鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

押合菊図二所 成田栄瑞 Eizui Hutatokoro

2015-12-27 | 鍔の歴史
押合菊図二所 成田栄瑞


押合菊図二所 成田栄瑞

 写真例にように密集する菊の文様を押合菊と呼んでいる。妙趣ある呼称だ。下の鍔も同様に密集する菊花を意匠としている。菊の香りにめまいがしそう…と言う感じ。菊の花は八重咲を基本とし、筒状花があり、裏菊がありと、変化に富んでいる。菊花は総てが赤銅地高彫。繊細な彫り様で細い筋を浮かび上がらせており、これらを装うのは金の平象嵌を加えた葉。花に金を施さないところが巧みだ。この押合菊の文様構成は栄瑞が得意としたもの。濃厚な美観が素晴らしい。

今年は昨年に続いて刀剣関連の雑誌やムック誌が大量に出版された。だが、そのほとんどにおいて刀剣趣味者にとって有益ではなかったという点が特徴的であり、面白くも興味ある現象であった。もちろんこのような動きが、後の真の刀剣趣味者の拡大につながるのであればいいだろう、との思いで、未来に期待してお手伝いさせていただいた。刀剣に関わる美術品は、今年の雑誌類に紹介されているよりも遥かに多くの面白さを秘めている。特殊であり、幅が広く歴史が長い世界だ。真の趣味者が広がって下さることを願っている。そのような意味で、オピニオンリーダーには、単に名品を発掘する努力だけでなく、価格に関わらず作品には楽しみの要素がたくさんあることを、多くの初心者に伝えてほしいと願うばかりである。


枝菊図鍔 武州 Busyu Tsuba

2015-12-26 | 鍔の歴史
枝菊図鍔 武州


枝菊図鍔 武州

 折り重なるような枝菊。巧みな構成で、これらを立体的写実的に彫り出している。密集する葉も活かされている。背景はもちろん透かし抜いて主題を浮かび上がらせており、重なる様子も平坦ではなく、確かな奥行感がある。菊は様々。花により質感を微妙に違え、細筋を浮かび上がらせている。この鍔では、朝露を意味する金の露象嵌が効果的に採り入れられている。露象嵌は、古典的な秋草図には欠かせない要素の一つで、陽の光に輝く露が季節を感じさせるのだ。背景を省略する透かしも、古典の唐草を想わせる構成へと視覚的な狙いがあるのだろう。このような精巧な彫刻は武州鍔工の得意とするところ。

枝菊図鍔 江府住宜秀 Yoshihide Tsuba

2015-12-25 | 鍔の歴史
枝菊図鍔 江府住宜秀


枝菊図鍔 江府住宜秀

 八重に咲く菊花を、その枝振りまで彫り描き、背後を透かし去ってくっきりと浮かび上がらせている。葉の揺れる様子。花の重なっている様子が、鐔という円形に見事に構成されている。江戸に栄えた鍔工に伊藤派がある。植物などを写実的に表現するを得意としている。この鍔が良い例で、花の様子だけでなく、枝振り、葉の裏返っている様子などを、見事な曲線で描いており、全体に動きが感じられる。

菊花図鍔 吉岡因幡介 Yoshioka-inabanosuke

2015-12-24 | 鍔の歴史
菊花図鍔 吉岡因幡介


菊花図鍔 吉岡因幡介

 とても豪華な意匠構成の鍔。綺麗に並んだ赤銅魚子地は、それだけでも綺麗で、重厚な感があり、さらに金覆輪が施されて画面が綺麗に立っている。ここに散らされた菊花は、やはり様々。これまで見てきたような菊があり、八重、三重に花弁の広がる花があり、花火のように、あるいは手毬のように丸く花が広がっている様子も彫り出されている。見事というほかはない。花房が重なり合う様子も豪華だ。彫口繊細で、花弁の表面にも抑揚がある。

菊花文散し図鍔 二子山住則亮 Norisuke Tsuba

2015-12-22 | 鍔の歴史
菊花文散し図鍔 二子山住則亮


菊花文散し図鍔 二子山住則亮作

 木瓜形の四方に猪目を透かした造形は古式の太刀鍔を下地としたもの。だが、菊花を密に散らしたこの鍔には、古式の鍔といった風情は微塵も感じられない。江戸時代の洒落た風合いが漂っている。菊花は先に紹介した小柄をはるかに越えて様々。丸みのある花房、八重のみならず多重に咲くもの、裏から見た菊もある。いずれも平坦な地面に高彫して花弁の繊細に広がる様子を彫り出しているのだが、文様の周囲をごくわずかに鋤き下げることにより、文様が一際くっきりとみえるように工夫をしている。要所に加えられた金が活きている。

菊唐草図小柄 Kozuka

2015-12-21 | 鍔の歴史
菊唐草図小柄


菊唐草図小柄

 唐草を廻らした中に様々な意匠の菊の花を散し配した作。十六葉の菊のほか、十二葉、八重の花、小花を密に組み合わせた花など。金、色違いの金、銀、赤銅と、色金を組み合わせて朧銀の石目地に浮かび上がるように構成している。江戸時代も降ると、このように菊の花は多様化が進む。その背景には、江戸時代に大流行した菊の栽培が考えられるのだが、この小柄の文様の基礎は古典的だ。

菊桐紋図鍔 寿山造 Juzan Tsuba

2015-12-19 | 鍔の歴史
菊桐紋図鍔 寿山造


菊桐紋図鍔 寿山造

 鉄地高彫金銀素銅象嵌。鍔面に菊を放射状に高彫しているところは先に紹介した作にもあるのだが、この所々に菊と桐を散し配している。桐紋が翼を広げた鳥のような特殊な意匠とされているように菊も、いかにも文様風。また、鐔面の放射状の菊は高彫と鋤彫りを組み合わせて陰陽の表現。所々に金銀の露象嵌を散して華やかさを高めている。簡潔に見える鍔だが、実は凝っている。

菊桐紋図鍔 奈良 Nara Tsuba

2015-12-18 | 鍔の歴史
菊桐紋図鍔 奈良


菊桐紋図鍔 奈良派

素銅石目地高彫金赤銅色絵。先に紹介した小柄笄と同様に、家紋としての文様表現だ。真黒な赤銅を活かすために素銅地としている。金だけでなく所々にある沈んだ光沢の黒がいい。手折ったような枝に桐、枝に菊を組み合わせているところも面白い構成で、後藤などにもある。

菊桐紋図揃金具 Soroikanagu

2015-12-16 | 鍔の歴史
菊桐紋図揃金具


菊桐紋図揃金具

 赤銅魚子地高彫金色絵。縁頭などと共に揃金具とされている内の小柄笄。赤銅魚子地を高彫とし、風格のある作としている。明らかに菊紋を意識して製作したもの。菊紋というと、多く見かけるのは十六葉だ。割り切れる数であり、極めてすっきりとした数だ。紋を描くうえで、このようにすっきりとしている、言わば簡潔な図柄は、もやもやとしたところがなくて良い。これが半分の八葉では少ないし、倍の三十二葉では細かくなりすぎる。視覚的にも美しい数なのだと思う。

菊花小透図鍔 則亮 Norisuke Tsuba

2015-12-14 | 鍔の歴史
菊花小透図鍔 則亮


菊花小透図鍔 尾府住則亮作

 江戸時代の尾張鍔工の作。尾張鍔と言うと、戦国時代に製作された鉄地透かし鍔がまず思い浮かぶ。則亮はそれらの末流の工かも知れない。美しい鍔面を生み出している。菊花形に造り込んだ表面に放射状の筋を設けているところは、これまでに紹介した通りの、言わば古典的手法。この所々に菊花形の小透を散らしている。しかも文様の一部は高彫の菊だ。陰陽交えているのが素敵だ。菊花の文様を散した鍔は古くからある。それら菊花の文様は、元来は菊紋であったと推考される。

菊花唐草図鍔 國友貞栄 Teiei Tsuba

2015-12-12 | 鍔の歴史
菊花唐草図鍔 國友貞栄


菊花唐草図鍔 國友貞栄

 これもかなり個性的で、渋さが魅力。鉄地に鉛や錫などの合金を熔かし込んで象嵌するという、砂張の手法であることは以前に説明した。この砂張の部分に現れる虫食いのような小穴が生み出す美観は、理解できる者にしかわからない。さて、菊花だが、砂張を使うとこうなるのか、という標本だ。とにかく美しい。意図を超越した、砂張のみが示す自然味のある凹凸が、菊花の上に展開している。汚いデコボコだ、という人もいるだろう。もちろん見方によっては汚い。これがなぜに好まれて数多く製作されたのかと、考えるより、ここに大切に伝え遺されて来た作品を見て、感じれば良い。分らなければそれでも良い。

菊花図鍔 甚吾 Jingo Tsuba

2015-12-11 | 鍔の歴史
菊花図鍔 甚吾


菊花図鍔 甚吾

 大胆な構成の菊花だ。菊の花弁の隙間を活かしたもので、高彫に銀線を象嵌しているところにも新味がある。単純に花弁を細長く彫り出しているだけでなく、所々に朽ち込み風の処理を加えており、綺麗にまとまるはずのところに変化を与えている。それが肥後鍔として活きている。透かしは先に紹介した菊花透鍔群とは異なってほんのわずか。先の菊花透鍔と並べてみると、甚吾の作は頗る渋い。落ち着きがある。対して菊花透鍔は放射状の線が活きて華やかだ。もちろん各々の面白味があるわけだから優劣はない。

菊花図鍔 甚吾 Jingo Tsuba

2015-12-10 | 鍔の歴史
菊花図鍔 甚吾


菊花図鍔 甚吾

先に紹介した作と同じような、正阿弥派の技術を採り入れた肥後鍔の例。肥後金工甚吾の極めが為されている。鍔全面に花開く菊を高彫表現している。菊の花弁が筒状に成長するのが肥後菊。この鍔では花の先端部にその様子を採り入れている。これによって動きが生まれている。銀の布目象嵌も過ぎることなく処理されており、渋さを突き詰めた肥後の美観が示されていると言える。裏は菊の葉を同様の処方で彫り描いている。

菊花図鍔 肥後 Higo Tsuba

2015-12-09 | 鍔の歴史
菊花図鍔 肥後


菊花図鍔 肥後

 正阿弥派の作と極められてはいるも、肥後金工の作である。肥後金工には正阿弥派の得意とした金銀布目象嵌を採り入れた作があり、正阿弥に紛れるものがある。この鍔が良い例。菊花の花開いた様子を全面に構成したこの鍔面は、鉄地高彫の所々に金布目象嵌を施している。この落ちそうな金の様子が何とも美しい。菊の様子を写実的に表現しているわけではなく、言わば菊は鍔の造形のみ。耳に素銅の覆輪式に装飾を加えているのも面白い。決して華やかではないのだが、渋い中に華が感じられる。ここに肥後の魅力がある。

文散し図鍔 応仁 Onin Tsuba

2015-12-08 | 鍔の歴史
文散し図鍔 応仁


文散し図鍔 応仁

 鉄地を菊花形に仕立てた鍔。先に紹介した鉄地地透の鍔や素銅地の菊花鍔と外形構成の意識は全く同じだ。地面の所々に菊水の文が真鍮象嵌されている。散らされている文様は、このような文散しの図柄としては、単純な点象嵌による文様から次第に具象的な文様へと移り変わってきた頃のもの。散らされている文様に菊水があるところから鍔の形状を菊花形にしたものであろうか、この点は不明だが形状は明らかに菊を意識している。地面に施された花弁を意味する放射状の線がそれを証している。