大木昌の雑記帳

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放射線被ばくの疫学的調査不要?―明らかになる政府・専門家の不可解な言動―

2019-02-24 10:29:15 | 原発・エネルギー問題
放射線被ばくの疫学的調査不要?―明らかになる政府・専門家の不可解な言動―

最近問題となっている、厚労省の統計偽装疑惑は、官僚が政府の意向を忖度して、あるいは政府関係者の誰か
から指示されて、統計数字の偽造や改ざんが行われた可能性が濃厚となってきました。

官僚による文書の改ざんは、森友問題でも明らかになったように、官僚が自分の出世や保身のために自ら進ん
で、あるいは“上”の方からの指示により行われました。

官僚による文書や統計の改ざんではありませんが、「専門家」と称する人たちが政府の命を受けて問題を検討
し、政府に進言する「~委員会」、最近流行りの「第三者委員会」、さらに特定の研究機関が幾つもあります。

政府は、こうした専門家の報告や進言を根拠として政策の正当化をします。しかし、「専門家」や「第三者」
から成る委員会や政府から調査を委託されている研究機関の報告や進言には、予め政府寄りの結論が決まって
いる場合がしばしばあります。

今回、『東京新聞』(2019年2月18日)は、国の研究機関・放射線医学研究所(放医研)の明石真言理事の
政府への進言に不可解な点があったことを明らかにした。

2011年3月11日、東日本大震災により発生した東京電力福島第一原発事故の1か月後の4月11日に、放医
研理事の明石氏が福山哲郎官房副長官(当時)に、「住民の疫学調査は不要」と進言していました。

疫学的調査とは、ある健康被害の程度や原因を知るために地域や集団を対象として行う統計的な調査のことで
す。原発事故の疫学的調査では一般的に、多発が心配される甲状腺がんの患者数や分布を調べ、放射線被爆の
影響を分析します。

原発事故による放射線被ばくの健康調査は人の命かかわる深刻な問題であるのに、十分な調査をしないで、い
きなり「調査は不要」と進言したことは重大です。

今回、問題が発覚したのは、『東京新聞』が2011年4月26日に明石氏ほかの関係者が福山氏と首相官邸で
面会し、住民の被ばく調査について説明した会合の議事概要を情報開示請求で得たからでした。

それによると、この会合には明石氏の他に、西本淳哉・経済産業省技術総括審議官、伊藤宗太郎・文科省災
害対策センター医療班長、塚原太郎・厚労省厚生科学課長(いずれも当時)も同席していた。つまり、関係
三省の代表が会合に参加していたのです。

経済産業省の幹部(西本氏?)が、「論点として疫学調査の必要性の有無があろうが・・・」と切り出すと、
明石氏が「住民の被爆線量は高くても100ミリシ-ベルトに至らず」したがって「(疫学調査は)科学的
に必要性が薄い」と述べていました。

ところが福山氏は、「(疫学調査は)大切なことなので進めて欲しい」と返したことが記録されています。

しかし内部文書には、国の他の主要機関が早々と「放射線被害は出ない」との判断が記されています。

国の公表資料や明石氏らの説明によれば、甲状腺の内部被ばくで100ミリシーベルトを、がんが増える
目安にしていた。国が11年3月下旬に行った測定では、そこに達する子どもがいなかったため、「被爆線
量は小さい」「健康調査を行うまでもない」と判断されてきたようだ。

しかし、ここで「国」(実施主体は放医研?)の測定は、対象地域が原発から遠い30キロ圏外で、しか
も、本来広範囲の住民を対象にすべき疫学調査であるにもかかわらず、実際に調査委したのは1800人
にすぎなかったことも明らかになりました。

こうなると、明石氏の「必要性が薄い」という根拠はほとんど正当性を失います。

明石氏は、「必要性が薄い」ということを政権の中枢の官房副長官に進言したことについて「私の意思で
伝えに行ったのではない」と言っています。では、いったい誰が官房副長官に伝えに行けと言ったのか、
との(『東京新聞』の)質問にたいして明石氏は名前を挙げませんでした。

このことが、明石氏の行動と発言の背景をはからずも語っています。容易に想像できるのは、それが原発
を維持・推進しようとしてきた経産省なのか官邸なのか、東京電力なのか、そして具体的な個人名までは
分かりませんが、そこには原発事故の影響をできるだけ小さく見せようとする何らかの「力」が働いてい
た、ということです。

さらに驚くことがあります。明石氏の進言に先立つ2011年4月上旬には、経産省が国会答弁用の資料
で「放射線量が増加し始めた頃には避難完了」と記しているのです。

また、経済産業省中心の「匿名班・原子力被災者生活支援チーム」は、「今般の原子力災害における避
難住民の線量評価について」というタイトルの文書で、避難者の甲状腺内部被ばくを調査せずに、原発
正門近く近くに居続けても「線量は1・1ミリシーベルト程度」と説明し、この間に避難すれば「線量
は相当程度小さい」「健康上問題無いとの評価を提供可能ではないか」とまとめています(『東京新聞』
2019年。2月11日)。

放医研は同年5月上旬には「住民は障害の発生する線量を受けていないと推定される」と記した文書を
作成していました。

同じころ、放医研(明石氏?)は文科省の副大臣だった鈴木寛氏への説明で、「住民への放射線影響は
科学的には問題とならない程度」と説明していました。

つまり、明石氏の進言の前後、事故対応の中心だった経産省、医療対策を担う文科省、厚労省の間で、
放射線被害について「結論ありき」が蔓延していたようだ(『東京新聞』2019年2月18日)。

ところで、明石氏が100ミリシーベルト以下だから疫学調査は必要ない、としていますが、これも大
いに問題です。

日本政府は2001年に発生した茨城県東海村の原子力発電の臨界事故の翌々年、原子力安全委員会で
は防災体制の見直しを進めていました。

当時、アメリカ、ドイツ、ロシアでは、かんが増える被ばく量を50ミリシーベルトとしていました。
このころ委員会のメンバーだった鈴木元氏は「がんは50ミリシ-ベルトでも増える」と考え、この
値になりそうな場合は甲状腺がんを防ぐために安定ヨウ素剤を服用するという手順を提案しようとし
ていました。

鈴木氏の提言は、年末に事務局が示した提言書に「50ミリシ-ベルト」が盛り込まれました。

ところが二週間後の上部会合の被ばく医療分科会で突然、服用基準から50ミリシーベルトが削除さ
れ、100ミリシーベルトにかさ上げされていたのです。

鈴木氏はこれに反発しましたが、そのまま2002年4月にまとめられた提言では100シーベルト
とされてしまいました。

ちなみに、国際放射線防護委員会(ICRP)の平常時の限度は「年間1ミリシーベルト」となって
います。日本の法律では、職業的に放射線を扱う人の年間被ばく量の限度を50ミリシーベルト、5
年間で100ミリシーベルト、一般人は年間1シーベルトと上限が定められています。

これらの数値を考えると、放射線被ばくが健康被害(とくに甲状腺がん)を防ぐためにヨウソ剤の服
用を含む何らかの防護措置をとる100ミリシーベルトに引き上げたということが、いかに住民の健
康を無視した措置であるかがわかります。

原安委の別の会合の議事録を見ると、ヨウ素剤検討会に名を連ねた前川和彦東大名誉教授が一連の経
過に触れ、「行政的な圧力に寄り倒された」と述べたことが記されています。
これが、実態なのです。

しかし、放射線被ばくの危険性を小さく見せようとした組織や人物は、さらに広範囲におよんでいた
ことが、今年2月24日の『東京新聞』で明らかになりました。

事故直後の2011年3月28日当初、福島県立医科大学理事長(菊池臣一)は「健康調査は県医大
の歴史的使命。狙いは小児甲状腺がんの追跡調査なお。県民からの怒りの前に体制を整える」と、被
災者本位の発言をしていました。

ところが副学長の安倍正文氏は4月19日に「広範かつ長期被ばくの影響に関する調査や研究を行い、
診療や治療に結びつける。理事長の言葉を借りれば、これは本学の歴史的使命」と発言しました。

一見、両者の見解は同じようですが、「甲状腺がん」と「長期被ばく」とは決定的に異なります。

甲状腺がんを引き起こす放射性ヨウ素は内部被ばくをもたらすが、その半減期は8日と短いため、
事故直後の迅速な調査が必要です。これに対して長期被ばくは、半減期が長い放射性セシウムが土
壌や森林などに残ってもたらす外部被ばくを指します。つまり、県医大は、住民がもっとも恐れて
いた小児甲状腺がんの調査は行わない方方針にスタンスを変えたのです。

すでに述べたように、経済産業省中心の「匿名班・原子力被災者生活支援チーム」が「線量は相当
低い」、また、放医研の明石氏が「住民への放射線影響は科学的には問題とならない程度」「科学
的に必要性は薄い」と説明していました。

このような状況の下で、公益財団法人「放射線影響研究所(放影研)」の大久保利晃理事長は、大
学、研究機関から成る「放射線影響研究機関協議会」の会合(4月27日)の席上、「現在のレベ
ルで健康影響がないことはその通りだが、影響がないからこそしっかりとした研究すべきだ」と述
べています。

この言葉は、住民の立場に立った発言に聞こえますが、そうではありません。放影研の主席研究員
の児玉和紀氏は、健康調査を行うことで、「この程度の被ばく線量では甲状腺がんが増えない結論
が導かれる可能性がある」「調査の目的は他にもあり、(補償などの)訴訟で必要となる『健康影
響について科学的根拠』を得ることも含む」と発言しています。

つまり、住民の健康被害の実態調査というより、調査が裁判対策としても位置付けられています。

2016年末に「ふくしま国際医療科学センター」が発足し、現在でも調査・分析を続けています。
現在すでに発症している小児の甲状腺がんが発症にたいして外部の専門家が、被ばくによる甲状腺
がんの多発を疑うべきだと指摘していますが、同センターの会合では被ばくと発症の因果関係を認
めていません。

以上、福島の原発事故への対応から、原発事故の危険性をできるだけ小さく見せ、原発を維持・推
進しようとしている大きな「力」が働いていたことがはっきり分かります。

私たちの命にかかわる問題については、官僚や専門家は、あくまでも住民の立場から真摯に対応し
て欲しいと思います。

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2週間ほど前には関東地方では木にうっすらと雪が着きました。            しかし、その2週間後には、春の野草野蒜(のびる)が成長し
                                         春の味覚を味わうことができました
 


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「高速道路を逆走する安倍政権」―“木枯らし紋次郎”の怒り―

2019-02-17 05:23:00 | 政治
「高速道路を逆走する安倍政権」―“木枯らし紋次郎”の怒り―

「木枯らし紋次郎」といっても、今では誰の事だかわからない若者が大部分かも知れません。これは、
笹沢佐保の股旅物小説をテレビドラマ化した超人気テレビドラマのタイトルで、その主役を演じた俳
優が中村敦夫さん(以下、敬称略)です。

紋次郎は旅の途中で悪を成敗するも、その場に居続けるのではなく、「あっしには関わりのねえこっ
てござんす」と言って、大きな網笠を被りぼろぼろの合羽を羽おり、楊枝をくわえて立ち去ってゆく
ラストシーンは、一世を風靡したあまりにも有名なシーンです。

中村は1940年の生まれ、今年で78才。敗戦時には4~5才、戦争の記憶がある最後の世代です。彼は
疎開先でB29爆撃機が飛来すると防空壕に飛び込む、危機感の中ですごしたという。

その中村が、「関わりのねこって」どころから、小説を書き、司会者、ニュースキャスターを務め、
1998年(平成10年)から6年間、国会議員(参議院議員)として活躍するなど、現実と正面からぶつ
かる濃密な関わり方をしてきています。

中村は『日刊ゲンダイ』のインタビューを受けて現代日本、とりわけ政治に怒り、これを鋭く批判し
ています。その内容は後で書きますが、このインタビュー記事の人物紹介があまりにも興味深いので、
少し長くなりますが、以下に引用します(『日刊ゲンダイ』2019年2月1日号)。

中村は東京外国語大学のインドネシア語科を中退(“インドネシア語科”がいいですね)し、そのこ
ともあって『ジャカルタの目』などの小説を書いています。

最近では2017年から反原発の一人朗読劇『線量計が鳴る』を全国公演中で、後で触れるように大好評
です。

また菅官房長官(?)をパロディーにして日本の改憲を笑い飛ばした新作喜劇『流行性官房長官―憲
法にかんする特別談話―』(KADOKAWA『憲法についていま私が考えること』に収録)を書いています。

この喜劇について中村は「日本は民主主義でも独立国家でもないのに、間違った前提で議論が進んで
いることを描く不条理演劇です」と語っています。

つまり、「日本は民主主義でも独立国家でもないのに」そのような「フリ」をして議論をしているこ
とが「不条理」だと言っているのです。これは、なかなか思い切った発言で、一般の俳優やタレント
にはなかなか言えません。

しかし、彼のインタビュー記事を読んでみると彼の現代世界と日本に対する批判は決して思い付きで
はなく、現実を冷静に見つめた筋の通った思考から発していることが分ります。

インタビュー記事の見出しにしたがって整理すると、全体のタイトルが「おいおい経済成長ってオイ
チョカブかよ!」となっており、中身は4つの部分から成っています。

第一は、「平成の次は大混乱の恐ろしい時代へ」です。ここで彼はこれまでの日本を大まかに、昭和
は侵略戦争、太平洋戦争、経済復興、バブル経済と、激動の時代と位置付けます。

戦争で行犠牲を払ったけど、先進国に追いついていく時代。ところが昭和の終わりくらいから、それ
までの経済成長のあり方、資本主義の行方が怪しくなってくる。つまり、オーソドックスなモノづく
りから金融経済にシフトしてゆく。

その結果、平成になると、世界を操る権力構造が変わり、資本はグローバルになり、金融中心となる。
そして、国籍そのものが重要性を失い、多国籍化したものに権力がシフトしていく。

ところが、ここで奇妙な現象が起き始めています。トランプ政権下では、金融の覇者、米国が一国主
義を唱えているのです。

これにたいして中村は「そう、私は平成の後半の特徴は、金融中心のグローバルな資本主義も崩壊し、
世界中が混乱していく過程に入った」と考えます。

政治的にはナショナリズムが台頭し、反グローバリズムを叫ぶ勢力が強くなってきている。

これは明らかに矛盾です。「資本主義を肯定しているのであれば、グローバリズムに行き着くしかな
いのに、何をいっているのか。それじゃあ、昔の資本主義に戻れるかというと、もう戻れませんよ」。

平成の時代を「恐ろしい時代」と規定する感覚は、このブログでも取り上げた、経済同友会代表幹事
の小林氏が、「平成の30年は敗北の時代」と言った認識と奇しくも一致しています。

第二点は「高速道路を逆走しているような時代錯誤を感じる」という彼の見解です。

インタビュアーの、資本主義は成長拡大するものだという前提でもがいているが、日本は成長戦略と
いって、原発輸出にシャカリキだったが、失敗した、との指摘に次のようにコメントしています。

安倍政権は経済成長を神のように崇めているが「内容がないんですよね。いろんなことをブチあげて
いますが、どれも不成立でしょう。金融政策で株が上がっただけで、いつ崩れるか分からない、バク
チ経済です」。

実体経済で売るものがないから原発でも輸出するかということになるが、「自分の国で始末に負えな
いものを他国に押し付けるなんで商道徳に反しますよ。しかもことごとく失敗、破談じゃないですか。
残るのは大阪万博にからめたカジノ構想ですか?おいおい、経済成長ってオイチョカブと同じかよっ
て。そういう貧しい発想でしか経済を捉えていないんですね」。

中村の世界認識の鋭さは、安倍政権が、「いま、人類はどういう時代に突き進んでいるか、という認
識が決定的に欠如していて、高速道路を逆走しているような時代錯誤を感じます」。本当に、“言い
得て妙”とはこのとこです。

第三は、「経済至上主義を止めなければ破滅の道」です。中村は『簡素なる国』という本も出してい
ますが、そこで「小欲知足」(欲望を抑えて充足を知る)が重要になります。

というのも、このまま「大きいことはいいことだ」という経済哲学が膨らんでいったらパンクするに
決まっている。そこで「小さいことこそ、よいことだ」という逆転の発想が必要となる。

経済至上主義は、貪欲を限りなく推奨し、経済成長を追求するが、資源も環境も有限だから、このま
ま続けばゼロになってしまう。

これまでどういう時に経済成長したか。一番手っ取り早くて効果があるのは戦争だ。戦争は一時的に
経済を救う。「米国は戦争を続けることで成長を確保しているし、そもそも戦争は経済政策なんです
よね」と、本質を突いた指摘をしています。

経済成長がもたらすもう一つは環境破壊です。環境破壊をやったら終わりなのに、核兵器と環境破壊
で人類は滅びる運命にある。「このまま拡大経済を神として崇めていったら終わりです。いや終わっ
ていて、だからバカなことをいう指導者が、各国で出てきているでしょう。バカの行く先は大変です
よ。必ず悲劇になります」。

彼は反原発の朗読劇『線量計が鳴る』を全国公演していますが、「凄いですよ。4月いっぱいまで公
演が詰まっています。4月末までに70回くらい上演できる」と予想しています。国民は、ひそかに
悲劇を予感しているのでしょう。

中村は行動する表現者・芸術家です。しかも、並の政治家よりも大きな影響を人びとに与えています。
彼がこのような活動をするには、政治家としての過去の過去の経験があるからです。

第四は「政治家の9割は選挙活動が就職活動」。本当は政治家が頑張らなくてはダメなのに、議員に
なって分かったことは、政治家は与野党とも、みんな就職のために議員になるんだということだった。

原発の危うさはわかってはいても、票にならないから反対しない。逆い票になるなら何党でも構わな
い、次に当選できるのであれば、どこでもいい。「そんな議員が9割ですよ」と実感を込めて言う。

私もまったく同感です。実際、現職の世襲議員をみると、政治信条のために政治家になっているとい
うより、家の「家業」として親の地盤、看板、鞄(金)を相続している場合が珍しくありません。

これでは、日本の政治は良くなるはずはありません。せめて同一選挙区での世襲は二世まで、三世以
上は認めない、程度のルールは必要だと思います。

インタビュー全体をとおして感じたことは、中村敦夫という人物の懐の深さ、表現者としての抜群の
才能と行動力、問題の本質を突く透徹した視線です。

とりわけ、資本主義を肯定するならグロ-バリズムは当然の方向なのに、反グローバリズムを叫ぶこ
との矛盾に指導者も国民も気づいていない、との指摘は鋭いと思います。

こうした発想から自国第一主義に走り、露骨にナショナリズムを煽ることには危険を感じます。

もう一つ、日本は「民主主義でも独立国でもないのに」という指摘は、口には出さなくても、多くの
国民が感じていることではないでしょうか。

森・加計問題における政治家と官僚の忖度関係、統計の改ざんなどをみていると、このブログでも書
いたように、本当に日本は民主主義の国と言えるのか、疑いたくなります。

そして、米軍機が我が物顔に日本の空を飛行し、飛行訓練の回数や時間についての申し合わせを破っ
て夜間訓練をしたり、米軍基地のために辺野古の海を埋めさせたり、米の軍人が犯罪を犯しても、日
本側に裁判権がほとんど与えられていないなど、日本は本当に独立しているのか、国民は心の奥底で
本能的に感じ取っているのではないでしょうか。

私は、今回のインタビュー記事を読んで、気が付かされたことも多々ありました。中村敦夫氏の今後
の活躍に期待しています。







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「敗北日本 生き残れるか」?―平成の30年は敗北の時代―

2019-02-10 07:13:47 | 社会
「敗北日本 生き残れるか」?―平成の30年は敗北の時代―

同友会代表幹事の小林喜光さんは朝日新聞のインタビューで、これまでの日本の実態とこれからの
展望について、危機感を語っています(注1)

公益法人経済同友会は、終戦直後の1946年、日本経済の堅実な再建のため、当時の新進気鋭の
中堅企業人有志83名が結集して誕生しました。設立趣意書には、「全く新たなる天地を開拓しなけ
ればならない」「同志相引いて互(たがい)に鞭(むちう)ち脳漿(のうしょう)をしぼって」と
熱い言葉が並んでいました。

小林氏の頭を離れないのは、日本が2度目の敗北に直面している、との危機感だという。

一度目の敗北は第二次大戦の敗戦です。その後、日本は必死の努力により復興と経済成長を成し遂
げました。

しかし、平成に入ってからの30年間に日本は世界の激変に立ち遅れ、挫折したのに挫折の自覚が
ないまま過ぎてしまった。小林氏はこの状況について「平成の30年間 日本は敗北の時代だった」
との認識に到達しました。

自身も三菱グループの大企業(三菱ケミカルホールディングス)の会長でもあるトップリーダーの
口から「敗北 日本」という言葉が出るのは衝撃的です。

現役の経済人のトップの言葉だけに、評論家や経済学者のコメントとは違って、説得力があります。
以下に、インタビューの内容を手掛かりに、日本の現状を冷静に見てゆきたいと思います

小林氏の話に真摯に耳を傾ければ、安倍首相が「(18年は)名目GDPは過去最高を更新」「有効求
人倍率が改善」(実は、労働人口が減ったからで、政策とは関係ない)とか、18年6月の現金給
与総額が「21年五か月ぶりの高い伸び」などという言葉が実に虚しく響きます。

小林氏は、「なんてことを言うんだ、と各所でおしかりを受けます。しかし事実を正確に受け止め
なければ再起はできません」と反論します。

確かに、世界の中で日本の地位は驚くほど没落しています。「例えば30年前で世界の企業の株価
時価総額を比べると、トップ10入りした米国企業はエクソン・モービルなど2社ほど。NTTや
大手銀行など日本企業が8割方を占めていた。中国は改革開放が始まったばかりで影も形もありま
せんでした」。

ところが現在は、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという『GAFA』と、アリバ
バ、テンセントなど米中のネット系が上位を占め、モノづくりの企業はほとんどありません。日本
の輸出の稼ぎ頭のトヨタ自動車でさえ四十数位です。

「企業の盛衰を反映する国のGDP(国内総生産)でも伸び悩む日本に対し、米中はこの30年間
に倍々ゲームで増やしていったのです」。

しかも、日本の没落の中でも「テクノロジーは、さらに悲惨です。かつて『ジャパン・アズ・ナン
バーワン』などといい気になっているうちに、半導体、太陽電池、光ディスク、リチウムイオンバ
ッテリーなど、最初は日本が手がけて高いシェアをとったものもいつの間にか中国や台湾、韓国な
どに席巻されている。もはや日本を引っ張る技術がない状態です」。

そして、現在、米中間でせめぎ合いが続く通信の世界でも、次世代規格の5Gに至っては、日本メ
ーカーのシェアはごくわずかで、中国の華為技術(ファーウェイ)が先行し、北欧のエリクソン、
ノキアがどうにか追随している状況です。

このような状況から「自動車の自動運転や遠隔医療など次世代の基幹的技術になる5Gでこの有り
様では、敗北と言わずに何を敗北と言うんでしょうか」、と断定します。

「事実を事実として受け止めないから『GAFAみたいな世界もすぐ追いつける』とのんきな気分
でいられるんでしょう」と、挫折と没落に気付かず、根拠のない楽観論に手厳しい。

そして、安倍政権の経済政策に対しても鋭く批判します。

そもそも失われた20年とか、デフレマインドの克服とかいうこと自体が本末転倒です。安倍晋三
政権で、アベノミクスが唱えられ『財政出動、金融の異次元緩和を進めるから、それで成長せえ』
といわれました。しかし本来は時間を稼ぐため、あるいは円高を克服するために取られた手段で、
それ自体が成長の戦略だったわけではないのです。この6年間の時間稼ぎのうちに、なにか独創的
な技術や産業を生み出すことが目的だったのに顕著な結果が出ていない。ここに本質的な問題があ
ると言います。

安倍政権の支持率が高いのは、失業率が下がったり、株価が上がったり、と足元の状況に満足して
いるからで、心地よい、ゆでガエル状態になっている、という。

日本全体は挫折状態にあるのに、挫折と感じない。この辺でいいや、と思っているうちに世界は激
変して米中などの後塵(こうじん)を拝しているのに、自覚もできない。「カエルはいずれ煮え上
がるでしょう」。

日本は、なぜこのような国になってしまったのか。それは国家の未来図が描かれないままの政治が、
与野党含めて続いてきてしまったからだと断じます。

この点は私も全く同感で、与党・野党を問わず、日本と言う国は、どのような国を目指すのかとい
う「未来図」を描けないまま、「今さえよければ、自分さえよければ」という本音の中で、国民も
政治家も生きてきたことが最も重要な問題です。

では、敗北を認めたとすると、日本にはどんな選択肢があるのでしょうか?これに対する小林氏の
見通しは、極めて厳しく悲観的です。

小林氏は「地政学」と「地経学」という二つの次元で考えられるコースを挙げています。地政学で
は三つの選択肢がある。①今も米国依存ですが、さらに従属を深めた米国の別種の州として生きて
いく(つまり名実ともにアメリカに吸収される)、②これを断ち切れば、うっかりすると中国の一
つの市、北京や上海になる形、③どちらも嫌だ。日本は日本だと、独立を守り、米中の間で中立を
保つ。ただし、③について、あくまでも「可能性としてはある」と断っています。

次に、経済、技術を通した地経学的な見通しです。現在は歴史的な革命期にあると認識すべきです。
5GもAIもサイバーセキュリティーも、日本は本当に遅れてしまい、基幹的な技術を欧米や中国
から手に入れなければ産業、社会も国家も立ちゆかなくなる。

もはやリーディングインダストリー(成長を引っ張る産業)を自国の技術で育てることができず、
他国の2次下請け、3次下請けとして食いつなぐ国になってしまうのです。

しかし、そこから抜け出すのも至難だと言います。なぜなら、息継ぎのために国債が乱発された結
果、財政に余力はなく、持続可能性が疑問になっているからです。

政府は、GDPを増やそうとして逆に国内の総負債を増やしてしまった。6年間の安倍政権下で約
60兆円のGDPが増えたといいますが、国と地方の借金は175兆円も拡大してしまい、次の世
代にツケを押し付けてしまっています。

一方で5Gや半導体、量子コンピューターなど、次世代が利用する技術の研究開発費は欧米や中国
に出遅れてしまっている。

しかし、アベノミクスに手をさしのべたのは、財界で、結果的に時間稼ぎに加担した責任は軽くな
いでしょう、というインタビュアーの問いに、その点は「非常に問われている。矜持(きょうじ)
を持つ財界人が少なくなりました」、と答えています。
 
小林氏によれば、経営者として、あるいは社会的公器のリーダーとして、社会に対して強く関わっ
て変革していこうという意志を持った人の絶対数が減ってしまった。かつて土光敏夫さんが臨時行
政調査会を率いて行政改革を進めた頃、財界には高い権威があった。

経営者の権威が低下した一因は、ネット社会のいまは、財界トップと言っても、持っている情報が
一般の社員と比べて特段に優れているわけでもないから、社会的地位も特段に高いわけでもない、
という状況です。

そのうえ、官邸1強体制の中、経済財政諮問会議や未来投資会議などが政府の意思決定過程に組み
込まれてしまっているので、財界の発言権は「たかがしれている」。

それでは、日本は変われるのでしょうか?

小林氏が提案するのは、まずは財界トップに権威のない時代だと自覚し、学界や知識人、若い人
たちも含めた幅広い団体、いわば知的NPOを作って意見を交わし、社会に問いかけ、政治に注
文することだ、というものです。

もう一つ日本が直面している問題は、世界で広がりつつある一国主義や分断です。

この点に関する小林氏の指摘は、まことに的を射ています。つまり、一国主義を主張する政治家
は選ばれた存在に過ぎず、選んでいるのは国民なので、悪いのは国民ということになる。結局、
各国で国民が劣化したから独裁者を生んでいる。

こうした傾向は、現代の文明的な老化ともいえる。「文明は老いるものです。ローマしかり、大
英帝国しかり。新しい血と混ぜることを嫌えば衰退に向かう。それが世界史です。トランプ氏が
壁造りに躍起になっていますが、外国からいろんな人がやってきて活性化してきたというエネル
ギーを馬鹿にしてはいけない」。

最終的に日本が生き残るには「『弱きを助け強きをくじく』といった大和心は残しつつ進取の気
性を培わないと、挫折したまま滅んでしまう。単なる労働力として外国人を入れるのではなく、
勉強する、考える日本人を増やす触媒の役割を担ってもらうべきです」。

小林氏の、「異文化を受容することによって社会にはストレスが生まれる可能性はあるが、それ
によって日本本来の文化も磨かれる」という言葉は、非常に重要な示唆を含んでいます。

つまり、テレビの「日本 スゴイ」的な番組が好んで取り上げられますが、これでは自画自賛だ
けが深まり、異文化との接触により日本の文化を磨くチャンスを失ってしまいます。

今回の小林氏の発言は、日本の現状に関して非常に厳しい内容ですが、この敗北と挫折という現
実から目を背けることなくしっかりと見つめることからしか、再生の道はないような気がします。

(注1)『朝日新聞』(2019年1月30日)。『朝日新聞 デジタル版』(2019年1月30日)また
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S13870560.html?rm=150(2019年1月30日05時00分)
    でもみることができますが、紙面とデジタル版とでは多少の違いがあります。
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初雪 偶然見た雪をうっすらと乗せた松がきれいでした
                     



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厚労省の統計不正―これでも日本は近代国家ですか?―

2019-02-03 07:43:20 | 政治
厚労省の統計不正―これでも日本は近代国家ですか?―

一体、日本の政界・官界はどこまで腐敗してしまったのだろうか、という深い落胆を感じます。

私たちはすでに、森友・加計学園問題を通じて、官僚の文書改ざんや証拠の隠滅について、うん
ざりするほど聞かされ見せられてきました。

政権や官僚はその都度、「調査中」「隠蔽、改ざんの意図はなかった」と繰り返してきました。

今回の厚労省の統計改ざんについては後で触れますが、昨年だけでもデータ偽造は、裁量労働制
をめぐる厚労省の調査データの(意図的)誤り、28の中央省庁機関による障害者雇用数の水増
し、失踪した外国人技能実習生に対する法務省調査の、意図的とも思われる隠蔽と過小評価問題
など、次から次へと統計データに関する、「捏造・隠蔽疑惑」が噴出しました。

そして、今回の「毎月勤労統計」は、政府の諸統計の中でも「基幹統計」といわれる、非常に重
要な統計です。「毎月勤労統計」は、自業所ごとに労働者がどれほどの時間働き、いくらの収入
を得ているかを、実際に事業を訪れて調査した結果を集計するものです。

「毎月勤労統計」は雇用保険や労災保険の金額算定の基礎データです。もし、その基礎データが
実際より低く抑えられていたら、当然ながら雇用保険や労災保険という、不幸にして職を失った
り労働で災害を受けて働けなくなった人たちの、最後の拠り所、本来支払うべきセイフティー・
ネットが「値切られて」しまうのです。

この意味で、この調査と数字が不正にねじ曲げられたとすると、その影響は、他の不正とは比較
を絶して大きな影響があります。

東京都の場合、500人以上の雇用者を抱える大手企業の労働実態について、全ての企業の調査
を行うことが義務付けられています。

しかし、実際には2004年以来、全数調査ではなく、その3分の1のサンプル調査しか行って
いなかったことが明らかになりました。それは、全国平均を高い賃金水準が想定される大手企業
の全数調査と行うと、平均賃金が高くなり、その分、雇用保険や労災保険の支払いが多くなって
しまいます。

厚労省は、これらの支払いを低く抑えるため、とは口が裂けても言わないと思いますが、実際に
何が起こったかといえば、保険対象者の受取金が本来もらうべき金額より少なくしか支払われて
こなかったのです。

ではどれほど人がどれほどの金額をもらい損ねたのかと言えば、これまでの累計で2000万人
以上、金額はおよそ600億円と見積もられています。

さらにとんでもないことに、この問題の処理(調査のし直し)のための事務処理費が195億円
もかかるのです。

この事務費も、私たちが払った税金から支出されるのです。もし、この事務処理を厚労省の職員
が残業のような形で行うとすれば、まるで「焼け太り」のようです。

なぜ、厚労省のいい加減な調査の後始末の事務処理費まで私たちの税金が使われるのかを考える
だけでとても腹が立ちます。

今回のデータ改ざんに関しては、金額の問題だけではありません。

この「毎月勤労統計」は、たとえば政府の政策の結果を客観的に評価する際に、果たして実質賃
金は上がったのか下がったのか、残業などの労働時間は増えたのか減ったのか、などを判断する、
最も重要な基本統計の一つなのです。

1月30日、厚労省は2018年の実質賃金が実際にはマイナスになる可能性があることを始め
て認めました。これまで、この年の実質賃金の伸び率として公表された1月から11月分のうち、
プラスは五か月であったが、専門家が実態に近づけて試算したところ、プラスはわずか一か月だ
けで、厚労省発表のマイナス0.05%より大幅なマイナスで、マイナス0.53%、通年でも
前年を下回っている見通しとなりました。

細かくみてゆくと、厚労省が最も大きく伸びたとしている6月(2%の上昇)も、計算し直して
みると0.6%の伸びにすぎなかったのです。

           
     『東京新聞』2019年1月31日』より

この日、野党によりヒヤリングで、統計問題にくわしい明石順平弁護士による試算を野党が提示
したところ、厚労省の屋敷次郎大臣官房参事官は「(厚労省が試算した場合にも)同じような数
字が出ると予想される」と認めました。

それでも安倍首相は、過去5年間、実質賃金が上昇していると、国会で強弁しているのです。

この問題は、厚労省が18年度に賃金が伸びやすいよう企業を入れ替え、実際に伸び率が課題に
なったためでした(『東京新聞』2019年1月31日)

もし、このような実態がこれまでも続いていたとすると、今年の10月から消費税10%の値上
げが可能かどうか、また妥当かどうか、に大きな疑問符が付きます。

また、政府はアベノミクスにより、まず企業収益が増大し、その一部が働く人たちに滴り落ちで、
景気が上昇する「好循環」が働いてきた、と言い続けてきましたが、そんなことは起きてこなか
ったことが証明されました。

自民党の厚生労働部会に出席した総務省の担当者は、従業員500人以上の事業所を全て調べる
ことを義務付けているのに、総務省に届けることなく勝手にサンプル調査で済ませてしまったこ
とは、統計法違反の疑いがある、と指摘しています(『東京新聞』1月16日)。

今回のデータねつ造ともいえる不正は、調査方法だけではなく、その調査を監査する「外部有識
者」から成る特別監査委員会なる組織にも大きな問題があることがはっきりしました。

この監察委員会の委員長の樋口美雄氏は厚労省所管の労働政策研究・研修機構理事長で、労働政
策審議会(厚労相の諮問機関)の会長などを務める、いわば厚労省の「身内」です。

監察委は設置からわずか6日後の22日に中間報告書を取りまとめ、不正調査の動機などに関す
る検証は終結すると表明しました。

そして、1月22日に発表された特別監察委員会による中間報告では、延べ69人からヒアリングした
ことになっていましたが、閉会中審査での質疑によって実数は37人だったこと、しかも、身内で
ある厚労省職員がヒアリングを行っていたこと、厚労省の官房長が同席したことが明らかになり、
与野党から「身内によるお手盛り調査」と批判を集めました。また、直接に出向いて調査するの
ではなく、郵送で済ませてしまったことも明らかになりました。

中間報告書そのものについても、厚労省の事務方が深く関与していたことも発覚し、監察委員調
査の中立性は完全に失われたことになります。

しかし、この委員会の委員長の樋口氏は、中間報告に結果から組織的な隠蔽や捏造はなかった、
と結論付けています。

ところが、30日の委員会の会合で、委員の中から「複数の職員が不正を認識しながら長期的に
放置してきました。組織的な隠蔽があったと認めるべきだ」との発言が飛び出したという。

このような時、「外部有識者」とか「第三委員会」など、あたか客観的な目で調査をし、評価す
るような印象を与えます。しかし、政府が設置するこのような委員会は、政府が望まない結論を
出しそうな委員長は選ばないので、最初から結論は決まっている場合が多いのです。

ところで、今回明らかになったデータ不正がもはや隠せない状況になると、担当の根本匠厚労相
は、まるで他人事のように「職員の意識向上やチェック体制の強化が必要」と言いい、菅官房長
官は「甚だ遺憾だなど陳謝したものの、一連のデータ不正は「書き写しなど単純ミスが多かった
が、それでもあってはならない」とコメントしています。自民党も一斉に厚労省の批判に走りま
した(『東京新聞』2019年2月1日)。

しかし、国民は彼らのこうした言葉を聞いて素直に受け取ることができるだろうか。

官僚からみれば、時の政権が求める数字を忖度して、いろいろ工夫して作り上げただけなのに、
との思いがあると思われます。

ところで、2007に発足した統計委員会の初代会長の竹内啓氏は、statisticsという言葉には
“state”、つまり「国家」と言う意味と、「状態」という意味があり、正確な統計は国家運営
にとって基礎であること、しかし、統計専門職員を養成せず、むしろ減少していることに警告を
発しています(注1)

では現実はどうかというと、2004年には国の統計に従事する職員は6247人でしたが、小
泉政権下から急速に減少しはじめ、2018年4月には、なんと1940人まで激減しているのです
(『報道ステーション』2019年2月1日)。

なお、偶然かどうか分かりませんが、厚労省の「毎月勤労統計」不正が始まったのも小泉首相が
竹中平蔵内閣府特命担当大臣とともに日本経済の「聖域なき構造改革」と国の赤字削減を断行し
始めた年でした。

今回のような官公庁によるデータ不正は厚労省だけの問題ではなく、何と22の基幹統計に不適
切な処理が行われていることが発覚しました。

このような実態を知ってしまった今となっては、もう政府が出してくる数字を信用することはで
きなくなりました。これは極端にいえば国民の多くが国家に対する信頼を大きく傷つけました。

近代国家は、正しく現実を国民に知らせ、そのために正しい統計は不可欠です。しかし、今回明
らかになったことで、私は、果たして日本は本当に近代国家といえるのだろうか、という暗澹た
る気持ちになりました。

私たちは、たとえば中国や、北朝鮮、ロシアの統計も信用できない、と言いますが、そんなこと
を言う資格はあるのでしょうか?

(注1)『毎日新聞』デジタル(2019年1月27日)
http://mainichi.jp/articles/20190127/ddm/041/020/081000c



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