日馬富士の暴力事件―疑問だらけの相撲協会とメディア報道―
10月25日から26日にかけて生じた、日馬富士の貴の岩に対する暴力事件と、その後の相撲協会側の対応
には多くの疑問があります。
その疑問について考える前に、私たちが、日馬富士の暴力事件を知る際の情報源にかんして、頭に入れておか
なければならないことがあります。
それは、新聞とテレビ(ワイドショーも含めて)という大手メディアははっきりと相撲協会擁護にで、週刊誌
(特に、『週刊新潮』、『週刊文春』『FLASH』など)に貴乃花・貴の岩側に立っている、という全く反対の
報道していることです。なぜでしょうか?
月刊『創』編集長の篠田博之によれば、週刊誌は
白鵬や相撲協会批判のキャンペーンを張っていくのだが、新聞・テレビはその見方に触れることもで
きない。相撲協会が否定していることを報道していけば、協会への取材ができなくなる恐れがあるか
らだ。過去、『週刊ポスト』『週刊現代』そして今回の『週刊新潮』『週刊文春』と、八百長問題を
追及してきたのはもっぱら週刊誌で、新聞・テレビは黙殺してきた。記者クラブメディアと週刊誌と
の対立という構図だ。
少し補足すると、相撲に関するメディアの取材は、相撲協会の公式の記者会見の場と、力士や関係者への個別
的な取材とがあります。
記者会見は、相撲協会に認められて記者クラブに参加しているメディア(大手新聞やテレビ局)の代表だけが
参加できる取材の場です。
したがって、協会が否定していることを報道すれば、以後、記者クラブから排除されて記者会見での取材がで
きなくなる可能性があります。
これに対して週刊誌はこの記者クラブには参加させてもらっていないの、協会側を自由に批判できる、という
わけです。
以上の背景を理解すると、現在報道されているテレビ・新聞と週刊誌の内容がまったくことなる理由がわかる
と同時に、今回の問題の景色がまったく異なって見えてきます。
さて、この問題に関するテレビ報道は、もっぱら貴乃花親方の処罰がどうなる、という方向に話題の焦点を誘
導して、暴行事件そのものの事実関係や背後関係から眼をそらせているように思えます。
それでは、冷静に「暴力事件」そのものを振り返ってみましょう。
事件は10月25~26日の深夜に起こりました。
テレビの報道では、日馬富士の言い分をそのまま垂れ流してきました。それは、大横綱の白鵬が説教をしてい
る時に携帯をいじっていることが許せなくて、日馬富士が貴の岩を始めは素手で、途中から物(これは、最終
的にカラオケ用のリモコンであるとされましたが)をもって頭を殴って傷を負わせた、というものです。
素手でなぐったのは、日馬富士は15~16回と言い、貴の岩はもっと殴られたと言っています。
いずれにしても、ここで重要な問題は、その横には白鵬と鶴竜という二人の横綱がいたのに、貴の岩の頭から
血が出るまで止めなかった、という事実です。
つまり、少なくとも、この場でもっとも影響力がある白鵬は、日馬富士が暴力を振るうのを是認して放置した
のです。
この構図を一般社会に移し替えてみると、強い立場の人間が弱い立場の人物に暴力をふるい、それを直ちに止
めるのではなく、しばらく放置していたら、それは立派な集団リンチです。
例えて言えば、中学生や高校生などの集団暴行で時々起こるパターンと似ています。誰かを呼び出して、一人
が呼び出された物に暴力を振るう。しばらくして、血が出たり苦しがったりしたので、その場のボスが、その
へんで止めとけ、といったその構造とそっくりです。
法律的に言えば、実際に暴力を振るった者と、それをそばで見ていて放置した者とは同罪であってもおかしく
はないのです。
もうひとつ、私が気になるのは、日馬富士がなぜ、このように執拗に殴ったのかの理由として、貴の岩が自分
を睨み返したから、と言っています。
しかし、貴の岩は、ただ見ていただけ、と後に証言しています。それを日馬富士は勝手に、反抗的に睨み返し
たと思い込み、暴力をふるい続けた、と説明しています。
日馬富士は、ただ見ただけでも、「ガンをつけた」といって因縁をつける類の人間にみえないだろうか。
この時、貴の岩は、ただ暴力を振るう日馬富士をみていただけで、睨み返してなどいなかった、と証言して
います。
そして、その時の心境を貴の岩は、なぜ自分は一般の人もいる中でこんな仕打ちを振るわれなければならな
いのか、誰か止めてくれないか、と思っていたという。
白鵬・鶴竜・日馬富に囲まれて、一方的に殴られた貴の岩の状況をよーく想像してみてください。
私が個人的に許せないのは、12月20日の危機委員会の会合の後の記者会見で高野利雄委員長(元名古屋
高検検事長)は、「もし、貴の岩が謝っていたらこういうことにはならなかったかもしれない」と、とんで
もない発言をしました。
これは、殴られた方が悪いんだ、という、高検検事長までやった人物の発言とは到底思えません。
この発言に対しても、テレビ・新聞はまったく批判することなく素通りしています。これが現実です。
つまり、相撲協会=危機管理委員会は白鵬を守り、貴の岩=貴乃花を悪者にしようとする構図がはっ
きり見てとれます。
それにしても不可解なことがまだまだあります。三つだけ挙げておきましょう。
まず、相撲協会が日馬富士の暴行事件を知ったのは、11月初めでした。しかし、11月場所最中の14
日にスポーツ紙が暴露するまで、協会はそれまで事件を隠蔽し続けました。
さらに問題なのは、事件を知った上で、日馬富士を土俵に上げたことです。スポーツ紙で事件が発覚して
初めて、師匠に通して引退を促したのです。
最後に、白鵬の処罰が1か月半の給与無し、でした。その理由は、日馬富士の暴力を止めることができな
かった、というものでした。
しかし、正しくは「止めようとしなかった」と言うべきです。そうであれば、白鵬も日馬富士と同罪になってしまうので、協会が白鵬を守ったということでしょう。
(注1)12/25(月) 20:24 『Yahoo ニュース』 (デジタル)
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20171225-00079721
10月25日から26日にかけて生じた、日馬富士の貴の岩に対する暴力事件と、その後の相撲協会側の対応
には多くの疑問があります。
その疑問について考える前に、私たちが、日馬富士の暴力事件を知る際の情報源にかんして、頭に入れておか
なければならないことがあります。
それは、新聞とテレビ(ワイドショーも含めて)という大手メディアははっきりと相撲協会擁護にで、週刊誌
(特に、『週刊新潮』、『週刊文春』『FLASH』など)に貴乃花・貴の岩側に立っている、という全く反対の
報道していることです。なぜでしょうか?
月刊『創』編集長の篠田博之によれば、週刊誌は
白鵬や相撲協会批判のキャンペーンを張っていくのだが、新聞・テレビはその見方に触れることもで
きない。相撲協会が否定していることを報道していけば、協会への取材ができなくなる恐れがあるか
らだ。過去、『週刊ポスト』『週刊現代』そして今回の『週刊新潮』『週刊文春』と、八百長問題を
追及してきたのはもっぱら週刊誌で、新聞・テレビは黙殺してきた。記者クラブメディアと週刊誌と
の対立という構図だ。
少し補足すると、相撲に関するメディアの取材は、相撲協会の公式の記者会見の場と、力士や関係者への個別
的な取材とがあります。
記者会見は、相撲協会に認められて記者クラブに参加しているメディア(大手新聞やテレビ局)の代表だけが
参加できる取材の場です。
したがって、協会が否定していることを報道すれば、以後、記者クラブから排除されて記者会見での取材がで
きなくなる可能性があります。
これに対して週刊誌はこの記者クラブには参加させてもらっていないの、協会側を自由に批判できる、という
わけです。
以上の背景を理解すると、現在報道されているテレビ・新聞と週刊誌の内容がまったくことなる理由がわかる
と同時に、今回の問題の景色がまったく異なって見えてきます。
さて、この問題に関するテレビ報道は、もっぱら貴乃花親方の処罰がどうなる、という方向に話題の焦点を誘
導して、暴行事件そのものの事実関係や背後関係から眼をそらせているように思えます。
それでは、冷静に「暴力事件」そのものを振り返ってみましょう。
事件は10月25~26日の深夜に起こりました。
テレビの報道では、日馬富士の言い分をそのまま垂れ流してきました。それは、大横綱の白鵬が説教をしてい
る時に携帯をいじっていることが許せなくて、日馬富士が貴の岩を始めは素手で、途中から物(これは、最終
的にカラオケ用のリモコンであるとされましたが)をもって頭を殴って傷を負わせた、というものです。
素手でなぐったのは、日馬富士は15~16回と言い、貴の岩はもっと殴られたと言っています。
いずれにしても、ここで重要な問題は、その横には白鵬と鶴竜という二人の横綱がいたのに、貴の岩の頭から
血が出るまで止めなかった、という事実です。
つまり、少なくとも、この場でもっとも影響力がある白鵬は、日馬富士が暴力を振るうのを是認して放置した
のです。
この構図を一般社会に移し替えてみると、強い立場の人間が弱い立場の人物に暴力をふるい、それを直ちに止
めるのではなく、しばらく放置していたら、それは立派な集団リンチです。
例えて言えば、中学生や高校生などの集団暴行で時々起こるパターンと似ています。誰かを呼び出して、一人
が呼び出された物に暴力を振るう。しばらくして、血が出たり苦しがったりしたので、その場のボスが、その
へんで止めとけ、といったその構造とそっくりです。
法律的に言えば、実際に暴力を振るった者と、それをそばで見ていて放置した者とは同罪であってもおかしく
はないのです。
もうひとつ、私が気になるのは、日馬富士がなぜ、このように執拗に殴ったのかの理由として、貴の岩が自分
を睨み返したから、と言っています。
しかし、貴の岩は、ただ見ていただけ、と後に証言しています。それを日馬富士は勝手に、反抗的に睨み返し
たと思い込み、暴力をふるい続けた、と説明しています。
日馬富士は、ただ見ただけでも、「ガンをつけた」といって因縁をつける類の人間にみえないだろうか。
この時、貴の岩は、ただ暴力を振るう日馬富士をみていただけで、睨み返してなどいなかった、と証言して
います。
そして、その時の心境を貴の岩は、なぜ自分は一般の人もいる中でこんな仕打ちを振るわれなければならな
いのか、誰か止めてくれないか、と思っていたという。
白鵬・鶴竜・日馬富に囲まれて、一方的に殴られた貴の岩の状況をよーく想像してみてください。
私が個人的に許せないのは、12月20日の危機委員会の会合の後の記者会見で高野利雄委員長(元名古屋
高検検事長)は、「もし、貴の岩が謝っていたらこういうことにはならなかったかもしれない」と、とんで
もない発言をしました。
これは、殴られた方が悪いんだ、という、高検検事長までやった人物の発言とは到底思えません。
この発言に対しても、テレビ・新聞はまったく批判することなく素通りしています。これが現実です。
つまり、相撲協会=危機管理委員会は白鵬を守り、貴の岩=貴乃花を悪者にしようとする構図がはっ
きり見てとれます。
それにしても不可解なことがまだまだあります。三つだけ挙げておきましょう。
まず、相撲協会が日馬富士の暴行事件を知ったのは、11月初めでした。しかし、11月場所最中の14
日にスポーツ紙が暴露するまで、協会はそれまで事件を隠蔽し続けました。
さらに問題なのは、事件を知った上で、日馬富士を土俵に上げたことです。スポーツ紙で事件が発覚して
初めて、師匠に通して引退を促したのです。
最後に、白鵬の処罰が1か月半の給与無し、でした。その理由は、日馬富士の暴力を止めることができな
かった、というものでした。
しかし、正しくは「止めようとしなかった」と言うべきです。そうであれば、白鵬も日馬富士と同罪になってしまうので、協会が白鵬を守ったということでしょう。
(注1)12/25(月) 20:24 『Yahoo ニュース』 (デジタル)
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20171225-00079721