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大木昌の雑記帳

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北朝鮮とアメリカの危険なチキンレース(1)―実態は?―

2017-04-30 10:15:03 | 国際問題
北朝鮮とアメリカの危険なチキンレース(1)―実態は?―

4月6日、アメリカのトランプ大統領はアサド政権が、化学兵器を使用したとの理由で、シリアへミサイル攻撃を行った
ことについては前回と前前回の記事で書いた通りです。

実は、この攻撃には、北朝鮮への警告という狙いも込められていました。

つまり、オバマ政権では軍事力を行使することなく、話し合いを基調とした「戦略的忍耐」を外交の指針としていました
が、トランプ氏は、北朝鮮が限度を越えたらシリアと同様、アメリカは攻撃を実行する、とのメッセージを送ったのです。

では、トランプ氏はなぜ、4月の段階で、このようなメッセージを発する必要があると考えたのでしょうか。

4月は北朝鮮にとって、重要な記念式典が二つ控えており、これまで、このような式典に合わせるようにミサイルの発射
や核実験を行ってきました。

特に今年の4月15日は、北朝鮮の神格化された「建国の父」「偉大な指導者」である金日成主席の生誕105年にあた
る、非常にお目出たい日です。

そして、25日は北朝鮮軍の創建85年目にあたる記念日(建軍節)です。これも、北朝鮮にとっては非常に重要な日で、
国民の休日になっています。

このように見てくると、確かにこの二つの記念日は、大きな節目にあたっています。金正恩朝鮮労働党委員長(1984年1
月生まれ。33歳)が、世界が驚くようなことをする誘惑を抱いていることは十分に想像できます。

それを見越して、トランプ大統領は一方で、「全ての選択肢はテーブルの上にある」と言い、武力攻撃が選択肢にあるこ
とを強調しています。他方、当然のことですが、外交交渉による問題解決の選択肢もある、ということです。

また、スパイサー米大統領報道官は17日の記者会見で、「シリアでの行動をみれば分かるように、適切であれば大統領は
決定的な行動をとる」とも強調し、軍事行動に移る可能性は否定しませんでした。

メディアでは、アメリカが軍事行動を起こすのは、北朝鮮が「一線(レッドライン)を越えたとき」とし、それは核実験
を行ったか、大陸間弾道弾(ICBM)の開発した時であるとしています。

こうした外交的ブラフ(脅し)を発する一方、空母、巡洋艦、原子力潜水艦を朝鮮半島近辺に呼び寄せるなど、古典的な
「砲艦外交」を絵に書いたような軍事的圧力をかけています。

同時に、平壌上陸も想定した、大規模な米韓合同演習(金委員長の「斬首作戦」)をも暗に想定した、「フォール・イー
グル作戦」を4月末まで実施しています。

そして、北朝鮮には開発を止めるよう圧力をかける傍らで、今回の緊張状況の只中でアメリカ本国で大陸間弾道弾の実験
をしています。これで説得力はあるでしょうか?
 
では、4月15日と25日に何が起こったのでしょうか?

実際には、脅威になるような深刻ななにも起こらなかったのです。

実際には、25日には、通常兵器の長距離砲を海岸線に並べて一斉に海に向かって発砲するパフォーマンスの映像を発信
しただけでした。

安倍首相は、北朝鮮の脅威と挑発を強調しますが、ここまでのところ、北朝鮮は何も行動を起こしていません。挑発して
いるのは北朝鮮ではなく、アメリカのような印象さえ受けます。

一部の人たちは、これはアメリカの軍事圧力と、中国の説得があったから、金委員長は何もできなかったからだ、と評価
しています。

果たして、本当にそうでしょうか?

4月29日の早朝、北朝鮮は何らかのミサイルの発射実験を行いました。このミサイルは50キロほど飛行し、北朝鮮内
陸部に落下しました。

これに対してトランプ氏はツイッターで、「北朝鮮は中国と非常に尊敬されている(習近平)国家主席を尊重せず、今日
ミサイルを発射したが、失敗した。“悪いことだ”」と書きこんでいます。
(North Korea disrespected the wishes of China & its highly respected President when it launched,
though unsuccessfully, a missile today. Bad!)

この場合、Bad! とは、ミサイルと発射したことが“悪いことだ”と言う意味なのか、あるいは、さらに深読みすると、
中国は説得したはずなのに、それが無視されたじゃないか、と暗に中国の無力さを皮肉っているのか、分かりません。

北朝鮮問題がどのように落ち着くのか分かりませんが、ここで、いたずらに脅威を煽り立てることは控え、一旦、冷静に
事態を見て、解決の方向を探ることが必要です。

この際、アメリカとそれに追随する安倍政権の側だけではなく、北朝鮮側から見ると、現状はどう映るのかを考えてみる
べきでしょう。

大国を自任するなら、それくらいの余裕が必要です。

まず、北朝鮮は最終的に何を求めているのでしょうか?

この点は一貫しています。つまり、アメリカとの直接対話を通じて、北朝鮮の生存権を保証させること、です。

しかし、アメリカは直接対話を拒否しているので、核兵器を開発し、ミサイル開発をして自分の方に目を向けさせようと
しているのです。

その際、北朝鮮を核保有国として認めた上で、対等に話し合うことを要求していますが、アメリカはこれまでそれを拒否
しています。

アメリカは北朝鮮が核兵器を持っていることは事実として承知していて、それが核弾頭に搭載できるほど小型化できてい
るかどうか、そして、それを運搬できる大陸間弾道弾を開発しているかどか、を問題視しているのです。

アメリカの議会でも、北朝鮮が核保有国であること(これは秘密でも何でもありません)を認めるべきだ、という意見が
出ています。

さらに、インド、パキスタンについては認めており、公式には認めていませんが、おそらくイスラエルの核保有を容認な
いしサポートしていると思われます。

このような状況で、北朝鮮を核保有国と認めないのは、二重基準だ、というのが北朝鮮の言い分です。

北朝鮮問題に関して、私たちが注意しなければならないことが、まだまだたくさんありますが、今回は、一つだけ挙げて
おきます。

日本のメディアを見ていると、北朝鮮の宣伝映像や、ワシントンが火の海になるとか、核攻撃には核攻撃で反撃する、日
本の米軍基地を破壊する、というような激しい言葉をとらえて、金委員長は何をするか分からない、といった印象を受け
ます。

しかし、ここでも冷静に考えてみましょう。

金委員長は、もし自分の方から例えばアメリカに核を含む先制攻撃をすれば、ほとんど瞬時に北朝鮮が破壊されてしまう
ことは十分に認識しているはずです。

彼は、それが分からないほど馬鹿ではない、と私は思っています。それを前提として、なぜ、彼が強硬姿勢を取り続けて
いるのかを冷静に考える必要があります。

他方、トランプ氏も何をするか分からない、との評もあります。

万が一、トランプ氏が北朝鮮の攻撃を実行して、物理的に完膚なきまで破壊し、金委員長を殺害したとして、その後に起
こる混乱をどのように収拾するのかの明確なプランをもっているかどうか、かなり疑問です。

イラクを軍事的に破壊しフセインを排除したけれど、後は混乱だけが残り、ISを生み出してしまったことを忘れてはな
りません。

次回は、日本も含めて、世界各国は北朝鮮問題をどのようにとらえ、どんな解決方法を見出そうとしているのかを考えて
見たいと思います。私は、現在のところ主要なプレイヤーとして全く登場していないロシアがこの問題の行く末に重要な
役割を果たすことになるのではないか、との予感をもっています。

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刀匠 宮入法廣氏  鍜治場で話を聞く


宮入氏に日本刀の見方を教えてもらう




                               
                                         




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アメリカのシリアミサイル攻撃(2)―その意義と結果は?―

2017-04-23 08:52:30 | 国際問題
アメリカのシリアミサイル攻撃(2)―その意義と結果は?―

トランプ大統領の軍事への傾斜は、最近の北朝鮮に対する対応にはっきり現れています。

北朝鮮に向けて空母を向かわせ、いつでも攻撃するぞ、と脅して相手を屈服させようとするやり方は、近代以前に大国が競って採用
した時代錯誤の「砲艦外交」を、この21世紀でみる思いです。

今回の、北朝鮮への軍事的攻勢は、実は今月6日に行われたシリアへのミサイル攻撃に端を発していまいた。

この攻撃は、長期的影響や、アラブ世界を含むイスラム社会の感情を無視した軍事冒険主義的な行動だったと言わざるをえません。

トランプ氏は、シリア攻撃を中国が了解したことは大成功だった、と感じているようだ。まず、夕食中に、突然、シリアへのミサイ
ル攻撃を打ち明けられた習近平主席が、その場では反対しなかったことです。

また、西側諸国から強い反対の声が上がらなかったことをも、トランプ氏にミサイル攻撃は成功したと思わせた一つの要因でしょう。

こうした背景のなかで、シリア攻撃はアサド政権に打撃を与え、「強いアメリカ」を世界にアピールでき、そして、シリア攻撃をため
らった、宿敵のオバマ元大統領をあざ笑うことができ、トランプ氏は得意の絶頂にあるかに見えます。

今回のミサイル攻撃は一見、アメリカにとって大成功に見えますが、はたしてそうでしょうか?

トランプ大統領は、就任以来、これまで100日と少し経ちますが、内政ではことごとくつまずいています。

彼の主な選挙公約の一つ、外国人(とりわけイスラム教徒)の入国禁止(ないしは制限)は裁判所の違憲判決でとん挫しています。

次に、オバマ前大統領が、苦労の末導入した保険制度(いわゆる「オバマケア」)を破棄するとの公約は、国民的反対もあって、不発
に終わりました。

企業にたいする大型減税を導入して景気浮揚を目論みましたが、財政危機を懸念する共和党内の反対で、これも不発に終わりました。

選挙期間を続けて、最大の目玉とされた、企業をもう一度呼び戻して雇用を増やし、グローバル化によって没落した中・下層の国民の
所得を増やす、としていましたが、今のところ、成果は上がっていません。

メキシコに工場を移すことをやめさせようと圧力をかけました。最初のうち企業も思い止まる振りをしていましたが、現在では結局、
メキシコへの進出の動きは止まっていません。

メキシコとの国境に塀を張り巡らす、と豪語していましたが、巨額の費用がかかるため、当初の計画は実現しそうもありません。

こうしてみるとはっきりするように、トランプ氏の公約や政策はほとんどが場当たり的で、現実性をもつ、練りに練ったものではあり
ません。やはり、不動産ビジネスと国家の運営とはちがうのです。

これは、トランプ大統領の人事が議会で拒否されたり、要請された人物に断わられたりしているため、トランプ内閣はいまだに閣僚が
そろっていないことが大きく影響しているからです。とりわけ国際法などに知識と経験があるスタッフが不在です。

現在、トランプ政権は、勇ましい軍人によって引っ張られているようです。

さて、このような事情を考えると、トランプ大統領が人気と支持を内政で得ることは、非常に難しいことがはっきりしています。

ここでトランプ氏が、「強いアメリカ」を見せつけるために打って出た起死回生の軍事行動が、シリアへのミサイル攻撃だったのでは
ないでしょうか?

アメリカにとって、この攻撃は有効な効果をもたらしたのでしょうか?

ミサイル攻撃がどのような効果をもたらしたのかを、今の段階で正しく評価することはできません。

あえて言えば、アメリカはいざとなったら軍事力を行使することを世界に示した、とは言えるでしょう。

他にはどんな効果があってでしょうか?このミサイル攻撃でアサド政権は従来の方針を変更するでしょうか? 今のところ、その兆候
は全くありません。

何より問題なのは、いまだにアメリカは、アサド政権が化学兵器を使ったことの証拠を示していないことです。

日本のメディアは、今回のミサイル攻撃を、アメリカの側から見る傾向がありますが、それでは、中東諸国の側からみるとどのように
映ったのでしょうか?

中東の専門家である酒井啓子氏(千葉大学教授)は、「米軍シリア空爆は、イスラム社会の反米感情を煽るだけ」と題する論考で、事
態を冷静に次のように分析しています(注1)。

    化学兵器の非人道性、などというオバマ的「人道主義」は、トランプ大統領が一番考えそうもないことだ。・・・・空爆を決
    断したとはいえ、それでトランプ政権が、アサド政権を倒し反アサド派を推す方向に政策転換した、とは言えないだろう。多
    くの識者が指摘するように、ロシアやイランに主役の場を奪われている現状に、なんとか米国のプレゼンスを示したいという
    以上の、本格的な意味は見いだせない。

学界からは、他にも二人の専門家が、やはり違法で展望のない行為だと批判しています(注2)。

まず最上敏樹(早稲田大学教授)は今回の攻撃を、「違法なな武力行使、効果も疑問」と述べています。

    トランプ政権の攻撃は正義の武力行使とは、とてもいえません。人道的介入が許される かどうかの議論の入り口にすら至る
    ことがない、これ見よがしの誇示に近い。シリアの人道的な危機が本当によくなるのかという効果の面でも非常に疑わしいも
    のです。・・・・
    武力行使は様々な方策が尽くされた後の最後の手段で、国連安全保障理事会の決議を踏まえるべきだとされています。今回の
    攻撃は十分な手続きがなされておらず、国際法上、違法な軍事行動といえます。

また、青山弘之教授(東京外国語大学教授)は、今回のシリア攻撃は失敗に終わるだろうと述べています。

    今回の米国のミサイル攻撃は、アサド政権の化学兵器使用に対する懲罰行動なのでしょ うが、長期的には米国にとって失敗
    に終わる可能性が高いといえます。
    米国は1991年の湾岸戦争以降、自国の経済安全保障を保つため、中東に関わり続けてきました。石油を安定供給させるた
    め、中東の政治的秩序を保つ必要があったからです。
    シリアのアサド大統領は、イラクでフセイン政権が崩壊したあと、米国に盾突くことの できる唯一の統治者になりました。
    米国にとっては目の上のコブです。・・・シリアで民主化を求めるデモが強まり、国内が混乱に陥ったことを、米国はアサド
    政権弱体化のいいチャンスだと考えていたはずです。ただ、米国は、仮にアサド政権が崩れる場合にその後のシリアを誰がど
    う統治するのか、青写真を描けずにいました。

中東を専門とするジャーナリスト、川上泰徳氏は「シリア攻撃 トランプ政権の危険なミリタリズム」と題する論考で次のように書い
ています(注3)。

    安保理の協議がまだ終わったわけではないのに、米国が性急に武力行使を行ったこと は、「真相究明を行い、責任を明らか
    にする」という米国自身が参加した提案を裏切ることになる。このような一方的な手法は、安保理の協議だけでなく、ロシア
    との間の政治的、外交的な交渉の可能性をつぶすものである。
    そして、結論として、トランプは、「決断力がある」対応だと言いたいのだろうが、「今 回の米国の性急な武力行使は、ト
    ランプ政権の危険なミリタリズム(武断主義)としてみる必要がある」と警告しています。

川上氏が指摘しているように、実際、シリアで米国が率いる有志連合の空爆による民間人の死者は今年1月にトランプ政権になって急増
しています。シリア人権ネットワークの集計によると、3月の市民の死者は計1134人で、うちアサド政権軍の攻撃による死者は417人
(37%)。ロシア軍による224人(20%)に対して有志連合の空爆による死者は260人(23%)と、ロシア軍による死者を上回り、民間
人の死者の4分の1近くを占めている。「イスラム国」(IS)による死者119人(10%)の倍にたっしているのです。

以上の問題の他、私が懸念しているのは、今回のシリア攻撃でアメリカと、アサド政権を支持するロシアとの関係が一挙に険悪となり、
IS問題の解決が一層難しくなってしまったことです。

これは、北朝鮮問題にも好ましくない影を落としています。つまり、中国とともに北朝鮮にたいして影響力のあるロシアが、北朝鮮の核
開発やミサイル開発の抑止にまったく協力していないのです。

トランプ氏を「信頼できる政治家」と絶賛し、アメリカのシリア攻撃にいち早く支持を表明した安倍首相も、アメリカの立場に立ってみ
るだけでなく、もう少し世界的な視野で、相手側の立場からもみる必要があると思います。


(注1)NEWSWEEK (2017年04月10日13時00分)http://www.newsweekjapan.jp/sakai/2017/04/post-5.php
(注2)『朝日新聞』(デジタル2017年4月8日05時00分)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12882097.html?ref=sp_con_mailm_0411_11
(注3)NEWSWEEK(2017年04月08日12時20分)
http://www.newsweekjapan.jp/kawakami/2017/04/post-30.php




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アメリカのシリア・ミサイル攻撃(1)―国連無視で正当性をもつか?―

2017-04-15 20:20:18 | 国際問題
アメリカのシリア・ミサイル攻撃(1)―国連無視で正当性をもつか?―

4月6日(日本時間)、アメリカは突如、地中海に展開していが艦船から、シリアのシャイラート空軍基地に、59発の巡航
ミサイルを発射しました。

名目は、アサド政権が、同基地から発進した航空機が化学兵器を投下し一般市民を70人以上殺したから、というものです。

安倍首相は7日、直ちに「化学兵器の拡散と使用は絶対に許さないとの米政府の決意を日本政府は支持する」と表明しました。

ただ、国連決議などの国際法上の手続きを経ない先制攻撃については、「これ以上の事態の深刻化を防ぐための措置と理解し
ている」と述べました(注1)。

化学兵器を使用したのがアサド政権だと断定するのは避けてはいたが、アサド政権が実行したと明言しているアメリカの行動
を「理解している」と言っているので、実質、安倍首相はアサド政権の仕業であると、非難しているのです。

ところで、誰が使ったのかに関する国連安保理の調査が始まろうとしている段階で、事件発生から60時間後にミサイル攻撃
を行うということには、国際法上大きな問題があります。

さらに言えば、この問題が起こるまでのアサド政権にとって、今まででもっとも理想的な状況にあったのです。

トランプ大統領は選挙運動時から、アサド大統領の排除を目的としないと明言していたし、反政府勢力も、ISやヌスラ戦線
などのイスラム勢力もほぼ制圧しており、アメリカはロシアと協力してISを壊滅させるとの姿勢も明らかにしています。

このような状況で、あえて国際的な非難を浴びることが分かっているのに、化学兵器を使用することには合理性がありません。

いずれにしても、60時間という短時間のうちにミサイルを発射するというのは、やはり異常で、さまざまな問題を熟慮した
結果とは考えられません。

これについてNEWSWEEKは「トランプのシリア攻撃は長女イバンカの『泣き落とし』のため?」と題する記事でつぎのよう
に書いています。

    トランプ氏の娘のイバンカ氏の弟のエリック氏が英テレグラフ紙に語った話によれば、イバンカは3人の子供を持つ
    母親で、大きな影響力を持っている。彼女はきっと「聞いて、こんなのひどすぎる」という具合に言ったと思う。
    父(トランプ)は、そういう時には動く人だ。父は2年前にはシリアとは一切関係したがらなかった。だがアサド政
    権が自国の女性や子供を毒ガスで襲撃し、ある時点で、アメリカは世界のリーダーとして行動を取る必要があった。
    そうしたのは、素晴らしいことだと思う(注2)。

もし、これが本当だとすると、トランプ氏は身内の意見に感情的・情緒的に反応したことになり、トランプ氏の政治姿勢に危
うさを感じます。

トランプ政権に対するもう一つの懸念は、現在、トランプ氏の外交戦略には、元軍人が大きな影響力をもっていることです。

特に、国防相のジェームズ・マティス氏は、湾岸戦争(1991年)、アフガン戦争(2001年)、イラク戦争(2003年)の際、指揮
官として活躍した、対ロシア強硬派の人物です。どうやら、冷戦期お世界観をもった元軍人のようです。

この影響があったかどうか分かりませんが、ロシアと融和的であったトランプ氏が急速にロシアへの対決姿勢をあらわにして
います。

トランプ米大統領は12日、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長とワシントンで会談した。トランプ氏
は会談後の記者会見で、米国やNATOとロシアの関係は「史上最低かもしれない」と述べるほどです(注3)。

ところで、今回の化学兵器の使用によって人々が苦しんでいる悲惨な映像が繰り返し放送され、アメリカだけでなく、世界の
多くの人がアサド大統領はけしからん、と感じたかもしれません。

しかし、私はアサド犯人説には、直ちに納得できない理由があります。一つは、既に述べたように、アサド大統領には、化学
兵器を用いる合理的な動機が見つからないからです。

次に、以前にも、アメリカ側からのニセの映像で強引に戦争に巻き込んだことが鮮明に思いだされるからです。

古い事例としては、1964年の「トンキン湾事件」があります。北ベトナム沖のトンキン湾で北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ
海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる事件です。これを口実にアメリカは北ベトナムへの爆撃を開始し、ベトナム戦争
に深く関わるきっかけとなりましたが、実は、この事件もアメリカが仕組んだ「やらせ」であることを、ニューヨークタイム
ス紙が「ペンタゴン・ペーパー」を入手して明らかにしました。

近年には、イラクがクウェートに侵攻した直後にアメリカや世界中である映像が繰り返し放送されました。

この時、クウェートから脱出してきた難民の少女がアメリカの下院議会にて「イラク兵はクウェートの病院まで攻めてきて赤ち
ゃんを保育器から出し殺すところを見ました」と涙ながらにクウェートでの現状を訴える映像です。

また油まみれになった水鳥の映像も繰り返し放送されます。これは、イラク軍がペルシャ湾に原油を流出させたためにこのよう
な状態になっている世界中に訴えかけられたのです。

これらはアメリカや世界の世論を大きく動かし湾岸戦争へ突入する一因となりました。

しかし!実は、この映像は後に完全なる「やらせ」であったことが発覚しました。

まず、クウェートの難民の少女。彼女は本当のところクウェート駐米大使の娘だったことが発覚!しかも、クウェートに一度も
行ったことすらなくずっとアメリカに住んでいたのです。

水鳥の映像もアメリカ軍が誘導爆弾にてゲッティ・オイル・カンパニーの原油貯蔵施設から流出させたことが明らかになります。

誰が?なぜ?こんな事を仕掛けたのか?それは、分かっておりません。しかし、昔から言われているように「戦争は儲かる」と
いうのは事実のようです。

ただ、はっきりしているのは、1989年の冷戦終結で破綻寸前にまで追い込まれたアメリカの軍事産業は湾岸戦争によってて多く
の利益を得ている有名会社もありますし、コンピュータ会社や石油会社も高利益を稼いでいます。また、戦後は破壊された建物
などの復興のために整備事業を行う必要がありますが、湾岸戦争終結時にこれを請け負った多くはアメリカの企業でした(注4)。

さらに記憶に新しいところでは、2003年にアメリカ軍が侵攻した大義名分は、イラクのフセイン政権が「大量破壊兵器」(つま
り核兵器)を保有している、ということだった。

この時も、あらゆる情報から、これは確かなことだと断定していました。いわゆる「イラク戦争」の勃発です。

イラクへの攻撃が始まると、当時の小泉首相は、世界に先駆けてアメリカの行動を「支持する」との声明をだしました。

しかし、イランを占領して徹底的に調査しましたが、「大量破壊兵器」は存在しなかったことをアメリカ自身も認めました。

以上見てきたように、アメリカは戦争や攻撃を開始する際に、ウソの事件や情報をでっちあげてきた「実績」が幾つもあります。

今回の化学兵器の使用に関してアサド大統領は、きっぱりと否定しており、国連の安保理の調査もこれからです。

こうした状況での国連の了解もなく一方的にシリアを攻撃したことに対してロシア、ボリビア、ウルグアイ、イランは「主権国
家に対する侵略である」とアメリカを非難しています。

国連のフェルトマン事務次長(政治局長)はシリア民間人の保護が最優先課題だとした上で、必要なのは「国連の諸原則に根差
した緊急の行動だ」と強調し、国連の安保理の承認決議がないまま行った米国の軍事行動を暗に批判しました。

またスウェーデンのスコーダ国連大使も、「国際法との整合性に疑問が残る」と、いかなる行動も国際法に基づく必要がある、
アメリカの単独行動を批判しています。しかも、今回はシリア国内で起こったことで、直接アメリカの脅威なるとは考えられず
、従ってアメリカの安全が脅かされての自衛権の発動、という理屈も成り立ちません(『東京新聞』2017年4月11日)。

いずれにしても、アメリカがアサド政権が化学兵器を使用した証拠を示さなければ、今回の爆撃に対する批判は必至となります
(『東京新聞』2017年4月8日)。

さて、アメリカは、アサド政権が化学兵器を使用した確実な証拠を示すことができるでしょう?
次回は、今回のアメリカの軍事行動がどのような意味をもち、中東情勢に影響を与えるのかを、専門家の意見も紹介しつつ検討
します。

---------------------------------------------------------------------

(注1)『朝日新聞』(デジタル版2017年4月8日05時00分)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12882097.html?ref=sp_con_mai lm_0411_11
(注2)NEWSWEEK(2017年4月10日) http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/04/post-7390.php
(注3)『日本経済新聞』電子版(2017年4月14日))http://www.nikkei.com/article/DGXLAS0040001_T10C17A4000000/
(注4)『歴史』http://www12.plala.or.jp/rekisi/wangann.html(2017年4月14日閲覧);
     NEWSDAY (1992,July 3)(2017年4月14日閲覧)
    http://pqasb.pqarchiver.com/newsday/doc/278520531.html? FMT=ABS&FMTS=ABS:FT&type=current&date=&author=&pub=&edition=&startpage=&desc=
    (2017年4月14日閲覧)この時の証言は「ナイラ証言」と呼ばれます。



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「森友問題」の本質と暗い闇(4)―全体の構図は「政治案件」と官僚の「出世と保身」―

2017-04-09 08:21:31 | 社会
「森友問題」の本質と暗い闇(4)―全体の構図は「政治案件」と官僚の「出世と保身」―

安倍政権は、「森友問題」を一日でも早く鎮静化させようと必死です。その表れの一つが、籠池氏を偽証罪で告発するために
国政調査権を発動して証拠を収集する、という。

具合的には、籠池氏側が100万円を入金した時の伝票の原本を郵政省から取り寄せる、というものです。

もっと大事な問題の本質に関わる、学校と認可と土地の取引に関してこそ国政調査権を発動するべきなのに、こんな些細なこ
とに国政調査権を振りかざすのは、恫喝以外何ものでもありません。

ある自民党議員は、とにかく籠池を徹底的に潰さなければ、と息巻いています。さながら、幼児をプロレスラーが寄ってたか
ってやっつけようとしている、漫画的な絵ずらです。

また、問題となった昭惠夫人付の官僚(谷氏)が籠池氏に送ったファックスは「公文書」ではなく「私文書」であるというこ
と、さらに昨年夏に昭惠夫人がハワイを個人で私的訪問した際、夫人付政府職員が同行したとの答弁書を4月7日に閣議決定
しました。

閣議決定というのは、国政の重要事項について、内閣の意思決定が必要なものについて、全閣僚が合意して政府の方針を決定
する手続きのことです。

安倍政権は、これら2件の事項が「国政の重要事項」に値すると認識しているのですが、国会で圧倒的な勢力を持つ与党自民
党が、ここまで余裕をなくしているのは、表向きの強がりとは逆に、かなり追い詰められている印象を与えます。

ところで、今回の一連の問題に関して部分の分析だけでは解明できない、本当の暗い闇が底流に横たわっていると思います。
そこで今回は、この問題の全体の構図を考えてみたいと思います。

まず、証人喚問の際も、政府は、とにかく籠池氏がいかにいい加減な人物であるかを徹底的に世間に知らしめる、との勢いで
臨みました。

確かに、校舎の建設費用に3通の見積書を提出したり、最近明らかになったように、学園側は資金不足から工事代金のうち、
4億円以上が未払いとなっていることなど、誰が見ても計画のずさんさは否定できません。つまり、籠池氏側には確かな予算
計画も裏付けなかったのです。

しかし、政府が、籠池氏の悪者ぶり、いい加減さをあぶり出せば出すほど、それはブーメランとなって、この問題の本質と暗
闇に光を当てることになってしまいます。

誰しも疑問に思うのは、なぜ籠池氏がこれほどまでに強気に事を進め、しかも、国と大阪府は、これほど問題のあることが分
かっていながら、小学校が無理に無理を、異例に異例を積み重ねて、小学校の設置を「認可適当」とし、財務省と国交省が合
意の下で、9割引きで国有地を売却し、校舎の建設が95%以上も進行してしまったのだろうか、という点です。

以下に、私の個人的な仮説に基づいて分析してみたいと思います。この際、どのように解釈すると、一連の不可解な問題が、
筋道だって理解でき、「なるほど、そうだったのか」と腑に落ちるのか、という点に着目します。

「森友問題」を解くカギは、この案件が「政治案件」であったということ、そして、それを支えたのが、官僚の出世欲あるい
は出世への執着と保身であった、ということです。

今回の事件を、この二つのキーワードで、鳥瞰図的に俯瞰してみると、これまでの異例と異常の背景にある真相と構図が、鮮
明にあぶり出されてきます。

まず、森友問題が「政治案件」であったという点からみてゆきましょう。

今回、籠池氏が、資金も土地もないのに小学校を設立しようと思い立ったのは、世間に吹いている「右からの風」を感じ取っ
ていたからだと思われます。

まず、籠池氏は安倍首相の戦前復古的な政治に非常に強く共感していました。そこには極右団体の「日本会議」の思想が強く
反映されています。

今回の主要な登場人物をみると、安倍首相、鴻池議員、稲田防衛相、そして籠池氏自身も「日本会議」(籠池氏は現在、正規
のメンバーではないようですが)のメンバーです。

また、「日本会議」のメンバーではなくても、大阪維新の会や国会議員の中にも安倍首相の国粋主義的、復古的な政治姿勢を
支持する人が少なからずいます。

さらに、安倍夫人が3回も幼稚園を訪れ、その中の講演で園児たちが「教育勅語」を暗唱し、中国・韓国を悪者にし、安保法
制を称賛するなど非常に復古的・国粋主義的な教育現場を見て、「素晴らしい教育をしている」と絶賛していたのです。

首相夫人が同じ施設を3回も訪れ講演をするということは、めったにないことのようです。

安倍首相も国会で、籠池氏は素晴らしい教育をしている、と妻から聞いていると語っていました。また、籠池氏は自分の考え
に共感しているようだ、とも語っています。

これだけそろえば、籠池氏が、「今、右の強い風が吹いている。自分の味方になってくれるに違いない」と思ったとしても無
理もないと思います。これが強気の根拠でしょう。

実際、籠池氏自身、証人喚問の冒頭で、自分も「舞い上がっていた」、と告白していますが、こうした右からの風を受けてい
る、と実感していたからだと思います。

さて、こうした全体状況を考えると、問題が公になるまで、この案件に関係した政治家やとりわけ土地の売却に関わった財務
省(特に理財局)と国土交通省(特に大阪航空局)の官僚、そして学校の認可に関わった大阪府の担当者が、今回の案件は、
安倍首相がらみの「政治案件」だ、と認識していたのではないか、と私は推測しています。

安倍首相は、自分や妻が土地の売却に関わったことはない、と言っていますが、首相自らが、森友学園の小学校をよろしく、
と頼んだり、まして指示したことはないでしょう。

しかし、たまたまこの案件に直接・間接に関わった官僚や大阪府は、安倍首相は心の中では何とか小学校の設立を臨んでいる
に違いない、と感じていたのでしょう。

これがいわゆる「忖度」を生んだ背景だと考えられます。

松井大阪知事は、今回の一連の動きの背後には「忖度があった」とはっきり言っているし、安倍首相もそこことを認めるべき
だ、認めないことで「火に油を注いでいるのは安倍首相自身だ」と正直に語っています。

さらに、国の役人が5回も大阪府を訪れて、ずいぶん「親切だ」と思った、とか、以前の記事で書いたように「圧力」を感じ
た、とも言っています。

では、翻って、財務省も国交省の担当者も、なぜ、安倍首相や昭惠夫人が直接的であれ間接的であれ、籠池氏の教育理念を称
賛していると、それを忖度してしまうのでしょうか?

私の推測では、官僚にとって大きな関心事、あるいは行動原理は、自己保身と出世です。「自己保身」とは具体的には、前例
のないことはしない、誤りを絶対に認めない、という精神構造です。

たとえば、財務省の佐川宣寿理財局長は、国会の場で財務省の役人が現地視察をしていることを追及されて、
  「国有地取得希望があった場合、事業の許認可主体である地元自治体に足を運び、意
  向をうかがうのが通例です」(佐川宣寿・財務省理財局長=3月24日、国会答弁で)
と言いましたが、松井一郎・大阪府知事は3月29日、記者団に
 「(財務省が)日々足を運んで協議してますと言ったけど、4年間で足を運ばれたのは森
 友学園の件1件しかない。これが事実なんで」、と明言しています。

また、別の調査では、これまで72件あった同様の事例で、実際に財務省の官僚が現地に赴いたのは、森友学園の事例を含めて、
たった2件だけなのです。

今回の案件が、いかに特別であったかが良く分かります。

調べればすぐに分かってしまうウソでも、とにかく、一つでもウソを認めてしまうと、全体の筋書きが崩れてしまうので、一旦、
口に出したことを言い張り続けることが、この官僚の性(さが)であり、保身のための絶対条件です。

文書が残っていない、ということに関しても、官僚のOBは、まだ10年の分割払いが終わっていないどころか始まったばかり
の案件、それも国交省との交渉も含む案件に関する文書を1年以内に破棄することはあり得ないと、言っています。

4月3日の国会答弁で、佐川理財局長は「私どもの行政文書はパソコン上のデータも短期間で自動的に消去されて復元できない
システムになっている」と答弁していますが、本当でしょうか?

国会中継の映像をみると、答弁する彼の顔は、人間的な感情を押し殺した、まるでロボットか能面のように無表情で、何を言わ
れようが否定し続けていました。官僚の一面を見た思いです。

一般に、官僚は保身を図る一方で、出世に対して強い執着心をもっている人が多くいます。

森友問題に関わった官僚に、うまく処理すれば出世につながる、という意識がどこかで働いていたのではないでしょうか?

とりわけ、長期政権が予想される安倍政権下で、人事権を握る官邸の意向をおもんばかって官僚が事に当ってきた、と言うふう
に解釈すると、今回の一連の問題は実に簡明に理解できます。

このブログで最初に掲げた、副題でキーワードの一つとして「忖度」と書きましたが、官僚による「忖度」は出世欲と保身とい
う行動原理に突き動かされての言動だと思います。

ただ、皮肉なことに、籠池氏が安倍総理から100万円の寄付を受けた、と発言して以来、安倍首相も昭惠夫人も、その籠池氏
の教育を支持していた人たちも一斉に籠池批判に回ってしまったので、今となっては、佐川氏のような官僚は、とにかく安倍内
閣を守ることに全力を注ぐことが使命となってしまいました。

これは、自分自身の保身のためでもあり、また、うまく切り抜ければ将来の出世につながるかもしれない、という期待も幾分か
は働いているのかも知れません。

今後、いわゆる「森友問題」がどのような結末を迎えるのかは分かりません。ただ、今回の「事件」を通じて、官僚とはいつも、
政府や上司のなお権力者の顔色を窺い、都合の悪いことは文書を廃棄した、と言い張って証拠を隠滅してきたのだろう、という
ことが分かりました。

ある自民党議員は、森友問題のような案件で政治家が口利きするのは普通のことだ、という趣旨のコメントをしていましたが、
やはりそうだったのか、と実感しました。

ただし、官僚だけが問題なのではなく、政治家も、官僚の忖度を誘うような状況を直接・間接に利用してきたことも事実です。

この問題の報道と関連して、メディアに登場するコメンテータの立ち位置がはっきりと分かりました。敢て名前はだいませんが、
はっきりと安倍政権を守ろうとする人、本人は中立を装っているけれど明らかに安倍政権寄りのコメントする人、自分の見解は
示さず、無難なコメントする人、そして、政権と官僚に批判的な人などです。彼らの施政は、政治問題についても同じです。

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「森友問題」の本質と暗い闇(3)―追い詰められているのはどっち?

2017-04-02 14:28:55 | 社会
「森友問題」の本質と暗い闇(3)―追い詰められているのはどっち?―

政府・自民党は、籠池氏の国会証言を経て、とりわけ100万円の寄付と、安倍晋三記念小学院の名前を印刷した寄付の依頼用紙
に関して、偽証の可能性が強まったので、国政調査権を視野にいれて証拠を集める、と息巻いています。

しかし、政府は、自分たちの言っていることの客観的な姿と意味を本当に分かっているのでしょうか?

事の本質は、なぜ籠池氏の小学校設立が、異例の速さと甘い条件で「認可適当」になったのか、また、国有地の売却価格がなぜ、
8億円も値引きされたのか、という根本的な国民の疑惑にたいして国政調査権を発動しないで、寄付の問題と寄付依頼用紙の問題
に国政調査権を発動する、というのは、いかに政府が焦っているかを自ら曝露しているようなものです。

政府(とりわけ官邸)がこれほど焦っているのかにはいくつかの理由があります。

一つは、政府側の誤算です。今回の国会喚問で、籠池氏はさすがに偽証罪に問われることを恐れて、しどろもどろになって、喚問
の場で彼がいかに信用できない人物であるかを国民の前にさらそうとしたのに、籠池氏はまったく動ずることなく従来の主張をは
っきりと述べました。これは、大きな誤算だったでしょう。

自民・公明・維新の議員が執拗に問い質しても、「事実は小説よりも奇なりです」とか、「私の言っていることが正しゅうござ
います」と言い切って、追及をかわしています。

これには、追及した議員たちも、反撃する言葉をとっさに失ってしまいました。

たしかに政府側は、偽証の「しっぽ」くらいはつかんだでしょうが、もし告発することになると、偽証を証明しなければならず、
少なくとも証人として、安倍昭惠夫人、財務省幹部、国交省の担当者も籠池同じ土俵の証人喚問に出る必要があります。これは、
安倍内閣としては到底受け入れられないでしょう。

しかも、たとえ国政調査権を行使して調べても、寄付がなかったことを明らかにできる保証はありません。

自民党の西村議員は、籠池氏が偽証罪に問われる可能性を語ったことに対して、籠池氏の弁護士は、3月31日付で抗議書を西村
氏に送付しました。「籠池氏は自己の記憶に忠実に、質問に答えた。偽証はしていない」と。西村議員らの発言について「法的根
拠を欠き、名誉毀損(きそん)だ」として、撤回を求めています。西村氏はどう対応するでしょうか?

ある閣僚経験者は「官邸の圧力でやっているだけ。告発するつもりはないだろう」と指摘しており、自民党幹部も「問題が収束し
かけているのに、また注目されてしまう」と、むしろ告発に懸念をしめしています(『東京新聞』、2017年3月30日 朝刊)

二つは、事のなりゆきによっては、安倍政権にとって命取りになりかねない事情があるからです。

安倍首相は、この問題が発覚した直後の2月17日の衆院予算委員会では強い口調で、「私や妻が関係していたとなれば、首相も
国会議員も辞めると申し上げておきたい」と、強弁しました。これは、もう決して取り消しできない重大な発言でした。

そこで、首相サイドは安倍首相および昭惠夫人と、国有地売却の問題とは無関係であることを主張し安倍首相を必死に守ろうとし
ます。

まず安倍首相は、籠池氏との関係さえ否定しようとし、2月28日の参議院予算委員会で、籠池氏とは「一対一や少人数で会った
ことはない。個人的な関係は全くない」と語っています。

しかし、民法が放映した、2014年12月の塚本幼稚園での講演会の動画で昭惠夫人は、「(籠池氏から)主人にお手紙をいただい
たり電話でお話ししたり、実際にお会いしていただいたりもしていた」と話していました(『東京新聞』2017年3月17日)(注2)。

昭惠夫人が嘘をついているとは思えないので、この点では安倍首相は嘘をついていることになります。

また、籠池氏の怒りが爆発したと思われる、安倍首相の籠池氏に対する「しつこい」んです、という言葉から、籠池氏とは何度も話
したことがあることは確認できます。

ただし、例え会ったことがあったとしても、問題はないのに、安倍首相は「会ったことはない」と断言してしまうので、問題になる
のです。

昭惠夫人は森友学園が経営する「塚本幼稚園」で2015年9月5日に講演し、そこで森本学園の愛国主義的な教育方針を絶賛し、瑞穂
の國小学院の設立を大いに激励しました。これも道義的には疑問はあるが、法的には問題ありません。

深刻なのは、今回の国有地売却にたいする昭惠夫人の関与の有無です。ここが崩れると、安倍首相は公言した通り首相と議員を辞任
しなければならないからです。

ここで重要になるのが、喚問の場で籠池氏が言及した、首相夫人付の谷査恵子氏から籠池氏の陳情の手紙(10月26日)に対する返
事として送られたファックスで(11月17日)、これは昭惠夫人の関与を匂わせます。

ファックスは4項目、2枚にわたっています(注1)。

そのファックスの前文で、
    先日は、小学校敷地に関する国有地の売買予約付定期借地契約に関して、資料を頂戴し、誠にありがとうございました。
    時間がかかってしまい申し訳ございませんが、財務省本省に問い合わせ、国有財産審理室長から回答を得ました。
    大変恐縮ながら、国側の事情もあり、現状ではご希望に沿うことはできないようでございますが、引き続き、当方とし
    ても見守ってまいりたいと思いますので、何かございましたらご教示ください。

ここでわかることは、首相夫人付(通産省から出向)の官僚が、財務省の国有財産審理室長に問い合わせ、回答を得ていることです。
しかも、一般の個人が問い合わせても、ここまで親切に答えることはないでしょう。ここで「当方」とは昭惠夫人の「バックアップ」
チームを指すものと解釈すべきでしょう。

さて、このファックスは、籠池氏が谷氏を通じて昭惠夫人に陳情した、①10年の定期借地の是非、②借地期間を50年に延ばしてほ
しい、③汚染や埋設物の撤去期間に関する賃料を半分くらいにして欲しい、④これまで森友学園が立て替えているゴミの撤去費を早く
返して欲しい、という点に関する回答でした。

以上にたいして、ファックスでは、①と②については、規則上できない、③については無回答です。ただし、(今は賃料を下げること
はできないが)「買受の際に考慮される」としています。

ここまでの記述で、半年後には、賃借料は実際に半額に減額され、土地の価格は9億5600万円から1億3400万円で8億円以上の
値引きが行われました。

以上の3点は、財務省管轄でしたが、4点目は少し性格が複雑で重要な内容です。ファックスでは以下のように書かれています。
    
    (4) 工事費の立て替え払いの予算化について
        一般には工事終了時に清算払いが基本であるが、学校法人森友学園と国土交通省航空局との調整にあたり、「予算措
        置がつき次第返金する」旨の了解であったと承知している。平成27年度の予算での措置ができなかったため、平成
        28年度での予算措置を行う方向で調整中。

ここでは、「一般には」と書かれていることから、今回の事案は特別である、との認識が財務省側にあったことが分かります。

次に、財務省が、この立て替え払いに関する当事者である国土交通省との調整に動き、その結果、平成27年度では予算措置はできな
いが28年度予算で「調整中」と書いてある点です。

官僚の世界で、省庁を越えて調整に乗り出すことはあり得ません。そして、「調整中」とは、官僚用語で言えば、「話がついている」
ことを意味します。

これをみても財務省が昭惠夫人側からの問い合わせに、積極的に動いていることが分かります。

安倍首相も菅官房長官も、このファックスは安倍夫人付の谷さんの個人的な文書であり、昭惠夫人と何の関係もない、と繰り返して弁
明しています。

しかし、谷氏がファックスを送った時間は、午後5時4分か5分、つまり勤務時間内です。その時間に個人的な文書を作成し、公用の
ファックス(電話器)を使って送っていたことになります。そうだとすると、これは公務であるか、谷氏の公私混同になります。

財務省は、一般の人から、こうした問い合わせに親切に答えることは通常の業務だといっていますが、翌年度の予算措置まで、自ら国
交省と調整すること、決して一般人にたいして行うことではありません。この答弁には嘘があります。

夫人とは言え、昭惠氏の背後には安倍首相がおり、谷氏の安倍首相夫人付という肩書は官僚の対応に大きな影響を与えたはずです。

最後に一つ指摘しておくと、このような「問い合わせ」を、昭惠夫人に何の相談もなく行うことは、官僚の世界では絶対にあり得ません。
やはり、ここには昭惠夫人の、森友学園にたいする思い入れがあったと考えるのが常識でしょう。

一方の籠池氏には、これ以上失うものは何もなく捨て身で事に当たっています。対して首相と昭惠氏は失うものが多くありすぎます。

私には、追い詰められているのは、官邸と官僚の方であると思えます。

次回は、今回の一連の問題の全体の構図をどう理解すべきかを、私の個人的な意見を中心に書いてみたいと思います。

(注1)この動画は見る音ができませんが、この時の写真(テレビ画面を写したものと思われる)は、
     http://xn--nyqy26a13k.jp/archives/27485
    で見ることができます(2017年4月1日閲覧)。
(注2)籠池氏は後に、ファックスの全文のコピーを配りました。その写真版は、The Huffington Post | 執筆者: ハフィントンポスト編集部
    (2017年03月23日 18時18分 JST 更新: 2017年03月23日 20時17分 JST)で見ることができる。
     http://www.huffingtonpost.jp/2017/03/23/moritomo-gakuen_n_15558714.html
(注3)『毎日新聞』デジタル (2017年4月1日)
 http://mainichi.jp/articles/20170401/k00/00e/040/230000c?fm=mnm


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