大木昌の雑記帳

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フランシスコ教皇の訪日メッセージ―現代社会への警告―

2020-01-27 20:05:34 | 思想・文化
フランシスコ教皇の訪日メッセージ―現代社会への警告―

フランシスコ・ローマ教皇が昨年11月23日から26日に日本を訪れました。教皇の訪日は
38年ぶり二度目です。今回のテーマはProtect All Life (全ての命を守るために)でした。

フランシスコ教皇(法王)は、アルゼンチン出身でヨーロッパ大陸以外の地域から選ばれた初
めての教皇です。就任以来、教皇の妻帯を認めるなど、数々の改革を推進してきました。

また、庶民派教皇としてどこに行っても人気があり、「ロックスター」との愛称もあります。

言うまでもなく、教皇とはキリスト教カソリック教会の頂点に立つ存在で、13億人ともいわ
れる世界のカトリック教徒の宗教的・精神的指導者です。

フランシスコ教皇は、宗教的発言だけでなく、時には政治的な強いメッセージを発しています。
とりわけ、核兵器と大量破壊兵器に対しては強い批判を繰り返してきました。今回の訪日に際
しても、忙しい日程を割いて長崎と広島を訪れました(注1)。

広島や長崎でのスピーチは感動的でとても大きな意義があったと思いますが、ここでは、11
月25日 東京文京区東京カテドラル聖マリア大聖堂で行われた「青年との集い」で「次世代
へのメッセージ」をテーマにとして行った教皇のスピーチです(2020年1月16日 NHKB
S1放送)について書きます。これはとても叡知に満ちたスピーチです。以下に特に私が感銘
を受けた個所を以下に引用します。

    世界には物質的には豊かでありながらも 孤独に支配されて生きている人のなん
    と多いことでしょう。私は、繁栄した、しかし顔のない社会の中で、老いも若きも多
    くの人が味わっている孤独のことを思います。
    自分にとって最悪と思う貧しさはなんだろう。自分にとっていちばんの貧しさはなん
    だろうか。正直に考えれば気づくでしょう。 抱えている最大の貧しさは孤独であり。
    愛されていないと感じることです。

こうした言葉の背後には、教皇が常に言っている、「未来を担う若者の、誰一人として見捨て
られてはいけない」という強い信念があります。

この時、日本語の通訳を行ったイエスズ会日本管区長のデ・ルカ・レンゾ神父は、教皇に随行
して次のように感じたという。

    何百人何千人と会った中で、一人一人に向き合ってその人の気持ちを受け取ろうとす
    る。それもやはり会った人たちもそれを感じていたんですね。教皇が一つのパフォー
    マンスとして決められた人たちと会うよりは、(今、目の前にいる)この人との話を、
    すこしでもそれを感じたい。私たちがみていてもそれを感じました。

私は子どもの頃、たまたま当時の家の事情でキリスト教(ロシア東方教会)と多少の縁があり、
また私はキリスト教(プロテスタント)の大学に勤めていましたが、私はキリスト教徒ではあ
りません。

しかし、教皇のこれまでのスピーチやメッセージには、特定の宗教を離れて、人間一般にたい
する普遍的な原点、あるべき姿、核兵器のような非人道的兵器に対する強い批判などに共感し
てきました。

上に引用した教皇のメッセージをもう一度、見てみましょう。

教皇が現代社会ついて強く感じている危機感の一つは、繁栄した顔のない社会の中で、老いも
若きも味わっている「孤独」です。

教皇は自分にとって最悪と思う「貧しさ」とは何かを問い、そして、それは「孤独」であり、
「愛されていないと感じること」だと言います。

つまり、「孤独」と「愛されていない」ことは教皇にとって、そして恐らく私たち全てにとっ
て「最悪」である、と言っているのです。

私たちは、このことを薄々感じてはいるものの、それをはっきり意識することは、あまりにも
厳しく辛いので、なるべく意識しないようにしているのが現実です。

実際、現代では、知り合いはたくさんいるかも知れませんが、本当の「友」と呼べる人は意外
と少ないのかも知れません。

だからこそ教皇は、わざわざ「正直に考えればわかるでしょう」と、現実を直視してごらんな
さい、と念を押しているのです。

この孤独は、物質的には豊かな「繁栄する」、「顔のない社会」の中でまん延しているという。
ここで「顔のない社会」とは、一人一人が独立した人間として、その人格や個性や尊厳が社会
のなかで尊重されることなく、あたかも無名の人間のようにしか認識されない社会です。

では、どうすれば良いのでしょうか。教皇は、その場では答えていませんが、彼はいたるとこ
ろでいろいろな表現で語り、そして実践しています。

つまり、自ら他人に寄り添い(他の人の言葉に耳を傾け、寄り添い)、他人を愛する(他人を
心から大切に思う)ことです。この場合の「愛する」とは、「隣人を愛せよ」というキリスト
教的な意味合いを含んでいますが、一般的な意味でも十分理解できます。

今回の教皇のスピーチを聞いていて、私は今から30年以上も前に、偶然、テレビでマザー・
テレサがアメリカの大学で行ったスピーチを思い出しました。

正確な言葉は覚えていませんが、マザー・テレサは、おおよそ次のような言葉で大学生に向か
って話し始めました。

    私はこの度、アメリカに飢えをいやしにやって来ました。しかし、この「飢え」とは
    パン一枚を求めるという意味の「飢え」ではありません。今、この国の多くの人は、
    愛に対する“絶望的”な飢え”を抱えています(注2)。

当時私はマザー・テレサの名前や活動について多少は知っていましたが、この言葉を聞いたとき、
その洞察の鋭さに本当にショックを受けました。

マザー・テレサは愛に関する多くの言葉を残しています。たとえば、上に引用したスピーチに関
連した言葉として、「愛に対する飢えは、パンに対する飢えよりも、はるかに取り除くことが難
しいのです」あるいは「愛の反対は憎しみではなく無関心です」などがあります(注3)。

しかし、教皇とマザー・テレサが、現代社会、とりわけ先進国と言われる国々においてまん延し
ている深刻な事態の一つを「愛の欠如」したがって「孤独」である、という点を指摘しているこ
とは偶然ではありません。

というのも、二人とも現代社会が抱える深刻な病理である「愛の欠如」と「孤独」のさらにその
奥底では、他人に対する無関心、言い換えれば「自分さえ良ければ」「自分だけが大事」という
意識が支配的になっていることを見抜いているからです。

個人と個人の関係においても、無関心・愛の欠如・孤独は、いわば相互に密接に関連して、私た
ちの心を蝕みます。これが国家単位になると、国際紛争や対立、悪くすると戦争にまで発展して
しまいます。

残念ながら、今、世界では「アメリカ・ファースト」に象徴される露骨な自国第一主義が横行し
つつあり、保護貿易主義や移民や外国人に対する排斥などが強まっています。

また、国際的な貧富の格差が大きくなっていますが、それを少しでも平等化しようとする動きは
ありません。

他方で、国内においても、貧富の格差はますます大きくなっていますが、たとえば現在の日本を
見れば、大企業や富裕層などごく一部の特権層は税制やその他の制度で守られている反面、普通
のサラリーマン、中小企業の経営者やそこで働く人たち、福祉施設で働く人たち、社会的・経済
的弱者にたいする配慮は、むしろ後退しています。

国際的には豊かな国と貧しい国、国内的には本の一部の豊かな階層と大多数の貧しい人びととの
分断が進行しており、互いに思いやる感情は希薄です。

このような分断された社会状況の中で、特権層ではない多くの人は、老いも若きも将来に希望を
もてないまま孤立し、孤独にさいなまされているように私には感じられます。

「自国第一主義」との対応でいえば、分断された社会では「自分第一主義」がじわじわと、しか
し着実に進行し個人と社会を蝕んでいるようです。

今から20年ほど前の2000年ころから、私は上に書いたような問題に危機感を感じ始め、そ
れをまとめて2005年に『関係性喪失の時代―壊れてゆく日本と世界―』(勉誠出版、2005)
というタイトルで出版しました。

そこでは、現代の社会的病理の根底に、人と人、人と自然、との間の関係性が壊れてしまったと
いう状況があることを指摘しています。

大切なことは、自分以外の人や自然に、そして政治や社会にも関心をもち、もう一度関係性を取
り戻す努力をすることではないでしょうか?

そうしないと、自分も政治も社会も閉塞状況から抜け出せないと思います。

今回の教皇が訪問中に発したメッセージをどりつつ、私は以上のような感想を持ちました。

(注1)長崎でのスピーチに関しては、さし当り『日経新聞』(デジタル)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52551350U9A121C1000000/?n_cid=DSREA001 を参照。
広島でのスピーチに関しては『日経新聞』(デジタル)2019/11/23 17:32 (2019/11/23 20:27更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52544370T21C19A1MM8000/?n_cid=DSREA001を参照。
(注2)違っているかもしれませんが、この時のスピーチで私の頭に残っている英語は、”desparate hunger for love”だったような気がします。
(3)マザー・テレサの言葉集はインターネットで簡単に見つけられます。たとえば、
https://iyashitour.com/archives/21434#page1 https://iyashitour.com/meigen/greatman/mother_teresa を参照。




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気候変動と異常気象―もう臨界点を超えてしまったのか―

2020-01-18 07:24:47 | 自然・環境
気候変動と異常気象―もう臨界点を超えてしまったのか―

2020年は、世界と日本の環境や生活にとって、新たな出発の年です。

というのも、2015年に締結された「パリ協定」(温暖化対策の新たな国
際協定)が今年(2020年)からスタートすることになっているからです。
この協定では、世界の平均気温の上昇を産業革命時の2度未満、理想的には
1.5度以内に抑える必要があります。そのためには、2050年までに温室
効果ガス(炭酸ガスなど)の実質排出量をゼロにする必要があります。

この目標を具体的に実行するための枠組みを議論する会議(COP25)が
昨年12月2日~13日にマドリードで開催されました。しかし、日程を40
時間も延長して議論したにもかかわらず、中国やインドなど、まだまだ化石
燃料への依存度が高い国などの反対で、参加国全体が合意できる方向を示す
すことができないまま閉会となってしまいました。

それでも、ヨーロッパを中心に66カ国が、2050年までに温室効果ガス
(炭酸ガス)の排出量をゼロにする目標を掲げました。

この会議で、日本は小泉進次郎環境相を送りましたが、全く存在感を示すこ
とができなかっただけでなく、温暖化の原因の一つとされている二酸化炭素
の削減目標さえ示すことができず、それどころか世界から批判を受けている
石炭火力の活用を縮小する姿勢も示すことができませんでした(注1)。

このため、世界環境NPO団体から、環境問題に消極的な国に批判の意味を
込めて贈られる「化石賞」を受賞しました。これで日本は二度目の受賞とい
う不名誉な評価をされたことになります。

では実際のところ、世界と日本で地球の気候変動、とくに温暖化と関連して
どんな環境の変化が生じているのでしょうか、そして、それは今年以降もつ
づくのでしょうか?

2020年1月13日に放送されたNHKBS1のドキュメンタリー番組、
「気候クライシス」は、ICPP(気候変動に関する政府間パネル)の最新
版の報告書(2019年)に基づいて、最近起こっている、気候変動にとも
なう災害を実際の映像で示しています。

温暖化は、海水温の上昇、それによる海面上昇、高潮、台風やハリケーンな
ど海水温の上場がもたらす大型の暴風雨、他方で乾燥(干ばつ)、森林火災
などをもたらします。

2019年に起こった主な災害のうち、気候変動と関連すると思われる主な
ものを幾つかあげてみます。

①アフリカ・モザンビークで発生した、南半球史上最大の暴風雨(サイクロ
ン)「イダイ」により185万人が被災しました。

②イタリアのベネチアで過去50年最悪の高潮が発生し街のかなりの部分が
海水に浸かりました。

③アメリカ。カリフォルニア州で発生した山火事(年間7800件)で、民
家も火災にあうようなったため、非常事態宣言がだされました。

④グリーンランドでは高温のため1日で125億トン、過去最大の氷が融解
しました。寒さが厳しいこの地の人にとっては「半袖で過ごしたこの夏ここ
ちよかったそうです(『東京新聞』2019年11月5日)

⑤海水温の上昇により北極圏の氷が溶けたためアラスカの沿岸地域では、近
年、海面上昇と高潮によって、海岸線が800メートルも後退し、沿岸のい
くつかの村は家が水没して生活できなくなっていまいました。

⑥直接的な被害は出ていないが、将来、海面情報をもたらすであろう現象と
して、南極の氷もすさまじいスピードで溶けています。南極の氷は地球上の
氷の90%を占めています。

これは南太平洋の島々でも大なり小なり長期的趨勢として生じています。

もし、このまま温暖化が止まらないと、今世紀末には海面は61センチから
最大で1.1メートル上昇するとみられています。

報告書は、海水面の上昇によって水没が予想されるコースタル・メガシティ
(沿岸巨大都市)としてニューヨーク、東京、ジャカルタ、ムンバイなどを
挙げています。

他方、陸地では海の2倍のスピードで劣化が進んでいます。とりわけ深刻な
のはサハラ砂漠以南のサヘル地区で、干ばつのため作物ができず、食べ物を
巡って周辺の民族間で凄惨な殺戮まで起こっています。

この部分をみて、20年ほど前に、北インドを訪れた時のことを思い出しま
す。当時、地元の人が、「これからは水のためだけで戦争が起こるだろう」
といった言葉を思い出しました。

このドキュメンタリーでは取り上げていませんが、オーストラリアにおける
森林火災は、昨年の9月から現在も鎮火することなく、森林原野を焼き尽く
し、何億匹とも思われる野性動物が死んでいます。

これにはオーストラリ全体が異常な乾燥状態にあるうえ、特殊な植生(ユー
カリが7~8割を占める、という特殊な植生、そしてユーカリが「ガソリン
の木」と言われるように、油分を多量に含み一度火災が起きると、なかなか
消えないという性質にも一因があります。

このテレビで紹介されたICPPの報告書が発している多くの警告の中で、
私は、二つのことが特に強く印象に残りました。

一つは、気候変動による環境の悪化が進行すると、もう後戻りできない臨界
点(ティッピング・ポイント)がある、という指摘です(注2)。

地球はかなりの回復力を持っていますが、それでも、ある限界を超えてしま
うと、もう後に戻れなくなってしまうというのです。問題は、まだ間に合う
のか、ひょっとしたら、もう、超えてしまったのだろうか?

もう一つは、この気候変動は元はといえば人間が生じさせたことだから、人
間が解決できる、という指摘です。まだ間に合うとしたら、何としてもこの
気候変動を止めなければなりません。

ところで、最近の日本の状況は、もう、臨界点を超えてしまったのではない
かと思われる現象が続いています。

2012年には九州北部の梅雨による豪雨があり、筑後川流域に大きな被害
がでました。私はたまたまその2年前に、三連水車で有名な朝倉地区を訪れ
たので、その水車が壊れてしまった写真を見てとてもショックでした。

2016年には広島県で豪雨と、それにともなう土砂災害で74人の直接の
死者と関連死3名という多数の死者が出ました。

2017年、再び九州北部が再び豪雨に見舞われ、死者40名、行方不明2
名という大災害となりました。

翌2018年7月の岡山県の豪雨では死者81人(うち関連死20名)、行
方不明3名、家屋の全壊が4820戸、半壊3355戸、一部損壊1122
戸、床下浸水5531戸、床上浸水1537戸という被害状況だった。

同9月4日に近畿地方に上陸した台風21号は、風速58メートル超、それ
は大型トラックが横転するほどの猛烈な風と高潮で、死者14名、家屋の全
壊68戸、半壊833、一部損壊9万7000戸、床上浸水244戸、床下
浸水403戸、という大きな被害をもたらした。

2019年(令和元年)8月、2019年には台風15号により、死者こそ
3人とすくなかったが千葉と東京では強風(千葉市で風速57メートル超)
により家屋に非常に大きな被害がでた(全壊391戸、半壊4204戸、一
部損壊72,279戸)。この時、千葉の房総では屋根が飛んでしまった家
が夥しい数にのぼった。強風で電柱が1000本以上倒れるなど、これまで
の台風では経験したことのない現象が起き、停電も広範囲におよんだ。

同年台風19号は10月12~13日にかけて、中部から関東、東北の1都
13県という広い範囲におよんで大雨、暴風、高浪、高潮を発生させ、信濃
川、阿武隈川を始め71河川128カ所で堤防の決壊が発生した。死者96
人、家屋の全壊2196戸、半壊12000戸、一部損壊15533戸、床
上浸水26774戸、床下32264戸、一つの台風としては前例のないほ
ど広範囲で甚大な被害が発生した。

ところで、これらの台風が強大な勢力となって、上陸しても勢力が衰えなか
ったのは、日本近海の海水温が上昇しており、台風や前線が海水からエネル
ギーと水分を供給され続けたからでした。

この意味では、台風の巨大化と大雨はやはり地球温暖化が主な要因であった
といえます。

ここ数年、気象庁の警報に「命を守る行動をとってください」という言葉使
われるようになりましたが、これは決して大げさではなく、実際に台風や大
雨で多くの命が奪われている野です。

IPCCの警告にあったように、30年に一度、50年に一度、という自然
災害が、世界で藻日本でも、毎年発生する可能性があるのです。

前回の記事では、日本の経済・社会の状況があまり好ましくないことを書き
ました。加えて、自然災害の面でも、決して油断ができない1年になりそう
です。
 

(注1)これについては本ブログ2019年12月14日の「地球温暖化と
    日本の立場」と題する記事で書きました。
(注2)「臨界点」に関する気象学者の警告は、National Geographic 2019.11.30
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/112900692/

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2020年の日本と世界は?-不確実性の闇の中を進む―

2020-01-08 08:06:05 | 社会
2020年の日本と世界は?-不確実性の闇の中を進む―

年頭に当って、毎年、誰もが今年は自分にとって、また人によっては自分の会社にとって、
さらに広い視野から日本と世界にとって、どんな1年になるのか、を考えてみます。

私の率直な印象を言えば、今年は、日本にとっても世界にとっても「不確実性という闇の
中を手探りで進む年」の初年度になる、というものです。

不確実性とは、今の時点では、この先何が起こるのか予想できない状態を指します。

言うまでもないことですが、2010年の日本と世界は2019年の延長で、2019年
の状況は、それ以前の何年、あるいは何十年もの過去を引きずっています。

したがって、過去から継続していることに関してはある程度予想はできます。

他方、今年になって、想定外の出来事が、突発的に起こるかも知れない、未知の状況もあ
ります。

今年の日本をある程度予見するには、過去も含めたさまざまな角度から考える必要があり
ますが、これら全てをここで扱うことはできません。そこで、以下では、いくつかの点に
絞って、短期と、問題によっては中・長期の展望を含めて私の問題意識を書いてみたいと
思います。

①自然と環境
まず、私たちの生活を直接に脅かす要因として、台風、大雨、酷暑、干ばつなど異常気象
による災害は今年も引き続いて起こる可能性はあり、警戒が必要です。加えて、地震もい
つ起こっても不思議ではない不気味な状態にあります。

つまり、自然現象に関しては、今年もずっと緊張の1年となることは間違いありません。
しかも、もし、気温の上昇が続けば、水分の蒸発は高まり、空気中の水分量が増えるので、
大雨の危険性はさらに高まります。

②オリンピック・パラリンピック
今年度限定、という意味では、オリンピック・パラリンピックが7月~8月に東京を中心
に開催されます。

既にこのブログでも書いたように、私の個人的な見解は、このオリ・パラ東京開催には反
対です。誘致に関連しての賄賂疑惑、国立競技場の設計公募にまつわるゴタゴタ、シンボ
ルマークの盗作問題などなど、とにかく疑惑とゴタゴタだらけです。

しかし、最大の問題は、酷暑の真夏に東京で開催することで、案の条マラソン会場は東京
から札幌へ変更せざるを得なくなりました。つまり、都知事を始め関連した種々の委員会
のメンバー、政治家や行政機関は、オリンピックをレガシーとして誘致することだけが目
的で、アスリートのことを真面に考えてはいなかったとしか思えません。

そして、今回の東京オリ・パラの大義である「復興オリンピック」「コンパクト・オリン
ピック」は、どこかに吹っ飛んでしまっており、誰も見向きもしません。

大義なきオリンピック・パラリンピックが酷暑の中で、選手に病人や死者が出ないことを
願うばかりです。

③経済・社会
まず、日々の生活に大きな影響を与える消費税が昨年10月に実施され、それの影響を緩
和するために、キャッシュレス・ポイント還元などの、優遇措置が同時に適用されました。
しかし、これは今年の6月で終了し、以後は10%の消費税が家計にずっしりとのしかっ
てきます。

加えて、7~8月はオリンピックで膨らんだ工事や雇用のため、一次的には活気づきます
が、オリンピックの終了後は、それらは一瞬にして消滅し、「宴のあと」の空虚感と不況
が予想されています(1)。

これは、1964年の東京オリンピックの直後から起こった倒産、失業、不況をみればほ
ぼ推測できます。

もうひとつ気がかりなのは、政府が後期高齢者(75才以上)が窓口で支払う医療費の割
合を現状の1割から2割に引き上げようとしていることです。

だれも、好き好んで病気になるわけではありません。歳を重ねれば、いやでも医者や薬の
お世話になることが多くなります。

最近の医療費は、ちょっとのことでも薬や検査で1万円くらいはすぐにかかってしまいま
す。今までは窓口で1割負担の場合は1000円で済んだものが2000円になるといこ
となので、これは年金だけで生活している高齢者にとっては深刻な問題です。

政府は、まだ検討の段階としていますが、もし実施されれば、たとえ病気になっても医者
に行くのを思い止まる人も多くなる(政府はそれを望んでいる)可能性はあります。

これでは、憲法で保障している「健康で文化的な生活」はとうてい守られません。

もう一つ、今すぐに問題と言うわけではありませんが、昨年度は新生児が初めて100万
人を割り込みました。少子化はますます深刻化しています。

日本が抱える深刻な問題は高齢化と人口減少です。北欧やフランスなどで実施されている
ような、出産と育児に対する最大限の支援政策を、今年から万難を排して直ちに始めるべ
きです。政府は、戦闘機などに巨額のお金を使っている場合ではありません。

次に、経済全般についてみてみましょう。ここでも、今年になって、希望の持てる明るい
材料はかかなか見つかりません。むしろ、今年というより、これまでの長期の問題や失敗
が、今年に入って表面化する可能性があります。

まず、第一は、「失われた20年」とも言われる、長期のデフレが解消されず、景気は一
向に上向いていないことです。

アベノミクスでは、「異次元の金融緩和」を行い、毎年80兆円という、国家予算(一般
会計)の8割にも達するお金を市場に流しながらも、そのお金の多くは「死に金」「塩漬
けされた金」として日銀にある口座に眠ったままで、投資に使われることはありません。

本来なら、アベノミクスの三本の矢は、第一の矢の金融政策と、第二の矢の財政政策で景
気に火を付け、第三の矢で、民間の投資を促す成長戦略を実現するはずでした。

しかし、7年間も「異次元の金融緩和」と金利ゼロ政策をしながら、デフレは収まらず、
成長戦略としてはカジノと火力発電輸出(原発輸出は全て頓挫)以外全く成果がでていま
せん。

アベノミクスはもう、完全に失敗しているのに認めようとはせず、今年度も80兆円のお
金を市場につぎ込むことを決めています。

アベノミクスでは、巨額の公的資金を株に投資し、株価を挙げることにはある程度の効果
はありましたが、実態経済の、特に成長戦略には何の効果もありません。

こうして、国の借金は1200兆円と、空前の規模に達し、将来世代に付け回わされるこ
とになっています。

日本の企業は現在、400兆円を超す「社内留保」(つまり「貯金」)を抱えています。
企業は、利益を上げ、さらに新技術・新製品の開発に投資することこが本来の姿です。

その企業が貯金に走っている、というのは、企業にとってもはや有望な投資先を見いだせ
ないからです。もっと正確に言えば、今の日本企業は、新たな投資機会を作り出す能力が
ないことを白状してしまっているのです。

しかも、投資をしないだけでなく、働く人たちへの配分(賃金)も可能な限り抑えていま
す。これでは国民の所得は増えるはずもなく、物はうれなくなり、国内市場を対象として
いる企業は、自分で自分の首を絞めている自殺行為です。

企業が自己防衛のため「貯金」に走っていると同様に、国民も将来の不安に備えて消費を
切り詰め、自己防衛に走らざるをえないでしょう。ますます経済は萎縮します。

そして、日本経済の命運に大きな影響を与える問題は、米中貿易戦争の行方です。今のと
ころ、一応、“一時的な停戦”状態ですが、長期的にはなんら根本的解決には至っていま
せん。これも、日本と世界の経済にとって、不確実性の闇です。

④政治
これについては、もう絶望的です。安倍政権では森友学園・加計学園の問題で、公文書の
改ざんと廃棄による証拠隠滅、昨年来、問題となっている「桜を見る会」にまつわる証拠
の文書はシュレッダーで廃棄し、パソコンの保存データも廃棄する、など、とにかく、や
ることが汚すぎます。

まさに、瀬畑源氏が安倍首相のやり方を、“「合法的」に公文書を隠蔽するたちの悪さ”、
と表現した通りです(注2)。

国会では1問1答形式の予算審議には応じずに逃げてばかりです。つまり、何をやっても
多数の力で野党の要求は拒否し、真摯な説明はしない、という状況が7年も続いています。

これで、果たして日本は民主主義国家といえるのか、と思います。もし、この状態が今後
も続くとしたら、日本の政治はますます腐敗の泥沼の中に沈んでゆくことになります。

自民党の規定によれば、安倍首相の総裁任期は今年1年、ということになっています。し
かし、党内にはさらに規定を変え四選もあり得るとか、そのためにも野党の態勢が整う前、
今年の早い時期に、大義なき総選挙を、自民党の思惑だけで行うかもしれない、など、今
年の国内政治は波乱含みで、不確実性の闇の中を進むことになります。

このことと関係していますが、安倍首相は、今年中に何とか憲法改正の議論を進め、国会
での発議まで持ってゆきたい、との姿勢を強調しています。

しかし、いまのところ憲法審査会の議論は進んでいないし、憲法改正を望んでいないのに、
それでも強引に発議し、国民投票までもってゆくつもりなのでしょうか?今年は日本と日
本人にとって正念場です。

最後に、「外交の安倍」を謳っている割に、昨年までは、大した成果はありませんでした。
日中、日韓、日朝、日露の懸案事項は一歩も進まず、大量の兵器を購入したり、余剰のト
ウモロコシを買い付けたり、アメリカへの大盤振る舞いだけが目立ちました。

他方で、日米貿易交渉では、農畜産物の関税引き下げは飲まされましたが、日本側が強く
望んでいた車への関税引き下げは、“今後の協議に委ねる”、と体よく逃げられてしまい
ました。日本だけが不利益を被る、完全に、外交上の失敗です。しかし、この日米貿易交
渉は、今年の1月1日より発動していますので、日本の農家、とりわけ畜産農家がどうな
るのか心配です。

最後に、突然、降って湧いたように、トランプ大統領が、イスラム国排除のため先頭に立
って戦っていたイランの英雄、次期大統領とも目されている、ガーセム・ソレイマーニ革
命防衛隊司令官の殺害を命令し無人飛行機による爆撃で殺害しました。

安倍首相は先の閣議で海上自衛隊をオマーン湾に、「調査・研究」の目的で派遣すること
を決定しています。万が一、日本人の隊員が両者の戦闘に巻き込まれたら、政府はどうす
るのでしょうか。

この問題は、これまでになく深刻な事態を招く危険性があります。トランプ氏との密接な
関係を“売り”にしている安倍首相は、本来ならアメリカを説得して、イランとの核合意
に復帰し、軍事力を行使しないよう説得するべきなのに、何もしていません。

安倍首相は、トランプ大統領への忠義とイランとの良好な関係の維持との板挟みに陥って
いますが、自衛隊を派遣したことで、イランからは明らかにアメリカと行動を共にした、
とみなされるでしょう。


以上を総合すると、今年は日本にとっては不確実性に満ちた夜道を手探りで歩くような、
暗い気分になります。これが、単なる私の個人的な杞憂であることを願うばかりです。

ここまで書いたとき、イランによるイラク国内の米軍基地へのロケット砲攻撃の報道が
ありました。これは、”第三次世界大戦”のような大規模な報復戦の突破口となってし
まうのか、その影響が日本と世界にどんな影響を及ぼすのか、不確実性が一層、大きく
なっていまいました。
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ピッツバーグの朝焼け(辺り一面が火事になったように空一面が真っ赤でした)        ピッツバーグの夕日(幻想的な夕日でした)


(注1)ここではくわしく書きませんが、例えば https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/10011
 あるいは https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55912 を参照されたい。
(注2)毎日新聞  2020年1月6日 05時00分(最終更新 1月6日 08時25分)
    https://mainichi.jp/articles/20200105/k00/00m/040/187000c?fm=mnm

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