大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

東京五輪へ天皇陛下の懸念―国民の気持を代弁―

2021-06-27 10:12:54 | 社会
東京五輪へ天皇陛下の強い懸念―国民の気持を代弁―

宮内庁の西村泰彦長官は24日の定例記者会見で、天皇が名誉総裁を務める東京オリン
ピック・パラリンピックが近づいてきたことについて質問され、次のように語りました。

    天皇陛下は現下の新型コロナウイルス感染症の感染状況を大変ご心配しておられ
    ます。国民の間に不安の声があるなかで、ご自身が名誉総裁をお務めになるオリ
    ンピック・パラリンピックの開催が感染拡大につながらないか、ご懸念されてい
    る、ご心配であると拝察しています。私としましては、陛下が名誉総裁をお務め
    になるオリンピック・パラリンピックで感染が拡大するような事態にならないよ
    う組織委員会をはじめ関係機関が連携して感染防止に万全を期していただきたい、
    そのように考えています。

西村長官は、陛下との日々のやりとりの中で自らが感じたことだとして、「直接そういう
お言葉を聞いたことはありません」と説明。一方、大会組織委員会などの関係機関に対し、
開催が感染拡大につながらないよう「連携して感染防止に万全を期していただきたい」と
話しました(注1)。

この西村長官の話に続いて記者との質疑応答がおこなわれ、テレビでも放送されました。

記者  確認したいのですが、天皇陛下が五輪で感染拡大することを懸念している、とい
    うことですか?

長官  私の拝察です。陛下とお話ししている中で私が肌感覚として感じているというふ
    うに受け取っていただきたい。 

記者  仮に拝察だとしても長官の発言として報道されれば影響があると思うんです。発
    信してもいい情報ですか?

長官  はい。オン(オフレコードではなく公にしてよい「公式」)の発言だと認識して
    います。私として感染拡大するような事態にならないよう組織委員会をはじめ関
    係機関が連携して感染防止に万全を期していただきたい。

すると、直後に記者会見を開いた加藤勝信・官房長官が即座に「天皇陛下の心」を否定し、
「長官自身の考え方を述べられたと承知している」とコメントしました。

西村長官が勝手に言ったことで、天皇の考えではないと言いたいのだろう。さらに翌25日
になると、丸川珠代・五輪相も会見で加藤官房長官に追随して、「私どもとしては、長官
ご自身の考えを述べられたものと承知している」 。

そして、とどめは菅義偉・首相が、 「長官本人の見解だと理解している」  と記者団に語
って「陛下の考えではない」と決めつけてしまいました。

麻生財務相は「長官の気持ちを言われたのかもしれない」と述べた。「長官は陛下の言葉を
代わりに伝えることは普通はない。そういうルールじゃん。」、とコメントしました。

このような、反応は逆に、現政権がいかに長官の言葉に衝撃をうけ狼狽しているかを浮き彫
りにしてしまいました。

西村長官ですが、彼は日本の警察官僚出身で、 第10代宮内庁長官。 第90代警視総監、第19
代内閣危機管理監、第14代宮内庁次長等を歴任、という経歴の持ち主です。

このような経歴の人物が、天皇陛下の気持を確認もせず、個人的な意見など言うはずはあり
ません。そのことが分かっているからこそ、閣僚が大慌てで、打ち消しに走ったというのが
実情でしょう。

もし、そうでなければ、彼らはよほど鈍感で国会議員の資格はありません。

皇室に詳しい、名古屋大学大学院の河西秀哉准教授は、テレビの取材に答えて、
    今回の長官の発言は、陛下の思いを国民に伝えるギリギリの方法だった。実質的に
    は長官が天皇のことを「推察している」と言ったら、天皇の意見。そういう言葉を
    使うことで和らげている、ということ。
    天皇と長官がきちんと相談してこういう風に発表していいという、ある種、お墨付
    きをもらっているからこそ長官は自信をもって発言していると思う。

別の皇室ジャーナリストも、天皇と異なる意見を長官が公に言うことは考えられない、と同
様のコメントしていました。

このジャーナリストによれば、陛下はわれわれが想像する以上に、今回の感染症に関して、
たとえば尾身分科会会長に直接聞くなど、とにかく非常に詳しい知識と情報を持っていると
のことです。

専門家でなくても、今回の長官の発言を日本人の多くは、天皇陛下が今回のオリンピック・
パラリンピック開催により新型コロナウイルスの感染が拡大することを、心底懸念している
んだな、と感じたのではないでしょうか?

天皇陛下の東京五輪に対する“懸念”は海外でも大きな波紋を呼びました。

アメリカ有力紙『ワシントン・ポスト』は「東京五輪は天皇から重要な不信任決議を得た」
と報道しました。

その記事には、「天皇は東京五輪の名誉総裁であり日本では広く尊敬されているが、政治的
権力はない」としたうえで「彼がそのような重要で物議を醸すトピックについて話すことは
まれだ。だからこそ彼の言葉は重要だ。警告は政府と国際オリンピック委員会(IOC)を
当惑させるだろう」と新型コロナ禍が深刻化する中での東京五輪の開催論議に大きな影響が
出ると指摘しています。

ただ同紙は「主催者の間に心変わりを引き起こすには、ほぼ間違いなく遅すぎた」とも付け
加えており、開幕まで1か月となった現時点では開催中止はもはや難しいとの見解も示して
います(注2)。

『ワシントン・ポスト』の見解は、長官の言葉を天皇の言葉と解釈しています。これはおそ
らく国際常識であり、ほとんどの日本人も共有している思いでしょう。

ところで、先に引用した河西准教授が「ギリギリの方法」といった言葉にはいくつかの背景
があるように思います。

まず、日本国憲法では、天皇は「国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しな
い」(第4条)と定められているため、政治的発言を直接に発することはできません。

そこで天皇は、政治的発言という形を避け、しかし何とか自分の懸念を国民と政府に伝える
ギリギリの方法として採られた方法が、長官の「推察」という方法だったのだと思う。

したがって、天皇と長官との間に綿密な調整があったと考える方が普通でしょう。

ただし、考えてみれば、天皇はオリ・パラの名誉総裁という立場にあり、しかもオリ・パラ
は、建前としてはスポーツの祭典であるから、これに対して何かを言うことは、決して憲法
に触れることではない、という意味でも、ギリギリ憲法に触れない動きだった。

もう一つの「ギリギリ」は、開会まであとひと月というタイミングです。もし、これが2か
月とは3か月前であったなら、「懸念」はたんに感染拡大だけでなく、オリ・パラの開催自
体の可否が問題となった可能性はある。

しかし、1か月前ということで、もはや開催中止はできない、というタイミングで長官に発
言させたのは、政府に対する配慮があったものと思われます。このあたりの配慮を菅首相は
分かっているのでしょうか?

中止はともかく、まだ、感染拡大防止のために「無観客」という方法は残っているので、感
染拡大防止に最大限の努力をして欲しいという強い思いがあったのだと私は「推察」します。

というのも、天皇陛下は、東京五輪の名誉総裁ですから、五輪が感染を拡大させてしまった
としたら道義的な責任を感ずることになるでしょう。

もう一つ、開会に当たっては、慣例として開催国の元首が、「お祝い」の言葉を述べることが
オリンピック憲章で決められています。

天皇とすれば、国論を二分するような現状の中で、自ら「お祝い」という言葉を発しなければ
ならないことに深い違和感あるいは戸惑いをかんじているのではないでしょうか。

現段階では、果たして天皇陛下がどのような形で開会の挨拶をするのかは決まっていないので
す。これは、少し異常な事態です。

いずれにしても、今回の長官の言葉は、どんな反対があろうとも東京五輪は開催する、と突っ
走っている菅内閣に、冷や水を浴びせたことは間違いない。

おそらく菅首相の心のうちは、「西村長官は面倒なことを言いやがって」と煮えくり返ってい
るでしょう。

”普段は「保守だ」「天皇への尊崇だ」と軽口を叩いていても、彼らの尊王の心などこんなもの
なのだ。菅内閣と、それを支える「保守派」の誠意と良心が問われている”ことは間違いありま
せん(注3)。

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梅雨の季節を象徴するアジサイも終わりに近づきつつあります                        代わってムクゲの花が初夏への季節の変化を感じさせます
     

(注1)『NEWS ポストセブン』(2021年6月25日 16:05配信) https://news.yahoo.co.jp/articles/edfd4f2fcee3f1d22acf84ff38273ad3727b99ff?page=2
(注2)『東スポ Web』 https://www.tokyo-sports.co.jp/sports/3340104/ (2021年06月24日 18時33分
(注3)(注1)と同じ。

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大谷翔平―若き「宇宙人」が与える感動―

2021-06-20 11:44:07 | スポーツ
大谷翔平―若き「宇宙人」が与える感動―

アメリカではメジャーリーグ野球で大谷翔平(26)の投打にわたる活躍が止まりません。

最近では、相手チームのホーム球場でも、観客は大谷翔平の並外れた能力に対する期待と
興奮で盛り上がっています。

野球にあまりくわしくない私でも、映像でみる大谷翔平のすごさは、見ていて爽快感と感
動を覚えます。大谷翔平は、まさしくスーパースターです。

彼は何事もなかったかのように涼しい顔をして、目の覚めるようなホームランを打ち、投
げては速球と変化球を巧みに投げ分けてはバッターを討ち取ります。

まるで、マンガに出てくる主人公のような、現実の世界では起こり得ない「二刀流」を実
際に見せてくれます。

現地の実況担当者も、WOW WOW !! といった感嘆詞しか発せられない興奮状態
です。

ある解説者は大谷翔平を「宇宙人」(space alien) という表現で、彼のすごさを表現してい
ます。

投手としての大谷翔平の素質や技術について、私には全く分かりませんが、彼の投げるボ
ールのスピードは、ある程度練習を積めば獲得できるのかも知れません。

彼が、そのためにどれほどの練習をし、身体を鍛えているか分かりませんが、プロの選手
なら誰でも必死の思いで練習していると思われます。

それでも差がつくのは、彼が練習の成果を超える、生まれもって与えられた「天賦の才」
(英語では、神が与えてくれた能力 ギフト giftと言います)としか考えられません。

打者として、彼が打つホームランは美しい弾道を描いて軽々とスタンドに飛び込みます。
彼は、まさに「宇宙人」としか言いようのない天才的なセンスをもっているようです。

野球の世界でよく言われるのは、守備は練習でうまくなるが、打撃は先天性のセンスの
問題で、これは練習してもなかなか上達しない、と言います。

大谷のバッティングは、全力でバットを振るというより、バットがボールにパシッと当
たるその瞬間に全ての力がバットに伝わる打ち方に見えます。

このため、軽々と打っているようで遠くは飛ぶのだと思います。

これは、目でとらえた自分に向かってくるボールの速さと、自分の体の感覚を瞬時に判
断して反応しているからです。

この動きはほとんど無意識で、自動的に起こっていると思われます。実際、猛スピード
で飛んでくるボールに対してあれこれ考える時間はありません。

だからこそ、これは生まれ持って賦与されている才能だと私は思います。

もっとも、この一連の反応の能力を、身体が自動的に反応するまで練習を積み重ねるこ
とによってある程度は獲得できる可能性はありますが、それにも限界があります。

かつてイチローがベースの前で地面に着きそうなくらいの低いボールを巧みなバットさ
ばきでヒットにしてしまったとき、アメリカの解説者が、イチローの「並外れたハンド
・アイ・コーディネーション」(目で捉えた情報と体の動きの連動)と表現をしました。

これは、自然界では動物が、ごく普通にやっていることで、行動科学では「アフォーダ
ンス」と呼ばれています。よく引き合いに出されるのが、海の魚を捉えるカツオドリの
動作です。

カツオドリは海の中に獲物の魚を見つけると魚の移動する方向と速度を確認して、その
近くまで羽を広げて大急ぎで飛び、その後急降下して海に飛び込み、魚を捉えます。

この時、目で確認した海との距離、羽に当たる空気の流れで自分のスピードを確認し、
水の抵抗を小さくするために、海に突っ込む最後の瞬間に羽を縮めて水中に突っ込みま
す。

こうした動きは、ほとんどの動物が獲物を捕らえる時に自動的に行っています。

たとえば、ライオンやヒョウなどの肉食動物が獲物を捕らえる時、追いかける自分のス
ピードと、逃げる相手の動物の速度と距離を目と体の動きで感じ取り、最後に獲物に飛
びかかる瞬間を判断しているのです。

このタイミングが少しでも早すぎても遅すぎても、空振りに終わってしまいます。

大谷翔平やイチローの動きを私の趣味の渓流釣りにたとえるのは、失礼かもしれません
が、よく似た点があります。

私の渓流釣りは、日本古来の毛ばりを用いる「テンカラ釣り」で、毛ばりの着水に合わ
せてイワナはエサと認識して素早く見つけて空中で毛ばりを咥えることがあります。

この時、イワナは自分が泳いで毛ばりを捉えられるところまで猛スピードで泳ぎ、そし
て空中に降りてくる毛ばりの速度と位置を確認して、空中に飛び出してくるのです。

一方、釣り人の側から見ると、自分の毛ばりがゆっくりと水面に向かって落ちてゆくス
ピードと、おそらく魚が毛ばりに飛びつくであろう位置とタイミングを想定して、竿を
立てて針に合わせるのです。

魚が飛び出した姿を見てから竿を上げても、それでは遅すぎて、空振りとなってしまい
ます。

渓流釣りの経験のなかで最も感動するのは、こうした読みと実際の魚の動き予想が一致
して空中で魚を針に掛けて釣った時で、これもほとんど無意識の反応です。

ところで、もう一つ、あまり取り上げられませんが、私が大谷翔平の動きを見ていて感
動するのは、投げる姿も、打つ姿も、とりわけ走る姿が非常に美しい、ということです。

これは、身体の動き全体に無理がなく、無駄な力が加わっていない自然な動きだからで
す。ここにも、私は彼の「天賦の才」を感じます。

少しキザな表現を使うと、優れたものには“美”があるのです。

これまで、アメリカのメジャーリーグでは“怪力”誰々と言われたホームラン・バッターは
何人もいました。しかし、私たちはホームランの数には感心しますが、そこに“美”を感じ
ることはあまりありません。

怪力の持ち主は、太っていて、お腹が出ていて、走る姿もドタドタと重苦しい場合が多
いのに、大谷翔平は、日本人離れした長身でスリムで、そもそも立ち姿が美しいのです。

大谷翔平が、たとえホームランを量産したとしても、もし、打つ姿や投げる姿が美しく
なかったらどうでしょうか? もし走る姿が、ドタドタと重苦しかったら、今のような
人気があるでしょうか?

大谷翔平の動きに“美”を感じる点では、イチローと似たところがあります。イチローのプ
レーについて、たとえば相手チームが打った打球が自分の方に向かって来るとき、彼は
打球の速さと位置を計り通常よりも早く動き出します。

その代表的な例は、今や伝説となった、“レーザービーム”送球です。これは、イチローが
ライトを守っていた時に飛んできたボールを素早くキャッチして、3塁に向かって走って
いた走者をアウトにした、あのプレーです。

三塁でイチローのボールを受けた選手によれば、ボールは地上1メートルの高さを保った
まま真っ直ぐに飛んできたといっていました。そのボールが飛んできた軌跡が、まるでレ
ーザービームのように真っ直ぐだった、というのです。

あるアメリカ人の監督は、その時、彼の身体の全ての動きが、ボールを投げるその瞬間に
伝わるように連動する、そのスムーズさにある、と評しました。これは大谷翔平にも当て
はまります。

大谷翔平が、これからどれだけの活躍をし、どのように変貌して行かは全く分かりません。
とくに、アスリートには心身ともに年齢という避けることのできない壁があります。

しかし彼の存在は、野球ファンだけでなく、私たちに、人間のもっている底知れない能力
を見せてくれます。

コロナ禍でうっとうしい雰囲気が覆っている日本で、大谷翔平がこれほどの希望、喜び・
感動を与えてくれるのは大きな救いです。

これからも、毎日、OHTANI SHOW TIME を楽しみにしています。
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今年も庭のフランボワーズのジャムが5ビンできました。これでほぼ1年間、大事に食べます。          庭のトマトが、まるでブドウのようにたくさん実をつけています。
    



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東京五輪の開催―菅首相の理念なきギャンブル―

2021-06-13 15:55:21 | 社会
東京五輪の開催―菅首相の理念なきギャンブル―

6月3日の参議院厚生労働委員会で、政府の分科会の尾身会長は、東京オリンピック・パラリン
ピックについて、「本来は、パンデミックの中で開催するということが普通でない。それを開催
しようとしているわけで、開催するのであれば、政府もオリンピック委員会もかなり厳しい責任
を果たさないと、一般の市民もついてこないのではないか。開催するなら、そういう強い覚悟で
やってもらう必要がある」と強調しました(注1)。

この発言をニュースで見て、“あれっ”と思った人は私も含めて多いのではないでしょうか?

というのも、これまで尾身会長は、政府の言うことを聞く“御用学者”とみなされてきて、菅首相
の会見の際に菅首相が答えに詰まると、“先生の方から何か”というように、振られるたびに政府
を擁護するように助け舟を出してきたからです。

しかし、感染拡大が止まらず、収まったかと思うと再燃することを繰り返してくると、さすがに
「研究者の良心」が目覚めたのかな、と思いました。

菅首相にしてみれば、“飼い犬に手をかまれた”思いではないでしょうか。

政権のある幹部は「彼らが一体何を知っているのか。人の流れや五輪競技について分かるのか」
「現場を知らない作文だ」。感染症対策の専門家らが五輪に関する発信を強めることに、政権幹
部は一様にいら立ちを見せています。

しかし、感染症と医療現場について政権幹部は何を知っているのか、と逆に問いたい。
派閥の後押しがない菅首相にとって、長期政権を目指すなら、何がなんでもオリパラを開催し、
国民の盛り上がりを自分の成果として衆議院総選挙と自民党総裁選に打って出るつもりのよう
です。

もう一つ菅首相が成果としてアピールしようとしているのは、迅速なワクチン接種の拡大です。
確かに、現在は当初より速く接種は進んでいるようですが、考えてみれば、欧米のワクチン争
奪戦は昨年の秋には始まっており、早い国では今年の1月から接種が始まっています。

日本は、この争奪戦に出遅れてしまい、「ワクチン敗戦」とも評されています。世界の動きか
ら周回遅れのワクチン接種です。当初から、ワクチン確保に力を入れておけば、今頃はコ
ロナ対策もオリンピックの環境も全く違っていたでしょう。

この点を政府は素直に認めるべきでしょう。

今、菅首相は、なりふり構わず必死でワクチン接種を加速化させるよう、あらゆる場に圧力を
かけているので、接種は実際かなり進んでいるようです。

しかし「八割おじさん」で有名な西浦博京大教授は6月9日、高齢者のワクチン接種が順調に
進んだとしても、8月初めに再び緊急事態宣言を出すレベルの流行が来るとする最新のシミュ
レーションを公開しました。このデータは同日開催された厚生労働省のアドバイザリーボー
ドでも提示されました(注2)。

“8月始め”と言えば、オリパラ真っ盛りの時期です。

もし菅首相が、このシミュレーションを真摯に受け取るならば、今からでも遅くはありません、
徹底的に規模を縮小するか、中止するかを真剣に考えるべきです。

それにしても、オリパラは日本だけが参加するわけではなく、世界中の国や地域が参加するわ
けですから、WHOはパンデミックと宣言中で解除されておらず、さらに発展途上国において
はワクチンも供給されていない現状でも東京オリンピックを強行するのは、菅首相にどんな理
念があるのでしょうか?

思えば、今回のオリンピックの開催を正当化する理念は「復興オリンピック」から出発しまし
た。その時安倍首相は世界に向かって、福島第一原発から漏れ出る放射性物資を含んだ汚染水
は、湾の中で「アンーダー・コントロール」されている、という真実でないことを世界に向か
って言いました。

しかし今や、政府から「復興五輪」などという言葉は全く出てきません。そして、当の3・11
で被害を受けた東北三県(岩手、宮城、福島)では、「復興五輪」の理念はすかるかすんでし
まい、これに関連したイベントはほぼ消滅しています(『東京新聞』2021年6月13日)。

その後、安倍氏は東京五輪の理念として、「復興五輪」を取り下げ、「人類がコロナに打ち勝
った証として」という文句を掲げるようになった。


これは、安倍政権を途中から引き継いだ菅政権も、しばらく安倍氏の理念を持ち出していたが、
実態は、コロナに打ち勝ったどころか、昨年末から今年の5月まで、激烈な感染拡大が起こり、
春からは金事態宣言が発令されました。まさに「コロナに打ち負けた」証ばかりが目立ってい
ます。

このため、さすがにこのフレーズは使われなくなり、今では「安全、安心な大会を実現するこ
とにより、希望と勇気を世界中にお届けできるもの」という表現に変わってきています。ほと
んど説得力を持たない空疎な言葉です。

しかし、ワクチンを買うお金もなく、練習やオリンピックへの参加そのものさえ危ぶまれてい
る貧しい国の人たちに、どんな希望や勇気をあたえられるというのだろうか?

国会でも、このコロナ禍の中で、なぜ東京五輪を開催するのかと、何度も問われても能面のよ
うに無表情で「国民の命と健康を守る」という言葉を呪文のように繰り返すだけです。

この光景を見ていると、この人には語るべき「理念」などないとしか思えません。

その本心としては、“今は反対していても、いざ始まってしまえば日本国中がオリンピックで
盛り上がるに違いない”、と国民を見下した思いが透けて見えます。

私は、科学的なシミュレーションがオリンピックの最中に感染が拡大することを予測してい
るのに、強行することには重大な問題があると考えています。

これに対して、菅首相はこれまで、オリンピックの開催に関して「安全・安心」という精神
論を繰り返すだけで、その化学的な根拠を示してきていません。

私には、どう考えても西浦氏のシミュレーションの方が説得力をもっていると思われます。

ひょっとしたら、オリンピックを開催してもコロナの感染はそれほどでもないかもしれない
し、その後で感染が激増するかもしれません。それは誰にも確実なことは言えません。

オリンピックの開催は、支持率が低下しつつある菅政権にとって、一つの大きな「賭け」、
あるいはもっと平たく言えば「ギャンブル」です。

しかし政治家は絶対に、国民の命と健康を的(対象)にしたギャンブルを行ってはいけま
せん。

菅首相はおそらく、ワクチン効果もあるので、感染はそれほど問題にならない、と踏んで
いるのでしょう。

あるいは、かつて太平洋戦争の時に、自分は日本の安全な場所にいて、戦況報告をうける
と、“我が方の損害は軽微”といった軍の幹部のように、オリンピックで感染者や死者が多
少出ても、政権幹部は、“損害は軽微”、という言い方で無視するのでしょうか。

自分たちは、満員電車で毎日通勤することも、感染の危険に身をさらうこともなく、食事
も安全な高級レストランや料亭でゆったりと仲間と楽しむことができるかも知れません。

他方、感染が広がれば、それで苦しむ人、亡くなる人がおり、その家族・友人・知人は悲
しみます。また、医療関係者は休むこともできずに過酷な状況に追い込まれます。

菅政権にとっては、こうした人たちの一人一人の人生に思いを馳せるというより、統計数
字で、何人が感染し、重症となり死亡したのか、“損害が軽微かどうか”だけが重要なので
しょう。

一体誰のため、何の為に東京五輪を開催しようとしているのか、と菅政権の理念なき開催
に、スポーツ・ライターの谷口源太郎さんは、怒りをあらわにしています。まったく同感
です(『毎日新聞』2021年6月9日 夕刊)。

ちょっと話はずれますが、私がとても不快で、嫌悪感をもつのは「人流」という、コロナ
禍で突如登場した造語です。

この言葉はおそらく「物流」にたいする意味で考案された行政用語なのかも知れませんが、
そこには為政者が国民を上から目線で、人の動きを「物の流れ」のように冷たく見ている
響きがあります。

なぜ、「人出」とか「人の動き」ではいけないのでしょうか?


(注1)NHK WEB (2021年6月3日) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210603/k10013065271000.html
(注2)『毎日新聞』デジタル 2021年6月9日 https://mainichi.jp/articles/20210609/k00/00m/040/280000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20210610 ;
日経新聞 デジタル(2021年6月10日更新)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA091TH0Z00C21A6000000/
m3.com ニュース 医療維新 (レポート 2021年6月10日 (木) 橋本佳子(m3.com編集長)) https://www.m3.com/news/open/iryoishin/926376



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大坂なおみの問題提起―その真意と波紋―

2021-06-06 07:17:35 | スポーツ
大坂なおみの問題提起―その真意と波紋―

すでに多くのメディアが報じているように、大坂なおみは、現在パリで行われているテニス
の四大大会(全米、全豪、全英、全仏オープン。別名グランドスラム)の一つ、全仏オープ
ンの女子シングルスの一回戦(5月30日)で勝利した試合後の記者会見を拒否しました。

実は、この試合に先だつ5月26日、大坂はツイッターで試合後の記者会見を行わないこと
を宣言していたのです。

こ際大坂はツイッターで、試合で負けた選手に対して質問に答えるよう求めるのは、「倒れ
ている人を蹴りつける」行為に相当すると訴えました。

そして、「アスリートのメンタルヘルス(心の健康)への配慮がまったくないと感じること
が多い。記者会見を見たり、臨んだりすると、いつもそう思う」「アスリートの心の健康状
態が無視されていると感じていた。自分を疑うような人の前には出たくない」などとも書い
ています。

「会見場に座ると、これまで何度も質問されてきたことを聞かれたり、不信感を覚える質問
を受けたりする。私に対して不信感を抱えている人たちの前には、もう出ない」と表明した。

このニュースを聞いた時、私は本当にびっくりしました。といういのも、大坂は、これまで
の規則で、試合後の記者会見を拒否すれば、罰金や失格、さらには四大大会への出場停止ま
でありうることを十分に知ったうえで、会見拒否を宣言したからです。

四大大会というのは、テニス界においては最高峰の舞台で、そこに出るだけでも大変なのに、
敢えて会見の拒否宣言を行うことは、最悪、テニス人生を棒に振るかもしれません。

この段階では、大坂はウツ(病)のことは発表していませんでした。

ただ、大坂は以前、黒人が白人警官に殺されたことをきっかけに、「黒人の命も大切だ」
(Black Lives Matter)への共感を示すために、昨年の全米オープンの試合で、6日間、毎回、
理不尽に殺された黒人の名前を書いたマスクを着けて試合に臨んだことが、世界に大きな影
響を与えたことを記憶しているので、今回も、何か、重大なメッセージがあるにちがいない、
とは感じていました。

そして、5月30日の1回戦後、大会前の宣言通り、試合後の記者会見を拒否した。この行動
に対して、4大大会の主催者は合同で罰金と規則を警告し、大会主催者は1万5000ドル(約
165万円)の罰金を科しました。

4大大会の主催者が合同で警告した「大会からの失格」「4大大会の出場停止」は、感情的で
思いつきの圧力ではない。少なくとも4大大会ルールブック(規則集)にのっとっています。

ただ、公平を期すために補足しておくと、26日の記者会見ボイコット発言後、大会主催者
は大坂に再考を求め、健康状態について確認しようとしたが、うまくゆかなかった、と説明
しています。

4大大会規則の核となる要素として、選手は試合結果に関わらずメディア取材に応じる責任
があるということがある。この責任はテニス、ファン、選手自身のためのものだ。

大坂なおみには、今大会中にメディア取材の義務を無視し続ければ、行動規範へのさらなる
違反に問われる可能性があると通告した、とも付け加えています(注1)。

30日の1回戦後、大会前の宣言通り、試合後の記者会見を拒否した。この行動に対して、4大
大会の主催者は合同で罰金と規則を警告し、大会主催者は1万5000ドル(約165万円)の罰金
を科していました。

4大大会の主催者が合同で警告した「大会からの失格」「4大大会の出場停止」は、感情的で
思いつきの圧力ではない。少なくとも4大大会ルールブック(規則集)にのっとっています。

一応、そのルールを確認しておきましょう。

2021年規則集の第3条「選手の会場での違反」のH項に「記者会見」があり、その条文には、
「けがや体の不調でない限り、勝敗に関係なく会見に参加しなくてはならない」とある。そ
して違反した場合、「違反した選手は最大2万ドルの罰金を科される」

大会からの失格は、同条のT項に「失格」とある。そこには「大会レフェリーは、4大大会
監督者とともに、1度の違反や、その違反の段階に合わせて失格を通告できる」とある。つ
まり、悪質とみられた違反は、レフェリーと監督者が失格を宣告する権限を持っている。

4大大会の出場停止は、第4条「選手の重大な違反」のA項「悪質な行為」の3による。「12
カ月間に2回以上の違反があり、4大大会に悪影響を与える行為」が悪質な行為となり、この
違反は「最大25万ドル(約2750万円)か獲得賞金の多い方の罰金に加え、最高で4大大会す
べてのプレーを永久に停止する対象となる」と公式に書かれている(注2)。

以上見たように、規則上、大会主催者の対応には規則上、なんら問題はありません。

大坂は第一戦で勝利した後で、第二戦を棄権することも発表しました。これは、大坂が採り
うる最善の行動でした。というのも、第二戦に出て、再び会見を拒否すれば、こんどこそ以
下に示すように規則上、「選手の重大な違反」と「2回以上の違反」となり、「悪質な行為」
と判断されてしまう可能性があるからです。

さまざまな分野のアスリートたちは、たとえば男子テニスの頂点に立つジョコビッチのよう
に当初、大坂なおみの気持ちは理解できる、しかし、プロならば「会見も仕事の一部」とい
うコメントが多かったように思います。

実は、私も最初はそのように思っていました。

また、別のテニス選手は、自分たちが高収入を得ていること、自分たちの活躍を世界に知ら
せてくれるのはメディアのおかげであることを考えれば、試合後の記者会見はやはり義務だ、
というコメントも少なくありませんでした。

しかし31日、「うつ」を告白するツイッターを境に、大坂への批判的なコメントは止み、
共感と、支持のコメントが一斉によせられました。

その告白の中で重要な部分とは
    さらに重要なことは、私はメンタルヘルスを矮小化したり、軽々しくその言葉をつ
    かったりしないということです。実は2018年の全米オープン以降、私は長い間うつ
    を患い、対処するのに本当に苦労してきました。・・・・・
    本当に緊張して、いつも最善の答えができるようにすることは大きなストレスです。
    このためパリでは、すでに不安で傷つきやすい状態になっていたので、自分を守る
    ためにも記者会見を回避した方がよいと思いました。

最後に、しばらくコートから離れること、一時的に試合には出ないことを述べていまます

このツイートを見て四大大会側は翌日、「可能な限りのサポートと援助を提供したい。彼女
は卓越したアスリートで、自身が適切に判断した時の復帰を楽しみにしている」と、大坂の
言動を支持する共同声明を発表しました。

一旦は、「会見も仕事」を強調したジョコビッチも、「彼女に共感する。とても勇気ある行
動だった」とし、うつの告白には「時間をかけて考え、充電する必要があるなら尊重する」
と、大坂を気遣っている。

さらにジョコビッチは、以前と違って、選手とファンとのコミュニケーションは、大坂が実
際にやっているように、SNSそのたの媒体を通じてもできるので、今後はそうした時代の
変化も考えてゆくべきだ、とも語っています(『東京新聞』2021年6月2日)。

ところで、大坂なおみの問題提起は、四大大会の規則集にある「けがや体の不調でない限り、
勝敗に関係なく会見に参加しなくてはならない」、という点です。

ここでは、試合後30分以内の会見についての規定なので、実際には「けがや体の不調」と
いう場合、「身体的な問題がない限り」という意味が想定されています。

しかし、大坂なおみは、身体のことだけでなく、心の健康(メンタルヘルス)も同様に重要
で四大大会の主催者は心の問題を過小評価(矮小化)していることに異議申し立てをしてい
るのです。

おそらく、この規則集は古い体質をそのまま引き継いでいて、アスリートの身体には気を使
うが、心の問題には関心がないようです。

この問題提起によって、大会主催者の考えがどれほど変わるのかは分かりませんが、共同声
明の文面からは、ほのかに大坂なおみの問題提起を受け入れる姿勢が読み取れます。

一人のファンとして私個人としては、あせらず時間をかけて心のリハビリをし、再びコート
に出て、力強いプレーを見せてほしい、と思うばかりです。

(注1)BBC NEWS 2021.5.31  https://www.bbc.com/japanese/57303469
(注2)『日刊スポーツ』5/31(月) 22:39配信 (Yahoo News 経由)
https://news.yahoo.co.jp/articles/51e638bb8b333524704ee41047e4100c7e111406
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障害や批判もはものともせず 猛ダッシュだ!                                      目は血走り 鬼気迫る ”何がなんでも開催するぞ”
  

『東京新聞』(2021年5月12日)                                          『東京新聞』(2021年5月30日)

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