2013年参議院選挙(1)-国民は何を選択したのか?-
2013年7月21日に行われた参議院選挙で,自民党が圧倒的な勝利を収め,自公連立政権は衆参両院で安定過半数を確保しました。
今回の選挙結果は,戦後日本の骨格を根底から変える可能性を自民党にもたらしたという意味で,戦後日本の歴史の中でも大きな
転換点として記憶されるでしょう。
選挙結果の詳細については,すでに新聞やテレビで報道されていますが,一応,確認のために示しておきます。
まず,もっとも重要な数字である投票率は52.61%で,有権者の約半分,戦後3番目に低い率でした。
つまり,今回の選挙の民意とは,国民の半分の意志しか反映していないのです。これを念頭において結果を見てみましょう。
政党別当選者数は以下のとおりです。(改選数は121)
選挙区+比例代表 選挙区 比例代表
自民 65(44) 47 18
民主 17(34) 10 7
公明 11(10) 4 7
みんな 8(3) 4 4
共産 8(3) 3 5
維新 8(2) 2 6
社民 1(2) 0 1
生活 0(6) 0 0
みどり 0(4) 0 0
諸派 1(2) 0 0
無所属 2(5) 0 -
合計 121 73 48
(注)カッコ内は,公示前の人数。欠員が5名。
以上の結果から,多くの新聞が書いているように,自民圧勝,民主惨敗と言っていいでしょう。しかも,自民は1人区31選挙区で岩手と
沖縄を除く29議席を取ったことからも分かるように,全国的に圧倒的な優勢を確率していました。
1人区での圧倒的な勝利とは,自民党は各地方に安定した組織票と利害関係で結ばれた地盤があったということを意味しています。
自民党圧勝の主な原因は,民主党に対する失望であり,実質的に自民党の「不戦勝」に近い選挙であったといえそうです。
自民,民主の勝因と敗因については,さまざまな見解があり得ますが,それはまた別機会に考えるとして,今回は当選者数と得票数(率)について
私が注目する幾つかの点を挙げておきたいと思います。
まず,「維新の会」は全体では8議席獲得しましたが,そのうち選挙区では2議席だけで,6議席は比例代表でした。
ということは,各選挙区に安定した支持層があるのではなく,かなりの程度「風」「ブーム」頼りであったことを示しています。
当初は二桁の議席を獲得できると見られていたので,橋本代表も言っている通り維新の会にとって,今回は不満足な結果でした。
しかも,選挙区の2議席も大阪と兵庫の関西の2選挙区だけです。今後,「維新の会」が全国区で新たな「風」を起こせなければ,一挙にしぼんで
しまう可能性もあります。
次に,共産党が3議席から5つ伸ばして8議席を獲得したことは大いに注目されます。
共産党躍進の要因は,すでに多くの人が述べているように,反自民ではあるけれど,民主党に失望した人たちの受け皿となったことです。
もちろん,共産党が一貫して,反原発,反TPP,反消費増税を訴えてきた,ということも重要かもしれませんが,これらは他の党でも言ってきた
ことです。
したがって,共産党は,今回の結果だけで,党の主張が国民に受け容れられた,と考えるのはやや早計だと思います。
むしろ共産党の強みは,自民党ほどの数はありませんが,しっかりした組織票をもっていて,今回のように投票率が低い選挙では,それが有利に
働いたといえます。
もうひとつ,共産党が本当に確固たる支持を築くためには,「反」何々ではなく,積極的な対案を国民に示してゆく必要があると思います。
以上は,選挙結果に関する全般的な評価でしたが,次に,少し視点を変えて,比例代表の政党別得票数と得票率を見てみましょう。
ところで,選挙区の選挙では候補者と住民との特別な繋がり,特に利害関係の繋がりが大きく影響するので,必ずしも政党の支持とは一致しません。
これにたいして比例代表は,個人への投票もありますが,おおむね,政党の政策や理念への支持を反映しています。この観点から選挙結果を見てみ
ましょう。
比例代表の得票数と得票率
党派名 得 票 数 得票率 前 回
自 民 18,460,404 34.7 24.1
民 主 7,134,215 13.4 31.6
公 明 7,568,080 14.2 13.1
みんな 4,755,160 8.9 13.6
共 産 5,154,055 9.7 6.1
維 新 6,355,299 11.9 -
社 民 1,255,235 2.4 3.8
生 活 943,836 1.8 -
みどり 430,673 0.8 -
諸 派 1,172,652 2.2 1.9
無所属 - - -
合 計 53,229,612 100.0
上の数字から分かるように,前回の選挙と比べると,自民は得票率で10ポイント増え,民主は18ポイント減りました。自民圧勝,民主惨敗の
構図が,ここにはっきり現れています。
しかし,圧勝したと言われる自民党の得票率は34.7%,つまり,全投票者の3分の1程度です。
ただし,冒頭に書いたように今回の投票率が50%強と,全国民の民意の半分しか反映していないことを考慮すると,34.7%の得票率という
のは,自民党への支持率は,全国民の,せいぜい18%弱に過ぎないことになります。
自公連立与党を合わせても,比例代表の得票率は48%,全国民レベルに換算すると,その半分の24%,つまり4分の1の民意を反映している
に過ぎません。
それなのに,多くのマスメディアは,自民大勝という側面だけを強調し,このような現実を無視しています。
最大でも4分の1の支持で,国家全体の根幹が自由に変えられてしまうとしたら,非常に恐いことです。
ところで,今回の選挙で争点になり得る課題や問題は,憲法改正,集団的自衛権の発動,国防軍の創設,消費税増税,不況(失われた20年)から
の脱却,原発再稼働とエネルギー問題,原発輸出,TPP参加,沖縄の基地問題,年金問題(支給開始年齢の引き上げ,支給額の減少)など,たく
さんありました。
これらのうち,圧勝した自民党に投票した人たちは,何を根拠に投票し,何を選択したのでしょうか?
もし,自民党に投票した人たちに,たとえば,原発の再稼働や消費増税など,個々のテーマについて賛成か反対かを聞いてみれば,かなり多くの人
が反対だと答えるだろうと思います。
現段階では,投票の動機について全体状況を見渡せるほどのデータはありませんが,投票前の街頭インタビューなどの発言を聞いていると,「景気を
良くしてもらいたい」という意見が多かったような気がします。
おそらく,自民党に投票した人たちは,憲法改正や,国防軍の創設,原発再稼働や原発輸出などを理由として投票したのではなく,ただただ,景気が
良くなり,自分たちの給料や収入が増えて欲しい,といった漠然とした期待感で自民党を選択を投票したのではないかと思われます。
しかし,安倍自民党政権のもとで,どうして景気が良くなるのかについて,確かな根拠があるわけではなさそうです。
景気の回復というのは,今のところ一種のムードであって,一般国民の実感ではありません。
確かに,市中への貨幣供給量を増やして円の価値を下げれば,円安となり,一部の大手輸出企業にとっては輸出が伸び,企業業績が上がるでしょう。
しかし,考えてほしいのは,日本の全労働者の70%は中小企業で働いているのです。しかし現在の所,盛んに吹聴されている「アベノミクス効果」
が中小企業に及んだという話は聞いたことはありません。
それどころか,円安の副作用で原材料費が高騰し,それを販売価格に転嫁できないため中小企業は非常に苦しい立場に追い込まれています。
また,株価が上がったから景気が上向いていると,感じた人もいるかも知れませんが,現在の日本の株式市場で取引されている株の60%は海外の
投資家(特にヘッジファンド)です。彼らは,企業成績をみて株の売買しているのではなく,実質的には投機的な株価操作による利益だけを追求し
ているのです。
今回の株価の値上がり(といってもリーマンショック以前の水準にさえ達していません)で利益を得た人は,国民の何パーセントいるでしょうか?
現在の安倍政権が目指す方向は,あくまでも大企業中心の日本経済,そのシステムは小泉内閣時代よりさらに徹底した新自由主義(市場原理主義,
競争原理と自己責任の原則)です。一方で安倍政権は,年金の支給年齢を上げ,支給額を減らす方向を目指しています。
もちろん,現在はムードでも,いずれ本物の景気回復につながれば,それはそれで良いことなのですが,現在のところ「三本の矢」のうち,最も
大切な成長戦略について,具体的な方向は示されていません。
すでに発表された「成長戦略」はほとんど新味はなく,話題にさえなりませんでした。それどころか,成長戦略の第一弾を発表した直後に,株価は
失望から1日で1000円も値を下げたのです。
私は,これからの日本経済は,実体経済の成長を伴わないまま,貨幣価値の下落,物価の高騰,老後に備えて蓄えてきた預貯金の目減りなどインフレ
のマイナス面がが進行するのではないか,と懸念しています。
以上のことを考えると,自民圧勝という結果で終わった選挙で国民が選択したのは,「景気回復」という根拠に乏しい期待だったと言えそうです。
かし,今のところその裏付けはありません。その一方で,景気以外の重要課題についてはほとんど考慮されていなかったのではないでしょうか。
景気回復への期待とは,目先の金銭に関する思惑です。
しかし,長期的にみて,景気回復策が本当に私たちの生活を向上させるのか否かは不明で,私にはむしろかなり厳しい事態に追い込まれてゆく
可能性のほうが大きいと思われます。
次回は,今回の選挙結果が長期的に日本全体と私たちの生活どんな影響を及ぼすのかを,考えて見てみたいと思います。
2013年7月21日に行われた参議院選挙で,自民党が圧倒的な勝利を収め,自公連立政権は衆参両院で安定過半数を確保しました。
今回の選挙結果は,戦後日本の骨格を根底から変える可能性を自民党にもたらしたという意味で,戦後日本の歴史の中でも大きな
転換点として記憶されるでしょう。
選挙結果の詳細については,すでに新聞やテレビで報道されていますが,一応,確認のために示しておきます。
まず,もっとも重要な数字である投票率は52.61%で,有権者の約半分,戦後3番目に低い率でした。
つまり,今回の選挙の民意とは,国民の半分の意志しか反映していないのです。これを念頭において結果を見てみましょう。
政党別当選者数は以下のとおりです。(改選数は121)
選挙区+比例代表 選挙区 比例代表
自民 65(44) 47 18
民主 17(34) 10 7
公明 11(10) 4 7
みんな 8(3) 4 4
共産 8(3) 3 5
維新 8(2) 2 6
社民 1(2) 0 1
生活 0(6) 0 0
みどり 0(4) 0 0
諸派 1(2) 0 0
無所属 2(5) 0 -
合計 121 73 48
(注)カッコ内は,公示前の人数。欠員が5名。
以上の結果から,多くの新聞が書いているように,自民圧勝,民主惨敗と言っていいでしょう。しかも,自民は1人区31選挙区で岩手と
沖縄を除く29議席を取ったことからも分かるように,全国的に圧倒的な優勢を確率していました。
1人区での圧倒的な勝利とは,自民党は各地方に安定した組織票と利害関係で結ばれた地盤があったということを意味しています。
自民党圧勝の主な原因は,民主党に対する失望であり,実質的に自民党の「不戦勝」に近い選挙であったといえそうです。
自民,民主の勝因と敗因については,さまざまな見解があり得ますが,それはまた別機会に考えるとして,今回は当選者数と得票数(率)について
私が注目する幾つかの点を挙げておきたいと思います。
まず,「維新の会」は全体では8議席獲得しましたが,そのうち選挙区では2議席だけで,6議席は比例代表でした。
ということは,各選挙区に安定した支持層があるのではなく,かなりの程度「風」「ブーム」頼りであったことを示しています。
当初は二桁の議席を獲得できると見られていたので,橋本代表も言っている通り維新の会にとって,今回は不満足な結果でした。
しかも,選挙区の2議席も大阪と兵庫の関西の2選挙区だけです。今後,「維新の会」が全国区で新たな「風」を起こせなければ,一挙にしぼんで
しまう可能性もあります。
次に,共産党が3議席から5つ伸ばして8議席を獲得したことは大いに注目されます。
共産党躍進の要因は,すでに多くの人が述べているように,反自民ではあるけれど,民主党に失望した人たちの受け皿となったことです。
もちろん,共産党が一貫して,反原発,反TPP,反消費増税を訴えてきた,ということも重要かもしれませんが,これらは他の党でも言ってきた
ことです。
したがって,共産党は,今回の結果だけで,党の主張が国民に受け容れられた,と考えるのはやや早計だと思います。
むしろ共産党の強みは,自民党ほどの数はありませんが,しっかりした組織票をもっていて,今回のように投票率が低い選挙では,それが有利に
働いたといえます。
もうひとつ,共産党が本当に確固たる支持を築くためには,「反」何々ではなく,積極的な対案を国民に示してゆく必要があると思います。
以上は,選挙結果に関する全般的な評価でしたが,次に,少し視点を変えて,比例代表の政党別得票数と得票率を見てみましょう。
ところで,選挙区の選挙では候補者と住民との特別な繋がり,特に利害関係の繋がりが大きく影響するので,必ずしも政党の支持とは一致しません。
これにたいして比例代表は,個人への投票もありますが,おおむね,政党の政策や理念への支持を反映しています。この観点から選挙結果を見てみ
ましょう。
比例代表の得票数と得票率
党派名 得 票 数 得票率 前 回
自 民 18,460,404 34.7 24.1
民 主 7,134,215 13.4 31.6
公 明 7,568,080 14.2 13.1
みんな 4,755,160 8.9 13.6
共 産 5,154,055 9.7 6.1
維 新 6,355,299 11.9 -
社 民 1,255,235 2.4 3.8
生 活 943,836 1.8 -
みどり 430,673 0.8 -
諸 派 1,172,652 2.2 1.9
無所属 - - -
合 計 53,229,612 100.0
上の数字から分かるように,前回の選挙と比べると,自民は得票率で10ポイント増え,民主は18ポイント減りました。自民圧勝,民主惨敗の
構図が,ここにはっきり現れています。
しかし,圧勝したと言われる自民党の得票率は34.7%,つまり,全投票者の3分の1程度です。
ただし,冒頭に書いたように今回の投票率が50%強と,全国民の民意の半分しか反映していないことを考慮すると,34.7%の得票率という
のは,自民党への支持率は,全国民の,せいぜい18%弱に過ぎないことになります。
自公連立与党を合わせても,比例代表の得票率は48%,全国民レベルに換算すると,その半分の24%,つまり4分の1の民意を反映している
に過ぎません。
それなのに,多くのマスメディアは,自民大勝という側面だけを強調し,このような現実を無視しています。
最大でも4分の1の支持で,国家全体の根幹が自由に変えられてしまうとしたら,非常に恐いことです。
ところで,今回の選挙で争点になり得る課題や問題は,憲法改正,集団的自衛権の発動,国防軍の創設,消費税増税,不況(失われた20年)から
の脱却,原発再稼働とエネルギー問題,原発輸出,TPP参加,沖縄の基地問題,年金問題(支給開始年齢の引き上げ,支給額の減少)など,たく
さんありました。
これらのうち,圧勝した自民党に投票した人たちは,何を根拠に投票し,何を選択したのでしょうか?
もし,自民党に投票した人たちに,たとえば,原発の再稼働や消費増税など,個々のテーマについて賛成か反対かを聞いてみれば,かなり多くの人
が反対だと答えるだろうと思います。
現段階では,投票の動機について全体状況を見渡せるほどのデータはありませんが,投票前の街頭インタビューなどの発言を聞いていると,「景気を
良くしてもらいたい」という意見が多かったような気がします。
おそらく,自民党に投票した人たちは,憲法改正や,国防軍の創設,原発再稼働や原発輸出などを理由として投票したのではなく,ただただ,景気が
良くなり,自分たちの給料や収入が増えて欲しい,といった漠然とした期待感で自民党を選択を投票したのではないかと思われます。
しかし,安倍自民党政権のもとで,どうして景気が良くなるのかについて,確かな根拠があるわけではなさそうです。
景気の回復というのは,今のところ一種のムードであって,一般国民の実感ではありません。
確かに,市中への貨幣供給量を増やして円の価値を下げれば,円安となり,一部の大手輸出企業にとっては輸出が伸び,企業業績が上がるでしょう。
しかし,考えてほしいのは,日本の全労働者の70%は中小企業で働いているのです。しかし現在の所,盛んに吹聴されている「アベノミクス効果」
が中小企業に及んだという話は聞いたことはありません。
それどころか,円安の副作用で原材料費が高騰し,それを販売価格に転嫁できないため中小企業は非常に苦しい立場に追い込まれています。
また,株価が上がったから景気が上向いていると,感じた人もいるかも知れませんが,現在の日本の株式市場で取引されている株の60%は海外の
投資家(特にヘッジファンド)です。彼らは,企業成績をみて株の売買しているのではなく,実質的には投機的な株価操作による利益だけを追求し
ているのです。
今回の株価の値上がり(といってもリーマンショック以前の水準にさえ達していません)で利益を得た人は,国民の何パーセントいるでしょうか?
現在の安倍政権が目指す方向は,あくまでも大企業中心の日本経済,そのシステムは小泉内閣時代よりさらに徹底した新自由主義(市場原理主義,
競争原理と自己責任の原則)です。一方で安倍政権は,年金の支給年齢を上げ,支給額を減らす方向を目指しています。
もちろん,現在はムードでも,いずれ本物の景気回復につながれば,それはそれで良いことなのですが,現在のところ「三本の矢」のうち,最も
大切な成長戦略について,具体的な方向は示されていません。
すでに発表された「成長戦略」はほとんど新味はなく,話題にさえなりませんでした。それどころか,成長戦略の第一弾を発表した直後に,株価は
失望から1日で1000円も値を下げたのです。
私は,これからの日本経済は,実体経済の成長を伴わないまま,貨幣価値の下落,物価の高騰,老後に備えて蓄えてきた預貯金の目減りなどインフレ
のマイナス面がが進行するのではないか,と懸念しています。
以上のことを考えると,自民圧勝という結果で終わった選挙で国民が選択したのは,「景気回復」という根拠に乏しい期待だったと言えそうです。
かし,今のところその裏付けはありません。その一方で,景気以外の重要課題についてはほとんど考慮されていなかったのではないでしょうか。
景気回復への期待とは,目先の金銭に関する思惑です。
しかし,長期的にみて,景気回復策が本当に私たちの生活を向上させるのか否かは不明で,私にはむしろかなり厳しい事態に追い込まれてゆく
可能性のほうが大きいと思われます。
次回は,今回の選挙結果が長期的に日本全体と私たちの生活どんな影響を及ぼすのかを,考えて見てみたいと思います。