鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

蛇籠図鐔 記内 Kinai Tsuba

2021-07-28 | 鍔の歴史
蛇籠図鐔 記内


蛇籠図鐔 記内

 打ち付けるように激しく波立って流れる川面。蛇籠から透かして見ているような構図で、いわば心象風景。なんて素敵な構図であろうか。銘はないが記内の作であろう。

蛇籠図鐔 法安久次 Hisatsugu Tsuba

2021-07-26 | 鍔の歴史
蛇籠図鐔 法安久次


蛇籠図鐔 法安久次

 面白い作品。水の流れに蛇籠を透かしで表現した作品。河中の杭は並んでいるようにも見える。すると橋脚か。とすれば橋合戦、あるいは宇治川合戦の背景のみを表現した主題の留守模様か。法安は鉄地腐らかしの手法で表面に微妙な凹凸を施すことによって質感や独特の景観を造り出した。この鐔でも、蛇籠は浮彫にしている。とにかく面白い作品だ。□

柳に燕図鐔 加賀金工 Kaga Tsuba

2021-07-24 | 鍔の歴史
柳に燕図鐔 加賀金工


柳に燕図鐔 加賀金工

 加賀金工の平象嵌技法は、高彫という写実味を捨て去った完全なる平面描写による表現である。良く見られるのは鈴虫や蟷螂などの虫尽図だ。ここでは松樹と柳を片切彫で墨絵風に表現している。この手もある。もちろん高彫もある。月が出ていることを考えると夕暮れ時。燕もそろそろ巣に戻る支度をしている頃か。微かな明かりに水辺の蛇籠が光って見えている。時間の流れを感じさせる作品である。

水辺に鷺図鐔 庄内金工 Shonai Tsuba

2021-07-21 | 鍔の歴史
水辺に鷺図鐔 庄内金工


水辺に鷺図鐔 庄内金工

 着物の柄としての蛇籠は、流水と共に描かれていることから、夏の柄として好まれているようだ。庄内金工に間々みられる素銅地や真鍮地を高彫表現した作。先に京正阿弥派の作を紹介したが、それに似たところがある。正阿弥派は全国各地に移住してその地の特徴を採り入れて栄えている。この鐔では文様化というより、山水風景の一部のような、風景図としている。

帰雁図鐔 長州萩住有田源右衛門貞次 Sadatsugu Tsuba

2021-07-19 | 鍔の歴史
帰雁図鐔 長州萩住有田源右衛門貞次


帰雁図鐔 長州萩住有田源右衛門貞次

主題は植物であったり、水鳥であって、水の流れと蛇籠は状況を説明する添景に他ならないのだが、絵画の進化に従って蛇籠がかなり重きをなすようになった。古金工など時代の上がる装剣小道具では、様々な道具が題に採られている。それに類するものであろうか。
 この趣の鐔の作風は、埋忠一門と捉えられている光忠の作風に極めてよく似ている。山銅地や真鍮地を抑揚のある地面に仕上げ、金布目象嵌で風景を描く手法。埋忠一門が長州に移住していることから、その作風が伝えられたものと思われる。地金の色合いも夕暮れ時を示していて感じがいい。干し網に蛇籠の水辺の様子が、次第に夕闇に溶け込んでゆく・・・。

水辺風景図鐔 京正阿弥 Kyou-Shoami Tsuba

2021-07-17 | 鍔の歴史
水辺風景図鐔 京正阿弥


水辺風景図鐔 京正阿弥

 蛇籠は古墳時代にすでに我が国に伝えられたと言われるが、活用されたのは戦国時代。各地の大名が領地を水害から守るために、河川工事を盛んに行ったという背景がある。だからと言って文様化されるのだろうか。今に遺されている装剣小道具の蛇籠図で、最も古い例は江戸時代前期のものになろう。
 写真は屏風絵を想わせる、湖水の様々な表情を散し配した構成。蛇籠の他には、河骨や沢瀉などの水草、小岩、鷺、鴛鴦と多彩。いずれも写実的高彫で、精密な彫刻で主題が見いだせない、全体で描写される文様表現のようだ。

流水に花筏と蛇籠図鐔 京正阿弥 Kyou=shouami Tsuba

2021-07-15 | 鍔の歴史
流水に花筏と蛇籠図鐔 京正阿弥


流水に花筏と蛇籠図鐔 京正阿弥

川の流れに視点が置かれるような、水辺の様子を描く場合の添景として欠かせないのが蛇籠。蛇籠とは川の氾濫を抑えるために設けた、自然の景観を破壊するような物体に他ならないのだが、なぜに自然との調和を求めるように、洒落た文様として描かれ、さらに好まれたのであろうか。江戸時代には着物の文様として採られているのも不思議でならない。
 写真例は京都に栄えた正阿弥派の作。桃山文化の影響を多分に受けている作品。蛇籠も風景の文様化であれば、一緒に描かれているのは花筏と呼ばれる桜の散りかかった筏。真鍮地に大胆に透かされているのは松皮菱の家紋を意匠したものであろう。素敵な景色の展開がなされている。

鷺図二所 京後藤 Kyou-Goto Futatokoro

2021-07-14 | 鍔の歴史
鷺図二所 京後藤


鷺図二所 京後藤

水辺の風景。川の流れに白鷺が小魚を狙っている場面だが、蛇籠が画面を引き締めている。赤銅魚子地高彫色絵の後藤家の手法。町彫金工の綺麗な作風に影響されたものであろう、新たな風景図を求めた結果、綺麗な風景図となっている。

巣父図小柄 後藤光勝 Katsumitsu Kozuka

2021-07-13 | 鍔の歴史
巣父図小柄 後藤光勝


巣父図小柄 後藤光勝

後藤光勝は八郎兵衛家の三代目。快乗同人。江戸前期の享保十八年に没している。古代中国の伝説の隠者許由は、自らに皇帝位が譲られるということを耳にした。隠者である自らがそのような権力に関りたくもないどころか、その話を聞いたことも汚らわしいと、自らの耳を洗い清めた。その様子を見ていた巣父も、許由が耳を洗った水を我が牛に飲ませるのは汚らわしいとして、水飲み場から引き返したという。武士はこうあらねばならないという潔癖さを示す伝説である。画題の選択は、まさに後藤の伝統。古典に学んだ図柄である。

茄子図縁頭 京後藤 Kyou-Goto Fuchigashira

2021-07-13 | 鍔の歴史
茄子図縁頭 京後藤


茄子図縁頭 京後藤

 後藤家は小柄笄目貫の三所物を専らとし、縁頭などはほとんど製作していない。この縁頭は京後藤の極め。何と綺麗な茄子の図であろうか、その表皮の艶やかな様子を、赤銅の磨地仕上げで巧みに表現している。

唐墨図小柄 後藤順乗 Junyo Kozuka

2021-07-12 | 鍔の歴史
唐墨図小柄 後藤順乗


唐墨図小柄 後藤順乗

 順乗は後藤権兵衛家の初代。寛永から元禄。唐墨は、それ自体が歴史的な遺産であり、高価で取引されていた。画題としても好まれていたようで、間々見ることがある。順乗は、細やかな高彫を得意としており、後藤に伝統的な品位の高い図柄の、正確な高彫表現からなる作品を遺している。

采配図小柄 後藤光良 Mitsuyoshi Kozuka

2021-07-10 | 鍔の歴史
采配図小柄 後藤光良


采配図小柄 後藤光良

 采配と書いてみたが、なんの図だろう。暖簾のようでもあるが暖簾ということはなかろう。後藤光良は後藤喜兵衛家四代傳乗の嫡子だが、若くして元禄年間に没している。この小柄は、額状に仕立てず、地に直接彫り込む棒小柄あるいは袖小柄と呼ばれる造り込み。大胆な構図で躍動感のある場面としている。

蓬莱図目貫 京後藤 Kyou-Goto

2021-07-08 | 鍔の歴史
蓬莱図目貫 京後藤


蓬莱図目貫 京後藤

 傳乗製作の松竹梅図三所物と同様、おめでたい席で用いられた拵の目貫。重厚な色調の金無垢地の風合いがいい。剣巻龍図目貫と同様に裏行きが桃山時代風で、主題の鶴と亀が、ふっくらとした高彫に仕上げられている。贅沢な趣が充満している。

剣巻龍図目貫 京後藤 Kyou-Goto

2021-07-07 | 鍔の歴史
剣巻龍図目貫 京後藤


剣巻龍図目貫 京後藤

 金無垢地容彫。龍神は後藤家の伝統的な図柄の一つ。分家の金工も、時には宗家に迫る作品を遺している。決して負けない技術を保持していた。裏の観察からも、桃山頃の特徴である、ふっくらと打ち出した様子が明瞭。

杜若図二所 京後藤 Kyou‐Goto Futatokoro

2021-07-06 | 鍔の歴史
杜若図二所 京後藤


杜若図二所 京後藤

 後藤らしい簡潔な図柄で、しかも品位の高い作。綺麗な赤銅魚子地を背景に、すっきりとした高彫。斑入の葉に銀の露象嵌は一部脱落しているが、総体の伸びやかな印象が良い。