北朝鮮とアメリカの危険なチキンレース(1)―実態は?―
4月6日、アメリカのトランプ大統領はアサド政権が、化学兵器を使用したとの理由で、シリアへミサイル攻撃を行った
ことについては前回と前前回の記事で書いた通りです。
実は、この攻撃には、北朝鮮への警告という狙いも込められていました。
つまり、オバマ政権では軍事力を行使することなく、話し合いを基調とした「戦略的忍耐」を外交の指針としていました
が、トランプ氏は、北朝鮮が限度を越えたらシリアと同様、アメリカは攻撃を実行する、とのメッセージを送ったのです。
では、トランプ氏はなぜ、4月の段階で、このようなメッセージを発する必要があると考えたのでしょうか。
4月は北朝鮮にとって、重要な記念式典が二つ控えており、これまで、このような式典に合わせるようにミサイルの発射
や核実験を行ってきました。
特に今年の4月15日は、北朝鮮の神格化された「建国の父」「偉大な指導者」である金日成主席の生誕105年にあた
る、非常にお目出たい日です。
そして、25日は北朝鮮軍の創建85年目にあたる記念日(建軍節)です。これも、北朝鮮にとっては非常に重要な日で、
国民の休日になっています。
このように見てくると、確かにこの二つの記念日は、大きな節目にあたっています。金正恩朝鮮労働党委員長(1984年1
月生まれ。33歳)が、世界が驚くようなことをする誘惑を抱いていることは十分に想像できます。
それを見越して、トランプ大統領は一方で、「全ての選択肢はテーブルの上にある」と言い、武力攻撃が選択肢にあるこ
とを強調しています。他方、当然のことですが、外交交渉による問題解決の選択肢もある、ということです。
また、スパイサー米大統領報道官は17日の記者会見で、「シリアでの行動をみれば分かるように、適切であれば大統領は
決定的な行動をとる」とも強調し、軍事行動に移る可能性は否定しませんでした。
メディアでは、アメリカが軍事行動を起こすのは、北朝鮮が「一線(レッドライン)を越えたとき」とし、それは核実験
を行ったか、大陸間弾道弾(ICBM)の開発した時であるとしています。
こうした外交的ブラフ(脅し)を発する一方、空母、巡洋艦、原子力潜水艦を朝鮮半島近辺に呼び寄せるなど、古典的な
「砲艦外交」を絵に書いたような軍事的圧力をかけています。
同時に、平壌上陸も想定した、大規模な米韓合同演習(金委員長の「斬首作戦」)をも暗に想定した、「フォール・イー
グル作戦」を4月末まで実施しています。
そして、北朝鮮には開発を止めるよう圧力をかける傍らで、今回の緊張状況の只中でアメリカ本国で大陸間弾道弾の実験
をしています。これで説得力はあるでしょうか?
では、4月15日と25日に何が起こったのでしょうか?
実際には、脅威になるような深刻ななにも起こらなかったのです。
実際には、25日には、通常兵器の長距離砲を海岸線に並べて一斉に海に向かって発砲するパフォーマンスの映像を発信
しただけでした。
安倍首相は、北朝鮮の脅威と挑発を強調しますが、ここまでのところ、北朝鮮は何も行動を起こしていません。挑発して
いるのは北朝鮮ではなく、アメリカのような印象さえ受けます。
一部の人たちは、これはアメリカの軍事圧力と、中国の説得があったから、金委員長は何もできなかったからだ、と評価
しています。
果たして、本当にそうでしょうか?
4月29日の早朝、北朝鮮は何らかのミサイルの発射実験を行いました。このミサイルは50キロほど飛行し、北朝鮮内
陸部に落下しました。
これに対してトランプ氏はツイッターで、「北朝鮮は中国と非常に尊敬されている(習近平)国家主席を尊重せず、今日
ミサイルを発射したが、失敗した。“悪いことだ”」と書きこんでいます。
(North Korea disrespected the wishes of China & its highly respected President when it launched,
though unsuccessfully, a missile today. Bad!)
この場合、Bad! とは、ミサイルと発射したことが“悪いことだ”と言う意味なのか、あるいは、さらに深読みすると、
中国は説得したはずなのに、それが無視されたじゃないか、と暗に中国の無力さを皮肉っているのか、分かりません。
北朝鮮問題がどのように落ち着くのか分かりませんが、ここで、いたずらに脅威を煽り立てることは控え、一旦、冷静に
事態を見て、解決の方向を探ることが必要です。
この際、アメリカとそれに追随する安倍政権の側だけではなく、北朝鮮側から見ると、現状はどう映るのかを考えてみる
べきでしょう。
大国を自任するなら、それくらいの余裕が必要です。
まず、北朝鮮は最終的に何を求めているのでしょうか?
この点は一貫しています。つまり、アメリカとの直接対話を通じて、北朝鮮の生存権を保証させること、です。
しかし、アメリカは直接対話を拒否しているので、核兵器を開発し、ミサイル開発をして自分の方に目を向けさせようと
しているのです。
その際、北朝鮮を核保有国として認めた上で、対等に話し合うことを要求していますが、アメリカはこれまでそれを拒否
しています。
アメリカは北朝鮮が核兵器を持っていることは事実として承知していて、それが核弾頭に搭載できるほど小型化できてい
るかどうか、そして、それを運搬できる大陸間弾道弾を開発しているかどか、を問題視しているのです。
アメリカの議会でも、北朝鮮が核保有国であること(これは秘密でも何でもありません)を認めるべきだ、という意見が
出ています。
さらに、インド、パキスタンについては認めており、公式には認めていませんが、おそらくイスラエルの核保有を容認な
いしサポートしていると思われます。
このような状況で、北朝鮮を核保有国と認めないのは、二重基準だ、というのが北朝鮮の言い分です。
北朝鮮問題に関して、私たちが注意しなければならないことが、まだまだたくさんありますが、今回は、一つだけ挙げて
おきます。
日本のメディアを見ていると、北朝鮮の宣伝映像や、ワシントンが火の海になるとか、核攻撃には核攻撃で反撃する、日
本の米軍基地を破壊する、というような激しい言葉をとらえて、金委員長は何をするか分からない、といった印象を受け
ます。
しかし、ここでも冷静に考えてみましょう。
金委員長は、もし自分の方から例えばアメリカに核を含む先制攻撃をすれば、ほとんど瞬時に北朝鮮が破壊されてしまう
ことは十分に認識しているはずです。
彼は、それが分からないほど馬鹿ではない、と私は思っています。それを前提として、なぜ、彼が強硬姿勢を取り続けて
いるのかを冷静に考える必要があります。
他方、トランプ氏も何をするか分からない、との評もあります。
万が一、トランプ氏が北朝鮮の攻撃を実行して、物理的に完膚なきまで破壊し、金委員長を殺害したとして、その後に起
こる混乱をどのように収拾するのかの明確なプランをもっているかどうか、かなり疑問です。
イラクを軍事的に破壊しフセインを排除したけれど、後は混乱だけが残り、ISを生み出してしまったことを忘れてはな
りません。
次回は、日本も含めて、世界各国は北朝鮮問題をどのようにとらえ、どんな解決方法を見出そうとしているのかを考えて
見たいと思います。私は、現在のところ主要なプレイヤーとして全く登場していないロシアがこの問題の行く末に重要な
役割を果たすことになるのではないか、との予感をもっています。
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刀匠 宮入法廣氏 鍜治場で話を聞く

宮入氏に日本刀の見方を教えてもらう

4月6日、アメリカのトランプ大統領はアサド政権が、化学兵器を使用したとの理由で、シリアへミサイル攻撃を行った
ことについては前回と前前回の記事で書いた通りです。
実は、この攻撃には、北朝鮮への警告という狙いも込められていました。
つまり、オバマ政権では軍事力を行使することなく、話し合いを基調とした「戦略的忍耐」を外交の指針としていました
が、トランプ氏は、北朝鮮が限度を越えたらシリアと同様、アメリカは攻撃を実行する、とのメッセージを送ったのです。
では、トランプ氏はなぜ、4月の段階で、このようなメッセージを発する必要があると考えたのでしょうか。
4月は北朝鮮にとって、重要な記念式典が二つ控えており、これまで、このような式典に合わせるようにミサイルの発射
や核実験を行ってきました。
特に今年の4月15日は、北朝鮮の神格化された「建国の父」「偉大な指導者」である金日成主席の生誕105年にあた
る、非常にお目出たい日です。
そして、25日は北朝鮮軍の創建85年目にあたる記念日(建軍節)です。これも、北朝鮮にとっては非常に重要な日で、
国民の休日になっています。
このように見てくると、確かにこの二つの記念日は、大きな節目にあたっています。金正恩朝鮮労働党委員長(1984年1
月生まれ。33歳)が、世界が驚くようなことをする誘惑を抱いていることは十分に想像できます。
それを見越して、トランプ大統領は一方で、「全ての選択肢はテーブルの上にある」と言い、武力攻撃が選択肢にあるこ
とを強調しています。他方、当然のことですが、外交交渉による問題解決の選択肢もある、ということです。
また、スパイサー米大統領報道官は17日の記者会見で、「シリアでの行動をみれば分かるように、適切であれば大統領は
決定的な行動をとる」とも強調し、軍事行動に移る可能性は否定しませんでした。
メディアでは、アメリカが軍事行動を起こすのは、北朝鮮が「一線(レッドライン)を越えたとき」とし、それは核実験
を行ったか、大陸間弾道弾(ICBM)の開発した時であるとしています。
こうした外交的ブラフ(脅し)を発する一方、空母、巡洋艦、原子力潜水艦を朝鮮半島近辺に呼び寄せるなど、古典的な
「砲艦外交」を絵に書いたような軍事的圧力をかけています。
同時に、平壌上陸も想定した、大規模な米韓合同演習(金委員長の「斬首作戦」)をも暗に想定した、「フォール・イー
グル作戦」を4月末まで実施しています。
そして、北朝鮮には開発を止めるよう圧力をかける傍らで、今回の緊張状況の只中でアメリカ本国で大陸間弾道弾の実験
をしています。これで説得力はあるでしょうか?
では、4月15日と25日に何が起こったのでしょうか?
実際には、脅威になるような深刻ななにも起こらなかったのです。
実際には、25日には、通常兵器の長距離砲を海岸線に並べて一斉に海に向かって発砲するパフォーマンスの映像を発信
しただけでした。
安倍首相は、北朝鮮の脅威と挑発を強調しますが、ここまでのところ、北朝鮮は何も行動を起こしていません。挑発して
いるのは北朝鮮ではなく、アメリカのような印象さえ受けます。
一部の人たちは、これはアメリカの軍事圧力と、中国の説得があったから、金委員長は何もできなかったからだ、と評価
しています。
果たして、本当にそうでしょうか?
4月29日の早朝、北朝鮮は何らかのミサイルの発射実験を行いました。このミサイルは50キロほど飛行し、北朝鮮内
陸部に落下しました。
これに対してトランプ氏はツイッターで、「北朝鮮は中国と非常に尊敬されている(習近平)国家主席を尊重せず、今日
ミサイルを発射したが、失敗した。“悪いことだ”」と書きこんでいます。
(North Korea disrespected the wishes of China & its highly respected President when it launched,
though unsuccessfully, a missile today. Bad!)
この場合、Bad! とは、ミサイルと発射したことが“悪いことだ”と言う意味なのか、あるいは、さらに深読みすると、
中国は説得したはずなのに、それが無視されたじゃないか、と暗に中国の無力さを皮肉っているのか、分かりません。
北朝鮮問題がどのように落ち着くのか分かりませんが、ここで、いたずらに脅威を煽り立てることは控え、一旦、冷静に
事態を見て、解決の方向を探ることが必要です。
この際、アメリカとそれに追随する安倍政権の側だけではなく、北朝鮮側から見ると、現状はどう映るのかを考えてみる
べきでしょう。
大国を自任するなら、それくらいの余裕が必要です。
まず、北朝鮮は最終的に何を求めているのでしょうか?
この点は一貫しています。つまり、アメリカとの直接対話を通じて、北朝鮮の生存権を保証させること、です。
しかし、アメリカは直接対話を拒否しているので、核兵器を開発し、ミサイル開発をして自分の方に目を向けさせようと
しているのです。
その際、北朝鮮を核保有国として認めた上で、対等に話し合うことを要求していますが、アメリカはこれまでそれを拒否
しています。
アメリカは北朝鮮が核兵器を持っていることは事実として承知していて、それが核弾頭に搭載できるほど小型化できてい
るかどうか、そして、それを運搬できる大陸間弾道弾を開発しているかどか、を問題視しているのです。
アメリカの議会でも、北朝鮮が核保有国であること(これは秘密でも何でもありません)を認めるべきだ、という意見が
出ています。
さらに、インド、パキスタンについては認めており、公式には認めていませんが、おそらくイスラエルの核保有を容認な
いしサポートしていると思われます。
このような状況で、北朝鮮を核保有国と認めないのは、二重基準だ、というのが北朝鮮の言い分です。
北朝鮮問題に関して、私たちが注意しなければならないことが、まだまだたくさんありますが、今回は、一つだけ挙げて
おきます。
日本のメディアを見ていると、北朝鮮の宣伝映像や、ワシントンが火の海になるとか、核攻撃には核攻撃で反撃する、日
本の米軍基地を破壊する、というような激しい言葉をとらえて、金委員長は何をするか分からない、といった印象を受け
ます。
しかし、ここでも冷静に考えてみましょう。
金委員長は、もし自分の方から例えばアメリカに核を含む先制攻撃をすれば、ほとんど瞬時に北朝鮮が破壊されてしまう
ことは十分に認識しているはずです。
彼は、それが分からないほど馬鹿ではない、と私は思っています。それを前提として、なぜ、彼が強硬姿勢を取り続けて
いるのかを冷静に考える必要があります。
他方、トランプ氏も何をするか分からない、との評もあります。
万が一、トランプ氏が北朝鮮の攻撃を実行して、物理的に完膚なきまで破壊し、金委員長を殺害したとして、その後に起
こる混乱をどのように収拾するのかの明確なプランをもっているかどうか、かなり疑問です。
イラクを軍事的に破壊しフセインを排除したけれど、後は混乱だけが残り、ISを生み出してしまったことを忘れてはな
りません。
次回は、日本も含めて、世界各国は北朝鮮問題をどのようにとらえ、どんな解決方法を見出そうとしているのかを考えて
見たいと思います。私は、現在のところ主要なプレイヤーとして全く登場していないロシアがこの問題の行く末に重要な
役割を果たすことになるのではないか、との予感をもっています。
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刀匠 宮入法廣氏 鍜治場で話を聞く

宮入氏に日本刀の見方を教えてもらう
