大木昌の雑記帳

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日本の食料確保は大丈夫か?―食料自給率の低下が示す危惧―

2022-05-31 21:47:48 | 食と農
日本の食料確保は大丈夫か?―食料自給率の低下が示す危惧―

最近では、日本の食糧自給率がカロリベース(熱量換算で)で40%を割って、30%台に落ちた
ことは何となく頭の隅にあって、理解しているつもりでした。

しかし、その具体的な中身や、このことが意味する問題の深刻さを実感することを十分に理解して
いたかと言われれば、私は自信がありません。

そこで今回は、日本の食料自給の実態を、具体的に見てゆきたいと思います(注1)

農水省発表の一昨年の令和2年度2020年度の実績をみると、カロリーベースの総合自給率は37
%でした。つまり、大雑把に言って自給率は三分の一強ということになります。

もちろん、その中身には食品ごとに自給率は大きく異なります。

たとえば、米に関しては昭和40年(1965年)の95%から令和2年の97%まで、わずかです
が増えています。

しかし、パンや麺類の原料となる小麦に至っては、同期間に28%から2020年には15%へと約
半分になってしまいました。

小麦にいたっては今年に入ってすでに4回も値上げしており、6月からはウクライナ戦争の関係もあ
って、さらに価格は上昇するでしょう。

これは、日本人の食生活に大きな負担となるはずです。

野菜に関しては、1965年には100%自給していましたが、その後緩やかに低下し、2020年
には80%となっています。

日本人は米があれば安心、という感じはしますが、食生活が米からパン食へ移りつつある最近の傾向
をみると、今後は、価格の上昇が避けられないでしょう。

また主食用ではありませんが、「いも類」のサツマイモは同期間に100%から96%へ、ジャガイ
モは100%から68%へ、大きく減少しています。

最近では、フライドポテトの原料の多くはアメリカからの輸入が増えており、アメリカでの不作が直
ちに日本での供給不足となって跳ね返ってきます。

私が危惧しているのは、大豆の自給率の低下で、1965年の25%から2020年のわずか6%へ
激減しています。つまり、もうほとんど、輸入に頼っていることになります。

ご存じのように、欧米では大豆は、基本的に家畜の飼料で、人間が食べる食物とは考えていません。

このため、特にアメリカでは大豆の94%は遺伝子組み換え品種で、しかもそれと組み合わされて除
草剤(たとえばヨーロッパで使用禁止か制限となっている毒性の強いラウンドアップのようなもの)
が大量に使用されています。

日本の食卓にとって、大豆は重要な蛋白原であるだけでなく、豆腐、納豆、みそ、醤油という、いわ
ば日本食の基盤ともいえる重要な食品です。

もし、大豆が日本から消えてしまったら、もう日本食は成り立ちません。

ところで、日本人の食生活に、肉食が普及していますが、その肉の供給にも大きな問題があります。

表面的な数字をみると、1965年の肉類(鯨肉を除く)の自給率は90%でした。この数字をみる
と、当時は肉類はほとんどが国産で自給していたように見えます。

しかし、これはまだ日本人の間で肉食が普及していなかったからで、必ずしも国産の肉類が十分にあ
ったからではありません。

さらに重要なことは、当時にあっても、家畜の飼料は輸入していたので、その分を考慮すると、実質
国産の肉類は42%でした。

ところが、10年後の1975年には、肉の総量の77%は国産でしたが、輸入の飼料を考慮すると、
何と、国産肉は16%に過ぎなかったのです。

そして、2020年には肉の総自給率は53%でしたが、輸入飼料を考慮すると、純粋の国産肉は7
%にすぎません。

問題はそれだけではありません。というのも、日本で生産されている肉類のうち、鶏肉、豚肉、牛肉
も、輸入の大豆、トウモロコシなどの飼料用穀物が基になっているのです。

家畜飼料のうち、大豆の遺伝子組み換えの危険性についてはすでに指摘しましたが、トウモロコシの
場合主な輸入先のアメリカでは遺伝子組み換え率が何と92%にも達しています。

現在、家畜飼料の自給率は25%まで落ちてしまっていますから、これからも純粋に国産の肉は少な
くなってゆきます。

しかも、輸入飼料には遺伝子組み換えと毒性の強い除草剤で栽培した穀家畜飼料で育った家畜の肉を
食べることになるでしょう。

データは少し古くなりますが、この状況を示したもの(2017年)が下の図です。これをみれば、
状況は明らかで説明は要らないでしょう。
   
 

  (出典 https://www.tohto-coop.or.jp/tokusyu/jikyuritsu/05tikusan.html)


豚肉に関して言えば、飼料も含めて国産はわずかに6%、牛肉は12%です。つまり、純粋に国産の
肉類はほとんどないということです。

この背後にはもう一つ、世界の食料消費の面から見て、日本における肉の消費には大きな問題があり
ます。

以前にも紹介したことがありますが、肉の生産には多量の穀物が使用されます。つまり、1キロの肉
を生産するために、何キロの穀物が必要になるか、という問題です。

鶏卵は3キロ、鶏肉は4キロ、豚肉は7キロ、牛肉は11キロ、牛乳は1キロです。

これらの数字から私たちは、次のような現実を見つめなければなりません。

つまり現在世界各地で深刻な食料不足に見舞われ、そのために飢餓や餓死、暴動さえ起きかねない状
況があります。

そんな時に、直接に穀物を食べるのではなく、1キロの肉を得るためにその8倍から10倍の穀物を
消費することはどうなのだろうか、という道義的な問題があります。

日本はお金があるから、肉を好きなだけ買って食べる権利がある、誰にも文句を言わせない、貧しい
国の食料不足の問題に我々が道義的な責任を負う必要はない、という考えにも一理あります。

しかし、全面的に賛同することもできません。

家畜系の肉で蛋白質を摂らなくても、海に囲まれた日本は幸い、魚で接種してきた。家畜の肉の幾分
かでも魚介類で補い、さらに植物性の蛋白である、大豆をもっと積極的に利用すべきでしょう。

魚介類の自給列は、1963年の100%から2020年の55%へ半減しましたが、それでも、か
なり大量の漁獲量があります。

いずれにしても、飽食の時代は終わり、節度ある食習慣を身につけてゆくことが求められています。

食料の60%を輸入に頼っていながら、毎年、40%の食料を廃棄している日本の現状は、どう考え
ても異常です。

(注1)以下の、1965から2020年までの統計は、農水省発表の自給率表を引用した。https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-17.pdf




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ウクライナ戦争の残酷な「戦争のリアル」

2022-05-11 07:21:41 | 国際問題
ウクライナ戦争の残酷な「戦争のリアル」

2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻を始めて、5月8日現在2か月半
になりますが、一体、この戦争がどのような形で結末を迎えるのか、多くの人が
危惧を抱いています。

この戦争の結末は不透明で簡単に言うことはできませんが、そもそもこの戦争は
なぜ起こったのか、を現在の時点で考えてみることは重要です。

それによって、今後の展開が少しは見つかるかもしれないからです。

ちょっと、時間を昨年に戻すと、まだロシアの侵攻がほとんど話題になっていな
かった7月、ゼレンスキー・ウクライナ大統領はバイデン大統領と会談を申し入
れ、アメリカ側は彼と8月30日に訪米することになっている、とサキ報道官が
発表しました。

サキ報道官によれば、ゼレンスキー氏はバイデン米大統領に、同国南部クリミア
半島を実効支配するロシアに対抗して「ウクライナの主権、領土保全に対する米
国の揺るぎない支持を確認する」ことが狙いだとし、アメリカとの関係強化と自
国の安全保障を支援してくれるよう依頼したようです(注1)。

しかし、8月30日に、実際に二人は会ったのか、もし会ったとしたらどんな話
し合いが行われたかは明らかにされていない。

実は、テレビのニュース番組でも報道されたように。これに先立つ6月には、ア
メリカは大量の武器をウクライナに送り、アメリカ兵がウクライナの軍人にその
使い方の訓練を行っていました。

こうした経緯をみると、NATO入りを希望するウクライナはかなり早い段階で
ロシアの反発を想定し、それをアメリカが全面的に支持するという構図が出来上
がっていたことが分かります。

今回のロシアによるウクライナ侵攻に関して、日本のメディアは、一斉にロシア
=プーチンの一方的な野心から、ウクライナをロシア併合しようとした無謀で理
不尽な戦争、という位置づけで報じています。

しかし、これとは別の解釈をする研究者もいます。

ジャーナリストの金平茂紀氏が5月7日、TBS系「報道特集」に出演し、安倍
首相の日本の防衛費の増額や「核シェアリング」について、思慮のなさが“恥ずか
しい”と手厳しく批判した後で、ロシアのウクライナ侵攻に関して、青山学院大学
の羽場久美子名誉教授にインタビューしました。

羽場氏は、このウクライナ侵攻を大きな視点でみて、次のように端的に総括して
いています。

軍事力の拡大が戦争を招く。ロシアが(ウクライナに)侵攻した背景にNATO
の拡大と武器の大量供与があった。それが国境線に緊張を生み、ロシアが挑発さ
れて愚かな行動を取った。

羽場氏の言葉を少し補足すると、まず、アメリカを筆頭とするNATOが勢力範
囲を東に向けて拡大する一方、その最前線にあるウクライナへの大量の武器の供
与、をしてきたことが、大きな動きとしてあった。

ウクライナがNATOの勢力圏に入ることは、ロシアとの国境線までNATO軍
が進出することを意味します。

これをロシアからみると、四六時中、のど元にナイフを突きつけられることにな
ります。これが、羽場氏の言う、「国境線に緊張を生む」事態であり、「挑発」
です。

こうした緊張に挑発にされて、ロシアがとった軍事侵攻を「愚かな行動」と青山
氏は断じています。

私もこの解釈にまったく同感です。ロシアの軍事侵攻は「愚かな行動」であるこ
とは間違いありません。

今や、アメリカを中心に、NATO加盟の30か国が大量の最新兵器と弾薬をウ
クライナに送って軍備の増強を図っています。どう考えても、30対1ではロシ
アに勝ち目はありません。

ところで、この「戦争」には一見、不可解なことがいくつかあります。

その最大の問題は、現実にロシアに対して侵攻の抑止や停戦を説得し得るのはア
メリカだけなのですが、アメリカは、停戦のために全力で動いてきませんでした。

もし、この戦争をロシアによる一方的で理不尽な戦争、市民を巻き込む残酷な戦
争であると憤っているなら、なぜこれまでNATO諸国と一丸となって停戦を実
現しようとしなかったのでしょうか?

それどころか、大量の武器をウクライナ供与することによって戦争は激化し長期
化することは目に見えています。

一方、ゼレンスキー大統領は、NATO諸国から武器弾薬の供与を訴え続けていま
す。これも、攻められた国としてはしごく当然の対応だと思います。

ゼレンスキー大統領は、アメリカとNATO諸国の支援を受け、ますます強気にな
り国民に徹底抗戦を呼びかけています。

しかし、青山氏も言うように、「軍事力の拡大が戦争を招く」ので、ウクライナの
軍事力が増強されれば、ロシアの攻撃はさらに激しさを増すことは避けられません。

こうして、戦争当事者であるウクライナ側にもロシア側にも死者は増加し続けるこ
とになります。

これが、第一の残酷な「戦争争のリアル(現実)」です。

第二の残酷な「戦争のリアル」は兵器産業の活況です。

NATOが供与している武器の多くはアメリカ産です。ウクライナ戦争が長引けば
長引くほど武器弾薬の消費は増大します。

兵器産業というのは、戦争がなければ“失業”状態にありますが、今回の戦争で膨大な
量と金額の武器弾薬が消費され、兵器産業は空前の利益を上げています。

人が死ぬ戦争で、カネもうけをする“死の商人”は、陰でほくそ笑んでいるでしょう。

第三の残酷な「戦争のリアル」は、これこそが私が最も注目していることです。それ
は、アメリカのウクライナ戦争に対する最初からの狙いかどうかは分かりませんが、
最近、はっきりしてきたことです。

先日、アメリカのオースチン国防長官は会見で、アメリカはロシアの「弱体化」を目
指している、と発言しました。

これが意味するところは、ウクライナに武器をどんどん供与し、戦争が長引けば、ロ
シアは遠からず、武器も弾薬も尽き、さらに経済は徹底的に破綻をして、国家として
弱体化させる戦略である、ということです。

おそらく、事態はそのように進んで行くでしょう。言葉には出していませんがオース
チン氏の発言から私は、プーチン体制を倒し、ロシアという国家の解体までも視野に
入れているニュアンスを感じました。

これは一種の、現代版「兵糧攻め」です。おそらく、ロシア国民はこれから、長く貧
困に苦しむことになるでしょう。

しかし、問題は、この「兵糧攻め」が行われている間、ウクライナの兵士・市民と、
ロシアの兵士にも多くの血が流されることです。

アメリカにとっては、ウクライナの徹底抗戦でどれほどの死がもたらされたとしても、
それは長期的にロシアが弱体化すれば、それもやむなし、というところでしょう。

これが、私が心配する「過酷な戦争のリアル」です。

ただ、一つだけ断っておかなければならないことは、以上は全てアメリカをリーダー
とするNATO諸国(日本やオーストラリアも加えて)の思惑通りに事が進んだ場合
です。

弱体化したロシアは経済的にも、科学技術の面でもますます中国に依存せざるをえな
くなります。

中国は今のところ静観していますが、中・ロが一体化してアメリカをはじめNATOを
対峙するようになることは、アメリカが最も恐れる事態です。

なぜなら、アメリカにとっての最大の敵は中国だからです。

ウクライナ情勢に関する日本や世界的のニュースは、ほとんどがアメリカを中心とした
西側諸国から発信されたもので、それ自身がすでに、何らかの意図をもって発信されて
います。

したがって、私たちは、自分で調べ自分で考えて判断する必要があります。これが面倒
なら、日夜垂れ流しされる“情報”をただ受け入れることになります。

そして、これはかつての日本の“大本営発表”と同じく、知らない間に間違った方向に社会
が引っ張られていってしまう危険性があります。


(注1)『京都新聞』デジタル版(2021年7月22日 7:02)
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/603681 




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