鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

唐草唐花文図鐔 応仁 Ounin Tsuba

2020-12-28 | 鍔の歴史
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唐草唐花文図鐔 応仁


唐草唐花文図鐔 応仁

 ちょっと面白い鐔が入った。平安城象嵌様式の古い手で、応仁と極められている。地鉄がなんとも古調であり、真鍮象嵌の欠落が少なく、かなり綺麗に残されている。象嵌の脱落部分を観察すると、象嵌のために彫り込んだ部分が比較的浅く、これで充分であろうかなどと考えてしまうほど。古い作はそのような手が多い。唐草に加えられている鋤き込むような舟形の筋彫も古調であり、後の平安城象嵌のような揃ったところがみられないのも魅力だ。□

花に鳥図鐔 埋忠 Umetada Tsuba

2020-12-26 | 鍔の歴史
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花に鳥図鐔 埋忠


花に鳥図鐔 埋忠

 埋忠派の金工は、桃山時代の埋忠明壽が代表的。同時代の琳派の美観を採り入れて風景の文様表現を巧みにし、平象嵌や布目象嵌を組み合わせた作品を遺している。この鐔は、明壽以前の作と考えられる、古拙な作風が最大の魅力。布目象嵌というと、鉄地の表面に細かな切込みを施し、ここに金の薄板を叩き込んで固着させる技法。本作のような真鍮地は下地が軟らかくて処方が難しいのではないだろうか。ここでは、布目象嵌を面として処理するのではなく、線として表している。これも初期の技法か。花の意匠も凝ったところがなく、加えて雁がある。Hのような文様は蜻蛉であろうか、これも興味深い。

瓢箪棚に桔梗紋透図鐔 平安城象嵌 Heianjo-zougan Tsuba

2020-12-25 | 鍔の歴史
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瓢箪棚に桔梗紋透図鐔 平安城象嵌


瓢箪棚に桔梗紋透図鐔 平安城象嵌

 鉄地に真鍮製の家紋を欄間のように透かし、余白を埋めるように唐草文を真鍮象嵌した、与四郎鐔と呼ばれる一類がある(下写真)。その類であろうか、背景の唐草は瓢箪棚を文様風に表現しており、与四郎鐔の変化形か、与四郎鐔に至る前の作か不明。真鍮象嵌鐔の風景図が変化してゆく過程の一つであり、とても興味深い作である。


与四郎象嵌鐔 

波龍図鐔 山城住長吉 Nagayoshi Tsuba

2020-12-24 | 鍔の歴史
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波龍図鐔 山城住長吉


波龍図鐔 山城住長吉

 平安城象嵌式の技法からなる鐔で、これも銘が遺されている貴重な作。大きく桃山時代と捉えたが、その中でも時代が降り、装飾性がさらに高まっている背景が窺いとれる。図柄が複雑になっている上、色金が真鍮に加えて素銅と銀が用いられている、波に施された象嵌が細く繊細な描法とされている点など、見どころが多い。

文散し図鐔 Tsuba

2020-12-23 | 鍔の歴史
文散し図鐔 


文散し図鐔 

 とても興味深い作である。象嵌が施されていなければ甲冑師鐔だ。鐔の装飾の過渡期にあるもので、分類に困る。このような鐔をもっと研究してほしい。即ち、甲冑師が製作した鐔に、後に真鍮の線象嵌を施したものか、元来このような鐔を製作する一派があったものか。真鍮象嵌としては、応仁鐔の系統とは明らかに異なっているのである。後の象嵌とはいえ江戸時代に入ってからの工作ではなく、間違いなく室町時代。鐔への装飾という点で研究対象とされてもよい資料である。
 例えば、手を加えられた作にオリジナルではないと評価する方がある。物は使うためにあり、かなりの頻度で手が加えられる。鐔であれば刀身に合わせるということで茎穴を調整するし、小柄笄の櫃穴もあけることがある。そのような使用のための工作もあるが、装飾という点でも、進化の過程を見ることができるのである。その面白さに気付いてほしい。

車透瑞雲図鐔 平安城象嵌 Heianjo-zougan Tsuba

2020-12-22 | 鍔の歴史
車透瑞雲図鐔 平安城象嵌


車透瑞雲図鐔 平安城象嵌

 複数の放射状の筋で切羽台と耳とを繋いだ鐔を車透と呼んでいる。古くは甲冑師と極められる作例があり、その細く正確な間隔が美しく、流行したようにも思われる。この鐔では耳に雲と斜線を真鍮象嵌している。瑞雲は古典的文様の一つであり、ここでは蕨手状の構成も組み合わせて美観を高めている。斜線は雨だろうか、するとこの雲は雨龍の隠れ潜む空域か・・・。

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六ツ猪目透図鐔 平安城象嵌 Heianjo-zougan Tsuba

2020-12-21 | 鍔の歴史
六ツ猪目透図鐔 平安城象嵌


六ツ猪目透図鐔 平安城象嵌

 猪目の組み合わせがなんとも美しい作。六方形を構成する猪目だけでなく、櫃穴も猪目風に仕立てられている。良くわからないのが真鍮地でもやもやとさせている部分だが、これを雪と捉えれば、鐔の造形も六角形の雪の結晶へと思いが及ぶ。平安城象嵌様式の鐔は、桃山頃に製作されていたと考えられる。ここでいう桃山頃とは、安土桃山時代の桃山ではなく桃山文化の様式が少し時代の下がる寛永頃まで続いたことから、江戸初期までを指す。

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山水図鐔 平安城象嵌 Heianjo-zougan

2020-12-19 | 鍔の歴史
山水図鐔 平安城象嵌


山水図鐔 平安城象嵌

 風景の要素がかなり強く、絵画的表現として意識されている。古正阿弥、古金工といった風景図を遺している金工や鐔工があり、それらの影響を受けたものであろうか、図柄の採り方や高彫の処理などが古調であり、鉄地に真鍮の色合いが調和して魅力的だ。裏面の波、遠くに連なる雁の群れなど、遠近の岩と松樹の風合いも味わい深く、後に発展してゆく風景図のごくごく初期の作として貴重な資料とも言える。

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引両に宝尽図鐔 平安城象嵌 Heianjo-zougan Tsuba

2020-12-18 | 鍔の歴史
引両に宝尽図鐔 平安城象嵌


引両に宝尽図鐔 平安城象嵌

透かしと真鍮象嵌の組み合わせが面白い。図柄は伝統的な宝尽から市女笠と宝袋。耳の唐草文が流れるような構成で、これも魅力的。鉄地の透かし鐔として眺めるのであれば、甲冑師などにもある平坦な仕立てだが、これに毛彫と真鍮象嵌が加味されて新しい美観が創造されている。桃山頃の時代の移り変わりが窺いとれる。

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菊に馬図鐔 吉久 平安城象嵌 Yoshihisa Tsuba

2020-12-17 | 鍔の歴史
菊に馬図鐔 吉久 平安城象嵌 


菊に馬図鐔 吉久 平安城象嵌 

 江戸初期の京都の金工、吉久の在銘作。真鍮地の馬と菊が、素朴な彫口で高肉に表現されている。鉄地は、刀匠鐔のような簡素な板鐔。甲冑師や刀匠鐔に、新たな意匠を加えて装飾性を高めようとする意識は、後藤家等の高級武将に仕えていた金工に刺激されて現れたものであろう。古くは古金工と汎称される系統の不明な金工などが活躍しており、いずれも唐草や菊花などの植物図を文様表現している。この古金工の中から鉄鐔に装飾を求めるべく創始したものか、甲冑師などが創造性を高めたものかは不明。ただし、『金工辞典』に、弘治年間の京都に、「御金具処吉久奉行石見守」と銘のある桐紋図葵型鐔がある、と記されている。記載の作品を実見していないのでわからないのだが、同じ京都で活躍した年代の近い金工である。本作の吉久はこの系統ではなかろうか。とても興味深いところである。平安城象嵌鐔の、貴重な在銘作である。

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龍田川図鐔 平安城象嵌 Heianjozougan Tsuba

2020-12-16 | 鍔の歴史
龍田川図鐔 平安城象嵌


龍田川図鐔 平安城象嵌

 龍田川は、古歌から採った図柄であり、風情のある装飾だ。江戸時代後期の多くの金工が様々な手法で表現している。文様としても同様で、完成されたものながら新たな創造が繰り返された図柄である。これも、金や素銅の象嵌で色合い華やかに演出するのも良いが、真鍮地の紅葉も味わい深い。精巧な彫口で精密な描写ではないところがいい。素朴な空気が感じられる。鐔の龍田川図としては比較的古い作と言えよう。

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唐草に櫂透図鐔 平安城象嵌 Heianjo-zougan Tsuba

2020-12-15 | 鍔の歴史
唐草に櫂透図鐔 平安城象嵌


唐草に櫂透図鐔 平安城象嵌

金象嵌を施した鐔は、使うための鐔としては余りにも華やかであるとお考えの方。確かにその通りで、室町時代の赤銅地高彫金色絵の華麗な装剣小道具は、武士の地位を示すもの、高級武将の室内での備えのもの、といった考え方ではなかったろうか。古金工や後藤の金具で装われた打刀を、激しい打ち合いが起こる戦場で用いたとは思えない。
 甲冑師鐔、刀匠鐔、金山、古正阿弥など多くが簡素な装飾であり、古正阿弥辺りから布目象嵌手法で控えめな金装飾が始まる。そのような中で、真鍮象嵌は、金属としては控えめな色合い、時を経ては渋い色合いを呈し、戦国武将好みと言い得る。真鍮の文様は鉄地と良く合うのだ。
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雫透図鐔 応仁 Onin Tsuba

2020-12-12 | 鍔の歴史
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雫透図鐔 応仁


雫透図鐔 応仁

 時代の上がる鐔に施されている文様には、ほとんど理解不能なものがある。道具などを具象表現したものであれば、その道具を探り当てることも可能だが、本作のように何?と思考が停止してしまう例が多々ある。その謎めいた文様を探り出すことの面白さも、古作鑑賞の楽しみのひとつだ。応仁鐔の典型的造り込みになる本作の、この図は何だろう。戦場を経巡る武士の持ち物であれば梵字かなと思ったがそれらしき字がない。文様や図柄が発展しつつある時代の作は面白い。

Webサイト参照

唐花文図鐔 応仁 Onin Tsuba

2020-12-10 | 鍔の歴史
唐花文図鐔 応仁


唐花文図鐔 応仁

真鍮という合金はとても製造しにくいそうだ。以前にも説明したが、真鍮は銅と亜鉛の合金である。合金とは二つ以上の金属を溶かして混ぜ合わせることによって造り出すのだが、銅の融点は約1085度、亜鉛の融点は約420度、そして亜鉛の沸点が約907度。銅が溶け出す前に亜鉛が気化してしまうのである。単に溶かして混ぜ合わせるのでは銅と亜鉛の合金はできない。昔の人々が、いかにして真鍮を造り出したのかは、難しいので説明は省くが、我が国では真鍮を造り出せなかったのではないだろうか。それゆえ、大陸から輸入した真鍮素材からなる器物は高く評価されていた。室町時代に中国から輸入していた真鍮製の器物に宣徳の製作年紀があったことから、真鍮製の器物を宣徳と呼び慣わしたという。その名残りがあり、江戸時代の鐔に「以宣徳金」の添銘がある作も遺されている。
 真鍮を用いた装剣小道具は室町時代に始まる。応仁鐔が真鍮を用いた鐔として良く知られている。鉄地を薄手の板鐔に仕立て、文様を陰に透かし、その縁取りとして真鍮の線象嵌を施し、地面には魚子のように真鍮の点象嵌を施す。

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四方猪目透図鐔 応仁 Onin Tsuba

2020-12-09 | 鍔の歴史
四方猪目透図鐔 応仁


四方猪目透図鐔 応仁

比較的古い作であろう、頗る簡素な鐔。四方に猪目のある木瓜形の板鐔に線象嵌で縁取りし、魚子状に真鍮点象嵌を施しただけの作。本来の実用鐔というのは簡素なものである。そこに装飾が始まる。時代の上がる板鐔の代表とも言い得る刀匠鐔にしても、甲冑師鐔にしても簡潔なのである。35□

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