遺伝子組換え企業・モンサント(2)-成長・拡大の背景-
モンサントの野望について説明する前に、遺伝子組換え作物の背景をもう少し知る必要があります。
古くは、稲なら稲の中で寒さに強かった穂、あるいは干ばつに強かった穂から採った籾を選んで翌年の種籾として使ってゆく、
という品種改良が行われてきました。
また、近年では、同じ品種の植物ではあるが、性質の違った植物個体と掛け合わせて優良品種を作る品種改良が一般的に
行われています。これは、1代雑種と呼ばれ、種の袋にはF1と表示されています。
これに対して遺伝子組換え植物は、前回書いたように、植物に昆虫や他の菌類の遺伝子を組み込んだもので、従来のもの
とは次元の異なる化け物的なキメラ植物です。
では、なぜ、モンサントは、このような化け物的な植物を作るようになり、なぜそれがアメリカを席巻し、開発途上国を飲み込
みつつあるのかを見てみましょう。
前回の冒頭で書いたように、ベトナム戦争後,枯葉剤の売り上げは激減したため,モンサンとの主力商品はランドアップとい
う、世界で最も売れている除草剤となりました。
ところが、ラウンドアップの特許が2000年に切れたので,どの企業もランドアップと同じ原料と組成で,いわばジェネリック除
草剤を作ることができるようになりました。
そこで,ラウンドアップの売り上げを増やしつつ,全く新たな商品を開発することを追求しました。
それが,ラウンドアップに耐性をもった遺伝子組換え作物の開発です。
ラウンドアップで除草するということは,植物全般を枯らせてしまうので,その成分が土中に残っている限り,大豆やトウモロ
コシなど収穫を目的とする作物を作るはできません。
モンサントが目指したのは,ラウンドアップを撒いても枯れない,「ラウンドアップに耐性をもった」(Roundup Ready)作物を開発
することでした。
もし,これが可能となれば,農作業の中でも最も手間のかかる除草が省け,そして通常の,あるいはもっと多くの収穫が期待
できることになります。
これだけでも,夢のような話ですが,モンサントは莫大な資金を投入して,さらに強力な武器を組み込みました。
それが,昆虫やある種の菌やバクテリアの遺伝子のうち,毒物を生産する遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え作物です。
この作物の葉や実を虫が食べると,その虫は毒物の作用で死んでしまいます。従って,殺虫剤は要らなくなる,というのが
モンサントの主張です。
農業生産者からみると,確かに,ラウンドアップを使えば除草の手間が省ける上に,遺伝子組換え作物を使えば殺虫剤も
要らなくなり,名実ともに「夢の組み合わせ」です。
モンサントにとっては,特許の切れたランドアップの売り上げを増やして,遺伝子組換え作物の種苗の販売増加と,さらに
そのロイヤリティを収入を得ることができる,「夢の商品」です。
そして,社会一般に対してモンサントは,これこそ,環境を守り,世界の食糧不足を解決する最善の方法だと主張できます。
この広告するために莫大な広告費を投入したのです。フランスの場合,2000年3月~5月の2か月だけで381回もテレビの
主要局でCMを流しました。
では,この遺伝子組換え作物は本当に問題ないのでしょうか?
実は,ランドアップ耐性の遺伝子組換え作物自身に深刻な問題あり,さらにその問題を隠蔽するためのモンサントの行動と
倫理にも大きな問題があります。
まず,ラウンドアップの健康被害の問題から考えてみましょう。
ラウンドアップとは,1960年代末に発見されたグリホサートという化学物質に,モンサントが付けた商品名で,「一網打尽」と
いう意味があり,まさに意味深長な名称です(以下の記述では,両者の言葉を代替的に使用する)。
この特性は,「非選択的」または「全面的」な作用にあります。つまりあらゆる植物を枯れさせる能力です。
グリホサートは、植物体内の水分によって,直ちに茎や葉に届けられます。そこで,葉緑素やいくつかのホルモンの活動を
減退させ,組織の壊死に続いて植物の死に至る,という原理です。
その除草能力は,1970年代に,またたく間にヨーロッパに広まり,モンサントは大成功を収めました。
ラウンドアップの宣伝文句は「環境に優しい」「100%生分解性」(無害なものに分解する)「土壌に残留しない」という,いい
ことづくめでした。
ラウンドアップは農業従事者たちに大歓迎されました。大量にラウンドアップを使用して雑草だらけの畑をきれいにし,それ
から次の作物の種を蒔くことができるようになりました。
雑草の管理に手を焼いていた緑地,ゴルフ場,自動車道,鉄道などの公共施設の管理者の間でも,ラウンドアップは人気を
博しました。
しかし除草を行う人は,防水つなぎ,ガスマスク,防護ブーツに身を固め,背中にタンクを背負ってランドアップ溶液の散布を
行っていたのです。
ところが,ゴムのブーツは,ラウンドアップのために2か月でボロボロになる使えなくなってしまうのです。
しかし,他方でグリホサ-トはさまざまな健康被害(中毒症状)を引き起こしてきました。ランドアップの散布・被爆後に起きる
人体の急性中毒症状には,胃腸病,嘔吐,肺の膨張,肺炎,意識混濁,赤血球細胞の破壊などが含まれます。
実際には,1980年ころまでに少しずつ健康被害が表面化し始めました。当初,ラウンドアップを使用した農業者に起こった
健康被害は,眼や皮膚の炎症,吐き気,めまい,頭痛,下痢,眼のかすみ,発熱,虚弱などの症状でした。
カリフォルニア州では,ラウンドアップは,庭師が患ってる農業関連の病気のもっとも共通した原因でした。そして,一般の
農業従事者の場合は,農業関連の原因の3番目がラウンドアップでした。
しかし,ラウンドアップの問題は,人間への健康被害に留まらず,自然界へ甚大が環境汚染をもたらします。
かつて,日本のテレビコマーシャルで,ラウンドアップは田畑に撒いても自然に分解するのでまったく自然界には悪影響を
与えな,と繰り返し語っていました。
しかし現実には,ミミズ,土壌菌,有益真菌類に対しても毒性が強いことが分かっています。
ミミズや土中の微生物は植物の生育になくてはならない生態環境を構成していますので,これは大きな問題です。
また,森林が枯れるなどの二次被害も測定されています。
地中に撒いたラウンドアップはやがて地下水となって川や海に流出します。魚にたいする毒性が人間より100倍も強く
作用しますし,他の野生生物にも直接的,生理学的な影響がでています(注1)。
これは明らかに,モンサントの宣伝文句,「環境に優しい」「100%生分解性」「土壌に残留しない」の全てに違反しています。
ここまでは,ランドアップという除草剤だけの問題でしたが,この除草剤が遺伝子組換え作物とセットになることによって,別の
問題が加わります。
それについては次回以降で具体的に考えてゆきたいと思います。
(注1)(増補版)『エコロジスト』誌編集部編『遺伝子組み換え企業の脅威―モンサントファイル―』(緑風出版,1912年61ページ)
モンサントの野望について説明する前に、遺伝子組換え作物の背景をもう少し知る必要があります。
古くは、稲なら稲の中で寒さに強かった穂、あるいは干ばつに強かった穂から採った籾を選んで翌年の種籾として使ってゆく、
という品種改良が行われてきました。
また、近年では、同じ品種の植物ではあるが、性質の違った植物個体と掛け合わせて優良品種を作る品種改良が一般的に
行われています。これは、1代雑種と呼ばれ、種の袋にはF1と表示されています。
これに対して遺伝子組換え植物は、前回書いたように、植物に昆虫や他の菌類の遺伝子を組み込んだもので、従来のもの
とは次元の異なる化け物的なキメラ植物です。
では、なぜ、モンサントは、このような化け物的な植物を作るようになり、なぜそれがアメリカを席巻し、開発途上国を飲み込
みつつあるのかを見てみましょう。
前回の冒頭で書いたように、ベトナム戦争後,枯葉剤の売り上げは激減したため,モンサンとの主力商品はランドアップとい
う、世界で最も売れている除草剤となりました。
ところが、ラウンドアップの特許が2000年に切れたので,どの企業もランドアップと同じ原料と組成で,いわばジェネリック除
草剤を作ることができるようになりました。
そこで,ラウンドアップの売り上げを増やしつつ,全く新たな商品を開発することを追求しました。
それが,ラウンドアップに耐性をもった遺伝子組換え作物の開発です。
ラウンドアップで除草するということは,植物全般を枯らせてしまうので,その成分が土中に残っている限り,大豆やトウモロ
コシなど収穫を目的とする作物を作るはできません。
モンサントが目指したのは,ラウンドアップを撒いても枯れない,「ラウンドアップに耐性をもった」(Roundup Ready)作物を開発
することでした。
もし,これが可能となれば,農作業の中でも最も手間のかかる除草が省け,そして通常の,あるいはもっと多くの収穫が期待
できることになります。
これだけでも,夢のような話ですが,モンサントは莫大な資金を投入して,さらに強力な武器を組み込みました。
それが,昆虫やある種の菌やバクテリアの遺伝子のうち,毒物を生産する遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え作物です。
この作物の葉や実を虫が食べると,その虫は毒物の作用で死んでしまいます。従って,殺虫剤は要らなくなる,というのが
モンサントの主張です。
農業生産者からみると,確かに,ラウンドアップを使えば除草の手間が省ける上に,遺伝子組換え作物を使えば殺虫剤も
要らなくなり,名実ともに「夢の組み合わせ」です。
モンサントにとっては,特許の切れたランドアップの売り上げを増やして,遺伝子組換え作物の種苗の販売増加と,さらに
そのロイヤリティを収入を得ることができる,「夢の商品」です。
そして,社会一般に対してモンサントは,これこそ,環境を守り,世界の食糧不足を解決する最善の方法だと主張できます。
この広告するために莫大な広告費を投入したのです。フランスの場合,2000年3月~5月の2か月だけで381回もテレビの
主要局でCMを流しました。
では,この遺伝子組換え作物は本当に問題ないのでしょうか?
実は,ランドアップ耐性の遺伝子組換え作物自身に深刻な問題あり,さらにその問題を隠蔽するためのモンサントの行動と
倫理にも大きな問題があります。
まず,ラウンドアップの健康被害の問題から考えてみましょう。
ラウンドアップとは,1960年代末に発見されたグリホサートという化学物質に,モンサントが付けた商品名で,「一網打尽」と
いう意味があり,まさに意味深長な名称です(以下の記述では,両者の言葉を代替的に使用する)。
この特性は,「非選択的」または「全面的」な作用にあります。つまりあらゆる植物を枯れさせる能力です。
グリホサートは、植物体内の水分によって,直ちに茎や葉に届けられます。そこで,葉緑素やいくつかのホルモンの活動を
減退させ,組織の壊死に続いて植物の死に至る,という原理です。
その除草能力は,1970年代に,またたく間にヨーロッパに広まり,モンサントは大成功を収めました。
ラウンドアップの宣伝文句は「環境に優しい」「100%生分解性」(無害なものに分解する)「土壌に残留しない」という,いい
ことづくめでした。
ラウンドアップは農業従事者たちに大歓迎されました。大量にラウンドアップを使用して雑草だらけの畑をきれいにし,それ
から次の作物の種を蒔くことができるようになりました。
雑草の管理に手を焼いていた緑地,ゴルフ場,自動車道,鉄道などの公共施設の管理者の間でも,ラウンドアップは人気を
博しました。
しかし除草を行う人は,防水つなぎ,ガスマスク,防護ブーツに身を固め,背中にタンクを背負ってランドアップ溶液の散布を
行っていたのです。
ところが,ゴムのブーツは,ラウンドアップのために2か月でボロボロになる使えなくなってしまうのです。
しかし,他方でグリホサ-トはさまざまな健康被害(中毒症状)を引き起こしてきました。ランドアップの散布・被爆後に起きる
人体の急性中毒症状には,胃腸病,嘔吐,肺の膨張,肺炎,意識混濁,赤血球細胞の破壊などが含まれます。
実際には,1980年ころまでに少しずつ健康被害が表面化し始めました。当初,ラウンドアップを使用した農業者に起こった
健康被害は,眼や皮膚の炎症,吐き気,めまい,頭痛,下痢,眼のかすみ,発熱,虚弱などの症状でした。
カリフォルニア州では,ラウンドアップは,庭師が患ってる農業関連の病気のもっとも共通した原因でした。そして,一般の
農業従事者の場合は,農業関連の原因の3番目がラウンドアップでした。
しかし,ラウンドアップの問題は,人間への健康被害に留まらず,自然界へ甚大が環境汚染をもたらします。
かつて,日本のテレビコマーシャルで,ラウンドアップは田畑に撒いても自然に分解するのでまったく自然界には悪影響を
与えな,と繰り返し語っていました。
しかし現実には,ミミズ,土壌菌,有益真菌類に対しても毒性が強いことが分かっています。
ミミズや土中の微生物は植物の生育になくてはならない生態環境を構成していますので,これは大きな問題です。
また,森林が枯れるなどの二次被害も測定されています。
地中に撒いたラウンドアップはやがて地下水となって川や海に流出します。魚にたいする毒性が人間より100倍も強く
作用しますし,他の野生生物にも直接的,生理学的な影響がでています(注1)。
これは明らかに,モンサントの宣伝文句,「環境に優しい」「100%生分解性」「土壌に残留しない」の全てに違反しています。
ここまでは,ランドアップという除草剤だけの問題でしたが,この除草剤が遺伝子組換え作物とセットになることによって,別の
問題が加わります。
それについては次回以降で具体的に考えてゆきたいと思います。
(注1)(増補版)『エコロジスト』誌編集部編『遺伝子組み換え企業の脅威―モンサントファイル―』(緑風出版,1912年61ページ)