鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

牡丹紋図鐔 美濃 Mino Tsuba

2016-02-29 | 鍔の歴史
牡丹紋図鐔 美濃


牡丹紋図鐔 美濃


牡丹紋図縁頭 義宗

牡丹を意匠した家紋も多々ある。牡丹も装剣小道具の図柄としては古い。冬の花としての印象が強いのだが、春にも咲く。品種が違うものと、花期を調整して冬咲に仕立てたものがある。豪壮で華麗なことから花の王との呼び名がある。香りは、好みがあるので良し悪しは言わないが、かなり強いのも王たる呼称の素質となっている。花弁の重なり合っている様子が美しい。これが家紋や文様の大きな特徴だ。写真の縁頭は、頗る簡潔に表現したもので、文様としても整っていて美しい。赤銅魚子地高彫金色絵。鐔は、江戸時代の美濃彫表現になる作。赤銅魚子地高彫金色絵。深彫によって唐草と牡丹をくっきりと浮かび上がらせている。複雑で緻密な唐草に、金を配した牡丹の花が活きている。

梅見月図縁頭 政随 Masayuki Fuchigashira

2016-02-27 | 鍔の歴史
梅見月図縁頭 政随


梅見月図縁頭 政随

 赤銅地を石目地に仕立て、紅梅は高彫に金と素銅の色絵象嵌。遠い存在ながらも梅樹のすぐ近くまで迫るような月は高彫銀色絵。巧みな色彩構成とされている。政随は江戸金工の中でも奈良派四天王の一人と謳われた名工で、後の多くの金工に強い影響を与えている。奈良派の得意とする写実味を基礎に、独特の構成、バランスの良い構成、日本人が備えている古典美に通じる感覚を金工芸術として展開したことにより隆盛したと思われる。

梅見月図鍔 東龍斎派 Toryusai Tsuba

2016-02-25 | 鍔の歴史
梅見月図鍔 東龍斎派


梅見月図鍔 東龍斎派

歳寒三友。梅見月を主題に、梅樹の根元にわずかに笹の葉を描き、裏面には松。これら真冬に雅な風情を漂わせる松竹梅を歳寒三友と呼んでいる。雪曇りの合間に見せる月。その明りに附 鑑定書と浮かび上がった梅の存在感。微かに睛隠れする月がいい。このような素敵な構成は、江戸時代後期に隆盛した東龍斎派が得意としたもので、壽景と極められている。鉄地高彫象嵌。

梅見月図鍔 古赤坂 Ko-Akasaka Tsuba

2016-02-24 | 鍔の歴史
梅見月図鍔 古赤坂


梅見月図鍔 古赤坂

 梅を家紋の図案として採り入れた例では先の加賀前田家が有名。前田家のは梅鉢紋。
 ちょうど今頃の季節…、というか昨日の帰り道、ふっと気づいたら東の空に大きな月があり…もちろん梅が満開。月に照らし出された梅花に、しばし見とれてしまった。このような経験は多くの方がお持ちと思う。確かに寒い頃だが、日本ていいなあと感じるのも今の季節である。でも、梅に合うのは三日月のようだ。昔から梅に添えられる月と言えば三日月。写真の鍔は、赤坂でも初、二、三代の頃まで時代の上がる作。簡潔な陰影が美しい。

家紋散し図鍔 加賀 Kaga Tsuba

2016-02-24 | 鍔の歴史
家紋散し図鍔 加賀


家紋散し図鍔 加賀

 加賀後藤であろう、上質の赤銅地高彫金色絵の、豪壮で華麗に家紋を構成した鍔。透かしが三ツ巴、耳には菊、五三桐、梅鉢、梅花の各家紋を配している。全面に波を地文として施し、巴に葉毛彫で梅と松葉を彫り表わしている。いずれも家紋を際立たせるための地文という位置付け。漆黒の赤銅地に金の家紋が浮かび上がり、透かしの空間も永遠の動きを暗示している。この鍔に関しては、加賀前田家の武士が用いた家紋と考えて良いだろう。文様美を突き詰めたものだが、確かに武家の美意識が備わっている。

丸文散し図鍔 加賀 Kaga Tsuba

2016-02-20 | 鍔の歴史
丸文散し図鍔 加賀


丸文散し図鍔 加賀

赤銅地に金銀の毛彫平象嵌の手法で雅文を配した作。家紋ではないが、このように植物などを円の中に巧みに構成する文様がある。着物などの図柄にも採られている。この鐔では、唐草を毛彫で密に表わし、しっとりとした織物を想わせる表現。櫃穴を松皮菱の家紋に意匠しているところも面白い。


丸文散し図鍔

これも植物などを丸文に構成した作。赤銅魚子地に高彫金銀色絵。文様は巴状に意匠されているため動きがあり、華やかさが一層増している。彫口も精巧であり、色絵も鮮やか。優れた美意識を持つ金工の作である。

文散し図鍔 後藤法橋東乗 Tojo Tsuba

2016-02-19 | 鍔の歴史
文散し図鍔 後藤法橋東乗


文散し図鍔 後藤法橋東乗

 赤銅地に文を打ち込むという技法で表現した鍔。赤銅地にこのような文様を打ち込むと、裏側はかなり突出する。文様打ち込み風の鍔は比較的多いが、実際に打ち込むと、このようになるという例だ。文は牡丹であろうか。家紋ではなさそうだ。

家紋散し図鍔 赤文 Sekibun Tsuba

2016-02-18 | 鍔の歴史
家紋散し図大小鍔 赤文


家紋散し図鍔 赤文

 家紋と言って良いのだろうか、花菱の紋に、角渦巻と葉のような文様を散し配している。鉄地にこの紋は、刻印、即ち形鏨で打ち込んだようにも見えるが、実は彫り込むという手法による表現。巧みだ。家紋の連続は地文となり、本来の意味とは異なる美観を示す。先の薩摩鍔にも通じる、家紋の文様表現の一つである。


菊桐紋散し図鍔 安親

紋散図の鐔としては頗る有名な作。素銅地を平滑に仕立て、家紋を擦れたように、消え入りそうな風合いと彫口で表現している。まず感じるのは、この描法が形鏨の打ち込み、即ち刻印によるものではないかという点だが…。実は、これら総てが鋤彫による描写である。見る者を惑わすような、安親の遊び心の窺える作である。

家紋透図鍔 薩摩 Satsuma Tsuba

2016-02-17 | 鍔の歴史
家紋透図鍔 薩摩



家紋透図鍔 薩摩

 耳際の意匠に独創を見せる作。薩摩金工。極上の赤銅地を円形で平滑に仕立て、耳際のみに家紋を廻らしている。丸に十字を基調とし、五七桐、輪違いを連続させている。彫口は微妙な肉取りを施してあり、奥行感もある。まさに欄間のような透かしであり、このような耳際の構成は珍しい。簡潔な描写なのだが深みがあり、とにかく美しい。

武鑑図鍔 与四郎象嵌 Yoshiro-Zogan Tsuba

2016-02-16 | 鍔の歴史
武鑑図鍔 与四郎象嵌


武鑑図鍔 与四郎象嵌

家紋を散し配するという意匠で忘れることのできないのがこの種の鍔だ。鉄地に円い透かしを設け、ここに別彫りした真鍮地の家紋を嵌め込むという装飾。和室の欄間の彫刻に擬えて欄間透とも、小池与四郎直正の考案ともされていることから与四郎象嵌とも呼んでいる。鉄地に唐草文を真鍮や銀などで施し、家紋を組み合わせている。中には家紋らしからぬ構成の文様もある。意外に多いと思われるのは六方に文様を構成したもので、雪の結晶を意匠したものとも考えられる。透かしだけでなく、真鍮で縁取りした部分にも毛彫を加えて文様としての美観を高めている。




家紋散し図鍔 Tsuba

2016-02-15 | 鍔の歴史
家紋散し図鍔



家紋散し図鍔 

 山銅地を木瓜形に造り込み、石目地を加えて家紋を陰に透かした、印象深い作。簡潔な描法がいい。唐花、花菱、桜、梅鉢のそれぞれの家紋が、明らかに家紋として捉えられ、際立っている。先の又七の家紋透鐔も同様に、このように複数の家紋を意匠した鐔を武鑑の図と呼んでいる。家紋の周囲はごくわずかに肉彫に仕上げており、単なる平滑な透かしでないため、立体感が生じている。

家紋散し図鍔 林又七 Matashichi Tsuba

2016-02-13 | 鍔の歴史
家紋散し図鍔 林又七


家紋散し図鍔 林又七

 鍛え強い鉄地が魅力の第一。意匠として透かされている家紋は、すべてこの鍔の所持者のものであろうか。主家より下賜された家紋を、自らがこれまで用いていた家紋と同様に用いることが多いため、時に数種類の家紋を用いたこともあるそうだ。そうなれば、これら複数の家紋が一枚の鐔に備わっていてもおかしくはなかろう。鍛えた鉄地に陰陽の表現で透施した家紋は、桐、茗荷、三ツ鱗、唐花、二引両、松皮菱。肥後金工、林又七の印象深い作である。

揚羽蝶紋図目貫 美濃 Mino Menuki

2016-02-12 | 鍔の歴史
揚羽蝶紋図目貫 美濃


揚羽蝶紋図目貫 美濃

 美濃彫様式になる揚羽蝶紋図の目貫。金無垢地容彫。際端の腰を高くして文様がくっきりと浮かび上がるように仕立てている。美濃彫りの作に多い秋草図を基本とし、これに揚羽蝶が誘われ来たという構成。とにかく綺麗だ。


揚羽蝶紋図小柄 

揃った漆黒の赤銅魚子地を背景に、金の揚羽蝶が浮かび上がる趣向。これも綺麗だ。

揚羽蝶紋図小柄 Kozuka

2016-02-10 | 鍔の歴史
揚羽蝶紋図小柄


揚羽蝶紋図小柄

印籠風に刻みを設けて高彫色絵、羽の文様に細かな魚子を打ち、銀の点象嵌を配している。


揚羽蝶紋菊紋図小柄 吉岡因幡介

同じ家紋だが、少し違っているところがある。表現の違いとみて良いのか、明らかに家紋として異なっているのかは不明だ。波地に菊紋は、いずれも比較的多く採られる組合せ。この菊紋は十二弁。

家紋散図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2016-02-09 | 鍔の歴史
家紋散図鍔 古金工


家紋散図鍔 古金工

 これも家紋を文様と捉えたものであろう、様々な家紋と、古典的な文様を小透にして散し配している。赤銅魚子地高彫金色絵だが、魚子地は古調で味わい深い。巴紋があり、桜花紋がある。下方には源氏香のような線の組合せからなる文。丁子、靴の裏のような形状、グローブのような小透は面白い。対に構成されているのが揚羽蝶紋。古くは平家が用いた家紋。戦国時代には織田家も用い、池田家に下賜されたそうだ。このように文様として捉えられると、確かに面白い。