鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

雪月花図鍔 壽矩

2015-05-27 | 鍔の歴史
雪月花図鍔 壽矩


雪月花図鍔 壽矩(花押)

銀は古くから装飾素材として尊ばれてきた。金には及ばないものの比較的腐食に強いことと、磨けば強い光沢によって金のように明るく見える特徴がある。銅や他の金属との合金も色合いを多彩にするなどの点が好まれたのであろう。だが、空気中のイオウなどと容易に反応して独特の黒色味を呈する。装飾としてはマイナスの要因とも捉えられるが、むしろ渋いという点で魅力が引き出されたようだ。鐔の作者は、銀が時を経て黒くなるという効果を考慮して金工に活かしている。だから、銀の部分は黒くなっていても、決して地の色が出るほどに磨くものではない。
 その銀が生み出す景色が面白いのだ。表面にグラデーションが付く程度が美しい。写真は先に紹介したことのある壽矩の鍔で、雲間に三日月の見え隠れする様子を心象表現している、雪月花の中の月だ。春の朧な月と捉えれば、銀を滲ませている理由は想像できよう。銀の布目象嵌が技法だが、その端部から銀が破墨のように広がっているのが判る。明瞭な三日月では面白味がないのだ。腐食による凹凸と同様、銀の滲み出しは意図的に為されたのである。

度々言い訳を繰り返しているが、今年に入って、日本刀のゲームが話題になっており、これに関連して日本刀の雑誌やムックなどが相次いで出版されている。数年前に出された『日本刀大全』から引用したような内容ばかりだが、日本刀に興味を持ち始めた人にとっては十分すぎるようで、かなり売れ行きが良いそうだ。それが故にさらに出版が続き、多くは日本刀の写真を貸してほしいとの相談。もちろん写真だけですむはずがなく、説明にまで及び、ブログの更新を怠るという結果になっている。言い訳だとおっしゃるかもしれませんが、もう少しで出版ブームは終わると思うので、飛び飛びの更新はもうすこし。因みに、今後の刀剣関連の本は、宝島社から『日本刀図鑑』が5月28日に、『TokyoWalker』では5月中頃に『刀を見に行こう』の記事が出て、似たような内容で『ぴあ』からも日本刀鑑賞のために博物館廻りのムックが出る予定。さらに『芸術新潮』でも日本刀と歴史人物と美術を関連させた内容を予定しているそうだ。一味違った内容では、学研からも、秋には日本刀の写真集が出る。



群蝶図鍔 正阿弥政徳 Masanori Tsuba

2015-05-13 | 鍔の歴史
群蝶図鍔 正阿弥政徳


群蝶図鍔 正阿弥政徳

 華やかに装飾された蝶。鉄地高彫に金銀の象嵌の技法を駆使した作。京都で培れた布目象嵌による文様表現が背景にある。複雑で細かな文様が組み合わされている。その背後に散らされているのが虫食い状の小穴。この鍔ではいったい何を意味しているのだろうか。因みに、以前に紹介したことのある下の鍔は、虫食いではなく抑揚のある地面に仕上げて春の朧なる空気感を意味していることは明白。地文や背景の処理の方法だけで印象が大きく変わることもある。地面の演出方法のなかに腐らかしがある。そのような酸による腐食で生じた自然な凹凸の連続とは異なって意図的なのだが、この表情も頗る面白い。



唐草文図鐔 埋忠 Umetada Tsuba

2015-05-07 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 埋忠


唐草文図鐔 埋忠

 山銅地に阿弥陀鑢を施し、唐草を金線の象嵌で表し、それらの所々に大胆な虫食いの小穴を加えている。板塀や倒木に絡まる蔓草が心象的図案として表されている。見事な文様表現である。まず目に映るのが金の唐草で古典的な美観を形成している。あたかも腐食した素材のような普通に嫌われるであろう欠点ともみられる虫食いは、即ち唐草とは対極の認識下にあるのだが、同じ曲線的な構成で鑑賞者の視覚を刺激する。この面白さを見出したのは誰だろう。