鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

花尽図鐔 中川一匠

2010-03-26 | 
花尽図鐔 中川一匠



 
花尽図鐔 銘 東叡麓音なし川の辺韜雲一匠(花押)

 春を彩る植物を、洗練味のある毛彫平象嵌を駆使して描き表わした、壮麗でしかも繊細、軽やかな趣であるにもかかわらず強く目をひきつける作品である。作者は中川一匠。銘に「東叡麓音なし川の辺」とある。先に紹介した二所物にも銘されている音無川とは、源を小金井辺りとする石神井川の下流、桜の名所として知られる飛鳥山辺りの呼称で、かつては瀧に清水落ちて夏涼やかな名所として知られ浮世絵にも遺されており、流れはさらに下って隅田川に至る。一匠はこの辺りに居住したことから、作品に音無川の銘を刻している。
 色合い明るく、しかも表面が微細な石目地とされて、まさに春霞のごとく柔らかな光を反射させる朧銀地が見どころ。これを平滑に仕上げ、桜、白木蓮、牡丹の艶やかな様子を描き、牡丹には蝶を組み合わせて空気の清浄感を高めている。美しい作品である。背後には気の流れ、あるいは霞を意図したものか、金の微細な真砂象嵌を散している。金は鮮やかに、木蓮の銀もまた爽やか、強弱変化のある毛彫を加えて自然味を高め、樹幹には一乗一門が得意とした甲鋤彫(こうすきぼり)の技法を採っている。