鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

笹に唐草図小柄 七宝 Shipo Kozuka

2010-06-30 | 小柄
笹に唐草図小柄 七宝


笹に唐草図小柄 無銘七宝象嵌

綺麗な意匠になる、唐草文と笹紋。唐草を笹の枝として構成しており、葉に多彩な七宝を加えて色合いの変化を楽しんでいる。笹紋の葉はトルコ石と孔雀石、唐草の葉は赤瑪瑙、翡翠などを再現したと考えて良いだろうか。金線も高く、くっきりと象嵌されている。

葡萄に栗鼠図鐔 長崎七宝 Nagasaki-Shipo Tsuba

2010-06-29 | 
葡萄に栗鼠図鐔 長崎七宝


葡萄に栗鼠図鐔 無銘長崎七宝

 真鍮地に肉彫手法で、たわわにさがる葡萄を彫り出し、これに栗鼠を加えて実りの秋を描き出している。七宝は透明感がなく、むしろ沈んで泥土のようであることから泥七宝(どろしっぽう)と呼ばれている。この泥七宝こそ古い手法を活かしているもので、平田初代道仁も最初はこのような風合いの七宝であったと推測される。確かに、透明感のある七宝は平田家でも代が下がるに従って美しくなる傾向にあり、道仁の製作した富岳図などには透明感に乏しい七宝が多々みられる。道仁の作では、このような古風な七宝の方がむしろ味わい深く尊ばれているようだ。
 この鐔では、青緑から白へのグラデーションのある七宝を葉と葡萄の一部に施している。時代の下がる、透明で宝石のような七宝にはない魅力が詰まっている。七宝の技術は中国大陸渡来のものと、西洋からのものとがある。貿易の要である長崎には、どちらからも七宝技術が入って来る可能性がある。

富嶽図小柄 平田 Hirata Kozuka

2010-06-28 | 小柄
富嶽図小柄二題 平田


① 富嶽図小柄 無銘平田


②  富嶽図小柄 無銘平田

 桃山時代に、失われていた古典的七宝技術を再現した飾り職人が平田道仁(ひらたどうにん)。この技術が尊ばれて徳川家康に見出され、駿府に移住、おそらくこの頃以降であろう、盛んに富嶽図小柄を製作している。これにより、富嶽図は平田家の御家芸のように、平田道仁を代表する図となっており、平田後代もそれを踏襲して同趣の小柄を製作している。だが、七宝の開発は進み、時代が降るほどに素材は透明感のあるガラス質のものが多くなる。
 ①は代の上がる平田家の作。赤銅石目地に量感のある富嶽図を、青から白へとグラデーションを付けて象嵌している。その所々に金線で縁取りした茶、緑、黄で雲を表わしている。中景に当たる遠見の木々は量感のある金銀象嵌。
 ②は時代の下がる平田家の作。富嶽の量感は抑えているが、裾野の色調は華やか。透明な緑、青、灰緑と金線を境に色を違え、雲は茶、透明な黄、紫とこれも多彩。駿河の海原は赤銅地に毛彫で波を描き、帆掛け舟も七宝象嵌で描いている。

箙図鐔 平田七宝 Hirata Tsuba

2010-06-27 | 
箙図鐔 平田七宝


箙図鐔 無銘平田

 弓の矢を入れる箙(えびら)を文様風に表現した鐔。江戸時代初期の平田の作と鑑られる。地金は色合い褐色が強く古風。七宝は全ての色に透明感がない所謂泥七宝で、文様の境界部分に金線を用いていないところに興味を抱く。気泡によってざらついた表面、腐蝕も脱落も景色、金工作品としては異風な色合いが好まれた、桃山文化の影響が残る時代の作とみたい。

波千鳥図鐔 利長 Toshinaga Tsuba

2010-06-26 | 
波千鳥図鐔 利長


波千鳥図鐔 銘 利長

 江戸に栄えた奈良派の利長(としなが)と鑑られる、この派としてはめずらしい七宝象嵌が施された鐔。真鍮地に高彫の波と千鳥は奈良派の特徴が良く出ている。波にのみ緑の七宝を大胆に象嵌しているところにおおいに興味がある。鐔のように表裏がある金工作品は、溶融したガラスを鐔面に留めおき、裏面についても同様に処理をしなければならない。溶融しているガラスは流れ落ちてしまう。この技術は秘伝であろう。

装束図鐔 正義(因幡) Masayoshi Tsuba

2010-06-25 | 
装束図鐔 正義(因幡)


装束図鐔 銘 浜部壽幸鍛之 因州住正義

 おそらく刀工壽幸(としゆき)が下地を鍛え、鐔工正義(まさよし)が七宝象嵌に挑んだものであろう。浜部壽幸は江戸時代後期の因幡の刀工。拳形丁子乱刃を得意とした。正義は同じ因幡国に居住した富田正義と思われる。この工は江戸に学んでいるが、七宝技術まで会得していたとは驚きである。
 鉄地に金線で縁取りした七宝を、鮮やかに施している。殊に明るい緑色はトルコ石のようで爽やか。紫色も派手に過ぎず、白と淡い黄色も薄緑に見事に調和している。□

雪輪文に市女笠文図鐔 Shipo Tsuba

2010-06-24 | 
雪輪文に市女笠文図鐔 

 
雪輪文に市女笠文図鐔 銘 神道五鐵鍛明珎紀義信

 江戸時代後期の甲冑師系の金工が地鉄を鍛え、七宝は明確に判断できないものの平田系の工が施したものであろう。気の流れを想わせる鍛え目が明瞭に現われた肌と、雪輪文が妙に合い、市女笠も雪輪に合っている。
 雪輪文とは雪のふわふわとした感じを文様としてあらわしたもので、我が国では古くから用いられている。これにさらに細かな文様を加えて(部分拡大参照)、 市女笠文の中にも同様に小さな文様を散し配しており、七宝の技術が極めて高いことを証明している。

渦巻文図縁頭 平田 Hirata Huchigashira

2010-06-23 | 縁頭
渦巻文図縁頭二題 平田

 
渦巻文図縁頭 無銘平田

 これも宝尽文と呼んでも良いような、華やかで爽やかな文様が散し配されている縁頭。渦巻は金線象嵌で平田の得意とするところ、これに蝶、団扇地紙、丁子、輪、花、龍、唐草などなど。地を石目地にして七宝の美しさを高めた作と、赤銅と素銅地を割継として、より華麗さを演出した作とでは印象は異なるも、金線で縁取りした七宝の中に、さらに小さな文様を配しているのは、時代が降ってのもの。完成と技量の高さが窺い知れる。

七宝文図縁 平田

2010-06-22 | 縁頭
七宝文図縁 平田


①七宝文図縁 無銘平田


②宝尽文図鐔の一部

 七宝とは七種の天然宝飾素材を指すが、七宝と呼ばれる模様もある。この縁の右側に配されているのが七宝文。前回紹介した鐔の文様の一部Photo②も参考にすると分かり易いだろう。円を四方に重ねることによって構成される文様のことで、これが連続して網目状に広がった文様が七宝繋文。この縁頭では、様々な文様の一つとして組み合わせて配されており、総体に七宝の特徴的美観が広がって華やか。左の花唐草文の緑色部分は頗る透明で、花と葉は少し濁りがあり、その色調を巧みに浮かび上がらせている。対して七宝文の部分はいずれも濁りのあるガラスで、これも渋く美しい。

宝尽文図鐔 平田 Hirata Tsuba

2010-06-21 | 
宝尽文図鐔 平田


宝尽文図鐔 無銘平田

 渋く沈んだ漆黒の赤銅石目地を背景に、雅な文様を散らした作。江戸時代後期の平田派の作と極められている。
 七宝とは、元来は天然の宝飾素材を中心とした、金、銀、瑠璃、玻璃、シャコ、珊瑚、瑪瑙(真珠を入れる場合もある)の七つを指し、これらを嵌入した装飾品が奈良時代以前に流行しており、装剣類においてもこれを用いた飾剣(かざりたち)と呼ばれる貴族の儀式太刀が良く知られている。このような天然の宝飾素材をガラス質の素材で再現したのが、現在七宝と呼ばれる細工物である。加熱溶融させたガラスを文様部分に流し込んで固着させるという技法が基本。古く七宝は奈良時代に流行したが、以降、使用される機会は少なくなり、再度興隆するのは桃山頃。飾り職人であった平田道仁が、中国あるいは西洋から伝来した工芸品を手本としてこの古法の再現に挑み、見事に再興させたといわれる。江戸時代を通じて平田各代は美しいガラス質の再現に挑み、江戸時代中頃には透明度が強くしかも多彩な色合いのガラスが生み出され、七宝金具として用いられるようになった。しかし平田の初期の作品は、一般に透明度が低く、それ故に渋い味わいがあり、現代でも泥七宝などと呼ばれて数奇者に好まれている。
 この鐔は、江戸時代の文化の洗練を受けて、文様としても美しく、素材のガラスも美しく、そのガラスの色合いをより美しく見せるため工夫もなされ、さらには平田派の得意とする金線との組み合わせを巧みとした作品。まさに宝尽と呼ぶに相応しい作である。

宝尽図小柄 平田 Hirata Kozuka

2010-06-20 | 小柄
宝尽図小柄二題 平田


宝尽図小柄 無銘平田


宝尽図小柄 無銘平田

 江戸時代の金工中では七宝と呼ばれるガラス質の素材を装剣金工の装飾として採り入れた平田(ひらた)派の作で、宝模様を見事に素材の持つ美しさで表現している。下地は鉄。これに、宝物に通ずる文様を金線で縁取りした多彩な色合いの七宝象嵌で描き表わしている。透明で鮮やかな色合いが最大の魅力であろう。
 平田派は初代道仁が桃山時代の京都で活躍していたが、徳川家康の目に留まって駿府に移住、後に江戸に移っている。肥後金工の平田彦三との関係は明らかにされていない。

宝尽図小柄 加賀 Kaga Kozuka

2010-06-19 | 小柄
宝尽図小柄 加賀



宝尽図小柄 無銘加賀

 宝珠、鍵、珊瑚、羽団扇、これに七宝文などを組み合わせて華やかな装飾とした小柄。このような文様を宝尽と呼んでおり、古くから好まれた図柄の一つである。裏には片切彫で二匹獅子を闊達に描いている。
 用いられている色金は、金、色違いの金、銀、朧銀、素銅で、赤銅地の微細な石目地を背景に、これらの平象嵌に繊細な毛彫を加えて文様を鮮明にしている。

七夕図鐔 加賀 Kaga Tsuba

2010-06-18 | 
七夕図鐔 加賀


七夕図鐔 無銘加賀

 これまで赤銅や朧銀地を下地とした作品を紹介してきたが、鉄地に金銀の平象嵌を施した加賀象嵌もある。そもそも加賀の平象嵌は、鐙など馬具に用いられた鉄製金具の装飾を下地として発展した金工であることから、鉄地の鐔もあると言うのはおかしいか。
 天上を意味する雲に巻き糸を配して織姫留守模様とした、七夕図の鐔。濃淡色調の異なる金板を象嵌して表面を平滑に仕上げ、強みのある片切彫で雲の動きを与え、巻き糸は金銀の平象嵌に毛彫。十角形の鐔の形状は珍しい。
 留守模様とは、主題となる人物を描かず、その持ち物や人物を想像させる事物のみを描くことによって主題を想像させる表現のこと。雲は古典的な霊芝雲とも呼ばれる瑞雲。

扇流図小柄 加賀 Kaga Kozuka

2010-06-17 | 小柄
扇流図小柄 加賀


扇流図小柄 無銘加賀

 まさに文様化された風景。扇流(おうぎながし)とは京都の西を流れる桂川の上流、渡月橋において川の流れに扇を投じ、その揺れて落ち、川面を流れ降ってゆく様子を楽しむという、雅な遊びの一つ。起こりは古く南北朝時代に遡る。
 足利尊氏が、天龍寺や嵐山を訪れたおりのこと、この一行に従っていた一人が、風にあおられたものであろうか扇を渡月橋の上から落としてしまったのである。このとき扇は、蝶のようにひらひらと舞い、風にのるように空をすべって水に落ち、後はその流れのまま波にもまれるように降って行った。この様子を目撃した尊氏は、粗相をして平伏している従者を前に、むしろ感動の声を上げた。偶然の出来事はこれほどに美しいものかと。そして尊氏自ら川面に扇を投げて風雅を楽しんだという。これが伝統的な遊びとなり、また、後に文様化されたのが『扇流文』である。
 『破扇文』も良く知られているが、金工作品の中には、破れた扇に川の流れを想わせる構成とした作があり、破扇の意匠も、実は水に落ちた扇の、その地紙が次第に破れてゆく様子を意匠したものではないだろうかと推測している。
 赤銅の微細な石目地を背景に、川の流れも扇も金の平象嵌。金の色調は微妙に違っており、細い毛彫を加えて文様に深みを持たせている。