“トランプ現象”の本質(2)
―保守派がリベラル派に仕掛けた「文化戦争」と「宗教戦争」―
トランプが繰り出すさまざまな政策を総称してここでは“トランプ現象”と呼ぶことにする。前
回はその本質を、「反エリート」「反リベラル(反多様性)」という視点を中心に説明しました。
そして、「反エリート」「反リベラル」の象徴としてハーバード大学を標的とし、26億ドル超
の助成金の凍結について触れました。しかし、事態はさらに悪化しました。
国土安全保障省のノーム長官は4月、ハーバード大に対し外国人学生による暴力行為や違法行
為に関する記録を4月30日までに提出するよう求め、提出がなければ直ちに留学生を受け入れ
る「学生・交流訪問者プログラム」(SEVP)の認定を取り消すと警告しました。
この要請を大学が拒否したためトランプは、5月2日、SNSに「ハーバード大学の非課税資格を
廃止する。彼らにはそれがふさわしい」と投稿しました。
トランプは、税制上の優遇措置を取り消す具体的な時期は示していないものの、政権の要求に
従わないほかの大学に対する恫喝でもあります(注1)。
トランプ大統領の表明について、ハーバード大学は声明で「優遇措置を取り消す法的根拠はな
い」と反論しました。
そのうえで、優遇措置の取り消しによって奨学金が減少するなどのおそれがあると指摘し「ア
メリカの高等教育の将来に重大な影響を与える」と批判しています。
これまでの経済的な締め付けに加えて、5月22日、政権の要請を拒否しているハーバード大
学にたいして外国人留学生の受け入れを認めないとの通達を出しました。通達はさらに、すで
に在籍している外国人留学生は、他校に転校しない限り滞在資格を失うことになる、としてい
ます。
学生受け入れ禁止となると、大学としては財政的に大きなダメージとなります。現在在籍して
いる外国人留学生は約6800人(うち日本人260人)で、一人当たり年間授業料は850
万円、したがって全部で580億円の収入減少となります。
ノーム長官は「米政権は、暴力や反ユダヤ主義、中国共産党との結託を放置している大学に責
任を取らせようとしている」と語りました。
ハーバード大学が「暴力や反ユダヤ主義、中国共産党との結託を放置している」との証拠を政
権は何も示さず、一方的に決めつけている点は、民主主義の国で起こっていることとは信じら
れません。
長官はまたハーバード大に宛てた書簡で、過去5年間の学生による違法行為に関する記録、抗
議活動の映像、懲戒記録などの情報を提出すれば、次の学期が始まる前にSEVPの認定を回
復できる可能性があると説明。提出期限を72時間以内としています。
また、ノーム長官はFOXニュースに出演し、トランプ政権が他の大学に対しても留学生受け
入れを阻止する可能性を検討していること、これはすべての大学に対する警告だ、とも述べま
した。
ハーバード大のアラン・ガーバー学長はユダヤ系のアメリカ人で、これまでも反ユダヤ主義が
キャンパスに存在することを認め、それへの対応で政府に協力すると述べてきた。しかし、政
権の要求は学問の自由を脅かすと訴えています。
オバマ政権で教育省次官補代理を務め、現在はシンクタンクであるセンチュリー財団の上級研
究員ロバート・シャイアマン氏は、トランプ政権による言論の自由と大学の自治に対する攻撃
が続いていると指摘しました。
さらに彼は「海外の学者は米国に多大な恩恵をもたらす。今回の措置は知的交流を抑圧し、学
術的・歴史的な研究を中央集権的に統制しようとする悪意ある取り組みだ」とトランプ政権を
批判しました。
ハーバード大は米政権によるさらなる措置は憲法違法だと主張した。同大の広報担当者は声明
で、
本大学と米国に多大な貢献をしている140カ国余りの国からの留学生・研究者の受け
入れ資格の維持に尽力する」とし、「学内の関係者に指針を示し、支援するために対
応を急いでいる
と説明しました。
ハーバード大のガーバー学長は23日の声明で「違法で不当な措置だ」と政権の対応を非難し、
「学生や研究者を支援するために全力を尽くす」と強調する一方、外国人留学生の受け入れ禁
止にたいして、マサチューセッツ州の連邦裁判所に提訴し、あくまでも法廷で戦う姿勢をみせ
ています。
なお、直近の報道によれば、トランプ米政権がハーバード大に留学生の受け入れ資格を剥奪す
ると通知した問題で、東部マサチューセッツ州の連邦地裁は23日、政権の措置を一時的に差
し止める決定を下した。しかし、政権側は、控訴する予定なので、今後、どうなるかは分かり
ません(注2)。
政権は、第一段階として10大学について「反ユダヤ主義」「リベラル偏重」大学として絞り込
んで調査し、うち、6大学については以下の金額の助成金を差し止める、としています。
すなわち、ペンシルベニア大学 1億7500万ドル;コロンビア大学 4億ドル(政権の要
請に応じたため解除);ブラウン大学 5億1000万ドル;ノースウエスタン大学 7億9000万
ドル;コーネル大学 10億ドル;ハーバード大学 90億ドル、ブラウン大学(5億1000万
ドル)となっています
以上のほか、シカゴ大学やMIT、カルテック(Caltech)といった研究型大学は、直接名指しさ
れていなくとも広範な連邦予算削減の影響を受けています。金額は分かりませんがプリンスト
ン大学は数十件の研究助成金が凍結されています。
ただし、コロンビア大学は、最終的に政権の要求事項をほぼ受け入れたため、凍結は解除され
ました。現在のところ、政権に全面的に屈服した唯一の大学です(注3)。
ところで、今回、政権による助成金の凍結、大学の非課税措置の取り消し、外国人留学生の受
け入れ停止といった大学への締め付けは、科学技術の優位、世界の国々に対する影響力(ソフ
トパワー)、世界中から集結する学生や研究者の交流など、直接間接にアメリカが得てきたメリ
ットを捨てることになります。
研究者のコミュニティでは、特に自然科学系で実験の中断や人員整理に追い込まれる事態へ懸
念が広がっています。
「長年かけた研究が政治のせいで頓挫する可能性がある」「優秀な若手研究者が将来に不安を
感じ海外流出してしまうのではないか」といった声も聞かれます。
実際、2025年初頭には「トランプ政権への反発から欧州など海外へのポストを探る科学者が
増えている」との報道もあり、米国の研究環境への信頼低下が懸念されています。
さらに社会的な問題として、「政治と学問の自由および大学の自治」との関係に深刻な問題を
投げかけています。というのも、政治が助成金を加減することにより、大学の教育や研究内容
をコントロールしようとすることは、決して社会の利益にならないからです。
ところが、この一連の問題に対してアメリカの世論は二極化しています。ハーバード大学系の、
多様性とリベラル政策(DEI)に関する調査によれば、「連邦政府が大学のDEIプログラム資
金を「削減・廃止すべき」と考える米国人は38%いました。
支持政党別では、共和党支持者は72%が賛成、民主党支持者は50%が資金提供の「増加」を支
持していました。このように、政府の大学への締め付けには国論を身分する状況です(注4)。
ハーバード大学米国政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクスの調査
では、「DEI部門が必要」とする割合は53%、「無駄を削減するためにDEI部門を廃止すべき」が
47%と意見が分かれました(注5)。
このように保守層は大学への締め付けを強く支持しており、実際に議会共和党議員からは「エ
リート大学の偏向を正すべきだ」という声が相次いでいます。下院議員のエリース・ステファ
ニク氏はペンシルベニア大総長の辞任を受け「次はハーバードとMITにも責任を追及する」と]
表明するなど政権の動きを後押ししています。
ところで、今回の一連の大学に対する締め付けの発端になったのが、コロンビア大学における、
イスラエルによるガザの侵攻にtaisuru対するデモであったことからも分かるように、政権(具
体的には教育相)は、「反ユダヤ主義」を取り締まっていないこと、あるいは「反ユダヤ主義」
を助長している大学を制裁の理由としています。
大統領就任式から2週間後の2月3日、司法省、教育省、保健福祉省は「反ユダヤ主義と戦うタ
スクフォース」の結成を発表した。この立案者はトランプ大統領の懐刀であるユダヤ系のステ
ィーブン・ミラー次席補佐官でした。
タスクフォースは週1回、毎回場所を変え、秘密裡に会合を重ね、調査対象の大学を絞り込みま
した。その目的は、エリート大学の力をそぎ、トランプ大統領の言う過激派、つまりリベラル
派から取り戻すことで、反ユダヤ主義は口実に過ぎなかったのです(注6)。
それでは、トランプおよびトランプ政権による大学の締め付けの本質はなんだろか、何をめざ
しているのでしょうか?
米国を読み解くキーワードの一つは「反知性主義」だろう。字面から誤解されがちだが、この
言葉は本来、知性が既存の権力と結びついて特権階級化することへの素朴な市民的反感を含ん
でいる。トランプ政権下ではこの反知性主義が「てこ」に使われ、民主主義の根幹をなす学問
や表現の自由が保障されるべき大学への締め付けが行われている(注7)。
ただ、トランプ政権の大学自治への干渉は突発的なものではなく、保守派が長い時間をかけて
練り上げてきた戦略の一環である。そうした流れを理解しないと、トランプ政権の大学攻撃の
本質は見えてきません。
保守派の評論家のパット・ブキャナン氏は現在のアメリカの状況を、政治的対立にとどまらず
保守派とリベラル派が展開している社会的価値観をめぐる熾烈な「文化戦争」である、と述べ
ています。どういうことなのでしょうか。
保守派による「文化戦争」の宣戦布告は大統領選挙があった1992年から始まりました。それは
8月の共和党全国大会でブキャナン氏が行ったブッシュ大統領(父)の応援演説でした。
ブキャナン氏は「ブッシュはユダヤ・キリスト教の価値と信念を代表する人物である」と礼賛
し、女性の中絶権を認めた1973年の最高裁の「ロー対ウェイド判決」破棄を主張しました。
さらに民主党の大統領候補ビル・クリントンを「同性愛者の権利運動を主導する過激派の指導
者」と呼び、「この国では“宗教戦争”が起こっている。それは“文化戦争”でもあり、冷戦と同様
にわが国にとって極めて重要である」と聴衆に訴えかけました。
保守派の多くには、冷戦で資本主義が勝利したにもかかわらず、依然としてアメリカを支配し
ているのはリベラル派だという強い不満がありました。
キリスト教的倫理を復活させ、リベラルな社会を保守的な社会へ変えていくために保守派が攻
撃の対象に選んだのが、リベラルな情報を発信する「主流派メディア」と、若者をリベラリズ
ムで教育する「エリート大学」でした。
この意味でハーバード大学に対する過酷な措置は、リベラル派に対する「宣戦布告」であった
といえます。
SNSの急速な発展という追い風もあり、主流派メディア攻撃は成功しました。保守派のメディ
アやSNSはフェイク・ニュースや陰謀論を流し続け、主流派メディアを衰退に追い込んでゆき
ました。国民の間で主流派メディアに対する信頼度は急速に低下しています(注8)。
トランプ政権によるSNSでのフェイク・ニュースや支持者による陰謀論の流布を思い浮かべ
ると、上記の事情はよく理解できます。
アメリカは今後、超保守的な「宗教国家」を目指してゆくのだろうか?
アメリカにおける大学への政治介入は決して他人事では済まされません。日本においても、学
術会議のメンバーの承認にたいして菅元首相は理由の説明もなく、何人かを承認しませんでし
た。そして、政府は2026年10月に日本学術会議を「国の特別機関」から特殊法人に移行させ
る法案(仮称「学術会議法案」)を準備しています。『東京新聞』(2025年5月25日)は、これ
によって学術会議の監視強化に懸念を表しています。
およそ、学問が権力によって監視や干渉されたり、たとえば軍事研究など特定の分野の研究に
助成金を与えることには、相当慎重にすべきです。そうでないと、学問や文化全体がゆがめら
れてしまいます。
----------------------------------------------
コロンビア大学 ガザ連帯キャンプ 極右「ヘリテージ財団」のメンバーと懇談するトランプ大統領

出所 (注9) 出所 (注9)
注
(注1)『JIJI.COM』 (2025年05月03日08時23分配信 5.23閲覧)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025050300252&g=int#comment
(注2)『Bloomberg』(2025年5月23日 4:04 JST 更新日時 2025年5月23日 10:29 JST 5.23閲覧
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-22/SWOCV2DWRGG000?srnd=cojp-v2
(注3)『東洋経済 ONLINE』(2025/04/26 6:00. 2025.5.24閲覧) https://toyokeizai.net/articles/-/873422?display=b;
『no+e』(2025年4月9日 07:40. 2005.5.25閲覧)https://note.com/fair_clover666/n/n0898e30ea4b5
(注4) 『JETRO』(2025.4月7日 2025.5.26閲覧)https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/04/52f59c8d071316ae.html#
(注5) 『no+e』前掲(注3)
(注6)『東洋経済 Online』(2025/04/25 8:00 2025.5.24閲覧)
https://toyokeizai.net/articles/-/873386;『東洋経済Online』(2025/04/24 20:00)2025.5.24 閲覧
https://toyokeizai.net/articles/-/873155
(注7)『毎日新聞』(電子版)(2025/5/16 05:30 最終更新 5/16 05:30)。202.5.17閲覧
https://mainichi.jp/articles/20250515/k00/00m/030/229000c?utm_source=article&utmmedium=
email&utm_campaign=mailhiru&utm_content=20250516
(注8)『東洋経済Online』(2025/04/24 20:00)2025.5.24 閲覧 https://toyokeizai.net/articles/-/873155
(注9)President Online (2025/05/12 16:00 2025.17閲覧 ) https://president.jp/articles/-/95472?cx_referrertype
=mail&utm_source=presidentnews&utm_medium=email&utm_campaign=dailymail
―保守派がリベラル派に仕掛けた「文化戦争」と「宗教戦争」―
トランプが繰り出すさまざまな政策を総称してここでは“トランプ現象”と呼ぶことにする。前
回はその本質を、「反エリート」「反リベラル(反多様性)」という視点を中心に説明しました。
そして、「反エリート」「反リベラル」の象徴としてハーバード大学を標的とし、26億ドル超
の助成金の凍結について触れました。しかし、事態はさらに悪化しました。
国土安全保障省のノーム長官は4月、ハーバード大に対し外国人学生による暴力行為や違法行
為に関する記録を4月30日までに提出するよう求め、提出がなければ直ちに留学生を受け入れ
る「学生・交流訪問者プログラム」(SEVP)の認定を取り消すと警告しました。
この要請を大学が拒否したためトランプは、5月2日、SNSに「ハーバード大学の非課税資格を
廃止する。彼らにはそれがふさわしい」と投稿しました。
トランプは、税制上の優遇措置を取り消す具体的な時期は示していないものの、政権の要求に
従わないほかの大学に対する恫喝でもあります(注1)。
トランプ大統領の表明について、ハーバード大学は声明で「優遇措置を取り消す法的根拠はな
い」と反論しました。
そのうえで、優遇措置の取り消しによって奨学金が減少するなどのおそれがあると指摘し「ア
メリカの高等教育の将来に重大な影響を与える」と批判しています。
これまでの経済的な締め付けに加えて、5月22日、政権の要請を拒否しているハーバード大
学にたいして外国人留学生の受け入れを認めないとの通達を出しました。通達はさらに、すで
に在籍している外国人留学生は、他校に転校しない限り滞在資格を失うことになる、としてい
ます。
学生受け入れ禁止となると、大学としては財政的に大きなダメージとなります。現在在籍して
いる外国人留学生は約6800人(うち日本人260人)で、一人当たり年間授業料は850
万円、したがって全部で580億円の収入減少となります。
ノーム長官は「米政権は、暴力や反ユダヤ主義、中国共産党との結託を放置している大学に責
任を取らせようとしている」と語りました。
ハーバード大学が「暴力や反ユダヤ主義、中国共産党との結託を放置している」との証拠を政
権は何も示さず、一方的に決めつけている点は、民主主義の国で起こっていることとは信じら
れません。
長官はまたハーバード大に宛てた書簡で、過去5年間の学生による違法行為に関する記録、抗
議活動の映像、懲戒記録などの情報を提出すれば、次の学期が始まる前にSEVPの認定を回
復できる可能性があると説明。提出期限を72時間以内としています。
また、ノーム長官はFOXニュースに出演し、トランプ政権が他の大学に対しても留学生受け
入れを阻止する可能性を検討していること、これはすべての大学に対する警告だ、とも述べま
した。
ハーバード大のアラン・ガーバー学長はユダヤ系のアメリカ人で、これまでも反ユダヤ主義が
キャンパスに存在することを認め、それへの対応で政府に協力すると述べてきた。しかし、政
権の要求は学問の自由を脅かすと訴えています。
オバマ政権で教育省次官補代理を務め、現在はシンクタンクであるセンチュリー財団の上級研
究員ロバート・シャイアマン氏は、トランプ政権による言論の自由と大学の自治に対する攻撃
が続いていると指摘しました。
さらに彼は「海外の学者は米国に多大な恩恵をもたらす。今回の措置は知的交流を抑圧し、学
術的・歴史的な研究を中央集権的に統制しようとする悪意ある取り組みだ」とトランプ政権を
批判しました。
ハーバード大は米政権によるさらなる措置は憲法違法だと主張した。同大の広報担当者は声明
で、
本大学と米国に多大な貢献をしている140カ国余りの国からの留学生・研究者の受け
入れ資格の維持に尽力する」とし、「学内の関係者に指針を示し、支援するために対
応を急いでいる
と説明しました。
ハーバード大のガーバー学長は23日の声明で「違法で不当な措置だ」と政権の対応を非難し、
「学生や研究者を支援するために全力を尽くす」と強調する一方、外国人留学生の受け入れ禁
止にたいして、マサチューセッツ州の連邦裁判所に提訴し、あくまでも法廷で戦う姿勢をみせ
ています。
なお、直近の報道によれば、トランプ米政権がハーバード大に留学生の受け入れ資格を剥奪す
ると通知した問題で、東部マサチューセッツ州の連邦地裁は23日、政権の措置を一時的に差
し止める決定を下した。しかし、政権側は、控訴する予定なので、今後、どうなるかは分かり
ません(注2)。
政権は、第一段階として10大学について「反ユダヤ主義」「リベラル偏重」大学として絞り込
んで調査し、うち、6大学については以下の金額の助成金を差し止める、としています。
すなわち、ペンシルベニア大学 1億7500万ドル;コロンビア大学 4億ドル(政権の要
請に応じたため解除);ブラウン大学 5億1000万ドル;ノースウエスタン大学 7億9000万
ドル;コーネル大学 10億ドル;ハーバード大学 90億ドル、ブラウン大学(5億1000万
ドル)となっています
以上のほか、シカゴ大学やMIT、カルテック(Caltech)といった研究型大学は、直接名指しさ
れていなくとも広範な連邦予算削減の影響を受けています。金額は分かりませんがプリンスト
ン大学は数十件の研究助成金が凍結されています。
ただし、コロンビア大学は、最終的に政権の要求事項をほぼ受け入れたため、凍結は解除され
ました。現在のところ、政権に全面的に屈服した唯一の大学です(注3)。
ところで、今回、政権による助成金の凍結、大学の非課税措置の取り消し、外国人留学生の受
け入れ停止といった大学への締め付けは、科学技術の優位、世界の国々に対する影響力(ソフ
トパワー)、世界中から集結する学生や研究者の交流など、直接間接にアメリカが得てきたメリ
ットを捨てることになります。
研究者のコミュニティでは、特に自然科学系で実験の中断や人員整理に追い込まれる事態へ懸
念が広がっています。
「長年かけた研究が政治のせいで頓挫する可能性がある」「優秀な若手研究者が将来に不安を
感じ海外流出してしまうのではないか」といった声も聞かれます。
実際、2025年初頭には「トランプ政権への反発から欧州など海外へのポストを探る科学者が
増えている」との報道もあり、米国の研究環境への信頼低下が懸念されています。
さらに社会的な問題として、「政治と学問の自由および大学の自治」との関係に深刻な問題を
投げかけています。というのも、政治が助成金を加減することにより、大学の教育や研究内容
をコントロールしようとすることは、決して社会の利益にならないからです。
ところが、この一連の問題に対してアメリカの世論は二極化しています。ハーバード大学系の、
多様性とリベラル政策(DEI)に関する調査によれば、「連邦政府が大学のDEIプログラム資
金を「削減・廃止すべき」と考える米国人は38%いました。
支持政党別では、共和党支持者は72%が賛成、民主党支持者は50%が資金提供の「増加」を支
持していました。このように、政府の大学への締め付けには国論を身分する状況です(注4)。
ハーバード大学米国政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクスの調査
では、「DEI部門が必要」とする割合は53%、「無駄を削減するためにDEI部門を廃止すべき」が
47%と意見が分かれました(注5)。
このように保守層は大学への締め付けを強く支持しており、実際に議会共和党議員からは「エ
リート大学の偏向を正すべきだ」という声が相次いでいます。下院議員のエリース・ステファ
ニク氏はペンシルベニア大総長の辞任を受け「次はハーバードとMITにも責任を追及する」と]
表明するなど政権の動きを後押ししています。
ところで、今回の一連の大学に対する締め付けの発端になったのが、コロンビア大学における、
イスラエルによるガザの侵攻にtaisuru対するデモであったことからも分かるように、政権(具
体的には教育相)は、「反ユダヤ主義」を取り締まっていないこと、あるいは「反ユダヤ主義」
を助長している大学を制裁の理由としています。
大統領就任式から2週間後の2月3日、司法省、教育省、保健福祉省は「反ユダヤ主義と戦うタ
スクフォース」の結成を発表した。この立案者はトランプ大統領の懐刀であるユダヤ系のステ
ィーブン・ミラー次席補佐官でした。
タスクフォースは週1回、毎回場所を変え、秘密裡に会合を重ね、調査対象の大学を絞り込みま
した。その目的は、エリート大学の力をそぎ、トランプ大統領の言う過激派、つまりリベラル
派から取り戻すことで、反ユダヤ主義は口実に過ぎなかったのです(注6)。
それでは、トランプおよびトランプ政権による大学の締め付けの本質はなんだろか、何をめざ
しているのでしょうか?
米国を読み解くキーワードの一つは「反知性主義」だろう。字面から誤解されがちだが、この
言葉は本来、知性が既存の権力と結びついて特権階級化することへの素朴な市民的反感を含ん
でいる。トランプ政権下ではこの反知性主義が「てこ」に使われ、民主主義の根幹をなす学問
や表現の自由が保障されるべき大学への締め付けが行われている(注7)。
ただ、トランプ政権の大学自治への干渉は突発的なものではなく、保守派が長い時間をかけて
練り上げてきた戦略の一環である。そうした流れを理解しないと、トランプ政権の大学攻撃の
本質は見えてきません。
保守派の評論家のパット・ブキャナン氏は現在のアメリカの状況を、政治的対立にとどまらず
保守派とリベラル派が展開している社会的価値観をめぐる熾烈な「文化戦争」である、と述べ
ています。どういうことなのでしょうか。
保守派による「文化戦争」の宣戦布告は大統領選挙があった1992年から始まりました。それは
8月の共和党全国大会でブキャナン氏が行ったブッシュ大統領(父)の応援演説でした。
ブキャナン氏は「ブッシュはユダヤ・キリスト教の価値と信念を代表する人物である」と礼賛
し、女性の中絶権を認めた1973年の最高裁の「ロー対ウェイド判決」破棄を主張しました。
さらに民主党の大統領候補ビル・クリントンを「同性愛者の権利運動を主導する過激派の指導
者」と呼び、「この国では“宗教戦争”が起こっている。それは“文化戦争”でもあり、冷戦と同様
にわが国にとって極めて重要である」と聴衆に訴えかけました。
保守派の多くには、冷戦で資本主義が勝利したにもかかわらず、依然としてアメリカを支配し
ているのはリベラル派だという強い不満がありました。
キリスト教的倫理を復活させ、リベラルな社会を保守的な社会へ変えていくために保守派が攻
撃の対象に選んだのが、リベラルな情報を発信する「主流派メディア」と、若者をリベラリズ
ムで教育する「エリート大学」でした。
この意味でハーバード大学に対する過酷な措置は、リベラル派に対する「宣戦布告」であった
といえます。
SNSの急速な発展という追い風もあり、主流派メディア攻撃は成功しました。保守派のメディ
アやSNSはフェイク・ニュースや陰謀論を流し続け、主流派メディアを衰退に追い込んでゆき
ました。国民の間で主流派メディアに対する信頼度は急速に低下しています(注8)。
トランプ政権によるSNSでのフェイク・ニュースや支持者による陰謀論の流布を思い浮かべ
ると、上記の事情はよく理解できます。
アメリカは今後、超保守的な「宗教国家」を目指してゆくのだろうか?
アメリカにおける大学への政治介入は決して他人事では済まされません。日本においても、学
術会議のメンバーの承認にたいして菅元首相は理由の説明もなく、何人かを承認しませんでし
た。そして、政府は2026年10月に日本学術会議を「国の特別機関」から特殊法人に移行させ
る法案(仮称「学術会議法案」)を準備しています。『東京新聞』(2025年5月25日)は、これ
によって学術会議の監視強化に懸念を表しています。
およそ、学問が権力によって監視や干渉されたり、たとえば軍事研究など特定の分野の研究に
助成金を与えることには、相当慎重にすべきです。そうでないと、学問や文化全体がゆがめら
れてしまいます。
----------------------------------------------
コロンビア大学 ガザ連帯キャンプ 極右「ヘリテージ財団」のメンバーと懇談するトランプ大統領


出所 (注9) 出所 (注9)
注
(注1)『JIJI.COM』 (2025年05月03日08時23分配信 5.23閲覧)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025050300252&g=int#comment
(注2)『Bloomberg』(2025年5月23日 4:04 JST 更新日時 2025年5月23日 10:29 JST 5.23閲覧
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-22/SWOCV2DWRGG000?srnd=cojp-v2
(注3)『東洋経済 ONLINE』(2025/04/26 6:00. 2025.5.24閲覧) https://toyokeizai.net/articles/-/873422?display=b;
『no+e』(2025年4月9日 07:40. 2005.5.25閲覧)https://note.com/fair_clover666/n/n0898e30ea4b5
(注4) 『JETRO』(2025.4月7日 2025.5.26閲覧)https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/04/52f59c8d071316ae.html#
(注5) 『no+e』前掲(注3)
(注6)『東洋経済 Online』(2025/04/25 8:00 2025.5.24閲覧)
https://toyokeizai.net/articles/-/873386;『東洋経済Online』(2025/04/24 20:00)2025.5.24 閲覧
https://toyokeizai.net/articles/-/873155
(注7)『毎日新聞』(電子版)(2025/5/16 05:30 最終更新 5/16 05:30)。202.5.17閲覧
https://mainichi.jp/articles/20250515/k00/00m/030/229000c?utm_source=article&utmmedium=
email&utm_campaign=mailhiru&utm_content=20250516
(注8)『東洋経済Online』(2025/04/24 20:00)2025.5.24 閲覧 https://toyokeizai.net/articles/-/873155
(注9)President Online (2025/05/12 16:00 2025.17閲覧 ) https://president.jp/articles/-/95472?cx_referrertype
=mail&utm_source=presidentnews&utm_medium=email&utm_campaign=dailymail