大義なき衆議院解散(1)-消費増税延期は争点隠し?-
安倍首相は2014年11月18日,首相官邸での記者会見で,来年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを,
2017年4月まで1年半先送りする考えでいることを表明しました。
この際,景気が悪ければ増税をしなくてもよい,という「景気条項」を来年1月の通常国会で廃止し,再延期はしないことをも述べました。
その上で,増税延期の判断の是非を国民に信を問うという名目で,21日,安倍首相は衆議院の解散を宣言しました。まだ,任期を2年残
しての解散でした。
この解散については,さまざまな推測やコメント,批判がマスメディアで伝えられてきました。
まず,この解散の理由として安倍首相が挙げているのは,消費増税を延期することを決めたことです。
しかし後に述べるように,国民の目を消費税や経済問題に向けさせるのは,安倍首相の,本当の狙いをはぐらかす,争点隠しでもあると思います。
これに対して,「景気条項」があるのだから,何も国民の信を問う必要はない,したがって解散に大義はない,という批判も多く寄せられました。
安倍首相は,税は民主主義の根幹であり,消費増税を延期するのは重要な変更だから,解散して国民の信を問う必要があると説明しています。
この理由付けは,ほとんど子供だましのようなもので,まったく正当性がないことはことは誰の目にも明らかです。
もし,この延期が,民主主義の根幹である税に関する重要な変更であるから国民の信を問う,ということであれば,安倍首相は,それ以上に重要
な変更をしてきました。
たとえば,強行採決までして特定秘密保護法案を通したことは,民主主義の根幹にかかわる,さらに重要な変更になるのだから,こちらの方こそ
国民の信を問う必要があったはずです。
また,集団的自衛権行使容認の閣議決定も,やはり安全保障にかんする重要な変更ですから,当然,衆議院を解散して信を問うべき問題です。
このように考えると,今回の解散には,国会の審議を中断して政治の空白をつくり,700億円の費用をかけて行う大義はありません。
しかし,安倍首相にとっては,こうした批判は織り込み済みで,国会で絶対多数をもっている現状を背景に,理屈にならない理屈でも押し通して
しまうという強権的な姿勢が前面に出ています。
解散の是非とは別に,なぜ今,このタイミングで解散か,という疑問も多く出されてきました。
自民党議員の中でも,テレビ局のインタビューに答えて「増税延期は解散の大義にはならない」という幹部もいました。
自民党の高村正福総裁は11月14日の党役員連絡会で,「万,万が一,選挙をやるとすればアベノミクスでデフレ脱却,これでいいのかどうか
再確認するための念のため選挙』になるのではないか」と述べています。(『朝日新聞』11月15日,朝刊)
「念のため」の選挙に700億円以上の国費をつかうことに何の道義的な後ろめたさ感じていないところが,自民党の傲慢さと倫理的頽廃を端的に
表しています。
ところで,マスメディアでは,今回の解散が,あたかも突然浮上したかのように報じられていますが,少なくとも安倍首相と菅官房長官との間で,
夏から綿密に計画された,練りに練った解散時期だったようです。(『東京新聞』2014年11月20日)
もちろん,内閣改造直後に,閣僚2人が辞任せざるを得なかったことが,時期を多少早めたことはあるでしょう。しかし,大筋では,
今回の解散時期は安倍首相の心の中では計画どおりのタイミングでした。
それは,すでに多くの人が指摘しているように,安倍内閣の支持率が高いうちに解散し,自公で過半数は間違いなくとれるだろうから,政権は
維持できるという読みです。
それでは何も,今,解散しなくても2年後の衆議院選挙まで待ってもよさそうですが,今解散することには,少なくとも四つの利点があると
考えられます。
これら四つの利点を総合的に考えると,今回の解散総選挙が,「安倍首相の,安倍首相による,安倍首相のための解散総選挙」
であることがわかります。
あるコメンテータがテレビの情報番組で言っていたように,今回の解散劇は,「政治で飯を食っている政治家のあざとさ(きたなさ,ずるさ)」
が突出している安倍首相の政治手法です。
以下に,これら四つの利点についてみてゆきましょう。
一つは,もしここで解散しないと,来年の10月からの消費増税,集団的自衛権の法制化,原発の再稼働などこれから先には,
国民にとって不人気な案件が待ち構えており,安倍政権にとって不利になることはあっても有利に働く状況にはありません。
安倍首相には,選挙をすれば多少,議席は減るかもしれないけれど,その打撃も今なら最小限に留まるだろとの読みがあります。
特に重要なのは,今年の12月に消費税率の引き上げを発表すると,来年4月に行われる全国統一地方選挙において不利になります。
したがって,消費税率の引き上げを先延ばしにすることによって,このマイナスを避けることができます。
さらに10%への増税を2017年4月まで延期すると,2016年夏の参院選で,国民に不人気な増税が選挙の争点にならないで済む,という利点
があります。
つまり,来年の統一地方選挙と再来年の参院選挙において,消費増税を争点からはずすことができるという,自民党にとって有利な状況が
うまれるのです。
安倍首相個人の問題で言えば,今回の選挙で与党が過半数をとれば,来年の総裁選で安倍首相が優位に立ち,今後さらに四年間の政権維持が
約束されます。
二つは,今,電撃的に解散すれば野党各党は選挙への対応ができにくいし,野党間の選挙協力体制も短期間では無理だろう,
という読みです。
事実,野党にとって,この2週間と少しで候補者を選出し,選挙態勢を整えるのは大変でしょう。まして,野党間の協力となれば,
なおさら時間がかかります。
三つは,最初から意図していたのか,付随的に生じたのかは分かりませんが,選挙戦術的なメリットです。
つまり,野党も国民も反対できない消費増税の延期を理由に解散・総選挙をおこなうと,争点がぼけてしまい,有権者としては何を根拠に
投票してよいか分からなくなっています。
こうなると,かなり多くの有権者は棄権する可能性があります。その結果,組織票をもつ自民党と公明党にとって非常に有利になります。
ここまで計算していたとすれば,テレビのあるコメンテータが言っていいたように,「政治で飯を食っている政治家のあざとさ」
ということになります。
四つは,今,選挙をやれば自公で過半数は取れるとうい計算のもとに,安倍政権は今後4年間,国民の信任を得たこと
になります。
今後4年間に集団的自衛権の拡充,集団的安全保障への参加,さらには憲法改正まで視野に入れた安全保障体制の確立,
そして,その前提となる憲法改正(というより憲法改悪)などの政策課題を実現する展望が開けるということです。
安倍首相は,アベノミクスの是非を問うというようなこともしきりに言っていますが,彼のこれまでの言動から判断すると,
本心では,経済はむしろ国民の目を引くための手段で,本心は政治・軍事の面で,戦前の日本への回帰することへの願望の方が重要だと
思われます。
原発の維持と推進は,財界からの資金援助を含む支持を得るという意味があります。しかも,原発を稼働させることによって精製される
プルトニウムは核兵器の材料となるので,その潜在的能力を保持するという隠れた軍事的意味もあります。
今回の選挙については,まず,これまでの2年間に安倍政権がおこなってきた政策・政治の評価が最重要の争点になるべきです。
これらについては,次回に検討したいと思います。
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【いぬゐ郷だより10】
11月29日には,里山の田んぼにバイオマス・トイレを作るために,雨の中,竹切り作業をしました。
里山で竹を切る作業
里山の秋の風景
安倍首相は2014年11月18日,首相官邸での記者会見で,来年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを,
2017年4月まで1年半先送りする考えでいることを表明しました。
この際,景気が悪ければ増税をしなくてもよい,という「景気条項」を来年1月の通常国会で廃止し,再延期はしないことをも述べました。
その上で,増税延期の判断の是非を国民に信を問うという名目で,21日,安倍首相は衆議院の解散を宣言しました。まだ,任期を2年残
しての解散でした。
この解散については,さまざまな推測やコメント,批判がマスメディアで伝えられてきました。
まず,この解散の理由として安倍首相が挙げているのは,消費増税を延期することを決めたことです。
しかし後に述べるように,国民の目を消費税や経済問題に向けさせるのは,安倍首相の,本当の狙いをはぐらかす,争点隠しでもあると思います。
これに対して,「景気条項」があるのだから,何も国民の信を問う必要はない,したがって解散に大義はない,という批判も多く寄せられました。
安倍首相は,税は民主主義の根幹であり,消費増税を延期するのは重要な変更だから,解散して国民の信を問う必要があると説明しています。
この理由付けは,ほとんど子供だましのようなもので,まったく正当性がないことはことは誰の目にも明らかです。
もし,この延期が,民主主義の根幹である税に関する重要な変更であるから国民の信を問う,ということであれば,安倍首相は,それ以上に重要
な変更をしてきました。
たとえば,強行採決までして特定秘密保護法案を通したことは,民主主義の根幹にかかわる,さらに重要な変更になるのだから,こちらの方こそ
国民の信を問う必要があったはずです。
また,集団的自衛権行使容認の閣議決定も,やはり安全保障にかんする重要な変更ですから,当然,衆議院を解散して信を問うべき問題です。
このように考えると,今回の解散には,国会の審議を中断して政治の空白をつくり,700億円の費用をかけて行う大義はありません。
しかし,安倍首相にとっては,こうした批判は織り込み済みで,国会で絶対多数をもっている現状を背景に,理屈にならない理屈でも押し通して
しまうという強権的な姿勢が前面に出ています。
解散の是非とは別に,なぜ今,このタイミングで解散か,という疑問も多く出されてきました。
自民党議員の中でも,テレビ局のインタビューに答えて「増税延期は解散の大義にはならない」という幹部もいました。
自民党の高村正福総裁は11月14日の党役員連絡会で,「万,万が一,選挙をやるとすればアベノミクスでデフレ脱却,これでいいのかどうか
再確認するための念のため選挙』になるのではないか」と述べています。(『朝日新聞』11月15日,朝刊)
「念のため」の選挙に700億円以上の国費をつかうことに何の道義的な後ろめたさ感じていないところが,自民党の傲慢さと倫理的頽廃を端的に
表しています。
ところで,マスメディアでは,今回の解散が,あたかも突然浮上したかのように報じられていますが,少なくとも安倍首相と菅官房長官との間で,
夏から綿密に計画された,練りに練った解散時期だったようです。(『東京新聞』2014年11月20日)
もちろん,内閣改造直後に,閣僚2人が辞任せざるを得なかったことが,時期を多少早めたことはあるでしょう。しかし,大筋では,
今回の解散時期は安倍首相の心の中では計画どおりのタイミングでした。
それは,すでに多くの人が指摘しているように,安倍内閣の支持率が高いうちに解散し,自公で過半数は間違いなくとれるだろうから,政権は
維持できるという読みです。
それでは何も,今,解散しなくても2年後の衆議院選挙まで待ってもよさそうですが,今解散することには,少なくとも四つの利点があると
考えられます。
これら四つの利点を総合的に考えると,今回の解散総選挙が,「安倍首相の,安倍首相による,安倍首相のための解散総選挙」
であることがわかります。
あるコメンテータがテレビの情報番組で言っていたように,今回の解散劇は,「政治で飯を食っている政治家のあざとさ(きたなさ,ずるさ)」
が突出している安倍首相の政治手法です。
以下に,これら四つの利点についてみてゆきましょう。
一つは,もしここで解散しないと,来年の10月からの消費増税,集団的自衛権の法制化,原発の再稼働などこれから先には,
国民にとって不人気な案件が待ち構えており,安倍政権にとって不利になることはあっても有利に働く状況にはありません。
安倍首相には,選挙をすれば多少,議席は減るかもしれないけれど,その打撃も今なら最小限に留まるだろとの読みがあります。
特に重要なのは,今年の12月に消費税率の引き上げを発表すると,来年4月に行われる全国統一地方選挙において不利になります。
したがって,消費税率の引き上げを先延ばしにすることによって,このマイナスを避けることができます。
さらに10%への増税を2017年4月まで延期すると,2016年夏の参院選で,国民に不人気な増税が選挙の争点にならないで済む,という利点
があります。
つまり,来年の統一地方選挙と再来年の参院選挙において,消費増税を争点からはずすことができるという,自民党にとって有利な状況が
うまれるのです。
安倍首相個人の問題で言えば,今回の選挙で与党が過半数をとれば,来年の総裁選で安倍首相が優位に立ち,今後さらに四年間の政権維持が
約束されます。
二つは,今,電撃的に解散すれば野党各党は選挙への対応ができにくいし,野党間の選挙協力体制も短期間では無理だろう,
という読みです。
事実,野党にとって,この2週間と少しで候補者を選出し,選挙態勢を整えるのは大変でしょう。まして,野党間の協力となれば,
なおさら時間がかかります。
三つは,最初から意図していたのか,付随的に生じたのかは分かりませんが,選挙戦術的なメリットです。
つまり,野党も国民も反対できない消費増税の延期を理由に解散・総選挙をおこなうと,争点がぼけてしまい,有権者としては何を根拠に
投票してよいか分からなくなっています。
こうなると,かなり多くの有権者は棄権する可能性があります。その結果,組織票をもつ自民党と公明党にとって非常に有利になります。
ここまで計算していたとすれば,テレビのあるコメンテータが言っていいたように,「政治で飯を食っている政治家のあざとさ」
ということになります。
四つは,今,選挙をやれば自公で過半数は取れるとうい計算のもとに,安倍政権は今後4年間,国民の信任を得たこと
になります。
今後4年間に集団的自衛権の拡充,集団的安全保障への参加,さらには憲法改正まで視野に入れた安全保障体制の確立,
そして,その前提となる憲法改正(というより憲法改悪)などの政策課題を実現する展望が開けるということです。
安倍首相は,アベノミクスの是非を問うというようなこともしきりに言っていますが,彼のこれまでの言動から判断すると,
本心では,経済はむしろ国民の目を引くための手段で,本心は政治・軍事の面で,戦前の日本への回帰することへの願望の方が重要だと
思われます。
原発の維持と推進は,財界からの資金援助を含む支持を得るという意味があります。しかも,原発を稼働させることによって精製される
プルトニウムは核兵器の材料となるので,その潜在的能力を保持するという隠れた軍事的意味もあります。
今回の選挙については,まず,これまでの2年間に安倍政権がおこなってきた政策・政治の評価が最重要の争点になるべきです。
これらについては,次回に検討したいと思います。
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【いぬゐ郷だより10】
11月29日には,里山の田んぼにバイオマス・トイレを作るために,雨の中,竹切り作業をしました。
里山で竹を切る作業
里山の秋の風景