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トランプ政権と激変する世界秩序―大国支配の横暴にかき乱される世界―

2025-03-23 13:35:38 | 国際問題
トランプ政権と激変する世界秩序
―大国支配の横暴にかき乱される世界―


今、世界で何が起こっているのか、その本質は何なのかを理解し、これからどうなる
のかを予測することはほとんど不可能な状況にあります。

ちょっと考えただけでも、ウクライナとガザでの戦争の行くへ、超大国アメリカによ
る高関税政策が世界経済に与える影響、アメリカとヨーロッパ諸国との亀裂、ヨーロ
ッパ世界の衰退と影響力の低下、グローバルサウスと呼ばれる国々の台頭が世界秩序
にもたらす影響、などなど、多くの問題が発生しています。

しかもこれらのどれ一つとっても、国際社会全体に甚大な影響を与える問題です。

現在国際社会で起こっているこれらの状況は、2025年1月に第二次トランプ政権が発
足して、わずか2か月ほどの間に起こっているのです。

すなわちトランプ政権は、これまでアメリカが掲げてきたグローバリズム、国際主義、
世界の民主勢力の擁護などの理念を捨てて、徹底的にアメリカの利益を優先する「ア
メリカ・ファースト」に大きく舵を切ったのです。

『日経新聞』(電子版 2025年3月10日)で同紙のコメンテーターの秋田浩之氏は、
「米政権、牙をむく捕食外交 「王様」に逆らえぬ側近たち」という記事を書いてい
ます。

その冒頭の部分で秋田氏はまずトランプ氏の対外政策について

    トランプ米大統領の対外政策の本質がより明白になってきた。世界は大国同
    士が取引し、仕切っていくという発想だ。この前提に立てば、ロシアは侵略
    国であると同時に、ウクライナ停戦をまとめるのに欠かせない協力相手とい
    うことにもなる。
    トランプ外交のもう一つの本質は、小国は大国同士のディールに口をはさま
    ず、決定に従うべきだとの信念だ。停戦にさまざまな条件をつけるゼレンス
    キー・ウクライナ大統領に怒り、いったん軍事支援などを凍結したのも、そ
    んな思考の表れだ。

と、その本質を指摘しています。

つまりトランプ氏の世界観は、「この世界は大国同士が取引し、仕切ってゆく」という
ものです。

私たちは、たとえばウクライナ戦争に関して、なぜ当事者のウクライナの頭越しにロシ
アと「取引」しようとするのかトランプ氏の真意を測りかねていました。

というのも、バイデン大統領の時には、ロシアの弱体化を進めるためにウクライナへ最
大限の支援を行い、プーチン大統領との話し合いなど全く行ってこなかったからです。

ところがトランプ氏には、ウクライナ戦争はヨーロッパの問題であり、その解決のため
にアメリカの富を使うべきではないと考えます。言い換えると、アメリカ国民が払った
税金は、アメリカ国民のために使うべきだ、という考えです。

しかもトランプ氏は、ウクライナ戦争の決着をつけることができるのは、アメリカとロ
シアという「大国間」の取引(ディール)だけで、小国(この場合ウクライナ)は大国
の決定に従え、と露骨に主張します。

トランプ氏にとってウクライナ戦争は、自分の仲介で「むごたらしい殺し合い」を止め
させた、という実績が欲しいのです、その観点からもう一つの「大国」の大統領プーチ
ン氏は敵対者ではなく協力者となるのです。

トランプ氏の大国主義という外交政策は別の、面ももっています。大国主義という意味
では、第2次世界大戦末期、米英ソの首脳がクリミア半島のヤルタに集まり、戦後の勢力
圏を取り決めたことを思い出します。

トランプ氏の外交を「新ヤルタ主義」と捉える見方もありますが、現在進行している事
態はさらに無慈悲で、容赦ないトランプ外交の素顔です。

少なくともルーズベルト、チャーチル、スターリンの3首脳はヤルタ会談で国連創設を決
めるなど、世界秩序のレールも敷き、それが現在までの世界秩序の基盤となっています。

しかし、トランプ氏は世界の秩序づくりには関心がなく、しかも対等なディールの相手と
認めるのは、中ロなどの大国だけなのです。

秋田氏によれば、国力が小さかったり、米国への立場が弱かったりする国々は権益を取り
立てる「捕食」の対象になってしまいます。その典型がウクライナであり、中米パナマの
パナマ運河やデンマーク領のグリーンランドなのです。

ウクライナに関していえば、あれだけ国中が破壊されているのに、仲介に乗り出したトラ
ンプ氏はウクライナの地下鉱物資源の権益の半分をよこせ、といっています。

トランプ氏は3月4日の施政方針演説で、パナマ運河に「taking it back」(取り返す)、
グリーンランドに「get it」(手に入れる)という表現を使いました。

対価を払って購入するのではなく、必要なら「捕食」する物言いです。まさに、これこそ
「弱肉強食」の恐ろしい世界です(『東京新聞』)2025年2月26日朝刊)。

同様のことは、著名な歴史家のN.ファーガソン(歴史家)も指摘しています。彼はトラ
ンプ再登場後の世界について

    トランプはまるで皇帝のようにふるまっています。(中略)いまは、大国の時代で
    すが、米中ロ、すべての国に力の限界があります。自分はスーパーマンだと思っ
    ている大統領と、かつてほど強くない大国の時代なのです。

と分析した後、”この時代に、資源がなく交渉材料を持たない国はどうすればいいのでしょう
か“、との質問に

    「強者はやりたい放題やり、弱者はそれに従うしかない」という世界にいます。小
    さな国にとってこれは非常に不快な世界です。たとえばデンマークは、アメリカの
    言うことに従うしかありません(戦うことなどできません)。これが小国の運命な
    のです。

と非常に暗い展望を示しています(注2)。

大国による小国支配という面のほかに、トランプ氏の尊大な態度は既存の国際秩序をかき乱
す要素をもっています。それは、これまでの同盟国とみなされていた国々にたいしても「ア
メリカ・ファースト」を押し付け始めたからです。

その一つが、かつての盟友であったヨーロッパ諸国に対する突き放した姿勢です。

たとえば、ウクライナ戦争に何らかの決着がついたとして、その後のウクライナの安全の保
障について、トランプ氏はアメリカが何ら保障を与えるつもりはなく、それはヨーロッパの
問題であるからヨーロッパ諸国が担うべきだと、冷たく突き放しています。

つい最近、トランプ第二期大統領が発足する前まで、歴史的にも文化的にもヨーロッパ世界
はアメリカよりも「格上」で、アメリカの行動にたいし注文をつけたり、場合によっては反
対したり、一定の影響力を発揮してきました。

しかし、今やウクライナ問題に対しても、主な交渉窓口からヨーロッパ諸国は締め出されて
しまい、米ロ間の「ディール」によって決着されそうな状況です。

米欧の亀裂がはっきりしたのは、今年の2月26日に開かれた「国連安保理事会」(15か国)に
おいてロシアのウクライナにおける戦闘終結を求める決議を初めて採択した時でした。

米国は「侵攻」や「ウクライナ領土の保全」などのロシアに批判的な表現を避けて「紛争終
結」を求める決議案を提出しました。

これにたいしてロシアを含む10か国が賛成し、英仏など欧州5か国は棄権しました。ここに、
ロシアに肩入れするトランプ米政権と欧州諸国との亀裂が鮮明になりました。

安保理に先立って国連総会(193か国)は、ウクライナと欧州連合(EU)加盟国が主導した
「ウクライナ領土の保全」と「戦闘停止」を求める決議を採択しました。

この時日本など93か国が賛成したが米ロなど18か国は反対、中国など65か国が棄権しました。

このように安保理でも総会においても米ロは共同歩調をとっており、「米ロ」対「欧州連合」
という構図になっています。

また、日本もその一員である「G7」の首脳は24日、ウクライナ侵攻から3年に合わせてテレ
ビ会議を開きました。

しかし、米国と欧州の各国の調整が難航したとみられ、議長国カナダは24日中に首脳声明を
発表できず、ここでも「G7」の枠組みでも溝が露呈しました。

この会議にはウクライナのゼレンスキー大統領も出席し、ウクライナと欧州が平和交渉に参
加すべきだと改めで反発しました。

2月28日に、トランプ氏の大統領執務室で、テレビカメラの前でトランプ氏とバンス副大統領
によってゼレンスキー大統領が面罵され、アメリカ・ウクライナ関係が決裂した後で、英仏大
統領があわててトランプ氏に関係修復のために訪米したことも、アメリカとヨーロッパの力関
係を如実に示しています。

ウクライナというヨーロッパの一角で起こている戦争に関してヨーロッパ諸国が主導権を握る
ことができないことは、世界の中でヨーロッパ諸国の影響力が相対的に凋落しいたことを誰の
目にも明らかにしました。

なお、この会議で石破首相はウクライナの永続的な平和の実現には「G7の結束が必要だ」と
訴えましたが、ほとんど取り上げられることはありませんでした。

また会議後石破首相は公邸で、平和交渉に関して「力による現状変更は可能だという誤った教
訓が引き出されないよう注意が必要だ、と強調し、ウクライナ支援と対露制裁を継続する考え
も表明しました。

ただし、イスラエルによるパレスチナの人々に対する公然たる虐殺と領土の変更に目をつむっ
ている日本や欧米諸国の二重基準(ダブルスタンダード)に対する国際社会、とりわけグロー
バルサウスの国々の批判に耐えることはできません。

日本も、欧州諸国や韓国といった米同盟国と同様、従来の対米外交を根本的に見直す必要に迫
られています。さすがに捕食対象とまでならなくても、トランプ氏は同盟国に「貸し」がある
と信じており、対等な取引相手とはみなしていません。

その顕著な現れは、トランプ氏の関税は、これらの同盟国であっても容赦なく適用されると言
明していることに表れています。

石破茂首相は2月上旬、トランプ氏との初会談を波乱なく終えました。前出の秋田氏は、日本
政府・与党内には「1期目と同様、トランプ政権の2期目もなんとか切り抜けられる」との見方
もありますが、大きな誤りだ、と指摘しています。

トランプ政権の発足前、外交は危惧するほど過激にならないのでは、との淡い望みが米同盟国
にありました。米政権に異なる複数の派閥があり、そのバランスの上に対外政策が決まると考
えたからでした。

しかし今や、トランプ氏の周りにはトランプ氏の歓心を得ようとする側近ばかりで、内情に詳
しい元米高官やトランプ政権の政策アドバイザーらによると、政権内にトランプ氏に強い影響
を及ぼせるような派閥は存在しないという。

それだけにトランプ氏の権力は王様のように絶大です。宇宙に例えるなら、トランプ氏は太陽
で、その周りを閣僚や補佐官という惑星が回っている。太陽に逆らえば引力を絶たれ、太陽系
の外に追い出されてしまいます(注3)。

果たしてトランプ氏の思い通りに事が運ぶのか否かは今の段階では分かりません。トランプ氏
のただ、はっきり言えることは、これからの世界秩序は、米欧が取り仕切る構図ではなくなっ
たことです。

こうした中で日本は、従来のように、アメリカ詣でをせっせと行い、相も変わらず「日米同盟
の強化を確認した」といって喜んでいるようでは世界から取り残されてしまうことを肝に銘じ
るべきでしょう。

これからも、トランプ政権と世界秩序の変貌、そし日本の対応について注視してゆきたいと思
います。


(注1)『日経新聞』(電子版)(2025年3月10日 10:00、 3月23日アクセス) 
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD06C1K0W5A300C2000000/
(注2)「NHKスペシャル トランプとプーチン ディールの深層」2025年2月22日放送 より)
(注3)(注1)と同じ。

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