鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

春蘭図鐔 正光 Masamitsu Aizu-Shoami Tsuba

2010-08-31 | 
春蘭図鐔 正光


春蘭図鐔 銘 一柳斎正光製

 正光(まさみつ)は先に紹介した正義とは同派とみられる江戸時代後期の工。構成美に優れた鐔である。鉄地を高彫にし、厚手の金象嵌で鮮やかな色彩を示している。流れるような葉の曲線には江戸時代に流行した生け花の風合いが窺いとれる。絵画からの影響もあるだろう。蘭は古典的な絵画の題材であり、その可憐な風合いが装剣小道具でも好まれたのであろう。比較的多い図である。このような作風からは、時代の上がる正阿弥派の香りなど感じられない。これが会津正阿弥派の特徴の一つ。

山羊図鐔 正義 Masayoshi-AizuShoami Tsuba

2010-08-31 | 
山羊図鐔 正義


山羊図鐔 銘 正義作行歳七十二

 会津では正阿弥派の金工が栄え、これまで見てきたような文様風とは異なり、風景や動物、人物などを題に得た作品を遺している。正義(まさよし)は陸奥国岩代の、会津正阿弥派の工。
 山水風景図を下敷きとしているが主題は山羊。我が国の装剣金工において、如何なる理由であろうか山羊図は比較的少ない。写実的な高彫に金の象嵌の技法。

文様図大小鐔 清辰 Kiyotoki Tsuba

2010-08-30 | 
文様図大小鐔 清辰


文様図大小鐔 銘 山城国洛東住梅龍軒清辰作

 清辰(きよとき)は京献上鐔と呼ばれる華やかな作品を遺した金工の一人と推考される。この鐔は風景図ではなく様々な文様を構成したもので、京の文様文化を鮮明に映し出している作。透かしは日足とも車透とも呼ばれる簡潔な構成。これでもか、というほどに細かに、しかも様々な文様を全面に配している。□

近江八景図鐔 京献上 Kyo-Kenjo

2010-08-29 | 
近江八景図鐔 京献上


近江八景図鐔 無銘京献上

 江戸時代中頃の、京あるいは京都の近隣に居住した正阿弥派の作で、鉄地に洛中洛外や京都近郊に取材した風景図などを、透かしと金の布目象嵌で華やかに表現した鐔。このような作風を京献上と呼び慣わしている。屏風絵のように鐔一面に名所風景を散し配しており、華麗であることから、京に上った地方の武士が求めたとも云われている。名所観光という意識が高まっていることを証する、世相が良く分かる資料でもある。

曲竹図鐔 秋田正阿弥 AkitaShoami Tsuba

2010-08-28 | 
曲竹図鐔 秋田正阿弥


曲竹図鐔 無銘秋田正阿弥

 前回紹介した唐草文図鐔や、この鐔のような、耳際に金と銀の布目象嵌にて、主題である地透とは意味の異なる、唐草文などの装飾を施す表現を特徴の一つとしている。屈曲した竹、それを包む撫八角形の造形、二重式の耳など、構成美の優れている作の一つ。耳には赤銅の覆輪が掛けられている。

唐草文図鐔 正阿弥伝兵衛 Denbei AkitaShoami Tsuba

2010-08-27 | 
唐草文図鐔 正阿弥伝兵衛


唐草文図鐔 銘 出羽秋田住正阿弥傳兵衛

 秋田正阿弥派を代表する江戸時代前~中期の名工、傳兵衛(でんべえ)の、特徴顕著な作例。鉄地を打ち鍛え、透かし抜いて鉄の帯が絡み合っているかのように構成している。表面には正阿弥の特徴でもある金の布目象嵌で唐草文を全面に施している。耳は環状で、大振り、鉄地を継ぎ合わせているのか彫り出しているのか不明瞭な点が面白い。□

老松透図鐔 備前正阿弥 Bizen Shoami Tsuba

2010-08-26 | 
老松透図鐔 備前正阿弥


老松透図鐔 無銘備前正阿弥

 無銘ながら備前正阿弥派と鑑られる、骨太な風合いの鐔。鉄地の肌合いを、松樹のそれを想わせる肌起つ風に仕上げ、金の布目象嵌を要所に配している。
 赤坂や肥後に松樹の図はあるが、同様の構成ながら、風趣が異なる。枯れた風情の中に潜む強みこそこの鐔の魅力。消え入りそうな毛彫による松葉が情感を高めている。

龍虎図鐔 盛衛(伊予正阿弥) Mirihira-IyoShoami Tsuba

2010-08-24 | 
龍虎図鐔 盛衛(伊予正阿弥)


龍虎図鐔 銘 正阿弥盛衛

盛衛(もりひら)江戸時代後期の伊予正阿弥派の一人。雨中に天上を見上げる孤高の猛虎は、その視線の先に龍の存在を暗示する龍虎図に他ならない。
 鉄地表面を叢地に仕上げて高彫にし、風雨の様子は金象嵌。時代の上がる正阿弥、あるいは江戸時代中頃までの伊予正阿弥の風は感じられない。他の多くの金工も、次第に、このような独創を重んじる作風へと向かったのであろう。
 江戸時代の正阿弥派は、作風も次第に多様化し、江戸時代初期の正阿弥派とは風合いが随分異なる作品を遺している。また、作者銘を切らない工も多いため、正阿弥派の中でも、あるいは広く金工一般を眺めても流派や作者個人が突き止められない例が多い。この鐔にしても、銘がなければ伊予正阿弥派の作品とは判断できないであろう。先に紹介した葡萄棚図鐔の伊予正阿弥派の盛國もそのような一人だが、時代的に、まだ古風な面を見せている。

茄子透図鐔 盛國(伊予正阿弥) Morikuni IyoShoami Tsuba

2010-08-23 | 
茄子透図鐔 盛國(伊予正阿弥)


茄子透図鐔 銘 正阿弥盛國

 江戸中期の盛國(もりくに)の質素ながら味わい深い鐔。古風な鉄地を鎚目地に仕上げ、薄い肉彫で柴垣を彫り出し、茄子は小透。一切の布目象嵌など色金を用いず、鉄地の素材美を高める描法を採っている。

一円図鐔 盛積(伊予正阿弥) Morizumi Iyoshoami Tsuba

2010-08-22 | 
一円図鐔 盛積(伊予正阿弥)


一円図鐔 銘 正阿弥盛積

 簡潔な図というより、このような仕立ては古正阿弥の時代からすでにみられる。板鐔の耳に簡素な布目象嵌を施す程度で、華やかさはない。この渋さが魅力だ。耳をわずかに立てて平地部分に微妙な抑揚をつけている。これも味わい深い。江戸時代中期の盛積(もりづみ)の作だが、一時代上がる観がある。□

帆掛舟図鐔 森次(伊予正阿弥) Moritsugu-IyoShoami Tsuba

2010-08-21 | 
帆掛舟図鐔 森次(伊予正阿弥)


帆掛舟図鐔 銘 豫州松山住正阿弥森次

 江戸中期の森次(もりつぐ)はこの図を得意としたものであろうか、同図が複数見られる。鉄地肉彫に、本来は耳に金の布目象嵌が施されていたものであろうが、長い年月の中で脱落したようだ。

蝶透図鐔 重勝 Shigekatsu-IyoShoami Tsuba

2010-08-20 | 
蝶透図鐔 重勝(伊予正阿弥)


蝶透図鐔 銘 正阿弥重勝作

 将阿弥各派の中でも最も華やかな作風を伝え、特徴としているのが伊予正阿弥(いよしょうあみ)派である。本作のように金銀の布目象嵌を多用するのが一つの見どころでもある。時を重ねて布目象嵌も剥がれかかっているところがあり、渋い色調に変化しているが製作当初は華やかで鮮やかであったことが推測される。
 揚羽蝶という華やかな素材を向かい合う構成で大胆に意匠し、円形の小透を組み合わせている。作者は江戸時代中期の重勝。□

格子に茸透図鐔 京正阿弥 KyoShoami Tsuba

2010-08-19 | 
格子に茸透図鐔 京正阿弥


格子に茸透図鐔 無銘京正阿弥

 何を意味しているのか、実は分からない。格子と茸のような透かしがあるため、タイトルをこのようにしたのだが、実は江戸時代の事物には、現代では忘れ去られてしまったものも多い。デザインが面白い。櫃穴部分にの格子の線を途中で切っているのも面白い。