大木昌の雑記帳

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政党の政権公約(1)-自民党の経済政策-

2012-12-01 22:08:34 | 経済
政党の政権公約(1)-自民党の経済政策-


各政党の選挙公約が発表されました。

今回から何回かに分けて,各政党の選挙公約をみてゆきますが,とうてい全ての分野を扱うことはできません。

そこで,国民の関心が最も高い経済政策を中心に考えてゆきたいと思います。

第一回目は,もうすっかり政権をとったかのようにはしゃいでいる自民党についてです。

ただ,経済政策といっても,たとえば原発・エネルギー問題は日本経済に非常に大きな影響を与えますが,

これは別個に原発についての評価を書きたいと思います。

自民党の経済政策の柱は,金融緩和(市中にお金を大量に流すこと)と財政政策です。

これらを通じて,1)明確なインフレ目標2%を設定,2)名目3%の経済成長を達成,そして3)円高の是正のを図る
ことです。

このため,新政権発足後,速やかに第一弾緊急経済対策を断行し,本格的な大型補正予算と,

新年度予算を合わせて切れ目のない経済対策を実行する,としています。

これには少し補足説明が必要です。

まず,現在の日本経済はデフレ不況で物が売れず物価が低下傾向にあり,他方円高のため輸出が伸び悩んでいるという認識
から出発します。

これでは企業の利益は上がらないので,市中に金を潤沢に流すことによって個人の消費と企業の投資を増やし,

2%程度のインフレ(物価上昇)を起こさせる。

こうした一連の政策を矢継ぎ早に,かつ切れ目なく実行することによって,名目3%の経済成長を達成する。

阿部氏は,民主党はできないことをマニフェストに掲げたために政治への信頼を失わせたが,自民党は「できることしか公約
しない」と大見得を切っています。

それでは,自民党の政権公約をもう少し詳しく見てみましょう。

まず,デフレを克服しインフレを誘導するためには,個人と企業が十分な購買力と投資資金を持つ必要があります。

それでは,そのお金はどこから調達するのでしょうか。

政権公約では「大胆な金融緩和」による,としています。

具体的には,建設国債を大量(必要な限り無制限)に発行し,外債ファンドを創設して,外債を購入することです。

しかし,金額的には,外債購入より建設国債の方が圧倒的に大きくなるでしょう。

安部氏は当初,建設国債を全て日銀に直接買い取らせると言っていました。

これは垂れ流し的に日銀が札を刷ることを意味し,「禁じ手」とされています。

党の内外から激しい批判を受けて,直接の買い取りではなく,政権公約では「買いオペ」(日銀が市場を通じて株などの
有価証券を買うこと)

を通じて,と修正しています。

こうして調達した資金を何に使うかといえば,大型の公共投資(道路や橋,その他の「箱物」などの土木事業)に向けら
れます。

建設国債とはいえ結局は国の借金で,いずれ国民が何らかの方法で払うことになります。

こうしてみると,自民党の経済政策の根幹は,過去60年間,まったく変わらず,土木事業を全国で展開することです。

阿部氏が,建設国債を無制限に発行し,それを日銀に買い取らせる,と述べた直後,

株価はあがり,円の為替レートは1~2円ほど円安に振れました。

安部氏は,得意満面に,私の方針が正しかったと述べました。

現在の不況の一因として,円高のための輸出不振が挙げられます。

確かに,円安は輸出業者にとっては歓迎でしょう。


以上は,自民党の政権公約とこれまでの経過です。

それでは,今回の政権公約を実行すると,本当に「できることしか」公約しないという言葉通りになるのでしょうか。

その前に,自民党が主張する大量の建設国債の背景について少し説明しておきます。

自公民の三党が消費税の値上げを合意した際,自民党は野田首相に,合意の条件としてある要求を飲ませました。

それは,国土を災害に強くするための「国土強靱化法案」を受け入れることです。

当時,自民党は10年間で200兆円の公共事業を実施すると公言していました。

また,財界人を集めたパーティーで,ある自民党の幹部は,今回,公共事業の拡大が法律として通ったことを自慢げに報告
していました。

この法律が通ったため,事実上,全ての土木事業は「国土強靱化」事業として公共事業として認められることになるでしょう。

ついでに言えば,公明党も,災害に強い国土をつくるため100兆円の公共投資を行うことを発表しています。

建設国債を事実上無制限に発行すれば,現在でも940兆円という天文学的な国の借金が,さらに膨らむことは確実です。

すると,その元利払いのために国家予算からかなりの額を割かなければなりません。


ところで,巨額の建設国債の発行により大規模な公共事業をすれば,本当に景気は浮揚するのでしょうか。

前回のブログ記事にも書いたように,「失われた20年」の間,ずっと公共事業を「切れ目なく」行ってきましたが,
一行に景気は良くならなかったのです。

というのも,公共事業で潤うのは,一部のゼネコンだけだからです。

さらに,現在のデフレ不況のうち,国内の消費が伸びないのは,多くの日本人はすでに必要な「物」はもっていて,
新たに買う必要がないからです。

つまり,日本の国内市場は飽和状態にあるのです。

さらに深刻な問題は,国民の所得が長期減少傾向にあることです。

サラリーマンの平均年収は,平成13年の454万円から平成23年までの10年間に409万円へと激減しているのです。

購買力そのものが弱っているのです。

これには,前回も書いたように,雇用の不安定化や非正規雇用の拡大が背景にあります。

国内市場の活性化があまり期待できないとすると,輸出の拡大を目指すことになります。

円高は,確かに輸出価格を引き上げるので,日本からの輸出を不利にします。

さらに,輸出企業にとっては,輸出額を円で受け取る際に,手取りが少なくなるので打撃です。

これが,さらに輸出企業で働く労働者の賃金を押し下げることになります。

ただし,現在の輸出不振は,円高が主要因とは考えられません。

これには,ヨーロッパの金融不安,これまでの主要な輸出先だった中国経済の停滞,日本の製品(特に工業製品)が,

そもそも国際競争力を失っていることなど,複数の要因が関係しています。

もう一つ,金融緩和では景気の浮揚が望めない理由があります。

現在,日本の銀行にはお金がだぶついています。だからこそ,金利が限りなくゼロに近いのです。

問題は,一般の国民に広く回っていないことなのです。

このような状況で,さらにお金を市中に流しても,


自民党の政権公約には成長産業の育成が謳われていますが,これは,ずっと言われてきたことであり,

なかなか決定的な産業が生まれていないので実情です。

いずれにしても,財政・金融政策に依存した経済政策には限界があります。

エコノミストの間では,経済成長の3%はおろか,せいぜい1%程度が限界という厳しい見方があります。

さらに,国債の発行で市中に大量のお金がばらまかれた場合,大きな危険も考えられます。

まず,ハイパーインフレと呼ばれる急激かつ激しいインフレで,物価が急激に上昇してしまう危険性があります。

価格の上昇は,土地や株などを持つ資産家にとっては喜ばしいことです。

しかし,多くの国民にとっては,それにともなう賃金や収入の上昇がなければ,物価の上昇で生活は一層苦しくなります。

もし,公約通り札を大量に刷ってインフレを起こせば,貧富の格差はさらに拡大するでしょう。

国債の大量発行は劇薬なのです。

ハイパーインフレを避け,かつ適正なインフレを達成・維持するのは至難の業です。

安部氏は,ある大学の経済学者のアドバイスを受けているようです。

しかし,安部氏自身がどれほど経済についての深い理解があるかどうかは分かりません。

いずいれにしても,財政・金融政策頼みの経済政策では,景気の回復は望めません。

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