鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

歳寒二雅図小柄 後藤誠意

2023-04-28 | 鍔の歴史

歳寒二雅図小柄 後藤誠意

 

梅と竹の組み合わせ。寒さに耐えて咲く梅と雪の中でも清らかな青さを絶やすことのない竹。表は平象嵌を駆使して判りやすい。裏の竹は片切彫。先に紹介した政鑢の猛虎図小柄に通じる描法。

 

 


猛虎図小柄 政盧

2023-04-27 | 鍔の歴史

猛虎図小柄 政盧

 

政随の同図を手本とした、浜野門流の政盧の作。表は目玉を活かした構図。裏は簡潔でしかも力強い片切彫で、虎の潜む竹林を暗示する竹を表現している。縦長の小柄そのものを竹の幹として捉えている点が面白い。


馬師皇図小柄 乗意

2023-04-26 | 鍔の歴史

馬師皇図小柄 乗意

 

乗意は奈良四天王の一人で、本作のような精巧な肉合彫を得意とした。この描画はごく薄い肉彫仕立てであるにもかかわらず立体的。裏面も同様の薄肉表現による肉合彫。もちろん、小柄櫃に触れないよう、わずかに鋤き下げた部分に子供の姿を彫り出しているのだ。表と同様に立体的で精巧。ここまで写実的に裏面を描いた作品は少ない。

 

 


能舞台図小柄 

2023-04-25 | 鍔の歴史

能舞台図小柄 広重(花押)

 

演題は何だろう。裏面は能舞台を意味する若松。毛彫と金の色絵か平象嵌で舞台を描いている。平坦な描法を採らざるを得ない裏面だが、色金を用いることによって、表現域が広がったと考えて良いだろうし、裏面を使うことの面白さも理解されるようになったに違いない。

 


三国志図小柄 横谷英精

2023-04-21 | 鍔の歴史

三国志図小柄 横谷英精

 

武人の高彫表現に迫力があって魅力的な小柄。裏板も力のある片切彫で松樹が彫り表わされている。裏板は当然のこと高彫表現ができない。だから切り込んだように彫口の深い描法として変化をつけている。片切彫というと横谷宗珉が得意とした。その技術を受け継いだもの。特に松樹の幹の質感が、切り込む際の鏨遣いで際立つのであろう。

 

 


蛍図小柄 後藤廉乗

2023-04-15 | 鍔の歴史

蛍図小柄 後藤廉乗

後藤宗家十代廉乗の作であることを、同十六代光晃が極めた作。古式の赤銅魚子地高彫された地板嵌め込み式ではなく、直接彫り込んだもの。裏板に川辺の様子を銀で表現している。地板に刻された鑢も川の流れを想わせる構成。この鑢目が興味深い。


鯨図小柄 二題

2023-04-13 | 鍔の歴史

鯨図小柄 岩本派

表に鯨の頭の辺りのみ描いている。このような部分の描写だけでも鯨と理解できよう。裏面が波。

 

 

鯨図小柄 吉岡因幡介照次

表の表現はよく似ている。面白いのは裏板に鯨漁の様子が片切彫で描かれているところ。

波文だけでは物足りなく感じられたのであろう、裏面は平滑に仕立てられるため、毛彫や片切彫とされる。右端に小さく描くことによって大海原の様子が一層強く感じられる。


扇流し図小柄 古金工

2023-04-12 | 鍔の歴史

扇流し図小柄 古金工

 

幅広く少し長めに仕立てられた、所謂大小柄。扇流し図は、川に落としてしまった扇が、流されることによって思わぬ美観を呈したことから図に採られたというエピソードがある。着物や他の器物の図として頗る多く、またこれが展開されて破れ扇図が生まれたのも面白い。

背景は具体的な描写もあるが、所謂青海波文に簡略化された例も多い。この小柄は、表の扇の背景が立波、小柄の裏面が青海波風の線描写。裏行きにまで美観が求められたものである。

 

 


鏃図小柄 後藤程乗

2023-04-12 | 鍔の歴史

鏃図小柄 程乗作 光壽(花押)

 

小柄にも表裏がある。

小柄の裏面は、小柄櫃に収められているため、拵に装着されている状態では見ることができない。多くは平滑に仕立てられて鑢が切り施されているのみで装飾がない。後藤の作では金の薄板が焼き付けられた金哺(きんふくみ)とされる。

時に小柄の裏面にも装飾が施されることがある。例えば、後藤家でも江戸時代中頃には装飾性の高い裏板とされるようになる。加賀前田家に出仕した理兵衛家の顕乗や程乗などが優れた作品を遺している。写真は程乗と極められた小柄。赤銅地に金の削継。次は加賀金工の小柄で、朧銀地に金の割継。さらに三つ目は時代の降った町彫金工の作で、色金が多用されている。

 

鏃図小柄 後藤程乗

 

虫尽図小柄 加賀金工

 

月に雁図小柄 無銘園部

 


達磨図鐔 一東子龍翁

2023-04-11 | 鍔の歴史

達磨図鐔 一東子龍翁

金家も達磨図鐔を製作しているが、本作は金家とは表現が全く異なっている。裏面は達磨大師が揚子江を葦に乗って渡ったという伝説を意味し、表は壁に向かって座り続けた修行の様子。いずれも伝説ながら具体的な情景を想わせるような試みとしている。達磨の左側の余白に彫り込まれた短い斜めの刻線は洞窟に射し込む陽の光であろうか壁面を意味しているのであろう。すると、かなり具体的になり、余白ではなくなる。ではない方がいいのだろうか。いや、ほんのわずかの加刻だが、かなり効果的だと思う。達磨に光明が射し込んできたことを暗示しているとは考えすぎか・・・

 


蝸牛図鐔 政随

2023-04-10 | 鍔の歴史

蝸牛図鐔 政随

 

鐔の下方に蝸牛。中間から上は平滑に仕上げられているのみ。地鉄に凹凸も鑢目もない。これも余白なのであろうか。

一つ気になるのが耳の処理だ。打ち返し処理がなされていることによって鐔の耳が端部でなくなり、広がりを生み出している。金家とは違った意味での空間表現と捉えて良いだろう。

 


塔山水図鐔 金家

2023-04-10 | 鍔の歴史

塔山水図鐔 金家

多分写真だけでは理解していただけないのではなかろうか。実物を手にしたとき、ちょっとした光線の加減で様々な景色が見えてくることがある。

でも、金家とはそのような視覚的な問題でもなさそうだ。主題の図柄はどうでもいいわけではないが、鉄そのものが滲みだす風合いも鑑賞の要素であることは、同じような古甲冑師や古刀匠鐔の例で理解できると思う。良い作品を実際に掌の中で、指先で鑑賞することだ。

金家を説明すると、つい観念的になってしまう。


山城國伏見住金家

2023-04-08 | 鍔の歴史

飛脚図鐔 金家

羅漢図鐔 金家

 余白を巧みに表現した鐔工として第一に挙げられるのが金家。因みに、この金家も基本的に表裏異なる図柄を彫り描いている。飛脚図や猿猴図は山中に取材したものと捉えれば表裏連続しているが、羅漢図のような表に主題を描き、裏面を京都近辺に取材した山水図にした例が頗る多い。猿猴図も飛脚図も達磨図もみな同じ意識下にあると考えて良いだろう。

 鐔より水墨画で視点となるのが余白。鐔においてその空間美を追求したのが金家とも言えようか。

 さて、余白だが・・・まずはじっくりと鐔を鑑賞してほしい。

飛脚図鐔

羅漢図鐔