大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

「Tカード」とプライバシー侵害―捜査協力は社会貢献?―

2019-01-27 07:05:17 | 社会
「Tカード」とプライバシー侵害―捜査協力は社会貢献?―

私たちの生活は、さまざまな形の電子情報が入ったカードや映像、電子情報のやり取りを利用しています。

ICカードの名義人情報や利用履歴、防犯カメラ、アプリによるフリーマーケットの取引履歴、顔写真の写
しなど、検察が共有するリストには、入手可能な顧客情報がずらりと並んでいます。

これらの情報を検察関係者は、「対象者の所在や金銭の出入りを確認するために、リストを参考にする」と
言っています。

ここで重要なことは、検察は裁判所の許可なく、関係する企業に「捜査関係事項照会書」を提出し、カード
番号か氏名・住所・生年月日を伝えれば個人情報を請求できます。しかし、この「照会書」は捜査当局が作
った文書で、裁判所も第三者機関のチェックも受けません。

それでは「Tカード」のどこが問題なのでしょうか?もう少し具体的にみてみよう。

たとえば鉄道会社の定期券の内容、利用履歴、チャージ金額がわかります。アプリ運営会社からは、アプリ
のフリーマーケット取引履歴、レンタル会社からは、レンタル履歴、店舗内の防犯カメラ映像、電子マネー
付きポイントカード提携会社からは、ポイントカードの人物特性(名前、住所、電話、生年月日などなど)
利用時間、店舗、取引金額、残高などの情報を捜査当局は書類を提示するだけで入手できます。

なお、携帯電話会社からは、メールの受送信履歴、位置情報などについては、捜査当局は「捜索差し押さえ
許可状」を裁判所から取れば入手可能です(『東京新聞』2019年1月4日)。

しかし、今回、これまでの個別的なカード方法とは比較にならないほど広範囲の情報を一括して検察は手に
入れていたことがあきらかになったのです。

それは「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」(CCC)が2003年に始めた「Tカード」です。

「Tカード」は、さまざまな買い物先などの特典ポイントを一つにまとめることができる便利なカードです。
買物をすると、その金額に応じてポイントがつき、たまったポイントを一定の換算率でその分の金額を提携
先で使えます。

提携先は昨年11月末時点で185社、店舗数は99万あまりです。身近なところでは「TSUTAYA」
や「蔦屋書店」スーパー、コンビニ、薬局、飲食店、ホームセンター、宅配センター、ホテル、ガソリンス
タンドなどなどです。

カードを作るには、氏名、住所、生年月日を伝える必要があり、顔写真を要求する企業もあります。

現在、「Tカード」保有者は6827万人、ざっと、日本人の二人に一人が「Tカード」を利用しているこ
とになります。

「Tカード」の履歴を調べれば、誰が、いつ、どこにいて、どうお金を使ったかがデータとして蓄積されて
ゆきます。

また、「TSUTAYA」や蔦屋書店で購入した本や借りたDVDの中身を見れば、その人の思想信条や好
み、性癖まで筒抜けになってしまいます。

こうした情報に目を付けたのが捜査当局でした。CCCによれば、最初は裁判所の令状があった場合に限っ
ていたが、2012年以降は「捜査関係事項照会書」だけで情報を提供するようになったということです。

しかし、「Tカード」の運営会社のCCCは、ずっとそのことを明らかにせず、規約にも示していませんで
した。今年の1月21日にようやくホームページでそのことを明らかにしましたが、それは捜査当局への情
報提供の問題が報道されてからのことでした。

『東京新聞』の取材に対して広報の安藤舞氏は、「捜査への協力が社会貢献の一環」と答えています。提供
する内容に関しては「弊社との間で一定のルールを設け、必要最小限の範囲で提供している」と具体的な説
明を避けていました。

これは、ばれてしまったから、仕方なく答えた開き直りの言葉です。もし、捜査当局に情報提供をしている
ならば、カード作成時に、使用者から個人情報を捜査当局あるいは他の組織に提供しても良いかの承認をと
っておくべきでしょう。

「TSUTAYA」と同様、情報を扱う図書館はだいじょうぶでしょうか。

日本図書館協会が2011年、全国の公立945館を対象に行った調査では、捜査機関から裁判所の令状な
しに、貸出記録などの照会を受けたことがある館は192館と約二割を占め、うち、半数を超える113館
が求めに応じたという。

しかし、利用者の秘密を守ることが図書館の大原則です。協会の鈴木常務理事は、「人命への危険など緊急
の場合を除いて、令状がないのに氏名や住所、利用事実や読書事実、レファエンス記録(文献調査記録)、
複写記録の(捜査機関への)提供はできない」と断言しています。

どのような本を読んだのか、探そうとしているのかは、その人の思想や信条にかかわることだからです。

この図書館協会の姿勢と比べて「Tカード」の運営会社、CCCの捜査協力への積極性は際立っています。
鈴木正朝・新潟大学教授(情報学)はこの企業による「捜査機関への個人情報の提供が『インフラ』『社会
貢献』とは、まったく意味が分からない」と切り捨てています。

宮下紘・中央大準教授(憲法)は、「CCCの言う『社会貢献』に会員のプライバシーを守ることは含まな
いのか」と批判しています(『東京新聞』2019年1月26日)。

宮下氏がいうように、こうした個人情報の収集を野放しにすれば、捜査機関は誰をも監視できる『神の目』
を持ちかねないのです。

ある検察OBは「顧客情報の照会結果が捜査の下支えとなった事件は無数にある」と語っているように、さ
まざまな企業が発効しているカードを使うたびに、その情報は検察当局の捜査や、他の企業の宣伝広告に利
用されてゆくのです。

もし、具体的な犯罪が生じて人物がある程度特定された場合に、こうした情報の収集を検察がおこなうこと
は、多少は納得できますが、一般の市民の個人情報全体に網をかけて、それを蓄積しているのならば、日本
は「情報監視社会」となってしまいます。

宮下氏は他の個所で、
    アメリカには、大統領直轄の有識者組織が存在します。ここはNSAの捜査資料を提出させ、テロと
    無関係な人の生活を覗き見するような監視をしていたら止めさせる権限を持っています。EUもグー
    グルやフェイスブックなどの企業に対し、「NSAに無条件にデータを渡すのなら、EU内で仕事がで
    きませんよ」という対抗措置を取りました。
と欧米の事情を紹介しています。

日本ではEUのようにグーグルやフェイスブックに対する法的な対措置をとっていないので、私たちが何か
を検索すれば、いつ、誰が、どんなことを検索したかの情報は蓄積され、その情報はアメリカの情報当局や、
日本の捜査当局に流れる可能性があります。

日本は個人情報を保護する法整備が遅れており、100カ国以上が参加するプライバシー国際会議に正式参加
できていません。フィリピンやウルグアイなどの途上国も入っているのに、日本は参加拒否されたのです
(注1)。

なぜ、日本が参加を拒否されたのかは分かりませんが、もし、日本はプライバシーを尊重する意志もないか
ら、国際会議に参加する資格がないということであれば、日本は国際社会の中で「先進国」としては認めら
れていないことを意味します。

欧米社会で行われているように、「政府や行政の情報監視を監視する」法律的整備がぜひ必要です。

今日の日本は、森友問題、加計学園問題、自衛隊の日報隠し問題、働き方改革に関連した労働実態(残業時
間の実態)の調査結果のごまかし、外国人労働者の労働実態、厚労省の毎月勤労統計の不正調査にせよ、権
力を持つ側は、自分たちの情報を隠すが、国民の行動はあらゆる機会をとらえて情報収集する、という非常
に悪い事案が続出しています。

このように考えると、今日の政府や行政機関による情報隠しや歪曲は、もはや偶発的な出来事というより、
構造的な問題だといえます。

正しい情報に基づいて国民が判断することが民主主義の基本です。もし、間違った情報しか与えられなけれ
ば、正しい判断はできません。同様に、個人情報の保護は基本的人権の重要な基礎です。

情報といえば、かつてオバマ政権下でアメリカは同盟国であるヨーロッパの首相の携帯電話を盗聴していた
ことが発覚し、ドイツのメルケル首相は激しく怒り、盗聴を止めさせました。

同時期に、日本の政治家や企業のトップの電話も盗聴されていたことが、ウィキリークスで暴露されました
が、日本政府は抗議しませんでした。「弱きに強く、強きに弱い」のが日本の為政者の本質のようです。

*最新の情報によれば、フランス政府は、個人情報の保護を怠ったグーグルに62億円の罰金を科す決定を
しました。まことに正常な対応だと思います。さて、日本は?

(注1)TheLiberty Web (2019.01.21)
    https://the-liberty.com/article.php?item_id=15317 






  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

国連「家族農業の10年」を推進―持続可能な日本農業―

2019-01-20 09:31:38 | 食と農
国連「家族農業の10年」を推進―持続可能な日本農業―

あまり耳慣れない言葉ですが、国連は今年(2019年)を初年として2028年までの10年間を
「家族農業の10年」と定めました。

「家族農業」とは、国連の定義によれば労働力の半分以上を家族で賄う農業のことで、日本の「小農」
がこれに当たります。

家族農業は非効率で時代遅れ、とのイメージがつきまといますが、その家族農業を国連が奨励するのは
なぜでしょうか。

この背景には、大規模な近代的農業に環境汚染などの弊害が目立ってきた、という実情があります。

大規模な「近代」農業の中身は、一つの経営面積が大きく、大型機械が使われ、除草剤や殺虫剤などの
農薬や化学肥料が大量に投入される、という農業の形態です。この農業の場合おそらく、遺伝子組換え
作物やゲノム編集作物の導入なども積極的に取り入れてゆくことになるでしょう。

しかし、最近では、このような農業は土壌を汚染し、化学肥料によって土そのもの地力を弱め、さらに
作物に残る有害化学物質が消費者の健康を損ねるのではないか、その意味で、本当に持続的な農業と言
えるのか、という疑問が提出されてきました。

そして、むしろ家族農業こそ持続的ではないか、という評価が世界の主流になってきました。日本は大
規模な「近代」農業にむかい、小規模な家族農業は切り捨てる方向にゆくのか、あるいは家族農業をも
維持・推進して行くのか新たな分岐点に差し掛かっています。
実は、国連は2014年を「国際家族農業年」と定めたことがありました。今度の「家族農業の10年」
はこれを延長した格好ですが単なる延長ではないとの見方があります。

農業問題の専門家の鈴木宣弘東京大教授は、そこには、国連食糧農業機関(FAO)と世界銀行・国際
通貨基金(IMF)との闘いの歴史がある、とは指摘しています。

FAOは、途上国の農業発展と栄養・生活水準の向上がもともとの役割で、一方の世界銀行・IMFは
途上国の開発援助を担っています。しかし、後者は米国主導で、途上国を余剰農産物のはけ口としたい
米国や、大規模農業を進めたい多国籍企業などの意向が強く反映され、FAOとの路線対立が続いてい
ました。

つまり、これまでずっと、途上国の立場で栄養と生活水準の向上を目的とするFAOとアメリカ主導の、
多国籍企業の利益を代表とする世銀・IMFとの闘いがあったのです。

この闘いで主導権を握った世銀・IMF連合は、各途上国で関税や市場規制を撤廃し、輸入穀物に頼ら
ざるを得ない食料政策などを推進してきました。なかでも規制撤廃が徹底されたのはサハラ砂漠以南の
アフリカ諸国ですが、一帯は飢餓や貧困が集中したままです。

こうした現実を見れば、アメリカ主導の世銀・IMF連合の方針を受け入れた(実際には受け入れさせ
られた)国々の悲惨な結末がどうなるのか、良く分かります。

その現実を鈴木教授は、米国の穀物メジャーなどによる「収奪」だと批判する一方、国連の「家族農業
の10年」の動きはFAOによる「決死の巻き返し」なのだと説明しています(注1)。

世界の農家の9割は家族農業・小農で、食料全体の8割を生産しているとされます。日本の場合は99
%が小農です。これらが大規模農業に置き換えられていくと、何が起きるのでしょうか。

よくよく考えてみれば、日本はいつの間にか圧倒的に食糧不足・食糧輸入国に転落し、食糧自給率(カ
ロリー・ベース)は40%を切っています。

もう少し実態をみてみよう。農水省によると、2016年までの20年間で主食用のコメの作付面積は
24.9%減り、主な野菜の面積は18.6%減少した。日本の食料供給を支える生産基盤は長い時間をかけて
確実に弱体化しつつあります。

面積が減れば、よほど収量が改善しない限り、生産量も減ります。実際、主要な野菜の収穫量は同じ時
期に20.9%減りました。面積の減り方よりも、収穫量の減少が大きかったことになります。主食用のコ
メの収穫量も22.1%減っています。

一方、安倍政権の農業政策は、経営規模の拡大や農産物の輸出促進などを通じて「もうかる産業」に育
てることを目指しています。農業経営の規模を拡大すれば生産性が上がって、食糧の増産どころか輸出
さえ可能になる、「攻める農業」を唱えています。

しかし、大規模化と機械化で日本の農業がかかえる種々の問題と食糧問題が解決すると考えるとしたら、
それはあまりにも現実を知らなすぎると思います。

佐賀県の農民作家である山下惣一さんが、かつて共同通信の取材に語った話は示唆的です。

山下さんの知人で大規模なハウスミカンの経営者は、重油の値下がりで約400万円以上も燃料代が浮
いた。だが、重油が高騰したときには400万円ほど損をして苦しんだ。「重油の相場でもうかったり
損したり、これって農業と言えるのか」。

規模農業は燃料や肥料、除草剤や殺虫剤などの農薬を大量に使います。環境や食の安全面で問題が残
るうえ、資材価格の上昇や生産物の相場下落の影響を受けます。

さらに、大型耕運機やコンバインなどの機械には購入費だけでなく、メインテナンスにも大きな支出が
必要となります。投資額が大きくなると、経営路線を変更するのも引き返すのも難しくなります。大規
模農業は持続可能ではない、というのが山下さんの認識です(注1)。

農業の大型化による資本主義的経営には、幾つもの落とし穴があります。まず、農業は自然相手の産業
なので、いくら資本をかけても、降雨が少なかったり、雨続きや日照不足で作物が腐ったり病気になっ
たりする。あるいは、昨年の日本のように、異常高温で作物が枯れてしまうこともあるし、台風で作物
が収穫直前でだめになってしまうこともあります。

たとえば収量が10%減っただけでも、投資額が大きければそれだけ損失額は大きくなってしまいます。
大規模農業で成功した例が紹介されることがありますが、それは本当に例外的な事例で、しかも、せい
ぜい数年という短期間の実績で、長期にわたって日本農業全体に適用できるわけではありません。

もう一つ、農業に大規模化には大きな問題があります。政府が推進するまでもなく、現在まですでに、
平地の広い土地がある場所ではすでに大規模化が進んでいます。

問題は中山間地と呼ばれる、平地と山地との中間にある土地でです。ここでは、傾斜があるので小さな
耕地を集めて一枚の大きな田畑にまとめて機械化することが難しいのです。

農水省の統計では、日本の中山間地の耕地が全耕地に占める割合、農業生産、農家戸数とも、大まかに
いって4割です(注2)。しかし、農水省の定義では平地の田畑になっている場合でも、実態は緩い傾
斜となっていて実態として機械が入りにくい土地はかなりあると思われます。

実際、私自身も数年前まで稲を作っていた千葉県のある地域は、一面がごくゆるい傾斜をもつ谷地水田
で、恐らく平地水田に含まれるでしょうが、周囲からの水が溜まってしまうので耕運機もコンバインも
入りませんでした。このため土地の所有者は耕作を放棄していました。私たちは結局、田植えから収穫
まで全て手作業でした。

本来の傾斜をもつ中山間地では、耕地が段々畑のように小さな地片に分かれていて、とても大型の農業
機械が使えない耕地がたくさんあります。

しかも、こうした耕作が大変な中山間地では跡継ぎ問題も深刻で、耕作放棄地が広がっています。
平地であれ傾斜地であれ、日本の農家の9割が小農である、という実態を考えれば、何をおいても、こ
うした農業を支える方法を考える必要があります。

実は、大規模農業の先進国と思われているアメリカで、1980年にドイツから導入された「CSA」
(地域のコミュニティに支えられた農業)が急速にひろまっています。

これは、消費者が、農薬と化学肥料を大量に使用し巨額の資本投下を要する大規模農業では安全で健康
的な食べ物は生産できないとの観点からし、小規模農家をサポートする方式で、以来現在まで、急速に
ひろまっています。

具体的には、消費者グループが、小規模農家(通常は有機農業を行う)と契約し、半年あるいは1年分
の代金を前払いし、豊作でも不作でもその生産物を引き取る方式です。

これにより、消費者は健康で安全な食物を手に入れ、生産者は予め購入先が決まっているので安心して
優良な野菜の生産を行うことができます。

この方式のもう一つ大事なことは、農地を農薬の汚染から守ることができるのです。

日本の農業を維持し、優良な食べ物を確保するうえで大切なことは、農業の近代化・大規模ではなく、
農家の99%を占める家族農業を支えることです。

そのためには、いきなりアメリカのような前払い方式がいいのか、消費者と生産者との、もう少し緩
やかな提携の方式が良いのかは、これからの課題です。

個人的なことですが、私自身は現在、完全無農薬で栽培している家族農業の農家の野菜を、希望者に
宅配で届けるシステを立ち上げ、購入希望者と農家の間に入って事務的な作業をお手伝いしています。

全く宣伝はしていませんが、口コミで購入者が着実に増えています。購入者のほとんどは、小さいお
子さんを持っている母親です。母親はこどものために化学物質を含まない野菜を求めています。ある
お母さんによれば、子どもたちは、何も言わなくても無農薬野菜のおいしさを本能的に味わい分けて
いる、と言っています。

輸入食品が悪いというわけではありませんが、やはり、安心・安全な食べ物を手に入れるためには、
そして持続可能は農業を実現するためには、消費者もある程度の負担を引き受けて、家族農業を行っ
ている農家と支え合うことが大切だと思います。

その具体的な方法については、日本には日本の慣行に合ったシステムを考えてゆく必要があります。
この意味で国連が「家族農業の10年」を今年から推進しようとしているのは、とても意味のあるこ
とです。

(注1)『福井新聞 ONLINE』(2019年1月13日 午前7時30分)https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/776293
(注2)農水省、中山間地統計 http://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/s_about/cyusan/
(注3)CSAは、1965年に生活クラブが始めた産直提携に起源があるようです。その後、スイス、ドイツに広まり、そこから
    アメリカにも受け入れられてゆきました。アメリカにおけるCSAについては、『アメリカン・ビュー』
    https://amview.japan.usembassy.gov/new-directions-in-agriculture/
    これら以外にも、CSA という項目で検索すると、多数のサイトが見つかります。書物としては、たとえば『CSA地域支
    援型農業の可能性 : アメリカ版地産地消の成果』(エリザベス・ヘンダーソン,    ロビン・ヴァン・エン著 ; 山本き
    よ子訳、家の光協会, 2008.2)があります。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2019年は予測不可能な年―世界は再び不確実性の時代に―

2019-01-13 07:49:52 | 国際問題
2019年は予測不可能な年―世界は再び不確実性の時代に―

今年の日本が政治・経済・社会のさまざまな局面で難問を抱えているように、今年の世界も、
不安を伴う「不確実性の時代」に突入しています。

私は国際問題の専門家ではありませんが、専門家といえども、これからの世界がどうなるのか
をはっきりと展望することはできません。

その不確実性の中でも、特別大きな震源地は「アメリカ・ファースト」(「アメリカさえ良け
れば」主義)を叫ぶトランプ大統領と、彼が仕掛ける米中貿易摩擦と安全保障問題です。

トランプ氏は、アメリカの貿易赤字の最大の相手国である中国からの輸入品に高率関税を課し
ています。これに対して中国も米国製品の輸入に報復関税をかけており、米中貿易摩擦が一挙
高まりまっています。

さらにトランプ氏は、中国が輸出を自制しなければ、また知的財産権の侵害を止めないならば、
米国への全ての輸出品に高率関税を課す、と脅していました。その後、彼は、2か月間だけ猶
予すると修正しました。

これは、大きく脅しておいて少しだけ妥協のそぶりを見せて、最終的に相手の譲歩を引き出し
て自分の利益を勝ち取るトランプ流の“ディール”(取引)です。

米中貿易摩擦は、世界のGDPと1位と2位の経済大国ですから、本格的な貿易戦争となれば、
世界経済は大打撃を受けます。

中国は何と言っても、13億人の人口を擁していて途方もない巨大市場です。たとえアメリカ
との貿易が減少しても、ヨーロッパ諸国は喜んで中国市場に進出するでしょう。

実際、最近の世界経済をけん引してきたのは、中国という巨大マーケットと安価な製品の供給
だったのです。

すでに、アップル社の製品(パソコンや携帯電話のiPhone)は中国で不買運動にあい、アップ
ル社の利益予想が大幅に下方修正されたため、株価も下落しました。

今日では、アメリカ製品といえども、現実は中国を含む、さまざまな国の部品の集合体(サプ
ライ・チェーン)であり、中国からの供給がなくなればアメリカの製品も製造できなくなりま
す。同様に、米国製品は、中国市場を抜きにしては存続できません。

現在、米中の事務官レベルで交渉中ですが、どのような結果に落ち着くのか誰にも分かりませ
ん。いずれにしても、米中間の貿易戦争は世界の貿易を縮小させることは確実なので、貿易立
国の日本にとっても大打撃です。

米中貿易摩擦の背景には、安全保障と世界の覇権をめぐる対立もあります。

アメリカは中国のIT(コンピュータ)技術や軍事技術はまだまだアメリカには遠く及ばない、
と思い込んできましたが、現実はそのような楽観論を許さない事態が進行しています。

たとえば、携帯電話の次世代通信規格(G5)の分野でアメリカはすでに中国のファーウェイ
などのIT企業に抜かれていますし、ヨーロッパを始め広い地域でファーウェイの基地局の建
設が進んでいます。

このままでは、ファーウエィの規格が世界標準になりかねない、それは絶対に許せない、とい
うのがアメリカの本音でしょう。

トランプ氏が、ファーウェイの副社長をカナダで逮捕させたり、ファーウェイの製品を買わな
いように、そして中国への技術輸出をしないよう圧力をかけているのは、それに気付いた焦り
の現れでしょう。

つい最近、中国政府は、中国は月の裏側にあたる地点に人工衛星を着陸させたことを写真付き
で発表しました。月に人工衛星を着陸させるには、直前まで地上からの指令で人工衛生をコン
トロールする必要がありますが、衛星が月の裏側に入ってしまうと、電波は届きません。

したがって、中国のこの成功は(もし本当なら、と言う条件付きですが)、衛星が電波の届か
ない裏側に入った瞬間から、衛星自ら判断して着地させる技術をすでに開発していることを意
味します。これも、アメリカにとって脅威です。

こうしたIT技術の発展ぶりをみて、アメリカは中国の軍事技術も当然発展しているものと考
え、安全保障の面で軍事的な脅威を感じています。

加えて、中国の南シナ海での軍事基地建設にたいしてアメリカは、西太平洋における覇権を確
保し、中国の進出を抑えたいと考えています。

現在の米中対立は、「新冷戦」とよばれるほど、経済と軍事がセットになった覇権争いの様相
を呈してきていてとても危険です。

トランプ大統領は意見の合わない政権トップの人事を次々に解任し、現在、彼を取り巻く政府
の要人は、ボルトン氏を始め、いわゆる「ネオコン」と呼ばれる対中国・ロシア・イランに対
する軍事的強行派ばかりです。

とりわけジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、2003年に根拠のないま
まイラク攻撃を主導した張本人です。

米中対立とは別に、トランプ氏はロシアとの中距離核全廃条約(INF)からアメリカが離脱
することを宣言しました。

INFとは、射程範囲5000~5500キロの核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の
短距離および中距離ミサイルの廃棄を定めたものです(注1)。

アメリカは、実際に使える小型核兵器の開発を進める方針であり、それを運ぶ近距離・中距離
ミサイルの開発も必要だと考えているようです。

INF破棄によりロシアは、中距離核ミサイルの開発を堂々と進めることができるようになり
ます。これは、米ソ間の冷戦時代の構造を再現させることを意味します。

そして、ヨーロッパ全域はロシアの核ミサイルの射程内に入ることになるので、ヨーロッパ諸
国はINF破棄により大きな核の脅威にさらされることなります。

こうして、現在では、アメリカ対中国、アメリカ対ロシアという三大核大国がにらみ合う構図
となっています。この対立も、どのように展開するのか、全く不確実です。

核の問題では、トランプ氏は昨年5月に、いわゆる「イラン核合意」から離脱する、と一方的
に宣言しました。

2002年にイランの核開発が発覚したことを受け、イランは国連や米国、欧州連合(EU)な
どの経済制裁を受けてきました。しかしこれは、2013年から2年間かけて15年にようや
くこれらの国の間で合意にこぎ着けた歴史的な核合意です。この合意をアメリカで主導したの
はオバマ前大統領でした。

実際、「合意」後10年間はイランの核開発が制約され、国際原子力機関(IAEA)の厳しい査
察を受け、11度にわたって核合意の履行が確認されてきました。つまり、十分に機能している
合意であると大多数の国が信じる核合意です。

しかしトランプ氏は、ヨーロッパ諸国の強い反対にもかかわらず、この合意から離脱し、「最
高水準の経済制裁」をかけることを宣言しました。これには、オバマ政権時代の成果をことご
とく潰したいトランプ氏の個人的怨念も強く働いています。

ボルトン氏は、イランと取引関係のある企業は6カ月以内に取引を停止しなければ、米国の制
裁を受けることになると述べています。

これを受けて、これまで核合意に向けて努力してきた国連・イギリス・フランス・ドイツ・ロ
シアは深く失望」しているとの談話を発表しています。

また、合意当時のオバマ元大統領は「核合意は現在も機能しており、米国の国益にかなってい
る」と自身のフェイスブックに投稿しました。

EUのフェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は、EUはこの合意を「断固として
維持する」と語りました(注2)。

現代の世界において、政治・軍事面でもトランプ氏はアメリカの国際機関や多国間協定からの
離脱を進めてきました。

アメリカは、2017年に、世界遺産の認定などを扱うユネスコから離脱し、続いて世界環境
保護を目指す「パリ協定」からも離脱し、今回のINF、「イラン核合意」からも離脱とたて
続けに離脱しています。

経済面ではオバマ元大統領が推進したTPPを、トランプ氏は就任直議に離脱しました。

トランプ氏は、自分の気に入らない国際協定から次々と離脱して「アメリカ・ファースト」に
邁進しています。さながら「ドラえもん」中のジャイアンのようです。

最後に、国際経済と国際関係に大きな影響を与える可能性がある問題として、イギリスのEU
離脱に触れておきます。

イギリスは、メイ首相が提案したEU離脱に関して、2016年6月23日の国民投票を行い、離
脱賛成51.89%、反対派(残留)は48.11%でEU離脱を決めました。

当時、離脱賛成票を投じた人の中には、まさか通ると思わなかったから、という声がかなり聞
かれました。

合意によれば、今年の3月末をもってイギリスは正式にEUを離脱することになっています。

その期限を直前に控えて、イギリス議会では、離脱にともなうEUとの協定内容に関して反対
派の方が多く、議会で可決されることは事実上困難な状況です。むしろ、現在では国民投票の
際実施を望む声が高まりつつあります(注3)。

しかし、EUとしても、今さらイギリスの再復帰を認めることはできないでしょうから、この
まま行くと、イギリスはEUから離脱するが、その具体的な協定内容は未定、という混沌とし
た状況になります。

たとえば、これまで金融中心地として栄えたロンドンのシティーから、外国の企業が撤退する
ことが考えられるし、他の外国企業も本社をイギリスからEUへ移すことが考えられます。
こうした状況をうけてシティーの行政責任者は昨年、北京と上海を訪問して、EU離脱をにら
んで、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の資金調達市場として「西のハブ(主要拠点)」に
なる、宣言しています(『東京新聞』2019年1月7日)。

以上、外観したように、今年は世界の政治・軍事、経済、社会において大きな転換点になるこ
とは間違いありませんが、問題は、それぞれの問題の決着がどうなるのか、不確実性に満ちて
いることです。

(注1)『BBC NEWS Japan』デジタル版 2018年10月21日
https://www.bbc.com/japanese/45931910  
(注2)『BBC NEWSJapan』デジタル版 2018年05月9日
    https://www.bbc.com/japanese/44049644 
(注3)『朝日新聞』デジタル版(2019年1月9日05時00分)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13841178.html?rm=150


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2019年は苦難と波乱の年―日本の課題と選択―

2019-01-06 07:35:22 | 社会
2019年は苦難と波乱の年―日本の課題と選択―

明けましておめでとうございます。

今年、最初の記事に何を書くかを考えた末、まずは、これまでの日本を振り返り、その文脈で今年は日本
にとってどんな年になるのかを、私の視点で展望してみたいと思います。

今年は平成が終わり、次の元号に変わる節目の年に当ります。もちろん、元号の更新(天皇の交替)によ
って日本社会の時代区分をすることには、それほど意味がないかもしれません。

むしろ政治や経済による時代区分の方が現実的でしょう。しかし、後で触れるように、多くの日本人にと
って、自分が生きてきた時代、これから生きてゆく時代をおおざっぱに元号で区切ることに、全く意味が
ないわけではありません。

例えば「昭和」という時代は最初の20年間、日本は中国・朝鮮・米英との戦争に明け暮れました。

戦後は廃墟の中から“奇跡”と言われるほどの経済復興に邁進してきました。

これ以後、昭和の終わりまで日本は、戦争に巻き込まれることもなく平和の中で、「ジャパン・アズ・ナ
ンバーワン」と言われるほどの繁栄を満喫してきました。

恐らくこの時期は、近代以降の日本人にとって、もっとも自信に満ち、幸せな時代だったと思います。

続く平成の世は、日本社会に激震が走った時代でした。まず、平成3年(1991年)には、バブルが崩
壊し銀行を始め多くの企業が倒産しました。

平成7年(1995年)には阪神淡路大地震が発生し、日本人は改めて自然の猛威に驚愕し、脅えました。

平成半ば過ぎには何とかバブルを克服し再び安定を確保することができましたが、平成23年(2011)
3月、東日本大震災が発生し、津波と福島の原子力発電所の爆発事故により、太平洋側の岩手・宮城・福
島県諸地域は、未曾有の被害を受けました。

その後も、平成24年には九州北部豪雨、28年には熊本地震、30年には西日本豪雨水害、北海道胆振
東地震、と日本列島は次々に自然災害に見舞われました。

ここで注目すべきは、災害の度に天皇ご夫妻が被災地を訪れ、被災者と膝を交えてお見舞いをする映像が
テレビで頻繁に流され、象徴としての天皇の存在が多くの国民の心に強く印象付けられたことです。

災害の見舞いだけでなく、現天皇は、自分の在任中は一度も戦争に巻き込まれることなく平安のうちに過
ぎたことに感謝するとともに、平和の尊さを折りに触れて強調してきました。

2012年に第二次安倍内閣が発足に導入された「アベノミクス」により市中に大量の貨幣を流す「異次
元の」金融緩和と、公共事業を始め財政出動を積極的に進めました。

これは一時的な株価の上昇をもたらしましたが、最も重要な「成長戦略」は何一つ進展しませんでした。

一方、安倍政権は、武器輸出の解禁、特定秘密保護法、安保法制(集団的自衛権の行使を認める)、共謀
罪の整理など、次々と国家主義と軍事化への色彩を強めてきました。

外交面では、安倍首相は頻繁に外国訪問をしましたが、残念ながら、見るべき成果はありませんでした。

そして、年も押し詰まった12月30日に、「TPP11」が発効し、日本はいよいよ関税を撤廃ないし
大幅に下げる方向に踏み出しました。

内政では、安倍政権は「種子法の廃止」や「改正水道法」」を可決させ、「命のインフラ」である食べ物
と水の管理運営を多国籍企業などの参入を認める民営化への道を開きました。

社会的には、安倍政権下で生じた「森友学園」「加計学園」疑惑と、それに関連して官僚による文書の改
ざんなどは、政治と行政にたいする国民の不信感を高めました。

平成の世を総括すると、市場の論理、民営化、企業合理性が社会のあらゆる側面に支配的になった時代、
日本がますますアメリカと一体となって軍事化に突き進んだ時代といえます。

以上の経緯を念頭に置いて2019年はどんな1年になるのかを展望してみましょう。

今年の日本を簡単にいえば、難題と困難にみちた選択の年だと思います。それは、政治・経済・社会・文
化のあらゆる分野に起こるでしょう。

まず、今年の五月1日に平成の天皇が退位し、新しい天皇が即位し平成から新しい元号に変わります。こ
れは、単にカレンダー上の変化だけではありません。

私たち日本人は、意識的であれ無意識的であれ、改めて「日本とは何か」「そこに住む自分は何者なのか」
という文化的なアイデンティティの問題に突き当たります。

5月には新天皇が即位します。新天皇がどのような姿勢で「象徴天皇」としての役割を果たしてゆくのか
分かりませんが、現在の明人天皇と同様、平和へのメッセージを語り継いでいって欲しいと思います。

今年は政治の面で、重要な案件が目白押しです。春の統一地方選挙、夏の参議院選挙(衆参同時選挙もあ
り得る)が行われます。この結果次第では、日本の政治地図が大きく変わる可能性があります。

もし、与党が参議院で三分の二を割るようなことがあれば、安倍首相の悲願である憲法改正が頓挫するこ
とになり、一挙に求心力を失います。

逆に与党が三分の二を維持ないし現状を上回れば、改憲に加速がつきます。この意味で、今回の参院戦は、
日本の将来を左右する非常に重要な選択となります。

外交面では、安倍首相は、安倍外交の総決算の年、と言っていますが、いずれも簡単ではありません。

日韓関係では、徴用工にたいする賠償問題、慰安婦像の撤去問題など、いわゆる「歴史認識」に関わる問
題、最近の韓国戦による日本の自衛隊機に対するレーダー照射の問題など、友好関係よりも対立局が強く
なっています。これらを解決してゆくのか安倍外交の手腕が問われますが、そう簡単ではなさそうです。

北朝鮮との関係では、安倍首相は自分の手で拉致された日本人を取り返す、と言っていますが、これまで
も全く動いませんし、近い将来解決する可能性は限りなく小さいと言わざるを得ません。なにしろ、拉致
問題に関して日本はアメリカと韓国に頼んで解決しようとしてきたのですから。日本の脅威である核とミ
サイル問題では、日本は蚊帳の外です。

日中関係では、今年、習主席との会談が予定されており、米中対立の中で中国は日本との関係改善に積極
的になるであろう、と言う期待を込めた雰囲気はありますが、尖閣の問題や中国船による不法漁業や、最
近では沖ノ島周辺での無断海洋調査など、日中間の問題も未解決のままです。

懸案の日ソ関係では、安倍首相は、自分の政権下で北方領土問題を解決する、と豪語していますが、従来
の北方四島の返還から、歯舞・色丹の二島返還へトーンダウンしました。しかし、ロシアは二島でさえ日
本に主権を渡す気はなさそうです。

なぜなら、日米の秘密協定で、アメリカは日本のどこにでも、何時までも基地を置く権利をもっているか
らです。ロシアは日本に、アメリカから、いずれの島にも基地を置かないことを確約した文書を取ること
を要求していますが、安倍政権にはとてもできないしょう。

日本は、ロシアとアメリカの顔色を見ながら、両方ともうまくやろうとしていますが、実際には又裂き状
態になっていて、三者が満足できる見通しはたっていません。

最後に日米関係ですが、安倍首相は盛んにトランプ大統領に“ゴマを摺って”います。たとえば、先のア
メリカ中間選挙でトランプ大統領が属する共和党は、上院ではこれまでの多数をかろうじて維持したもの
の、下院では民主党に敗れ多数を失いました。それでも、直後のトランプ氏との会見で、安倍首相は“歴
史的勝利、お目でとうございます”、と歯の浮くようなお世辞を言ってのけました。

欧米のメディアはこれにはあきれて、一斉に安倍首相を“おべっか使い”と、半ば笑い者扱いです。

昨年の三月の首脳会談のあとの記者会見でトランプ大統領は 「日本の安倍首相らは『こんなに長い間、
米国をうまくだませたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」、と本心
を明かしています(注1)。

1月から始まる日米貿易交渉に関して安倍首相は、今回は物品だけの貿易交渉と国会で言い張っていたに
も関わらず、トランプ政権は、サービス、金融、情報、知的所有権を含む合計22分野の交渉を行うこと
を公表しています。これが現実です。

ここは安倍外交と強固な日米同盟の真価が問われますが、おそらく、この交渉で、アメリカの圧力に抵抗
できず、安倍政権は相当の譲歩を迫られることになるでしょう。

安倍首相は、アメリカの対日赤字の8割を占める自動車にたいする関税の引き上げを猶予してもらい、そ
の代り、農産物の自由化にたいして大きな譲歩を呑まされるのではないか、と私は危惧しています。そし
て、この二国間交渉の結果次第で、日本経済は非常に深刻な打撃を受ける可能性があります。

ところが、問題はこれに留まりません。安倍政権は昨年12月、旧型の戦闘機F15に代わりに、今後、
F35AとF35の計150機を順次購入することを決めました。

防衛省の幹部は「トランプ氏に手土産を持たせないと何を言ってくるか分からないと政府は常に考えてい
る。・・・それでF35の百機購入となった」と語っています(『東京新聞』2019年1月4日)。

つまり、戦闘機購入は、これから始まる日米交渉で自動車関税の引き上げを猶予しえもらう“手土産”な
のです。貴重な税金が“手土産”に使われてしまうのです。

最悪のシナリオは、農産物は自由化に向かい、自動車関税は上げられ、さらなる武器の購入を呑まされる
ことです。

アメリカからの武器の購入を含め、来年度予算では防衛費が五兆円を超えました。その一方で、介護スタ
ッフの給与は増えず、年金その他の生活保護への予算は減らされてゆきます。

2018年の『経済白書』は、2018年度の経済成長が1%で、第2次安倍政権の発足と同じ12年12月に
始まった現在の景気拡大期間が「戦後最長に迫っている」と指摘しています。

しかし、実質賃金や可処分所得は増えていないので、「戦後最長」にどれほどの意味があるのか疑問です。

一方、今年の秋に消費税の10%への値上げが決まっており、景気はさらに下降局面に入るでしょう。

安倍首相が先頭に立ってセールスに力を入れた原発輸出は、成長戦略の重要な柱でしたが、これまで交渉
してきた案件が全て白紙になり、注ゼロになってしまいました。

現在では、オリンピック・パラリンピックと大阪万博というイベントで景気浮揚を狙う、という50年も
前の古い成功体験モデルの蒸し返ししか、具体的な方策を見出し得ない状況にあるようです。

残念ながら、今年はどの分野をとっても、あまり明るい光が見えない苦難の年になりそうです。


(注1)日本経済新聞 電子版 2018/3/23
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28503690T20C18A3EA2000/


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする