鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

年中行事図一作金具 仲上元次 Mototsugu

2012-11-28 | 
年中行事図一作金具 仲上元次


年中行事図一作金具 銘 仲上元次(花押)

 正月、節分、雛祭、端午、七夕、重陽。これらに関わる事物を題材に採り、美しい彫刻と色絵によって彫り表わした揃金具。祝い差しとされたものであろう、一体の拵として伝わっている。作者は京都金工仲上元次。先に紹介した元廣の門人。赤銅魚子地を高彫にし、金銀の色絵を施している。







仲國留守模様図目貫 元廣 Motohiro Menuki

2012-11-27 | 目貫
仲國留守模様図目貫 元廣



仲國留守模様図目貫 銘 元廣

 秋草の中に佇む馬と閉ざされた門、これに添えられた横笛。何て美しくも洒落た組み合わせなんだろう、判じ物好みとでも言い得ようか、我が国の美意識が漂う目貫。作者は江戸後期の京都金工仲上元廣、描かれているのは『平家物語』に登場する仲國、そして彼が訪ねた小督。ここでは仲國に関わる素材を組み合わせて留守模様とされているが、これによって小督の存在も浮かび上がる構成となっている。金無垢地容彫、銀赤銅色絵象嵌になる贅沢な作。


歌仙図鐔 菊池序克 Tsunekatsu tsuba

2012-11-26 | 
歌仙図鐔 菊池序克


歌仙図鐔 銘 菊池序克(花押)

朧銀地に片切彫で彫り描いた歌仙。しなやかな線の構成で人物表現が巧み。顔付きだけでなくその性格にまで迫るかのような描写である。
菊池序克は片切彫を得意とした横谷宗‐柳川直政‐柳川直克‐序克と続く江戸金工で、菊池派の初祖。
 片切彫とは、毛彫の一つで、切り込んだ鏨を連続させることにより強弱変化を付けた彫り幅とし、簡潔ながら力感のある筆描を思わせる線画とする。描線は簡潔ではあるが、その組み合わせによって動きが表現されることから、江戸中期の一宮長常が市井の人物や踊などを題材とした風俗図に用いて成功している。この鐔の図では動きはないものの、片切彫は伝統美とも言いうる空間描写の要ともなっている。縁頭は弟子の菊池序光。


東下り図鐔 額川保則 Yasunori Tsuba

2012-11-24 | 
東下り図鐔 額川保則


東下り図鐔 銘 亀谷斎額川保則(花押)

 以前に紹介したことがあるだろうか、これも関東地方を和歌の旅で巡り歩いた在原業平の、富岳を眺める図。に紹介した鐔の写実的表現と考えて良い。作者は水戸金工保則。従者と富岳を眺める業平は厳しい表情だが、裏面に描かれている従者は欠伸をし、居眠りをしており、様子は滑稽で面白味がある。鉄地高彫に金銀赤銅素銅の象嵌。水戸金工の正確な構成に精巧な高彫はよく知られている。雅な印象のある貴族の世界だが、ちょっと覗き見たような、人間らしさが示された図である。73.2ミリ。

お知らせ 
これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このサイト同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。
鐔Tsuba 装剣小道具の世界から

東下り図鐔 後藤光孝 Mitsutaka Tsuba

2012-11-22 | 
東下り図鐔 後藤光孝


東下り図鐔 銘 後藤光孝(花押)

 赤銅地を微細な石目地に仕上げ、片切彫によって富岳と在原業平の従者のみを描き、『伊勢物語』の有名な場面を表現している作。即ち業平の留守模様。装剣小道具には好まれた図柄であり、多くの作例を見る。精巧緻密な彫刻になる写実表現も良いだろうが、簡潔な描法であるがゆえに画面構成が重要。背景の富岳の雄大さが、裏面の松原を小さく描くことによって強調されている。後藤光孝は後藤宗家十三代。

お知らせ 
これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このサイト同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。
《Tsuba 装剣小道具の世界》

筒井筒図縁頭 夏雄 Natsuo Fuchigashira

2012-11-21 | 
筒井筒図縁頭 夏雄

 
筒井筒図縁頭 銘 夏雄

 何度か紹介したことがあるのだが、何度みても心穏やかに楽しむことができる。癒しの材料として眺めてしまっては装剣小道具の作者は不満だろうが、そのような魅力充満の作品である。赤銅石目地高彫色絵。繊細な金平象嵌と緋色とも言える素銅の色調の妙味に溢れている。
 古典文学の一つ『伊勢物語』の一場面。男女間の心模様を描いた一連の和歌物語は、数百年の長い年月を経ても変わることがない。その文学を絵画表現した作例は様々な絵画工芸の分野において多々みられるも、わずか一寸強の画面に濃密なまでに心模様を展開している作品はどこにあるだろうか。高い彫刻技術があるがゆえの作であり、何度でもかまわない、夏雄の技と感性を確認したくなるのである。

お知らせ これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このサイト同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。

《鐔Tuba 装剣小道具の世界》

小松引図鐔 Tsuba

2012-11-16 | 
小松引図鐔 東龍斎派


小松引図鐔 花押(東龍斎派)

根引き松とも言われ、正月初子の日の行事。この日、野に出て詩歌を詠み、宴席を設け、松の若木を根のまま引き、その香りを楽しむ。若菜を採って粥とする。若松の芽を粥に入れて食するともいう。新年を迎え、自然の中で自然が生み出したものを体内に採り入れて生命のありようを体感する意識は、古代中国に興った神仙の思想に通じる。山水画が好まれた理由も根本が通じ合っている。
 鉄地に独特の構成で平安王朝美を展開、高彫に象嵌を加えて華やかに表現している。

薬玉図目貫 Menuki

2012-11-15 | 目貫
薬玉図目貫


薬玉図目貫 無銘

 元来は端午節句に関わるものであることは良く知られている。きれいに装飾した球状の薬玉を割ると、中から紙吹雪や風船、鳩などが飛び出し、目出度い席をより賑やかに演出する道具とされている。昨今ではそのような使われ方が専らだが、元来は、薬となる植物を玉状にして室内に備え、その薬種としての香りを楽しむ。ドライフラワーを飾る意識はもちろん装飾だけだが、我が国には病を避けるという意味での花飾りがあったのである。蓬と菖蒲を主に、様々な花を添える。この目貫をみる限りではかなり装飾性が高くなってはいるが、表目貫には確かに蓬と菖蒲の葉が描かれており、伝統が失われていないことが分かる。江戸後期の京金工の作と鑑られる。

七夕蹴鞠会図小柄 後藤 Goto Kozuka

2012-11-13 | 小柄
七夕蹴鞠会図小柄 後藤


七夕蹴鞠会図小柄 無銘後藤

 七夕における蹴鞠の行事の図。蹴鞠を添えた植物を持つ貴人の姿を描いているだけだが、この葉が梶であることが七夕に関わる行事であることを証している。赤銅魚子地高彫金銀色絵裏板金哺。後藤流らしい作行で貴族の世界を華やかに表現している。
古代中国に興った乞巧奠が我が国において変化した行事は多々あり、その民間においての祭にまで目を向けると、かなり幅が広い。東北地方のねぶたなども厄を水に流し去ることで通じる。七夕の笹飾りなどは江戸時代後期において武家屋敷から始まった風習であると知って驚いた。

紫式部図小柄 後藤程乗 Teijo-Goto Kozuka

2012-11-12 | 小柄
後藤程乗



紫式部図小柄 無銘後藤程乗

 無銘ながら後藤程乗の特徴が窺える、平安王朝の美観を意識した小柄。赤銅魚子地高彫に金銀色絵平象嵌を施し作で、銀割りの金の色調が渋く落ち着いて味わいは格別。後藤の魅力が充満しているが、後藤の本家というより、加賀前田家に出仕して加賀金工の発展に寄与した程乗の作風として捉えたほうが分かり易い。



誰が袖図小柄 銘 紋程乗光晃(花押)

 以前に紹介したことのある小柄だが、貴族的な風合いの漂う作であり、程乗極めというところで参考に並べてみたい。

扇流し図小柄 古金工 Kokinko Kozuka

2012-11-11 | 鍔の歴史
鍔の歴史 扇流し図小柄 古金工



扇流し図小柄 古金工

 桃山時代らしい特異な風情のある大振りの小柄で、意匠は着物の文様にも採られている『扇流し』。良く見かける図だが、扇流しの始まりは南北朝時代に遡る。大堰川にかかる渡月橋において、橋上から扇を風にまかせて川に投ずる遊びが流行ったそうだ。ひらひらと舞い落ち、あるいは風に乗ってすうっと流れ、水に落ちた扇は濡れ、波にもまれて次第に地紙が剥がれ落ちる。それら一連の様子が面白いと感じられたのであろう、後に文様化されて器物や着物を画面として人々の目を楽しませているのである。
 この小柄は、人は絵が枯れてはいないが、まさにその様子を捉えた作で、明らかに文様化されたもの。山銅魚子地高彫金銀色絵に毛彫。波も文様化されており、琳派の美意識が鮮明である。裏板に意匠された波も大きな見どころ。□

蹴鞠図目貫 古金工 Kokino Menuki

2012-11-10 | 鍔の歴史
鍔の歴史 蹴鞠図目貫 古金工


蹴鞠図目貫 古金工

 蹴鞠そのものを題材とした作。赤銅地容彫金うっとり色絵。貴族の遊びとして知られる蹴鞠だが、このように武士が使う打刀拵の装飾金具として捉えると面白さも大きく広がる。製作されたのは桃山時代であり、装飾の素材やデザイン性が広く求められたという背景が想像されよう。こうした中から埋忠明壽などの美意識の優れた金工が現れたのか、明壽の美意識が他の無名金工に影響を及ぼしたのであろうか順番は定かではないが、貴族的な趣味の探究は理解できるところ。後藤家でも桃山時代には御家流の獅子や龍図のほか、平安王朝美の漂う作品を製作している。

波に桶図小柄 古金工 Kokino Kozuka

2012-11-09 | 鍔の歴史
鍔の歴史 波に桶図小柄 古金工



波に桶図小柄 古金工

 この図も、現代では忘れられてしまった風習や伝承を表わしているようだ。沼田鎌次先生は「鐔小道具画題辞典」において『東海道名所図絵』から引いて『桜ヶ池』図として説明しておられるが、どうだろう、判断に苦しんでいる。遠州中泉の近くの池を舞台とした伝承だそうだ。
 作品としては意匠化された波に三つ連ねた桶を組み合わせて文様表現している。ここでは貝か海栗が綱に着いている構成であり、淡水というより海が舞台と考えられる。赤銅地高彫金うっとり色絵。華やかな図柄構成。

花筏図目貫 古金工 Kokinko Menuki

2012-11-08 | 鍔の歴史
鍔の歴史 花筏図目貫 古金工


花筏図目貫 古金工

 京に生まれ育った伝統的な文様『花筏』は、装剣小道具だけでなく、着物の文様にも採られている。その洒落た意識のありようは我が国独特のものであると世界に誇れよう。桜の花は金色絵によって装飾性も高く、これに様式化された筏と波の様子が組み合わされており、琳派の美意識が鮮明。大きな画面に描くのではなく目貫という一寸ほどの空間を構成するために、否応なしに風景の文様化が進んだわけであり、美意識は別として、実際に使用する空間としては、絵画よりもこのような装剣小道具において琳派の創造性は突き詰められたともいえる。

藻貝図鐔 古金工 Kokino Tsuba

2012-11-07 | 鍔の歴史
鍔の歴史 藻貝図鐔 古金工


藻貝図鐔 古金工

 藻貝が散らされてはいるが、明らかに十字を意識して意匠に採り入れた鐔。藻貝を散らした構成は古典的だが、各々の貝の細部の描写と付随する水滴など細部の観察では、かなり写実的であり洗練味を帯びている。桃山時代の作であろう。この十字と藻貝の組み合わせは素敵だ。お多福形とも糸巻木瓜形とも言われるように、ふっくらとした総体の造り込みも十字を活かしている。