鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

帰雁図鐔 浜野政芳

2010-03-06 | 
帰雁図鐔 浜野政芳

 
帰雁図鐔 銘 乙柳軒五代味墨

 奈良派の本流とも言い得るほどに江戸に栄えた浜野家、その五代政芳(まさよし:江戸時代後期)の、秋草の茂る水辺に降り立つ雌雄の雁を題に得た鐔。室町時代の水墨画を基礎におき、秋草の美しさとの調和を試みている作品。古典的な絵画表現を得意とする奈良派らしい構成で、写実味ある高彫表現と多彩な色絵の使用も奈良派らしい。鉄地に高彫、鋤下彫、毛彫、象嵌の技法による。
 もちろん秋草は添景。主題は雁だが、秋草は表裏へと空間を連続させるための素材ともされている。以前に紹介した利壽の作になる雉子に狐図縁頭も同様に、秋草が縁と頭を連続させる要素とされている。花鳥図のように、秋草が主題の一部である場合も多いが、このように添景とされて活きる例も多い。本作は同趣の中でも美しく構成された作品である。味墨は浜野家代々が用いた号。