鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

海辺図鐔 遷斎篤興造 Tokuoki Tsuba

2012-04-28 | 鍔の歴史
海辺図鐔 (鍔の歴史)


海辺図鐔 遷斎篤興造

 摂津国、商都として栄えた大坂の海の玄関口住吉の辺りに取材したもの。現代では復元された高灯篭が住吉公園にある。もちろん埋め立てが行われて江戸時代の海岸線は全くわからなくなっているが、当時はこの鍔のようにごく近くまで水際が迫っていたものであろう。鉄地高彫に砂浜は金真砂象嵌、波は銀、松樹に金と赤銅を用い、裏面は砂浜に置かれた錨、これらに白鷺を配して美しい風景を展開させている。灯台は海の安全を図るもの。鷺は一路平安の言葉があるように、旅の安全を願う謂い。この美しい風景図の鍔には、海路の安全を願う意識が秘められている。79ミリ。

野猪図鐔 一行斎篤興 Tokuoki Tsuba

2012-04-27 | 鍔の歴史
野猪図鐔 (鍔の歴史)


野猪図鐔 一行斎篤興(花押)

 山際の自然風景を捉えた作。鉄地高彫に金銀の象嵌。銀一色による猪が冴えている。秋草の下に佇む姿を描き、遠くの山裾には雲霧が棚引いている。裏面の沢蟹も、組み合わせてしては面白い。この場面には如何なる意味があるのだろうか。
 篠山篤興は川原林秀興の門人。父は俳諧師という。鋭い感性は篤興にも受け継がれたのであろう、多くの魅力的風景図を遺している。78ミリ。

雨龍図鐔 金龍斎川秀國 Hidekuni Tsuba

2012-04-26 | 鍔の歴史
雨龍図鐔 (鍔の歴史)


雨龍図鐔 金龍斎川秀國

 龍の図の作品群でも紹介したので覚えておられるかもしれない。これも波を装飾の要としている。波に視点をおいて鑑賞すれば、同じ作品でも感じ方が異なろう。木瓜形の隅の切り込みを控えめにするのは江戸末期の流行。地に抑揚を持たせ、切羽台の周囲に波を意匠している。波や波飛沫の表情は目貫と同じだ。耳際に海辺の岩場を表わし、地の抑揚は乱雲であろう、動きのある画面、龍神も個性的な表現であり、大月派の金工の独創を探り出そうとする意識の強さに驚かされる。81ミリ。□

波図目貫 秀國 Hidekuni Tsuba

2012-04-25 | 鍔の歴史
波図目貫 (鍔の歴史)


波図目貫 秀國

 大月派の特徴がよく現われている波。その波のみを切り取って作品化したもの。この素敵な構成は有名な夏雄にもある。夏雄は1828年の生まれ、秀國は1825年の生まれだから同じ頃を生きている。流行であったとも思われる。朧銀地容彫に金の波飛沫は楕円形。川原林秀國は伯耆国米子の生まれ。秀興の門人で、後に同家を継ぐ。

瑞鳥図大小目貫 皆山應起 Masaoki Menuki

2012-04-24 | 鍔の歴史
瑞鳥図大小目貫 (鍔の歴史)



瑞鳥図目貫 皆山應起

 正確な構成になる尾長の瑞鳥図目貫。赤銅地と朧銀地に表裏を描き分けて陰陽の表現としているのが面白いし味わい深い。阿吽の表情は古典に倣ったもの。



瑞鳥図大小目貫 應起

 これも瑞鳥を題に得た大小の目貫。赤銅地容彫色絵。孔雀の眼状羽根を手本としたものであろう、長い尾の先に金を配して華やかさを演出している。


牡丹図目貫 應起 Masaoki Menuki

2012-04-21 | 鍔の歴史
牡丹図目貫 (鍔の歴史)


牡丹図目貫 應起

 素銅地一色で今が盛りと咲き誇る牡丹の優雅な姿を彫り描いた作。厚肉感のある花弁は優雅な風情であり、古来花の王と捉えられていた。それ故に古くから太刀拵などの金具の装飾に文様として採られており、江戸時代に至っては独立した装剣小道具の画題として確立、多くの金工が独創を競っている。

霊芝図鐔 皆山應起 Masaoki Tsuba

2012-04-20 | 鍔の歴史
霊芝図鐔 (鍔の歴史)


霊芝図鐔 皆山應起

 漆黒の赤銅地一色で、霊芝とも万年茸とも呼ばれ、漢方薬にも採られている茸を大胆に、しかも写実的に彫り描いた鍔。この鏨使いを仔細に鑑賞してほしい。質感表現の巧みさはもちろんだが、存在感の描写が優れている。霊芝は仙薬として太古の時代から重宝されていたものであるが、その不思議さがこの鐔に再現されていると言っても良いだろう。茸のカサを組み合わせて複雑な形状を生み出しているのが面白い。朽木やカサ裏の微細な網目も自然味があって魅力的。皆山應起は大月光興の高弟。70.2ミリ。

物売り娘図鍔 文龍舎宝斎 Hideoki

2012-04-19 | 鍔の歴史
物売り娘図鍔 (鍔の歴史)


物売り娘図鍔 文龍舎宝斎鐫之

 京の街をゆく物売り女を写真で撮ったかのような、春の日差しが窺いとれる図柄。巧みな構成になる川原林秀興の作品。女が頭の上に載せている荷物に今が盛りの桜の花枝が括りつけられている様子を描いているのだが、桜は鍔の裏側に延びており、蝶がこれに誘われて舞っている、といった長閑でしかも洒落た風情が漂っている。鍔の表裏を連続させた作例は他工にも多くみられるのだが、このような連続性は面白い。朧銀地高彫に様々な色絵を加えている。70.4ミリ。

仙人唐子図鍔 川原林秀興 Hideoki Tsuba

2012-04-18 | 鍔の歴史
仙人唐子図鍔 (鍔の歴史)


仙人唐子図鍔 川宝斎

 中国の雷伝説であろうか、この図の意味が全く分からない。このように、図柄の意味が分からない例はけっこう多い。どなたか御存知の方がおられたら教えて欲しい。
 仙人と思しき人物の手にする皿から雲気が立ちのぼり、その空高くで稲妻が光っている。遠く雲上では雷がその様子を窺っている、といった場面で、鉄地に高彫象嵌。動きのある人物描写が優れており、特に顔、表情が良い。作者は大月光興の高弟川原林秀興、号を宝斎、川原林を略して川とのみ切ることが多い。
82.5ミリ。

節句尽図総金具 仲上元次 Mototsugu

2012-04-17 | 鍔の歴史
総金具 (鍔の歴史)



節句尽金具茶潤塗鞘打刀拵
総金具 仲上元次(花押)



 季節の節目として重要な位置付けにある節句は、我が国の文化遺産であり、時に遊興として楽しむ機会も設けられている伝統行事。この節句に関わる事物に取材した美しい総金具で装い、洒落た中にも風格の感じられる独特の風情を求めた打刀拵。総金具の作者は、仲上元廣の門人でその養子となった元次。精巧で緻密な彫刻表現を得意とし、京の雅と華やかさを備えた作風を専らとした名工の一人。正月を意味する根曳の若松は頭に、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロの七草は縁に、御簾に吊るした薬玉に葵の葉を添えて端午節句は鐔に、星座図小柄は七夕を、束ね菊に栗餅を添えた重陽の節句は栗形に、これに草花図目貫を添えた一作金具はまさに一年の流れを俯瞰するようだ。いずれも上質の赤銅地を用い、鐔は磨地に金銀素銅の平象嵌で毛彫を加え、金覆輪を施して清楚な雰囲気が充満。縁頭は魚子地を立体的高彫にして金銀の色絵、金小縁で鮮やかに仕上げている。魚子地高彫金銀色絵裏板金哺に仕立てた小柄に描かれている川辺の風景は、七夕に関わる禊の意味が秘められている。栗形も魚子地に量感のある高彫金銀素銅色絵で、洒落た金印が平象嵌で施されている。目貫は新鮮味のある秋草取り合わせで、容彫に華やかな金銀色絵。これを白鮫皮に納戸色糸で蛇腹巻としている。鞘は赤銅の漆黒を引き立てる深い色合いの茶潤塗。総体が美しく、しかも品良く仕立てられている。□









六歌仙図揃金具 松下亭元廣 Motohiro

2012-04-16 | 鍔の歴史
六歌仙図揃金具 (鍔の歴史)


六歌仙図揃金具 松下亭元廣(花押)

 目貫に在原業平と僧正遍昭、鍔には喜撰法師、小柄に小野小町、文屋康秀と大友黒主を縁頭にと、すなわち六歌仙を題に得て写実表現した揃金具。朧銀地に高彫金銀赤銅素銅の色金を巧みに色絵象嵌している。殊に構成が優れている。華麗な色金を多用した小柄の見栄えがするも、主題は鍔に描かれている月を眺める喜撰法師であろうか、杖を頼りに岩場に立つ姿、銀平象嵌による月を描いて人物像を立体的に浮かび上がらせている。
 元廣には、東海道五十三次を絵地図のような構成で作品化した揃金具がある。いずれ紹介する機会もあろうと思う。



東下り図鐔 松下亭元廣 Motohiro Tsuba

2012-04-14 | 鍔の歴史
東下り図鐔 (鍔の歴史)


東下り図鐔 松下亭元廣

 元廣の最も得意とする、風景の中に人物を採り入れた雅な香りの漂う作。在原業平を主題とする『伊勢物語』の中から東下りの場面。富士見業平とも呼ばれて好画題である。雲間にそびえる富岳を馬上から眺める姿を雅な構成と風合いで表現している。赤銅地を繊細な鏨使いで高彫にし、細部まで綺麗に金銀素銅朧銀の色絵を加えている。松樹の添景も印象的であり、特に裏面の構成には的確に採り入れられている。雲間に見え隠れする富岳の構成も美しい。66ミリ。

蟷螂図縁頭 松下亭元廣 Motohiro Huchigashira

2012-04-13 | 鍔の歴史
蟷螂図縁頭 (鍔の歴史)


蟷螂図縁頭 松下亭元廣

 仲上元廣は大月光芳と光興に学んだ京都金工で、松下亭を号とする。後に作品を紹介するように人物表現を得意としたが、本作のような自然の一場面に視線を投じた作も遺している。
 蟷螂の狙うは飛蝗。その瞬間を生物写真のように捉えている。豆の花と実った様子も写実的で美しい。赤銅魚子地高彫金色絵のみだが、その背後には自然の色調が広がっているようにも感じられる。

昔語り図小柄 其昇亭光弘 Mitsuhiro-Otsuki Kozuka

2012-04-12 | 鍔の歴史
昔語り図小柄 (鍔の歴史)



昔語り図小柄 其昇亭光弘(花押)

 猿蟹合戦の童話で知られる一場面。臼が擬人化された表現で面白い。素銅地高彫に金銀朧銀の色絵象嵌に力強い片切彫を加えており、面白いだけではない技術の優れた一面を示している。手足の凹凸のある描写、切り込んだ三角鏨による質感、臼の表面の毛彫と微細な点刻の作業は鑑賞の要点となろう、それらによる表情が優れている。恐らく揃い金具として製作されたもので、他に猿蟹合戦に関わる要素が描かれた小柄や、鍔、目貫などが存在すると思う。

鷺図鐔 其昇亭光弘 Mitsuhiro‐Otsuki Tsuba

2012-04-11 | 鍔の歴史
鷺図鐔 (鍔の歴史)


鷺図鐔 其昇亭光弘(花押)

 光弘は光興の嫡子。父の感性をそのまま受け継いでいるかというと、それだけではないようだ。時代に応じた洒落た風景や味わい深い趣のある風景図も遺している。真鍮地を巧みに用い、その色合いや経年変化の風合いを作品に活かす手法は多くの金工が採り入れている。この鍔でも、深みのある真鍮地に銀の白鷺が綺麗に浮かび上がっており、視覚的な効果は成功している。金の下草の周囲の色調が黒化しており、これも魅力的。65ミリ。