大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

病という厄介者―あなたはどう付き合いますか?―

2019-09-23 14:06:42 | 健康・医療
病という厄介者―あなたはどう付き合いますか?―

2019年『日刊ゲンダイ』1月1日号は、作家の五木寛之氏と、天皇陛下の心臓の手術をした
心臓血管外科医の天野薫氏との、病気に関するなかなか面白い対談記事を掲載しています。

五木氏は、昨年、戦後72年振りに初めて一般の病院(歯医者を除いて)に行って驚いたのだ
そうです。それは、病院の入り口の広いホールに集まっている患者の数の多さでした。

「医学が進歩したら病人は減るはずなのに、なぜこれほど増えているんですかね」という問い
に、天野氏は次のように応えています。
一つは日本人は薬が好きだということでしょうか。・・・・日本の薬はよく効きます。で、
全体が高齢化していることもあって、体の不調に対して薬に頼る人が増えているんです。
まずは自分自身で健康管理からというところから入る人はあまりいませんね。どこか悪く
なったら病院にかかればいいやという文化が作られています。

五木氏は、「朝起きて調子いいから病院に行く」という、とても面白いシルバー川柳を紹介し
ています。つまり、今朝は体調もいいから、病院でも行くか、という一種のブラック・ユーモ
アです。

これにたいして天野氏は、病院に行っていつものメンバーが来ていないと「あいつ具合悪いん
じゃないか」みたいな・・・、と応じています。

この会話は、なかなか真実を突いている面があります。つまりい、いかに多くの人が薬と病院
(医師)に頼っているかを、他人事としてジョークで表現しています。

しかし、いざ、自分の問題になったとき、私たちは病と医者や病院とどのように付き合ってい
ったらいいのでしょうか?

もちろん、体の不調や不具合と一口に言っても、命にかかわる症状なのか、腰痛や風邪や頭痛
のような日常的な問題なのかによって対応は異なります。

難ししのは、命にかかわるのか、あるいは少し様子を見ていればいいのか、なかなか判断でき
ない場合もあるからです。最近の私の体験を書いてみたいと思います。

最近、まったく偶然の機会に、ある体の異変が確認されたので、何年かぶりで近くのクリニッ
クに行きました。何種類かの検査をした結果の数値は確かにひどいもので、さらに精密な検査
を大きな病院で受けるように、と指示され、紹介状を渡されました。

最初のクリニックで複数の検査を受けるまでに何日かかかり、その結果を知るためにほぼ1か
月近く待ちました。

それから、大病院(ある大学病院)の専門医に予約を取ることになるのですが、それが早くて
1か月先です。

そして、いよいよ診察・検査ということになりますが、その検査の結果に基づいての診断を聞
けるのは、さらに1か月後です。

数えてみると、最初のクリニックの診察から、大学病院での検査結果を聞くまでに要した日数
は2か月半です。

そこから、何らかの治療が始まることになります。

これだけの時間を要して、ようやく治療が始まるのですが、その治療の予約は、おそらく1か月
後になることが予想されました。ちなみに、私の知人のケースなど2か月後でした。

冷静に考えてみると、これだけの日数がかかるとなると、もし深刻な病気なら進行して、取り返
しができなくなってしまう事だって、十分考えられます。

問題はそれだけではありませんでした。私の場合、病院が指定した検査は三種類で、そのうちの
一つは体への侵襲が大きく、極めて確率は低いとはいえ、ショック死することもあり得えるもの
でした。

この検査を受ける場合には事前に、これには死んでも文句は言わない、という誓約書にサインす
ることからも、その危険性は分かります。

私は、一旦は承諾してサインしましたが、検査当日の、それも直前に、やはりこの検査は受けま
せん、と拒否しました。今思うと、この時、私の体が本当的に拒絶していたのかも知れません。

その理由の一つは、まずは体への侵襲がない二つの検査を受け、そこで異常が発見され、もし別
の検査がどうしても必要だ、という医師の判断があれば、その時考えようと思ったからです。し
かし、こうした二段階のプロセスは踏んでくれませんでした。

しかも、検査までの1か月の間に、体の状態は急速に良い方向に変化しつつあり、その変化をつ
ぶさにに観察して総合的に判断すると、当初の問題は解決しつつある、と考えられました。

もう一つは、たまたま検査の前日に偶然、知り合いの母親が退院間近にこの検査を受けて亡くな
った、という話を聞いたことも心理的に影響していたのかも知れません。

担当の医師は、私が第三の検査を受けなかったことが非常に不満で、この検査を受けないで万が
一重篤な事態に至っても(実際には、死に至っても、というニュアンスで)いいんですか、と迫
りました。

私は、検査を受けなかったことから生ずるかもしれない事態は「自己責任」として受け入れます、
と言って診察室をでました。

私は、病院での検査と治療を一旦、離れる決断をし、鍼灸に通い、いろいろ調べて、問題を自分
で解決する方法を試しています。幸い、もっとも気にしていた症状は、今は消えています。

私は、病院の検査を受けるかどうかを、勝手に自分で判断することを推奨しているわけではあり
ません。

たとえ、ある程度の危険性や副作用があったとしても、検査によって病状の原因が明らかとなり、
それによって有効な治療が可能となるメリットの方が大きいと思えば、やはり検査を受けるべき
だと考えています。

その判断は、まず一義的には医師がおこないますが、それだけでなく私たちも自分なりの判断力
を持つ必要があります。

それには、自分の体が発している声を聞く、ということが大切です。具体的には、天野氏も言っ
ているように、睡眠、食事、排泄などの状態を常日頃確認しておくことです。

五木氏は、毎日朝起きた時と寝る前に体重を計って帳面につけているそうです。また、彼はエッ
セイ集で、彼は自分の足の指に名前を付けて、1日の終わりに1本1本話しかけながら丹念に洗
うとも書いています。

そのことが、どれほど健康に役立っているかは別として、こうして自分の体と常に向き合い、体
の声を聞く姿勢が大切だと思います。

私は、できるだけ1日5000~8000歩ちょっと速足の散歩をして、その時々の体の状態を
それとなく観察するよう心掛けています。

おおざっぱに言えば、食事がおいしく食べられて、よく眠れて、排泄が順調で、気分よく散歩が
できていれば、まあまあの健康状態だと考えます。

そのような状態の中でも、時には胃腸の調子が悪くなったり、体の一部に痛みを発することはあ
ります。そんな時、慌てて病院に駆け込むことはせず、しばらく「様子をみる」(大体2週間を
目途としています)という姿勢で体の不調を付き合ってきました。

さて、ここまで読んで、皆さんはどんな感想をもったでしょうか?私が抱いた疑問は大きく二つ
です。

まず第一に、病院の予約には、なぜ、こんなに日数がかかるのでしょうか?

理由は簡単です。それはあまりにも患者が多いからです。何年か振りで大病院に行って驚いたの
は、五木氏と同様、なんと患者さんが多いのかということでした。

もちろん、病院側も精一杯対応していると思います。多くの患者が押し寄せる診療科では、一人の
医師が1日に何十人、あるいはそれ以上の患者を診ても追いつかないくらい診察を望む患者が多い
のです。この点は同情します。

第二に、上記の状況には、私たち潜在的な患者の方にも問題がありそうです。とにかく、体の不調
があれば条件反射的に、医者と薬に頼る、という行動パターンが沁みついてはいないだろうか、と
いう点です。

たとえガンのように自分で治療することができないような重篤な病気で、医師による治療を受ける
際にも、ただ医師に任せるのではなく、自分でできることはできる限りやるという覚悟が大切だと
思います。

最後に、健康診断について書いておきたいと思います。多くの医者は、病気に対処するには「早期発
見、早期治療」が最善の方法と言います。確かに、それも一理あります。

しかし、近藤誠氏(近藤誠がん研究所研究所長・元慶応大学医学部講師)は、漫画家の東海林さだお
氏との対談で、がんについて、

健康でご飯を美味しいと思っていて、症状がなく普通に生活できている人は、たとえ人間ドックでが
んが見つかっても、診断されたことを忘れて、二度と検査に近寄らないほうがいいんです(東海林さ
だお『猫だいすき』文春文庫。238-9ぺージ)、と語っています。

これは近藤氏独特の見解で、多くの医師からは反論があるでしょう。それでも、ご飯を美味しいと思
っていて、日常生活が普通に送れていれば、健康診断を敢えてする必要はない、という意見には共感
するところがあります。

現役で勤めていた時は健康診断は義務化されていますが、職場を離れて以後、私は一度も健康診断を
受けていません。

これが正しいかどうかは言えませんが、私たちは自分の健康に関しては、医師の診断や治療方針を重
視しつつ、最終的には自分の命と体のケアは「自己責任」で、という覚悟を持つ必要があるのではな
いでしょうか。

さて、あなたは、どんな風に病と付き合いますか?

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お彼岸には、忘れず花を咲かせる「彼岸花」赤だけでなく黄色や白っぽい花もあります。            季節は確実に秋に向かっています。木の陰でそっと穂を開いたススキ
 



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米中貿易戦争の危険性(2)―「二頭の象」に振り回される世界―

2019-09-13 11:55:35 | 国際問題
米中貿易戦争の危険性(2)―「二頭の象」に振り回される世界―

「二頭の象が争う時、傷つくのは草」というアフリカの諺があります。

ここで、「象」とは巨大な力をもった存在、という意味でで、現代世界で起こっている
「二頭の象」とは、いうまでもなくアメリカと中国です。

では、この二頭の象の戦いは、なぜ勃発し、そしてその勝敗は?

事の始まりは、2016のアメリカ大統領選挙期間に、トランプ候補がアメリカは中国との
間に膨大な貿易不均衡(貿易赤字)を抱えていることの問題を選挙運動で盛んに有権者
に訴えたことでした。

実際、おおざっぱに言って、アメリカの貿易赤字の半分は中国からの輸入で占められて
います。つまり、その分、アメリカは中国に仕事を奪われている、という理屈です。

そしてトランプ氏が選挙で勝利し大統領に就任すると、昨年7月の第一弾から今年9月
の第四弾まで矢継ぎ早に、中国製品の輸入規制のための高率関税を課してきました。

トランプ氏のスローガンは「アメリカ・ファースト」、つまり「自国第一主義」です。

これに対抗して、中国もそのつどアメリカ製品に対する報復関税を課してきました。こ
うして、双方の報復合戦が現在も続いています。

アメリカは、トランプ登場以前は、徹底した市場開放、自由貿易を他国に押し付ける、
「新自由主義」の主導者でした。

そのアメリカが、180度正反対の「自国第一主義」という、なりふり構わない保護
貿易主義を前面に押し出してきているのです。

多くの国が「自国第一主義」を採用すれば、世界経済は縮小し、それを克服するために、
最悪の場合には、何かをきっかけに、1930年代の世界恐慌から第二次世界大戦へ進
んだ、いつか来た道をたどりかねません。

こうした危険性を念頭に置いて、「二頭の象」の実像をみてみましょう。

まず総合的経済力の指標としてGDP(国内総生産)で比較すると、アメリカは世界の
DGP(84兆7400億ドル)の24%、中国は同18.8%で、二国だけで世界の
GDPの40%を占めています。ちなみに日本は6%弱です(以上IMFの推計)。

GDPは、それぞれの国の財とサービスの生産額で、その国の経済規模を図るには重要
な指標であり、間接的には輸出能力をも示しています。

しかし、今問題となっている貿易戦争とは、価格と品質を競う自由な競争状態ではなく、
相手からできる限り輸入を規制して減らそうとする戦いなのです。

そこで重要な数字は、これまで米中はどれほど輸入してきたのかという実績であり、そ
れは同時に、将来的には他の国にどれほど市場を提供できるのかという潜在能力でもあ
ります。

2018年をみると、世界の総輸入額19兆6100億ドルのうち、アメリカは13%(2
兆5400億ドル)、中国は11%弱(2兆1000億ドル)で、両者を合わせて24
%ほど、つまり、世界の総輸入額の四分の一を占めています(WTO-JETRO調べ)。

現在の米中貿易戦争が実際、どれほどの影響を世界経済に与えるかは、来年以降になら
ないとわかりません。というのも、アメリカによる広範で重い輸入規制の第四弾が全面
的に適用されるのは今年の年末だからです。

米中の経済指標(GDP、輸出入額)とは別にもう一つの要素として人口規模を考える
必要があります。

現在、アメリカの人口3億2700万人に対して中国は14億2700万人で、アメリ
カの4.4倍もあります。

これが意味するところは非常に重要です。前回も紹介したように、「中国がくしゃみを
すれば、世界が風邪をひく」という表現にはいくつかの重要な意味があります。

まず、中国はその国内に途方もなく大きな市場を抱えていることです。ということは、
中国は基本的に国内市場だけでも、アメリカ・ヨーロッパ・日本などを合わせたよりも
潜在的には大きな市場(購買力)をもっているのです。

日本をみても分かるように先進国の国内市場はすでに飽和状態にあり、もし経済成長を
目指すのであれば、どうしても中国という巨大な市場を頼りにせざるを得ません。なぜ
なら、今日の世界で、中国ほど大きな市場は他にないからです。

つまり、日本を含めて世界の多くの国はこれまで中国への輸出によって利益を得てきま
した。つまり名実ともに、世界経済を牽引してきたのは中国市場の購買力だったのです。

前回紹介したように、米中貿易戦争によって今年上半期の中国からアメリカへの輸出は
前年同期比で8・1%減少し、4月~六月期のGDPも前年同期比で縮小しています。

アメリカがあらゆる方法で中国の台頭を抑え込もうとすれば、中国経済は確実に停滞な
いしは縮小しますが、それは必然的に、それまで中国への輸出で利益を得てきた国の輸
出を減らすことになります。

トランプ氏は、目先の貿易赤字を減らすことが、次の大統領選挙に有利に働く、との短
期的な思惑だけで現在の貿易戦争を仕掛けているのですが、上に述べたような、長期的
な世界経済への影響などまったく眼中にないようです。

ところで、巨大な市場を国内にもっていることは、長期的には中国経済にとって強力な
武器になります。たとえば、新しい車を開発する場合、一定数以上の販売がないと、開
発費用の回収と次の車の開発費用を捻出できません。私の記憶では、最低でも5万台以
上の販売が必要だったと思います。

もし、国内に14億人以上の市場があれば、こうした条件を簡単にクリアできます。従
って、中国の自動車メーカーは安心して新車種の開発に投資できることを意味します。

自動車は一つの例ですが、同じことはあらゆる分野の生産と技術革新について言えます。

現在の中国は、巨大な国内市場に加えて技術的にも世界のトップ水準に達しています。
とりわけ、次世代通信システム(5G)では、技術的には世界トップの水準に達し、し
かもすでに実用段階に入っています。日米とも、まだ中国が達した水準での5Gの実用
段階にはありません。

しかも、今年の1月には、アメリカもロシアもできなかった、月の裏側へ宇宙衛星を着
陸させ、その総合的な技術力の高さを証明しています。

さて、米中貿易戦争という「二頭の象」の争いによって「傷ついた草」はすでに現れて
います。たとえばドイツの基幹産業で自動車の対中輸出が落ち込み、今年の4月~六月
期のGDP前期比0.1%(年率にして0.4%)の減少です。

もし、七月~九月期もマイナス成長が続けば、ヨーロッパ最大のドイツ経済が景気後退
期に入ることになります。しかも、これからは米中貿易戦争が一層激しくなるので、今
年の年末から来年にかけては、さらに落ち込みは大きくなるでしょう。

ドイツだけでなく、ヨーロッパ全体が、景気の後退期に入り、9月12日には欧州中央
銀行は景気浮揚策として金融緩和を決定しました。これは事実上のユーロの切り下げで
す(注1)。

日本も中国向け輸出が振るわず、輸出は八か月連続して減少しています。日本にとって
さらに深刻な問題は、米中対立が激化するにつれてリスクを回避するため円買い(円高)
も進んでいることです。

こんな状況下で10月から消費税を上がれば内需も落ち込みますから、10月以降の日
本経済は、マイナスに転じる可能性が大です。

さて、それでは、という二頭の象の戦いの勝敗はどうなるのでしょうか?

昨年、米国が制裁関税の第三弾を発令した10月、たとえば経営コンサルタントの小宮
一慶氏は、この戦争で得をするのはアメリカ、損をするのは中国、(言い換えると、ア
メリカが勝ち中国が負ける)との見通しを述べています。その根拠は、中国の貿易黒字
の大半がアメリカへの輸出から得ていること、アメリカのドルは世界の基軸通貨である
ということです(注2)。

しかし、事はそれほど単純ではありません。私は、3つの理由から、トランプ政権の政
策を続けるかぎりアメリカは「負けない」かもしれないけれど「勝てない」と思います。

まず第一に、政権として中国との貿易を制限しても、企業は毎年の利益を確保する必要
があるので、長期の経済戦争には耐えられないのです。今年の8月半ばに、米アップル
社のティム・クックCEOは、トランプ大統領に懸念を伝えました。というのも同社製
品の組み立て工場59カ所のうち52カ所が中国に集中しているからです。

また、中国に進出する米企業で組織する米中ビジネス評議会は制裁関税の第二弾が実施
された直後の8月29日、会員の8割超が米中対立による悪影響を受けている、との調
査結果をまとめました。つまり、企業と政府とは利害が異なるのです。

しかしトランプ大統領は全くこれを無視し「中国国外への移転を即座に探す」よう米企
業に迫っています(『毎日新聞』(2019年9月2日)。

第二に、トランプ大統領の任期と関係しています。『日経新聞』編集委員の藤井明夫彰
夫氏は今年の9月2日の「米中、我慢比べの耐久度 分が悪いのはトランプ氏?」とい
うタイトルの記事で、 この闘いはトランプ氏に不利ではないか、と予測しています。

トランプ氏が中国に貿易戦争を仕掛けたのは、彼の支持基盤がそれほど盤石ではないた
め、来年の大統領選挙で有権者の支持を獲得しようとする動機から出発しています。

これに対して中国は国民の世論を気にすることなく、アメリカの圧力に耐えつつ、じっ
くりと戦略を練る余裕があるのです。中国の習近平首相は今年の4月ころから、対中貿
易戦争を「持久戦」と位置づける姿勢を明確にし始めました。

他方、アメリカのトランプ氏にそれほど余裕があるわけではありません。大統領選のカ
ギを握る米中西部の激戦州の農業関係者からは、中国の米国産農産物への関税への不満
が高まり、貿易協議の早期妥結を求める声は日増しに高まっています(注3)。

第三に、私はこれが最も重要であると考えていますが、先に書いたように、中国はアメ
リカと切り離されても、国内に14億人の市場をもっており、「持久戦」に持ち込めば、
「勝てない」かもしれませんが「負けない」と思います。

私は、トランプ氏は面子を失わない、何らかの形で妥協を模索するのではないかと考え
ます。実際、9月12日、トランプ大統領は中国との貿易を巡り、比較的簡単な議題に
絞った「暫定合意」を検討する考えを示しています(注4)。

こんな情勢の中、日本では消費税の値上げと「アベノミクス」による成長戦略を追求し
てゆくのでしょうか?

(注1)『日経新聞』電子版(2019年9月13日:8:59)   https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49766930T10C19A9000000/?n_cid=BMSR2P001_201909130716
(注2)『日経ビジネス』(ONLINE)2018年10月29日
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/011000037/102500045/?P=1
(注3)『日本経済新聞 電子版』(2019/9/2 11:30)に書かれている日経新聞の編集委員の藤井明夫彰夫氏の見解。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49285720S9A900C1I00000/?n_cid=NMAIL007

(注4)『日本経済新聞』電子版(2019年9月1日 7:16)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49766930T10C19A9000000/?n_cid=BMS R2P001_201909130716

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米中貿易戦争の危険性(1)―1930年代の状況に似る―

2019-09-04 16:35:35 | 国際問題
米中貿易戦争の危険性(1)―1930年代の状況に似る―

本来なら、前回に続いて、日韓問題について続編を書くべきなのですが、ここにきて、世界全体
に深刻な影響を与える二つの問題が発生してしまいました。

一つは、昨年7月から始まった米中貿易戦争が今年9月1日より、のっぴきならない危険ライン
を超えたことで、二つは、ブラジルをはじめアマゾンの熱帯林における大規模火災です。

もちろん、日韓関係は重要な問題ですが、極論すれば二国間の問題です。これに対して米中の貿
易戦争とアマゾンの大火災は、当事国だけでなく日本も含む世界に甚大な影響を与える危険性を
はらんでいます。

これら二つの問題のうちアマゾンの問題は後日考えるとして、今回は、米中の貿易戦争について
考えてみたいと思います。というのも、日本のメディアは、米中の関税を中心とした貿易戦争を
長期的な、そして世界的な影響という観点から扱っていないのですが、私は非常に強い危機感を
もっているからです。

しかし、アメリカの専門家は去年からトランプ大統領が仕掛けた米中貿易戦争をかなり深刻に受
け止めています。

たとえば、アメリカのピーターソン国際経済研究所によると、米国の対中国に限った平均関税率
は貿易戦争が始まるまで約3%にすぎなかったのに、トランプ大統領は昨年から段階的に上げ、今
年の9月1日からは21%超まで高めてしまいました。

この関税率がいかに高水準で異常であるかは、米国が保護主義へ向かった1930年ごろの関税率が
全輸入品平均で約20%だったことを考えると分かります。

いうまでもなく、1930年ころといえば、世界は大恐慌のただ中にあり、各国は自国の産業や
経済を守るために輸入品に対して高率関税を課したり、いくつかの国が同盟を結んで、いわゆる
ブロック経済を形成していた時代です。

その結果、世界経済は極端に縮小し、不況と失業がまん延するようになり、この状況を打開する
ために起こした行動が第二次世界大戦につながったという苦い歴史があります。

ピーターソン国際経済研究所は、こうした過去の反省から米国などは戦後、関税を下げて自由貿
易を進めてきたが、グローバル化の揺り戻しが鮮明になってきた、と分析しています。

ここで「グローバル化の揺り戻し」とは、製造業をはじめとする経済活動が世界全体に拡散し、
圧倒的な生産力でも技術でも金融でも絶対的な優位を誇っていたアメリカの覇権は相対的に低下
し、気が付いてみると大幅な輸入超化となっていたことを意味します。

これは、アメリカ国内にその分、労働の機会が失われていることをも意味します。そこで、最大
の輸入国である中国をターゲットに、「アメリカファースト」を唱えるトランプ大統領は、中国
からの輸入を減らすべく20%を超す高関税を適用したのです。

世界貿易機関(WTO)によると、関税率(単純平均)が20%を超すのは中米バハマ(32%)と
アフリカのスーダン(21%)のみで、保護主義で自国産業を守る途上国ばかりです(注1)。

現在の米中間の関税の平均が20%超という水準がいかに異常な高水準であるかが分かります。

20%超の制裁関税が駅用されるまでのステップをみてみましょう。

まず、第一弾として、昨年の6月、トランプ大統領は、アメリカの貿易赤字を減らすために、また
知的財産権の侵害に対する対抗・報復措置として最大の輸入相手国である中国からの輸入品のうち
340億ドル分に25%の追加関税を課しました。そして、中国も同様の報復関税を適用しました。

第二弾。同8月23日に米中それぞれが160億ドル分の輸入品に25%の追加関税を課しました。

第三弾は、アメリカは2000億ドル分の輸入品に対して10%の追加関税を発動し、中国は60
0億ドル分に最大10%の追加関税を課しました。

こうした追加関税の応酬は米中双方の経済にマイナスの影響を与え始めたため、首脳会談で一時休
戦となりました。

年が明けて1月1日、中国は一方的にアメリカに課していた追加関税を一時、凍結しましたが、5
月10日、アメリカは既に第三弾で適用した10%の関税を25%に引き上げました。

このころ、アメリカの対中貿易戦争に、たんなる貿易戦争から、中国のIT技術に対する攻撃とい
う要素が加わります。5月15日には米企業と中国の巨大IT企業のファーウェイとの取引を事実
上禁止しました。

その理由は、ファーウェイは中国政府と一体となって、その製品を使うと情報が洩れて安全保障に
問題が発生するからだ、というものでした。アメリカ企業は言うまでもなく、日本を含めて、多く
の国の企業や公的機関がアメリカの要請にしたがって、ファーウェイの製品を買い控えています。
もちろん、ファーウェイは、中国政府との関係を否定しています。

この背景には、アメリカが誇るIT分野で、次世代の通信システム(5G)で、実は、ファーウェ
イをはじめとする中国企業が猛追し、5Gの基地局に関していえば既に先行されており、アメリカ
はファーウェイの基地局設備が世界標準になってしまうことを恐れているのだと私は推測していま
す(注2)。

トランプ大統領はITをはじめとする技術分野でも絶対的な優位を失いつつあることに脅威を感じ
ていることは確かです。この問題が、米中貿易戦争に新たな要素としえ加わりました。

アメリカによる第三弾の関税引き上げに対抗して中国は6月1日には第三弾の税率を25%に引き
上げました。

続いて第四弾として9月1日アメリカは年間輸入額約1100億ドル(12兆円)規模の3243
品目を対象して15%の追加関税を適用し、残りを12月15日に発動する予定としています。

第四弾では、これまで追加関税の対象になっていなかった3000億ドル規模の中国製品の大半が
対象となる予定です。

第一~第三弾の対象は半導体など企業向けの中国製品が中心でしたが、第四弾は生活に直結する家
電や日用品が含まれており、それだけ一般国民への影響が大きいと言えます。第四弾の中身を具体
的にみてみましょう。

薄型テレビ、乳製品、12月にはスマートフォン、ノートパソコン、ゲーム機、おもちゃに、家具、
家電製品、ハンドバック、農水産物、工業用機械、鉄道関連製品、化学製品、自動車、航空・宇宙
関連、産業用ロボット、情報通信機器があらたに追加関税の対象とされました。

このため、全体としては中国からの輸入全体7割が制裁対象になり、消費者向け製品の99%が追
加関税の対象になります。健康や安全保障にかかわる製品などを除き、最終的にほぼ全ての中国製
品が制裁対象の追加関税が課せられます(『毎日新聞』2019年9月2日;『東京新聞』2019年9月
2日)

これに対して中国は、第四弾の報復関税として、アメリカからの輸入品のうち9月1日より牛肉、
大豆、魚介類、原油と対象として実施し、12月15日よりトウモロコシ、自動車、木製品、ウイ
スキーなど555品目に対して年間750億ドル規模の追加関税を課すことを決定しました。

こうした貿易戦争に勝者はない、というのが歴史から学んだ知恵ですが、現在は出口が見えません。

さて、世界の第一位と第二位の経済力をもつ米中がお互いに高い関税障壁をもうけて相手を排除し
ようとする、いわば消耗戦は、どんな結果をもたらすのでしょうか?

14億人の巨大市場を抱える「中国がくしゃみをすれば、世界が風邪をひく」(米メディアの表現)
とされ、世界経済は確実に縮小こそすれ拡大することはありません。

トランプ大統領は、明確な将来展望のもとに、出口戦略を立てたうえで今回の貿易戦争を仕掛けた
というより、来年の大統領選で勝つために有権者の支持を得るために、その場その場の思い付きの
政策を導入しているだけです。

報復合戦の結果として、中国は上半期の対米輸出が前年同期比8・1%の減少で、米国の最大の貿
易相手国の地位から三位に転落しました。

中国の生産も低迷し、4~6月期の国内総生産(GDP)は前年同期比6・2%増と27年ぶりの
低さだった。

それでは、アメリカはどうだったのでしょうか。

米国の4~6月期の輸出は中国向けが2割減ったことに加え、中国以外向けも1.9%減と17年以降の四
半期ベースで初めて前年割れした。米国の製造業における雇用者数の伸びも今年1月を境に鈍化し始
めています。

トランプ政権の中国への高関税は米国経済にも巡り巡って悪影響を及ぼします。じつは、中国の対米
輸出の金額には中国へ進出している米企業が製造したモノも含まれているのです。

中国統計によると17年の貿易黒字の57%は米系など外資企業が稼いでいたのです。トランプ政権に
よる中国への高関税は中国で生産して米国へ輸出する米国企業にもかかってくるのです。

このような高関税のブーメラン効果はさまざまな分野でアメリカ経済に打撃を与ええいます。それは
中国からの対米輸出が減れば、部材や知財を提供する米国からの輸出も当然落ち込むからです。

実際、米国の4~6月期の輸出は中国向けが2割減ったことに加え、中国以外向けも1.9%減と、17
年以降の四半期ベースで初めて前年割れしました。米国の製造業における雇用者数の伸びも今年1月
を境に鈍化し始めています(注3)。

今はまだ本格的な貿易戦争が始まったばかりですが、すでにこれだけの影響がでているのです。

現在の米中貿易戦争の本当の悪影響が出てくるのはこれからで、世界経済はまずます縮小に向かい、
不況と失業が世界中に広まってゆくことが危惧されます。

1930年代と現代とは諸条件が異なりますが、経済戦争が、軍事的戦争には至らなくても、思わぬ
形で暴発しないとも限りません。

次回は、先の読めないトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」による高関税政策の実態と、世界
経済への影響を、もう少し広い観点から見てみたいと思います。

(注1)『日経新聞 電子版』(2019/9/1 2:00 (2019/9/1 13:07更新)
      https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49270310R30C19A8MM8000/?   n_cid=BMSR2P001_201909010200

(注2)『ビジネス+IT』(2019年5月24)https://www.sbbit.jp/article/cont1/36396
     HUAWEI(2018.11.26)
     https://www.huawei.com/jp/press-events/news/jp/2018/hwjp20181126i
     HUAWEI (2019.1.24)
    https://www.huawei.com/jp/press-events/news/jp/2019/hwjp20190124t
    『日経TECH』(2019年2月26日)
    https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/event/18/00047/022600018/

『日本経済新聞 デジタル』(2019年5月22日 0:10) 
     https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45101240S9A520C1EAF000/?n_cid=NMAIL007
(注3)『日本経済新聞 電子版』(2019年9月1日2:00)
    https://r.nikkei.com/article/DGXMZO4919706030082019EA2000?unlock=1&s=0


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例年ならすでに咲き終えているサルスベリの花が、今年はま咲いています。7月終わりまでの低温気象のためでしょうか



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