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大木昌の雑記帳

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「ディープシーク・ショック」―AI界に激震走る―

2025-02-06 09:13:43 | 科学・技術
「ディープシーク・ショック」(1)―AI界に激震走る―

2024年12月27日は、インターネットなどコンピュータを使った情報技術界(IT界)、
とりわけ人工知能に関連した情報処理技術(AI)界において。一つの転換点になるかも
しれません。

この日、人工知能(AI)ブームによる株価上昇に熱狂していたニューヨーク株式市場に
激震が走りました。

無名の中国新興企業「ディープシーク(深度求索)」のAIが、低コストにもかかわらず
アメリカの最先端製品に匹敵する性能を持つことが明らかになり、先端半導体の需要が
急減するとの懸念が広がったためです。市場では「ディープシーク・ショック」との呼
び声も上がりました。

AIというのは、私たちの生活とは直接関係ないようですが、たとえばGoogle Chrome 
や Infoseek などの、検索アプリなどは日常的に利用しているのではないでしょうか。

これらの検索アプリでは、単語で「検索項目」を入力すると、答えてくれますが、そ
れはインターネット上にある関連した記事や動画のサイトを示す辞書的な「答え」です。

しかしAIを利用した生成AIアプリは「対話型」といって、文章で入力し、その答えは多く
の情報をまとめて独自に生成された「レポート」がかえってきます。

たとえば、世界でもっとも広く利用されている生成AIは、「オープンAI社」のChatGPTで、
たとえば「トランプの関税政策によって世界経済はこれからどうなりますか」と入力する
と、かなり詳しい答えがかえってきます。

ここで重要なことは、まず、トランプの関税政策に関する基本的な情報を集め、それらに
基づいて世界経済がどうなるかについて「推論」というプロセスを経て最終的な答えの文
章が生成され、画面に表示されます。

また、その答えについてもっと知りたいことがあれば、さらに質問を加えてゆきます。こ
うして、利用者はあたかもコンピュータと「対話」するように内容を深めてゆきます。

生成AIは、インターネット上にある既存のデータから広く学習してパターンや関連性を理
解し、独自のコンテンツを生み出すことができます。

ChatGPTは、テキスト(文字情報)はいうまでもなく、音声、画像、動画などの新しいコ
ンテンツを生成できる能力が他の生成AIより優れており、この分野では世界で最も普及し
ているといえます。

ChatGPTほど普及しているわけではありませんが、私はPerplexity、Felo(日本で開発した、
おもに検索機能に特化したアプリ)、Gensparkなども一部、画像処理などもでき、私も時々
利用します。

前置きが長くなってしまいましたが、ここからが今回の本題「ディープシーク・ショック」
です。

人工知能(AI)ブームによる株価上昇に熱狂していたニューヨーク株式市場に2025年1月27
日、突如激震が走りました。

というのも、無名の中国新興企業「ディープシーク(深度求索)」のAIが、低コストの開発
費にもかかわらずアメリカの最先端製品に匹敵する性能を持つことが明らかになったからです。

この事実が明らかになると、とりわけエヌビディア(NVIDIA)が供給していた先端半導体の需
要が急減するとの懸念が広がりました。市場では「ディープシーク・ショック」との呼び声も上
がりました。

エヌビディアは世界的な生成AIブームに乗って先端半導体の売上高を急激に伸ばしてきました。
もっと言えば、エヌビディアのAI向け先端半導体が市場を事実上独占しているため、いくら高値
を提示しても受注が絶えませんでした。

現在、エヌビディアの最先端の半導体チップ(GPU 画像処理ができる半導体)は1つ550
万円から600万円の高値で取引されています。チャットGPTが生成AIの分野で優位にたってい
るのも、エヌビディアのこうした半導体を大量に使用してきたからです。

エヌビディアの株価は右肩上がりで上昇し、時価総額は24年6月に3兆ドル(約465兆円)を突破。
マイクロソフトやアップルを抜き一時、時価総額で世界1位に躍り出ました。
 
ところが、「ディープシーク」(企業名であり生成AIアプリの名称)の登場で事態は一変したの
です。最大の特徴は、開発にわずか2カ月、約560万ドル(約8億7000万円)しか投じていないの
に、チャットGPTの最新モデルなどに匹敵する性能を持つことです。

 第三者機関のテストなどで性能を示す論文を公表すると、話題を呼び、米アップルのアプリス
トアでは先週末にチャットGPTを抜きダウンロード回数で1位に躍り出ました。

アメリカの企業は生成AIの開発に数億ドルを投じており、事実ならディープシークの開発費はケ
タ違いに安い(十分の一以下といわれています)のです。

もし、ディープシークがこれだけの低コストで生成AI開発をできたとすれば、高価格の先端半導
体は一転して「不要」となります。

「ディープシーク・ショック」の日、エヌビディアの株価は急激に下がり、一時82兆円もの時価
総額が消失しました。

このショックは、エヌビィディアの経営戦略だけでなく、アメリカのAI戦略にも大きな影響を与
えます。

ディープシークの登場の背景をみると、アメリカの中国抑え込み政策が、裏目にでたことが分か
ります。

バイデン前政権は敵対国によるAI開発が国家安全保障上の脅威になるとして、エヌビディアなど
が生産する先端半導体だけでなくもっと効率が低い半導体の中国への輸出を禁じてきました。

このため中国は官民挙げて、自国で高性能の半導体とそれを利用したソフトウエアの開発に注力
しました。その結果、エヌビディアの高性能・高価格の半導体を使わなくても、中国企業は世界ト
ップクラスのAIを開発できたのです。

この事態を、1957年10月4日アメリカに先んじてソ連による人類初の人工衛星「スプートニク1号」
の打ち上げ成功の報にアメリカがショックを受けたことになぞらえて「スプートニク・ショック」
ともいわれます。

アメリカにおいても、ディープシークの能力は否定できないものとして認められました。新興企業
に詳しい米投資家のマーク・アンドリーセン氏は24日、X(ツイッター)への投稿で、「これまで見
た中で最も素晴らしく印象的な進化だ。世界への奥深い贈り物だ」、と興奮を隠しませんでした。

彼によれば、ディープシークがAI産業を抜本的に変革する。そんな可能性があるというのです。

日本でも、この話題は取り上げられてきましたが、どちらかというと懐疑的な扱いが多いようです。
その典型は、「中国の天安門事件について教えてください」と入力すると、中国語で、「答えられませ
ん」と返ってくる、だからこれは信用しない方が良い、といったコメントさえあります。

しかし、ディープシークの登場が持つ最も重要な意義は、もっと他にあります。

まず、もはや、高額なエヌビディアの半導体チップを使わなくても、低コストで優秀なAIアプリを
作ることができることを世界に証明して見せたことです。この点については後でもう一度触れます。

これからは、AIやITの世界で挑戦しようとする若者や新興企業に大きなチャンスを与え、ひいてはAI
界全体の前進に貢献する。

つぎに、ディープシークのAIモデルは誰でも利用できる「オープンソース」(システムが公開された
形)として提供されており、その浸透によって、米「オープンAI社」やソフトバンクグループ(SB
G)などが開始するAI開発の「スターゲート計画」のような米側の閉鎖的な開発体制を足元から揺さ
ぶることになりました。

少なくとも、アメリカの巨大テック企業(GAFAM)やエヌビディアが世界のAI界を席巻する時
代は終わったと言えます。

この構図をもう少し詳しくみてみましょう。

たとえば従来は、エヌビディアのAI用先端半導体を効率的に動かすためには、同じくエヌビディア社
のCUDAというソフトウエアと使う必要がありました。

こうしてインターネット上の情報を収集して学習し、推論というプロセスを経て回答を導き出すという
方法をとっていました。

この作業には最も高性能の半導体(1つ500万円?)を1000個あるいはそれ以上並べて何十日も回し
続ける、といった作業となります。

ところが、CUDAというソフトウエアはとても“重い”ので、新しいAIアプリを開発するには、巨額
の資本、長い時間、大量の電気が必要でした。

つまり、アメリカの巨大ITテック企業は、まさに物量作戦と力技で開発してきたのです。

しかしディープシークは、重いCUDAを使わず、エヌビディアの半導体も使わず、国産の半導体で作
業した。この背景にはディープシーク側の技術的な“突破”(ブレークスルー)があったようです。

ディープシークは、オープンソースを効率的に学習する方法を開発しただけでなく、そこから推論して
結果(答え)を導き出す効率的な技術を独自に開発したのです。

アメリカの「オープンAI社」は、推論プロセスについてはブラック・ボックスの中に秘匿しています
が、「ディープシーク」はそのプロセスを公開しています(注3)。

ディープシークという会社の中身をみると、GAFAMのような巨大ITテック企業とは、非常に異な
る背景を持っています。

私は、少なくとも今後10年くらいは、アメリカの巨大ITテック企業は衰退に向かい、ディープシーク
のような、発想も戦略も新しいベンチャー・企業が台頭してくると考えています。

そこで、その第一号のじれいとして、ディープシークについて、すこしその背景と経緯を見ておきまし
ょう。

ディープシークの梁文鋒最高経営責任者(CEO)はオープンAI社のサム・アルトマンCEOと同じ1985年
生まれ。AI研究で知られる浙江大学を卒業し、資産運用会社のHigh-Flyer(ハイフライヤー)を立ち上げ
た。同社は数学的な手法で機械的に投資するクオンツ運用に強みがあり、運用資産は約80億ドル(約1兆
2000億円)と報じられています。

梁氏はハイフライヤーの子会社として2023年にディープシークを設立しました。米調査会社「CBインサ
イツ」によるとディープシークは外部から資金調達しておらず、AIの開発費は親会社から拠出されている
とみられています。

投資家の間であまり注目されず、突如としてAI開発レースの先頭集団に躍り出る「ダークホース」となっ
たゆえんです。

現地報道によるとディープシークの開発チームは20代が中心で、北京大学や清華大学といった中国国内の
トップ校出身者や博士課程の学生が多い。ほぼ全員が海外経験を持たない本土人材で、数学オリンピック
の入賞者も含まれるとされる(注4)。

これまで中国におけるコンピュータ技術者は主に、アメリカのシリコンバレーで働いていた中国人が担っ
ていました。

しかしディープシークでは、全く海外経験がない、優秀な若者が中心となって切磋琢磨して技術革新に挑
戦しています。

先に引用した、ディープシークに関するテレビ番組に登場した専門家によれば、中国は人口規模(13億人)
絶対的に大きく、その中から突出した天才的な人材が現れやすい、とコメントしています。

日本は今、あわててIT産業を育成しようとしていますが、内容を見ると、かつてアメリカの巨大テック
企業がやってきた物量作戦を後追いしているようにみえます。

しかし、時代は移っていて、これまでよりはるかに少ない開発費、電力の省力化、時間の短縮が可能にな
っています。

今後も、この問題については注意してゆきたいと思います。


(注1)『毎日新聞』(電子版)(2025/1/28 21:15(最終更新 1/28 21:26)https://mainichi.jp/articles/20250128/k00/00m/020/274000c?utm_
    source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailasa&utm_content=20250129
(注2)『日経新聞』(電子版)(2025年2月4日 5:00 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD030Y60T00C25A2000000/?n_cid=NMAIL007_20250204_H
(注3)BS-TBS『報道1930』2025年2月3日 の中で国立情報学研究所教授 佐藤一郎氏はこのうように説明しています。 
(注4)ディープシーク社の代表や企業の来歴については幾つものサイトがあるが、さしあたり『日経新聞』(電子版)(2025年2月2日 5:00 
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC3036V0Q5A130C2000000/?n_cid=NMAIL007_20250202_A を参照。


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