鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

和歌の浦図二所 Futatokoro

2019-09-30 | 鍔の歴史
和歌の浦図二所



和歌の浦図二所


山部赤人の「若の浦に潮満ちくれば潟をなみ 葦辺をさして鶴鳴きわたる」の歌意を彫り描いた作。美しい海辺の風景図。貝殻が赤銅魚子地に鮮やかに散らばっているのが見どころ。琳派の美意識でみられるように、風景の文様化が進んでいる。

錨に櫂図小柄 後藤光昌 Mitsumasa Kozuka

2019-09-27 | 鍔の歴史
錨に櫂図小柄 後藤光昌


錨に櫂図小柄 後藤光昌

 後藤宗家九代程乗の自身銘が刻された、浜辺の風景図。千鳥はいない。荒波にもまれるこれらの舟具は、源平合戦の残骸のようにも感じられる。先の壽明の鐔と同じような海辺で見かける舟具を描いているのだが、景観の捉え方で随分と見え方が異なり、裏に潜んでいる意味が起ち現れてくる。

江の島に千鳥図縁頭 Fuchigashira

2019-09-26 | 鍔の歴史
江の島に千鳥図縁頭


江の島に千鳥図縁頭

 江戸時代後期、相模の大山と江の島はセットで観光の名所とされていたようだ。平和な時代と安定した経済背景から観光を目的とした旅行が流行したのである。山中の大山より、江の島の方が風景図として面白味があるのか、絵画にも、装剣小道具にも間々見かけることがある。浜辺の風景を印象付ける目的から、頭には千鳥のみを描いている。
 千鳥はあまり目立つ姿格好でもないのに、何故に好まれて描かれたのだろうと、ずっと考えている。

浜千鳥図鐔 壽明 Toshiaki Tsuba

2019-09-25 | 鍔の歴史
浜千鳥図鐔 壽明


浜千鳥図鐔 壽明

 東龍斎派の特徴的な構成になる、海辺の風景。表は干上がった砂浜に錨、裏は一転して波宇津浜辺。千鳥は添景に他ならないが、千鳥の存在は無論のこと画面に動きが生じ、見るものの目線を楽しませる。

帆掛舟に千鳥図鐔 菊池序定 Tsunesada Tsuba

2019-09-24 | 鍔の歴史
帆掛舟に千鳥図鐔 菊池序定


帆掛舟に千鳥図鐔 菊池序定

 なんて賑やかな海辺の風景図であろうか、平象嵌と多彩な色金を用いたことで、特異な景色が出来上がった。平象嵌にするにあたり、風景は文様化されたようだ。千鳥の姿が単調にならないよう、ことさらに動きのある姿格好とされている。それも賑やかさを高めている。そして美しい。

潮汲図鐔 信住 Nobusumi Tsuba

2019-09-21 | 鍔の歴史
潮汲図鐔 信住


潮汲図鐔 信住

浜辺に捨て置かれた潮汲みの桶。磯慣松に掛かる三日月。千鳥のなく声と波の音だけが聞こえる。東雨や利治のような松に千鳥の風景に桶を加えただけなのに、なぜか波の音が鮮明に起ち現れてくるように感じられる。海辺の風景図である。この信住については詳しくなく、弘化三年紀の刀身彫りのある彫物師の作であろうか。

浜松千鳥図鐔 東雨 Touu Tsuba

2019-09-19 | 鍔の歴史
浜松千鳥図鐔 東雨


浜松千鳥図鐔 東雨

 利治と同じような場面を捉えている。東雨(安親)には干網に千鳥図などがあるように文様化が極まった作例もあるのだが、このような奈良風の風景図も得意としていたようで、いくつか遺されている。日の沈む頃であろうか、暗くなりつつある様子が、鉄地高彫で表現されている。遠景に安親らしさが窺える。

浜松千鳥図鐔 奈良利治 Toshiharu Tsuba

2019-09-18 | 鍔の歴史
浜松千鳥図鐔 奈良利治


浜松千鳥図鐔 奈良利治

 これも松原と千鳥の組み合わせ。千鳥に個性が感じられる。奈良派だからと言ってみな似たような千鳥にすることはない、と独創を貫いたものか。風合いは奈良派。群れ飛ぶ様子がいい。


千鳥図目貫 加壽貫 Kazutsura Menuki

2019-09-17 | 鍔の歴史
千鳥図目貫 加壽貫


千鳥図目貫 加壽貫

 写実的に彫り出された千鳥図。加壽貫は江戸時代後期の京都金工。浜野一門の千鳥は表情が厳しいように感じられるが、この千鳥も、より写実的描写であるがゆえに強く訴えてくるところがある。千鳥って本当にこんなに鋭い目つきなんだろうか、飛翔するときに大きく嘴を開いて鳴き叫んでいるのであろうか。群れ飛ぶ様子が特に印象的だ。

波千鳥図鐔 赤坂忠重 Tadashige Tsuba

2019-09-14 | 鍔の歴史
波千鳥図鐔 赤坂忠重


波千鳥図鐔 赤坂忠重

 江戸は赤坂鐔工の名人忠重の、江戸好みの極致と言い得る作。この意匠表現が、どのような意識から生み出されたのであろうか頗る興味の惹かれるところである。絵画的、現代風に言えばイラスト風に他ならないのだが、頗る面白い。

下の鐔も赤坂鐔工の作で陰影の面白さは忠重に譲るとはいえ決して非凡な出来ではない。千鳥と浜辺の干網が題材。

枇杷に千鳥図小柄 堀江興成

2019-09-13 | 鍔の歴史
枇杷に千鳥図小柄 堀江興成


枇杷に千鳥図小柄 堀江興成

 堀江興成の花鳥十二箇月図揃小柄から。枇杷というと海辺の風景ではなさそうだ。千鳥図は、塩山蒔絵などで知られるように、「塩の山さしでの磯にすむ千鳥 君が御代をば八千代とぞなく」の和歌を意味している。その詠まれた地というのが、山梨県山梨市の笛吹川辺り。「差出の磯」もある。千鳥というと海辺を想いうかべるが、それだけではなさそうだ。

千鳥図鐔 川原林秀興 Hideoki Tsuba

2019-09-12 | 鍔の歴史
千鳥図鐔 川原林秀興


千鳥図鐔 川原林秀興

 赤文の作とは対極にあるような、情感豊かな風景図。川の流れに雲間の月。日本画の要素を巧みに抽出し、再構成している。秀興は京都に栄えた大月派の名工。浜野政随が江戸好みの作風を追求したとすれば、京風を求めたのが大月派。でもここでの千鳥は、顔の厳しさは別として姿格好が政随のそれによく似ている。千鳥に関しては手本としたのであろうか、面白い。

千鳥図鐔 赤文 Sekibun Tsuba

2019-09-11 | 鍔の歴史
千鳥図鐔 赤文


千鳥図鐔 赤文

 なんて素敵な空間構成なんだろう。このデザインをどのように捉えたら良いのだろうか。考える必要などないのかもしれない。ただ感じ取るだけでいい。千鳥が、本来の自然美の文様表現から、また別の意味を持ち始める。そんな、創造性の分岐点にあるような作。連続する楕円の動きが加わるだけで、おそらく見る人の感性に沿って、様々な方向へと図柄は大きく意味を変じてゆくのである。