前参議院議員大久保勉 公式ウェブサイト

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「分厚い中間層とその雇用」を守ることの困難さ

2012年01月31日 | Weblog
 最近読んだ新聞記事でこの一週間頭から離れない記事があります。民主党政権では、新成長戦略を重点政策に位置づけ、日本の競争力の強化と景気回復、雇用増加を目指しています。野田首相は、分厚い中間層を作ることを目標に掲げているが、どのようにしてそのことを実現するか、政府与党内で真剣でかつ激しい議論を行っています。
 先週のニューヨーク・タイムズ紙(日本の場合は、International Herrald Tribune)の記事は、大変印象深く、ここまでグローバル化が進んでいるのかと驚かされる内容でした。同僚議員や経産省の役人などに読むように勧めています。その記事は、How the U.S. Lost Out on iPhone Workという題名の大作で、早くもピュリツァー賞候補という観測もでています。記事は、オバマ大統領が、スティーブ・ジョブス・前アップルCEOに対して、「どうしたらiPhoneをアメリカで作ることができるのか?」と質問したところ、「iPhoneを作る仕事が、アメリカに戻ることはない。」と答える所から始まります。要旨は以下の通りです。
 
  ・アップルは世界中から低廉で高品質な部品を調達して、その製造をフォックスコム社という台湾の電子機器受託生産会社に委託している。
  ・フォックスコン社では、中国に通称フォックスコン市とも呼ばれる社員寮完備の最新鋭の工場を運営し、アップルの製品だけでも23万人の中国人男女若者を雇用している。一日2交替制で12時間労働、週6日働き、日給は17ドルということ。(ああ野麦峠の現代中国版ながら、その規模は数十倍。)
  ・それらの労働者を支援する技術者だけでも8000人以上いること。米国でこれだけの量の技術者をすぐに確保することは困難である。また必要があれば一晩で3000人の新規労働者を確保することができる。人件費が安いだけではなく、雇用の柔軟性、勤勉で優秀な人材が確保できる。
  ・製品の設計の変更に対して早急に対応でき、また多くの優秀な部品会社などサプライチーンが中国に集積しつつある。
  ・フォックスコン社は、全世界に約100万人の従業員がおり、世界の消費者向け電子機器の約40%を生産している。主な顧客は、アップル以外にデル、HP、ソニー、任天堂、ノキア、サムスン等。
  
 この記事を読んで、もはや安かろう悪かろうという製品ではなく、安くて高品質・最新鋭製品も中国で製造されている点、また技術者、研究開発の分野で中国等に移転しつつある点など、予想以上にグローバル化が進んでいることに今更ながら驚きました。この記事は、日米欧の先進国の苦悩とBRICs等の新興国の追い上げの実態がアップル社の経営を通して描かれている秀作です。残念ながらこの記事を読んだ後、分厚い中間層を作るという野田総理の主張も若干楽観的であり、我等政治家はもっと経済の最先端で起こっていることを直視すべしという感想を持ちました。一方で、だから医療・介護、観光、環境などの新しい分野でイノベーションを起こすことが重要である野田総理の主張は、その点では納得できます。しかしその分野が、すぐに電機機器や自動車に変わって外貨を稼ぎ、かつ数十万人単位の新しい雇用を創出できるかは大いに疑問です。
 最後に、ニューヨーク・タイムズ紙は続編で、フォックスコン社の労働環境が劣悪で、自殺者がでたりや死亡事故が起きていることを報道しております。米国と中国の労働法制や労働条件に対する価値基準の違いがあります。それを意図するか、意図ぜすかは別にして、台湾の会社に中国本土で委託生産させる手法で上手く利用して、アップル製品の消費者とアップル社が多大な恩恵を受けていることが記述されていました。同じ構造が他のフォックスコン社の受託製造する製品とその委託企業にも当てはまります。一方でグローバル経済の競争化においては、そのことを利用することが勝ち残る秘訣にもなっております。特に円高で苦しむ日本企業においては円高対策として中国生産されたOEM製品の日本国内での販売に活路を求めようという動きは注目に値します。何れにしても、これらの問題をどのように整理して、更にはどのようにして成長戦略を実現するかは、オバマ大統領のみならず、我々日本人にとっても重要な課題であります。