葡萄棚図鐔 正阿弥盛國
葡萄棚図鐔 銘豫州松山住正阿弥盛國
伊予正阿弥派を代表する江戸中期の名工盛國の優れた作。京都に栄えた正阿弥(しょうあみ)派の技術は、各地に伝えられ、鉄地高彫に金銀布目象嵌の手法を下地として様々な表現が試みられ、各地の風土に適合した作風が生み出された。伊予正阿弥派もその一つ。
六角形に組んだ網目のような葡萄棚。これに這って蔓を伸ばし、葉を茂らせ、たわわに実る葡萄の実を、この鐔では薄肉彫に彫り出している。蔓は素銅、葉は金、実は銀の布目象嵌で、時を重ねて生まれた銀黒の渋い光沢が美しい。
時代の上がる正阿弥派の分類研究は難しく、良く分からないところが多く進んでいないようだ。ただ、古く京都に源流を求めることができ、室町将軍に仕えた同朋衆(阿弥衆)の一との見方もあるが、古い記録がないので、阿弥の呼称からも推測の範囲で考察している。橋本晴夫先生が自著『文化の中の刀装具』で正阿弥派について詳しく述べておられ、これを背景に筆者も解説をする。
江戸時代に各地に分派して栄えた正阿弥については考察が容易なのだが、時代の上がる古正阿弥や正阿弥、京正阿弥については、時代による分類なのか、作風による分類なのか、不明な点があった。2010年7月号の『刀剣美術』誌上で、福士繁雄先生が、古正阿弥と京正阿弥、正阿弥の分類について、古正阿弥を室町中期から末期までの作、京正阿弥を桃山時代の作、正阿弥は江戸時代初期から江戸時代中期元禄頃までの作としたらどうかと提案としておられる。比較的分かり易い分類方法であるため、筆者もこれに従いたい。ただし、時代観は、作品から受ける感覚的なものであるため、鑑賞者によっては多少時代の前後は修正することになろうと思う。
江戸時代の各地に移住して栄えた正阿弥派の例として、比較的作品を見る機会が多いのは、京都はもちろんだが、伊予正阿弥、秋田正阿弥、会津正阿弥である。ここで、紹介した瓜図鐔は、秋田正阿弥派の特徴が良く現われている。正阿弥派の特徴は、基本が鉄地肉彫地透で、これに金の布目象嵌が施されている例が多い。
江戸時代に入って以降の正阿弥各派の作風は多彩で、正阿弥派としての作風よりも各地域の特徴や金工の個性が鑑賞の要点となるが、江戸時代初期以前の作品を眺めてみると透かし鐔の意匠は頗る多く、この意匠の多様性だけでも楽しめる世界である。しかも、比較的価格が低いところがうれしい。
瓜図鐔 無銘秋田正阿弥