報道によれば,去年の8月には,小沢派を切る,という方向が野田首相と谷垣自民党総裁との間で確認されていたようです。
三党合意とはいえ,実質的には自民党の言い分をほぼ丸飲みした形でした。政権権執行部としては,これまで反対派の説得に努力してきた,
動かない政治を動かし,「決められる政治」を実践するには,やむを得ない方法だったと弁明するに違いありません。
しかし,政党政治において,党内の意見集約ができないからといって,敵対する野党と,国民の見えない所で秘密の談合取引を行うというのは,
国会を無視する行為であり,政党政治の死を意味します。
民主党が何とか党内の分裂を避けようと試みたが,結果的に今回の衆院の投票では,消費税増税法案にたいして57人もの反対者を出すという
醜態をさらすことになってしまいました。
もともと消費税の10%増税を望んでいた自民党(プラス公明党)は,不人気な消費税の増税を民主党の時代に実現させ,さらに民主党を割る
(実質的には小沢一郎グループの排除)という目論見を達したことになります。
民主党は「名を捨てて身を取る」どころか,「名」も「身」も捨てたことになり,自民党は「名」も「身」も取ったというのが私の感想です。
次に,マスメディアの報道姿勢について考えてみましょう。6月15日に民主,自民,公明の3党合意が成立した段階で,法案の可決は決定的
になりました。
その時から,マスメディアは,採決に対して反対票が何票になるか,とりわけ小沢派の「造反」が何人になるか,民主分裂か,離党を覚悟して
いる議員は何人でるか,小沢派による新党立ち上げはあるのか,といった,事の本質そっちのけで,まるで予想屋のように小沢派の動向と政局に
ついて,うんざりするほど報道してきました。
言葉尻をとらえるわけではありませんが,マスメディアが好んで使ってきた「造反」という言葉は今回の状況を考えると,筋が違うような気がします。
原点にかえってみれば,税と社会保障の一体改革が必要となったのは,現状では増大する社会保障(年金,医療など社会福祉費)の財源を確保できない
という問題を解決するためでした。
この問題に対して,2009年の衆議院選挙で自民党は消費税を10%に上げることで解決することをマニフェストに掲げ,民主党は,少なくとも
4年間は増税を行わず,可能な限り支出の削減,予算の組み替えによって財源を確保する,というマニフェストを掲げました。
この結果,60年以上にわたる自民党政治に終止符が打たれ,政権交代が実現したわけです。
民主党が,自らの政権の存在理由を捨て,自民党と同じ消費税増税という方向に基本政策を転換するというなら,それこそが党の基本理念,基本政策
にたいする「造反」というべきでしょう。
この意味では,筋から言えば,小沢氏に「理」があります。もし,消費増税反対を「造反」というなら,「造反有理」,造反には「理」すなわち
正統性があります。
もし,実際に政権を運営してみたら,経費の削減によっても予算の組み替えによっても,財政赤字の解消と社会保障費の捻出という問題を解決できない,
したがって増税しなければならないと判断したら,政権がとる方法は二つしかありません。
一つは,党の基本戦略を変更するのだから,選挙で民意を問うことです。しかし,せっかく国民の期待に後押しされて政権交代が実現したことを考えれば,
選挙はできなかったという事情も理解できます。
二つは,それならば国民に向かって事情を理解してもらうまで徹底的に説明し,党内的にも増税反対者たちを説得する努力を全力を挙げて行うことです。
しかし,国民にむかっても党内においても,このような努力はまったく不十分でした。
野田首相は,今まで誰もやりたがらなかった消費増税を実現したことで,歴史的な使命を果たしたかのような,ある種の高揚感をもっているかもしれません。
しかし,今回の政治決着が今後の日本にとってどのような影響を与えるのかは,今の段階では分かりません。
今回の税と社会保障の一体改革法案が通過したことの意味,それが将来の日本に与える影響については,これからも注視し,このブログで何回かにわけて
検討してみたいと思います。