トランプ大統領の関税政策(2)―中米貿易戦争の行く先は?―
前回の記事で触れたように、2025年4月2日、トランプ大統領は、すべての輸入品に対する
一律10%の輸入関税に上乗せして、アメリカが輸入超過となっている国(貿易赤字を抱
えている国)に対して、20%を超える追加の関税率(相互関税)を発表しました。
トランプ氏は同時に、対象となった国は交渉によって関税率の変更もあり得るとも述べて
いるので、日本も含めて対象となった国は、先を争ってトランプ氏側に交渉の申し出をし
ました。
現在までに、75か国が、トランプ氏の表現では「懇願」(kissing my ass)してきている。
ただし、中国だけが断固としてトランプ氏に屈していません。
トランプ氏は中国にたいして4月4日、合成麻薬の米国流入が続いているとして、中国から
の輸入品に10%の追加関税を発動しました。
これに対して中国政府は、米国への報復関税や輸出規制などの対抗措置を即座に打ち出し、
最大15%と米国より高い追加関税率を設定するものの、石炭や天然ガス、原油などに対
象を限定し、米国への打撃が大きい大豆などは外しており、「控えめな対応」(米大西洋評
議会のジョシュ・リプスキー氏)と評価されました。
ただし、中国は追加関税に加えて重要鉱物の輸出規制も同時に公表しています。さらにグ
ーグルへの独禁法調査など米企業に圧力もかけており、周到に「幅広い手段を用意してい
ることを示した」(元米政府高官)と警戒の声も上がっています(注1)。
トランプ氏にとって、中国に屈することは、それまでの強気の姿勢と脅しの効果が崩れる
ことで、高関税を引っ込めることはできません。
他方、中国の習近平首相にとっても、安易にトランプ氏に屈して、“どうか交渉に応じてく
ださい”と懇願することは絶対にありません。
それは、面子に関わるし、国内での信頼と威信を失い、したがって政治生命も一挙に失っ
てしまうからです。
こうして、米側の関税率引き上げと、中国の対抗措置が繰り返され、現在までに米国の中
国製品にたいする関税は145%まで引き上げられました。
これに対して中国も対米輸入品にたいして125%まで関税を引き上げました。ただし、
トランプ氏がさらに関税を上げても中国政府は相手にしないと宣言しました。
関税率が100%を超えるというのは、現実的には「もう貿易はしません」ということと
等しいのでそれ以上上げても意味がないのです。
それでは、この米中の貿易・関税戦争はどんなところに行き着くのでしょうか?
これに関して『ブルームバーグ』はK.バスワニ(Karishma Vaswani)氏の「トランプ
関税の行き着く先 中国を再び偉大に」という興味深い論考を掲載しています。
バスワニ氏は長くアジアについて取材してきたコラムニストで、彼の論考は大いに参考に
なります(注2)。
彼は、米国の駐中国大使を退任したニコラス・バーンズの以下の言葉を引用し、
「同盟国には親切にすべきだ」と、米国の駐中国大使を退任したニコラス・バーンズ氏は
語っいます。これが、米国が世界の覇権争いで中国に勝つにはどうすべきかという質問に
対する彼の答えでした。さらにバーンズ氏は、アジアで米国が影響力を維持したいのであ
ればトランプ大統領はこの助言に従うべきだ、とも述べています。
バーンズ氏の見立てでは、アジアの国々は今のところ「トランプ関税」を回避するための
交渉に臨もうと躍起だが、長期的にはアジア各国同士で協力関係を強化する方向に動くだ
ろう、というものです。
インド太平洋地域における拡張主義的な言動によって中国の魅力は損なわれているが、ア
ジア諸国は、新たな関税で罰したりしない中国に再び接近することのメリットも考慮する
する可能性もあります。
いずれにしても米政府は、中国の行動に対してこの地域が抱く不安をうまく捉えて中国を
封じ込める機会を逃してしまったと言えます。
それどころか、トランプ関税はほとんどの国がその影響を免れることはできない。オース
トラリアやインド、日本、韓国といった同盟国でさえ例外ではありません。
そして、インドネシアや台湾、ベトナム、シンガポール、フィリピンなど米国がこの地域
における中国の台頭に対抗する上で、重要な役割を担ってきた国・地域を関税の標的とし
ているのは逆効果となっています。
しかも、トランプ関税の影響は今後数十年にわたり続くことになるから、長期的には中国
包囲網を構成するアジアの国々はアメリカではなく、中国との結びつきを強めるだろう、
というのがバーンズ氏の結論です。
マレーシアやシンガポールなどはグローバル化から大きな恩恵を受けており、米国の関税
賦課により自由貿易が制限される悪影響についてすでに懸念を表明しています。
シンガポールのウォン首相は、「1930年代」のような、より危険な世界になる可能性を警告
しており、「貿易戦争が武力衝突にエスカレートし、最終的に第2次世界大戦へとつながっ
た」時代に入り得るとの懸念が浮上しています。
アメリカの高関税政策とは対照的に、中国は「友人たち」への対応の仕方を心得ている、昨
年12月には外交関係を持つ全ての途上国から輸入する特定品に対する関税をゼロに引き下げ
ました。
中国は地域的な包括的経済連携(RCEP)の推進役も担う。RCEPは15カ国から成る世
界最大級の自由貿易協定(FTA)で、2022年のデータに基づくと世界全体の国内総生産
(GDP)で29%相当を占めています。
米国が進める経済政策の影響を和らげるために、さらに多くのアジアの国々がRCEPへの参
加を希望する可能性が高まっています。
また、3月末に開かれた中国、日本と韓国との3か国の経済貿易担当閣僚会合では、開放的か
つ公平な貿易をあらためて呼びかけ、経済関係を深めると誓いました。
米国は中国との対決を主戦場としていますが、米国の同盟国である日本と韓国が中国との連携
強化のために会合を持ったこと自体、大きな意味があります。
とはいえ、米国に代わる市場はありません。23年の米家計支出は19兆ドル(約2790兆円)に達
し、欧州連合(EU)の倍、中国の3倍近い規模です。
そうした状況の中で、中国は世界貿易の変化を乗り切るために切羽詰まった国々に必要なもの、
つまり市場を提供しつつあります。
トランプ氏の貿易戦争は始まったばかりです。米中という2つの超大国が共に悪あがきをする
中で、そのはざまに立たされたアジア各国やこの地域は損失を最小限に抑えて、何とかこの状
況を切り抜けようと模索しています。
ただしバスワニ氏によれば、長期的には中国を視野に戦略的優先順位の再編が行われ、世界貿
易を巡る対立が招いたトランプ関税は、インド太平洋地域における地政学の地図を、中国を中
心に塗り替える可能性がある、という方向に向かいそうです。
以上は、トランプ関税が中国包囲網を構成するアジア諸国にどのよう影響を与えるかを検討し
ましたが、米中の激突はどのようなに展開するでしょか?
アメリカのトランプ政権は中国からの輸入品への追加関税を繰り返し引き上げ、4月10日には
あわせて145%の税率になると説明しました。
中国財政省は、11日、対抗措置としてアメリカからの輸入品にあわせて125%の追加関税を12
日から課すと発表しました。
中国商務省の報道官は、コメントを発表し「数字だけをいじるようなアメリカのやり方は、経
済的にはもはや意味がなく中国は今後、このような数字遊びには取り合わない」と宣言しまし
た。
ただ、「アメリカが中国の権益を実質的に侵害し続けるなら、断固として対抗措置をとり、とこ
とんつきあう」としています。
また、中国商務省は、アメリカの関税措置はWTO=世界貿易機関のルールに深刻に違反するも
のだとしてWTOに提訴したと発表しました。
客観的に見て、トランプ関税に根拠がなく非合理的であるのに対して中国の対応は筋が通って
います。
米中の間で追加関税の応酬となり貿易摩擦が激しくなるなか、習近平国家主席は11日「関税戦
争に勝者はなく孤立するだけだ」と述べ、トランプ政権を批判しました。
中国の習近平国家主席は11日、北京を訪れているスペインのサンチェス首相と会談し、中国に
145%の追加関税を批判したうえ、人口14億人の中国には消費レベル向上の需要や、産業の変
革の潜在力があり、世界経済に推進力を与えると強調した上で、「EUとともに経済のグローバ
ル化の流れを守り、一方的ないじめのような行為に抵抗すべきだ」と述べ、連携を呼びかけま
した。
米中の間で追加関税の応酬となり貿易摩擦が激しくなるなか、中国としては貿易総額でアメリ
カよりも大きな割合を占めるEUやASEAN=東南アジア諸国連合などの主要な貿易相手との連
携強化を進めたい考えです。
かつて自由貿易を世界に押し付けたアメリカが保護貿易に走り、今や中国が自由貿易の旗手と
なっているのは、何とも歴史の皮肉です。
先に引用したバスワニ氏は「、米中貿易戦争、準備万端の中国は先に折れず」と題する論考で
も、中国が先に折れることはなく、中米の関税戦争は中国に有利であることを主張しています。
というのは、中国共産党の習近平国家主席)は、経済的にも政治的にもトランプ米大統領より
もはるかに大きな痛みに耐えることができるからだ、という。
中国はこうなる事態を想定して本格的に動き出しています。たとえば、追加の景気刺激策につ
いて政権内で話し合い、市場を安定させるために追加融資を行うとしています。
それに対して、関税戦争はむしろ米経済への打撃も深刻なものとなる可能性が大きい。しかも、
米連邦準備制度のインフレ対策が損なわれるのではないかという懸念もある。
実際、中国からの輸入品に145%の関税をかければ米国内の消費者物価とインフレが進行し、
そのしわ寄せは国民にのしかかってきます。かといって、アメリカはこれまで中国から輸入
してきた消費財を国内で生産できません。
そして、さらに重要な点は、トランプ氏は来年の中間選挙を控えており、常に国民の反応を
考慮しなければなりませんが、習氏は今や毛沢東初代国家主席以来最も権力のある最高指導者
で、選挙を気にする必要はありません。
オーストラリアの元首相で習氏に関する著書もあるケビン・ラッド氏は「習氏は共産党をあ
らゆる問題解決の主役に据え、米国が主導する秩序に挑戦すべき時が到来したとの民族主義
的イデオロギーを推進している」、とインタビューで語っています。
経済面でも中国は準備万端です。李強首相はいかなる外部からの悪影響も「完全に相殺」す
る政策手段が中国には十分にあると述べ、関税の影響が深刻化するにもかかわらず、2025
年の成長について楽観的な見通しを繰り返しました。
元米国家安全保障会議(NSC)中国・台湾部長フォード・ハート氏はバスワニ氏に、関税
戦争は米中共に痛みを与えるが、「習氏が痛みに耐え得る許容範囲はトランプ氏とは桁違いで、
習氏は事実上、無制限に我慢できる」と語っています。
そしてアメリカ側に立つハート氏でさえ「これは政治闘争であり、恐ろしいほどの経済的代
償を払ってでも、習氏は勝利するだろう」とも述べています。
米中の政治闘争とは別に、両国の経済構造に決定的な差があります。
つまり、アメリカは金融とITを主な収入源とし、国内産業を衰退させてきました。この
ため長期的となると必需品を含めて輸入に頼らざるを得ません。
これに対して中国は、生活必要な雑貨から電気製品、さらにはIT製品まで、産業をフルセ
ットでそろえており長期の経済的闘争には耐えられます。
以上を総合的に考えると、アメリカは中国との長期の関税戦争に勝てそうもありません。
さて日本はどうする? これを次回に考えてみましょう。
注
(注1)『JIJI.COM』(2025年02月05日20時49分配信 5月10日閲覧)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025020500911&g=int&utm_source=piano&utm_medium=email&utm_campaign=
8697&pnespid=4.DMlZkI7vHWprji9Ea84eEKuB4Lry54xgB5QBYyrVaVf1TY.iNXYaXY8.1ulEqYPgMqI0J2
(注2)『ブルームバーグ』(電子版)(2025年4月10日 11:30 JST)4月17日閲覧
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-10/SUFWLYT0G1KW00
カリシュマ・バスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心に アジア政治を担当
しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材
していました
(注3)『NHK NEWSWEB』(2025年4月11日 19時25分。4月15日閲覧)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250411/k10014776771000.html
(注4)『ブルームバーグ』(電子版)(2025年4月14日 11:27 JST。4月17日閲覧)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-14/SUJDEDT0AFB400?srnd=cojp-v2
前回の記事で触れたように、2025年4月2日、トランプ大統領は、すべての輸入品に対する
一律10%の輸入関税に上乗せして、アメリカが輸入超過となっている国(貿易赤字を抱
えている国)に対して、20%を超える追加の関税率(相互関税)を発表しました。
トランプ氏は同時に、対象となった国は交渉によって関税率の変更もあり得るとも述べて
いるので、日本も含めて対象となった国は、先を争ってトランプ氏側に交渉の申し出をし
ました。
現在までに、75か国が、トランプ氏の表現では「懇願」(kissing my ass)してきている。
ただし、中国だけが断固としてトランプ氏に屈していません。
トランプ氏は中国にたいして4月4日、合成麻薬の米国流入が続いているとして、中国から
の輸入品に10%の追加関税を発動しました。
これに対して中国政府は、米国への報復関税や輸出規制などの対抗措置を即座に打ち出し、
最大15%と米国より高い追加関税率を設定するものの、石炭や天然ガス、原油などに対
象を限定し、米国への打撃が大きい大豆などは外しており、「控えめな対応」(米大西洋評
議会のジョシュ・リプスキー氏)と評価されました。
ただし、中国は追加関税に加えて重要鉱物の輸出規制も同時に公表しています。さらにグ
ーグルへの独禁法調査など米企業に圧力もかけており、周到に「幅広い手段を用意してい
ることを示した」(元米政府高官)と警戒の声も上がっています(注1)。
トランプ氏にとって、中国に屈することは、それまでの強気の姿勢と脅しの効果が崩れる
ことで、高関税を引っ込めることはできません。
他方、中国の習近平首相にとっても、安易にトランプ氏に屈して、“どうか交渉に応じてく
ださい”と懇願することは絶対にありません。
それは、面子に関わるし、国内での信頼と威信を失い、したがって政治生命も一挙に失っ
てしまうからです。
こうして、米側の関税率引き上げと、中国の対抗措置が繰り返され、現在までに米国の中
国製品にたいする関税は145%まで引き上げられました。
これに対して中国も対米輸入品にたいして125%まで関税を引き上げました。ただし、
トランプ氏がさらに関税を上げても中国政府は相手にしないと宣言しました。
関税率が100%を超えるというのは、現実的には「もう貿易はしません」ということと
等しいのでそれ以上上げても意味がないのです。
それでは、この米中の貿易・関税戦争はどんなところに行き着くのでしょうか?
これに関して『ブルームバーグ』はK.バスワニ(Karishma Vaswani)氏の「トランプ
関税の行き着く先 中国を再び偉大に」という興味深い論考を掲載しています。
バスワニ氏は長くアジアについて取材してきたコラムニストで、彼の論考は大いに参考に
なります(注2)。
彼は、米国の駐中国大使を退任したニコラス・バーンズの以下の言葉を引用し、
「同盟国には親切にすべきだ」と、米国の駐中国大使を退任したニコラス・バーンズ氏は
語っいます。これが、米国が世界の覇権争いで中国に勝つにはどうすべきかという質問に
対する彼の答えでした。さらにバーンズ氏は、アジアで米国が影響力を維持したいのであ
ればトランプ大統領はこの助言に従うべきだ、とも述べています。
バーンズ氏の見立てでは、アジアの国々は今のところ「トランプ関税」を回避するための
交渉に臨もうと躍起だが、長期的にはアジア各国同士で協力関係を強化する方向に動くだ
ろう、というものです。
インド太平洋地域における拡張主義的な言動によって中国の魅力は損なわれているが、ア
ジア諸国は、新たな関税で罰したりしない中国に再び接近することのメリットも考慮する
する可能性もあります。
いずれにしても米政府は、中国の行動に対してこの地域が抱く不安をうまく捉えて中国を
封じ込める機会を逃してしまったと言えます。
それどころか、トランプ関税はほとんどの国がその影響を免れることはできない。オース
トラリアやインド、日本、韓国といった同盟国でさえ例外ではありません。
そして、インドネシアや台湾、ベトナム、シンガポール、フィリピンなど米国がこの地域
における中国の台頭に対抗する上で、重要な役割を担ってきた国・地域を関税の標的とし
ているのは逆効果となっています。
しかも、トランプ関税の影響は今後数十年にわたり続くことになるから、長期的には中国
包囲網を構成するアジアの国々はアメリカではなく、中国との結びつきを強めるだろう、
というのがバーンズ氏の結論です。
マレーシアやシンガポールなどはグローバル化から大きな恩恵を受けており、米国の関税
賦課により自由貿易が制限される悪影響についてすでに懸念を表明しています。
シンガポールのウォン首相は、「1930年代」のような、より危険な世界になる可能性を警告
しており、「貿易戦争が武力衝突にエスカレートし、最終的に第2次世界大戦へとつながっ
た」時代に入り得るとの懸念が浮上しています。
アメリカの高関税政策とは対照的に、中国は「友人たち」への対応の仕方を心得ている、昨
年12月には外交関係を持つ全ての途上国から輸入する特定品に対する関税をゼロに引き下げ
ました。
中国は地域的な包括的経済連携(RCEP)の推進役も担う。RCEPは15カ国から成る世
界最大級の自由貿易協定(FTA)で、2022年のデータに基づくと世界全体の国内総生産
(GDP)で29%相当を占めています。
米国が進める経済政策の影響を和らげるために、さらに多くのアジアの国々がRCEPへの参
加を希望する可能性が高まっています。
また、3月末に開かれた中国、日本と韓国との3か国の経済貿易担当閣僚会合では、開放的か
つ公平な貿易をあらためて呼びかけ、経済関係を深めると誓いました。
米国は中国との対決を主戦場としていますが、米国の同盟国である日本と韓国が中国との連携
強化のために会合を持ったこと自体、大きな意味があります。
とはいえ、米国に代わる市場はありません。23年の米家計支出は19兆ドル(約2790兆円)に達
し、欧州連合(EU)の倍、中国の3倍近い規模です。
そうした状況の中で、中国は世界貿易の変化を乗り切るために切羽詰まった国々に必要なもの、
つまり市場を提供しつつあります。
トランプ氏の貿易戦争は始まったばかりです。米中という2つの超大国が共に悪あがきをする
中で、そのはざまに立たされたアジア各国やこの地域は損失を最小限に抑えて、何とかこの状
況を切り抜けようと模索しています。
ただしバスワニ氏によれば、長期的には中国を視野に戦略的優先順位の再編が行われ、世界貿
易を巡る対立が招いたトランプ関税は、インド太平洋地域における地政学の地図を、中国を中
心に塗り替える可能性がある、という方向に向かいそうです。
以上は、トランプ関税が中国包囲網を構成するアジア諸国にどのよう影響を与えるかを検討し
ましたが、米中の激突はどのようなに展開するでしょか?
アメリカのトランプ政権は中国からの輸入品への追加関税を繰り返し引き上げ、4月10日には
あわせて145%の税率になると説明しました。
中国財政省は、11日、対抗措置としてアメリカからの輸入品にあわせて125%の追加関税を12
日から課すと発表しました。
中国商務省の報道官は、コメントを発表し「数字だけをいじるようなアメリカのやり方は、経
済的にはもはや意味がなく中国は今後、このような数字遊びには取り合わない」と宣言しまし
た。
ただ、「アメリカが中国の権益を実質的に侵害し続けるなら、断固として対抗措置をとり、とこ
とんつきあう」としています。
また、中国商務省は、アメリカの関税措置はWTO=世界貿易機関のルールに深刻に違反するも
のだとしてWTOに提訴したと発表しました。
客観的に見て、トランプ関税に根拠がなく非合理的であるのに対して中国の対応は筋が通って
います。
米中の間で追加関税の応酬となり貿易摩擦が激しくなるなか、習近平国家主席は11日「関税戦
争に勝者はなく孤立するだけだ」と述べ、トランプ政権を批判しました。
中国の習近平国家主席は11日、北京を訪れているスペインのサンチェス首相と会談し、中国に
145%の追加関税を批判したうえ、人口14億人の中国には消費レベル向上の需要や、産業の変
革の潜在力があり、世界経済に推進力を与えると強調した上で、「EUとともに経済のグローバ
ル化の流れを守り、一方的ないじめのような行為に抵抗すべきだ」と述べ、連携を呼びかけま
した。
米中の間で追加関税の応酬となり貿易摩擦が激しくなるなか、中国としては貿易総額でアメリ
カよりも大きな割合を占めるEUやASEAN=東南アジア諸国連合などの主要な貿易相手との連
携強化を進めたい考えです。
かつて自由貿易を世界に押し付けたアメリカが保護貿易に走り、今や中国が自由貿易の旗手と
なっているのは、何とも歴史の皮肉です。
先に引用したバスワニ氏は「、米中貿易戦争、準備万端の中国は先に折れず」と題する論考で
も、中国が先に折れることはなく、中米の関税戦争は中国に有利であることを主張しています。
というのは、中国共産党の習近平国家主席)は、経済的にも政治的にもトランプ米大統領より
もはるかに大きな痛みに耐えることができるからだ、という。
中国はこうなる事態を想定して本格的に動き出しています。たとえば、追加の景気刺激策につ
いて政権内で話し合い、市場を安定させるために追加融資を行うとしています。
それに対して、関税戦争はむしろ米経済への打撃も深刻なものとなる可能性が大きい。しかも、
米連邦準備制度のインフレ対策が損なわれるのではないかという懸念もある。
実際、中国からの輸入品に145%の関税をかければ米国内の消費者物価とインフレが進行し、
そのしわ寄せは国民にのしかかってきます。かといって、アメリカはこれまで中国から輸入
してきた消費財を国内で生産できません。
そして、さらに重要な点は、トランプ氏は来年の中間選挙を控えており、常に国民の反応を
考慮しなければなりませんが、習氏は今や毛沢東初代国家主席以来最も権力のある最高指導者
で、選挙を気にする必要はありません。
オーストラリアの元首相で習氏に関する著書もあるケビン・ラッド氏は「習氏は共産党をあ
らゆる問題解決の主役に据え、米国が主導する秩序に挑戦すべき時が到来したとの民族主義
的イデオロギーを推進している」、とインタビューで語っています。
経済面でも中国は準備万端です。李強首相はいかなる外部からの悪影響も「完全に相殺」す
る政策手段が中国には十分にあると述べ、関税の影響が深刻化するにもかかわらず、2025
年の成長について楽観的な見通しを繰り返しました。
元米国家安全保障会議(NSC)中国・台湾部長フォード・ハート氏はバスワニ氏に、関税
戦争は米中共に痛みを与えるが、「習氏が痛みに耐え得る許容範囲はトランプ氏とは桁違いで、
習氏は事実上、無制限に我慢できる」と語っています。
そしてアメリカ側に立つハート氏でさえ「これは政治闘争であり、恐ろしいほどの経済的代
償を払ってでも、習氏は勝利するだろう」とも述べています。
米中の政治闘争とは別に、両国の経済構造に決定的な差があります。
つまり、アメリカは金融とITを主な収入源とし、国内産業を衰退させてきました。この
ため長期的となると必需品を含めて輸入に頼らざるを得ません。
これに対して中国は、生活必要な雑貨から電気製品、さらにはIT製品まで、産業をフルセ
ットでそろえており長期の経済的闘争には耐えられます。
以上を総合的に考えると、アメリカは中国との長期の関税戦争に勝てそうもありません。
さて日本はどうする? これを次回に考えてみましょう。
注
(注1)『JIJI.COM』(2025年02月05日20時49分配信 5月10日閲覧)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025020500911&g=int&utm_source=piano&utm_medium=email&utm_campaign=
8697&pnespid=4.DMlZkI7vHWprji9Ea84eEKuB4Lry54xgB5QBYyrVaVf1TY.iNXYaXY8.1ulEqYPgMqI0J2
(注2)『ブルームバーグ』(電子版)(2025年4月10日 11:30 JST)4月17日閲覧
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-10/SUFWLYT0G1KW00
カリシュマ・バスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心に アジア政治を担当
しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材
していました
(注3)『NHK NEWSWEB』(2025年4月11日 19時25分。4月15日閲覧)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250411/k10014776771000.html
(注4)『ブルームバーグ』(電子版)(2025年4月14日 11:27 JST。4月17日閲覧)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-14/SUJDEDT0AFB400?srnd=cojp-v2