鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

浦島太郎図小柄 一葉斎弘直 Hironao Kozuka

2012-03-31 | 鍔の歴史
浦島太郎図小柄 (鍔の歴史)



浦島太郎図小柄 一葉斎弘直(花押)

 鉄地を石目地に仕上げて砂浜とし、打ち寄せる波は高彫、ここに高彫像嵌の技法で遍く知られた浦島太郎の姿を彫り表わしている。乙姫様からの土産の玉手箱を開いてしまった直後の太郎の様子は物語の通り。
 水戸金工は、我が国の歴史や中国の歴史に登場する人物、伝説上の人物、偉人などを題材に採り、写実表現するを得意とした。弘直もその一人で、打越弘寿の門人。

福神図鍔 東都住弘壽 Hirotoshi Tsuba

2012-03-30 | 鍔の歴史
福神図鍔 (鍔の歴史)


福神図鍔 東都住弘壽(花押)

 赤銅石目地高彫による、七福神の内の寿老人と恵比寿を題材に採った作。正確で精巧な高彫表現は水戸金工の特徴の一つで、その背景には奈良派に学んだ技術がある。人物の表情が素晴しい。寿老人は人の寿命を管理しているといい、それが記された巻物を広げている。恵比寿は自らの長寿を知り得たものか、両者は笑みを浮かべている。とにかくその表情がいい。高彫の程度はわずか4ミリに満たないにもかかわらず立体的で、奥行き感が生じており、動きもある。細部の描写も優れている。73ミリ。


鉄拐仙人図小柄 寛次 Hirotugu Kozuka

2012-03-29 | 鍔の歴史
鉄拐仙人図小柄 (鍔の歴史)


鉄拐仙人図小柄 寛次

 以前に奈良三作に上げられている杉浦乗意の鉄拐仙人図小柄を紹介したことがある。題材は同じで、彫刻手法はさほど肉高くはない肉合彫を巧みにした描法ながら、表現は全く異なる作。乗意に比較して土くさい感じがする。仙人であれば高貴な雰囲気ではなく、本作のような鄙びた表現が適していると捉えたものであろう。寛次は奈良派に学んだ工で寛利とも銘した。朧銀地肉合彫高彫色絵。

正月図鍔 壽盧 Toshiyoshi Tsuba

2012-03-28 | 鍔の歴史
正月図鍔 (鐔の歴史)


正月図鍔 壽盧

 これも季節はずれだが、御容赦願いたい。風に揺れる注連縄、奴凧に羽根突き。岩間政盧の門人壽盧の、江戸時代末期の江戸の風情を良く伝えている作。三つの正月の要素を描いているのだが、いずれも風に関わる題材であり、三題話と言うわけではなかろう、表現はストレートである。朧銀地を高彫にし、金銀素銅赤銅の色絵平象嵌。小脇差用の作である。

鳩笛図目貫 政盧 Masayoshi Menuki

2012-03-27 | 鍔の歴史
鳩笛図目貫 (鍔の歴史)


鳩笛図目貫 政盧

 土を素焼きにして製作した鳩笛がある。子供の玩具で、その素朴な風合いから、コレクターも多いと聞く。土の質感を表現するために華やかな色使いとせず、四分一地を容彫にしてわずかに素銅と赤銅金の色絵を加えている。みるからに土くさい鄙びた風合い。わずか一寸に満たない小品ながら、岩間政盧の、味わい格別の作である。□


猛虎図小柄 葛龍軒政盧 Masayoshi Kozuka

2012-03-24 | 鍔の歴史
猛虎図小柄 (鍔の歴史)


猛虎図小柄 葛龍軒政盧模造政随図

 これも政随の作品を手本に、後の政盧が製作したもの。朧銀地を高彫にし、画面からはみ出さんばかりに大胆な構図で描き表わした猛虎。迫力に満ち満ちている。裏板は縦に使って竹を表現している。竹を割って進む猛虎の存在感を巧みに表現した作品である。作者は、先にも紹介した政随の高弟遠山直随の門人岩間政盧。

日月に鷺図鍔 後藤清明 Kiyoaki Tsuba

2012-03-23 | 鍔の歴史
日月に鷺図鍔 (鍔の歴史)


日月に鷺図鍔 後藤清明(花押) 政随図

 浜野政随の同図の鐔を手本とした、後藤清明の作。以前に紹介したことがあるも、同派の影響が強いことの証しであり、再度掲載したい。清明は浜野派ではないが、浜野派の美観に深い思い入れがあったのであろう、美しくも味わい深い世界を表現している。小舟に一羽の鷺を描いて「一路平安」即ち旅の安全を願ったもの。洒落に違いないが、我が国には、平安時代の昔からこのような言葉遊びは和歌にも採られている。この風景に雅を感じとりたい。70ミリ。

月見舟図鍔 葛龍軒政盧 Masayoshi Tsuba

2012-03-22 | 鍔の歴史
月見舟図鍔 (鍔の歴史)


月見舟図鍔 葛龍軒政盧

 ゆったりと流れる川の揺れは、吹き抜ける風と共に、気持ちにやすらぎを生み出す。お大尽遊びの一つと言えようか、月見を楽しむ大旦那といった、風情ある空間と時間を題材にしている。江戸時代後期の風俗を良く捉えた作品と言えよう。渋い色合いの真鍮地を高彫にし、雲間に月は銀色絵、金銀の色絵を施した岸辺のススキも情感を高めている。岩間政盧は遠山直随の門人。政随の孫弟子に当たるが、政随を理想としてその作風の再現を追求した。70.7ミリ。□

節分図小柄 矩随 Noriyuki Kozuka

2012-03-21 | 鍔の歴史
節分図小柄 (鍔の歴史)


節分図小柄 矩随(花押)

 季節はずれだが、矩随の節分図小柄を紹介する。「富久者有智 遠仁者疎徳」の文字を裏板に切りつけ、洒落た演出をみせている。図柄は、節分における豆まきの、その豆のみを高彫象嵌したもので、この大胆な表現が素敵で面白い。鉄地に高彫した金に赤銅色絵の豆を立体的に象嵌している。わずかに斑のある大豆のその様子が印象的である。矩随は政随の高弟。


祗園忠盛図鍔 政應 Masao Tsuba

2012-03-19 | 鍔の歴史
祗園忠盛図鍔 (鍔の歴史)


祗園忠盛図鍔 政應

 政應は浜野派の工だが師筋系統は不明。作風は浜野流に独創的な鋤彫を加えた表現へと進んでいる。松樹の構成には奈良風が窺えるも、葉の描写などは奈良風を逸脱して新しさを求めている様子が窺える。赤銅石目地鋤彫金銀素銅色絵。平安時代後期の平氏興隆の基礎を成す忠盛の、活躍の場面を題に得た作。

砧図小柄 浜野壽随 Toshiyuki Kozuka

2012-03-19 | 鍔の歴史
砧図小柄 (鐔の歴史)


砧図小柄 浜野壽随

 和歌にも採られている砧打ちの図。古い物語にもある。都に上った主を待つ妻と子が打つ砧の音は、何となく哀しげ。貧しい家の様子が再現されている。壽随は浜野政随の高弟矩随の門人。朧銀地高彫金素銅色絵。彫刻など表現手法としては奈良派の典型。

南蛮人に蛸図小柄 

2012-03-17 | 鍔の歴史
南蛮人に蛸図小柄 (鍔の歴史)

 
南蛮人に蛸図小柄 浜野信親・生流軒春則

 政随で紹介した蛸と足長に関連する図で、南蛮人と蛸を組み合わせた図が意外に多いことに気付いた。西洋人は蛸を悪魔の生き物と捉えていたようで、好んではいなかったようだ。それを日本人は良く知っていたようで、西洋人の蛸に絡まれて困惑する様子を巧みに表現している。たまたま二点の写真があったが故に紹介したが、他にも過去に扱っており、同図は比較的多く製作されていたようだ。ま、とにかく面白い。描かれている人物の表情をご覧いただきたい。
 浜野信親は岩間政盧に学んだ信随の弟子。越中の金工である。春則は直随の門人であろう。

山水図縁頭 Masayuki Fuchigashira

2012-03-16 | 鍔の歴史
山水図縁頭 (鍔の歴史)


山水図縁頭

 政随の作と極められた無銘の縁頭。安親の山水図などにも良く似た作風である。枯れた木の枝ぶりなどは安親そのもの。岩などに打ち込み鏨の使い方に個性がみられ、草木の茂る様子も安親とは異なる。総体に眺めると、奈良派の風合いが良く分かる。奈良派にはこのような古典的な山水を題材とした風景、幾つか紹介したような生き物、歴史人物などがある。


安親 牛曳図鍔 参照

浜松千鳥図鐔 政随・安親・利治 Masayuki・Yasuchika Tsuba

2012-03-15 | 鍔の歴史
浜松千鳥図鐔 (鍔の歴史)



1.浜松千鳥図鐔 政随

 浜松に千鳥の群れ飛ぶ様子を文様表現した①の鐔は紹介したことがある。このような千鳥は古い蒔絵などにもみられるが、鐔の基礎としては安親に倣ったものと推測される。重文や重美に指定されている安親の浜千鳥図鐔があるが、写真②の鐔は重文指定のそれとは違って絵画的要素を残した作風である。とは言え、文様化された風景であることは明らか。このような安親の作から、奈良派における風景の文様化が際立っていったのであろう。安親以前の奈良派の浜松千鳥図が写真③である。利治は利壽の師匠。この風合いを、写真だけで伝えるのは難しいが、比較鑑賞されたい。いずれも味わい格別である。いずれも鉄地高彫象嵌。1-72.8ミリ、2-81.2ミリ、3-79ミリ。


2.浜松千鳥図鐔 東雨


3.浜松千鳥図鐔 奈良利治

時鳥図小柄 政随 Masayuki Kozuka

2012-03-12 | 鍔の歴史
時鳥図小柄 (鍔の歴史)


時鳥図小柄 政随 行年七十三才

 時鳥を題に得た作は、鎌倉時代の歌人藤原定家が詠んだ和歌花鳥十二ヵ月図の一つとして、ウツギの花と組み合わせて描いた例が多い。ところがこの小柄には、その雅な風景観が全く存在しない。時鳥の表情は何か思いつめているように、哀しいほどに強く力がある。背景の川、その中に置かれた逆茂木などは戦の場面を思わせよう。平安王朝の美意識の再現ではないことは明白である。
 部分の写真をご覧いただきたい。くっきりと高彫にした時鳥の身体は石目地仕上げの背景に浮かび上がって見える。微妙な色合いの朧銀地に毛彫を加えており、拡大観察しても耐え得る繊細な描法により、殊に目玉の表現が素晴しい。