2025年参議院選(1)―参政党急躍進の背景と意味―
NHKが7月7日行った世論調査によれば、政党別支持率は、「自民党」28.1%、「立憲民
主党」8.5%、「日本維新の会」2.3%、「公明党」3.0%、「国民民主党」5.1%、「共産党」
3.1%、「れいわ新選組」3.2%、「参政党」4.2%、「日本保守党」1.0%、「社民党」0.5%、
「みんなでつくる党」が0.1%、「特に支持している政党はない」30.1%でした。
しかし、共同通信社が7月5、6両日に実施した参院選の有権者動向を探る全国電話世論
調査(第2回トレンド調査)によれば、比例代表の投票先は自民党が18.2%で、6月28、
29両日の前回調査(17.9%)から横ばいだった(注1)。
これに対して参政党は2.3ポイント伸ばして8.1%で2位に浮上し、国民民主党の6.8%の、
立憲民主党の6.6%を上回りました。(注2)
これらの数字から言えることは、選挙区での当落は分からないにしても、少なくとも比
例では支持が急上昇している参政党が躍進することはほぼ間違いありません。
今回の参議院選では、参政党代表の神谷宗幣氏が「日本人ファースト」)をキャッチコ
ピーに選挙戦を展開しています。
神谷氏のキャッチコピーが「日本ファースト」ではなく「日本人ファースト」と、「日
本人」を強調する点に注意すべきです。ここには、日本人以外の外国人との区別がは
っきりと意識されています。
参政党は政党として「規約」を定め、そこには以下の「理念」と「綱領」が書かれて
います。
理念 日本の国益を守り、世界に大調和を生む
綱領
一、先人の叡智を活かし、天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる。
一、日本国の自立と繁栄を追求し、人類の発展に寄与する。
一、日本の精神と伝統を活かし、調和社会のモデルをつくる。
このうち「理念」に関しては、その具体的な中身が分からない状態では、ごく一般的な
価値観であると思います。
そして「綱領」も二番目と三番目も、ごく一般的な規定です。しかし最初の「天皇を中
心に一つにまとまる平和な国をつくる」に関しては、ドキリとするような強烈な復古イ
デオロギーを示しています。
ただし実際の選挙運動で理念や綱領が語られることはありません。代わって、選挙公約
として「行き過ぎた外国人受け入れには反対」、「移民の課題は外国人統合政策庁で一括
して管理する」など、外国人に対する排外主義的なナショナリズムが目につきます。
これらは政党が「保守政党」ないし「右派政党」であることを示していますが、参政党
が「三つの重点政策」として「教育・人づくり」「食と健康・環境保全」「国のまもり」
を謳っており、個別の具体的政策では反LGBT、反ワクチン、反移民など異彩を放って
います。
しかも、「食と健康」では、オーガニック食品への強いこだわりを挙げており、一見す
ると左翼的な側面をも見せています。
しかし、2023年6月にはLGBT法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に
関する国民の理解の増進に関する法律)に対して「急進的な推進で社会的影響への懸念
がある」と、政府に質問主意書を提出しています(2025年1月24日)、これは紛れもなく
参政党は保守政党であることを示しています(注3)。
参政党の支持率が急上昇している一方、SNS上には参政党の支持者に対して「カルト」
「低能」「知性の劣化」などの批判が集まっています。平たく言えば、「参政党の支持者
は頭が悪い」といった内容です。
それは、国民主権や基本的人権を軽視した新憲法構想案や、支持者が根拠の不確かな情
報をまともに信じて拡散している現状があるからだと思われます。
例えば、「新憲法構想案」には、「国は、主権を有し、独立して自ら決定する」(第4条)
や、「国民の要件」として「日本を大切にする心を有することを基準」(第5条)にする
などの記述があります。
また、自民党の細野豪志衆議院議員が7月2日、X(旧Twitter)で「参政党の神谷宗弊代
表の『多国籍企業がパンデミックを引き起こしたということも噂されているし、戦争を
仕掛けるのも軍需産業』という日本記者クラブの党首討論会での発言は、国政政党とし
てはさすがに非常識。陰謀論の類だろう」とポストしたが、街頭演説などにおいても事
実誤認と思われる情報を度々発信しているのも確かです。
しかし、評論家の真鍋厚氏が言うように、だからといって参政党とその支持者を単なる
蔑称やレッテル貼りで片付けることは大いに問題があります。
この党勢拡大の背後にある真因に目を向けなければ状況を見誤ることになります。とい
うのも「ポピュリズム政党の躍進には、必ず合理的な理由が存在する。何らかの策略に
踊らされて支持や投票行動をしているわけではない可能性が高い」からです。
世界最大規模の世論調査会社イプソスのポピュリズムに関する動向調査の結果には、近
年日本でポピュリズム政党が台頭している理由が明快に示されています。
それによると、「自国は衰退している」と感じている日本人は70%に達し、調査対象31
カ国中で3番目に高い数値になっており、「日本人の自国に対する悲観的な見方が強まっ
ている」と指摘しています。
また、「既存の政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」と感じている日本
人の割合も68%と7割近くに上っており、2016年の39%と比べて29ポイントも増加し、9
年間で約1.7倍になったという。
特に2019年から2021年にかけては48%から64%に上昇し、「コロナ禍を経て、その後、政
治 への期待感が回復していないことがわかる」と「イプソス」はコメントしている。
こうした「自分のことを気にかけていない」と感じている人たちに向けて語りかけるのは、
同じくポピュリスト政党の国民民主党の手法も同じで、真鍋氏は次のように要約していま
す(注4)。
これは、サイレント・マジョリティのうちの、とりわけ「忘れられた人々」をかなり意識し
た手法といえます。「忘れられた人々」とは、「失われた30年」とともに少しずつ不利な境遇
へと追いやられていると感じている人々であり、現在の生活から転落する不安にさらされて
いる人々までを含みながら拡大しつつある。
つまり真鍋氏によれば、ポピュリズム政党が国政の舞台に押し上げられるのは、このままで
は自分たちが「忘れ去られてしまう」という焦燥感からであるという。
参政党が掲げる「日本人ファースト」は、排外主義というより「自国は衰退している」「既存
の政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」という怨念にも似た感情からの反
動とも言えます。
その内実は「わたしたちをもっと大切にしろ」ということであり、自尊心の回復が目指され
ている。その意図が鮮明になるという意味で「外国人」というカテゴリーが持ち出されてい
ます。
そこには、自民党がもはや保守政党の体をなしていないことや、先の見えない物価高と相次
ぐ増税という経済的な被災によって、国民生活が破壊されているにもかかわらず、国民に寄
り添った政策を何ら実行しないことへの強烈な不信と不満があります(注4)。
私も真鍋氏の分析にほぼ賛成ですが、1点だけ付け足しておきたい。それは、参政党の綱領の
第一に挙げられている「天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる」という国家感です。
今回の選挙で、自民党支持者の一部が参政党に流れたという分析がされていますが、その一部
には、自民党では物足りないと感じている、ネトウヨ的などコアな右派的な人々が含まれてい
ると思われます。
以下は私の個人的な見解ですが、日本は今や経済的にも先進国とは言えない地位に落ち込み、
世界の中での政治的な発言力も影響力を失っています。これは「失われた30年」と同時並行
して侵攻しました。
いわば政治経済的に「没落」している危機感の中で「自尊心を回復」する一つの方法は、自分
たちの文化価値を再評価することです。この場合、天皇は日本固有の文化的なシンボルです。
こうした文化の再評価(ある意味で復古的動き)は歴史の中で繰り返し行われてきました。
この意味でも、真鍋氏が、ポピュリズム政党の台頭は、いわば社会の危機を告げ知らせる「炭
鉱のカナリア」なのだ。それによってわたしたちはむしろ問題の本質に立ち戻らなければなら
ない、との見解は的を射ています。
ところで、参政党に代表されるポピュリスト政党が伸びてきた一つの理由として、選挙運動の
新しい方法として前出の真鍋氏は別の論考で、「プロシューマー的解決」という新しい視点を提
出しています。
「プロシューマー」とは生産者(プロでデューサー)と「消費者」(コンシューマー)を合わせ
て造語で、アルビン・トフラーが『第三の波』で提唱した考え方です。
具体的なイメージとしては、自分で家具などを作りそれを使う、DIY(Do It Yourself)を思い
浮かべれば分かり易いと思います。
政府や既成政党から「無視されている」「見捨てられている」という感覚を持つ人々にとって、
ポピュリズム政党が居心地のよいホーム(居場所)になる、という視点です。
そこでは、支持者が運動の作りであり、またその過程での学びやコミュニティー活動で得られる
充実感の消費者でもあります。
「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」(当時、以下N国)を嚆矢とする2019年以後の新興政
党において、このような政治運動のプロシューマー(生産者=消費者)化がほとんど当たり前の
ようになってきているという。
れいわ新選組が「大きな組織や企業に頼らず、ボランティアの皆さまと政権交代を目指します」
と党の公式ウェブサイトに書いていることは非常に重要です。名実ともにボランティアが支持母
体兼実働部隊になっており、政治運動の生産者(プロデューサー)となっています。
他方、ボランティア本部はボランティアの交流や学びの場を提供しており、地域ごとに定期的に
イベントが行われ、無数のコミュニティが活動しています。N国は、YouTubeを徹底的に活用し、
支持層を広げていった特異な政党だが、ここにも金銭的な支援やボランティアを買って出る人々
がインターネットを介して押し寄せました。
れいわ新選組もN党もプロシューマー(生産者=消費者)的な行動が推進力になっています。
参政党は、キャッチフレーズにある通り「投票したい政党がないなら、自分たちでゼロからつく
る。」であり、「DIY政党」を自称しています。党名の英語の公式表記は「Party of Do It Yourself」
です。
運営においても、支部単位での活動を重視し、イベントや勉強会、選挙や候補者選び、政府への
質問などを全国287の支部単位で党員が作る仕組みになっています。
日本記者クラブ主催の党首討論会で、参政党の一番の存在意義とは何かを問われた神谷氏は、
「参加型の政党にしたということだ」と断言したほか、7月4日の街頭演説でも「手弁当で一生
懸命、全国で手作りでやってきたのがわれわれ参政党」と強調しています。
ある女性は、参政党の新入党員歓迎会の席上、一人が立候補を表明し、党員による党内選挙を
経て公認候補になる様子などを間近で見て、「ガッツリと国政に参加をしている実感」がわいた
と述懐しています。
さらに、チラシ配りや、街頭演説のお手伝いも手弁当で行くようになり、政治活動を通して初め
て連帯感や共同性に触れられたことがわかります(注5)。
参政党が急速に支持を広げた要因は数多くあり、ここで取り上げたのはその一部にすぎません。
それらは、ネガティブは側面として「日本の没落」「失われた30年」「自分は忘れられた存在と
いう屈辱感」、「外国人の増加とそれに関連した誤った認識」(たとえば「日本は外国人に乗っ取
られる」、「外国人が生活保護や奨学金で優遇されている)」という被害者意識がります。
その反対に参政党のボランティアとしての活動は、政治運動の生産者と消費者(プロシューマー)
としての喜びと充実感を与えてくれる、というポジティブな面もあります。
代表の神谷氏は、これらの要素を巧みに取り込みつつ運動と支持者を拡大してきました。ただ、
こここで忘れてはならないのは、参政党、れいわ新選組、N党、日本保守党にせよ、こうしたポ
ピュリスト政党が大きく躍進する背後には、間違いなく社会のどこかに何らかの深刻な歪みや問
題が横たわっているということです。
(注1)『NHK NEWS』(2025年7月7日) 7.10 閲覧
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20250707/k10014856111000.html
(注2)『日経新聞』電子版(2025年7月6日 18:40 22:00更新)7.10 閲覧 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA061PH0W5A700C2000000/
(注3)PRESIDENT Online 2025.7.11
https://president.jp/articles/-/97778?page=1
(注4)東洋経済オンライン 2025/07/09 7:00 2025年7月9日閲覧
https://toyokeizai.net/articles/-/888959
(注5)『東洋経済ONLINE』』 2025/07/11 8:30 2025年7月11日閲覧
https://toyokeizai.net/articles/-/889760
NHKが7月7日行った世論調査によれば、政党別支持率は、「自民党」28.1%、「立憲民
主党」8.5%、「日本維新の会」2.3%、「公明党」3.0%、「国民民主党」5.1%、「共産党」
3.1%、「れいわ新選組」3.2%、「参政党」4.2%、「日本保守党」1.0%、「社民党」0.5%、
「みんなでつくる党」が0.1%、「特に支持している政党はない」30.1%でした。
しかし、共同通信社が7月5、6両日に実施した参院選の有権者動向を探る全国電話世論
調査(第2回トレンド調査)によれば、比例代表の投票先は自民党が18.2%で、6月28、
29両日の前回調査(17.9%)から横ばいだった(注1)。
これに対して参政党は2.3ポイント伸ばして8.1%で2位に浮上し、国民民主党の6.8%の、
立憲民主党の6.6%を上回りました。(注2)
これらの数字から言えることは、選挙区での当落は分からないにしても、少なくとも比
例では支持が急上昇している参政党が躍進することはほぼ間違いありません。
今回の参議院選では、参政党代表の神谷宗幣氏が「日本人ファースト」)をキャッチコ
ピーに選挙戦を展開しています。
神谷氏のキャッチコピーが「日本ファースト」ではなく「日本人ファースト」と、「日
本人」を強調する点に注意すべきです。ここには、日本人以外の外国人との区別がは
っきりと意識されています。
参政党は政党として「規約」を定め、そこには以下の「理念」と「綱領」が書かれて
います。
理念 日本の国益を守り、世界に大調和を生む
綱領
一、先人の叡智を活かし、天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる。
一、日本国の自立と繁栄を追求し、人類の発展に寄与する。
一、日本の精神と伝統を活かし、調和社会のモデルをつくる。
このうち「理念」に関しては、その具体的な中身が分からない状態では、ごく一般的な
価値観であると思います。
そして「綱領」も二番目と三番目も、ごく一般的な規定です。しかし最初の「天皇を中
心に一つにまとまる平和な国をつくる」に関しては、ドキリとするような強烈な復古イ
デオロギーを示しています。
ただし実際の選挙運動で理念や綱領が語られることはありません。代わって、選挙公約
として「行き過ぎた外国人受け入れには反対」、「移民の課題は外国人統合政策庁で一括
して管理する」など、外国人に対する排外主義的なナショナリズムが目につきます。
これらは政党が「保守政党」ないし「右派政党」であることを示していますが、参政党
が「三つの重点政策」として「教育・人づくり」「食と健康・環境保全」「国のまもり」
を謳っており、個別の具体的政策では反LGBT、反ワクチン、反移民など異彩を放って
います。
しかも、「食と健康」では、オーガニック食品への強いこだわりを挙げており、一見す
ると左翼的な側面をも見せています。
しかし、2023年6月にはLGBT法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に
関する国民の理解の増進に関する法律)に対して「急進的な推進で社会的影響への懸念
がある」と、政府に質問主意書を提出しています(2025年1月24日)、これは紛れもなく
参政党は保守政党であることを示しています(注3)。
参政党の支持率が急上昇している一方、SNS上には参政党の支持者に対して「カルト」
「低能」「知性の劣化」などの批判が集まっています。平たく言えば、「参政党の支持者
は頭が悪い」といった内容です。
それは、国民主権や基本的人権を軽視した新憲法構想案や、支持者が根拠の不確かな情
報をまともに信じて拡散している現状があるからだと思われます。
例えば、「新憲法構想案」には、「国は、主権を有し、独立して自ら決定する」(第4条)
や、「国民の要件」として「日本を大切にする心を有することを基準」(第5条)にする
などの記述があります。
また、自民党の細野豪志衆議院議員が7月2日、X(旧Twitter)で「参政党の神谷宗弊代
表の『多国籍企業がパンデミックを引き起こしたということも噂されているし、戦争を
仕掛けるのも軍需産業』という日本記者クラブの党首討論会での発言は、国政政党とし
てはさすがに非常識。陰謀論の類だろう」とポストしたが、街頭演説などにおいても事
実誤認と思われる情報を度々発信しているのも確かです。
しかし、評論家の真鍋厚氏が言うように、だからといって参政党とその支持者を単なる
蔑称やレッテル貼りで片付けることは大いに問題があります。
この党勢拡大の背後にある真因に目を向けなければ状況を見誤ることになります。とい
うのも「ポピュリズム政党の躍進には、必ず合理的な理由が存在する。何らかの策略に
踊らされて支持や投票行動をしているわけではない可能性が高い」からです。
世界最大規模の世論調査会社イプソスのポピュリズムに関する動向調査の結果には、近
年日本でポピュリズム政党が台頭している理由が明快に示されています。
それによると、「自国は衰退している」と感じている日本人は70%に達し、調査対象31
カ国中で3番目に高い数値になっており、「日本人の自国に対する悲観的な見方が強まっ
ている」と指摘しています。
また、「既存の政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」と感じている日本
人の割合も68%と7割近くに上っており、2016年の39%と比べて29ポイントも増加し、9
年間で約1.7倍になったという。
特に2019年から2021年にかけては48%から64%に上昇し、「コロナ禍を経て、その後、政
治 への期待感が回復していないことがわかる」と「イプソス」はコメントしている。
こうした「自分のことを気にかけていない」と感じている人たちに向けて語りかけるのは、
同じくポピュリスト政党の国民民主党の手法も同じで、真鍋氏は次のように要約していま
す(注4)。
これは、サイレント・マジョリティのうちの、とりわけ「忘れられた人々」をかなり意識し
た手法といえます。「忘れられた人々」とは、「失われた30年」とともに少しずつ不利な境遇
へと追いやられていると感じている人々であり、現在の生活から転落する不安にさらされて
いる人々までを含みながら拡大しつつある。
つまり真鍋氏によれば、ポピュリズム政党が国政の舞台に押し上げられるのは、このままで
は自分たちが「忘れ去られてしまう」という焦燥感からであるという。
参政党が掲げる「日本人ファースト」は、排外主義というより「自国は衰退している」「既存
の政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」という怨念にも似た感情からの反
動とも言えます。
その内実は「わたしたちをもっと大切にしろ」ということであり、自尊心の回復が目指され
ている。その意図が鮮明になるという意味で「外国人」というカテゴリーが持ち出されてい
ます。
そこには、自民党がもはや保守政党の体をなしていないことや、先の見えない物価高と相次
ぐ増税という経済的な被災によって、国民生活が破壊されているにもかかわらず、国民に寄
り添った政策を何ら実行しないことへの強烈な不信と不満があります(注4)。
私も真鍋氏の分析にほぼ賛成ですが、1点だけ付け足しておきたい。それは、参政党の綱領の
第一に挙げられている「天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる」という国家感です。
今回の選挙で、自民党支持者の一部が参政党に流れたという分析がされていますが、その一部
には、自民党では物足りないと感じている、ネトウヨ的などコアな右派的な人々が含まれてい
ると思われます。
以下は私の個人的な見解ですが、日本は今や経済的にも先進国とは言えない地位に落ち込み、
世界の中での政治的な発言力も影響力を失っています。これは「失われた30年」と同時並行
して侵攻しました。
いわば政治経済的に「没落」している危機感の中で「自尊心を回復」する一つの方法は、自分
たちの文化価値を再評価することです。この場合、天皇は日本固有の文化的なシンボルです。
こうした文化の再評価(ある意味で復古的動き)は歴史の中で繰り返し行われてきました。
この意味でも、真鍋氏が、ポピュリズム政党の台頭は、いわば社会の危機を告げ知らせる「炭
鉱のカナリア」なのだ。それによってわたしたちはむしろ問題の本質に立ち戻らなければなら
ない、との見解は的を射ています。
ところで、参政党に代表されるポピュリスト政党が伸びてきた一つの理由として、選挙運動の
新しい方法として前出の真鍋氏は別の論考で、「プロシューマー的解決」という新しい視点を提
出しています。
「プロシューマー」とは生産者(プロでデューサー)と「消費者」(コンシューマー)を合わせ
て造語で、アルビン・トフラーが『第三の波』で提唱した考え方です。
具体的なイメージとしては、自分で家具などを作りそれを使う、DIY(Do It Yourself)を思い
浮かべれば分かり易いと思います。
政府や既成政党から「無視されている」「見捨てられている」という感覚を持つ人々にとって、
ポピュリズム政党が居心地のよいホーム(居場所)になる、という視点です。
そこでは、支持者が運動の作りであり、またその過程での学びやコミュニティー活動で得られる
充実感の消費者でもあります。
「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」(当時、以下N国)を嚆矢とする2019年以後の新興政
党において、このような政治運動のプロシューマー(生産者=消費者)化がほとんど当たり前の
ようになってきているという。
れいわ新選組が「大きな組織や企業に頼らず、ボランティアの皆さまと政権交代を目指します」
と党の公式ウェブサイトに書いていることは非常に重要です。名実ともにボランティアが支持母
体兼実働部隊になっており、政治運動の生産者(プロデューサー)となっています。
他方、ボランティア本部はボランティアの交流や学びの場を提供しており、地域ごとに定期的に
イベントが行われ、無数のコミュニティが活動しています。N国は、YouTubeを徹底的に活用し、
支持層を広げていった特異な政党だが、ここにも金銭的な支援やボランティアを買って出る人々
がインターネットを介して押し寄せました。
れいわ新選組もN党もプロシューマー(生産者=消費者)的な行動が推進力になっています。
参政党は、キャッチフレーズにある通り「投票したい政党がないなら、自分たちでゼロからつく
る。」であり、「DIY政党」を自称しています。党名の英語の公式表記は「Party of Do It Yourself」
です。
運営においても、支部単位での活動を重視し、イベントや勉強会、選挙や候補者選び、政府への
質問などを全国287の支部単位で党員が作る仕組みになっています。
日本記者クラブ主催の党首討論会で、参政党の一番の存在意義とは何かを問われた神谷氏は、
「参加型の政党にしたということだ」と断言したほか、7月4日の街頭演説でも「手弁当で一生
懸命、全国で手作りでやってきたのがわれわれ参政党」と強調しています。
ある女性は、参政党の新入党員歓迎会の席上、一人が立候補を表明し、党員による党内選挙を
経て公認候補になる様子などを間近で見て、「ガッツリと国政に参加をしている実感」がわいた
と述懐しています。
さらに、チラシ配りや、街頭演説のお手伝いも手弁当で行くようになり、政治活動を通して初め
て連帯感や共同性に触れられたことがわかります(注5)。
参政党が急速に支持を広げた要因は数多くあり、ここで取り上げたのはその一部にすぎません。
それらは、ネガティブは側面として「日本の没落」「失われた30年」「自分は忘れられた存在と
いう屈辱感」、「外国人の増加とそれに関連した誤った認識」(たとえば「日本は外国人に乗っ取
られる」、「外国人が生活保護や奨学金で優遇されている)」という被害者意識がります。
その反対に参政党のボランティアとしての活動は、政治運動の生産者と消費者(プロシューマー)
としての喜びと充実感を与えてくれる、というポジティブな面もあります。
代表の神谷氏は、これらの要素を巧みに取り込みつつ運動と支持者を拡大してきました。ただ、
こここで忘れてはならないのは、参政党、れいわ新選組、N党、日本保守党にせよ、こうしたポ
ピュリスト政党が大きく躍進する背後には、間違いなく社会のどこかに何らかの深刻な歪みや問
題が横たわっているということです。
(注1)『NHK NEWS』(2025年7月7日) 7.10 閲覧
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20250707/k10014856111000.html
(注2)『日経新聞』電子版(2025年7月6日 18:40 22:00更新)7.10 閲覧 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA061PH0W5A700C2000000/
(注3)PRESIDENT Online 2025.7.11
https://president.jp/articles/-/97778?page=1
(注4)東洋経済オンライン 2025/07/09 7:00 2025年7月9日閲覧
https://toyokeizai.net/articles/-/888959
(注5)『東洋経済ONLINE』』 2025/07/11 8:30 2025年7月11日閲覧
https://toyokeizai.net/articles/-/889760